ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第191話 雷鳴を斬り裂いて

 

GI1000

-ゼス 首都-

 

 それは、20年近く前の出来事。

 

「雷帝は引退を考えられてはいないのですか?」

 

 戦場から帰った際、ふとそんな事を王子に言われた。

 

「引退して欲しいのですかな?」

「いえ、ゼスの未来を考えれば雷帝にはまだまだ現役でいて貰わねば困ります。しかし、御年を鑑みればそういった事を考えていてもおかしくはない。なのでお聞きしたまでです」

「相変わらず裏表のない男じゃな。そんな事では王になった際に苦労するぞ」

「むっ……」

 

 痛い所を突かれたとばかりに王子が言葉に詰まる。そんな王子を見ながら、老兵は不敵に笑う。

 

「心配せずとも、まだまだ最前線に立ち続けますぞ。そうですな……少なくとも、この首都の名が貴方の名前、ラグナロックアークに変わるまでは」

 

 ゼスの首都はその時の国王の名が付けられる決まりがある。老兵の前に立つ男、ラグナロックアーク・スーパー・ガンジー。いずれこの国を背負って立つ男だ。しかし、まだ王は健在。彼がその肩書を王子から王に変えるのはまだ十年以上も先の事だろう。つまり、まだまだ引退する気はないと老兵は宣言したのだ。思わず苦笑するガンジー。

 

「最前線に立つ事が心配なのですがな」

「はっはっは! そりゃその通りじゃな」

 

 苦笑する皇子を尻目に豪快に笑う老兵。しかし、暫しの後その笑い声はピタリと止まる。何か思うところがあったのか。あるいは気まぐれか。その表情を真剣なものに変えた老兵は、最初の問いに答えた。

 

「そうじゃな。儂が引退を考えるとすれば、それは……」

 

 

 

LP0004

-ゼス 弾倉の塔 地下3階-

 

「ライトニングレーザー!」

「っ!?」

「ぐおっ!」

 

 カバッハーンの放った魔法は一直線にシィルへと迫ったが、直前でパットンが間に入りその体で魔法の直撃を受ける。苦悶の表情で膝をつくパットン。

 

「大丈夫かい!?」

「すいません……ヒーリング!」

「いや、気にすんな。これが俺の仕事だ」

 

 プリマとシィルがすぐさまパットンを治療する。既にボロボロのパーティーだが、その中でもヒーラーの重要性は随一。なにせ既に限界だったプリマをランスが無理して引っ張って来る程なのだから。パットンもそれが判っているからこそ、その身を挺してシィルを守ったのだ。

 

「しかし、いくらなんでも威力があり過ぎるだろ。そりゃ俺は魔法を苦手にしてるけどよ」

 

 魔法攻撃が苦手なパットンだが、それでもそうそう倒れる事は無い。例えば数値に表した際、魔法攻撃でロッキーが10、パットンが倍の20ダメージを受けるとしよう。成程、確かにパットンは魔法攻撃が苦手だ。しかし、体力値にロッキーは100、パットンは600程の差がある。結果、苦手な魔法攻撃でもパットンはロッキーの3倍耐えられる計算になるのだ。勿論これは単純な一例でしかない。実際の耐久度は数値では表せないし、例え表せたとしても数値だけで測れないのが実戦だ。しかし、この例からも判る通り、パットンの耐久度は尋常ならざる域に達している。

 

「悪ぃが、あと何発耐えられるか判らねぇぞ」

「馬鹿者。死ぬ気で耐えろ」

「そう言うと思ったよ。さて、やれるだけやりますかね」

 

 だが、今の一撃はそのパットンをもってしても耐え難い一撃であり、相当の体力を持ってかれてしまった。ランスの言葉に苦笑しながら、パットンは両拳を勢いよく打ち鳴らしながら再度立ち上がる。

 

「良いガードがおるのぅ。厄介じゃわい」

 

 戦闘においてヒーラーを真っ先に潰すのは基本ともいえる。しかし、未だゼス軍は二人のヒーラーを潰せずにいる。それはガード役であるパットンとロッキーの働きが大きい。羨ましそうに顎を擦るカバッハーン。

 

「ガードならこっちも負けてないわ!」

 

 マジックの宣言と同時に爆音が部屋に響く。それは、マリアのチューリップから放たれた砲撃がZガーディアンの頭部に直撃した音だ。もくもくと上がる煙の中からZガーディアンがギロリとマリアを睨みつけ、ビームを発射した。

 

「おわっとっとっと! きゃぁぁぁぁ!」

 

 すんでのところで直撃は回避したが、爆風で吹き飛ばされるマリア。そのまま勢いよく尻もちをつく。

 

「あいたー……なんて頑丈なの。ぜひとも材料を教えて欲しい」

「それだけ言えれば大丈夫そうだな」

「おいしょっと!」

 

 尻を擦るマリアを横目に、殺が銃を連射しシャイラがナイフを投げる。どちらも後方のカバッハーンたちを狙ったものだが、Zガーディアンがその巨体で間に割って入り、全ての攻撃を受けた。ナイフがカキンという音と共に地面に落ち、銃弾も穴すら空けられず床に転がる。

 

「ちっ。残ったはいいけど、これじゃあ役に立てねぇな。生半可な攻撃じゃダメージが通らねえ」

「ふむ……」

 

 後衛陣がそう嘆きながら、前衛に目をやる。Zガーディアンのすぐ目の前、最前線で戦うのは残った前衛メンバー。ランス、かなみ、リズナ、ロッキーの4人だ。

 

「どりゃぁぁ! どかんか、でかぶつがぁぁ!」

 

 ランスが渾身の一撃を振り下ろし、Zガーディアンの肩部に命中させる。その一撃はZガーディアンの頑丈なボディを斬り裂き、内部の機械をいくつか破壊した。バチバチと傷痕から火花が散るが、Zガーディアンは気にする様子もなくビームを発射した。その対象はランスと、その後ろから追撃しようとしていたリズナ。

 

「ちっ!」

「っ……」

 

 二人ともギリギリで回避するが、爆風でよろけてしまい追撃に移れない。相手が人間ならダメージでよろけたりもするが、Zガーディアンにはそれが無い。ランスの強烈な一撃を受けても、即座に反撃をしてくる。非常に厄介な相手だ。

 

「…………」

 

 Zガーディアンの放ったビームの煙の中を走るのは、かなみ。一直線にZガーディアンに向かっていく。それを見たZガーディアンは巨大な右拳をかなみに振り下ろす。ドガッ、という轟音が響き、床の破片が散らばる。されど、その一撃はかなみを捉えてはいなかった。地面に打ち付けられた拳を軸にくるりと回転するようにその横を駆ける。そう、かなみの狙いはZガーディアンではなかった。かなみの狙いは、現在進行形で魔法の詠唱をしている後方のカバッハーンたち。あまりにも長く放置しすぎると、彼らの強力な上級魔法が飛んでくる。それだけは避けねばならぬと懸命にZガーディアンの守護をすり抜けた。

 

「……!?」

 

 瞬間、かなみは目を見開く。その瞳に映したカバッハーンとマジックが、不敵な笑みと共に魔力の溜まった両手をこちらに向けていたのだ。遅かった。そして、待っていた。まるでネズミ捕りのように、Zガーディアンの横を通り抜けてくる者を。

 

「ライトニングレーザー!」

「ライトニングレーザー」

 

 一直線に放たれる二本の雷。直撃まで猶予はほぼない。これが一本であれば、かなみの足ならそのまま横へ駆け抜ければすんでのところで回避できたかもしれない。しかし、それを見越したかのようにカバッハーンはマジックの放ったライトニングレーザーの真横にぴったりと並ぶようライトニングレーザーを放っていた。単純に攻撃範囲は2倍となり、駆け抜けても必ずカバッハーンのライトニングレーザーに当たってしまう。

 

「っ……!」

 

 即座にかなみは急ブレーキをし、体を翻す。今しがたすり抜けたZガーディアンの方へ戻り、その巨体を盾にしようとしたのだ。グッと足を踏み込む。

 

「(判断は正解じゃな。じゃが……)」

 

 間に合えば完全回避。間に合わなくても直撃するのはマジックのライトニングレーザー。魔力はマジックが勝るが、こと雷魔法においてはカバッハーンの方が威力は上。駆け抜けてカバッハーンの魔法に当たるよりは受けるダメージは下がる。かなみの判断は正しかった。誤算は二つ。

 

「(駄目、間に合わ……)」

「捕った!」

 

 無理な体勢から体を翻した状態ではやはり回避は間に合わなかった事。そして、カバッハーンよりも威力は劣るとはいえ、マジックのライトニングレーザーでも一撃でかなみを戦闘不能にするだけの威力があるという事。どちらの判断を選ぶにせよ、既にかなみは詰んでいたのだ。雷がかなみを飲み込むべく迫る。

 

「でやぁぁぁだす!」

「なっ!」

 

 雷がかなみを飲み込む直前、ぴょんと間に割って入るようにロッキーが飛び込んでくる。直後、マジックの放ったライトニングレーザーがロッキーの体に直撃した。雷が落ちたような轟音が部屋に響く。

 

「あんぎゃぁぁぁ!!」

「ロッキーさん! くっ……」

 

 かなみが叫びながらも、そのまま身を翻しZガーディアンの巨体に隠れる。バタリと倒れ込むロッキー。Zガーディアンと戦いながらもそれを横目で見ていたランスは、すぐさま右手を上げて後衛に合図を出す。手首を内向きに動かすそれは、さっさと来いと怒っているようにも見えた。

 

「悪ぃがここまでだな。ちょっくら上がって来るから、後は自分でなんとかしてくれ」

「はい。ありがとうございました」

 

