ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第126話 摩利支天、動く!

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 入り口C-

 

「真空斬!」

「ぐあっ!? くっ、まだまだ……」

「凄いな、まだ立つのか……」

 

 ブラック仮面の真空斬を直に食らったファルコンが壁に吹き飛ばされるが、剣を杖代わりにしてふらふらと立ち上がる。最早何度目か数えるのも馬鹿らしくなってきたフェリスは、立ち上がるファルコンを見て素直に感心する。実力自体は並の戦士に毛が生えたようなものだが、このタフネスぶりは恐れ入る。

 

「いい加減、話を聞いてくれないか? こちらはウェンリーナーを……」

「聞く耳持たん!!」

「困りましたね……」

 

 ブラック仮面が状況を説明しようとするが、ファルコンがそれをすぐに遮り、剣を振るってくる。それを即座に躱し、返しに腹部に強烈な蹴りを入れるブラック仮面。その一撃を受けてその場に蹲るファルコンだが、数秒の後にすぐに立ち上がる。

 

「さて、どうするかな……」

「首でも刎ねれば流石に立てないだろ」

「それも、今の状況だとな……」

 

 ブラック仮面もこの状況に頭を掻く。確かにタフだが実力自体は並であったため、これ以上戦っても底は知れている。だが、通路は一本道であるため、ファルコンを無視して通り抜けるのは難しい。かといって、フェリスの言うように首を刎ねて殺すのも気が引ける。確かにエンジェル組の襲撃やアーニィの画策でハピネス製薬は死者を出しているが、そもそもの原因はハピネス製薬にあり、その事はドハラス社長も認めているのだ。となれば、これ以上騒ぎを大きくしたくはない。本来ブラック仮面には、向かってきた相手は殺されても仕方ないという割り切りはあるが、依頼者であるドハラス社長が穏便に済ませる事を希望しているのであれば、極力依頼者の希望に沿うのがプロの冒険者の務めだ。

 

「それにしても、精神だけでこれほど持ち堪えられるものなんですか?」

「確かに、普通じゃない」

「くっ……」

 

 フェリスの普通じゃないという言葉に少しだけ反応を示すファルコン。そんな中、ブラック仮面は何か思うところがあるらしく、ファルコンから視線を外さないようにしつつフェリスの疑問に答える。

 

「確かに精神力も凄い物があるが、それだけではないな」

「どういう事だ?」

「痛みを耐えているだけではなく、どうも怪我自体が回復しているように思える。これ以上戦えないよう何度か腕を狙ったが、その影響がまるで見られない。普通であれば、骨にヒビが入っていてもおかしくないはずなんだがな」

「つまり、ファルコンさんが戦いながら怪我を回復させているという事ですか?」

「……!?」

 

 ブラック仮面の言葉を聞いたエムサの更なる問いかけに、ファルコンは先程よりも更に大きく反応する。

 

「ですが、ヒーリングを使っているようには思えませんでしたが?」

「ああ、こちらも同意見だ。となれば、それ以外の要因で回復をしているんだろうな。あの青い甲冑には装備者の体力を徐々に回復させるような付加能力があるだとか、奴自身が自己再生能力を持っているとかな……」

「人間が自己再生能力を? そんな奴がいるわけ……」

「……ここにいる」

 

 ブラック仮面の意見を聞いたフェリスが鼻で笑う。そんな人間がいる訳がないと。だが、目の前で立ち尽くしていたファルコンは、絞り出すような声でフェリスの言葉を否定した。

 

「えっ?」

「ブラック仮面と言ったな。お前の言う通り、私には自己再生能力がある」

「なっ!? もしかして、その甲冑の中身はモンスターか?」

「違う! 私は人間だ!!」

 

 人間でないのではという疑念に対し、声を荒げて反論するファルコン。ブラック仮面をその様子を静かに窺っている。

 

「そんな突飛な意見が出たって事は、私の正体に薄々気が付いているのか?」

「いや、そういう訳ではない。だが、甲冑の下から微かにだが何かが蠢くような音がしたんでな。生物が動く音ではなく、ジュクジュクと何かを生み出すような音だった。それで、もしかしたら自己再生をしているんじゃないかと思ったに過ぎない」

