基本的に本編と関係ないお話です。
狐狸忍法帖外伝 聖闘士星矢×NARUTO 上
狐狸忍法帖外伝・茶釜暗黒聖闘士団
ここどこでしょう?
お昼寝から目覚めた僕は、奇妙な場所にポツンといる事に気がつきました。
どう見ても火山地帯。
かすかに硫黄臭のする、赤茶けた土地と、向こうに見えるのは黒い噴煙を上げる火山かな?
反対側を見ると、大きな水たまり、と言うか海か湖。
潮の香りが混じってる所を見るとどうやら海か。
喫水線が見えますよ。
…どー見ても元の世界とは思えません。
だって僕の知る限り、こんなとこどこにもないじゃん!
とにかく、ここがどんな所か調査しておかないと。
僕は立ち上がり、歩き始めました。
時折どん、と言う音と共に噴煙が上がる活火山。
…とは言え、人の気配、と言うか生活の跡があるんですよねえ、ここ。
どう見ても火口の方に続いている足跡とか。
もしかしたらその近辺でしか取れない薬草とかそういうのがあるのかもしれません。
海の方を見ると、特に漁船とかは出ていない様子。
やっぱり火山の影響で漁業とかできない環境なのかしらん。
…実は無人島で、これを使ってた人はもう死んでる、とか。
ってほど劣化してる様子が無いんだよなあ。
まあ、いざって時には飛んで出ていけば良いだけの話だしね、のんびり行きましょうか。
さて、ここには確かに人が住んでいました。
大きく分けて2通り。
1つは一般の人。
極少数の人が集落レベルの集団を作って生活しているようです。
正直、かなり農業のレベルが低いですね。
メインは酪農だと思いますが、食べてくのがやっとという感じでしょうか。
服装なんかをみるととてもこの辺りで作られるような素朴なものじゃないので、交易なんかは行われている様子です、港もかなりしっかりしたのが作られてるしね。
んで、もう1つが問題。
どうやら山賊か何かの様なんですが、桁外れの力を持っていそうな人たちがいます。
パンチ一発で普通に岩を砕くような人たち。
それが何十人と居るんですよ。
お揃いの黒い甲冑? みたいなのを身に付けて。
さすがにやば気なので、準省エネモードで監視してたんですけど、危うく長髪のお兄さんに気取られる所でした。
あの人、目が見えないようでしたし、それ以外の感覚器、後は第6感、またはチャクラとかその他の手段で外界を感知している様子。
あれだけの腕があれば、いろんな所で活躍できそうなんだけどね、もったいない。
どうやら、あの人たちは極端な攻撃力過多をあの鎧みたいなので補ってる様子。
防御能力はそれほど一般人と変わらない、のかな?
なんて言うか逸般人って感じだけど。
みんな若いのも特徴かな。
見た所20歳を越えてそうな人はいなそう。
年嵩っぽく見える首領格の人ですら20歳いってないんじゃないだろうか。
とにかく行動が幼い。
ああ言う山賊みたいな人たちって大体「自分達には
しかも、若い人特有の、根拠のない自信に満ちて。
いや、あの強さならそれもおかしいとは思わないんだけど。
彼ら単独なら、
正直僕では太刀打ちできない可能性もあったりして。
でも、あれだけ強いならああやって
それがそんなに仲が良い訳でもなく、ああやってつるんでいるという事は。
…それ以上の脅威があるってことなのかな?
彼ら程度では太刀打ちできない、それだけの猛者がいるってことなのかしらん。
…勘弁して欲しいなあ。
着るもの、食べるものとかはどうやら独自の供給ルートがあるようで、村の港とはまた別の所に船が来て、それを彼らが島から
さすがに呆れましたが。
そんな事するんなら自分たち用の港とか造ればいいじゃん。
彼らの力ならなんとかなると思うんだけどなあ。
ちなみに住居は洞窟なんかを使ってました。
呆れるほどに非生産的です。
お酒とか煙草なんかをたしなまないのは良いとしても、毎日喧嘩じみた訓練だけで日々を過ごしている感じ。
…と言うか、それ以外を知らないのかな?
