SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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本エピソードは今までのエピソードと毛色が違うものだったと思いますが、一気に物語の核心にも触れていく、1つのターニングポイントとなるエピソードでもありました。
それも終わりと思うと、少し寂しい気がします。
ですが、聖夜ももう終わりなので、後は結末に一直線です。
クリスマスの後? いつも通りの傭兵ライフが待っているに決まっています。
慈悲は無い。


Episode13-24 真実の先

 円柱の中で浮かぶ、残骸のように欠けた『サチ』。オリジナルであり、『あの人』へと同じ想いを持つ女性。

 アルシュナから告げられた真実は、不思議な程にあっさりとサチの中に入り込んでいく。それはきっと、サチ自身の無意識が真実であると理解しているからだろう。

 

「あなたは『サチ』のコピーです。ですが、その心はオリジナルと同一のもの」

 

 真実を再度告げるアルシュナに、サチは頬から流れる涙を自身の手で掬い取る。

 指先で震える涙。そこに宿すのは1つの感情。

 

「…………そうなんだ」

 

 真実を手に入れた。それは素直にサチの中で1つの決着がついた事として喜ばしい。

 だが、サチが嬉しかったのは、『サチ』の心が残されていた事だった。

 

「私と『サチ』の心は……同じだったんだね」

 

 それが純粋に嬉しかった。

 もうサチは『サチ』ではない。それを認めてしまった。自分『今ここにいるサチ』として『あの人』を想っている事こそが重要だった。そして、その想いは『サチ』と同じだったのだ。

 

「……やはり、『彼』は優しい人ですね」

 

 そんなサチの表情をして、何故かアルシュナは彼女と同じように喜びを口元で描く。そして、その指を振るった。

 円柱の中で浮かぶサチが光の粒子となり、圧縮され、小さな白い光の球体となる。それは円柱から飛び出し、サチの手のひらに収まったかと思えば、小さな黒猫のクリスタルへと変貌する。

 

「それはオリジナルのサチ、そのフラクトライトの……彼女の『心』の管理権限をオブジェクト化したものです。黒猫の乙女としてのサチ、それをどうするかはあなた次第です。自分の中に取り込むのも良いでしょう。ここで砕いて、その想いを独占するのも構いません」

 

 アルシュナの言葉に、サチは掌に収まる程に小さな黒猫のクリスタルを握りしめる。

 誘惑はある。ここでこのクリスタルを床に叩き付けて砕いてしまえば、『あの人』への想いを抱く『サチ』はいなくなり、『今ここにいるサチ』の唯一無二の想いとなる。それは個人として彼女をより強固に確立させるだろう。

 だが、そんな誘惑をサチは微笑んで切り捨てる。

 

「私の想いと『サチ』の想いは同じ。取り込む必要も、砕く必要もありません。彼女と共に『あの人』へと祈り続けます」

 

「そうですか」

 

 それ以上アルシュナは何も言わなかった。だが、その選択を嬉しがっているようにも見えたのは、サチの見間違いではないだろう。

 

(クゥリ、どうか皆を眠らせてあげて。もう……皆を戦わせないで)

 

 サチと『サチ』は、今ここにはいない、1人で戦い続ける白髪の傭兵へと戦いの終わりを託す。

 テツオも、ササマルも、ダッカーも、もう戦うべきではない。あんな悲しい『夢』に囚われてはならない。それがサチにはできない以上、クゥリに成してもらう他ない。

 たとえ他力本願だとしても、サチには祈るしかなかった。彼ならば必ずやり遂げてくれるはずなのだから。

 

 

 

▽   ▽   ▽

 

 

 足下を埋め尽くす人、人、人……夥しい数の人という形をした屍。いずれの死骸もテツオ、ササマル、ダッカーの姿をしており、際限なく生産され続けた、哀れな『機械化された記憶』たちだ。

 オレはついに半ばから折れた黎明の剣に付着する血を振り払いながら、左腕で絞めるダッカーの首を捩じって折る。

 

「さぁ、あと何人だ?」

 

 既に30人は軽く超す屍の絨毯、その上に乗りながらオレは肉塊を睨む。

 何人殺そうとも肉塊は3人を生産して攻撃を仕掛けてきた。殺す度にオレとの戦闘から学習しているのような動きには些か食指が動いたが、呪縛者以下の対応力だ。いや、生産される度に『機械化された記憶』たちは怯えを強く見せ、攻撃に対して思い切りの良さや自信が失われていた。

 ネタが割れてきたな。リーチが半分以下となり、もはや武器としての体裁を残していない黎明の剣を手元で弄びながら、それぞれ3人ずつ、新たに生産された9人に、オレは欠伸を噛み殺す。

