マナの口調が難しい……。
場所は、さっきまでオレと雪乃がデュエルをしていた公園。
今の姿は一般人には見えない透明な精霊の状態だが、ベンチにオレと《ブラック・マジシャン・ガール》の精霊、マナが座っている。
『マナ、そろそろ話してもいいんじゃないのか? 一体、コナミに何があったのか……』
『そうですよね……さっきの謎の闇の力も迫ってるかもしれないってなったら、コナミの力が必要だよね』
『ああ……コナミのデュエルの腕は、オレや海馬にも引けを取らないものだった。それに、普段はあんなふざけた奴だが、カード知識やカードを組み合わせたコンボの知識が豊富でデュエリストの性格や考えを読み取る力もあり、先を読むということに関しては、オレたちの中でも群を抜いていた』
『確かにね。デュエルアカデミアでデュエルしてる時も、相手が出したカードのちょっとした情報からすぐにどんなデッキか判断してうまく立ち回ってた』
「歴史に名前は残したくないからなぁ」なんて言って、バトルシティやKCグランプリなどの大きな大会には参加はするものの、本戦にはいかなかったりわざと負けたりと、デュエリストからしたら舐められていると取られる行動をよくしていたが、その実力は本物だ。あの海馬ですら、コナミの腕は認めていたからな。
そして、さっき雪乃を操っていた闇の力。蜘蛛が憑りついていたようだったが、あんな小さな蜘蛛でかなりの大きな闇を持っていた……近いうちに必ず、オレたちの脅威になるはずだ。そうなると、やはりコナミの力が必要だ。
そのためにも。
『マナ、話してくれ。コナミがデュエルをしなくなった、その理由を』
『分かった……。でも、真実は意外とあっさりしてるんだよ』
そう言って、マナは少し遠くを見ながらゆっくりと話し始めた。
あれは、コナミが十代君との旅も終えて双六さんの店を継いで、それから数年ぐらい。
その頃のコナミは、店に来る子供たちにデュエルを教えたりしてたんだ。でも、デュエリストとしての本能が、強い人との戦いを求めてた。
そこでコナミは、毎晩プロデュエリストが大会をしてるスタジアムの出口に張り付いて、出て来るプロに戦いを挑んではあっさりと勝ってた。10連勝して勢いに乗ってる新人でも、安定した勝率のベテランでも、ランキング上位にいる人でも、そのすべてを、倒してた。それも、さっき言った通りあっさり。
相手が成す術なく勝ったり、展開されても次のターンでそれ以上に展開したり、私が見ててコナミが負けるんじゃないかって追い込まれてたのは見たことがなかった。
そんなのが続いてたからかな。コナミはデュエルを楽しめなくなってた。ただ強い人を求めてデュエルをつづける。でもやりがいがないからまたつまんなくなって……それがずっと続いてると、コナミの中にある考えが浮かんできたんだよ。
「闇のデュエリストとか操られた奴らは強かった。ならダークネスとかグールズとか、そういうのを復活させればもっと熱いデュエルができるんじゃないか? それに何より、真剣に戦える」
いつもみたいなふざけた感じじゃなくて、真剣にそう、私やお師匠様に言ってきた。
でもそういう人たちをまた復活なんてさせたらどうなるか。そんなの考えなくてもわかる。どれも世界が滅びるんじゃないかってなるような大事件に発展してもおかしくないことばっか、その元凶を復活なんてしたら大変なことになる。
だから私たち精霊はコナミを止めようとしたんだけど、全く止まらずに、ダークネス復活の方法を探してた。
だから私は、コナミの中に宿る精霊に協力を求めた。いつもはコナミの傍にいないで精霊界にいる、精霊界の王様――
「ふぅん、あのバカめ。俺様との勝率を五分の癖に何が強い奴がいないというのだ」
――《正義の味方 カイバーマン》に。
「でもカイバー君、コナミは本気だよ。あれじゃ、大変なことになる」
「あいつがデュエルを楽しまなくなった時から、こうなることは予想していた。この俺が、それの対策をしてないと思ったか?」
「じゃあ、何か考えてるの?」
「当然だ! あいつには、デュエルができている素晴らしさを身をもって思い知らせてやるのだ」