不思議とそんな生活をしている割には島の反対側にある集落は襲わないんですよね、不思議な事に。
多分彼らが警戒している何者かとの取り決めなんでしょうかね。
もしかしたら襲撃をしないことを約束に、食糧とかを提供してもらっているのかもしれません。
その場合、彼らは飼い殺しにされてるって事になりますか。
もしそうだとしたら気の毒ですね。
あれだけの才能を無駄にしてるって事ですから。
島の周囲にはあまり豊かではありませんが魚なんかもいます。
海藻とかもありましたんで、手持ちの鍋を封印術の巻物から取り出して、海水を煮詰めてお塩を作って、それで魚と海藻でご飯にしています。
穀物が無いのが不満ですがしょうがないですね。
そんな感じで火山島ライフを満喫していた時です。
「赤い火をふく吹く山へぃ! 登ろうぅ 登ろうぅ!」
何ぞと歌っていると、女の子と目がありました。
…いかん、ご飯に夢中になりすぎてた。
女の子と僕がしばし見つめ合います。
彼女は首を傾げ、
「…容器にハマった、ワンちゃん?」
犬ちゃうわーっ!!
しかし失敗でした。
エネルギー消費を抑える為に準省エネモードが普段の形態に成っているのをスコンと忘れてまして。
…いやほら! 小型だとね、魚とかいろいろ捕まえてきてもさ、小魚とか食いでがあるサイズに化けるんですって!
…僕は何に言い訳してんでしょうね。
それはさておきまして。
僕はその女の子とお話をしました。
彼女から、つまりは現地の人から情報が欲しかったんですよね。
僕は珍獣の類いだから、周囲の人には黙っていてほしいと頼んだら、「分かった!」ってやたら力を込めて言われましたし。
この女の子、名前をエスメラルダちゃんと言うんです、は、近くの村のお手伝いさんをしているそうです。
この島は「デスクイーン島」というそうで(何とも仰々しい名前ですこと)、中央の島と、大小さまざまな小島からなる群島って感じの所だそうで。
どうやら地中海という所にあるそうで、それだと僕の記憶の中にもあるんですよね。
で、ここは島流しの流刑地の様です。
村落から反対に居るあの馬鹿みたいに強い人たちは「聖地」とやらで色々やらかした人たちで、これ以上悪さをしないように一所に集められているんだそうです。
…どうやら此処には免囚福祉ってのはないようですね。
まあそれはともかく、いろいろ話をしていると、エスメラルダちゃんが、
「いけない、長居しすぎちゃったわ!?」
と、動揺するのですよ。
どうやら手伝い先の人に酷く折檻されるらしく、真っ青になってます。
こんな小さい子(後から聞いたら13歳だそうです。11歳くらいかと思った)を折檻というのもどうかと思うんだけど、まあ、彼女の後ろをコッソリ付いていきましょうか。
「この怠け者があーっ!
こおんな所で仕事をさぼりおってぇ!」
…これはだめでしょ。
「おまえは小麦3袋で買われた奴隷だって事を忘れるな!」
馬や牛を払う為の鞭でエスメラルダちゃんを滅多打ちにしているのはどうやら手伝い先、と言っていた所のおっさんの様です。
ちなみに、彼女の周囲には八畳風呂敷の糸が張り巡しておいたのでおっさんの鞭程度ではダメージはいりません。
暫くしてゼ―ゼ―と息を荒くしたおっさんは、
「ちゃんと仕事をしなかった罰だ!
