~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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『6機の〝G〟』A

 

 

 

 ────それから、およそ一ヶ月が経った。

 

 ステラはキラに連れられ、住宅街にあるヤマト家に居候のような形でお邪魔することになっていた。

 キラの母、カリダ・ヤマトはステラと再会し、泣き疲れるまで涙を流し、ハルマ・ヤマトはその腕を使い、その存在を抱いて確かめた。なにせ、家族ぐるみでも親しかった家の娘の生存が確認できたのだ、嬉しくないはずがなかった。

 

 けれどその一方で、彼女の生家であるザラ家との接触は難航を極めた。

 

 現在〝プラント〟は戦時下ということもあり、特定の人物を捜索するのは難しいと云えた。彼女の父、パトリック・ザラは〝プラント〟でも有名な人物であるのだが、接触を図りたくとも、所詮は中立国のコロニー、それも一般人に過ぎない彼らからの電文が辿り着くものではない。

 コペルニクスに移住した時より、ザラの家族の身分は隠され、彼の現住所などは公開されている訳もないからだ。ステラは、一向にプラントに戻れる兆しが見れなかった。

 

 キラは普段通り学生生活を続けながら、帰宅後はアスランの捜索に尽力した。

 ステラは時折「寂しい」とキラのカレッジに出向きキラに会いにいくのだが、その度に、あの可愛い子は誰、なんて羨望の白眼がキラに向いた。

 やがてステラはよそよそしくも、次第にミリアリアやトールとも打ち解けていくようになった。

 幼さを残す顔立ち、しかし、幼すぎるということもなく、間違いなく美少女と形容できるだけの容姿を持っていたとしても、ステラ自身には美少女としての自覚はない。そのため周囲の好奇の目は、彼女にとって鬱陶しいものでしかなかったりもする。

 

 ある日のこと、一台のエレカがモルゲンレーテの社屋の中に入って止まった。

 

「あ、キラ、やっと来たか」

「ごめん、講義が長引いてさ」

 

 工業カレッジのラボの中に入って来たのは、キラであった。

 同じゼミに通うサイ・アーガイルが、入室して来た彼らを迎え入れる。

 キラの後ろには、同じ講義を取っていたトール、そしてミリアリアの姿があり、そして最後に、

 

「ああ、ステラも来てたんだ」

「うん。家でじっとしてるの、退屈だったから」

 

 ステラの姿があった。

 退屈、というのは決して家にいるヤマト夫妻の性格について言明しているのではなく、彼女は仕事や任務が与えられなければ、自分のしたいことが見つけられない性なので、家でぼんやりとしていると、いつまでもぼんやりとしてしまうのだ。

 それを見かねたカリダの意向か、ステラは最近、よくキラについて回っている。

 サイの傍らで、座りながらプログラミング作業をしている同級生カズイ・バスカークは、このラボに部外者(ステラ)が入って来ることに不満を覚えたようで、一度ちらりとステラに目を遣るが、すぐに手元の端末に視線を戻した。

 その時、サイがキラへ、一枚のメディアを突きつけるように差し出した。

 

「はいこれ。追加の品だってさ。見せればわかるって言ってた」

「うぇぇ、また?」

 

 差し出されたメディアは、教授がキラに解析を任せたい品物だった。

 キラはこのラボの学生の中ではダントツに情報処理が早く、教授はそれに目を光らせ、ことあるごとに、自分の研究に付随するプログラムの解析をキラに押し付けている節がある。

 それを見たトールが唸った。

 

「教授も人が悪いな~、だってキラ、こないだも別のディスク渡されてただろ? さらに追加注文とか、もはや好いように使われてるな」

「でもまあ、仕方ないな。やっておくよ」

「ん、今回は随分と物分りがいいじゃんか」

「こないだ手渡されたディスクの解析は終わってるからね。また新しい注文が増えた……って考えれば、カッカするほどのことじゃないよ。割といつも通りかな」

「はあ? あのディスク、もう解析済んだの? キラって、日に日に情報処理が早くなっていくな……」

 

 言うと、キラが言った。

 

「ああ、違うんだ。ステラに少しだけ、手伝ってもらったんだよ」

 

 ひとりでやってたら、とてもじゃないけど追い付かないよ。

 その言葉が放たれると、場の空気が固まった。

 もっとも大きな反応を示したのは、カズイであったようだが。

 