そう言ってカイバーマン……カイバー君は現実世界に出ていった。
「《正義の味方 カイバーマン》……口調と名前といい海馬みたいな奴だな」
「それはそうだよ、海馬君が自分の遊園地のマスコットキャラとして作ったのをカード化したんだから」
「そうなのか。それで? カイバーマンは、どういう方法に出たんだ?」
「あ、えっとね」
現実世界へと出たカイバー君は、寝てるコナミのとこへ出たんだ。コナミの精霊なんだから近くに出てくるのは当然だしね。
でも私は、カイバー君が何をするかなんて知らないから聞いた。
「コナミ寝てるけど……どうするの?」
「寝ていたのは予想外だが、デュエルをする手間が省けたわ。俺の計画は単純だ、コナミにカードを見えなくさせる」
「えっ、カードを!?」
カードを見せなくする。確かにそうすればデュエルはできなくなるけど……けどそれだと、別の意味でコナミがおかしくなるんじゃ。
コナミは出会う人のほとんどに「三度の飯よりデュエル」「デュエルがあれば他はいらないだろ」「デュエルバカ」みたいに言われるほどに、デュエルを愛してる。その愛情は精霊を私たちが身をもって知ってる。
そのコナミから、カードを、デュエルを奪うなんて。
「そうだ。そして、再び見えるようになる条件は二つ。一つがまたデュエルを楽しんですること。もう一つが、その力を誰かを守るときに、助けるときに使うことだ」
「なるほど……」
「だが当然、一つ目はいいが二つ目の条件は秘密だ。コナミの心に再びデュエルへの正しい想いの灯がともったとき、デュエリストとしてのコナミは帰ってくるのだ!」
あっさりと言ってるけど、そんな簡単に達成できるのかな。
やっぱり心配。今のコナミは狂ったかのようにダークネス復活の方法を探したり闇のデュエルのやり方なんてのいうを調べまくってる。それは、やりがいのあるデュエルがしたいから。そこからデュエルを取れば、逆効果もありえるんじゃないかって考えてしまう。
「そしてそれをやるやり方は、このカードたちを使う」
そういって取り出したのは、《催眠術》と《記憶破壊者》の二枚のカード。
……名前からして、やることがすぐに見えちゃった。
「一応聞くと……どうするのかな?」
「ふぅん、愚問だな小娘。まずは《催眠術》によりコナミに、デュエルを楽しめないとカードが見えないと思わせる。次に《記憶破壊者》を使い、この数日のコナミの記憶を消し去る。そうだな……この前の雑魚デュエリストを倒したとき以降を消しておけばいいだろう」
カイバー君が言った日は、コナミが闇落ち思考に入る前日のこと。確かにその日ならいいかな、コナミが変になることもなさそう。
けどそんな上手くいくのかな……いつもあるデュエルの過程をすっ飛ばしてると途端に不安になる。
「安心するがいい小娘。この俺の作戦に失敗などないわ! 《催眠術》発動!!」
「えっ!? ちょっとまだ心の準備ができてないよ!?」
「フハハハハハハハ!!」
話もまだ終わってないのに、持っていた《催眠術》のカードを頭上にかざすと、発動したのか光が起きて辺りを覆う。
響き渡るカイバー君の高笑いに、消え去らない不安を抱えたまま、結果はどうなるのか心配してた。
「それで、全部上手くいったんです。ただ色々ミスもあって、目覚めたコナミは元通りだったんですけど、その時はまだカードを見えなくなってるって素振りがなかったんです」
「なに? それだと、作戦は失敗なんじゃないのか?」
「ううん、成功してたよ。その日の夜、コナミはいつも通りデュエルを挑んだんです。そしてカードをディスクにセットすると――」
あの時のコナミの顔は今でも覚えてる。生きる希望を失ったような、自分のすべてを無くしたような。
「――ソリッドビジョンにその姿が出なかったんです」
「なるほどな……」
コナミには、手に持つカードたちは見えていた。それはカード名を宣言してプレイしてたから確か。でも、ディスクにセットしても、コナミはその姿を認識できなかった。
私や相手プレイヤーにはちゃんと見えてたから、ソリッドビジョンの故障じゃないのは確か。だけどコナミには全く見えてなかった。私やお師匠様とかの精霊は見えてたから、デュエルをするってなると見えなくなるみたい。