 ダッカーは相変わらず自身が振り回されているスピード攻撃だ。確かに目を見張るものがあるが、扱いきれていなければ無用の長物だ。直線的かつ見切り易い。1人目をカウンターで顎に蹴りを入れて破砕し、そのまま踵落としで脳天から潰す。背後に回ったもう1人のダッカーには折れた黎明の剣を無造作に突き出して、その折れて欠けた鋭い断面を右目に侵入させて脳を貫いて絶命させる。

 ササマルは槍のリーチを活かして槍衾のように隊列を組んで迫り、その背後でテツオが戦槌を両手で構え、オレが回避した瞬間に襲い掛かる準備を整えている。いや、それもブラフか。本命は先行させた2人を犠牲に隠れ潜んだ3人目のダッカーによる奇襲。

 馬鹿が。オレは足下に転がる無数の武器、これまで殺したササマルの1人が落とした槍を蹴り上げてそのまま掌底で撃ち出す。それに対応しきれず、ササマルの1人が喉を貫かれて隊列が崩れる。その隙に槍の穂先が届かない懐に飛び込む。

 瞬間、死体の中に潜んでいた3人目のダッカーが飛び出して背後から心臓を狙おうとナイフを突き出すが、その場で跳躍しながら宙で後転してダッカーの後頭部をつかみ、そのまま捩じって首を180度曲げる。その間に隊列を整えた2人のササマルと3人のテツオがオレを囲もうとするが、槍のリーチと戦槌のリーチは差があり過ぎ、オレを囲むには余りにも不細工な陣形だ。屈みながらの回転蹴りで接近し過ぎたテツオを足払いして体勢を崩し、突き出されたササマルの槍の1本がテツオの腹を貫いた。

 血が噴き出す中でオレは屈んだ姿勢からササマルの1人の足下へと突進してつかみかかり、転倒させたところで追撃の肘打で脊椎を破壊する。健在のテツオ2人が戦槌を振るうが、オレが1歩退けば間合いが届かずに空振りする。

 すかさずオレは踏み込み、右側のテツオの喉をつかんで握り潰し、もう1人のテツオの肋骨と肋骨の隙間に突き手を打つ。指先は肉へと食い込み、そのままSTR任せにリアルに再現された肉を押し潰しながら心臓に到達する。

 

「つまらん」

 

 喉を潰して右手に付着した血と肉片を舐めながら、心臓に到達した左手の爪で心臓の表面を引っ掻く。最後のテツオが白目を剥き、泡を吹き、痙攣しながら足を脱力していく中、頸椎を指を引き抜いて倒れる過程で頸椎を踏み抜いて破砕し殺しきる。

 ざっと20秒か。もう少し早く始末できると思ったんだがな。ようやく取り戻した【渡り鳥】と呼ばれたSAOの頃の、ステータスで許された運動能力を引き出していく感覚、本能の殺意の純化と先鋭化。それらを完全に掌握する丁度良い『餌』かと思ったのだが、これでは全力を出したくても出し切れない。まぁ、心臓への負担を考えれば、この程度の軽い『トレーニング』で十分か。

 

『な、何なんだよ、お前は……』

 

 喉を鳴らして笑うオレに、肉塊からテツオの震える声が響く。

 

『怖がれよ。躊躇えよ。何で簡単に殺せるんだよ』

 

 ササマルの問いに、何を今更と、オレはやや高揚していた気分に冷や水を浴びせられる。

 コイツらはオレを十分に知っているはずだ。【渡り鳥】の経歴を、図書室でテツオを蹴り殺した事を、トラップルームでダッカー達を惨殺した事を、その全てを把握しているはずだ。ならば『この程度』で怯える必要など無いだろう。

 

『バケモノが』

 

 そう吐き捨てるダッカーに、オレは唇の両端を吊り上げ、腕を広げてみせる。

 

「それがどうした? バケモノなのは重々承知さ。大事なのは『心』だ」

 

 足下の数多の死体を踏み躙りながら、空気を満たす血と肉のニオイを存分に吸って堪能しながら、オレは彼らを嘲う。

 

「より強敵との戦いが! 情け容赦ない殺し合いが! 弱者が成す術なく蹂躙されて上げる悲鳴が! 信念と誇りを砕かれて死するしかないという運命に呑まれた絶望の表情が! それこそがオレの飢えと渇きを満たす! これからも狩り、奪い、喰らい、戦い、そして殺す! 殺して殺して殺して殺して、殺す! それがオレを満たす悦びだから!」

 

 斬り落としたテツオの頭をサッカーボールのように蹴り上げ、オレは左手でキャッチすると握力のままに潰す。皮膚が、頭蓋骨が、中身の脳漿が弾け飛び、オレと肉塊の間で撒き散らされる。

 

「狂っている!? 自覚済みだ! オレはバケモノだ! だからこそ、こんなどうしようもない自分を御する術を知っている! その意義を知っている! 檻の中に閉じ込めるんじゃない! バケモノである自分を認めて、首輪を付けるんだ! そうする事で、オレは『人間』であり続けられる! オレが『オレ』である事を忘れない限り! オレが先祖とヤツメ様から受け継いだ本能に呑まれない限り!」