「へ、へえ……ステラって、そういうの得意だったんだ」

 

 ミリアリアが唖然としながら、ぼーっとしているステラに訊ねた。

 尋ねられたステラは、またぽーっとしながら答えた。

 小動物みたいな女の子だな、とミリアリアは一種の憧れのような感情を抱いた。

 

「ううん、別に得意じゃない。でも、なんか、キラが作業してるところを見てたら、できた」

 

 事実であった。

 キラが宿題のようにして、自宅でノートパソコンに向かっていると、たまたま入って来たステラがそれを覗き、翻訳の箇所で、キラが言葉を選ぶのに悩んでいた所に、意見を呟いてくれたのだ。

 訝しんだキラが「これが読めるの?」と尋ねると、ただ「読めた」と他人事のような返答をした。

 ──こういう所は、優秀だった(アスラン)譲りなのかな。

 そんなことを考え、苦笑するキラであった。

 すると、すっかり気分を上げたようにトールが発言した。

 

「なんだよなんだよ、すげー優秀な子だったんだな、ステラって。あー、今何歳だっけ? 教授が聞いたら絶対喜びそうだよなぁ?」

「将来はこのラボに助手として欲しい! とか言い出しそうだよね」 とミリアリア。

「どうせキラみたいに、、研究の残飯処理を手伝わされるんだよ……」 とカズイ。

 

 ステラはアスランのふたつ年下の妹なので、現時点では十三歳だ。

 

「……あれ? お客さん?」

 

 ところで、トールが壁にもたれかかっている見慣れない姿の少年を見つけた。

 硬質な金髪をし、帽子を深めにかぶっている……おそらくは少年だ。

 サイが答える。

 

「教授のお客さん。ここで待ってろ、って言われたみたいだ」

「お客さん? へえ……」

 

 見た感じとても幼い……あんな少年が、サイバネティック研究の第一人者である教授に何の用事があるのだろう?

 キラは少し奇異の念を抱いたが、とりわけ首を突っ込む用事もないので、すぐに自分の作業に取り掛かろうとした。

 

 その時、大きな地震が起こった。

 

 部屋が揺れ、一同が姿勢を崩す。

 

「──隕石!?」

「いったい、何が!?」

 

 室内は停電を起こし、一同は、パニックに陥った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────クルーゼ隊長の報告通り……地球軍の新型機動兵器は、あれ(・・)だな」

 

 軍のトップエースであることを示す赤色のパイロットスーツを着用した少年、イザーク・ジュールが言った。

 ザフトの、潜入部隊────。

 中立のヘリオポリスコロニー内に、彼らは軍装を着たままやって来ているのだ。これ以外には考えられない。

 傍らのディアッカ・エルスマン、ニコル・アマルフィ、ラスティ・マッケンジー他数名は、イザークと同じように赤のパイロットスーツを着、スコープでモルゲンレーテの工場付近の様子を覗いていた。

 

 その中で、緑服のミゲル・アイマンが懐疑したように言った。

 

「報告では新型は〝6機〟あるはず……。だが、あそこには3機しかないようだな」

「あれは搬送中の機体だろう。残りの機体はすべて、まだ、工場の中にある」

 

 黒い髪を覗かせた、端正な顔立ちの少年が、ミゲルに応えた。

 

「オーケー、なら、イザーク、ディアッカ、ニコルはあの機体を奪取しろ。工場内へは、オレとコイツと──ハイネ(・・・)──それとラスティが向かう」

「ふん、せいぜいしくじるなよ」

 

 イザークの言葉は、ミゲルに向けられたものではなく、黒い髪の少年に向けて個人的に放ったものだ。イザークはことあるごとにその黒い髪の少年をライバル視して、突っかかって来る傾向があるのだ。

 イザーク、ディアッカ、ニコルの三人が、山岳の中から降下し始め、新型モビルスーツの場所へと向かった。彼らの目的は〝ヘリオポリス〟内で極秘に開発された、地球軍新型機動兵器の『奪取』──

 ──あるいは『破壊』だ。

 ミゲルの隣にいた、赤い服をきたハイネ・ヴェステンフルスが、残った工場側の班員に告げる。

 

「よっしゃ、息を合わせてバッチリ行こうぜ、なあ?」

「張り切りすぎて、味方を撃つなよ?」

 