今日の飯は抜きだからな!」
と、言いながら牛を引いて去って行きました。
どうやらあれがこの島のスタンダードなんでしょうかね。
だとしたら余りよろしくないなあ、なんて考えちゃいますね。
そんな事を考えていたら、
「ワンちゃん、もの凄く悪そうな顔してる」
って、エスメラルダちゃんに言われました。
だから僕は犬じゃないんだけどなあ…。
さて、ぼくはこっそりと集落に侵入します。
さすがにこの程度のスニークミッションは目をつぶっていても出来ますともさ、忍ですからね。
集落には大体100人ほど、近郊の集落を合わせると1000人ほどが住んでいるみたいですね。
集落の長の家に忍びこみ、幻術で情報を引き出していきます。
…なるほど、なかなかに面倒な。
ここはどうやらギリシャの領地、と。
で、本土からそれなりに距離があるもんだから自治の気風が強い。
ついでに昔っからの風習なんかもかなり残ってて、奴隷を買い付けるとかは昔からの因習、と。
そうでないと生活が成り立たない所もあるんだろうなあ。
ギリシャ政府は半黙認状態だけれど、出来るだけなくすように勧告されてる、で、集落の長としては住民と政府との板挟み。
政府からは補助が出ているものの、全然足りない、というか、他に回すべき所を集落の一部に回すだけで精一杯なんだね。
うーん、これは僕1人じゃどうにもなんないなあ…。
当座はエスメラルダちゃんの手伝いをしつつ状況をもうちょっと探るしかないなあ。
さて、エスメラルダちゃん、お仕事がまるで出来ません。
元からあんまり要領の良い方じゃないみたいですね。
更に、碌にご飯を食べていないせいか、体も華奢を通り越して細すぎです。
まだ、世話をしている牛や馬の方が立派なくらい。
まあ、向こうはセルロース分解が出来ますから、十分な糖質をとってますんでね。
とにかく彼女には糖質と脂質、蛋白が足りません。
という訳でまずは彼女にしっかり食べてもらう事にしましょう。
「という事です。
反論は認めません」
「え?」
彼女の目の前にあるのは周囲の海でとってきた魚と貝類、食べられる野草と細いけど糖分の詰まった自然薯を海水で煮込んだ、いわゆる「まーす煮」というやつです。
この辺りの海は工業用水とかで汚染されてませんので、そのまんまの海水で煮込んでもなかなか美味しゅうございます。
これをドンブリと木のスプーンでよそって食べてもらいました。
「…」
あれ?
ちょっと!?
泣くほどひどかった?
そんなに不味かったかしらん?
「…違うの。
こんなに、おいしいの、食べたの、初めてで…」
その言葉で、僕は本格的に彼女の状況改善を決めたのでした。
「美味しかった~」
満足げなエスメラルダちゃん。
「これ、一輝にも食べさせてあげたいなあ…」
おや、お友達かな?
「うん、この先の灯台跡にお師匠さんと一緒に住んでるの…」
ああ、この先のね。
時々えらい強烈な気配がすると思ったら、武芸者の師弟が住んでたんですね。
「武芸者って?
一輝は
は? せいんとって何?
「そっか、ワンちゃんは知らないよね。
…とんでもないことを知りました。
こちらには神様がおわすようです。
ギリシャの
12人の
エスメラルダちゃん、学が無いと思うんだけど、それでもこれくらいの事は知ってるみたいね。
どっちかっていうと宗教的なもんなのかな?
で、島の反対側に住んでるゴロツキ然とした少年達は、その聖闘士になれなかった残念さんたち、と。
…あれで成りそこないってんなら本物はどんだけ強いのよ、そう考えちゃいますが、どうやら実力があれば聖闘士になれる訳でもなく、実力を付けた上に身に付ける聖なる鎧、
何と言いましょうか、ひでえ話です。
必死になって努力して、誰よりも実力を見せた所で聖衣に嫌われればそれまでよ、と。
…さすがにグレるよなあ、うん。
彼ら、見た所10代だし、その他の道を示して上げても良いんじゃなかろうかい。
まあ、さすがに僕にはなにも出来ない訳ですが。
さて、次はエスメラルダちゃんの特訓です。
彼女、とにかく要領が悪い。
一生懸命なのは良いんだけど、あのまんまじゃ効率が悪い上に体の負担も大きい。
ので、体捌きの基本を教える事にしました。
別にややこしい事を教えた訳じゃありません。
物を持ちあげるときは、足を肩幅くらいに開いて腰を落とし、前かがみにならないように体を垂直に持ち上げるとか、そう言った程度の事ですね。
でも、それだけでもエスメラルダちゃんは、
「仕事が楽になったよ!」
と、嬉しそうです。
後は馬や牛の世話に関してとか、洗濯や炊事のコツとか、そういった日常で使えそうな技術を説明してあげた訳です。
その結果、おっさんから怒られる事は非常に少なくなりました。
…まあ、僕も幻術とか幻術とか幻術とか。
それはさておき。
暫くして、僕はお友達の一輝くんを見かけました。
…なんでしょ、あの拷問。
「強くなる為に必要な物!
