~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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『捨てた者、拾った者』

 

 

 〝オペレーション・スピッドブレイク〟──ザフトが発動した〝JOSH-A〟へ大規模な奇襲戦は、失敗に終わった。

 近年における大気圏内の戦闘は、そのほとんどがザフトの勝利に終わっており、モビル・スーツを運用するザフト軍が苦戦した、あるいは数多の損失を招いた作戦といえば、新型要塞の配備により壊滅的な被害を受けた第二次ビクトリア攻防戦くらいのものであった。

 結果だけを見れば、たしかにザフトの最終制圧目標であるアラスカ基地は陥落した。そこに駐屯する地球軍も根こそぎ壊滅している。ただしそれは、数多のザフト軍モビル・スーツ部隊──それに乗る大勢の義勇兵達──を道連れにして生み出された結果に過ぎないのだ。

 

「なんなんだ、これは……!」

 

 被弾を受け、帰投していたイザークは、かろうじてその命を拾っていた。

 彼は、アラスカの大地を映した映像? ……いや、正確には今までアラスカの大地を映していたモニターを見上げながら、愕然と声を漏らした。

 青白い電磁波の裂光が王冠を象るように湾岸先の大地に浮かび上がり、巨大な波紋のように地を伝い拡がってゆく。衝撃に呑み込まれた人は建物は、モビルスーツは等しくすべて粉砕し、砂塵のように儚く散ってゆく。

 イザークの頭に、戦場で叫びを挙げた少年の声が、鮮烈に蘇った。

 

 ──アラスカ基地は、間もなく〝サイクロプス〟を起動させ……

 

 そう。彼の叫んでいたことは、真実だったのだ。

 先の呼応どおり、破壊の名を冠する〝サイクロプス〟は、基地最奥部に実在した。

 その恐ろしさを、この大地に証明して見せた。

 数多の命を一斉に呑み込み、焼き尽くしたのである。

 

 

 

 

 

 

 数時間後────

 ザフト軍には、本国からすぐに撤退命令が下され、至急アラスカからの離脱が命じられた。

 カーペンタリアへ引き上げる艦内で、イザークは深慮に耽っていた。

 

「生き残ったのは、たったのこれだけか……」

 

 窓から平航する潜水母艦を眺め、声を漏らす。

 出撃前は、空と海を覆うほど多くの戦艦と共に進軍していたのに対し、その数も今となっては指を折って数えるほどしか残されていない。寂しい帰り道である。

 

(ディアッカは? 他の奴等は、どうなった……!?)

 

 気が気でない心境でイザークが廊下を歩いていると、他の隊員らがその場に往生して物議を醸していた。

 

「まさか〝サイクロプス〟を使うとはな……」

「月基地で使用されたって噂、本当だったんだな。グリマルディの悪夢だぜ……」

「そんなことはどうでもいい!」

「そうだ! ザフトの戦力の大半は、さっきのアレに呑み込まれちまったんだぜ? オレたちはこれからどうなるんだ……!?」

 

 ──どうなる?

 イザークはその会話を傍受し、ひとりでに思慮した。

 実際、今回の被害により、ザフトは地球に降下させた戦力の大半を喪失した。おそらく地上に戦線を張ることすら難しくなっただろう。反対に、今回の作戦を期に勢いづいた地球軍は、地球圏を支配した後、宇宙へと上がって来る可能性も考慮される。

 であるなら、自分達はひょっとすると宇宙へ後退する選択を余儀なくされるかもしれない──?  戦況は結果的に、以前より遥かに泥沼の状態に陥ったのだ。

 

「イザーク!」

 

 そのとき自失として歩を進めるイザークを、遠方から駆け寄って来る者が呼び止めた。

 ディアッカの声だった。

 これを認め、イザークはぱっと目を見開く。

 

「ディアッカ、生きていたか!」

「ああ、おまえもよく生き残ってたな……。それより来てくれよ! なんかヘンなんだ」

「へん……?」

 

 性急な様子のディアッカに案内されるまま、イザークは格納庫へと連れて行かれた。そうして目的地までやって来ると、格納庫では、目の前に見慣れない鉄塊が転がっていた。

 剥き出しの鉄灰色に彩られ、ところどころが乱雑に千切れている「それ」──得体の知れない巨大な物体は、見るからに一応は金属の塊のようだ。

 イザークのこんがらがった頭は、その正体を瞬時に把握できず、思わず声を上げた。

 

「なんだ、これは。まるでガラクタだ……」

 

 次にディアッカがまじまじと「〝ディフェンド〟だよ」と、目の前の物体の正体を明かした。イザークは「これがか……!?」と唖然として返す。よく見れば、その巨大な鉄塊は唯一、右腕だけを残していた。その腕は、何かを天に訴えるように伸びている。しかし頭部も両脚も、とどめには左腕さえ切り落とされている。

 四肢すら持たず、物言わぬ鉄塊となったこれを、人型機動兵器(モビルスーツ)と呼称するのはナンセンスである。

 

「ステラも、あの蒼い翼の最新鋭機にやられたのか……?」

「そのステラが、一向にコクピッドから出て来ねえんだよ」

「なに?」

 

 イザークが確認するようにディアッカを見る。

 彼は曖昧に肩を竦めるだけだった。

 

「なに呼びかけても、反応がなくってな。──ったくもう、何がどうなってんだか」

 

 そのとき天井に構えられたハッチが、急にオープンになった。

 急激に吹き込んで来る暴風に、イザークとディアッカは腕を掲げ、数歩として後退する。吹き荒ぶ風に固く閉ざした目を、ややおいて開けたとき、彼らの目前にホワイトカラーの〝ディン〟と、真紅に彩られた見慣れぬモビルスーツが着艦していた。事態を呑み込めていないふたりが目を凝らす──と、すぐに二機のコクピッドが開き、そこから、ラウとアスランがラダーに捕まるのを認めた。イザークは「隊長、アスラン!?」と驚いたように詰め寄った。アスランも同様に「良かった、きみも無事だったのか」とイザークに話した。

 再会を喜ぶ暇もなく、ディアッカはラウへと詰め寄る。

 

「隊長、こりゃあどういうことですか!」

「してやられたよ、ナチュラル共に。ヤツらはあらかじめ用意していた〝サイクロプス〟を起動させ、既に中枢部へと攻め込んでいたザフト部隊を道連れにしたのさ」

 

 それは、妙に白々しい声だった。

 傍らのアスランへ、イザークは食って掛かるようににじり寄る。

 

「アスラン、いったい何がどうなっているんだ!」

 

 イザークには、いまだに理解できていないことが多くあった。

 

「アラスカに舞い降りた蒼翼のモビルスーツ、あれはいったい……」

「あれはZGMF-X10A〝フリーダム──。父上が……いや、ザラ議長閣下が極秘裏に開発なされた、ザフトの最新鋭モビルスーツのひとつだ」

 

 その言葉に、イザークとディアッカは声を詰める。

 

「どういう経緯があったのかは分からないが──どうやら〝それ〟が、何者かによって地球軍の手に渡ったらしい。あの機体は今……〝アークエンジェル〟と共にいる」

「ザフトの最新鋭機……!? それが、強奪されたというのか……!」

「おれが受領したのも、その最新鋭モビルスーツのうちの一機だ。ZGMF-X09A〝ジャスティス〟──こちらは〝フリーダム〟の兄弟機に当たる」

 

