そしてブンブクくん包囲網がじりじりと…。
奈良シカマルは先ほどの光景を分析しようとしていた。
本来ならば、茶釜ブンブクは我愛羅の砂に呑まれ、圧死していたはずである。
あのとき何があったのか、何か決定的な事実があるはずなのである。
「…だめだ、なんも思いつかねえ、…めんどくせぇ…」
判断できる材料がなければすぐにあきらめるのもシカマルであるが。
とはいえ、それでも推測できる事がある。
我愛羅の砂は本人が直接制御しているわけでない、という予想。
言ってしまえば、油女シノの扱う蟲のように、砂そのものに意識があり、我愛羅はその意識に訴えかけて砂を操作しているということか。
それなら、我愛羅と砂の意識を分断することで、砂の攻撃を無力化できるかもしれない。
ブロックが違うとはいえ、最終的に戦うことになる可能性はある。
そのためにも相対した時に策を弄するための判断材料はあった方がいい。
もしくはブンブクそのものに砂を食い止める力があるのか。
とはいえ、そこまでの力があるならば、里に置いて茶釜の一族はもっと大きな勢力をもっていても不思議ではない。
ならば個人か。
ブンブクのみが持つ特殊性が、あの砂を止めた、ということか。
やはりこちらも判断材料が少ない。
今までブンブクとは長々とつるんできているが、さすがに砂を操るような特殊性は予想すらつかなかった。
今後の付き合い方を調整すべきか、というところまで考えて、シカマルはばかばかしくなった。
結局情報が少なすぎる。
なれば考えるのも無駄であろう。
「…ああ、めんどくせぇ…」
シカマルはいつもの口癖をつぶやきながら、空を眺めていた。
うずまきナルトは茶釜ブンブクと共に病院を出て、帰路へと就いていた。
彼は内心落ち込んでいた。
大切な弟分の危機に、自分は全く動くことができなかった。
我愛羅は違う世界にいる存在だと思った。
あれは自分たちとは違う。
関わってはいけない存在なのだと。
普段と全く変わらない弟分のおかげで少なくとも表面上はいつも通りにしていられるが、この弟分は何故いつも通りなのか。
内心は自分と同じように怯えているのだろうか、それとも彼が特別なのか。
ナルトは何故かこの弟分に置いていかれたような気がしていた。
そんな取りとめもないことを考えていると、
「兄ちゃん大丈夫、ぼうっとして?」
ブンブクから声をかけられた。
ブンブクはこちらを気遣っているようで、表情にも心配している様子が窺える。
「ん、今日何食って帰っかなってね、やっぱラーメンかな!」
弟分を心配させないために軽口を叩いてみるが。
「ぷっ、やっぱり兄ちゃんは食いっ気なんだね、てっきりサクラ姉ちゃんの事でも考えてんのかと思ったけど」
「は? なんでそこでサクラちゃんが出てくんだってばよ?」
「? あれ、知らないの?
サクラ姉ちゃん、時々リーさんのお見舞いに来るんだよ。
リーさんのとこに飾ってあるお花、あれ姉ちゃんが持って来てるやつなんだけど」
「!! そんな話聞いたことないってばよ!
え? まじ!?」
「うん、そうだけど?
…ほんとに知らなかったんだぁ…」
ナルトは良くも悪くも単純である。
前提条件:オレはサクラちゃんが好き/ゲジマユもサクラちゃんが好き
我愛羅にビビってるオレ=カッコ悪い
我愛羅に立ち向かって五分以上に戦ったゲジマユ=カッコいい
上記の条件を加味する=ゲジマユとサクラちゃんがお付き合い
このような短絡な方程式が彼の中に出来上がったのである。
彼には、ニッと笑みを浮かべて歯をキラン、と煌めかせサムアップしているリー、それに寄り添いハート目をしてメロメロなサクラ、周りに集う同級連中や上忍たち、木陰でハンカチをキーッ! とばかりに噛みしめる自分の図が幻術でも使ったんではないかと思うくらいに鮮明に浮かんでいた。
「ぬがーっ!! ぜってえゲジマユなんかに負けねー!! サクラちゃんのハートはオレんだーっ!」
単純な分ナルトのやる気には火がつきやすい。
「こっから最終修行だってばよ!
ブンブク、後で修行の成果見せてやる!