それは憎しみだ!
敵を殺す憎悪の心だ!」
とか言いながら仮面の人物が少年を滅多打ちにしています。
なんだろ、これ?
少年の体には新旧様々な傷が刻まれており、治りかけてまた傷つけられるって感じですね。
あれで強くなれたらそれこそあの少年の天性の能力でしょうねえ。
明らかに体を破壊する方向にしか行ってません。
というのも、ああ言う怒声罵声を浴びせる教育ってかなり繊細な技術が必要なんですけど、あの仮面さんにはそう言うのが無い。
元々はかなりの使い手なんだろうけど、何故か体幹ぶれぶれ、パンチにもきちっとした導線が無い為に手うちの腰砕けパンチになってる。
ところが元々の身体能力が高いおかげで十分な威力が出ている上に、時々ラッキーパンチ気味の打撃が少年に入っちゃってます。
本来だったらあの一撃で少年は死んでるはずなんですけど。
桁外れの耐久力と回復力です。
彼はこの島に居る暗黒聖闘士さんたちを含めてもこの島で最も才能があると思われます。
それだけに惜しい。
このお師匠さんでは彼を潰すだけ、もしくは…。
「怪物に、育てたいのかな…」
戦うだけの怪物に。
問題は、それを制御できる奴がいるのかって事だけどね。
少年はかなりの精神力もありそうなんだよね、幻術耐性っていうのかな。
例えば、薬物や幻術で彼をコントロールしようとしてもかなりの手間に成ると思うんだよねえ。
ぶっちゃけると無理じゃん。
僕だったら幻術と忍薬でがんじがらめにすれば何とか、ってところだけど、そしたら少年の良い所を潰しちゃって、結局の所木偶人形が出来るだけだねえ。
なんの意味もない。
ン?
…そう言う事、かな?
深夜におじゃまします。
灯台跡に近付いていくと、月夜に外で呆然としている体のお師匠さん。
寝てないのね。
彼が眠るのを待って…。
彼、寝ませんでした。
2日目、寝ませんでした。
3日目、寝ませんでした。
一週間後、寝ませんでした。
…あの人寝てないのか!?
道理で調子悪そうだと思った。
ってか、下手すると何年も寝てないのかしらん。
…間違えた、あの人も十分超人の類いだった。
聖闘士ってあんなんばっかなのかしらん。
うちの里もいい加減トンデモばっかりだと思ってたけど、聖域ってどんな魔窟なのかしらん、あ、聖域でしたね、すいません。
さて、そうなるといい加減意識も朦朧としてるでしょうし、ちょっと危険だけど接触してみようかな。
その前に、エスメラルダちゃんと一輝くんにご飯を振るまいましょうかね。
「なんだこれ…」
一輝くんの最初の言葉です。
ずいぶん失敬ですね。
「ぶんぶくちゃがま、か?」
!
ちょっとびっくりです。
言い当てられましたよ!
もしかして読心術とか使えるんでしょうか?