 云いながら、ふとアスランは思った。

 

(──いや、そんなことは今はどうでもいいのかもしれないな……)

 

 一連の会話を打ち切るように、彼はなかば強引に話を急いた。

 

「ともかく。準備を整え次第、俺は〝フリーダム〟を追わせてもらう」

 

 ディアッカは首を傾げた。

 アスランが何故、そうも必死に〝フリーダム〟に固執するのか分からなかったからだ。当の彼はディアッカの疑念など受け取る様子もなく、ひとりでに視線を落とし、思索する。

 アスランがこうして〝フリーダム〟を目の仇にするのは、立場上、親友からライバルへと生まれ変わったキラと、「決着をつけたい」という個人的な執着も含まれているだろう。しかし彼は今、それよりも遥かに重大な問題と直面していた。

 

(〝フリーダム〟にはNジャマーキャンセラーが搭載されている。その技術が地球軍の手に渡るようなことだけは、絶対に阻止しなければならない)

 

 〝Nジャマーキャンセラー〟

 これは、地球にとって極上のひと品である。

 核分裂反応を封印するニュートロンジャマーを無効化する技術。これは地球のエネルギー危機を大きく緩和させ、電波式誘導ミサイルや核ミサイルを解禁させる。大量殺戮が容易に可能な歴史──機動兵器の存在意義の薄まった戦争へと、時代を回帰させることが可能となるからである。

 そう。コーディネイター達の破滅を近づける、極めてゆゆしき事態でもあるのだ。

 

(離脱した〝フリーダム〟の足跡を辿り、Nジャマーキャンセラーのデータが流出した可能性のある施設や人物、そのすべてを闇に葬る──)

 

 核動力で起動する〝ジャスティス〟は、理論上の稼働時間に制限はない。

 厳密に云えば、武装弾数や酸素、生身のパイロットの衛生面の問題において完全なスタンドアローンではないのだが、当面の期間は独立運用ができる性能を持っているのである。

 だからこそ準備を整え次第、すぐにでも〝フリーダム〟を追撃に出るつもりだった。

 あくまでも単独で──同僚達にすら真実を告げぬまま、内密に。そして、その判断は評議会直属のいち特務隊員として、しごく賢明と云わざるを得ない。

 

「──ところで、きみたちは格納庫(こんなところ)で何をしてたんだ?」

 

 アスランが思いついたように声を上げると、イザークが返した。

 

「大破した〝ディフェンド〟から、パイロットが出て来ないんだそうだが?」

「えっ?」

 

 アスランはきょとんとして、傍らに崩れるように擱座(かくざ)した〝ディフェンド〟を見上げた。イザークの云う通り、機体はほとんど原型を留めずに大破しており、人型機動兵器として認識することも難しいような状態にあった。

 ひどい有り様だと、左腕を切り落としたのが自分であることをすっかり棚に上げて、アスランはそんなことを思う。

 これでは修復など、到底先のことになるだろう。

 それも実質、本当に直すのであれば──の話ではあるが。

 ディアッカが背後から言葉を続ける。

 

「アスランが出て来なきゃ、ステラはあの蒼い羽根のモビルスーツに連れ去られるところだったぜ? まるでオマエとアイツで取り合いっこでもしてるみてぇだったな」

 

 茶化すようにディアッカが云ったを、アスランは内心、認めていた。

 実際、取り合っていたのかもしれないな……と小声で漏らすが、それはディアッカに聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 ややおいて、彼らは擱座した〝ディフェンド〟の胴体まで駆け上った。

 外部ロックを淡々と解除し、中からは一向に開く様子のないコクピッドを、なかば強引に開放させた。

 それを行ったのはイザークだった。

 

「おい。だいじょうぶか、何があったんだ」

 

 イザークが顔を覗かせる──と、コクピッドの中のステラは、強かに震えていた。

 両腕で身体を覆い、縮こまるように肩を抱いていた。蒸したヘルメットを乱雑に殴り捨てており、頭は生身の状態だった。目尻に儚い涙を溜め、円らな双眸は真っ赤に充血していた。イザークが掛けた声も、まるで届いていないようだ。

 彼が続けて声を掛けようとすると、その背後からアスランがその肩を止め、「おれがやるよ」とイザークを制した。イザークはあっさりと譲った。

 アスランはそのままコクピッドへと潜り込み、少女へと手を伸ばした。

 

「あす、らん……?」

「ああ、そうだ。もう大丈夫だ、安心していい」

 

 とんとん、と背中に伸ばした手で少女を慰めながら、アスランはゆったりと訊ねた。

 

「いったい、何があったんだ……」

「アイツが来た……! アイツが、ステラ……殺しに来た……っ」

 

 どこか飛躍した論を訴えられ、アスランは頭に疑問符を浮かべた。

 彼女の発言の意味が、まったく分からなかったのだ。

 ともあれ、それも今に始まったことではなかったので、これと云って動揺はしなかったし、あえて言及しようとも思わなかった。

 アスランはしごく怪訝そうに問う。

 

「アイツって……〝フリーダム〟?」

「そうっ! アイツ……〝フリーダム〟! ステラ、アイツに殺されそうになって──ッ」

 

 アスランには、彼女の体験を紐解くように把握することは出来ない。

 論理にすらなっていない主張だが、ステラの頭はこのとき、ひどく錯乱していた。

 

 ──殺されそうになった……? それとも、実際に殺された……?

 

 どちらが正しいのかが、ステラには分からない。

 今の彼女は、みずからの置かれた立場や境遇──味わって来た末苦い経験を、言葉で伝達するだけの舌を持っていなかった。

 理性は失われ、恐怖から立ち直ることに必死だった。

 ステラの精神状態はひどく混然としていたが、アスランはそれでも、ゆっくりと肩を抱いてくれた。

 

あいつ(・・・)が、怖いのか?」

 

 アスランは、ステラに言い聞かせるよう告げる。

 彼女に思い知らせるように、その先を続けた。

 

あいつ(・・・)は、嫌いか?」

「嫌い……! あいつ……あいつはっ、ステラを…………殺すから……ッ」

 

 くっと口元に笑みを浮かべたアスランは、恐怖感覚に付けこむようにして彼女をそそのかした。

 

「そうだな……あいつ(・・・)はオマエを、傷つけにやって来たんだ」

 

 今まで嘘ばかり吐いて来たアスランの発言は、しかし、このときだけは、不思議と真実味を帯びていた。

 いや、実際────真実なのだ。

 アスランの云う「あいつ」というのが、誰のことなのかステラには分からなかったが、結局は「〝フリーダム〟のパイロット」を指示する代名詞であろう。だからこそ、ステラはアスランの発言に納得してしまう。

 

 ──やっぱり〝フリーダム〟は、ステラを傷つけるために現れたんだ……!

 

 以前のように、アスランの言葉を疑うことはない。かつての経験や、味わった恐怖が────彼女の心を彼の論理に落ち着かせてしまった。

 きっと、今度こそ。

 アスランの云っていることは正しい。あの〝フリーダム〟は、間違いなくステラを殺した「死の天使」なのだから……!