 それは、パットンを前線に呼ぶ合図。前衛メンバーの中で唯一最前線にいなかったパットンだが、それには理由がある。ここまでの彼の役回りは後衛を守る事であった。実際、先程もシィルを守っている。しかし、その役回りもロッキーが倒れた事で終わり、今度は最前線でアタッカー兼ガードの役回りとなる。普段は守られる存在である後衛も、ここからは自衛。それ程余裕のない状況なのだ。駆けていくパットンの背中にペコリとお辞儀をするシィル。

 

「んじゃ、あたしも行ってくるか。流石にあの面子に入れる自信はないからすぐにやられちまいそうだけどね」

 

 シャイラも投擲用のナイフから近接戦闘用のナイフに持ち替える。シャイラは前衛と後衛のどちらもこなす万能型だが、悪く言えば器用貧乏。どちらにおいてもエキスパートには敵わない。相方のネイは近接戦闘しか主にこなせないが、その分シャイラよりも近接戦闘の腕は上だ。だが、状況的にはシャイラも前衛に上がらざるを得ない。なにせ後衛にいてもZガーディアンにダメージを与えられないのだから。前衛での直接攻撃なら、まだ多少なりともダメージを与えられる可能性がある。

 

「マリアはこのまま後衛で攻撃を続けな。あんたのはいくらか効いてたしね」

「ふふーん! チューリップの威力は凄いんだから」

「殺ちゃんは……」

 

 胸を張るマリア。確かにチューリップの一撃は多少なりともダメージを与えているように見えた。それとは対照的に、殺の攻撃はシャイラ同様ダメージが無いように見受けられた。下がっていろと言いかけたシャイラだったが、その言葉を当の殺が遮る。

 

「そうだな。とっておきを使わせて貰うか」

「とっておき?」

「ああ、シャイラはまだ見てなかったっけ」

「あたしが捕まっている間の話か。まあいい、二人とも無茶はすんなよ」

 

 眉をひそめるシャイラに対しマリアがそう口にする。成程、自分が女の子刑務所に捕まっている間に見せた何かがあるようだ。長々と談笑している暇もない為、魔法攻撃に気を付けるよう注意しシャイラも前衛に駆けていく。

 

「後ちょっとだったのに……」

「なぁに、一人ガードを倒しただけでも十分じゃ。むしろ、今の状況ならその方が良かったかもしれん」

 

 かなみを仕留め切れなかった事を悔やむマジックに対しそう言葉を掛けるカバッハーン。これは偽りではない。確かにリーザスの女忍者かなみは敵の中でも上位に入る戦力。近接戦闘だけでなく、煙玉や手裏剣など多種多様な攻撃方法がある。だが、今この状況においてならばガードを一人削れたメリットの方が大きいとも言える。

 

「マジック様。ワシは今から詠唱に入る。その間……」

「手を止めずに魔法を打ち続けろ、でしょ?」

「うむ。他の者も良いな」

「はい、雷帝様!」

 

 ガードが減った事により、ようやくカバッハーンが雷神雷光の詠唱に入る。というのも、マジックたちは中々長時間の詠唱をしにくい状況であったのだ。いくらZガーディアンが強力な兵器とはいえ、ランスたちは紛れもない強者。その猛攻はZガーディアンだけで止めきれるものではなく、先程のかなみのように隙あらばこちらへ牙を剥いて来る。既にこちらの魔法部隊の数は少なく、マジックとカバッハーンがあまりにも長い時間詠唱に入ればその分攻撃の手が止み、あちらにZガーディアン突破のチャンスを与える事になるのだ。

 

「いい? 本命は私が狙う。各自、私の狙う相手以外を攻撃して奴らにこちらの狙いを見切られないように」

「はい、マジック様!」

 

 しかし、状況は変わった。それは、先程ガードの一人であるロッキーが倒れた事。

 

「(これで相手はこれまで以上にこちらからの攻撃に注意せざるを得ないわ。一か八かの特攻の際に守ってくれるガードは後一人。ここからじわじわ一人ずつ削っていくんだから)」

 

 そうマジックは考え、周りの者たちに指示を出す。この考えは、決して間違いではない。だが、後ろに控えるカバッハーンは別の事を考えていた。

 

「(さて、時間が無いな。間に合えばよいが……)」

 

 決着の時は、もうすぐそこまで迫っている。それが古強者、雷帝カバッハーンの考え。

 

「炎の矢!」

「雷の矢!」

 

 僅かにはなったものの、未だ立っている警護兵たちがランスたちに魔法を放つ。一直線にランスに向かって飛んで行く二本の矢。ランスの横にはパットンの姿。ガードに入る。そうマジックは考えていた。

 

「あがっ! ……ふんっ!!」

「おらよっ!!」

「しっ!!」

 

 だが、その予想は見事に外れた。飛んできた二本の矢をパットンは無視したため、ランスに直撃する。鎧の肩部に命中したものの、ランスはすぐさま攻撃に続けた。パットンもそのまま全力の右拳をZガーディアンに叩き込み、リズナもそれに続く。

 

「……ライトニングレーザー!」

「……っ! きゃぁぁっ!」

 

 マジックの放ったライトニングレーザーが、ロッキーの治療に入ろうとしていたプリマに直撃し、後方へと吹き飛ばした。パットンは距離が離れていたため、流石にガードには入りきれなかった。倒れたプリマはそのまま起き上がって来ない。プリマの治療のために駆けつけようとしたシィルであったが、他の警護兵の魔法に邪魔されて思うように近づけずにいる。これで貴重なヒーラーも一人減った。だが、マジックは困惑していた。

 

「(どういう事……?)」

 

 先程パットンは総大将であるランスのガードをしなかった。ランス自身も魔法を避けようとしなかった。これはどういう事なのか。マジックがそんな事を考えていると、この地下空間に声が響いた。それは決して大声ではない。どちらかというと小さく、戦闘音でかき消されてしまいそうな声だ。だが、その静かでどこか寒気を覚える声は、この場にいた者たちの耳にハッキリと届いた。

 

「死ぬがよい」

 

 直後、耳をつんざくような爆発音が反響し、マジックが思わず耳を抑える。見れば、Zガーディアンの頭部から轟々と火柱が上がっている。それを成したのは、ランスたちパーティーの最後方にいた小柄な少女。彼女が肩に担いでいる見た事の無い兵器。あそこから飛んできた砲弾がZガーディアンに当たった瞬間、強烈な爆発を起こしたのだ。その威力、マリアの放つチューリップをも上回る。

 

「すげーな、殺ちゃん! やったか!?」

 

 シャイラがそう叫んだが、もくもくと煙の上がる頭部から目玉がギロリとシャイラを見下ろしたかと思うと、そのままレーザーを放ってきた。

 

「どわっ!?」

「馬鹿者! お前みたいなへっぽこがそんな台詞を言ったら、倒せるものも倒せなくなるではないか!」

「どんな理論だよ!」

「(でも少し判る気がする……)」

 

 すんでのところで回避したシャイラに文句を言うランス。理不尽だと反論するシャイラだったが、かなみが心の中でランスに同意していた。あの台詞は駄目だと。

 

「倒しきれはしなかったが、後少しってとこだな」

「…………」

 

 パットンの言葉を聞きながら、ランスがZガーディアンを見上げる。殺の一撃を受けた頭部からは今も火柱が上がっており、その他の箇所も蓄積されたダメージは深刻。至る所からバチバチと火花が上がっている。これまで驚異的な耐久度で粘ってきたZガーディアンも、稼働停止までは秒読みに入ったのは確か。

 

「助走をつけて一気に仕留める」

「って事は、それまでここで粘れって事だな。あいよ」

 

 それだけ言い残し、一度後方へと下がろうとするランス。パットンがZガーディアンを殴りながら見送ろうとしたが、その横を一つの影が横切る。それはリズナであった。そのまま後方へと下がるランスの横にピタリとつく。

 

「ん? リズナちゃんも下がるのか?」

「ランスさんにお話ししておきたい事が……」

 

 ランスと並走しながらとある話をするリズナ。その間、最前線ではパットン、シャイラ、かなみの三人が必死に持ちこたえている。リズナがある提案をしたのに対し、ランスは少しだけ考えた後別の提案をした。コクリと頷くリズナ。

 

「わかりました。では、それでいきましょう」

 

 踵を返し、再度最前線へと戻ろうとしたリズナ。そのリズナに対し、ランスは一つだけ質問をした。

 

「どうしてリズナちゃんはわざわざ今聞いたんだ?」

 

 今、リズナがこの話をする事でZガーディアンと戦う面々は一時的に手薄になっており、その分他の者への負担は大きくなっている。リズナは天然だが、馬鹿ではない。自分が下がる事で他の者の負担が増える事など、当然判っている。それでもなお、わざわざランスと共に後ろに下がってきた。そんなランスの問いかけに対し、きょとんとした様子でリズナが答える。

 

「え? 今聞き逃したら、もう機会はないと思いましたので」

「……ふむ。いや、なんでもない」

「では、いってきます」

 

 ペコリとお辞儀をし、薙刀を握り直してZガーディアンへと突っ込んでいくリズナ。その背中を見送りながら、ランスはリズナへの評価を少しだけ改めていた。

 

「(うーむ、リズナちゃんやるなぁ)」

 

 リズナは自分が思っているよりも、こと戦闘においては強いのかもしれないと。ランスとリズナの出会いは決して印象の良いものではなく、特に精神面での弱さをまざまざと見せつけられていた。だからこそ、その評価が戦闘の方へも知らず知らず反映されていたのかもしれない。リズナを見送り、ランスも自身の成すべき事をするために後方へと下がっていく。

 

「ランス、どうしたの!?」

「シィル! 急いで俺様を回復しろ!」

「は、はい! ランス様」

 