すっげえ術、エロ仙人から教わったんだってばよ!!」
ナルトは夕日に向かってダッシュしていった。
「兄ちゃん、すっげえ術は良いんだけどさ、…エロ仙人って、誰?」
事情が全く分からないブンブクを置いて。
「ぶえっくしょいぃ!! むう、だれかワシの噂でもしとるんかのォ…」
エロ仙人こと伝説の三忍の一人、自来也は、大きなくしゃみをしながらそう言った。
自来也は今回の中忍試験、何か起こる、そう予感していた。
その中心にいるのはやはり、うずまきナルト、うちはサスケ、この二人。
因縁の相手である大蛇丸の関与も確定しており、すでにその手はサスケに及んでいる。
サスケは大蛇丸により呪印と呼ばれる特定の感情をキーにして発動するチャクラの強制変換を行う忍術回路というべきものが感染させられている。
サスケは一族を実の兄に皆殺しにされており、呪印はその憎しみを媒介にして強大な力を引き出す事ができる。
しかし、強大な力は簡単に人を歪める。
忍とて例外ではない。
事実、かつてナルトを唆し、里の禁術を収めた巻物を奪おうとした不届き者がいた。
あのまま巻物を盗まれていたとしたら、その者は里を抜け、忍の規範に従うことなく無秩序にその力をばら撒き、大きな不幸をつくっていったであろう。
サスケは復讐のために力を欲している。
それがどんなにハイリスクなものであろうともだ。
短絡的に手に入れた力、それで復讐がなされたとしたら、その後サスケはどうなるのか。
今まで実例を腐るほど見てきた自来也としては将来有望な少年が化物と化していくのを黙ってみている気にはなれなかった。
しかし、単純なナルトと違い、今のサスケにどのように接するべきか…。
自来也をして悩ましいところであった。
「こういうのは大蛇丸が適任だったんじゃがのう」
根が単純で感情型の自来也、物事を考えすぎるくらいの理論型の大蛇丸は少なくとも自来也から見ていいコンビだった。
ここに調整役の綱手を入れて、最高のスリーマンセルであったと自負できる。
すでに過ぎ去ってかなりの時間が経つが、あの日々は自来也にとって宝物であった。
ナルトとサスケにとっても、今の日々を思い出し、楽しげに笑う時が来るのならばいいが。
そのような取りとめもない事を自来やが考えていると、
「くぉらエロ仙人、本選前の最終修行に付き合いやがれってばよ!」
「むぉ、ナルトではないか。
これ、ちと声がでかいんのォ。
もうちっと声を…おぅっ!!」
そう言って視点を動かす自来也。
そこには… 完全武装のクノ一たちが。
自来也はお約束のごとく温泉にて執筆のための
ぎゅぴーん! という音の聞こえてきそうな眼光で自来也を睨みつける女性たち。
手には
おねえちゃんににじり寄られるのは大好物な自来也といえど、壊れた笑み、異様に輝く眼光の凶悪な獲物をもった女性とあばんちゅーるは勘弁いたしたい。
なんかこう、極楽とは別の所に送られてしまいそうだし。
「よっしナルト、それでは修行の旅へとまいらんとするかのォ!
出来るだけ遠くへ!」
「ふざけんなエロ仙人!
こっちは明日が本番だっての!
木の葉隠れの里離れてどうするんだってばよ!
とっととすっげえ忍術教えやがれ!」
「んなっ、わしのとっときの口寄せ教えてやって、まだそんな事を言いよるか!
少しは目上を敬うことを貴様は知るべきじゃのォ!」
「うっせー!
明日はヒナタとゲジマユの仇を取らなきゃなんねえんだ!
覗きなんかしてる場合じゃねえんだってばよ!」
「覗きなんかとはなんじゃい!
これは正当な取材活動!
品性下劣な覗きなんぞと一緒にされたくないわのォ!