「……まさか、敵に見せる事になるとはな」

 

 ファルコンが自嘲気味に呟きながら自身の右腕の籠手を外し、その下に隠されていた腕が露わになる。それを見たフェリスは眉をひそめる。形は確かに人間と同じだが、その色が違う。肌色ではなく、少しオレンジがかった色。それがファルコンの肌の色であった。

 

「その肌の色は……」

「私の父は、かつてぷりょだった」

「ぷりょ!?」

「ああ。だが、人間の女に恋をし、苦労の末に人間へと進化してその女と結ばれ、子を成した。それがこの私だ。私の中には、ぷりょの血が流れている」

 

 ファルコンの独白にエムサが驚愕する。モンスターのぷりょには確かに細胞を分裂させて自身の傷を回復させる能力がある。だが、その力を受け継いでいる人間がいるとは思ってもみなかった。何よりも、ぷりょが人間に進化するなど聞いた事がない。だが、隣に立っているブラック仮面は割と冷静な反応を示していた。ファルコンがそのブラック仮面を見ながら疑問を投げる。

 

「あんたは驚かないんだな……」

「知り合いにリスから人間に進化した男がいてな」

「なっ……!? 父以外にも、モンスターから人間になった者が……」

「相変わらず尋常じゃない顔の広さだな……」

「ん? そうか、フェリスは会ったことがなかったか」

 

 リーザス解放戦時に出会ったリスは、ランスの言葉を真に受けて気合いと根性で人間へと進化した。それは、ファルコンの父とよく似た境遇である。

 

「……そのリスは、周りから迫害を受けていたりはしないか?」

「いや、初めこそ多少怖がられていたが、本人の天然な性格も相まって今では町の人に受け入れられている。先日、結婚式に行ってきたが、皆が祝福していた」

「そうか……」

「そう反応するって事は、あんたは相当な迫害を受けてきたって事かい?」

 

 フェリスの言葉にピクリと反応を示すファルコン。どうやら、予想は的中だったようだ。自身の腕を見ながらファルコンはゆっくりと口を開く。

 

「この肌の色だ。どこへ行っても、何をやっても、周りは私の事を認めてくれなかった。警戒され、畏怖され、迫害された……だが、アーニィ様だけは違ったのだ! モンスターのハーフである私を恐れる事なく認めてくれた! それだけで私の心は救われたのだ!!」

「アーニィさん、そんな事もしていたのですね……」

「故に誓った。私はこの人の理想を叶える手伝いをすると! モンスターが迫害される事のない世を作ると! 私はエンジェル組に仕えているのではない、アーニィ様に仕えているのだ!」

 

 剣を握り直し、高らかに宣言をするファルコン。その姿を見て、ブラック仮面は自身の中のある思いを更に強め、フェリスに対して口を開く。

 

「フェリス。俺はアーニィと一度向き合って話をする。絶対にな」

「となると、油を売っている暇はないな」

「ふぁぁ……あれ? おにいちゃん、まだ司令室についてないの?」

 

 その時、ブラック仮面のすぐ後ろから声が聞こえ、パッとウェンリーナーの姿が現れる。どうやらようやく起きたようだ。瞬間、目を見開くファルコン。

 

「ウ、ウェンリーナー様!? な、何故そいつらと一緒に……」

「あ、ファルコンだ。やっほー」

「はぁ、これでようやく話が出来そうだな。とんだ無駄足だった……」

「まあ、アーニィさんがどういう方なのかを詳しく聞けたので、無駄という訳ではないですよ」

 

 攫われたはずのウェンリーナーが目の前で手を振っている事に狼狽するファルコン。こうして紆余曲折はあったものの、ブラック仮面たちはようやくファルコンに自分たちがウェンリーナーを救出してきた事を告げられたのだった。事情を聞き、頭を下げてくるファルコン。

 

「すまなかった……私が勘違いしたばっかりに……」

「いや、状況的に仕方あるまい。それよりも、司令室まで案内してくれるか?」

「了解だ。それと、無線機で先に連絡を……っと、さっきの戦闘で壊れてしまっているな。仕方ない、ついてきてくれ」

 