 突如後方へ駆けてきたランスに驚いた声を上げるのはマリアだ。傍にいたシィルに回復の指示を出しながら、ランスの視線は殺に向く。

 

「殺ちゃん、グッドだ!」

 

 ランスが親指を立てて殺を褒める。先程の強烈な一撃は殺の持つ兵器、ロケットランチャーによるもの。マリアのチューリップと似て非なる兵器。およそ現代の技術と思えぬそのオーバーテクノロジーぶりにマリアは目を輝かせ、連日のように殺の下に通いロケットランチャーを見せて貰っている程だ。一体殺がどのようにこの兵器を手に入れたのかは謎に包まれている。一度聞いたが、言っている事を理解出来なかったというのが正しい。

 

「で、後何発撃てるんだっけか?」

「今と同じ規模で後二発が限界だな。何せ弾がない」

 

 だが、この兵器には重大な欠点があった。弾の残数が僅かなのだ。殺に聞いたところ、元の世界に戻るか爺さんが持ってきてくれないと手に入らないとの事。元の世界というのが何なのかはよく判らなかったが、そういった事情もあり極力戦闘では温存していた。シャイラが見た事なかったのもそのためだ。

 

「弾なら私が作るから大丈夫よ」

「なら、今出せすぐ出せポンと出せ」

 

 ランスと同じようにグッと親指を立てるマリアだったが、ランスの冷静な突っ込みを受け言葉に詰まる。

 

「うっ……せめて後二か月……チューリップの弾と理論は似てるはずだから……」

「使えん。出会った頃、チューリップの弾がなくてこん棒代わりにしていた頃と同じくらい使えん」

「ひどーい! というか、古い話持ち出さないでよ!」

「くく、そんな事をしていたのか」

「ああっ! 殺ちゃんにも笑われた!」

 

 ああ、懐かしき四魔女事件。あのルークからも足手纏い扱いされていた、チューリップを物理武器として使っていたマリアも今や昔。今ではすっかり主戦力の一人だ。ロケットランチャーの弾はマリアが研究を進めてはいるが、自身のチューリップの改造やランスに頼まれたあれやこれやの研究、大体は余計なものだがそういった事に手を取られ、中々開発が進んでいないのが現状であった。少なくとも、もう暫く弾の補充は無理そうである。

 

「殺ちゃん、ならもう一発撃ってくれ」

「この後も塔の攻略が控えているが、問題ないのか?」

 

 あくまでこの塔は四つある塔の一つ。他の部隊がいくつ成功するかは判らないが、ランスの予想ではどこかしらは失敗するというものであり、そうなれば自分たちが他の塔も攻略しなければならない。破壊活動において、殺のロケットランチャーは十分切り札足り得る兵器。その貴重な残弾をここで使ってしまって良いのかと殺は尋ねた。

 

「問題ない。どうとでもなる。今、この場ではその武器が必要だ」

「承知した」

 

 ニヤリと笑う殺。ランスの選択は温存ではなく、更なる狙撃。先の戦いが厳しくなるが、今この戦いを落とす訳にはいかないのだろう。正に、天王山。

 

「シィルとマリアもよく聞いておけ。狙うのは……」

 

 ランスが後方で指示を出す中、マジックたちも正念場を迎えていた。Zガーディアンに群がる連中に向かい、ライトニングレーザーを放つ。一直線にパットンへと向かったそれは見事に直撃した。というよりもむしろ、避けるような素振りを見せなかった。ぐらりと体勢を崩しかけたパットンであったが、そのまま足を踏み込み強烈なアッパーカットをZガーディアンに喰らわせた。ボン、という破壊音が響き、Zガーディアンのボディが欠ける。先程のランスを守らなかった一件といい、あの男の動きは不可解過ぎる。

 

「一体何なのよ……」

「追い詰められたとき、守りを固める者ばかりではない。背水でこちらに牙を突き立てる者もいる。ただそれだけの事じゃよ」

 

 困惑するマジックの後ろから声が掛かる。後方にいたカバッハーンがゆっくりと歩みを進めてきたのだ。

 

「まるで獣ね。でも、総大将を守らないのは……」

「お主の攻撃じゃったら流石に守っておったと思うぞ。さっきのはわざわざガードに入らなくてもランスなら大したダメージにならないと判断し、攻撃をする事を選んだんじゃろう」

「す、すいません!」

 

 パットンはガードとしても一流だが、アタッカーとしても準一流と言える。雑兵の低級魔法であれば、ランスを守るよりも無視して自分も殴った方が大きなリターンがあると判断したのだろう。ランスの強さを信頼しているからこそ出来る戦法だ。自分たちの不甲斐なさに頭を下げる警備兵たち。

 

「それよりも、出てきたって事は詠唱が終わっ……あれ?」

 

 最後方で雷神雷光の詠唱をしていたカバッハーンが来たという事は、普通に考えれば詠唱が終わった証明。当然そう考えたマジックだったが、すぐに眉をひそめる。上級魔法を放つ直前にある特有の状況、大量の魔力を身に纏う感じが今のカバッハーンにはないのだ。

 

「ああ、ちいとばかし思うところがあっての。途中でやめた」

「はぁっ!? な、なに考えてんのよジジイ!!」

「マジック様、その、お言葉遣いが……」

 

 その広いおでこにビキッと青筋を浮かべて怒鳴るマジック。サチコが恐る恐る止めに入るが、あぁんという感じでマジックに睨まれてしまいすぐに委縮する。

 

「キレやすい若者という報道をこの間読んだんじゃが、本当のようじゃのう」

「キレさせてんのはどこのどいつよ! このクソジジイ!」

「ほれほれ、そう怒鳴るな。今からちゃんと詠唱し直すから待っておれ」

 

 マジックの前で再度雷神雷光の詠唱に入るカバッハーン。ぜぇぜぇと息を整えたマジックは、真剣な表情でカバッハーンに意見する。

 

「なんでよ。雷帝なんて呼ばれているんだから、私なんかよりもよっぽど状況は判っているでしょ。今は一分一秒を争う時だっていうのに……」

 

 一手の遅れが敗北に繋がる。今はそういう状況だ。そんなマジックの真剣な抗議を受け、カバッハーンが詠唱をしながらずいと一歩前に出る。そしてそのままゆっくりとした歩みで一歩、また一歩Zガーディアンの方へと進んでいく。前線へ出ようとしているのだ。

 

「ちょっと……」

「まあ、見ておれ」

 

 振り返らず、背中越しに語る。その背中が、御年80にも近い老人の背中が、マジックの目にはとても巨大なものに映った。知らず、息を呑む。

 

「…………」

 

 ゆっくりと一歩ずつ前へと歩みながら、カバッハーンは詠唱を続ける。それに呼応するように、ランスも後方から一気に駆けだした。歩むスピードは遥かに違う。若く勢いのあるランスと、年老いて遅いカバッハーン。まるで今の二人を象徴しているかのよう。先を行く老人と、それに猛烈な勢いで迫る若者。

 

「武舞乱舞! おらおらおらおらおらおらおらぁぁぁぁぁ!!!」

 

 目の前では、暴力の嵐がZガーディアンに吹き荒れていた。小爆発が各所で起きる中、反撃のビームがパットンに直撃する。体勢を崩し、口から血を吐いてもなお手を止めず吹き荒れる。正に獣が如し。

 

「ライトニングレーザー!!」

「っ……がぁっ……」

 

 そんな嵐も遂に止む時が来る。ビームに続きマジックのライトニングレーザーもその身に受け、Zガーディアンにもう一発拳を入れたところでパットンは遂に両膝をついた。息を吐き、床を見るパットン。そんなパットンを見下ろすように、Zガーディアンが再びビーム攻撃の準備を始めた。キラリと光るモノアイ。だが、パットンはZガーディアンを見上げる事無く、静かに口を開く。

 

「ギリギリ粘り切ったぜ……」

 

 瞬間、パットンの肩に重い何かが乗る。それは、ランスの右足。座り込むパットンを台座代わりにしたのだ。それに対し、パットンはまるでそうされるのが判っていたかのように体勢を崩さない。パットンを踏み台にして一気に上空へと跳び上がったランスは、今正にビーム照射をしようとしているZガーディアンの顔面に向けて剣を振り下ろした。閃光が走り、直後Zガーディアンの頭部で爆発が起こる。それが、合図。直後に始まる決戦の。

 

「Zガーディアンが……」

 

 後方で歯噛みするマジック。厄介であったパットンを落とした喜びはそこにはない。僅かではあるが、敵はまだ残っている。それも、一番厄介なあの男が。爆発を起こしながらゆっくりと崩れ落ちていくZガーディアン。その肩口に、あの男は乗っていた。剣を振り下ろした後、そのままその場所に着地したのだろう。高い位置から睨み付けるようにしてカバッハーンを見下ろしている。纏う迫力にサチコは思わず震えるが、カバッハーンはなんら臆する事無く平然と見上げていた。

 

『雷帝は引退を考えられてはいないのですか?』

 

 今の王に、かつてそう問われた事がある。

 

『そうじゃな。儂が引退を考えるとすれば、それは……』

 

 ガンジーの世代では駄目であった。ガンジー自身はその器であったが、他が揃っていない。他国を見回しても、強者である者たちは変革を求めぬ者が殆ど。10年以上前、臨時講師をしにいった学校で二人の若人を見た時にその世代には期待をした。それに応えるように、その二人は期待以上の成長を遂げた。サイアスとルークだ。だが、まだ足りない。

 

『老人の力など必要としない、時代を変える強大な力を持った若人たちが雁首揃えて大量に現れた時じゃろうな』

 

 サイアスとウスピラ、少し離れてアレックスとマジック、最近ではキューティなども良い目をしている。他国も含めるのならばルークにヒューバート。赤い死神も悪くない。そして、目の前のこの男。揃ってきている。次代を担う役者が。