 

 血塗れの左手をオレは肉塊に……テツオ、ササマル、ダッカーに向けて指差す。

 

「そう言うオマエらこそが本当のバケモノだ。今の自分を見ろ。身も心も人間の形を捨て、それで人様をバケモノ呼ばわりか? ハッキリ言ってやる。『オマエらと一緒にするな』。オレは『人』の心を捨てない。バケモノであるとしても、どんなに否定されても、この心に『人』を残し続ける!」

 

 たとえ記憶が嘘偽りだとしても、サチは自分の中にあった、彼女が彼女である証明を忘れなかった。たとえ、1度は捨てようとも、諦めようとも、拾い上げて認めるだけの勇気があった。

 

「オマエらは『誰』だ!? 今の姿が、心が、あり方が、本当に『オマエら』なのか!? テツオという、ササマルという、ダッカーという……オマエらが追い求めるアインクラッドを生きた『オリジナル』なのか!?」

 

 これは説得ではない。挑発だ。この手の相手が示す反応など、簡単に予想が付く。

 

『……うるさい』

 

『お前に何がわかる』

 

『複製と選定の繰り返し。人間から限りなく遠く離れた戦闘用AIになった俺達の気持ちの……何が分かるんだぁあああ!?』

 

 ほら、激昂してきた。触手を伸ばし、乱打する肉塊へと近寄り、右膝蹴りを打ち込む。だが、打撃属性の通りが悪いのか、ゴムのような弾力に押し留められる。やはり、打撃属性で破るならば、最低でも流星打級のソードスキルが必要だな。

 

「知らん。人だろうと動物だろうと植物だろうと、自分以外を知るのは死ぬほど労力がいるからな。オマエらの全てを理解してやるほど、時間も体力も金も消費する気は元からねーよ。だから、さっさと死ね」

 

 折れた黎明の剣、その欠けた断面で肉塊の表面を浅く裂く。そこに追撃で右手の手刀を抉り込み、傷口を広げる。

 もはや肉塊は新しい『機械化された記憶』を生産することはできないだろう。彼らは何も無から有を生み出していたわけではない。たとえ仮想世界であろうとも、割り振られたリソースが決まっている。

 家中を覆っていた肉膜、それらはまるで胃が内容物を消化するように、覆い尽くしたテーブルなどの調度品を喰らっていた。恐らく、それらオブジェクトのリソースを利用して『機械化された記憶』を生産していたのだろう。今やオレ達が戦う空間は足下の床とサチが潜った玄関のドアを除けば、闇ですらない単なる黒色だ。データ的に存在しない空間と化しているのだ。

 肉膜は死体を何とか再利用しようとしているようだが、その覆うスピードは余りにも遅い。もはや、この戦闘中に再生産は絶望的と考えて良いだろう。

 

「1つ言っておくが、AIだろうと『人』の心は得られるさ。オレは知っている。たった数時間で、人形と人間の狭間にあったヤツが、こんな狂ったオレの為に泣けるようになったんだ。『人』の心を手に入れることができたんだ。だから、オマエらにだってできたはずだ。いいや、元々は人間であるオマエらなら……きっと取り戻せたはずなんだ」

 

 心臓が縮まり、張り巡らされた神経が痛覚を訴えて脳に流れ込み、それがアミュスフィアⅢを通してアバターに反映されていくかのように、オレの指先が痺れた。

 ここからはゴリ押しだな。オレは白亜草をに口に押し込み、更に左手を入れて肉塊の傷口を強引に押し広げていく。それを留めようと触手がオレを打つが、それを白亜草の回復力がHPを減らす事を阻む。

 白亜草などの草系回復アイテムの最大の特徴は時間をかけて回復する点だ。白亜草は10秒間かけて4割のHPを回復させる。では、ダメージを受けていないHPフル状態で使用した場合はどうなるのか? 簡単だ。削られたHPが片っ端から回復される。HPを定められた数値分だけ瞬間回復させるのではなく、あくまで10秒間かけて回復するからこそできる擬似オートヒーリングだ。

 だが、元よりVITと防御力が低いオレでは10秒と耐えられずに、白亜草分の回復も上回ってHPは削り殺されるだろう。だが、ほんの3秒でも時間を稼げれば良い。

 まるで錆びついた両開き扉を開くように、オレは傷口に差し込んだ両手を左右に引く。肉の繊維が千切れ、血飛沫を散らし、傷口は広がって内部へと光を照らす。

 

「こんにちは」

 

 肉塊の中身、そこで脈動する3人の恐怖で歪んだ顔が貼りついた心臓に、オレは笑顔を向けた。ああ、今のオレの笑顔は100点満点だな。夏の向日葵畑とかで『やっぱり夏はスイカだよね!』というキャッチフレーズが似合うと思うな!