 司令室までファルコンが先導する事になり、ブラック仮面たちは通路を歩いて行く。フェリスもそれに続こうと歩みを進めるが、トテトテと後ろをざしきわらしがついてくる。

 

「ん? なんだ、ついてくるのか?」

「ふっ、懐かれたな、フェリス」

 

 フェリスの問いにコクコクと頷くざしきわらし。その光景を見てブラック仮面が静かに笑うが、ざしきわらしは狸のついた右手でスッとブラック仮面のマントを掴んでくる。

 

「ん?」

「へっ、懐かれたね、ルー……じゃなかった、ブラック仮面」

 

 その光景に今度はフェリスがブラック仮面を笑い飛ばす。こうして微笑ましい空気の中、ブラック仮面たちは基地の奥へと進んでいくのだった。

 

「因みに、自己再生的な能力を持つ人間も存在します。例えば、自身の体に聖刻と呼ばれる痣を入れ、そこから自身の傷を癒し続けるといった方法です。聖刻を入れられる程の使い手がそうはいないため、殆どお目には掛かれない技術ですが」

「エムサ、急にどうした?」

「いえ、一応補足しておこうかと……」

「マメだな……」

 

 先のフェリスの言葉に補足を入れるエムサ。真面目な女性である。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 クイズ部屋-

 

「ん、何だこの部屋は?」

「まるで魔法ビジョンでやっているバラエティ番組のような部屋でござるなぁ」

 

 ランスたちが足を踏み入れた部屋は異質であった。きらびやかな会場に誰もいないが客席があり、中央にはクイズ番組の解答席のようなものが四つ置いてある。その側には司会席もしっかりとあり、どこからどう見てもクイズ番組のセットであった。するとその時、ジャジャーンという音が盛大に響き渡り、部屋の奥にスポットライトが当たる。そこに立っていたのは、制服三姉妹最後の一人であるブレザァだ。

 

「レディース、アーンド、鬼畜! 私の主催するクイズの広間へようこそ!」

「ブレザァ、お前がこんな手の込んだ物を作ったのか?」

「違うわ、大工さんよ!」

「そういう意味じゃないわ!」

「ふん、冗談じゃないの。相変わらず短気で野蛮で鬼畜な男ですわね」

 

 ブレザァがメガネをクイと上げながらランスを観察している。

 

「まあいい。既にセェラァとジャンスカはいただいたから、残るはお前だけだ」

「ふん、二人ともドジですわね。こんな男に負けるなんて」

「貴様も闘神都市で負けているだろうが」

「あの時とは違うわよ。さあ、ランス、今回はクイズで勝負よ!」

「クイズぅ?」

 

 ランスを指差しながらブレザァがそう宣言してくる。どうやらそれだけの為にこれだけ大掛かりなセットを準備したようだ。

 

「馬鹿者。なんで俺様がクイズなどで勝負しなければならんのだ。剣でパパッと決着をつけ、その後で貴様を良い声で鳴かせてやる」

「そう、知識勝負には自信がないのね。まあ、お馬鹿さんだったら仕方のない事だけど」

「ランスさん、あれは明らかに挑発です。何も相手の舞台で勝負する事はありません。ここは……」

「上等だ、ブレザァ! この俺様の知識を見せつけてやる!」

「うーむ、見事なまでに挑発に乗ってしまったでござるなぁ」

 

 キサラの忠告も届かず、ブレザァの挑発に乗ってクイズで勝負する事になったランスたち。完全に相手の術中である。

 

「そちらの三人もよろしいですね?」

「拙僧は村のなぞなぞ大会で優勝経験もあるとんち坊主ですぞ。任せていただきたい」

「……実を言うと、本当は少しやってみたかったんです」

「あてなの知識量を舐めちゃいけないのれすよ!」

「お待ちなさい、クイズをする必要はありません!」

 

 三人も賛同し、クイズ大会が開かれそうになった瞬間、部屋の入り口から気品のある女性の声が部屋に響き渡る。全員がそちらを振り返ると、そこに立っていたのは和装の似合っている美しい女性。

 