「一輝、その『ぶんぶくちゃがま』ってなんですか?」
「いや、狸が茶釜に化けて恩返しをするっという童話だ。
昔、瞬に読んでやってから良く覚えててな…」
ふむ、そう言う民話童話がある、と。
なかなかに興味深い話ですが。
それは流すとして。
「本日のメニューはいつもと変わらず、魚と地のものの塩にでございます、お嬢様おぼっちゃま」
気取って言ってみたものの、エスメラルダちゃんはキョトンとするばかりだし、一輝くんにおいてはものすっごく嫌な顔をされた。
どうも上流階級にいい思い出が無いらしい。
どうもしっくりこないな、反省。
さて、実際に食べ始めると2人共もの凄い食欲です。
あっという間に鍋が空になっていきます。
次は焼き物です。
はらわたを抜いた魚に塩と周囲で見つけた香草を使った蒸し焼きです。
結構な大きさがあるので大丈夫…かと思いきや、一輝くんの食欲が旺盛ですね。
もう一品作っておいた方がいいでしょう。
「…その、お、おかわりはあるかな?」
はいはい大丈夫ですよ。
さすがに最後ですが、最後は蒸し物。
カニとエビを香草で蒸し上げたものです。
さすがにお腹がいっぱいになったのか、エスメラルダちゃんは1匹だけでしたが、一輝くんは全部平らげてくれました。
さすがに食欲旺盛ですよねえ。
一輝くんはすっと手を合わせると、
「御馳走様でした」
と言いました。
大分礼儀正しい少年です。
はい、お粗末さまです。
僕も礼をすると一輝くんは驚いた様子で、
「やっぱり日本産か…」
と呟いてましたがどう言う意味でしょうね?
さて、一輝くんから話を聞くと、なんと彼「聖闘士」の訓練生だそうで。
…いやおかしいからそれ。
そう突っ込みを入れると彼は首を捻りました。
いやだってアテナ女神さまの戦士団でしょ? 聖闘士って。
アテナさまってそんなに凶暴な神さまでしたっけ?
「憎め! 憎悪の心だ!」とかいう教えはちょっとイメージと合わないんだけど…。
一輝君もそれは感じてるらしいけど、武道は「守・破・離」であり自分はまだ彼の教えを受ける「守」の段階だから全てを師匠に任せる、と言ってます。
う~ん…。
いくら一輝くんが頑丈でも、そろそろ不味そうなんだよねえ、僕の見立てだと。
やっぱりちょっと無理しましょうかねえ。
その後、彼の身の上を聞いたりした。
ふむ、日本って国の出身の孤児で「グラード財団」ってとこに引き取られて、で、才能を見いだされてここに送り込まれた、と。
最初は弟くん(瞬くんというそうです)がここに来るはずだった、って事はそこで引き取られたのはみんな聖闘士候補って事ですかね?
グラード財団ってかなり胡散臭げなとこですねえ。
話を聞く限りでは最初から聖闘士にするために一輝くん達を引き取ったみたいだし、聖域の出先機関なのかな?
聖闘士の人員確保もしくは適合者を発見する為の俗世における代理機関とか。
ギリシャと日本って大分離れているみたいだしね、聖闘士になれる人材を探すのもギリシャ付近だけだとしんどいでしょうからね。
そんな事を考えていると、
「御馳走になった、ありがとう」
そう、一輝くんが言って立ち上がりました。
これからまた
…仕方ない、今晩からやってみるか。
深夜。
空には大きな月が出ています。
その下には異様な仮面をかぶった筋骨隆々とした男が岩に腰かけています。
なかなかに神話的な光景ですが、そう能天気な事も言ってられません。
僕は準省エネモードのまま自分の体を軽く叩きます。
チーン…。
金属の澄んだ音が周囲に響きます。
とは言え、そんな大きな音は出しません。
風の音に紛れてかすかに聞こえる程度の音に絞っています。
とは言え、その音を聞いて仮面のお師匠さんが不審そうな態度をとりました。
それに構わず、定期的に僕は体を鳴らします。
一晩中それを続けました。
仮面のお師匠さんはどうやら風が揺らしている何かが金属片にでも当たっていると思ったのでしょう、じきに気にしなくなりました。
それを1週間。
あれだけの人ですが、少なくとも2週間以上は寝ていない状態だと精神的にもかなり弱っているはず。