 返したのはラスティ・マッケンジー。

 ラスティはそういって、少年に告げた。

 

 

「行こうぜ、アスラン────」

「────ああ……」

 

 

 赤いパイロットスーツを来た、黒い髪の少年。

 名をアスラン・ザラ──

 精鋭と名高いクルーゼ隊の中でも、飛び切り優秀な才覚を持つ、ザフト軍のエースとなった少年だ。

 

 

 

 

 

 

 

「────襲撃!? どうして!」

 

 一般市民からその言葉を受けて、ラボにいた一同は、その言葉を疑った。

 

「さあ、わからんよ! いきなりザフトの連中が、ここに攻撃を仕掛けて来たんだ!」

 

 ここは中立国──それは、地球軍にもザフト軍にも組みさない──〝オーブ〟が所有するヘリオポリスの内部だ。

 そこへ、ザフトのモビルスーツが突如、襲撃を仕掛けて来た、というのだ。

 避難している、一般人の男性が言った。

 

「考えるのは後でいい! 君たちも早く、近くのシェルターに避難するんだ!」

 

 言われ、トールたちはすぐさま貴重品を身にひそめ、避難の準備を開始する。

 女性であるミリアリアは、年上であることもあって、その場所にぼーっとして立っているステラの腕を掴んだ。

 

「ステラ、早く逃げよう! ここは危ないよ!」

「……ざふ、と………?」

「え?」

 

 ザフト──プラントの軍?

 敵──ステラたちの、敵だった。

 その時、ミリアリアが声をあげた。

 

「え、ちょっとキラ! どこ行くの!?」

 

 その時、シェルターへと避難しようとするサイやトールとは反対側の方向に、キラが駆け出していた。

 ミリアリアはそれを止めたのだ。

 

「なんか、さっきのお客さんがこっちに! 大丈夫、すぐに連れ戻して、僕もシェルターに避難するから!」

 

 キラが言うには、先程の「教授のお客さん」がこの震動と共に血相を変えて、シェルターではない方向に駆け出してしまったのだという。

 キラはそれを、連れ戻そうと行動しているのだ。

 

「キラ待って! すぐに避難しないと────〝死〟んじゃうよ!!」

「え……っ!!?」

 

 ミリアリアがその言葉を放った時。キラの姿はすでになかった。

 しかし、ステラが、その言葉に大きく反応する。

 ミリアリアはそれに気付かなかったが、話を聞かず行ってしまったキラに怒っているようだった。

 

「もう! ……ステラ、私たちも!」

 

 避難しよう────

 ミリアリアがそう、声をかけようとした時───

 

 ステラが両手で、自分の顔を覆っていた。

 

 震えている。

 大きく。強かに。

 ミリアリアが掴んた腕を離れ、その場所に崩れるように座り込む。

 

「え……? ステ、ラ……?」

「死んじゃう……? ここも……みん、な……」

「す、ステラ!」

「キラも、死ぬ? ……させない……!」

 

 言下、ステラがその場所から駆け出した。

 あっ、とミリアリアが声を上げるも、ミリアリアの想像以上にステラが早く疾走していたので、その驚きによって声も発せず、ステラはキラの後を追うように駆けて行ってしまった。

 

「まもる……!」

 

 駆け出したステラは、しばらく進んだ所で、キラと────さきほどの客人の少年を発見した。

 どうやら、キャットウォークの上から〝何か〟を見ているようだ。

 キラはその場に立ち尽くし、少年は膝を折り、キャットウォークの手すりを強く握りしめている。

 ふたりに追い付いたステラは、咄嗟にキラの名を呼んだ。

 

「キラ!」

「え!? ス、ステラ!?」

 

 キラはステラがこの場所にいるとは思わなかったようで、その丸い眸をさらに大きく丸くした。

 ──てっきり、ミリィ達と避難したと思ってたのに!

 危ないじゃないか、とキラが声をかけようとした時、傍らに崩れていた少年が声を上げた。

 

 

「────お父様の……うらぎりものッ………!!」 

 

 

 少年の声は甲高く、高い天井に大きく響き、その中にいた者達の注目を一気に引いた。

 その時、きら、と輝く物がこちらへ向けられるのに気付いて、キラはすぐさま少年を抱えて後退。ステラもまた、咄嗟にそれに反応して見せ、放たれた〝銃撃〟を回避した。

 ──戦ってる? どうして?