 

「〝フリーダム〟は、おれたちの敵だ。絶対に倒さなきゃならない敵なんだ」

 

 決して、嘘は云っていない。

 地球軍に渡った〝フリーダム〟は、明らかに〝プラント〟に不利益をもたらす彼らの敵なのだから。

 

「アイツを野放しにすれば、また多くの犠牲が生まれるかもしれない。──核の力が地球軍の手に渡り、多くの人間が『死』ぬことになるかもしれない」

 

 それこそ、血のバレンタインの悲劇が再来しても、何不思議はない。

 彼女達の運命を狂わせたあの出来事が再発しても、何もおかしくはないのだ。

 ステラはそれを聞き、アスランに訊ねた。

 

「〝フリーダム〟は……わるもの……?」

 

 返答として返って来たのは、力強い言葉。

 

「そうさ──〝アイツ〟は敵だ……! 俺達が撃たなきゃいけない敵なんだ……!」

 

 アスランは、揺らがなかった。

 その言葉に、ステラはゆっくりと頷いてしまう。

 そう──そうだよね。

 いつだって〝フリーダム〟は、ステラの敵だったよね……!

 

「そう、だね…………アスラン……」

 

 アスランは、妹の得心を誘った。

 ──〝フリーダム〟は、敵……。

 倒すべき、最悪の敵なのだ。 

 

 

 

 

 

 大破した〝ディフェンド〟を降り、アスランはすぐに〝ジャスティス〟に乗り込み、強奪された〝フリーダム〟の追討任務に就こうとした。

 そんなとき、格納庫にラウ・ル・クルーゼが戻って来る。彼は格納庫に響くほどの声を上げ、今にも出撃しようとしていたアスランを呼び止めた。

 

「待ちたまえ、アスラン」

 

 呼び止められたアスランは、唖然として振り返る。

 クルーゼに制された意味が、分からなかったのだ。

 

「〝フリーダム〟を追うつもりかね?」

「そのつもりです。例の機体、決して野放しにはしていられません」

「そうか……だが残念だ、それは許可できない」

 

 アスランは、露骨な表情を浮かべた。今にでもはあ? と声が漏れそうな面相だ。──この(ひと)は、いったい何を云っているのだろう?

 特務隊所属の立場となったアスランは、今現在、ラウの指示を仰ぐ必要はない。つまり、ラウが何を云おうと、アスランはそれに従う必然がないのである。

 ラウは悪びれた様子もなく、「なに、これは私個人の判断ではないさ」と淡々と先を続けた。

 

「これは君の……いや、君達のお父上からの──正式な通達だ」

 

 それを云われた途端、アスランの表情がぱっと緊張する。

 傍らのステラは、いまだに茫洋としたままである。

 

「アスラン、君はこのままカーペンタリアへと出航し、後に発動されるパナマへの侵攻戦(、、、、、、、、)に参加しろ」

「えっ?」

「『戦線に最新鋭機(ジャスティス)を投入し、地球軍が所有する最後のマスドライバー施設〝ポルタ・パナマ〟を制圧せよ』──とのザラ議長直々の御命令だ」

 

 云われた内容に、アスランは愕然とした。

 ──パナマ侵攻戦の援助……!?

 てっきり、アスランは強奪された〝フリーダム〟の追討任務に就かされるものと思っていた。経緯はどうあれ、核動力を持つ例のモビルスーツは、決して閑却視して良い存在ではないからだ。

 当然、アスランは承服できずに反論する。

 

「まっ、待ってください! わたしがその任に就けば、逃亡した〝フリーダム〟の追討任務には、いったい誰が就くというのです!」

「それは議長閣下の判断の許、また別の人間に依頼するそうだ」

 

 あっさり云われ、アスランは信じられない、といった風な表情になる。

 そんな彼の心情を無視するように、ラウは事務的な言葉を紡いだ。

 

「アラスカ侵攻戦が失敗に終わった今、ザラ議長には、失点を回復するための勝利が必要なのさ。そういう意味でも、パナマ侵攻戦は、今度こそ失敗は許されない」

 

 戦略的意味合いもあるが、それはパトリックによる、自らの地位を守るための作戦でもあった。

 

「だからこそ、きみの父上は、きみをパナマへと派遣なされた。────この意味が、きみになら分かるだろう?」

 

 そう。パトリックは、アスランに期待しているのだ。──最新鋭機〝ジャスティス〟の力を以て、今度こそ、ザフト軍を勝利に導けと……。

 その意図を思い知らされ、アスランはついにラウから食い下がった。

 そう云われ……いや、そこまで云われて──なおも〝フリーダム〟を追うなどと、口が裂けても云えなかったのである。

 

「…………了解、しました」

 

 アスランは掌を握り絞めながら、つぶやいた。

 本心を云えば、今すぐにでも〝フリーダム〟を──キラ・ヤマトを追って行きたかったのだ。かつての親友が、核の力を地球軍に明け渡すような愚挙を、阻止してやらねばならなかった──他ならぬ、自分の手で……!

 待機指示を受けたアスランは、そこでヘルメットを脱いだ。そのままステラを連れ、格納庫から出て行こうとする。

 

「──話はまだ終わっていないよ」

 

 ラウとすれ違った先、そんな言葉を掛けられた。

 アスランは再び唖然として、かつての上官を振り返る。ステラもまた同様に、茫然とラウの方を振り向いた。

 

「ステラ、君にもザラ議長閣下から正式な通達がある」

「えっ……?」

 

 話の中に持ち出され、ステラはきょとんと反応を示す。

 ラウはすかさず、先を続けた。

 

「きみはこの後、すぐに本国へ出向しろ。シャトルはあちらで用意するそうだ」

「本国へ……!?」

 

 その言葉に喰いついたのは、ステラ本人ではなく、傍らのアスランであった。

 

「君のお父上から、君に託したいモノ(、、、、、、)があるそうだ──」

 

 アスランはばっと前に踊り出て、その言葉の真意を疑う。

 

「まさか、隊長──!?」

「ああ、アスラン。先に云った〝フリーダム〟の追討任務だが──きみの他に、適任の人間(、、、、、)が見つかったそうだよ」

「なッ……!」

 

 芝居がかった会話展開に、アスランは胸の奥から熱い感情すら沸き上がるのを感じた。

 ラウは口元に切り裂かれたような笑みを浮かべ、アスランの後方に据える、ステラへと告げた。

 

「きみは、最新鋭機のモビルスーツパイロットとして選ばれた」

「──!」

「工廠にて新たな力を受領された後、例の〝フリーダム〟の追討任務に就いてもらうこととなる」

 

 アスランは、みずからの乗機であるZGMF-X08A〝ジャスティス〟に、兄弟機が存在することを知っていた。

 それはZGMF-X10A〝フリーダム〟の他に、じつは、もう一機が存在しているそうだ。どういうわけか、実際に目の当たりにする機会はなかったが、既にアプリリウスに完成しているらしい。

 ──三機目(、、、)の、最新鋭機……!?

 アスランは驚き、慌てたように背後のステラを振り返る。

 そして、絶句した。

 

「〝フリーダム〟────たおす……!?」

 

 ステラはその場に視線を落とし、考え込むような仕草を見せた。

 託されるのは、新たなる力──

 課せられるのは、〝フリーダム〟の破壊任務──

 そう、まさにラウの云う通りだと、ステラはそのとき確信した。

 ステラが適任(てきにん)──?