幻術の仕込みは万全でしょう。
じゃあ、という事でお師匠さんの目の前に現れる事にしました。
ぶんちゃか♪ぶんちゃか♪
奇妙な音楽がギルティーの耳に聞こえる。
ギルティーは本来、このデスクイーン島の治安を守り、ここに収監されてくる不良聖闘士を監視する役目を持っている。
今、その役目はほぼ放棄された状態だ。
ギルティーそのものが異常な状態となっているからである。
本人はその事に気付かず、一輝を完全な聖闘士とすべく、大きく歪んだ教育を彼に施していた。
ギルティーの目の前に余りと言えばあまりな代物が現れる。
一言で言うと獣の楽団。
彼には面識がないだろうが、見る人が見れば、「狸のチンドン屋」というだろう。
2本足で立ち上がった狸が太鼓を持ち、体のあちこちに鳴りものを付けてちんしゃんと鳴らし、笛を咥えてメロディーを奏でつつひじやひざなどについた紐を器用に引っ張っては太鼓を鳴らしていた。
そんな日本でなければ見られない器用で異様な代物が、踊るようにギルティーの前にやって来るのだ。
とても現実の光景とは思われない。
さしものギルティーも呆然とそれを見ていた。
はい、幻術掛かりました。
しかしとんでもないね、この人。
ここまで精神ぼろぼろにされてなお仕掛けに1週間かかったよ。
でも、一旦仕掛けてしまえば解除の方法を知らない限り「幻術に掛かった」事すら認識できないように、周到に術を仕掛けたからね、後は調査するのみ、と。
思ったんだけど。
この人、ギルティーさんだったっけ、どうやらかなり強力な幻術を仕掛けられている様子。
解除そのものは難しくはない。
これを仕掛けた人には術の解除に対抗する為のプロテクトとかっていう概念はなかった様子。
ただ、単純に解除して元の人格を取り戻したとしても、それは幻術によってぼろぼろにされた傷だらけの人格。
下手すると精神的な死って事にもなりかねない。
少しずつ回復させていく為にはいきなり術を解除しない方がよさそうなのだ。
それから、おもしろい、というのはちっと不謹慎かな、術が解除されると術者にそれが分かるようにギルティーさんの意識の中に相手の術者の一部、僕らでいう所のチャクラ、みたいな残滓があるんだよね。
これをどうにかしないと解除した途端に相手さんがこっちに攻撃を仕掛けてくる可能性があるんだよ。
それは勘弁、なので、時間をかけてゆっくりとやってみようと思う。
さて、幻術と併用しての尋問忍術でギルティーさんの頭の中をのぞかせてもらいましょう。
忍ならばこう言う術への抵抗技術を持ってるもんですが、この人はどうかなあ…。
…うん、この世界に幻術への抵抗技術、幻術の解印が無いので大丈夫かとは思いましたが、やっぱりそう言うのはないですね。
ひたすら精神力で弾き返すしかない、と。
ならば一旦その内側に入っちゃえば抵抗の使用がないよね、と。
…なかなかえげつない状態であることが分かってきました。
あれから更に1週間。
僕はゆっくりとギルティーさんの状況を把握していきました。
どうやらギルティーさん、仕掛けられた幻術と本来持っている信念とかそういうのがぶつかってこの「憎しみこそが強さの秘訣だぁ!」って性格に作りかえられてしまったようです。
仕掛けたのは「教皇」と呼ばれる人物。
聖域の人間サイドのトップの事でしょうねえ。
この人の事を下手に調べようとすると、向こうさんに気取られる可能性があって調査しきれませんでした。
だってもうちょっと調べようとしたら気が付かれそうになってんですから、
100kmじゃ効かないと思うんですけど、その距離を無視して感付かれそうになりましたからね。
あの手の人は他にも色々仕込みをしてるでしょうからそうそう断定はできないともいますが(お前もそうだろうって、失礼な!?)。
で、なんでギルティーさんが「憎しみがどうの」に拘泥するかが分かってきました。
どうやら憎悪で心を一色に染める、つまりは視界が狭くなった状況って幻術が仕掛けやすいんですよね。
そういう「操りやすい聖闘士」を増産する為にあいてさんが「聖闘士はそのように育てるものだ」と刷り込んでいたんですね。