その日のデュエルは中断してコナミは部屋に帰った。それで、どうしていきなりカードが見えなくなったのか、その原因を考えてた。
「王様、何て言ったと思いますか? コナミ、自分にカードが見えなくなった原因として」
「そうだな……デュエルを楽しんでないから、罰が当たったのかもな。とかか?」
「すごい、正解です」
「デュエルを楽しまないで、自分が満足するためだけにデュエルをする。そんな俺に、精霊たちが見限って罰を与えたのかな」、コナミはそう言った。
さすがのコナミも、大好きなデュエルができなくなったのは堪えたみたい。それに隠してるつもりだろうけど、カードをセットしても反応がなかったっていうのはトラウマになってる。だから今、コナミはデュエルをすることを恐れてもいるはず。
「フッ、あいつの考えそうなことだからな。だからコナミは、デュエルを楽しみたいと、そう思ってるということか」
「たぶんね。コナミもどこかで分かってるんじゃないかな。デュエルを楽しめないと、また自分にはデュエルはできないって」
催眠術の影響か、それともコナミの直感なのか。わかんないけど、コナミは自分のしなきゃいけないことは分かってたんだ。でも、楽しもうにもほかの人のデュエルは胸躍らない。だから何もできないで時間だけが過ぎて……けどそこにアテムの復活。
コナミの気持ちも少しづつ変わってるかもしれない。この前のブラック・ローズを出せたのが一番の変化。魔法カードとかは使えたけど、モンスターカードだけはずっと出せなかった。なのにあの時、しっかりとコナミはその姿を見ていて、攻撃の命令を出した。
あの時のコナミは、みんなを守ろうっていう思いがあったから。カイバー君の出した二つの条件をクリアしてたんだ。ただ、すぐにブラック・ローズが消えたから、まだ完全に戻ってるってわけじゃないんだろうね。
でも、何もできないで先に進めなかったころと比べると大きな一歩だよ。このまま順調にいけば、きっとまたコナミは――
「――デュエルができるようになる、だろうな。そのためにも、オレがやることは一つだ」
「そうですね。王様がやることは、いつも通りデュエルをすることです。コナミはそのデュエルを通して、あの頃の熱い思いを取り戻してくれるはずだよ」
「ああ!」
王様が強く拳を握る。必ずコナミにデュエルを楽しませてみせる、そんな思いを込めたような、力強い拳。
結局コナミがデュエルできなくなったのは、私たちコナミの精霊のせい。けど、またコナミにはデュエルをしてもらいたい。今のデュエリスト達なら、コナミだって手ごたえのある勝負をできるはず。あの時みたいな考えにはならないだろうし、またなったとしても、今ならコナミには仲間がいてくれてる。あの頃にだってマスターに十代君とかはいたけど滅多に会わなかった。でも今は、王様がいる。それに遊星君やゆまちゃんだって。
皆がいれば大丈夫。だから、ずっとコナミのそばにいた私は、またコナミがデュエルできるようにサポートしないとね。
「決まったぁぁぁぁ!! シティの新たなチャンピオンは、不動遊星だあああぁぁぁああ!!!」
『あ……』
いきなりスタジアムから花火が上がって、少しだけど中の実況の人の声が聞こえてくる。
そして沸き起こる歓声。外にいる私たちにもしっかり聞こえてくる。
『どうやら、遊星が勝ったみたいだな』
『みたいだね。さってと、コナミのとこに戻らないとね! 私の居場所は、あそこだから』
『そうだな……行こうぜマナ』
一段とコナミを復活させるためのやる気を漲らせた王様。ポーカーフェイスを装ってるけどきっと心の中ではそうなってるねあれは。私も私で、さらに気合いを入れたけど。
王様に続いて私も、スタジアムの中へ…きっと今、湧き上がる生徒を抑えようと必死なコナミの元へと戻っていく。
というわけで、コナミがデュエルができなくなった理由はカイバーマンやマナ達コナミの精霊による作戦でした。
ご都合主義すぎる展開ですが、最初から精霊によってそういう状態になったというのは考えてたので。