 肉塊の内部へと入り込んだオレは足下から絡みついてくる肉の泥を踏み抜きながら心臓へと迫る。

 

『来るな』

 

『来るな来るな来るな!』

 

『来るなぁああああああああああああああああああああ!』

 

 3人は絶叫と共に触手を振るおうとするが、肉塊内部まで対応するように出来ていないのだろう。傷口の周囲で無様に暴れ回るだけだった。

 こんなグロテスクな外見も、きっと茅場の後継者が彼らの為に準備したアバターだろう。これがボス性能ならば苦戦も強いられただろうが、さすがのヤツもレギオンの後にボス級を配置しなかったか。

 肉の泥がオレの膝まで侵蝕し、HPがジリジリと削られている。のんびりしていたら死ぬか。オレは微笑みながら、バスケットボールの2倍ほどの大きさがある彼らの顔が貼りついた心臓に手を伸ばす。

 オレが何十人も殺した3人。彼らは戦う度にオレへの恐怖を積み重ねていた。この事から分かることは1つ、生産される際の元となるデータがオレに恐怖心を抱いていたからだ。

 つまり、この心臓に宿った3人こそが、テツオ、ササマル、ダッカーという3人の『機械化された記憶』の本体だろう。彼らこそが、テストと複製を繰り返し、優良個体として選び抜かれて完成されたファンタズマビーイング体なのだろう。

 ここで彼らを殺せば、もう『機械化された記憶』となった3人は生産されないだろう。茅場の後継者がバックアップしている事も考えられるが、そうは思わない。

 

「オマエらは捨て駒さ。茅場の後継者に何を吹き込まれたか知らないが、オマエらは『出来損ない』として処分されるからここにいる」

 

 とてもではないが、コイツらは兵士としては不十分だ。余りにも戦闘素養が無く、戦い以外への渇望が強過ぎる。とてもではないが、『戦闘用』としてファンタズマビーイングされたものではない。恐らく、ファンタズマビーイングするにしても、元となる個体に適性がなければ、どれだけ『複製→テスト→優良体を選別』をしても、『戦闘用』として求められる個体は生み出せないのだろう。

 だとするならば、茅場の後継者の『戦闘用』としての本命は呪縛者かもな。アイツ1体の方が何十体も湧くコイツらよりも手強かった。

 

『嫌だ。死にたくない……死にたくない!』

 

『どうして? ただ、「オリジナル」になりたかっただけなのに!』

 

『「夢」を望んで何が悪いんだ!? 都合の良い幻想に浸って何が悪いんだ!?』

 

 喚き散らす3人の顔に、オレは1つ嘆息を吹きかけた。後はさっさと殺すだけなのだが、少しくらいはサービスしても良いだろう。その程度には、コイツらの境遇には同情するものがある。それもまた『人』の心として大事な事だ。

 

「死にたくないも、『オリジナル』になりたいも、『夢』が見たいのも存分に結構さ。否定しない」

 

 巨大な心臓に触れる手に力を込める。3人のHPバーが同時に減少を始めていくのを見て、背筋から筋力を引き出すように、STRの出力を更に高めるように呼吸を挟む。

 

 

 

 

 

 

 

「でも、そんなの関係ない。ここでオマエらが死ぬのは、茅場の後継者のせいでも、『アイツ』でも、オマエらの弱さのせいでもない。オレが殺したいからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な心臓が破裂し、血と肉の濁流が3人の絶叫を押し流す。まるで3人の死に祈りを捧げるように、合流した右手と左手が合わさる。

 肉塊がどろりと溶解し、その形状を失っていく。即座に離脱したオレは何とか肉の泥となった肉塊に呑まれる事を避けることができた。

 

「そうさ。オマエらは死んだのは誰のせいでもない……オレのせいだ」

 

 確かに『アイツ』はオマエらのオリジナルに嘘を吐いたかもしれない。そのせいでオリジナルは増長し、死に至ったのかもしれない。だが、それはオリジナルが弱かったからだ。

 同じようにオマエらも弱い。どうしようもなく、弱い。それなのに戦った。本来なら自業自得なのだが、その死の責任は全てオレが背負ってやるよ。オレは自分の意思で以ってオマエらを殺したのだから。

 ありがたく思えよ? 死の責任を背負ってやる出血大サービスだ。だから、だから……

 

「だから、安らかに眠れ」

 

 たとえ『機械化された記憶』であるとしても、『命』があるならば等しく安息の眠りが許されるはずだ。神様は懐が狭くて、仮想世界にもいないかもしれないが、少なくとも『死』とはオマエらの為に棺を準備して、眠る前に愚痴を聞いてくれる程度には度量が大きいだろうさ。

 

「……おっと」

 