 

「さて……」

 

 詠唱を終え、静かに笑うカバッハーン。自分を引退へと追いやるかもしれぬ者たちの出現が、何故だか心地よく感じる。されど、簡単に譲る気はない。

 

「いくぞ、ジジイ!」

「越えてみせい……」

 

 カバッハーンの全身が雷に包まれ、バチバチと火花が鳴る。瞬間、崩れ落ちるZガーディアンの肩からランスが跳び上がり、そのままカバッハーンに向かっていった。同時に、Zガーディアンの横から飛び出す一つの影。

 

「魔抵付与!」

 

 それは、リズナであった。飛び掛かるランスと並走しながら、ランスに魔法抵抗力の上がる付与魔法を掛ける。

 

『ランスさんにお話ししておきたい事が……ランスさんも一度勉強しているところにいらっしゃいましたが、志津香さんに習っていた付与魔法が使えるようになっています』

 

 先程、ランスが後方に下がる時にリズナが話してきたのはこの事であった。アイスフレームに来てから、リズナはもっと皆の役に立てるようになりたいと考え、志津香に支援系魔法を習っていた。その後ごたごたがあり、志津香がアイスフレームを出て行ってしまったが、その少し前にほぼほぼ習得は終えており、先日ようやく実践レベルで使える水準まで達していたのだ。

 

『次に飛び掛かる時に、攻撃付与を掛けましょうか?』

 

 リズナは次の攻防でZガーディアンと決着がつき、更にそのままカバッハーンとの決戦に移行すると予測していたため、このようにランスに提案してきたのだ。ランスが感心したのも、リズナが正確に戦闘の状況を把握していたからだ。そんなリズナの提案に対し、ランスはこう返した。

 

『魔法が効き難くなるのは使えるか?』

『魔低付与ですか? 効果量に少し自信がありませんが、一応使えます』

『なら、それで頼む。あんなガラクタとジジイ相手に攻撃付与なぞ必要ない。俺様の素の力で十分だ』

『わかりました。では、それでいきましょう』

 

 これが、先程のやり取りであった。リズナの魔低付与を受け、ランスはそのままカバッハーンに飛び掛かっていく。また、魔法を放ったリズナ本人もそのまま薙刀を構え、カバッハーンへと駆けていく。

 

「…………」

 

 迫りくる二つの強者。付け焼刃の付与魔法で防ぎ切ろうとする男と、奇妙な体質により驚異の魔法抵抗力を持つ女。そんな二人を前に、カバッハーンは不敵に笑った。耐えて見せろと。瞬間、カバッハーンの全身が発光する。全身に溜め込んだ雷の魔力が、一斉に解き放たれたのだ。

 

「雷神雷光!!」

 

 夥しい程の雷撃が迫りくるランスとリズナに向かって放たれる。上下左右前後、一瞬で二人の周囲を包み込んだかと思うと、そのまま一気に襲い掛かった。

 

「っ……」

「くっ……」

 

 その雷撃に押されるようにランスが空中で制止させられ、リズナもその歩みが止まる。先程までの魔法と威力が段違いであり、異常ともいえる魔法抵抗力を持つリズナですら苦痛に顔を歪ませその足を止めてしまった。

 

「よしっ!」

「ランス様っ!!」

 

 マジックが思わず拳を握り、シィルが悲鳴を上げる。後ろに控えるゼス兵たちは、この時点でカバッハーンの勝利を疑っていなかった。何せあの雷帝の必殺の一撃。耐えられる訳がないと思うのが当然の事。

 

「…………」

 

 だが、カバッハーンは魔法を放ちながら真っ直ぐと二人の姿を見据えていた。雷撃は未だカバッハーンの全身から出続けており、目の前の二人を飲み込んでいる。そんな中、俯いていた二人がほぼ同時に顔を上げ、こちらを見据えてきた。空中で制止していたランスはまるで雷を押し込むかのようにジリジリとこちらへの落下を再開し、リズナもまた強烈な雷撃の中で一歩、また一歩と歩みを進めた。雷帝の魔法を耐えただけでなく、前進を続けているのだ。二人とも、疑いようのない傑物。

 

「見事」

 

 そうカバッハーンが感嘆の声を上げたのと同時に、その肩に突如姿を現した小さな影があった。それを見たランスとリズナは目を見開く。ローブの中にでも隠れていたのだろうか。ぴょこんと現れたその小さな精霊は、威風堂々としながらも愛嬌のある腕組をしながらカバッハーンに向かってこう口を開いた。

 

「いくぜ、じじい!」

「おうとも」

 

 精霊の全身が光輝いたかと思うと、突如カバッハーンの全身から放たれていた電撃が膨れ上がり、けたたましい轟音を鳴り響かせた。雷の精霊、双葉。普段はカバッハーンの周りを可愛らしく飛び回っているだけであるが、彼女には一部の者しか知らない隠れた特性がある。何故一部の者しか知らないのか。それは、その特性を見た者は生き残る事の方が稀だからだ。『雷』の精霊である彼女は、雷魔法の威力を高める特性を持っている。いわば、外付けの魔力ブースト装置。

 

「ぐっ……」

 

 上から押し込まれるように重圧が掛かり、空中にいたランスはそのまま勢いよく地面へと叩きつけられる。床が破裂する音に次いで、そのまま夥しい数の雷撃がランスを飲み込んだ。

 

「くっ……あっ……」

 

 薙刀が地面へと落ちる音は、轟々と鳴り響く雷音に飲み込まれ誰の耳にも届かなかった。ただ、武器を落としその場に膝をつくリズナの姿だけが皆の目に映し出されていた。

 

「(ここまで……ここまで高みに至られているとは……)」

 

 雷撃を受け続け呼吸をするのも困難な中、リズナは驚愕していた。かつて、自分がまだゼスの学生であった頃、その時点でカバッハーンは他の追随を許さぬ雷魔法の使い手であった。だが、年老いた彼は更に高みへと昇っていた。こと雷魔法においては、人類の到達出来る最高地点に立っているのではないだろうか。そう考えてしまう程の魔力に、遂にリズナはその場に倒れ込む。されど雷の雨は止まず、上から押し込むようにリズナに振り続ける。未だ意識を保てているのは、リズナの高い魔法抵抗力があってこそ。普通ならば既に意識は失っている。いや、弱者であれば絶命していてもおかしくない。

 

「これが……雷帝……」

 

 サチコがそう呟く。味方であるはずなのに、尊敬すべき存在であるのに、サチコはどこか恐怖を覚えていた。数多くの戦場に立ち、数えきれぬ程の敵兵を屠ってきた。いつしか、男は雷帝と呼ばれていた。リーザスの赤い死神よりも、ヘルマンの人斬り鬼よりも、屍の数を築いてきたゼスの雷帝。敵も、そして味方ですらも、戦場ではその男に恐怖する。

 

「ジ……ジイ……」

 

 だが、その男は今なお恐怖していない。床に墜落し、雷撃に飲み込まれてもなお、剣を離す事無くこちらを睨み付けている。不敵に笑う老兵であったが、嬉しさに震えているのはカバッハーンだけではなかった。

 

「見事だ。それでこそこちらに残った甲斐がある」

 

 ランスの姿を見守っていた殺が嬉しそうにそう呟く。見込んだ男が、見込み以上の働きを見せた事がただただ純粋に嬉しかったのだ。そして、静かにロケットランチャーを担いだ。狙いは一つ。ランスとリズナが命がけで繋いだ道だ。外す事は許されない

 

「死ぬがよい」

 

 オーバーテクノロジーの兵器から再度放たれる砲弾の嵐。それを見たマジックがすぐさま叫ぶ。

 

「まずいわ! 雷帝を守っ……」

 

 そこまで言いかけて、マジックは気が付く。弾道はカバッハーンに向いていない。このままならばその遥か上空を過ぎ去り、マジックたちの更に後方へと到達する。そう、殺が狙っていたのはカバッハーンでもマジックでもない。

 

『シィルとマリアもよく聞いておけ。狙うのは、奥の部屋だ』

 

 乱戦の中で忘却していた者もいるだろうが、こちらの勝利条件はカバッハーンの撃破でもマジックの撃破でもない。マナバッテリーの破壊。そしてそれは、まず間違いなく奥の部屋にある。精密機械であろうそれは、ロケットランチャーの爆破を少しでも受ければ、例え直撃でなくとも破壊出来る可能性は高い。ランスはそう考え、殺に指示を出したのだ。

 

「撃ち落してっ! ライトニングレーザー!」

「ほ、炎の矢!」

 

 殺の放ったロケットランチャーに向かって一斉に魔法を放つゼス軍。だが、その魔法を一筋の炎が横から飲みこんだ。マジックがその魔法が放たれた方向に目を向けると、そこには特徴的なピンク髪の魔法使いが両手を前に突き出して立っていた。

 

「ファイヤーレーザー」

「っ……あの女、回復魔法だけじゃなく、これ程高威力の魔法も……」

 

 ヒーラーであったはずのシィルが放った一撃に驚くマジック。魔法大国であるゼスでも、魔法と神魔法の両方を高水準で使える魔法使いはそうそういない。だが、それだけ傑物であるシィルの魔法でもマジックの魔法は相殺しきれなかった。シィルの魔法が当たり勢いは弱まりこそしたが、マジックの放ったライトニングレーザーはしっかりとロケットランチャーの弾を捉え、爆発を引き起こした。だが、全ての弾道を落とすには至らず、生き残った数発は真っ直ぐと奥の部屋に向かっている。シィルの魔法さえなければ、悠々と全弾落とせていた事だろう。

 

「(成程。儂の目を自分に向けさせ、真の狙いは恐らく当初からの目的であるマナバッテリーの破壊から目を逸らさせる事……いや、撃破も諦めてはおらんのか)」

 