訂正せい!」
「(うわぁ、あてになんねー。)
ところでさ」
「ん、なんじゃのォ」
「いや、エロ仙人じゃなくてさ」
「? なんのことじゃ?」
「これくらい時間稼げばいいかな、
「!!」
突然、肩を掴まれる自来也。
「ありがとう、坊や。
覗き魔逮捕にご協力ありがとう。
これからは大人の時間よ。
子どもは帰った方がいいわ」
「ん、うん、分かったよ、姉ちゃんたち。
じゃあな、エロ仙人。
生きてたらまた会おう」
シュタッと手を挙げ、脱兎のごとくナルトは駆け出した。
これ以上は見てはならないものだ、そう理解することができる自分に感謝しながら。
後ろから、エロ仙人もとい自来也の声が聞こえたような気がするが、きっと気のせいだろう、耳は塞いでいたし。
結局修行ができなかったのを思い出すのは家に帰りついて布団に入った時であった。
その後、結局ろくに寝ることができず、彼は早目に家を出て、演習場へ向かう。
そこで日向ヒナタから言葉をもらい、本選への気持ちを完全に切り替えることになるのはまた別の話。
「以上が、茶釜ブンブクより聞きとった当時の状況です」
木の葉隠れの里の長である火影の直属部隊、暗部に所属する上忍テンゾウは、うずまきナルトおよび茶釜ブンブクと、大蛇丸の一味と目される人物、薬師カブトが接触した件を三代目火影、猿飛ヒルゼンに報告していた。
「うむ、御苦労、下がってよい、いや、しばし待て」
「はっ」
「お主は茶釜ブンブクをどう見た?」
「危険人物と見ます。
己の能力を十二分に把握し、その上で目的を達するために手段を選ばない、上忍として得難い資質をもっているものと考えます。
しかし、そのような資質は経験を積むことで開花されるものです。
経験の少ない少年時代から才能をもてあそぶのは才に溺れる危険性が極めて高いものかと。
あのまま放置するのは里が割れる危険を放置しておくのと同義ではないでしょうか。
噂の域を出ませんが、『根』のものたちもアレには目を付けているという話も聞きますし、大蛇丸の手に落ちたならば尚更でしょう」
本人が聞いたら眼鏡違いもいいところだと涙目で抗議するところであろうが、残念ながらここにはヒルゼンとテンゾウしかいない。
「ふむ、相分かった。
中忍試験が終わったら、一度会ってみる必要があるのう。
呼びとめてすまなんだ、行って良い」
「はっ」
テンゾウは目にもとまらぬ速さでその場から消えた。
「ふむ、茶釜ブンブクか…」
ここ数年で木の葉隠れの里の上層部の間で聞かれ始めた少年の名前。
最初に聞いたのは、自身が身元引受人をしているうずまきナルトからであった。
ナルトは当時身体的、精神的な虐待を里の民から受けていた。
迂闊なことに、ヒルゼンはその全貌を知ることがなかった。
ナルトの監視に付けている暗部のものがヒルゼンに虐待の情報を報告しなかったこと、ナルト自身がヒルゼンに虐待を受けていることを告げなかったためである。
当時の暗部にはヒルゼンに対して些細なことは報告にしない、という暗黙のルールが出来上がっていた。
当時のヒルゼンは、四代目火影が死に、老骨に鞭打ち、九尾事件の後片付けに忙殺されており、少しでもその心労を抑える必要があったためである。
また、上忍である暗部の忍たちにとって、ナルトの受けている行為は虐待と受け取れなかった、というのもある。
ナルトは九尾の人柱力である。
一般人の暴行程度はすぐに傷が治ってしまう。
そのため、ヒルゼンが暴行を受けた痕跡を見つけることも出来ず、精神的に強靭な上忍たちからすれば身体的な傷さえなければ子どもであろうとも問題なかろう、と結論してしまったためでもあった。
ヒルゼンは、そのしばらく前から、ナルトが明るくなっていたのに気づいた。
何かいい事でもあったのか、と聞くと、
「弟分ができた」
そう嬉しそうに話すのだ。
話を促すと、ナルトはとてもうれしそうに、その弟分の事を話してくれた。
ナルトはヒルゼンに、普段の事をほとんど話さなかった。
今考えれば、ナルトはヒルゼンを心配させまいと気を使っていたのだろうということが分かる。
そのナルトが、普段どのように遊んでいるとか、弟分のブンブクと知り合ってから、交友関係が広がっていった事を本当に楽しそうに語ってくれたのである。
その笑みは、かつての自分の弟子である自来也、そしてナルトの父である波風ミナト、母であるうずまきクシナを彷彿とさせる、周りのものを幸せにしてくれる笑みだった。
その会話の中で、弟分の名前が茶釜一族のブンブクであることが分かった。