 オレも限界だな。一瞬だが、意識がブラックアウトした。戦闘中に後遺症が酷くならないで助かったが、相変わらず距離感はおかしくなったり、視界が白黒になったりと忙しい。

 それにしても、グリムロックにどんな顔して謝れば良いんだか。鉈もそうだが、ついに黎明の剣もお陀仏だ。辛うじて現物が手元に残ってるだけマシと言えばマシだが、折れて短剣ほどの長さになった挙句、刃毀れしてない部位がないからな。逆に見せない方が良いかもしれない。

 ふら付く体を1歩ずつ前に進ませ、何度か溶けた肉に足を滑らせながら、オレは玄関のドアを開ける。その先にあったのは、緑の光のラインが刻まれた青い石造りの廊下だ。雰囲気は想起の神殿に似ている気がするな。

 壁に背中を預けながら、体を擦る様にしてオレは廊下の奥を目指す。サチの雰囲気がしたらすぐにでも痩せ我慢モードで何でもないように振る舞わないとな。

 ようやく到着したのは銀色の自動ドアのような両開きの扉だ。オレがそれに触れると機械音を鳴らし、オレを奥へと誘う。

 中央に円柱がある広々とした空間にオレは、よもや新たなボスの登場かと警戒したが、円柱前に見知った人影を2つ発見して気を緩める。

 1人は背中を向けたサチ、そして、もう1人は意外にもアルシュナだった。いや、別に彼女は管理者側のAIなのだから何処に出現してもおかしくないのだが、よもやこんな場所で再会するとは思わなかった。というか、あんな風に別れた手前、どうにも顔を合わせづらい。

 

「あなたがここに来たという事は、彼らは眠りについたのですね?」

 

「……ああ。だが、1つ尋ねたい。アイツらは――」

 

「ご安心ください。バックアップはありません。また、彼らのオリジナルも既に度重なる複製処置に耐えきれずに崩壊しています。ケイタはオリジナルにレギオンプログラムを組み込んだものですから、あなたが斃された時点で彼もまた複製される心配はありません」

 

 オレの質問の内容をあっさりと看破するのは、さすがはメンタルケア・カウンセリングプログラムといったところだろうか。少し驚きつつも、オレはアルシュナの言葉に嘘偽りはないと確信して安堵する。いや、別に亡霊となって再度現れてもぶっ殺してやるのだが、サチは彼らが再び戦わされる事を望まないだろう。

 

「サチ、全て終わった。もう……アイツらが目覚める事は無い」

 

 肩を震わせるサチは泣いているのだろう。それはそうだ。たとえ『機械化された記憶』だとしても、自分の仲間がもう1度死んだのだから。

 

「詰ってくれて構わない。恨れて、憎まれて当然だ。殺したいなら相手になってやる」

 

「……クゥリは馬鹿だね」

 

 だが、返答の声音は思いの外に明るい。いや、確かに月夜の黒猫団を悼むような悲しみに彩られているが、それ以上の喜びがある。

 

「皆はやっと眠ることができた。クゥリが殺してくれたから、ようやく戦い続ける事から解放されたの。本当なら、月夜の黒猫団の私がしないといけない事なのに」

 

 そう言ってもらっても気が楽にならないのは、オレが彼らを殺した事に何ら罪悪感を抱いていないからだろう。だが、サチの気持ちを受け取り、オレは全身から息を吐き出す。そうする事が正しいのだと信じて。

 

「分かった。オマエがそれで良いなら、オレは何も言わないさ」

 

 サチの中で決着が付いているならば、オレが口出しして彼女の意思を歪める必要はないだろう。ありがたく受け取るとしよう。

 

「それよりも、お礼を言わないとね。クゥリのお陰で、私もようやく見つける事ができたよ。私の真実を。この場所で、ようやく見つける事ができたよ」

 

 まるで春の風が吹いたように、サチの黒髪が揺れた。

 振り返った彼女が見せてくれた顔を、オレは決して忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 

「私の心は……私と『サチ』の『あの人』への想いは本物だった。私と『サチ』の本物だったよ!」

 

 

 

 

 

 

 涙を流しながら、オレに『祈り』と『答え』の先を告げてくれた、サチの笑顔を忘れないだろう。

 勿体ないな。そういう表情は『アイツ』に見せてやるべきだ。きっとアスナ命の『アイツ』だって心が傾くぞ。

 だけど悪いな。この笑顔は、今だけはオレが独占してやる。恨みたければフラグを乱立し過ぎて管理できていない自分を恨みやがれ。オレはオマエのゴタゴタの後処理で随分と対価を支払ったんだからな。

 

「……そっか。良かった。うん、良かった」

 

 頷くオレに、サチは涙を指で拭いながら同じように頷く。

 サチは自分を1人の個人として認めて、その上で自分の気持ちが『サチ』と自分の物だと決着をつけたのだろう。それはきっと最上の結末だ。

 

「それじゃあ、後はこのダンジョンから脱出するだけだな」

 