 数分前まで平和だったこの場所で、どうして戦いが?

 ステラ自身も、少年だと思っていたその金髪の人物は、少女であることに気付いた。同じ金髪をしているのが、彼女の髪は、また随分と自分と違って硬質そうだ。

 ステラはふと、キャットウォークから下を覗いた。

 

「…………ガン、ダム…………?」

 

 ステラが無意識にその言葉を完成させ、え……、とキラが声を漏らした。

 ステラの視線の先に在ったものは────異教の神を模したような巨大な〝人型〟──キラにとっては、見たこともないような兵器。

 視線を向ければ今にも動き出しそうな、角を生やした人型機動兵器。

 通称:モビルスーツ──機体の名称は、間違いない。

 

 ────ガンダムだ。

 

 このガンダムを巡って、戦いが起こっている、というのか?

 

「っ…………!」

 

 アーモリーワン事変〝セカンドシリーズ〟MS強奪事件──

 この瞬間、ステラの脳裏に、あの時の記憶が蘇った。ステラはその時、ザフト兵のスパイの手引きによってザフト管轄のアーモリーワン格納庫へと潜入し、そこでザフトの新型MS〝ガイア〟を奪取する任務に携わったことがある。

 たくさん殺した。

 たくさん壊した。

 そう────ガンダムを、得るために。

 今度はザフトが────それをやっているのか?

 だとしたら──たくさん死ぬ。たくさん壊される。

 この場所が!

 

「させない…………! まもる……!!」

 

 その言葉を放つのと、ステラがキャットウォークから身を躍らせたのはほぼ同時のことだった。

 キラは悄然としてステラの行く末を目で追ったが、ステラはその柔らかな外見に見合わない敏捷さで、すぐに新型MS〝ストライク〟という名を後で知ることになる機体の陰に消えると、そのままキラからは見えなくなってしまった。

 格納庫では,作業服を来たナチュラルたちが、多くのコーディネーターであるザフト兵と銃撃戦を行っている。

 ナチュラルとコーディネーターでは、運動能力、視力、判断力のすべてにおいて後者が前者を凌駕している。まともにやりあったのでは、ナチュラルに勝ち目はない。

 ステラは銃撃を受け、既に動かなくなった作業服の男から銃を取り上げ、周りに見えた緑色のパイロットスーツの兵士を撃った。

 ──緑服は大したことはない。

 ここまでの知識であれば、ステラは軍人として覚えている節があった。

 

 ザフトは──〝敵〟────!!

 

 それから少しの時間が経ち、ステラは緑服のザフト兵を数人、撃ち取っていた。

 その時、赤い服のザフト兵をひとり、発見した。

 

「おいおいどーなってんだこりゃ、ナチュラルを相手に、潜入部隊がこのザマかよ……!?」

 

 ステラが見つけた赤いパイロットスーツの中身は、ハイネ・ヴェステンフルスであった。

 潜入部隊の緑服の多くは、ハイネと同じくクルーゼ隊の出身ではないものの、これほどまでに大がかりな作戦だ──緑服の中でも選抜された、優秀な能力を持った兵士達が多いはずだった。

 それが揃いも揃って、何者かによって撃破されてしまっている。──相当腕のキレる用心棒が、警護にでも当たってんのか……?

 

 ──いや、どちらにしろ、ザフトレッドのオレがこんな所でやられるわけには……!

 

 ハイネがそう思った時、彼の視界に、ひらりと踊る何かが映った。ハイネの反応は早かった。

 すぐさま動きのあったその場所に発砲したが、その影はMSの陰に隠れ、ハイネの放った銃弾をやり過ごした。

 

「おまえかぁ!」

 

 ──相手は早い! オレの銃撃をよけるとは!

 ハイネはすぐさま距離を詰め、隠れた影へと迫った。

 銃を構え、一気にその場所へ躍りかかる。

 

「逃がすかよ、そこまでだ!」

 

 人影の隠れた場所へ銃を突きつけ、勝ちを確信するハイネ。

 しかし、銃口を向けたその先に────既に人影はなかった。

 

「な!?」

 

 ハイネが一驚すると、そのすぐ直上から跳躍する人影が見えた。

 ──まさか、コレを登ったのか!?