「おおっ、綺麗なねーちゃん!」

「何者ですか!?」

「ふふっ、私の名は如芙花。摩利支天暗殺組の一人です」

「なんと!? 美しい暗殺者でござるなぁ……」

「難しくて読めないのれすよ!」

「じょふか、です。というか、今名乗りを上げたのですから聞いていましたわよね?」

「ああ、こいつは無視して良い」

 

 現れたのは、摩利支天暗殺組三人目の刺客である如芙花。刺客が美しい女性であると判り、テンションの上がるランスと言裏。あてなが意味不明な事を宣っているが、ブラボーの時同様、無視するように告げるランス。すると、後ろに控えていたブレザァが不満そうにしながら文句を口にした。

 

「ちょっと、ランスは私の獲物よ! 邪魔しないで!」

「いえ、私は貴女が無理をしないようにとも仰せ付かわれています。少し下がっていてください」

「なによ、邪魔するなら貴女から片付けてもいいのよ!」

「うふふ……貴女が私をですか?」

 

 ブレザァが手に持っていた斧を構えるのを見て、如芙花が妖しく笑う。そのまま如芙花は右の手の平を自身の口の前に出し、フッと息を吐いた。

 

「飛べ、速の精霊よ」

「えっ!?」

 

 次の瞬間、如芙花の手の平から二体の小さな精霊が飛び出し、あっという間にブレザァの目の前までやってくる。呆然としているブレザァを即座に拘束し、大工が忘れていったのか何故かそばに置いてあった縄でブレザァを縛り、司会者席に拘束してしまう。

 

「なっ!? ちょ、ちょっと……放しなさいよ!」

「戦闘が終わりましたら解いて差し上げますわ。それまではそこでおとなしくしていてください」

「ほう? それは君が俺様にひんひん言わされたらという事か?」

「いえ、私が貴女たちを殺した後という事です」

「大した自信でござるなぁ……」

「でも、今の精霊というのは凄かったです。あの速さで迫られては……」

 

 ブレザァの文句を受け流しながら、如芙花がランスたちに向き直る。先の二人同様、その顔には自信が満ち溢れている。だが、今の一幕からも判るとおり、その実力は本物のようだ。

 

「ふん、またスピードか。芸のない奴等だ。だが、それだけでは俺様は倒せんぞ」

「いえ、それだけではありませんよ。出でよ、力の精霊」

 

 如芙花が再び自身の手の平に息を吹きかけると、今度はかなり筋肉質な精霊が目の前に現れる。クイ、と如芙花が首を動かすと、力の精霊は側にあった解答席を破壊した。それなりの作りであるように見えたが、一撃で粉々に砕け散ったところを見ると、この力の精霊のパワーは相当なものだ。

 

「私の精霊は一つではありません。速の精霊、力の精霊、癒しの精霊、他にも様々な精霊がいます。千差万別の戦闘スタイル。この戦いは、貴方たちがこれまで体験したことのないようなものになるでしょう」

「これは手強そうですね……」

「ふん、俺様の敵ではない」

「速と力って事は、またスピード&パワーなのれすか?」

「いえ、私は他の二人とは被っていませんわ。同じ過ちを繰り返す私たちではありません。そうですね、他の二人に倣って、私ももう一度名乗らせていただきます」

 

 バサッと自身の長髪を手でかきあげ、ランスたちの目を見ながら声高らかに如芙花が再度名乗りを上げる。

 

「摩利支天暗殺組の紅一点、戦場に咲く美しき一輪の花、クール&ビューティーの如芙花。参ります!」

「「「「「……」」」」」

「あ、あら……?」

 

 ババン、とポーズまで決めてからこちらに精霊を放とうとする如芙花。だが、空気が明らかにおかしい事に気が付いて動揺する。自分以外の全員の視線が、どこか冷めているのだ。

 

「美しき、って自分で言ったでござるよ。随分と自意識過剰な女子でござるなぁ……」

「ち、違っ……」

「クール&ビューティーって……」

「そ、それは摩利支天が考えて……」

「でも、ノリノリでしたわよね」

「っ……」

「うーむ、顔は良いんだが、性格はもう少し可愛げがあった方が俺様の好みだ。もう少し慎ましやかにしていた方が良いぞ」

「あっ……うっ……」

 