 

 ──ステラが、アイツを討つ?

 

 残酷な蒼天使──〝フリーダム〟を?

 忌々しい青い羽根。

 憎たらしい面相。

 眩いほどに残酷な、白亜のモビルスーツ。

 その四肢すべてを切り裂いて、遥かその高みより、蒼翼を引きずり下ろすための任務。

 

 堕天の任務に──ステラが、選ばれた?

 

 そのとき、ステラの胸の奥から、晴れたように曇りが消えてゆく。

 彼女は、パッっと明るく表情を綻ばせた。

 

 ──〝新しい力〟──!

 

 いったい、どのようなモノだろう。

 しかし、それはたしかに〝フリーダム〟に匹敵する性能を持った機体だ。これまでの〝ガイア〟でも〝デストロイ〟でも──旧式の〝ディフェンド〟でも及ばないような!

 

 ──うれしい……!

 

 今度こそ……!

 ステラが──あの〝フリーダム〟を堕とすのだ!

 

「────うんっ!」

 

 彼女は溢れる希望を胸に、その指示を心から喜んだ。

 

 

 

 

 

 話は、数時間前まで遡る。

 アスランとステラのふたりに正式な通達が発令される前、〝プラント〟のアプリリウスではパトリックが声を荒げていた。

 彼の許に〝スピッドブレイク〟失敗の報告が入るのは、〝サイクロプス〟が起動してすぐであった。彼の主導のもと、あくまで極秘裏に進められていた〝スピッドブレイク〟──それはしかし、あらかじめ〝JOSH-A〟に仕掛けられていた〝サイクロプス〟の発動によって失敗した。地球軍の周到な迎撃策により、ザフト軍は投入した戦力の8割──これは地球へと配備された全ザフト軍総力の6割以上に及ぶ──を消失し、作戦は失敗……大失敗に終わったのだ。

 

 ──〝真のオペレーション・スピッドブレイク〟の攻撃目標が、あらかじめ地球軍側に漏洩(リーク)していた……!?

 

 これと時を同じくして、ZGMF-X10A〝フリーダム〟の強奪事件が重なった。ザフトが持つ技術を総結集させて開発した最新鋭機モビルスーツを、何者かが奪取したというのだ。

 強奪の手引きをしたのは、平和の歌姫、ラクス・クライン。工廠のカメラがこれを証拠として捉え、誰もが震撼した。パトリックは、怒りに任せてデスクに掌を叩き付けた。

 

「──漏洩していた〝スピッドブレイク〟の攻撃目標! それと時を同じくして重なった〝フリーダム〟の奪取と、その手引きをしたクライン父娘(ども)の逃亡!」

 

 これを、偶然と捉える愚か者がどこによう! パトリックは、激するままに叫ぶ。

 平和の歌姫・絶対のアイドルだったラクス・クラインが、国の最重要国家機密を何者かに売り渡した。その事実と、今回の〝スピッドブレイク〟の失敗とを結びつけるのは、今のパトリックにとっては容易なことであった。

 

「そうだ、クラインが裏切り者なのだ! 奴等はおろかな地球軍(ナチュラル)共に、我らの希望を……未来を! そして自由を売り払った!」

 

 ラクス・クラインが〝フリーダム〟を敵国に横流しした犯罪者であるのなら、その父であるシーゲル・クラインこそが、地球軍に〝スピッドブレイク〟の攻撃目標を闇流ししていたのではないだろうか? 憤るパトリックの許へ、側近であるレイ・ユウキが駆けて来る。その表情には汗が滲み、やはり彼も、今回の報告に動揺を隠しきれていなかった。

 

「アイリーン・カナーバ以下数名の評議員が、事態の説明を求めて議場に詰めかけて来ています」

「カナーバ……!?」

「おそらくは、緊急集会を招集を要請するものと思われますが……」

「クラインが裏切り者だと云ったはずだ! なのに、この私を追窮しようというのか、ヤツらは!?」

 

 逆境に立たされたパトリックは、理不尽な怒りを露わにする。

 

「ヤツらの方が──いいや、ヤツらの方こそ! クラインに加担し、匿っているのだ……! そうとしか考えられん!」

 

 今回の失敗をいいことに、シーゲルは政敵である自分を蹴落とし、最高評議会議長へと返り咲こうとしているのではないのか? そのために、カナーバ達──クライン派は、ザラを追及するために議場へ詰めかけた? 本当に有能なのは自分ではなく、シーゲル・クラインであると、世論を垂らしこむために?

 パトリックはぎゅっと歯を噛みしめ、激しい剣幕のまま命じた。

 

「司法局を動かせ! カナーバ以下、クラインと親交の深かった議員をすべて拘束しろ!」

 

 それを聞いた士官達が、おびえたように、どっと室内から飛び出してゆく。指示通り、クライン派の議員をすべて拘束しに向かったのである。

 部屋に残されたレイ・ユウキは、パトリックに言葉を発した。

 

「強奪された〝フリーダム〟にはNジャマーキャンセラーが搭載されています。もしも、あの技術が地球軍に渡るようなことになれば!」

「おろかなナチュラルのことだ……あの技術を手放しで歓ぶことだろう。そうなれば、戦局は大きく変わる」

「やはり……!」

 

 ならばなおこと、とレイは思った。

 

「そうなる前に〝フリーダム〟は、完全に破壊しなければなりません……!」

「当然だ! もはや我々には、一刻の猶予もなくなった」

 

 パトリックは、自分の失敗を一方的にクライン父娘に押し付け、また過失を追窮するカナーバらの口さえ封じ込めてしまった。

 それが、苦し紛れの対策であることは、彼自身も疾うに承知していた。

 しかし、

 

(今はなんとしても、議長の席を譲るわけにはいかぬのだ……!)

 

 誰にも、何人にも。

 自分の邪魔はさせない、させるわけには行かなかった。

 

(今の〝プラント〟に必要なのは、わたしだ────パトリック・ザラだ)

 

 他の誰でもない、自分の思想が世界を治めると、彼は信じているからだ。

 平和的な解決ばかりを理想とし、結局は何もできぬまま、二年もの年月を無為に逸したシーゲルとは違うことを。まず証明しなければならない。

 戦争の終結に必要なのは、美麗で空虚な理想論などではない──敵を討つだけの〝力〟なのだ。

 だからこそ、クラインに毒された保守派の人間なぞに、議長の座を脅かされるわけには行かない!