 雷撃に飲み込まれているランスを見ながらそう思案していたカバッハーンは、直後雷の嵐を縫うようにして迫る影を見て考えを改める。

 

「(リーザスの忍びか)」

 

 矢は残っていた。ランスとリズナとは共に攻めず、崩れ落ちるZガーディアンの陰に息を潜めて隠れていた矢が。同時に攻め込んでいたら、雷神雷光で倒されていただろう。だが、放たれ切った後の雷撃ならばその間を縫って近寄れる。空からマナバッテリーを狙うロケットランチャー、地からカバッハーンを狙う見当かなみ。ランスが狙うのは、マナバッテリーだけを破壊する条件付き勝利ではない。狙うは一つ、完全勝利。

 

「雷帝っ!」

 

 マジックや他のゼス兵が声を上げる。凶刃が自分に迫り、絶対に守らねばならない機密に砲弾が迫る。そんな絶体絶命の窮地の中、老兵は静かに呟いた。

 

「後一手足りんかったのぅ」

 

 雷帝の全身が発光し、バチバチと火花が散る。それは、先程一度見た光景。だが、かなみもシィルも、そして味方であるマジックですら一瞬何が起こっているのか理解出来なかった。何故なら、それは絶対に有り得ない光景だから。

 

「嘘っ……」

「そんなっ! 出来るはずがありませんっ……」

 

 一瞬遅れて目の前で何が起こっているのかを理解したかなみとシィルであったが、今なお信じる事が出来ない。

 

「(そう、連発なんて出来るはずがないっ……雷帝は何をしたの……?)」

 

 マジックも困惑する。そう、出来るはずがないのだ。無詠唱の低級魔法ならばいざしらず、最上級レベルの魔法の連発など不可能。それは、世界の常識。いくら雷魔法を極めた雷帝といえど、その理を破る事は出来ないはずだ。そこまで考えてから、マジックはある事に思い至り目を見開く。

 

『ちいとばかし思うところがあっての。途中でやめた』

 

 先程雷帝は、雷神雷光の詠唱を途中でやめたと口にした。自分はそれを、『詠唱を破棄した』と思い込んだ。だが、真相は違ったのではないか。雷帝は、『詠唱を途中で中断した』のではないか。

 

「まさか……」

 

 それは、少し前にゼスにやってきた客将、エムサ・ラインドからもたらされた魔法。ゼス軍でも会得できた者は僅かしかいない。マジックは会得出来たものの上手い使い道が判らず、この戦闘では使用していなかった。だが、使いようによっては切り札と成り得る恐るべき魔法。その名は……

 

「詠唱停止っ!?」

「雷神雷光!!!」

 

 再びカバッハーンの全身が眩く発光し、夥しい程の雷撃が放たれた。それは空を飛ぶロケットランチャーを、地を駆けるかなみを、そして床に倒れ伏すランスとリズナをも飲み込んだ。そう、カバッハーンは詠唱停止の魔法を使う事で雷神雷光の詠唱を途中で止め、その上で再度雷神雷光を詠唱する事により、本来あり得ぬはずの最上級魔法の連発を成したのだ。

 

「見事」

 

 先程のカバッハーンと同じ感想を殺が呟くと同時に、爆音が部屋を包んだ。それは、ロケットランチャーの弾が全て撃ち落された音。次いで、かなみの悲鳴が響く。

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

「っ……」

「あっ……」

 

 かなみ、ランス、リズナの三人を雷撃の嵐が飲み込む。それは、絶望的な光景。カバッハーンへと向かっていた全ての矢が、今叩き折られたのだ。

 

「ちく……しょう……」

「怖いだす……」

「これが……」

 

 パットンが、ロッキーが、プリマが、その男に恐怖する。これが、ゼスの誇る巨大なる壁。これこそが、雷帝だ。

 

「…………」

 

 爆風吹き荒れ、マントがたなびく。威風堂々たる佇まい。その上空には、先程破壊した砲弾の白煙が立ち込めている。今度こそ、誰しもがカバッハーンの勝利を確信していた。そんな中、上空にある白煙を一つの砲弾が切り裂いていった。

 

「えっ?」

「っ!?」

 

 マジックが言葉を発したのと同時に、カバッハーンは奥にいるある人物を見た。殺の更に後ろ、まるで隠れるかのように存在を消していたその女は、自身の武器を肩に担いでいる。その砲身から立ち上がる煙が、先程白煙を切り裂いた砲弾があの武器から発射された事を物語っている。そう、彼女は切り札であるはずの殺のロケットランチャーを囮にしたのだ。

 

「いっけぇー! チューリップ!!」

 

 マリアの声が部屋に響く。白煙を切り裂き、奥の部屋へと真っ直ぐと向かうチューリップの砲弾。地の矢は折れようとも、空の矢はまだ折れ切ってはいなかった。ランスは自身だけでなく、ロケットランチャーをも囮に使ったのだ。

 

『乱戦だと存外あの娘が厄介じゃわい』

 

 カバッハーンの言葉を思い出し、マジックが唇を噛み締める。カバッハーンは判っていた。マリア・カスタードという女の危険性を。自分が上級魔法であの女を退場させていれば、この状況はなかった。

 

「(詰みか。いや、まだ間に合うか……)」

 

 チューリップの砲弾を見上げながら、カバッハーンは思案する。放たれた雷神雷光の雷撃を無理矢理方向転換し、今からでも砲弾に向かわせるか、と。間に合うかは厳しいが、試す価値はある。そう考え正面を見据えたカバッハーンであったが、その目が見開かれた。

 

「嘘……でしょ……」

 

 カバッハーンに遅れ、その男が立ち上がっている事に気が付いたマジックが言葉を漏らす。二度の雷神雷光を受けて床に倒れ伏せていたその男は、確かに立ち上がっていた。そして、今もなお雷撃を受けながら、一歩ずつカバッハーンに近づいていく。地の矢も、まだ折れ切ってはいなかった。

 

「(止まらぬか……)」

 

 雷撃に押されながらも歩みを進めてくるランスを見るカバッハーン。確かに、ランスとリズナにのみ降り注いでいた一発目に対し、かなみとロケットランチャーの砲弾も狙ったために雷撃の本数は分散されていた。床に押し込まれていたランスが、最初のように押し返せるようになっているのは合点がいく。だが、そういう事ではない。そもそも、いくら魔低付与をしていたとはいえ、雷帝の雷神雷光を二発も受けてなお意識を保って歩み続けられる事の方が異常なのだ。あのリーザスの忍びも強者であるが、既に意識を失いかけている。押し返す云々ではなく、威力に耐えられるはずがないのだ。

 

「何が……俺様なら越えられるだ……」

 

 だが、現にランスは立っている。ゆっくりとだが剣を構え、歩みを進めている。それを成すのは、強靭な肉体と付け焼刃の魔低付与。そして、類まれなる精神力。ランスとて、いつ意識を手放してもおかしくはない。それ程のダメージだ。だが、その歩みは止まらない。雷撃を受けながらも歩みを進めるその姿は、まるでその身で雷鳴を斬り裂いているかのようであった。

 

「がっ……はぁ……はぁ……」

『お前なら、越えられるんだ。壁を……』

 

 息を吐くランス。その頭を過ぎるのは、あの男の言葉。カバッハーンの前まで歩みを進めたランスは、両手で剣を振り上げた。

 

「ふざけるなっ! 俺様の前に、壁などないわっ!!」

「ぬぉぉぉぉっ!!」

 

 カバッハーンに向けてランスの剣が振り下ろされた瞬間、爆風が二人を包んだ。ランスの纏っていた雷撃の魔力とカバッハーンの纏っていた雷撃の魔力同士がぶつかり、小爆発を起こしたのだ。直後、マリアの放った砲弾も奥の部屋へと届き爆発が起こる。すると、けたたましい警告ベルが弾倉の塔に鳴り響いた。

 

「えっ!? なんですか、この音は!?」

 

 奥の部屋に何があるのか知らなかったサチコたちが困惑する。それは、マナバッテリーが破壊された事を知らせるアラート音であった。だが、マジックは目を離せない。何故だか判らないが、白煙の中、床に倒れ伏すカバッハーンの前に立ち尽くす男から目が離せないのだ。その男は、倒れ伏すカバッハーンを見下ろしていなかった。その目が見据えるのはマジックでもない。まるで今この場にいない誰かを見ているかのように正面を見据え、淡々と言葉を続ける。

 

「てめぇが詰まっている壁など、俺様には関係ない。邪魔なものは全てぶち壊して突き進む。それだけだ」

 

 そう。この男の前に壁などない。その歩む道は自由奔放。己が欲望のままに突き進み、邪魔するものは斬り伏せてでも押し通る。それがランスなのだ。

 

「何をグダグダと悩んでやがる……」

 

 その呟きは、今この場にいない誰かに言うかのようであった。振り下ろしていた剣を担ぎ直し、息を整えるランス。そして、こちらを見ていたマジックと目が合った。

 

「おっと、そうだ。マジックちゃんを頂かないと……うおっ!」

 

 マジックの方に歩み寄ろうとしたランスであったが、そのまま体勢を崩して膝をつく。足が文字通り痺れていてまともに歩けないのだ。勢いを付けて立ち上がるが、今度は逆側の膝をついてしまう。雷神雷光のダメージは、嫌という程ランスの体に刻み込まれていた。

 

「ランス、作戦は終了よ! 帰還するわよ!」

「馬鹿者! まだマジックちゃんの処女を頂くという一番重要な任務が残っているだろうがっ!」

「ええっ……」

 

 思わず声を漏らすマジック。この状況においてなお、まだそんな事を言ってのけるのか。先程恐怖すら覚えたあの白煙の中に立ち尽くしていた男と、今のこの男が全くイコールで繋がらない。一体どこまで本気なのか。そんな中、殺が口を開く。