 言裏、キサラ、ブレザァ、ランスと続けざまに苦言を吐かれる如芙花。その顔が徐々に赤く染まっていき、口をパクパクとさせている。よく見れば、その目にはうっすらと涙まで浮かんでいた。

 

「その……違うんです……これは……」

 

 涙目で服の裾をキュッと握り、何やらぶつぶつと言い訳をしている如芙花。先程までの自信満々な顔はどこへ行ってしまったのかという状況である。そのとき、あてなが突如ポーズをとって口を開く。

 

「戦場に咲く美しき一輪の花! キリッなのれす!!」

「っ……!!」

「あっ、逃げた」

 

 あてなのその言葉で限界を迎えた如芙花は、真っ赤な顔を両手で覆いながら全力で逃げて行ってしまった。

 

「戦いの後はいつでも空しいでござるなぁ……」

「というか、戦ってすらいませんよね……」

「……って、馬鹿者! 俺様がヤろうと思っていたのに、みすみす逃げられてしまったではないか!!」

 

 空気に流されて逃げる如芙花を見送ってしまったが、その躰を味わっていない事を思い出してランスが騒ぎ出す。そんな中、後ろから恐る恐るといった形でブレザァが口を開いた。

 

「そ、そろそろ拘束を解いて貰ってもよろしいでしょうか? クイズ勝負を……」

「んー、なんかクイズをする気も失せてしまったでござるなぁ……」

「そうですね……なんていうか、白けてしまったというか……」

「仕方ない。丁度良いことに拘束されている事だし、このままブレザァと一発ヤって奥へと進むぞ」

「えっ……えっ……えぇぇぇぇぇっ!?」

 

 とばっちりブレザァ。ある意味、制服三姉妹で一番哀れかもしれない。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 司令室-

 

「確かに、今まで見たことも無いような戦闘だったわ……いや、戦闘ですら無かったわ……舌戦だけで泣いて逃げ出すなんて……」

 

 モニターを見ていたアーニィの顔がどこかやつれている。少しでも今までの二人よりも期待できると思ってしまった過去の自分を殴ってやりたい気持ちで一杯だ。

 

「あーあ、ブレザァのやつ犯されちまった」

「あんたらの仲間のせいでしょうが!!」

「ノーコメントで」

 

 スパルタンの言葉にアーニィが机を叩きながら抗議するが、ブラボーが手をヒラヒラと振りながらそれに答える。スパルタンが再度モニターに視線を戻し、逃げ出した如芙花に思いを馳せる。

 

「ありゃ、戻ってきたら暴れるぞ」

「泣いたら手ぇつけられないからねぇ、ウチのお姫さんは」

「如芙花、強いんだがなぁ……」

「近、中、遠距離全てに対応出来、援護、回復も思うがままのスペシャリストなんだけどなぁ……」

「「豆腐メンタルなのがなぁ……」」

 

 二人の声がハモると同時にアーニィの胃が更に痛み出す。そんな奴を一人で送り込むなと怒鳴りつけてやりたいが、今は胃薬を飲むのが先である。これで摩利支天暗殺組の刺客は一人を残すのみ。その最後の一人が、スッとソファーから立ち上がった。

 

「おっ! リーダー、行くかい?」

「ああ……」

 

 遂にリーダーの摩利支天が動く。ソファーの横に立てかけていた自身の愛剣を手に取り、赤いマフラーで口元を隠した。その体からは、静かな殺気が放たれている。

 

「(あの剣……普通の剣じゃないわ。JAPANから輸入されている日本刀に近い……摩利支天っていう名前もJAPAN風だし、この男、JAPAN出身者なのかしら……?)」

 

 摩利支天の愛剣は大陸で流通している剣とはどこか違い、JAPAN風のそれであった。アーニィは気が付けずにいたが、その刀身からは禍々しい妖気が発せられている。紛れもない、妖刀の部類。

 

「待っていろ、ランス……」

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 金庫部屋-

 

「ふぅ、えがっだ……」

「しくしく、また拙僧は何も出来なかったでござる……」

「ランスさん、どうやらこの部屋は行き止まりみたいです」

「ちっ、さっきの曲がり角を間違えたか」

 