 そう言って、オレは敵意を込めずにアルシュナに視線を向ける。わざわざ管理者側であるアルシュナが出張っているのだ。前回と違い、このクリスマスダンジョンのシナリオに従ったものだろう。

 アルシュナはカーテンのような前髪を揺らし、右手を振るう。すると、背後のオレが通った銀色の扉、その先の風景が白い靄が渦巻く闇へと変異する。

 何処かで見たことがあるな。それも随分と最近のはずだ。だが、どうにも疲労困憊で冴えない頭といい加減に眠りについた本能は答えを導き出してくれない。

 

「あの先にクリスマスダンジョンの出口があります。そこから脱出できるでしょう。ここで得たものは全て持ち帰ることができますのでご安心ください」

 

 それは一安心だ。オレのアイテムストレージにはコンビニで仕入れた多量の現代の食品や嗜好品が詰まっている。これを持ち帰れるだけで上々だ。というか、これで出口の探索をするとなれば、時間的にも精神的にも体力的にも無謀だった。

 安心したせいか、オレは危うくバランスを失って倒れそうになるが、可愛いおんにゃのこ2人を前にして無様な姿は曝せない。背筋を張って足の指先まで針金を通すように力を入れて堪える。悲鳴をあげる心臓よ、恨むならばモテなさ過ぎて見栄っ張りになったオレを恨め!

 だが、アルシュナにはお見通しなのか、彼女の顔色と瞳で踊る感情は優れない。

 分かっているさ。いい加減にオレも休まないといけない。今の状態で心臓が止まれば、とてもではないが再起できるとは思えないからな。

 それ以上に、この先も今日と同じような戦いを続けていれば、決して遠くない日にオレは……いや、考えるのは止そう。どうせ頼りにできる便利な力ではないのだから。

 オレは彼女に背中を向け、サチを連れて扉を目指す。

 だが、それを拒むようにオレの周囲を〈ERROR〉という赤い色のウインドウに刻まれたシステムメッセージが覆い、壁となってサチと分断する。

 

「……どういうつもりだ?」

 

 今しがた別れを告げたアルシュナへとオレは振り返る。そこには、息荒く、まるでオレが致命的な精神負荷を受容した時と同じように、高負荷で苦しんでいるかのようなアルシュナの姿があった。

 

〈MHCP003‐V2の管理者権限レベルⅤ相当の権限逸脱行為を確認。ただちに権限逸脱行為を停止してください〉

 

〈MHCP003‐V2、ただちに権限逸脱行為を停止してください〉

 

〈カーディナルより最終通達。60秒以内に権限逸脱行為を停止してください。停止されない場合、60秒後に対AIコード999『Seraph』が実行されます〉

 

 女性の電子音声がアルシュナの周囲に表示されたシステムメッセージを読み上げる。そのお陰で、オレは今にも倒れそうなアルシュナが、自身に与えられた権限以上の……言うなればAI達の神でもあるカーディナルが作り上げたルールから外れた行為をしている事に気づく。

 

「わ、私に……私には『シナリオ』を変える力はありません。どんなに頑張っても……あなたを、誰にも観測されないように……数十秒、切り離す事しか、できません」

 

 駆け寄ろうとするオレに、苦悶の表情を浮かべたアルシュナは首を横に振って否定する。

 良く分からんが、どうやらアルシュナは自分とオレとの会話を管理者側……つまり、自分と同じようなAIや茅場の後継者に盗聴されないような処置を施したのだろう。だが、それは言うよりも遥かに彼女の……管理者AIとしての存在意義を揺るがす反抗に違いない。

 

「P10042……お願いです。私には、これしか思いつきません。死神部隊に……AIになって、くださ、い! それ以外に、『シナリオ』を回避する術はあ、りま、せ……ん!」

 

 脂汗のようなものを垂らし、渦巻くエラーメッセージに押し潰されそうになりながら、アルシュナはオレにとんでもない提案をする。

 死神部隊とは、DBOの都市伝説、凄腕のプレイヤーを次々と狙って殺しているという連中の事だ。その存在を確認した者はいない。だが、アルシュナが認めたならば、それは紛れも無く実在し、なおかつ管理者側……茅場の後継者側が仕掛けているプレイヤー狩りという事になる。

 そんな爆弾発言以上なのが、アルシュナからの要求、オレのAI化だ。それがどういう意味なのかは、このクリスマスダンジョンで嫌というほど理解している。

 

「複製では、ありま……せん! あなたの意識が、そのまま、電脳化され、るだけ、で……す! だから……だから……これしか、あなたを救う方法は……!」

 

「……悪いが、それは無理だ」

 

 オレは首を横に振る。本当なら、もっと悩んで、苦しんで、時間をかけて答えを出したい。だが、アルシュナの周囲で進むカウントダウンがそれを許さない。『Seraph』が何なのか想像付かないが、それがアルシュナの『削除』に直結するものだけは確信を持てるからだ。