 

「今の〝プラント〟に必要なのはザラだ! クラインではない! 我々(ザラ)こそが〝プラント〟に平和と安寧を創建する、導き手であることを忘れるなッ!」

 

 武断派・強硬派の人間がパトリック・ザラの側に就いている今、反対に、穏健派・保守派の人間がシーゲル・クラインを支持しているのが実状である。

 しかし、保守派の議員すべてがクラインと同様の嫌疑で拘束された今、評議会に残っているのは、パトリックを支持する者達のみとなった。こうして独占体制を敷いたとしても、それは無論、世論までをも抑え込めるものではない。むしろこの措置に疑問を抱き、クラインに同情する者も増えるだろう。

 いくら議会が全面的にザラを持ち上げ、信仰しても、世間にはパトリックの政治的手腕を疑問視する者は多く存在するということ。

 そのような輩に、此度の〝フリーダム〟強奪と〝スピッドブレイク〟失敗の確報は、彼の庭に投げる火薬を与えたようなものだ。

 

「議会を一色に染め上げても、世論はこれを批判するでしょう。これでは諸刃(もろは)の剣ですよ……」

「民衆の記憶など簡単に移ろうものさ。手酷い失態を晒した後は、輝かしい勝利で挽回する他に道はあるまい!」

 

 奇襲戦〝スピッドブレイク〟の失敗──

 最新鋭機〝フリーダム〟の強奪──

 この失態を相殺できるだけの実績を、パトリックは今、成し遂げなければならない。

 

「パナマ基地へと侵攻する! 地上に残された部隊をカーペンタリアへ結集させ、すぐにでも〝ポルタ・パナマ(最後のマスドライバー)〟を制圧させるのだ」

 

 レイは、その指令の意味を悟った。

 本来の〝スピッドブレイク〟の制圧目標であったパナマを落とせば、まだ挽回の余地はある、と──そういう目算なのだろう。

 つまりこれは、アラスカの雪辱戦である。

 

「パナマへは、アスランを向かわせる! 〝ジャスティス〟という旗印がいれば、残された兵達の指揮も上がることだろう」

 

 この発案が後に、ザフト地上部隊を総動員した、パナマ侵攻戦の引き金となった。

 レイはなおも引き下がらず、もう一方の懸念を口にする。

 

「しかし、強奪されたZGMF-X10A(フリーダム)の追討および、破壊任務はどうされるおつもりですか……?」

 

 レイの疑念はもっともである。

 先に奪取されたZGMF-X10A〝フリーダム〟は、生産性を無視した極度のオーバースペックを理想として開発されている。

 端的に云えば────『究極の性能を持ったモビルスーツ』として完成しているのだ。

 核動力という従来の機動兵器とは一線を画した動力炉を搭載していることからも自明だが、大火力を詰め込んだ件のモビルスーツは、敵対勢力に渡った今、並大抵の部隊で撃破できるような相手ではないだろう。

 

「〝フリーダム〟に対抗できる存在は限られています。現時点では、それこそ〝フリーダム〟と同等のスペックを持つ〝ジャスティス〟くらいのモノでしょう」

 

 レイは叫ぶが、パトリックは、みずからの息子であるアスランをその任務に就かせようとはしなかった。

 その理由にも、ある程度の察しはつく。

 

「地上の戦力が疲弊している今、パナマを落とすのは容易なことではありません。だからこそ〝ジャスティス〟の投入は、地上(パナマ)には必要な要素であることは分かります。しかし……」

 

 ──しかし、それでは問題を先送りにするだけではないだろうか?

 強奪された〝フリーダム〟を野放しにすれば、この先、地球軍は核の火を手に入れるかもしれない。そうなってしまっては、何もかも遅いだろう。

 しかし、パトリックは判断を違えてはいなかった。

 

「──違うな、我々にはまだ……残された『切り札』がある」

 

 レイは、その言葉にハッとした。まさか、と思い慄然する。

 パトリックはやむを得ん、とした顔を浮かべる。レイの表情を察すると、その表情の原因に応えるように言い放つ。

 

「そうだ────。凍結されていた、ZGMF-X08A(・・・・)を投入する」

 

 その言葉は──予定にして確定、そして決定だった。

 それから、どれだけの沈黙が場に流れただろう? レイすっかり絶句して、返すだけの言葉を喉奥から必死で探す。

 

「ZGMF-X08(オーエイチ)A────……?」

 

 パトリックが主導の許で開発された、最新鋭モビルスーツ──。

 〝フリーダム〟〝ジャスティス〟と並ぶ、凍結されていた忘却の機動兵器──。

 

 ──まさか……〝アレ(、、)〟を実戦に投入するのか!?

 

 ZGMF-X08A──

 それは、型式番号から判るように核動力を搭載したモビルスーツである。

 兄弟機である〝ジャスティス〟や〝フリーダム〟と同時期に開発される。実際には、上記の二機より早い段階で完成した「長男」のようなモビルスーツだが────完成段階において生じた諸事情(、、、)によって、ロールアウトが先送りされたまま、機体は長らく凍結されることになっていた。

 混み入ったそのような事情から、これまでレイはすっかりその存在を失念していたし、機体自体も、まだ命名が行われていないのである。

 

(たしかに────今現在、議長には名誉挽回のために余念がない。猫の手も借りたいほどに……凍結されていた最新鋭機の力すら、利用したいところだろう)

 

 それを知っているからこそ、彼もパトリックの考えが理解できないわけではない。

 しかし、

 

「例のモビルスーツは、適合者(パイロット)がいないために、これまで凍結されていたのです! ──でなければ、とうに御子息(アスラン)が受領していたはずでしょう。お忘れですか!」

 

 レイがそう訴えるのには、理由があった。

 

 

 

 

 

 

 量産化される〝ジン〟や〝ディン〟等のモビルスーツは──あくまで汎用機として──オールラウンドな性能を有しているため、これを操るパイロットの適性を、逐一調査する必要はない。

 これは、士官学校時代の教官であったレイ・ユウキの同僚──もとい、とあるザフトの将校のひとりが放った言葉である。

 

「量産機程度なら、パイロットを選出するのに、いちいち上官(おれたち)が頭を悩ませる必要はないだろう?」

 

 歩兵には歩兵としての活躍の場が用意されているように、量産機には量産機なりの役割がある。

 それらには目立った活躍こそ必要ない。

 しかしオールラウンドに戦線を維持するという、控えめで且つ、きわめて戦略的重要な役割がある。

 

「だが、エース機を任せるパイロットを選ぶとなると、話は違う。上官(おれたち)は『そいつが特化モビルスーツのパイロットとして、本当に適任なのかどうか』──これを厳正に見抜いた上で、パイロットを選定しなければならない』

 

 量産化に適さないオーバースペック・オーバーコストを実現した特化モビルスーツ──いわゆる「エース・モビルスーツ」は、単一のコンセプトに特化した装備や機構を有し、能力特化が進んでいるケースが多い。

 格闘戦に特化し、白兵戦を得意とする機体。

 砲撃戦に特化し、制圧戦に真価を発揮する機体。

 それらの運用には、特殊化した戦術展開が必要不可欠となる。量産機とは、根本的に運用方法が異なっているのだ。

 

「適性のないパイロットをエース機に搭乗させると、機体が本来持っているはずの性能を、十二分に発揮できない」

 

 それは、運用上の余白となる。

 たとえば、射撃能力がずば抜けて高い者に、格闘戦に特化した機体を宛がっても、要するに宝の持ち腐である。

 以上の通り、それぞれの「エース・モビルスーツ」を任されるパイロットには、一応の「適性判断」が義務づけられている。

 

「エース・モビルスーツを任せられるパイロットを選考するには、そいつの人格的資質、適性や潜在能力、戦い方の癖、これまでの実績といった──かなり個人を深くまで掘り下げた(パーソナルな)部分の判断が必要なんだ」

 

 ところで、前線で活躍するザフト兵たちの能力──射撃や格闘など、あらゆる戦闘分野における才覚と技能は、すでに士官学校(アカデミー)において、一概にリストアップされた状態にある。