 

「時間切れだ。エレベーターが動く音がした。じきに増援がこの部屋まで来るぞ」

「げげっ! マジか、殺ちゃん」

「大真面目だ」

「ぐうっ……ええい、撤退だ!」

「ランス、帰り木だ」

 

 苦渋の決断を下したランスに向かってシャイラから帰り木が投げられる。後方にいるシィルが持つお帰り盆栽からは距離が離れており、有効範囲から外れているからだ。

 

「あ、貴様! 最後サボっていたな!」

「サボってねーよ! 突っ込んでもしょうがねえから、周囲の奴に肩貸してお帰り盆栽の有効範囲まで運んだり、動けない奴には帰り木配ったりしてたんだよ!」

 

 まだ動けたメンバーで唯一最後の攻防に参加していなかったシャイラ。その事をランスが責めるが、当然シャイラもサボっていた訳ではない。決着の時が近い事をリズナから教えられていたシャイラは、Zガーディアンが倒れる少し前くらいからロッキーやプリマに肩を貸してシィルの傍まで運んだり、動けないパットンやかなみ、リズナたちに帰り木を配ったりしていたのだ。こうしてスムーズに撤退出来るのはシャイラの縁の下的な働きが大きいのだが、ランスにはそんな事関係ない。

 

「このサボり魔め。帰ったら久しぶりにお仕置きじゃ!」

「理不尽だ! それに、お仕置きなら先に撤退したネイの方だろ」

「清々しいまでの仲間の売りっぷり」

「まあ、仲が良いからこそだろうな」

 

 息を吐くようにネイを売るシャイラ。マリアが苦笑し、殺がそう評価する。相棒であるが故の裏切り。うん、よく判らないとマリアは小さく頷いた。

 

「お帰り盆栽!」

 

 シィルがお帰り盆栽を使い、それに呼応するように有効範囲から外れている者たちが帰り木を折る。ランスも痺れる手で帰り木を折りながら、マジックに向かって言葉を発した。

 

「マジックちゃん、待っていろ! 君の処女は必ず俺様が奪……」

 

 そこまで言ったところで、ランスの姿は消えたのだった。

 

「最低の捨て台詞ね……」

 

 頭を抱えるマジック。すると、先程殺が言っていたように上階からのエレベーターが到着し、ぞろぞろと援軍の警護兵が降りてきた。

 

「マジック様! ご無事ですか!?」

「っ……そうね、こうしちゃいられない。賊には逃げられたわ。すぐに怪我人の治療。あと、千鶴子に連絡。まずい事になったって」

「はっ! 治療班、上の階にいくらか戻れ。あちらの者たちの方が重症だ」

「私は雷帝様を治療します!」

 

 状況を思い出し、すぐさま指示を出すマジック。いつまでも呆けている暇はない。上階にいた者たちの方が重症であったため、治療班の半数以上が上階へと戻っていき、サチコはカバッハーンへと駆け寄る。マジックもそれに続くようにカバッハーンの下へと駆けていく。

 

「雷帝様! 死なないでください、雷帝様っ!」

 

 サチコが泣き叫び、増援でやってきたゼス兵も騒然としている。小爆発の影響か、床は破壊され破片が飛び散っている。その中心、ゼスを支えてきた古強者が大の字で仰向けに寝転がっている。フードで隠れ顔は見えないが、ピクリとも動かない。

 

「雷帝様ぁぁぁ!」

「(これは、もう……)」

 

 泣き叫ぶサチコの横で、マジックは確信を持った。雷帝は既に……

 

「よっと!」

 

 瞬間、カバッハーンが勢いよく体を起こす。マジックも、サチコも、そして周囲にいた者たちもみな目を見開き呆けている。

 

「雷帝様!」

「……生きてたの?」

「そのようじゃな」

 

 涙目のサチコから治療を受け、マジックを見上げながらそう答えるカバッハーン。どこか嬉しそうにしながら、言葉を続ける。

 

「かかか。あ奴め、トドメを刺さんかったわ」

「パパー!」

 

 ニヤリと笑うカバッハーンの下へ、雷の精霊が飛んでくる。それは、先程までカバッハーンと一緒に戦っていた双葉ではない。双葉はカバッハーンの右腕に涙目でくっついている。今飛んできたのは、もう一人の精霊である萌の方だ。

 

「(そういえば、戦闘中こっちの姿は見えてなかったわね)」

「大丈夫でしゅかー!」

「おう、大丈夫だとも。それで、どうだった?」

 

 一体何の事かとマジックが眉をひそめる中、萌は胸を張って質問に答えた。

 

「萌、聞いたでしゅ。眼鏡の女が、この先にマナバッテリーはあると思うって言ってたでしゅ。口の大きい男が、マジックちゃんの処女を頂いて、ついでにマナバッテリーを破壊だって言ってたでしゅ」

「うーむ、教育に悪い男じゃのう」

「そっちも本気だったのね……って、違う! それって……」

 

 自分の処女も冗談ではなく本気で狙っていたのかとげんなりするマジックであったが、直後に今の情報の重要性に気が付く。

 

「あ奴らの目的じゃ」

「姿が見えないと思っていたら、いつの間に仕込んでたの……?」

「かかか!」

 

 マジックからそう問われ、カバッハーンは笑う。一度目の撤退の際、カバッハーンは既に仕込みを終えていた。精霊の内の一体、萌を上階のエレベーターの前に潜ませていたのだ。自分たちがいなければ、ランスたちはポロリと情報を口にする可能性が高い。そう考えたからだ。そして、その読みは的中した。カバッハーンはランスたちの目的がマナバッテリーであるという証拠を掴んだ。

 

「……でも、雷帝なら検討はついていたんじゃないの? 実際に奥の部屋は破壊されている訳だし、その情報に意味はないんじゃ……」

「いや、違う。意味ならある。そうじゃな、儂は奴らの目的がマナバッテリーであると99%確信していた。だが、証拠はない。それでは、動かせるものが変わって来る」

「動かせるもの……?」

「反ガンジー派の貴族たちは、確証がなければ容易には首を縦に振らん。あ奴らは千鶴子様の邪魔をする事に念頭を置いておるからの。マナバッテリーが破壊されていても、それが戦闘の余波で偶然破壊された可能性があれば、そう簡単には動かんよ。レジスタンスがマナバッテリーの存在を知るはずがないと思い込んでいるからのう」

 

 そう。マナバッテリーは破壊された。だが、それは戦闘の余波で偶然破壊された可能性も0ではない。マリアの撃った流れ弾が、偶然にも奥の部屋に飛び込んでいった。それを否定する材料は、先程までなかった。だが、今はある。

 

「この情報があれば、貴族たちも黙ってはいない……」

「うむ。奴らとて、国を終わらせる訳にはいかんじゃろうからな。協力せざるを得んさ」

 

 敗北してなお、後へと繋げる。これこそが古強者の真の恐ろしさ。

 

「ランスよ。流石にそれは見過ごせんぞ」

 

 マナバッテリーの破壊が何に繋がるのか理解しているカバッハーンはそう小さく呟いた。そんな中、マジックが先の戦闘を思い出して眉をひそめる。

 

「それにしても、あの男は何であそこまで耐えられたの……?」

 

 いくら魔低付与を受けており、肉体を鍛えていたとはいえ、あの耐久力は常軌を逸していた。その疑問にカバッハーンが答える。

 

「ふむ。恐らく、精神的なものじゃろうな」

「痩せ我慢って事? それであんな……」

「言い方はあれじゃが、間違ってはおらん。魔法によるダメージの内、精神的なものが占める割合が多いのは知っておるな」

「はい。極端な話、魔法に否定的な思考を持つ強靭な精神力の持ち主であれば、魔法を完全に無効化する事が出来る、と」

 

 カバッハーンの問いに対し、サチコは教科書の中にあった記述を思い出して頷く。多かれ少なかれ、魔法には効きやすさがあるのは事実。だが、マジックはその意見を一蹴する。

 

「でも、それは本当に極端な例で、実際にはあり得ないでしょう」

「いや、儂は少し前に、魔法が全く効かない者に会った事がある。あ奴はその極端な例と言えるじゃろうな。魔法を認めないという強靭な精神力で、魔法そのものを無効化しておった」

 

 闘神都市の戦いを思い出すカバッハーン。その言葉を受け、マジックとサチコが目を見開く。本当にそんな化物じみた者が存在するのか。だとすれば、それは魔法大国であるゼスにとって最も恐ろしい存在。

 

「(まあ、あれは肉体を改造された事による影響もあるじゃろうがな)」

 

 強靭な精神力と闘将への改造が歪に合わさり出来た産物のため、ただの人間が至れるものではない。カバッハーンは当然それを理解していたが、真剣な表情をしている二人には言わずにいた。意地悪か、あるいは魔法が絶対的なものではないという自覚を持ってほしかったからか。

 

「さっきのあいつは、その領域だったって事?」

「そこまではいかん。魔法はしっかり効いておった。ダメージもあった。だが、精神力があ奴を突き動かした。本来ならばあり得ぬ程にな」

「そんな事が……」

 

 絶句するサチコを横目にカバッハーンは更に見解を続ける。

 

「じゃが、毎度出来るものではない。どんな事情があったかは知らんが、今この瞬間だけ、あ奴は普段以上の精神状態であった。様々な要因が働いてな。以前のあ奴はここまでの精神状態ではなかったし、恐らく次に会った時も違うじゃろうな」

 

 ルークとランスの決闘を知らぬカバッハーンであるが、何らかの要因でランスの精神状態が高い位置にあった事を的確に見抜き、そう結論付けた。萌の頭を撫でているカバッハーンを見ていたマジックがその見解を聞いていると、ふとある事に気が付く。