 MSの装甲は厚い。

 ──敵はまさか、ここに隠れた後、この装甲を登った? 

 周囲には梯子になるようなものはない。コーディネーターですら出来るかどうかわからない荒業だぞ!?

 直上から降って来る人影に、ハイネはすぐさま上方を向いて、銃を構えた。

 ──こんのぉ!

 声を荒げようとしたハイネの視界に、映ったものは── 

 

 

「────!?」

 

 

 白──。

 白い───。

 

「がふっ!?」

 

 急速に落下して来た敵影に、ハイネは対応しきれず、顔面を踏み付けられて悲鳴を上げた。

 驚くべきことに、ハイネの追っていた敵は、女……いや、女の子だった。

 それも、作業服を着ている工場の従業員などではなく、ひらひらのワンピースを着て、肩紐が片方、はだけているような柔らかい衣服を着ている。

 なにより、その娘に踏み付けられた時…………白かった(・・・・)…………ことは鮮明に憶えている。

 上空を見て銃を構えた時、眼前に迫った〝それ〟に動揺しなかったといえば、それはきっと嘘になる。

 

 ──オレとしたことがぁ……!

 

 そんなものに気を取られて、判断を一瞬だけ鈍らせるとは!

 ハイネは顔面を蹴られたことが因果して、その場所に崩れてしまった。

 

「とった、赤いの」

 

 ステラは敵兵の頭を踏みつけたのち跳躍し、MSの装甲の上に、華麗にも着地を決めた。  

 見れば、そこには見たこともないガンダムが横たわっている。

 ──今の赤服の兵士は、このガンダムを奪おうとしたのか……?

 ステラの眼の前に横たわるガンダムは、他のガンダムとは少し異なり、大きな装甲……いや、盾だろうか? それを持っているような機体だった。

 

 その時、ザフト兵の声が響いた。

 

「ラスティ! ────くそォ!」

 

 赤いパイロットスーツを来たザフト兵だ。

 ──また来た。

 そのザフト兵は、仲間の命を奪った男に銃を向け、容赦なくこれを射殺した。

 鮮やかな手際だ。さっき、急に反応が鈍った〝赤〟とは違う……!

 女性兵士が、撃たれた男の名を叫んだ。

 赤いザフト兵はそれに気づき、振り向きざまに彼女を銃撃した。

 

「あうっ…………!」

 

 正確無比な銃弾は彼女の肩に命中し、女性が短い悲鳴を上げた。

 ステラは即座に、その女性へと、器用にもMSを難なく飛び越えるようにして、駆け寄っていた。

 ──守る。

 そのことだけを、一心に考えていた。

 その時、さきほど別れたキラが、女性の元へ駆け寄っていた。

 金髪の少女は同伴していない。おそらく、彼女だけでもシェルターに預けて来たのだろう。

 

「キラ!」

 

 ステラは咄嗟に、女性をいたわるように抱えるキラの名を呼んだ。

 一方で、ザフト兵は弾詰まりを起こしたのか、手にしていた銃を捨て、ナイフを抜き放って女性、そしてキラへと迫って来ている!

 これを確認したキラは、咄嗟に……

 

「ステラ! 来るな!!」

 

 と、声高に叫んでいた。

 容赦なく、キラ達に死の匂いを運んでいたザフト兵の足が止まったのは────その時だった。

 

「────ステ、ラ…………?」

 

 ザフト兵が、まるで硬直したように動きを止め、バイザー越しに、呼びかけられた少女の方へ視線を移した。

 優しく円らな双眸。蜂蜜に金粉を振りまいたように輝く、その柔らかい金髪に────ザフト兵は、返り血を付けたヘルメットのバイザー越しに、愕然とした表情を浮かべた。

 

「………アスラン?」

 

 その名を呼んでいたのは、キラだった。

 キラの口から、無意識にその名前が完成していた。ザフト兵の翡翠色の瞳はステラを映し、次にキラを映し、そしてまたステラへと戻った。

 

「キラ……?」

「アスラン……!」

「あすらん……?」

 

 三人の少年少女の、なんとも確信できずにいる、曖昧な声が交錯する。

 その時、キラが抱える女性が────ザフト兵〝アスラン・ザラ〟に向けて──虚を衝くように銃撃を放った。アスランは間一髪のところでこれに反応し、後方へ大きく飛び退く。

 が、銃弾はアスランの肩を掠めるように空間をなぎ、小さく毒づいたアスランは、すぐさま女性士官からの距離を取った。

 

「アスラン」

 

 ステラはこの瞬間に来て、ようやく現実を把握した。

 ──今の、アスラン?