 極稀にラウ・ル・クルーゼのような、士官学校に通わず、素性もよく分からぬまま民間からの志願をきっかけに、実績だけで昇格する兵も帰属しているが、大抵のザフト兵は士官学校を通過しているため、彼らは一定の「適性」を見抜かれた状態、成績を付けられた状態で、戦場へと送り出される仕組みとなっている。

 

 無論、ZGMF-Xシリーズ(ファーストステージ)の機体は、当然ながらエース・パイロット専用のモビルスーツとして開発されている。

 当然、それを操ることになるであろうエース・パイロットも、そうしてリストアップされた適性リストを基に、選考されるようになっている。

 

 話に上がったアスラン・ザラは、たしかに他の兵士達と比べても、比べ物にならないほど、ずば抜けて高い戦闘能力を持っていた。

 データベースから「適性(パーソナルデータ)」を照合されたアスランには、これまでの乗機である〝イージス〟の性能を、最も色濃く受け継いだ〝ジャスティス〟が授与されることが決定した。

 格闘戦、および高い機動力を活かした実績を残すアスランだからこそ、砲撃戦に特化した〝フリーダム〟よりも、攪乱戦に向いている〝ジャスティス〟のパイロットの方が、適任だと判断されたのである。

 

 そう。いつだってエースパイロットは、上の者たちに能力を観察されている。

 今ある現実は、評議会から見込まれた結果なのだ。

 

 

 

 

 

 

 アスラン・ザラは、たしかにZGMF-X09A(ジャスティス)を受領している。

 それは勿論、評議会から「彼こそ〝ジャスティス〟の性能を十分に発揮できる」と期待された結果なのだが、それ以前に、アスランはZGMF-X08Aのパイロットとしては「適性がなかった」ことが明らかとなっていた。

 優秀なアスランでさえ、みずからの操り手とすることを拒む、傲慢なモビルスーツだ。

 

(いや、アスランだけじゃない──)

 

 レイはひとり、思索した。

 

(凍結中のZGMF-X08Aは、ザフト兵の誰ひとりとして、いまだパイロット適性のある人間が発見されなかったモビルスーツなんだ……だから、これまで封印されていた!)

 

 表現を変えれば、乗り手を厳選(えら)ぶ、まるで暴れ馬のようなモビルスーツだ。

 

「核動力モビルスーツ開発黎明期における、過剰な機体です」

 

 レイは続けて叫んだ。 

 

「あのモビルスーツを乗りこなせる兵士は、前線には存在しません!」

「たとえパイロットが、適合者でなくとも良い! 完成している機体を遊ばせておくなど──かくも忍びないこともあるまい!」

「パーソナルデータを基に、厳正な適性試験を行い適合者(パイロット)を選出しなければ、乗り手の人間が機体性能に振り回されるだけです! ──〝アレ(、、)〟は殊に、そういうモビルスーツなんです!」

 

 人間が機械を操るのではない──機械が人間を操るようなモビルスーツだと、彼は云う。

 しかしパトリックは、その言葉に聞く耳を持たない。

 

「パイロットには私の娘(ステラ)を使う! これは決定事項なのだ! アレを〝プラント〟に呼び戻せ!」

 

 レイは愕然として、話が一方的に展開されるさまに身じろぎした。

 

「彼女はおそらく、適任ではありません……」

「昏迷する〝プラント〟には今、ザラ(、、)の権威が必要なのだ! その名を受け継いだアレにも働いてもらわねばならん!」

 

 パトリック・ザラの権威が失墜した今、それを回復させるには、ザラによる新たな活躍と勝利が必要だった。

 アスラン・ザラは、最新鋭機であるZFMF-X09A〝ジャスティス〟を受領し、戦士として活躍している。ならば────それに続いて、娘のステラ・ザラも活躍して貰わねばならない。

 そうでなければ、パトリックが困るからだ。

 レイは、察した。

 

(父親の失態のツケ(、、)を、その息子と娘に背負わせるつもりなのか……)

 

 かねてより、パトリックはみずからの家庭事情をプロパガンダとして利用することを厭わなかった。みずからの立場が危うくなった今、アスランとステラ、ふたりに活躍してもらうことで、世論からザラの評価を回復させ、みずからも便乗しようと考えているのだ。

 パトリックはその場に立ち上がり、レイに云い付けた。

 

「アラスカから引き上げた残存部隊は、すべてパナマ基地へ侵攻させろ! パナマ侵攻戦には、アスランを先導させる」

 

 戦士となったアスランと〝ジャスティス〟の力があれば、パナマ基地は簡単に陥落するだろう。

 パトリックは、そう信じて疑わなかった。

 間を入れず、パトリックはさらに続けた。

 

「ステラには〝プラント〟に戻り次第、ZGMF-X08A(モビルスーツ)を委託。強奪された〝フリーダム〟の追討任務に就かせる!」

「……!」

「知らしめねばならん。今の〝プラント〟には、我々(ザラ)が必要であるということをな!」

 

 怒号が、議長室に響き渡った。

 これが──ステラとアスラン、ふたりへの正式な辞令の許となった会話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 地球軍の地上本部は、〝JOSH-A〟の自爆を期にアラスカからグリーンランド新司令部へと移されていた。

 アラスカから逃げ(おお)せた無数の潜水艇が、グリーンランドの大型繋留場まで辿り着いた。基地内は忙しく、アラスカからこっち、人事の異動も相まって雑踏にごった返すような状態にあった。

 

 軍医であるハリー・ルイ・マーカットもまた、その雑踏の中にいた。

 

 彼はアラスカに取り残された〝アークエンジェル〟において、船医として乗船していた男性医師である。今回の奇妙な人事異動によって、アラスカから転属を命じられていた。

 結局、アラスカにて異動命令が下されたのは、ナタル・バジルール中尉にムウ・ラ・フラガ少佐、フレイ・アルスター二等兵に、遅れてひとり、彼ことハリーが追加された。

 潜水艇の振動が止むと、すぐに下船を促す指示が響いた。

 ハリーはすぐに、自分の荷物をまとめ、船を降りる。

 

(荷物ったて、大したものは持ってないけどね……)

 

 人の波に従って、繋留場へと足を踏み入れる。

 ハリーが背負ったリュックの中身といえば、勤務用の白衣や眼鏡ケースと──これと云って目立ったものは入っていなかった。最大積載量に限界のある潜水艇だからこそ、個人の荷物は極力軽減するようあらかじめ指示が出されていたのである。

 

 ──そう、荷物は大したものじゃない……。

 

 ハリーはつい先日、勤務先だった〝アークエンジェル〟の医務室のデータを、すべて抹消していた。

 あの船に配備された端末のデータを、外部に持ち出すようなことはしなかったのである。勿論、それに付随して──「拡張された者達(エクステンデット)」についてのデータも、すべて消去していた。

 強化人間についてのデータは闇に葬り、ハリーは今、実に清々しい気分で新天地へと赴こうとしていたのだった。

 

ステラ・ルーシェ(エクステンデット)に関するデータは、すべて削除してある。これからは、新たに気持ちを切り替えて働くだけさ)

 

 強化人間についてのデータが、地球軍の上層部にでも知れ渡ろうものなら、いったいどれだけの人間が犠牲になってゆくのか。

 想像するだけでおぞましく、ハリーは結局、ステラのデータを破棄することを選んだ。

 