それと、どうも一輝くんの纏う予定の「
…まるで写輪眼の様だ。
だからあんな「憎め―、憎め―」とか言いながら撲殺寸前、というか殺る気満載の攻撃をかましてる訳ですね。
単純に言うと、憎しみって結構簡単に心的モチベーションを上げるには都合がいいですからね。
でも元々の高潔な性格がそれに歯止めをかけてる、のは良いんだけど、もうそろそろやばいよね。
ギルティーさんもそろそろ限界が近いようだし、一輝くんもそう。
明日にでも何とかしてみようかな。
「今日が最後だ!」
そう言って、ギルティーは一輝を殴り飛ばした。
ギルティーは今日こそ一輝の修行を完成させるべく最後の賭けに出た。
…ギルティーがこの日動き出したのは偶然ではない。
ブンブクの仕掛けた幻術により、精神状態が活性化されたが故である。
精神障害、こと鬱病の患者は最も落ち込んだ時よりも症状が改善され、多少活発になって来た時期ほど自殺者が多くなる傾向にある。
これは「自殺するだけの気力もない」から「自殺を行うだけの気力が戻った」事によるという。
それと似たようなことがギルティーの心に起きていた。
一輝は十分な能力がある。
後は聖闘士としての
ギルティーはここで一輝の「人としての死」を迎えさせる事によって鳳凰座の聖衣に彼は間違いなく選ばれると信じた。
故に、彼の人格を否定し、憎しみ一色の歪な性格を作り上げればそれが成せると信じ込んでいたのだ。
「わしを殺して鳳凰座の聖闘士となるか! ここでデスクイーン島の土となるか! 2つに1つ!!」
そう言ってギルティーは一輝に攻撃を仕掛けていった。
「はあっ、はあっ…!」
エスメラルダは走っていた。
とても嫌な予感がしたのだ。
まるで一輝だどこかへ行ってしまうようで。
そして、その時。
一輝と、そして師匠であるギルティーの姿が見えた時、
かーん!
甲高い音を立てて、エスメラルダの胸に強い衝撃が走った。
一輝はエスメラルダが倒れるのを見た。
ギルティーの繰り出した衝撃の拳は一輝の額を掠め、その背後に居たエスメラルダを打ちすえた。
直撃していれば一輝とてどうなっていたか分からない。
それだけの威力を込めた衝撃がエスメラルダを襲ったのだ。
「な…、エ、エスメラルダァーッ!!」
駆け寄ろうとする一輝。
その背後から声が掛かる。
「馬鹿め! その娘は貴様が殺したのだぞ! 『敵』に止めをさせん貴様の甘さがな!!」
その言葉が一輝の殺意に火を付けた。
奇妙な狸、「ちゃがまぶんぶく」を名乗るそれから師であるギルティーの状況は聞いていた。
もしかしたらこの人は本当は尊敬できる人なのかもしれない、そう思っていたのに。
信じても良いのか、そう思っていた矢先のことであり、それだけに失望、怒りががちりと憎悪に切り替わった。
一輝は「ギルティーを殺す」という殺意に身を焦がした。
その炎が一輝の中にある何かに火を付ける。
「ぅぅぅぅうおおおお!!」
一輝の雄たけびと共にその周囲に炎が浮かぶ。
「ま、まさかあれは!
不死鳥!!」
ギルティーの目には一輝から噴き出した小宇宙の残滓がまるで鳳凰座を象っているように見えた。
(とうとう、目覚めたか一輝!)
ギルティーは危機と、そして歓喜を感じていた。
己の弟子がとうとう聖闘士として目覚めた事に。
ギルティーは拳を固め、背を向けた一輝に襲いかかった。
「ぬあぁっ!」
「うおおぉっ!」
その時、ついにギルティーが一輝に叩き込んだものが結実した。
「見えたぞ!
喰らえ鳳凰の羽ばたき!」
一輝の握りこんだ拳に途轍もない力の奔流が封じ込められる。
それを開放するように腕を突き出しながら解放する、その技の名を!
「
小宇宙が最大限に高められ、そして解放されたその力は鳳凰の羽ばたきのような強力な烈風と渦を巻く炎を放ち、
「ぐわぁぁぁっ!」
ギルティーを天高く吹き飛ばした。
地面にたたきつけられるギルティー。
それに構わずエスメラルダへと一輝は駆け寄った。
「エスメラルダっ!」
そこには地面に倒れているエスメラルダと。
「あ、大丈夫、大丈夫」
緊張感の欠片もない間抜けな風体の狸in茶釜がいた。