 

「ちょっと待って! その精霊も魔法の威力を上げる事は出来るの?」

「ん?」

 

 双葉が見せた雷魔法の魔力ブースト。それは萌にも出来るのではないかという事にマジックは思い至ったのだ。もしそれが出来ていれば、雷神雷光の威力は更に上がり、ランスですら耐えられていなかったのではないだろうか。

 

「ああ、出来るぞい」

「じゃあ、その精霊さえ残っていれば、勝敗は違っていたんじゃないの?」

「そうですよ! 勝っていたのは雷帝様ですよ!」

 

 マジックの言葉にサチコも便乗する。ゼスの人間は認めたくないのだ。雷帝の敗北を。だが、二人の言葉をカバッハーン自身が一蹴する。

 

「それは違う。儂は最善の策として萌を上の階に残した。結果として、奴らの目的という最高の情報を得る事が出来た」

「でも……」

「もし、あ奴が全力で剣を振り切っていれば、儂は既に死んでいる」

「それは……」

 

 マジックが反論しようとしたが、その言葉をカバッハーンが遮る。マジックを見るその目は先程までとは少し違う、戦闘時と同じ真剣なものであった。

 

「もし、あ奴がマジック様を殺す気でいたのならば、一番初め。マジック様が不用意にあ奴の手から本を回収するために近づいた時に、その命は奪われておる」

「っ……」

 

 カバッハーンの視線を受け、マジックの背中に冷たいものが走った。一番初め、ランスと会った際、自分は不用意にランスに近づき雑誌を回収した。今思えば、なんと命知らずの行動か。もしあの時ランスが凶刃を振り下ろしていれば、自分は今ここにはいない。

 

「歴史にIFはない」

 

 ボロボロの兵士たち。動かなくなったZガーディアン。そして、破壊されてしまったマナバッテリー。周囲を見回し、カバッハーンは静かに断言する。

 

「この勝負、儂等の完敗じゃ」

 

 息を呑むマジックとサチコを横目に、カバッハーンはゆっくりと目を閉じる。その瞼の裏に浮かぶのは、いつの間にやら増えた若者の数々。少し前まではサイアスとルークしかいなかった。だが今は、これでもかという程の数が立ち並ぶ。そして、いつの間にやらあの男が中心に立っている。生意気にも自分にトドメを刺さなかった、傍若無人なあの男が。

 

『儂が引退を考えるとすれば、それは……老人の力など必要としない、時代を変える強大な力を持った若人たちが雁首揃えて大量に現れた時じゃろうな』

「(そうか……その時が来たのかもしれんな……)」

 

 大分遠くにいたと思っていた若者たちが、いつの間にやら自分のすぐ後ろにいる。横を見れば、並んでいる者すら存在する。カバッハーンはそんな感覚を覚えていた。

 

「(まあ、あくまで考えるだけじゃがな。引退なぞまだまだする気はないがな)」

 

 想像の中のガンジー王がこけたような気がした。ニヤリと笑うカバッハーンであったが、その目は真剣そのもの。

 

「(数多の屍を築いてきたこの身、最早悠々とした隠居なぞ許されんさ。この身が動かなくなるまで戦い、戦場で死ぬ。それしか儂に残された道はない)」

 

 夢想するは、未だ見ぬ戦場。多くの屍の先に立つ、遥か高みの強敵。その者に成す術も無く破れ、死ぬ。それが自分に残された道だと老兵は確信している。

 

「(願わくばその相手が……)」

 

 それは、夢か幻か。あるいは遠い未来の話か。周囲に数人の見物人はいるが、対峙するは自身とその相手のみ。それが、最後の戦場。この者が、自分に引退という名の死を運ぶ者。

 

「(儂以上の雷の使い手である事を望む)」

 

 怒れる王。雷神と呼ばれる魔人。

 

 

 

-王者の塔-

 

「以上です」

「ご苦労様。貴方がいてくれて助かったわ」

 

 王者の塔の管理者である千鶴子は、サイアスからの報告を受け彼を労う。王者の塔の警護に当たっていたサイアスは見事と言える結果を出した。侵入してきた賊を壊滅させ、隊長と思われる男は取り逃したものの、二人程捕虜として捕らえる事にも成功していた。

 

「聞いた話によると、他の塔も攻められたようですね」

「ええ。でも、跳躍の塔と日曜の塔はうちと同じように防衛に成功したわ。日曜の塔でも捕虜を捉えたみたい。ウスピラから、貴方も見るようにって伝達が来てるわ」

「俺もですか?」

 

 日曜の塔からの報告書類を千鶴子から受け取るサイアス。そこに目を通すと、捕虜の名に意外な人物の名前があった。

 

「これは……」

「知り合いなんでしょ?」

「関わりは深くないですが、まあ知らない間柄ではないですね」

 

 書類を千鶴子へと返し、真剣な表情で千鶴子を見据えるサイアス。

 

「では、弾倉の塔は……?」

「……防衛に失敗したわ。マナバッテリーが破壊された」

「雷帝がいて負けたというのですか!?」

 

 先程千鶴子がその塔の名を言わなかった事で、結果は感じ取っていた。だが、それでも信じられなかった。あの雷帝が任務に失敗したという事を。

 

「カバッハーンは結構な重傷みたい。それと、侵入してきたのはこちらも貴方の知った顔だと思う」

「ランス……あの坊やか」

 

 千鶴子から今度は弾倉の塔の報告書を受け取り、その名を見てサイアスは驚く。そこには闘神都市の戦いで共闘した男の名前があった。レジスタンスである事は判っていたが、まさか雷帝を破るとは思いもよらなかった。ルークがこの男を高く評価していた事が思い出される。成程、あの高評価はこういう事だったのかと頷くサイアス。

 

「でも、カバッハーンもただじゃ負けないわ。あちらの目的がマナバッテリーの破壊である証拠をちゃんと掴んだみたい」

「……正気ですか」

「信じたくはないわね。ウルザ……アイスフレームはレジスタンスの中ではまだ良識のある組織だったはずなのに……」

 

 サイアスは既にマナバッテリーの存在と、それが破壊されれば何が引き起こされるかを知っている。だからこそ、相手の正気を疑った。魔人をこのゼスに呼び込むつもりなのか。それがどれ程の悲劇を呼ぶのか判っているのか、と。

 

「……ルークは?」

「どこの塔でも確認されていないわ」

「…………」

 

 眉をひそめるサイアス。ルークは一体何をしている。彼は今もアイスフレームにいるのか。この作戦に賛同しているのか。あるいは、既にアイスフレームと袂を分かっているのか。

 

「他の連中は暫く再起不能だろうけど、この男は間違いなく残った塔をもう一度攻めてくるわ。これまで以上に警備を厳重にして……」

「千鶴子様。一つ提案があります。賭けにはなりますが……」

「……言ってみなさい」

 

 サイアスから語られるある作戦。それは、確かに賭けと言うに相応しいものであった。少しだけ考え込む千鶴子。

 

「……確かに賭けね。サイアス、本当にその男はそういう性格なの?」

「俺の見立てからは、ほぼ間違いないかと」

「女性の見る目はあるけど、男性の見る目はそうでもないでしょ」

「これは手厳しい」

 

 苦笑するサイアス。そんなサイアスを見ながら、千鶴子は決断を下す。

 

「いいわ。その作戦に賭けましょう」

 

 

 

-アイスフレーム拠点 本部-

 

 本部に集まる各隊の中心人物たち。だが、ランスは明らかに苛立った表情をしていた。なんとなく結果を察しているのだろう。そんな中、ウルザが皆から寄せられた情報を纏める。

 

「ナギのいる日曜の塔を狙ったペンタゴン隊は、侵入した32名の内28名が殺され、退却……ペンタゴン隊は失敗という事ですね……」

「うむ……」

 

 ばつが悪そうにしているネルソンとエリザベス。あれだけ大見得を切ったというのに、結果は散々なものであった。

 

「マジックのいる弾倉の塔を狙ったグリーン隊は、成功」

「当然だ。俺様の辞書に失敗などという言葉はない」

「流石はランスさん。お見事です」

 

 ふんぞり返るランス。椅子が勢い付きすぎて引っくり返りそうになったため、すぐさまシィルが後ろから支える。ネルソンがここぞとばかりに褒めているが、今回ばかりは効果が薄そうだ。ネルソンもすぐに察したのか、話題を次に移行する。

 

「アベルトも失敗したようだな。珍しい」

「後一歩のところまでいったのですけど、炎の将軍が出てきてしまいまして……」

「ブルー隊はアベルト以外全滅。いえ、正確には二人ほど捕虜になったとの事です」

「えっ……」

 

 アベルトもマナバッテリー直前まで侵入していたが、サイアスによってブルー隊を壊滅させられていた。二人程隊員が捕まるのを見ていたため、一応ウルザに報告はしたが、場合によってはその二人ももう殺されているだろう。全滅という言葉を聞き、シィルが青ざめている。

 

「パパイアのいる跳躍の塔を狙ったシルバー隊も失敗。隊員たちは……」

 

 そこまでウルザが言いかけたところで、ランスが勢いよく机を叩いた。びくりとし、思わず言葉を止めるウルザ。

 

「使えーん!! 俺様以外のところがいくつか失敗するとは思っていたが、全滅とはどういう事だ! 貴様ら、やる気あるのかっ!!」

「むぅ……」

「っ……」

「返す言葉もありません」

 

 ネルソンが言葉に詰まり、エリザベスも何も言えず苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。アベルトだけはどこかひょうひょうとした感じで言葉を返してきた。だが、反応が一つ足りない。ここに来て、ランスはいるべきはずの人物が足りていない事に気が付く。

 