(そう──『人体実験』なんてものは、これからは僕の専門外だ……)

 

 独白は、まるで自分に言い聞かせるように胸の中で紡がれた。

 そのままハリーは、彼と同じように異動を命じられた人の波に呑まれるように、次々と手続きを済ませて基地の中を通ってゆく。

 何事もなく、基地の審査を通過して行く──そう思った矢先、ある地点にて、武装した地球軍の士官達、二人組に声をかけられた。彼らは不躾な面持ちで云う。

 

「敵前逃亡艦〝アークエンジェル〟から異動となった、ハリー・ルイ・マーカット氏ですね?」

 

 敵前逃亡艦? ハリーは突如、目の前に現れた者達から、かつての母艦を侮辱したような言葉を掛けられ、眉を顰める。

 男達は二人がかりで、まるで自分を包囲するように立ちはだかっている。背には銃剣を抱えており、間違っても穏やかではなかった。

 しかし、武装した兵に詰問されている時点で、ハリーは弱い立場にあった。

 恐る恐る「そうですが……」と肯定の言葉を返すと、次の瞬間、武装兵達はおもむろにハリーの両腕を固め、彼から自由を奪った。背負っていたリュックが地面に落下し、ハリーは状況を把握することもままならず、苦悶の声を挙げた。

 

「なっ、なにを──!」

「連行する。あなたに会いたいと仰っている人物がいるのだ」

 

 ハリーはそのまま、両腕を固められる形で引っ立てられ、武装兵達に連れ出されて行った。

 やがて身に覚えのない手錠を掛けられ、とある無機質な一室へと連行される。

 ──どういうことだ……これじゃあまるで、囚人に対する扱いじゃないか……!?

 一切として納得がいかず、釈然としないまま、ハリーが数分として室内に拘留されていると、やがて一室のドアが開き、ドアの向こう側から痩躯の人物が現れた。

 それはほっそりとした優男で、若い。

 金髪で色白の肌をしている。軍事基地にはまるで見合わぬ、こざっぱりとした端正なシアンカラーのスーツに身を包む男だった。

 

「あー、ご苦労サンです。彼がその、ハリーっていう軍医(スーパードクター)さんですかネ?」

 

 ねっとりとした口調で話す男の姿を認め、ハリーは目を丸くする。──いったい、誰だ……?

 先方は、あらかじめハリーのことを知っているようだったが、ハリーの方は、こんな男は知らない。初対面である。

 だが、ハリーは次の瞬間、愕然と目を見開いた。

 金髪の優男の背後──彼に続くようにして、ドアの向こうから、見慣れた少女が顔を覗かせたのである。

 燃えるような赤い髪、端正できめ細やかな表情──

 

「フレイ・アルスター……!?」

 

 信じられない、と云った風にハリーは目を白黒させる。

 だが、やがて堪らなくなって声を挙げた。

 

「ど、どういうことだ、きみ……! 僕にこんなことをして、いったい何の目的で──!?」

「…………」

 

 桃色の制服に身を包むフレイは、そこでハリーの目と鼻の先に、束になった書類(プリント)を突きつけた。

 錠で塞がれたハリーの手は、その書類を取ることも叶わなかったが、ハリーの目は頭は、確実にその書類の書面に目を通していた。

 

「────」

 

 そして、絶句する。

 頭が、真っ白になった。

 時が止まった。

 

「な、んで……」

 

 詳細なまでに記された、分子の成分表──

 薬剤同士の、厳密な調合比率──

 それが人体にもたらす効能を割り出した数式──

 科学反応を顕す図面──

 医者にしか分からないような、専門的難解な内容が記載された、無数の紙切れ──

 

 だが、だからこそハリーには分かる。

 

 その書類が、いったい何を示すものなのか。

 優れた医者である、彼になら。

 フレイは絶望に駆られるハリーに対して、よどみなく言葉を続けた。

 

「これが何のデータ(、、、、、)なのか、おわかりですよね?」

 

 ハリーは震え、霞んだ声で、ようやく言葉を絞り出す。

 

「僕の端末から、データを抜き取ったのか……。きみがコンピュータに、侵入したのかッ!」

「あなたがご家族と面会している間。医務室は、とても無防備になっていましたよ」

「そんなッ、どうしてだ────!」

 

 突きつけられたのは──強化人間に関するデータ。

 ハリー・ルイ・マーカットがすべて抹消した、エクステンデットにまつわるデータだった。

 彼がデータを破棄する前に、フレイは彼の端末から、そのデータを抜き取っていた。そしてそれを、彼女は地球軍へと売り渡した──。

 

「きみには、僕が説明したじゃないか! そのデータは、危険なものだと!」

「このデータには、わたしを救う力があるんです」

「救う……!?」

 

 ハリーは、フレイが何を云っているのかが分からなかった。

 彼女には以前、強化人間についての恐ろしさをしっかりと説明しているはずだ。

 

 ──定期的な投与がなければ、禁断症状を起こしても不思議ではない……。

 ──そいつは、人の一生を狂わせる代物なんだ……。

 

 それなのに彼女は、例のデータを外部へと持ち出した。

 あのとき、説明などしなければよかったのか?

 

「何が救うだ……!? 云っただろう、待っているのは救済とは真逆の結末だよ……! 強化人間なんてのは、人間として破滅した結果だ! それなのに、きみはッ──!?」

 

 激怒しながらハリーが云う。

 そのとき、

 

「あーもう、ダメダメです。そーゆー御高説を聞きに来るために、僕たちはここまで足を運んだワケじゃあ、ないんですから」

 

 くつくつと嫌な笑みを浮かべながら、傍らに据える金髪の男は、一方的に遮断した。

 ハリーは愕然として、その男の方を見る。

 

「お話は耳にしましたよ、ハリー・ルイ・マーカットサン? なんでも、僕らブルーコスモスですら発想の及ばなかった『画期的な強化人間』について、考案なされた天才科学者だとカ?」  

「ブルー、コスモス……?」

「失礼。こちらはブルーコスモスの盟主──ムルタ・アズラエル理事だ」

 

 同伴していた地球軍将校のひとり、サザーランドが告げ、ハリーは驚く。

 ブルーコスモス──各地で反コーディネイター運動を広げ、ロビィ活動やテロ活動を平気で行う思想的結成組織──その実質的な盟主が、彼であり、ムルタ・アズラエルなのだ。

 彼は愉快そうに言葉を続けた。

 

「いやぁ実際のところ、我々も今はブーステッドマンっていう強化人間を開発していたんですけどネ? ヤツら、利用価値も大きいんですが、欠点もまだまだあるもんで」

「──!」

あなたが開発された(、、、、、、、、、)『エクステンデット』──でしたっけ? さっきデータに目を通してみたんですガ、いやいや、あれは良いモノだ……」

 

 そう──アズラエルに「エクステンデット」についてのデータを売り渡したのは、フレイだ。

 アルスターの苗は、ジョージ・アルスター事務次官というブルーコスモスでの発言力のある人物の影響もあって、アズラエルの耳には入っていた。彼としても無碍(むげ)には出来なかったジョージ・アルスターの愛嬢──それが突然、強化人間についてのデータを手渡して来たのである。

 

 ──いったい、こんな画期的なデータ、どこで手に入れたんだ……?

