SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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祝!お気に入り10人突破!
これからも皆様の期待に応えられるように、精一杯頑張っていく所存です!
これからもよろしくお願いします!

スキル
《鞭》:鞭にボーナスが付く。鞭のソードスキルが使用できる。
《弓矢》:弓矢にボーナスが付く。弓矢のソードスキルが使用できる。
《盾》:盾にボーナスが付く。盾のソードスキルが使用できる。
アイテム
【鉤爪】:暗器。後ろめたい暗殺者が好んで使う。背後からの攻撃は致命の一撃となる反面、脆さ故に正面からの戦いには向かない。
【粗悪な白濁粉】:強い快楽をもたらす藥。。人に堕落と破滅をもたらす為に作られた悪意の塊だが、刹那の快楽は地獄では何よりも誠実な救いでもある。
【黒油の果実】:たっぷりと油を含んだ果実。搾れば可燃性の高い油が採れるが、その煙は悪臭。また食べられない事もないが、餓えた貧民すら口にしない程に不味い。



Episode2-2 終わりつつある街へ

 オレたちは実に13日ぶりに終わりつつある街に戻った。

 廃村に長らくいたせいか、幾ら荒れ放題とはいえ、あの廃村に比べればいかに活気に満ちているのかを思い知る。

 プレイヤーたちも続々とデスゲームに参加する決意をしたのか、市場は想像以上の賑わいだった。互いに情報交換を行い、アイテムをトレードする場面も度々見かける事ができた。だが、それ以上に死んだ魚のような目をしたプレイヤーが多い。宿に泊まる金も尽きたのか、せめて同族同士で身を寄せ合い、ボロ布を纏い、まるでファンタジー世界の貧民のように裏路地に潜んでいたり、乞食のように他のプレイヤーの慈悲に縋っている。

 SAOですらあり得なかった光景が、たった13日間で構築されている。その事実に少なからずオレは驚いた。

 まあ、それも仕方ないのかもしれない。安全圏がこの終わりつつある街には1箇所として存在しない。宿すらもだ。

 宿の主な役割は自動回復の促進だ。鍵をかける事で一応の安全性は得られるが、ドアは破壊不可オブジェクトではない。耐久度も低めの木製ドアが中心だ。もちろん、ドアを破壊すれば宿を経営するNPCと敵対関係になるが、PKを狙う連中が始末するのも簡単なNPC相手に怯むとは思えない。

 そうなると複数人で1部屋に泊まり、誰かが見張りを務めるのがベストだ。確かに宿は袋の鼠だが、逆に言えばドア以外の侵入口がない。1度にドアを潜れるのはどう足掻いても1人だ。ならば、侵入した瞬間に複数人で袋叩きにすれば良い。というか、それ以外に生存の道がない。

 だが、もっと簡単に安全を確保する方法がある。簡単にPKできない人数で固まれば良いのだ。それこそ100人単位で互いが互いを警鐘代わりにすれば良い。PKを始める奴は今の段階ならばそれほど多くないはずだ。同類で群れても2,3人が限度のはず。ならばレベル差が致命的ではない現在ならば、袋叩きされれば殺られるのはPK側だ。

 ……まあ、そこまで考えてホームレスモドキに身を堕としている奴は少数派だろうな。というか、その考えができるなら効率悪くとも雑魚を狩ってチマチマとレベルを上げて死に物狂いで安全確保に努めるはずだ。

 ならばコレは人間の本能が成した業か、オレの過ぎた推測ってところか。まあいい。どうせオレが面倒見るわけじゃねーしな。

 

「2人とも悪いわね。私の為に付き合わせて」

 

 申し訳なさそうな顔もせずに、シノンはいつものイマイチ感情が読み取り辛い……無表情とは違う……こう……表現する為の能力が不足状態にあるような顔をしている。分かり易い時は分かり易いのだが、分かり辛い時はとことん分かり辛い。こうした情報もオレのシノン分析の成果だ。

 ……あ、ヤベェ。これってストーカーの思考じゃねーか。男相手ならともかく、女子相手は駄目だろ。キモ過ぎる。止める気はねーけどな。

 

「構わないさ。俺も予備の片手剣が欲しかったところだからね。それにずっとあんなレベリング作業してたら気分転換しないと気が滅入ってしまうよ。だろう、クー?」

 

「オレたちは期間限定運命共同体なんだろ? 助ける事ができるなら助けるし、守る事ができるなら守る。気にせずこき使えよ」

 

「そうね。そうさせてもらうわ。私の弓矢の援護がないと、貴方たちはすぐにゲームオーバーだろうしね」

 

 言ってくれるじゃねーか。まあ、真実だから否定しないが。

 実際、遠距離からの援護があると無いとではまるで違う。こちらの攻撃はそこそこにして、弓矢で削り続ければ格段に楽になる。もちろん、シノンがターゲットにされないようにヘイト管理をするのは大前提だ。