「ん? サーナキアちゃんはどこだ?」

「はい、それが……サーナキアさんは跳躍の塔に行ったきり戻ってこないのです」

「なんだと!?」

 

 それまで怒っていたランスであったが、戻ってこないと聞き少しだけ表情が変わる。それまで説明していたウルザに代わり、ダニエルが説明を続ける。

 

「シルバー隊で戻ってきた隊員は極数人。主に塔の周囲を警戒していた者たちで、深くまでは侵入していなかったために逃げ切れたようだ。だが、シルバー隊は実質壊滅と見ていいな。戻ってきた隊員の一人、エリスンが言うには、侵入していた隊員はほぼ全滅。サーナキアとナターシャが最後まで戦っていたが、その後どうなったかは判らないようだ」

「ナターシャって誰だ?」

「ランス様、プリマさんと交換をした……」

「……駄目だ、思い出せん」

 

 元々はグリーン隊に配属されたが、ランスに容姿が気に入られずプリマとトレードされ、その後ブラック隊に配属されるも隊は解散。ようやく腰を下ろす事の出来たシルバー隊はこの有様。ナターシャ、中々に波乱万丈である。

 

「こんな成果では、この作戦は失敗と思った方が良いだろうな」

「え、ええ……そうです。サーナキアさんを救出して、作戦の中止を……」

「待った。中止にはまだ早い。元々俺様以外が失敗する可能性は視野に入れていた。全滅というのは本当に情けないがな」

「すいません」

「本当に思っているのか、お前は」

「はい。心の底から」

「……まあいい」

 

 ダニエルの言葉を受け、ウルザが作戦を中止する方向に持って行こうとするが、ランスがそれを止める。元々失敗は想定の範囲内。アベルトがまたあっけらかんと謝罪してきたため、ランスが眉をひそめて質問するが、それにもあっけらかんと返してきた。なんとも掴みどころがない。

 

「作戦は続行する。サーナキアちゃんも助ける。そういえば、ブルー隊からも捕虜が出ているとか言ってたな。誰だ?」

「インチェルさんと珠樹さんです」

「むっ、あの二人か。まだ美味しく頂いていないのに死なれるのは困るぞ。その二人も救出せねば」

 

 ナターシャと違い、インチェルと珠樹は顔を覚えられていた。ランスのストライクゾーンに十分入っている彼女たちが捕虜になっていると聞き、救出対象を増やすランス。

 

「それでは、攻めるのは跳躍の塔か王者の塔のどちらかですね」

 

 サーナキアとナターシャが行方不明になっている跳躍の塔。インチェルと珠樹が捕虜になっている王者の塔。どちらに攻め込むべきかと思案するランス。すると、部屋の扉が勢いよく開けられる。駆けてきたのは、拠点入口を守る衛兵のワニラン。

 

「ウルザ様、大変です! 二人が……」

「どうしました!?」

「インチェルと珠樹が戻ってきました!」

「えっ!? 二人とも無事ですか!?」

「はい、多少怪我はしているものの、命に別状はありません」

「よかった……」

 

 ホッとするウルザ。だが、その横に立つダニエルは眉をひそめる。

 

「捕まっていたのではないのか?」

「聞いていた通り、捕虜になっていたようですが、突然無条件で解放されたようです」

「後をつけられたのではないのか?」

 

 エリザベスがこの拠点の位置を掴むために解放したのではないかと疑うが、ワニランは首を横に振る。

 

「後をついてくる気配はあったようですが、森の中で撒いたとの事で、この拠点の場所はばれていないと珠樹が言ってました」

「信用できるのか?」

「インチェルは抜けたところがありますが、珠樹が言うなら信用しても良いだろう」

 

 エリザベスの問いにそう答えるダニエル。

 

「後をつけていたという事は、この場所を掴もうとしてまんまと撒かれた訳だ。がはは、まぬけめ」

 

 ランスが笑い飛ばすも、エリザベスには一抹の不安が残っていた。それだけならば、逃がすのは一人でもいいはず。みすみす二人とも逃がした上で、そのようなミスをするだろうか。

 

 

 

-王者の塔-

 

「捕虜をすぐさま解放する。まあ、多分あの二人は作戦の詳しい事まで知らされていなかったでしょうから、尋問したところで得られる情報はたかが知れているでしょうけど、それでも賭けね」

 

 椅子に座りながら千鶴子がそう口にする。サイアスから受けた提案は、捕虜として捕らえたインチェルと珠樹を解放し、アイスフレームへと戻すというものであった。千鶴子の予想通り、あの二人は大した情報を持っていない。だが、これは危険な橋。もし腐敗貴族たちにこの事を知られれば、失脚させるための材料として間違いなく使われる。

 

「一応後はつけさせていましたが、撒かれたようです」

「まあ、そこはあっちもプロね。元々期待はしてなかったから、諦めるとしましょう。一番重要なのは……」

「ええ。これで、次にどの塔が攻められるのか、予想が立てやすくなったという事です」

「本当に来るの? 裏を掻くって事は無い?」

「仲間の……それも女性が捕らえられているとなれば、あの坊やは必ず来ますよ」

 

 先程までは、捕虜が二つの塔に分かれていたためにどちらに攻めてくるか予想が立てられなかった。だが、今は違う。王者の塔の捕虜を解放した。ならば来る。あの男は、必ずサーナキアを助けに来る。

 

「流石に四天王は動けないわ。こちらの塔が攻められる可能性も0ではないし。でも、四将軍は全て集結させて良い。私が許可する」

「ありがとうございます。では、俺とウスピラ、アレックスを……」

「千鶴子様! 雷帝より新たな連絡が届きました」

 

 サイアスがそこまで言いかけたところで、伝令の兵士が部屋に入って来る。カバッハーンからの電報を受け取る千鶴子。それを覗き込むサイアス。瞬間、二人の表情が引きつる。

 

「……儂も参加するって書いてあるわ」

「……結構な重傷って仰られてましたよね?」

「というか、何故このタイミングで連絡が来るの? どっかで監視してるんじゃないかしら……」

 

 千鶴子がきょろきょろと周囲を見回す。雷帝恐るべし。

 

「やれやれ。止めて聞く人じゃありませんよね?」

「そうね。連れて行っていいわ」

 

 ため息を吐く千鶴子。本当ならば安静にしていて欲しいところだが、それで安静にするようなタマならとっくに隠居している。

 

「では、四将軍全員。それとパパイア様で……」

 

 

 

-アイスフレーム拠点 本部-

 

「それじゃあ、次に攻めるのは跳躍の塔だ。サーナキアちゃんを助けて、マナバッテリーも破壊だ」

 

 雷帝との死闘を終えたランスたち。だが……

 

 

 

-王者の塔-

 

「跳躍の塔で迎え撃ちます」

 

 激闘は、まだ終わらない。そして、不安材料は相手の戦力だけではない。

 

 

 

-アイスフレーム拠点 本部-

 

「ランス様……本当に大丈夫なのですか?」

「ん? どういう事だ?」

 

 今後の方針を決め、会議が終了した直後、シィルが不安そうに声を掛けてきた。

 

「みなさん、もうボロボロです……数日回復に回せば完治しますが、この強行では……」

 

 そう、先の戦いでグリーン隊の面々は大きく傷ついている。だが、作戦を急ぐランスは怪我の完治を待たずに次の塔の攻略を決めた。もし次の塔でも同じ規模の死闘があったとしたら、一体どれだけの仲間がついて来られるのか。

 

「……この日程でも、ついて来られる人はいると思います。かなみさんや、パットンさん……でも……」

「…………」

 

 それは、いずれぶつかった出来事。ルークの目指す夢。その夢を成す為に越えねばならぬ激闘。それに耐えられる強者の選定。ついて来られぬ者の、振るい落とし。強者の選定について、ルークは以前から行っていた。グリーン隊が直面しているのは、もう一つの方。英雄の歩む道について来られるか。振るい落としについて、図らずもランスが直面する事となっていた。

 

「問題ない。ついて来られない奴は置いていくだけだ」

 

 それでも、突き進む。今はそれしかない。

 

 

 

-ゼス国内 某所-

 

 少し暗い部屋の中、カタカタとキーボードを押す音が響く。ディスプレイの光に照らされたその顔は、少し前にアイスフレームから去った情報屋の女性。

 

「(四天王の塔、襲撃される……)」

 

 無茶な進軍である事は判っている。

 

「(レジスタンス……恐らくアイスフレーム……何故……? 四天王の塔についてもっと情報を……)」

 

 だが、今のランスは進むしかないのだ。

 

「(機密……マナバッテリー……)」

 

 何故ならば、ランスと対立したあの男に付いていった仲間は……

 

「まさか……アイスフレームの目的は!」

 

 僅かな情報をも逃さず、恐るべきスピードでこちらの目的を掴むはずだから。

 

 




[人物]
マジック・ザ・ガンジー (6)
LV 38/68
技能 魔法LV2
 ゼス四天王にして国王ガンジーの娘。弾倉の塔が落とされた事の責任を反ガンジー派に追及されたが、全ての責任は儂にあるとカバッハーンが言った事により反ガンジーもそれ以上追及出来なくなった。今回の戦闘を経て、己の心構えを少し見つめ直す。学業優先なのは変わらないが。


[モンスター]
Zガーディアン
 ゼスの機密を守る魔法兵器。驚異的な耐久力と範囲の広いビーム攻撃で敵を駆逐する。原作Ⅵでは突然の襲撃で全滅したプレイヤーは数多くいるはず。本作でもその強さに準拠。実際にはモンスターではないが、こちらの項目にて説明。


[技]
魔抵付与
 仲間の魔法抵抗力を一時的に上げる支援魔法。他の付与に比べ活躍する場が限定されるが、その分きっちりとハマった時は重宝する。

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