 

 データを受け取ったアズラエルは、当然の疑念に駆られたが、しかし現実に、そのデータは手許に渡ったのだ。

 フレイは「みずからがその新薬の被験者になると」云って聞かなかったし、データの出所を聴取したところ、フレイは〝アークエンジェル〟にいたハリーこそが、データのすべてを把握していると明かした。だから彼は動いた。

 

「空前絶後の天才ドクターに、アラスカでひょいと死なれちゃあ、こっちも困るもんですからネ? あなたにも異動命令を出した次第ですヨ」

「アラスカ、だって……!?」

「さて、お話は簡単デス。僕らこれから、本格的にエクステンデットを開発する研究を開始しようと思って居ましてネ? その研究チームのリーダー(、、、、)として、是非ともあなたを迎え入れたい」

 

 ムルタ・アズラエルの興味は、ソキウスからブーステッドマンへ、そして今になって、完全にエクステンデットへ移っていた。

 服従遺伝子の操作により、心理コントロールが掛けられたソキウスたち。その正体は、意図的に地球軍によって作り出された戦闘用コーディネイターなのだが、彼らはブーステッドマンの登場によって、その存在価値を失くしていった。

 代わりに現れたブーステッドマンは、体内にインプラントを埋め込み、定期的に〝γ―グリフェプタン〟を服用することで、コーディネイターをも凌駕するほどの力を発揮する。しかし、使用する薬品は依存性が強力過ぎて中毒症状を起こし、また、効能が切れると死に至るほどの苦しみが襲い掛かり、最悪の場合には廃人になることもある。

 エクステンデットは、それらと比べれば精神的にかなり安定しており、長期間の「利用価値」が見込める。無論、様々な弱点は考慮されるが、そのいずれも、短期間で廃人へ変貌してしまうブーステッドマンのそれと比べれば、軽度のものだろう。アズラエルが目を輝かせるのは、そういった理由からだ。

 

「今の時代、あなたほどエクステンデットを研究した者はいない──」

 

 もちろん、こちらも相応の報酬と待遇をお約束しますヨと、アズラエルは付け足した。

 フレイ・アルスターは、みずからがエクステンデットとなることを望んだ。その手伝いを、ハリーに任せようとしているのだ。

 論理が一方的に展開されるのを、ハリーは愕然として聞き入っていた。そして彼からの返答を待つこともなく、アズラエルは狡猾な笑みを浮かべる。

 

「ああ、嫌なら別に断ってもらっても構いませんヨ? ただ……地球軍に帰属していながら、これほど貴重なデータを軍に秘匿したまま(、、、、、、、、)破棄しようとした罪(、、、、、、、、、)は大きいと思いますけどねェ……」

 

 その瞬間。

 要求が、脅迫に代わった。

 すべてはフレイ・アルスターから、アズラエルへと伝わっていたのである。

 

「聞けば、ご家族はオーブにいるんだとカ? 大変ですねぇ、娘さんをこれから養って行かなきゃならない身分でしょうに」

「っ……」

「こちらもブーステッドマンの存在をお話しした以上、アナタをみすみす野放しにする気はない──お分かりですカ?」

 

 ねっとりと絡めるような言い方をされ、ハリーはそこで、ゆっくりと頷いた。

 仕方が、なかった。

 ここで要求を断れば、彼はおそらく、データを処分しようとした咎を断罪されることだろう。フレイによってそれは未遂に終わったが、エクステンデットのデータは、見方によっては世紀の新開発なのだ。実際には二年先に大成する研究であったとしても、この時代にとっては、画期的な研究であることに変わりはないのだから──。

 

 ──家族が、人質なんだ……。

 

 罪を追われ、医者としての職を失うだけならまだしも、軍事機密であるブーステッドマンが実在することを、アズラエルはハリーに明かした。

 この時点で、ハリーには逃げ道などないのだ。

 アズラエルの要求を断れば、おそらく口封じのために自分は殺されることになる。

 その程度の判断がつかないほど、ハリーは鈍くなかった。

 アズラエルは、満悦そうに笑った。

 

「賢明な判断でした。それでは今日から、くれぐれもよろしくお願いしますヨ────」

 

 そう言って、アズラエルは部屋から出て行く。

 サザーランドが最後に云い残した。

 

「ここにおられるフレイ・アルスター嬢がエクステンデットの第一被験者となる。あなたには、彼女の専属医師(オブザーバー)として、これから同伴してもらうことになる」

 

 エクステンデットの研究は、始まった。

 責任者をハリー・ルイ・マーカット。

 そして、第一被験者──実験体をフレイ・アルスターとして。

 サザーランドが退室すると、部屋にはハリーとフレイのふたりだけとなり、重い沈黙が流れた。

 

「よくも君は、データを抜き取ってくれた……」

「あなたも戦争をしてるんですよ。コーディネイターを滅ぼすために」

「その言い草。きみも、まるでブルーコスモスだ」

 

 ハリーは、問うた。

 

「エクステンデットになって、コーディネイター達と戦いたいのか……?」

「そうよ。──圧倒的な力を手に入れて、あいつらを、全員滅ぼしたいの。パパを殺した、汚らわしいアイツらを──」

 

 フレイの脳裏に、金髪の少女の姿が浮かぶ。

 しかしハリーは、よどみなく云い付けた。

 

「君は本当に、ステラ・ルーシェ(、、、、、、、、)になりたかったのか?」

 

 その言葉の意味を、フレイは理解できなかった。

 

「何を云っているの? あんな女になりたい? 私が? ──そんなわけないじゃない」

 

 コーディネイターはバケモノだ。

 フレイにとって、それは人間などではない──人のカタチを取った、別の何かだった。

 最初こそ、可憐な少女だと思ったステラも、結局はバケモノのような力を持っていて、フレイ達を裏切った。

 ナチュラルに害を為すような存在だ。

 

「そんな女に、どうして私がなりたいと思うのよ?」

 

 フレイは見下すように問いたが、ハリーからは、にべもない言葉が返って来た。

 

「だが、君も彼女と同じだろう? ──エクステンデットになるのだから」

「…………!」

 

 それが核心を突いているからこそ、フレイは意表を突かれた。

 続けざまにハリーは云う。

 

 

 

「きみは、矛盾しているよ」

 

 

 

 フレイはいったい、何を目指しているのだろう?

 何を願っているのだろう?

 ステラ・ルーシェを憎んでいながら、

 ステラ・ルーシェと、同じ立場に立とうとしている。同じ強化人間になろうとしている。

 

 そんな彼女は、まるで矛盾の塊だ────。

 

 云われたフレイは、返す言葉を失った。

 

 

 

 




 新登場のZGMF-X08A(凍結されていたため、まだ命名すらされてない)は、ジャスティスとフリーダムと同時期に開発された当小説オリジナルの機体となります。

 ジャスティスがアスランに似合った機体であるように、エース機を任せるには、パイロットの資質や適性を判断しなくてはならない。
 しかしパトリックは、みずからの失点を回復するために、適性試験もせず強引にステラを新型機のパイロットに抜擢させてしまいます。
 これがどういった結果に実を結んでいくのか、次回から書いていければいいなと思います。


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