 

「俺達の誰か1人が欠けても辛いだけさ。最低でも3人。近接、遠距離、見張りの3つの役割を問題なくこなせるパーティ。俺達は今最高のパーティなんだ」

 

 そしてディアベルのこのイケメン発言である。本当にどうやったらそんなスラスラと好感度上がりまくりそうな言葉が出てくるんだよ。オレが女だったら…………

 

「貴方って本当に見てて飽きないわね。何急に落ち込んでるのよ」

 

「……あー、自己嫌悪中」

 

 シノンに心配される程にオレは死んだ目をしているのだろう。

 オレが女だったら? そんな仮定を思い浮かべただけで死刑ものだ。極刑だ。磔刑の上火炙りだ。

 茅場の後継者をぶっ潰すという目的があるので、今日のところは夕飯抜きの減刑で許してやる。良かったな、オレ。感謝するならあの狂人にしろよ?

 

「2人とも、折角街に来たんだ。何か美味しいものを食べてからイベントに挑むのはどうだい?」

 

 ディアベルの提案は魅力的だが、生憎オレ達野郎は終わりつつある街に詳しくない。そうなるとシノンに頼る事になる。彼女の同意が必要条件だ。

 だが、意外にもシノンはノリ気のようである。

 

「そうね。毎日毎日パサパサの肉で飽きてたし、思いっきり甘いものを食べるのも悪くないわ」

 

「へぇ。さすがは女の子だね。俺は甘いもの食べられるけど、クーは大丈夫かい?」

 

「パンケーキに苺ジャムとチョコレートソースとメイプルシロップとホイップクリームかけて、マシュマロ入りココアと一緒に食う程度には甘いものはイケる」

 

 途端にディアベルとシノンが今にも吐きそうな顔をした。失礼な奴らだ。わざわざオレのベストチョイスも一緒に教えてやったのに。

 ちなみに我が家の朝食は毎朝コレだった。そもそも親父の好物だからな。あんな高カロリーを毎朝食べてて、オレ達家族は全員痩せ形なんだよなぁ。一体全体何にカロリーを消費しているのやら。確か腸とかに寄生虫飼ってると痩せるらしいんだよな。

 

「寄生虫か。そういやシノン。この趣味悪ぃゲームは寄生虫といるのか?」

 

「それって食事前に聞く事?」

 

「別にカレー食う前にウンコの話してるわけじゃねーだろ。どうなんだよ?」

 

「……いるわよ。生肉を食べたりすると一定の確率で寄生されて、スタミナの回復が阻害されるようになる。スタミナの回復量はどんどん減っていって、ついに回復しなくなる。そうなると自動的にHPがゼロになってゲームオーバーよ」

 

「でも対策がある。違うかい?」

 

 確信があるようにディアベルは尋ねる。そもそも幾ら仮想世界とはいえ、生肉を食うとかどういう神経だよ。あれか? ユッケ大好きがいたのか? それとも生肉愛好家だったのか? 何にしても止めろよな。店で出てる生肉は生肉で食う為に、そりゃもう厳しい安全基準をクリアしたものなんだから。まあ、日本人は刺身食ってるし、生肉にも余り抵抗ないんだろうけどさ。

 

「まずは焼く事。これで100パーセント防げる。次に定期的に【黒油の果実】を食べる事。虫下しみたいなもので、食べる事で寄生虫を殺せる」

 

「不味そうなアイテムだな。どんな味なんだ?」

 

「……食べた奴は2度と仮想世界に戻ってこなかった。そう言えば想像が付くと思うけど?」

 

 どうやらゲロ以下の味のようだ。この様子だと触感も最悪なのだろう。

 だが、その後のシノンの話では黒油の果実はとても小さいらしく、噛まずに飲み込むだけでも効果があると言う。加えて安価で多量に販売している為、仕入れにも困る事はないそうだ。

 これは買っておいて損はないな。それも袋買いだ。一々仕入れるのも大変だからな。

 

「他にもモンスターで言えば死体に寄生している奴もいるわね。特殊な攻撃でこちらのHPを吸収してくるけど、それ以外は大した脅威はない。……ほら着いたわよ」

 

 どうやらココがシノンのお気に入りの店らしい。この荒れ果てた街では珍しい、辛うじて形を残している喫茶店だ。

 店内は落ち着いた雰囲気と途切れ途切れの音楽を奏でるレコードと、この世界では珍しい癒しの空間だ。客のNPCも今まであった他のNPCとは違い、比較的身なりがしっかりしている。

 こんな世界でも……いや、こんな世界だからこそ、ここまでハッキリと貧富の差を感じるのだろう。世知辛い事だ。

 