 後退して遠ざかっていく、あの後姿が……?

 

「うわっ」

 

 その時、キラの情けない声が響いた。

 ステラはハッとしてキラのいた場所を振り返ったが、そこにはキラの姿は既になく、代わりに、閉鎖したコックピットが映っていた。

 女性士官が──〝ガンダム〟のコックピットの中にキラを連れ込んだのだ。

 

「シートの後ろに!」

「ま、待ってください! 外には、まだ友達の妹が!」 

「え!?」

 

 どうやら、女性〝マリュー・ラミアス〟は──ステラの存在に気付かぬまま、キラをコックピットに引きずり込んでしまったようだ。

 ステラはふたりから離れた地点にいたため、それも無理のないことであったが。

 遠方から──〝ジン〟が一機、迫って来ている。

 これを確認したマリューは、やむを得ず、音声を外へ拡張させた。

 

「早く逃げなさい! どこでもいい! シェルターへ!」

「!」

 

 それは、ステラに対する呼びかけであった。

 計器類に光が入り、モビルスーツ〝ストライク〟から駆動音が鳴り始める。地響きにも似た震動は、ステラが上に立っている〝ガンダム〟の装甲さえ強かに揺らしている。

 GAT-X105〝ストライク〟が立ち上がり────ぎこちない、覚束ない足取りで、ジンへと交戦しに向かってしまった。

 工場内は〝ストライク〟が抜けた(・・・)空間に一気に酸素が流れ込み、火災が激しく、爆炎があたりを包み込み始めている。

 激しい熱波に煽られるように、ステラは金色の髪を揺らし、ゆっくりと後方の〝あるモノ〟を振り返った。

 

 残された〝ガンダム〟────

 

 ヘリオポリスで開発された、最後の一機だろう。

 先程、ステラが顔面を蹴倒した赤服が奪取しようとしていた機体。

 その赤い眸をステラが見つめると────どこかその機体は寂しそうで────自分を呼んでいるかのように見えた。

 ──置いてきぼり……?

 ──ステラを、呼んでる………。

 直感だった。

 ステラはすぐさま不用心に開かれたその〝ガンダム〟に乗り込んで──起動スイッチを押した。

 つい先日まで、戦ってたはずなのに──ステラにはこの瞬間が、ひどく懐かしいものに思えた。

 

 ──また、ガンダムに乗るんだ。

 

 でも、それは壊すためじゃない。

 それは、きっと…………

 

《────ハロ! ハロ!》

 

 その時、まだ封鎖する前のコックピットから、ステラのハロが飛び込んで来た。

 そういえば、ラボには持って来ていた。

 ハロは狭いコックピット内で跳ねまわりながら、ステラに問う。

 

《また、戦うのカ? ステラ、これでいいの、カ?》

 

 ハロの問いかけに、ステラはうっすらと微笑みを返した。

 戦う────。

 それはきっと。

 

「守るために、戦う──」

 

 フェイズシフト装甲が展開し、ステラの乗るガンダムが、黄金色にカラーリングされていく。

 ─────。

 ──────。

 「G」eneral

 「U」nilateral

 「N」eure-Link

 「D]ispersive

 「A」utonomic

 「M」aneuver

 ────。

 ──────。

 

 爆炎の中、最後の〝G〟が立ち上がる。

 

《ハロ! ハロ!》

 

 そして、戦場へ──

 

 

 

 

 

「ステラ・ルーシェ、〝ディフェンド〟────出る」

 

 

 

 

 

 




ハイネがクルーゼ隊で、アスラン達の同期──という無茶設定に……。
開発されたガンダムもまた、
 デュエル
 バスター
 ブリッツ
 イージス
 ストライク
だけでなく、一機追加………!?
ハイネは増えた一機のための数合わせなのか(おい)

ハイネとかは特に書いていて面白いので、今後ももっと活躍させたいですね。
設定が無茶だ、という意見も勿論受け付けていますが、表現をこうしたらいい、とか、そのようなアドバイスも頂けると嬉しいです。



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