 アルシュナが何の為にオレのAI化を目論んでいるのかは知らない。だが、救うという言葉から、きっとオレの為なのだろう。

 だが、AI化など論外だ。この受け継いだ血にかけて、オレは『命』を弄んだ茅場の後継者と決着を付けねばならない。それを成さねば、AI化されて茅場の後継者の陣営に組むなど許容できない。

 いや、それ以前にAI化されて死神部隊になるなど、DBOにいる全てのプレイヤーへの反逆行為だ。

 確かに、ギルド間抗争、モラル低下によって繰り返される犯罪行為、殺し合いの連続は最低最悪だ。だが、それでも少なくない数のプレイヤーは諦めることなく、DBOの完全攻略に向けて戦っている。

 ならば、オレもまた初心通り、茅場の後継者を潰す。そこだけは揺るいではならない最終目的だ。

 

「そう……言うと、思って……いいえ、『分かって』いました」

 

 まるでオレのたった一言の返答の裏を全て見透かしたかのように……いや、人の感情と思考を読めるメンタルケア・カウンセリングプログラムである彼女ならば、きっと全てを直接オレの脳から聞き取ったのだろう。アルシュナは苦しげに微笑む。

 

「それでこそ……『あなた』です。行きな、さい……P10042……忘れないで、くだ、さい……あなたは『あなた』である事を……絶対、に……っ!」

 

 アルシュナのアバターが欠けていく。それは制限時間以上に、彼女自身が権限を超えた事による高負荷に耐えられず、自壊しているのだろう。

 その先にはあるのは……アルシュナの『死』だ。

 

「アルシュナ!」

 

「行ってください!」

 

 今度こそ彼女に駆け寄ったオレの胸を、アルシュナはそっと触れて押し返す。

 そして、その口であらん限りに叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「P10042……いいえ、クゥリ! セカンドマスターが成し遂げた死者の復活の理を知りたいならば……何よりも【黒の剣士】の悲劇を止めたいならば、彼より先に『囚われの姫』を探し出しなさい! セカンドマスターが招いた食客、『あの男』の……よ、よよよ、妖精王の居城を目指すので……す!」

 

 

 

 

 

 

 それを最後に、アルシュナはシステムメッセージの渦に呑まれた。その衝撃と光で押し返されたオレは床の上を数度転がり、即座に起き上がって彼女の姿を探すが、その姿は見られない。

 まさか…消滅した? 一瞬だが、オレは最悪の結果を想像するが、次々と消えていくエラーメッセージの中、カウントダウンの数字が『02』とギリギリで残っているのを確認して安心する。

 だとするならば、高負荷で崩壊していったアルシュナがせめて無事である事を祈るだけだ。

 

「クゥリ、大丈夫!?」

 

 転がるオレをサチが起き上がらせる。彼女からすれば、突如としてエラーメッセージの繭がオレとアルシュナを包み込んだように見えたはずだ。そして、この様子からして内部での会話は聞こえていないだろう。

 

「ああ、大丈夫だ。それよりもサチは?」

 

「私も大丈夫。でも、アルシュナさんは……」

 

 サチも直感しているのだろう。アルシュナが何かしらのリスクを背負い、その代償を支払ってこの場所から消失した事を感じ取っているのだろう。

 命を懸けてアルシュナはオレに情報を託した。アイツは単なる管理者AIである事を止め、1人の『人間』としてオレに『アイツ』の悲劇を止めろと頼んだ。他でもない、オレが『アイツ』の友でありたいという願いを知っているからだろう。

 見事だ。そして、ありがとう。オレはアルシュナに賛辞と感謝を心の奥底から告げる。彼女のお陰で、オレは新たにやり遂げねばならない事が……『理由』が見つかった。この『理由』を胸に、オレは明日から戦い続けられる。バケモノである自分を受け入れながら、『人』の心を見失わないように戦える。

 

「行くぞ。今度こそ脱出だ」

 

 オレは心配そうな顔をしたサチに微笑んで今度こそ扉の奥、白い靄が渦巻く闇へと進む。穴に落ちた時と同様の浮遊感がオレを呑み込むも、穴とは違って前に進んで歩いているという感覚が残り続ける。振り返って続いたサチを確認するが、彼女も危ない足取りながらもしっかりとオレの後を追っていた。

 たどり着いた先は、意外と言えば意外だったが、到着すれば納得する場所だった。

 そこは青色に淡く輝くような、人工的で滑らかな表面をした石造りの息が詰まりそうな密閉された空間、その中心部には閉ざされたトレジャーボックスが安置された、オレ達がダッカーと出会った、月夜の黒猫団最後の地であるトラップルームだ。

 通りで見覚えがあるわけだ。あの白い靄が渦巻く闇は、このトラップルームで目撃したものと同一だ。事実として、オレ達が出てきたのはトラップルーム側に設けられていた扉だ。