茶釜一族。
木の葉隠れの里を作った千手一族、うちは一族よりも古くから火の国に仕える忍の家系。
その血は確かに千手の木遁、うちはの写輪眼、さらには日向の白眼などのような戦闘において決定的な力をもつ血継限界ではなく、また一族の持つ戦闘技術も他家のものに比べて特に優れている、という訳でもない。
しかし、忍の本分である「忍ぶる事」において茶釜の一族は他家に引けを取るまい。
彼の一族は、死する時に己を無機物、人の暮らす場に置いてあって不思議ではない器に変え、主家に事があるまで食器などとして潜み、紛れる。
一度事が起きるなら、彼らは最後の奉公として死力を振りしぼり主を守り、遺体さえ残さずに消えゆく。
火影たる自分ですら全てを把握しきれてはいないが、火の国に大名の周りにあった不穏な空気がいつの間にか解消されていることもあり、茶釜のものが人知れず動き、消えていった可能性があった。
正しい意味で
その忍ぶ一族の子ども。
興味をもって暗部に調査させたところ、唖然とした。
ナルトの身辺調査をたった3歳の幼児がやってのけていたのである。
その調査資料を解析できる人物に持ち込み(5歳児が資料の分析、解析というのも凄い話ではあるが)、作戦の立案などを共同で行い、協力を取り付ける大人についてもほぼ最高の人材を引き当てている。
むしろ、他の里の間諜が子どもに化けている、と言われた方がまだ信じられる状態だった。
もっとも、そんな目立つ事を間諜がするわけもないのだが。
子どもの知識と経験でできるはずもない計画をたった一人の幼児が成し遂げていた事実。
これを吉兆と見るべきか凶兆と取るべきか。
ヒルゼンは判断しかねていた。
結局、ヒルゼンは現状維持を選択した。
へたにブンブクに手を出せば、ナルトに気づかれるだろう。
ナルトは自身への好意には疎い傾向があるが、自分やその周りに対しての悪意には非常に敏感だ。
元々勘が鋭いのに加え、迫害を受けた体験がそうさせるのだろう。
ブンブクがナルトに悪意をもって近づいたのならばとうの昔にナルトが気づいていよう。
なればナルトと共にブンブクの成長を見守っても問題なかろう、そう判断したためである。
そう考え、実際なにも起きなかったかというと、面白愉快な方向では問題が起きていた。
ナルトのいたずらの過激化である。
虐待の沈静化、友人ができたことにより、精神的に余裕ができたというのであろうか、里における自分の立ち位置を模索する方法として、ナルトはなかなかに豪快ないたずらをするようになってきていた。
有名なものでは、「火影の顔岩にいたずら書き」などがあるが、自分を表現する手段として派手な悪さをする時に、茶釜ブンブクも巻き込まれているようだった。
ブンブクはナルトと一緒にいるのが楽しいらしく、イタズラの現場で「兄ちゃん、もうやめようよ~」と喚いているのをよく見かけていた。
怒られる時も、ふてくされているナルトと一緒に大人たちに頭を下げることで、事態を鎮静化させようとしている事もあった。
おかげで「やんちゃなお兄ちゃんと振り回される弟」という構図が定番のものとなっていた。
本当に周りに被害が出るような悪さはどうやらブンブクが止めていたらしく、ナルトの評価は「いたずら小僧」より悪くなることがなかったのが幸いであった。
もっとも、ナルトがなにかやらかすたびに、ヒルゼンの仕事は増えていったわけで、ナルトや孫である木の葉丸と関わる時間が削れていったのは気のせいではないはずだ。
そして、中忍試験も本選を迎えんとしたその前日に、ブンブクと大蛇丸の接点が報告された。
それは、ヒルゼンをしてブンブクへの疑念を膨らませるに足るものであった。
もともと、木の葉隠れの里の上層部に広まっているブンブクの評価はさまざまである。
ご意見番の老人たちはナルトと共に一時隔離を提案。
志村ダンゾウは意外なことに高評価で、自分に預けてみないか、とまで言っていた。
上忍たちは意見がさまざまで、特に里と組織を守る暗部の精鋭たちは揃って危険であると述べている。
特に、大蛇丸の事をよく知るみたらしアンコなどは、「ぜったい監禁、ついでに私に預けて」なぞと言ってきた。
さすがに大蛇丸の襲撃が高確率で起きるであろう現状、監視に回す上忍の数も足りず、中忍試験が終わるまではブンブクの件は棚上げするしかなかろう。
そう考えていたヒルゼン。
そこにさらに面倒な事案をもちこむ者がいた。
上忍マイト・ガイである。
「失礼いたします! 火影さま!