「紅茶とフルーツパンケーキを1つ。貴方たちは?」

 

 店の1番奥の席に座り、オレ達はメニューを開く。シノンは最初から決まっていたようだ。この様子だと内心ではディアベルの提案を受けて小躍りしていたに違いない。

 しかし、メニューとは言っても珈琲と紅茶と水以外にドリンクはなく、食べ物も数種類だけだ。いずれも安っぽいネーミングのものばかりで、値段も4桁に届く。

 さすがのディアベルも安易に注文できない価格なのだろう。まるでカノジョにねだられて高級レストランに安易に入ってしまったカレシのような顔をしている。

 

「俺は珈琲とサンドイッチで」

 

「オレは水とチョコレートケーキ。支払いは全員バラバラで」

 

 割り勘や奢りはしない。自分の食いたいものくらい自分で払え。こんなことはこの場の全員理解しているだろう。

 そう思ったが、どうやらディアベルだけは違ったらしい。口を真一文字にしている。もしかして提案者として奢る気だったのだろうか? 本当にリーダー気質だな。

 愛想の悪い店員は注文を聞くと厨房に向かう。ゲームとは言え、ちゃんと調理時間を取るあたり、茅場の後継者はやはりゲームを作り込んでいる。

 だとすると、やはり増々解せないな。北と南にあるダンジョンと東西の霧。特に霧が意味不明過ぎる。まるで手抜きだと主張しているようだ。

 あり得ない。オレは断言する。あの霧は間違いなく茅場の後継者が準備している取って置きの悪趣味なトラップだ。奴の目的は仮想世界の法則すら破る【人の持つ意思の力】を完膚無きまでに叩きのめして否定し、自らの正しさを証明する事だ。せめて奴が何故それをせねばならないのか、それさえ見当が付けば奴がどんな事を仕掛けてくるのか想像がつくのだが、あの種の狂人を理解できるのは同種の狂人だけだ。

 つまり、今は亡き茅場晶彦に聞くのが最も手っ取り早い……ってあれ? そもそも奴がこのデスゲームを仕掛けたのは茅場が【人の持つ意思の力】について奴に語ったからだ。そして、それの持ち主をあの狂人は【黒の剣士】と讃えた。

 茅場の後継者の言う【人の持つ意思の力】というのが何なのか、イマイチ理解できないが、仮想世界の法則を打ち破ったという意味ならば、オレが知る限りでは2人いる。

 1人は【閃光】と呼ばれたSAOでもトップクラスの実力を持っていた女性プレイヤー。もう1人は『アイツ』だ。そして、茅場の後継者が引き合いに出したのは後者だ。つまり、茅場が後継者に伝えた事例は恐らく『アイツ』の方だ。

 だとするならば、茅場を倒した100層での話になる。その後どうなったのか知らないが、結果的に茅場は死体になった。茅場の相棒だった女性の……名前は何だったか忘れたが、そいつ曰く自殺だったらしい。『アイツ』は何か濁していたが、少なくともその女性曰く、敗北後は誰とも話をする事なく自殺したのは確かだ。脳を焼き切ったのだ。間違いなく死んだはずだ。

 おかしい。茅場の後継者は何処で【黒の剣士】の事例を知り得た? SAOのデータをサルベージして知ったなら、茅場が実際に語ったような口振りはしないはずだ。

 変な話だが、あの狂人の言葉は1つとして嘘がないだろうと、オレは確信を持っている。奴にとって形はどうであれ、これは自らの正しさを証明する為の殺し合いだ。その為の根幹に虚偽を織り交ぜるはずがない。逆に言えば、そうした妥協ができない程に茅場の後継者はガキだ。

 だとするならば、1つの推測が成り立つ。全てに嘘がないからこそ成り立つ、あり得ない推論が生まれる。

 

「……可能性として考えておくか」

 

「急に何なの? 言っておくけど、今は食事中だからまた下品な事を言ったら撃ち殺すから」

 

 シノンに睨まれ、オレはいつの間にか運ばれていたチョコレートケーキに手を付ける。

 甘い。ハッキリ言って脳に沁みる程に、上品とは程遠い安っぽいチョコレートケーキの味が口内で広がる。所詮は脳の幻想に過ぎない甘さだが、それを言えば現実だって全てがそうだ。甘いも辛いも酸っぱいも、全ては脳で処理される夢に過ぎない。その点はあの狂人に同意だ。

 だが、やっぱりオレは現実のメシやお菓子の方が恋しい。この荒廃した世界では、あの芸術の域まで達した人類文化の極みは堪能できそうにないからな。

 そしてオレは頭の中で弄ぶ。導き出した『茅場がどんな形であれ生きているかもしれない』という可能性を……。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
相変わらず進行はスローペースですが、今後もよろしくお願いいたします。

では、第8話でまた会いましょう。

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