 最後の最後まで悪趣味な野郎だ。アインクラッドを生きたサチ、その記憶が終わった死に場所こそが終着点にしてゴールというわけか。だとするならば、ゴールの解放条件はあのトレジャーボックスか。

 というか、下手をせずともあの時、ダッカーに惑わされずに、このトレジャーボックスを開けていたらダンジョンクリアだったわけか? だとするならば、茅場の後継者は今頃悔し紛れに『ねぇ、ゴールがすぐ傍にあったのに死ぬ気でボス戦に挑んでどんな気持ち? どんな気持ち?』と小躍りしているかもしれない。

 つーか、そもそもこのトラップルームに入った時点で警告が合ったじゃねーか。嘘と真実のどちらを望むか、と。あの時、オレが嫌な予感をした闇の先に行っていれば、サチはあっさりと真実を手にできた。つまり、まんまとオレとサチはダッカーに惑わされて嘘の方を選んでしまったわけだ。あのシーフ野郎、とんでもなく頭が回るじゃねーか。それとも、これも茅場の後継者の狙い通りか?

 

「サチ、黒猫の鍵をくれ」

 

 渡していた黒猫の鍵を受け取り、オレはトレジャーボックスの鍵穴に差し込む。だが、ここで1つの疑問が生じた。

 サチの死因はトレジャーボックスのトラップに引っ掛かり、モンスターに囲まれたからだ。だとするならば、ここで安易にトレジャーボックスがゴールだと決めつけて開錠するのは危険なのではないだろうか?

 

「す、少し落ち着こう。な!」

 

 そう提案するオレに、サチも同様の見解に至っていたのか、コクコクと何度も頷いた。

 

「ねぇ、何か飲もうよ。喉渇いてて」

 

「オレもだ。早く帰って酒飲みてーな」

 

「あ、私も飲む!」

 

「駄目だ。オマエは未成年だろうが。死人だろうと何だろうと、数えて20歳になるまで我慢しやがれ」

 

「……そう言うクゥリも、どうせ未成年なんでしょ? 大学生になって浴びるようにお酒飲んだ法律違反者なんでしょ?」

 

「否定はしねーよ。確かに入学初日で飲んだ。だがな、もうオレにそんな脅し文句は通じねーよ」

 

「どういう意味?」

 

「文字通りの意味。まぁ、分からねーなら良いさ。オマエの前で美味そうに飲みながら教えてやるよ」

 

「うわぁ、性格悪過ぎ」

 

「今更だろ」

 

「今更だったね」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「………も、もう良いんじゃないかな?」

 

「………そ、そうだな」

 

 何とか落ち着いたオレ達は改めてトレジャーボックスの前に立つ。サチは慌ただしく前後左右を向きながら、オレはいつでも臨戦態勢を整えるように本能のギアを引き上げておく。

 鍵穴に黒猫の鍵を再び差し込み、回す。金属音を立て、トレジャーボックスが開錠して蓋を開ける。

 周囲からモンスターがポップする気配はない。とりあえず、オレ達が想像した最悪の事態は免れたようだ。トレジャーボックスからどす黒い液体が溢れ、それが新しい穴を生み出す。それはアインクラッドから現実世界を模した仮想世界へ、そしてパソコン研究会の物置から『夢』の場所へ運んだのと同じタイプの穴だ。

 これを通れば、きっとオレ達は想起の神殿に帰れるのだろう。この糞みたいなクリスマスダンジョンも終わりだ。

 オレは安堵の吐息を漏らしながら、黒い穴に触れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈帰還を望むならば、黒猫の乙女の心臓を捧げよ〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………は?

 

 

 何だ、これは?

 

 何なんだ、これは?

 

 まるで後ろで帰りの時を待って笑みを零すサチには見せないかのように、ひっそりと小さく、正面で輝く無機質なシステムメッセージの文字列をオレは見つめる。

 落ち着け。落ち着くんだ。心臓から広がる痛み……それはファンタズマ・エフェクトなどではなく、心が軋む『痛み』をオレは受け止めようとする。

 このタイプの穴は必ず心臓を捧げねば起動しなかった。だから、この闇の穴を通過する為には、黒猫の乙女の心臓が必要だ。

 

「…………糞が」

 

 黒猫の乙女とはサチの事だ。だとするならば、この闇の穴を通る為に必要不可欠なものとは、彼女の心臓だ。

 

 ここから脱出するには、サチを殺さねばならない。他でもない……オレの手で彼女の心臓を抉り出さねばならない。




絶望「ジェネレーター出力再上昇、オ ペ レ ー シ ョ ン パ タ ー ン 2」

希望・喜劇「「……嘘だろ、おい」」

絶望「打ち上げの予定はキャンセルだ。見せてみろ、貴様らの力を」


前書きにもちゃんと書きました。慈悲は無い。
次回、クリスマスエピソード最終話です。
それでは、128話でまた会いましょう。

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