お話したい事がありまして!」
相も変わらず声がでかい。
「ガイよ、もちっと声を小さくできんかの?
そんな胴間声では屋敷の外にまで筒抜けになりかねん」
「はっはっはっ、ここのセキュリティがそんなに甘いわけありませんでしょうに!
そんなことより!」
一応は声のトーンを落としてはいるものの、一般的にみるなら十分に大声の範疇にはいるであろう声で、ガイは話し始めた。
「オレの弟子、ロック・リーが砂隠れの中忍試験受験生と戦い、大怪我をしたのはご存知でしょう。
今日、オレが彼を見舞いに行ったところ、新しい弟子も一緒におりまして」
どうやら、ブンブクは自分も知らぬ間にマイト・ガイの弟子になっていた模様。
「ほう、新しい弟子とな、それは?」
「茶釜ブンブクです」
「!」
いましがたまで考えていた少年の名前がここで出てくるとは。
内心の驚きを表情に見せず、ヒルゼンはガイに話を促した。
「その時なのですが…」
マイト・ガイはロック・リーの病室で起きた一連の騒動を隠業を使い、病室入口より最初から見ていたのである。
気配を消し、チャクラの流れを調整して、そこにいるはずなのに感知できない。
その技はナルトやシカマルなど下忍は当然、砂隠れの里随一の戦闘能力をもつ我愛羅にすら気取られずにいたのである。
我愛羅がリーを殺そうとした事、そこにシカマルとナルトが乱入してきた事、我愛羅が「人を殺傷する理由」を語った事、そこにブンブクがやってきた事を話した。
「そして、砂の小僧がブンブクを殺そうとした時です。
奴の武器である砂が、ブンブクを避けていったのです。
しかも、ブンブクが手を伸ばしてあいつの頬に触れた時、あいつはそのまま眠ってしまったのです。
正直なところ、オレの理解を超えておりまして、
ヒルゼンは「
千以上の忍術に精通し、その術理にも詳しいヒルゼンなれば自身の目の前で起こった奇っ怪な現象を解説してくれるのではないか、とガイは考えたようだ。
とはいえ、ブンブクが印を結んだ様子もなく、また茶釜の一族には瞳術は使えないはず。
今のところ、その現象は術ではない、と仮定するしかない。
「やはり、明日にでも茶釜ブンブクには会っておく必要があるか…」
明日は中忍試験本選であり、さまざまな問題が噴出してくる可能性が高い。
それを鑑みても、一度、茶釜ブンブクには接触し、自身の目で見極める必要があるとヒルゼンは考えた。
「ガイよ、おぬし、茶釜ブンブクを弟子としたというたの。
おぬしの目から見て、あの子はどう見える?」
その前に、このマイト・ガイという男の視点からの意見を聞いておきたい。
マイト・ガイはこの木の葉隠れの里の忍としては非常に独特の感性をもっている。
他の上忍たちとは違う意見を聞かせてくれるかもしれない。
「そうですな、あの子は熱い魂をもっている!」
いきなり今までとは正反対の評価を聞かされた。
確か、茶釜ブンブクは冷徹なアジテーターというのが上忍たちの評価だったはずだが。
上忍であるガイの目をかいくぐるほどの策士、ということのだろうか。
ブンブク本人が聞いたら泣きながら抗議をするであろうことをヒルゼンは考えた。
「いきなりオレにサインをねだるくらいですから!」
こいつはなにを言っとるんだろう、ヒルゼンは呆れた。
「なんといっても、『青春』をあの子は理解している!」
どうやらこの意見は自分にとってあまり役に立たんようだ、ヒルゼンはそう結論付けた。
「いや、ガイよ、お主があの子に肩入れしとるのは分かったがの…」
「…三代目、あの子は子どもですよ」
ガイは声を落とし、至極真面目な顔で語った。
「確かに年齢に似合わない部分をもっているのは間違いありません。
しかし、あの子の根本は間違いなく子どもです。
能力だけを見て、その本質を見落とさんようにしてください。
それが、オレの望みです」
「…そうかもしれんの。
いいじゃろ、まず偏見抜きであってみるかの」
「よろしくお願いします」
火影邸の夜はそうして更けていった。