 ブレザァとヤって満足なランスとは対照的に、言裏はさめざめと泣いていた。通路を歩いてやってきたのは巨大なぶたの金庫がある部屋。キサラとあてなが軽く部屋の中を調べていたが、特に隠し通路のようなものもなさそうであり、単純に道を間違えただけのようである。流石に敵の本拠地だけあって、中は迷宮のように入り組んでいた。

 

「仕方ない、戻るか……ん?」

 

 ランスが部屋から出て行こうとするが、微かに聞こえてきた物音に振り向く。音がした先は、大きなクローゼット。

 

「ちょっと、あんたが物音なんて立てるから……」

「しっ、静かに……」

「ううっ……」

 

 クローゼットの中から女の声が聞こえてくる。明らかに中に誰かいる。

 

「キサラ、あてな、あのクローゼットは調べたのか?」

「あ、すいません、中までは見ていませんでした……」

「ふむ……いるな」

「ええ、それも複数。ランス殿、今度は分けてくだされよ」

「まあ、人数次第だな」

 

 イヤらしい顔をするランスと言裏。そのまま二人して静かにクローゼットに近づいていき、一度ピタリと目の前で止まる。静寂が部屋を包み、中から少女の安堵したため息が聞こえた瞬間にランスは扉を勢いよく開けた。

 

「がはは、見ぃつけたぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁ、やっぱりばれてたぁぁぁ」

 

 無理に隠れていたのだろう。扉が開いた瞬間、中からぞろぞろと少女たちが崩れ落ちてくる。その数、なんと10人。よくもクローゼットの中にこれだけ隠れられたものだ。

 

「ひっ……お願い、殺さないで……」

「ひっく、ひっく……」

 

 恐怖に震える少女たち。中には泣き出している者までいる。だが、無理もない。見たところ、彼女たちはエンジェル組の非戦闘員。侵入者が暴れているという話は届いているであろう彼女たちの目の前にいるのは、明らかに侵入者と思われる野蛮そうな男。これで安心しろという方が無理な話だ。

 

「うーん、じろじろ……」

 

 怯える少女たちを一列に整列させたランスがジロジロと少女たちを眺め始める。何をしているのか判らない少女たちは、更に怯え始める。

 

「うーん、君は部屋から出て行っていい」

「えっ? あっ、は、はい……」

「それと、君と君もだ」

「は、はぁ……?」

 

 一人ずつ退出させられる少女たち。その基準がキサラには判らなかったが、言裏は一人目の時点で気が付いていた。ランスは、明らかに顔が微妙な者を外している。

 

「残ったのは7人か……うーむ、まだ多いな。いつもなら問題ない数だが、セェラァ、ジャンスカ、ブレザァと楽しんだ後だしなぁ……仕方ない、名残惜しいが君も出ていっていい」

「ひっ……は、はい……」

 

 先の三人と比べれば容姿の整っている、ギリギリ美人といった感じの少女を名残惜しそうに退出させるランス。これで部屋に残ったのは6人。どれも美しい容姿の女性である。

 

「さて、残ったお前たちには一人一発ずつして貰おうか」

「一発……?」

「何よそれ」

「ま、まさか……」

「…………」

 

 美女たちの反応は様々。一発と聞いてもピンと来ない様子で呆けている者、察しがついて青ざめる者、初めから予想していたのか目を閉じて覚悟を決める者。

 

「判らんのか? 一人一回ずつヤらせろと言っているのだ!」

「えっ……」

「えぇぇぇぇっ!!」

「ランス殿、拙僧にも分けて……」

「ん? 仕方ないな、お前は部屋の外に出した奴等とでもしてろ」

「そんなぁ……拙僧も残った面々の方が……」

「させて貰えるだけありがたいと思え。それとも、俺様の邪魔をして殺されたいのか?」

「しくしく、仕方ありますまい……」

 

 とぼとぼと部屋から出て行く言裏。とはいえ、退出した少女の中にも一人は美人がいるので、それなりに喜んではいる様子である。

 

「あ、あの、ランスさん。私たちも出ていますね……」

「ん? 見ていても良いのだぞ」

「い、いえ……ほら、あてなさんも……」

「えー、あてなも混ざりたいのれす」

 

 顔を真っ赤に染めたキサラがずるずるとあてなを引きずって退出する。これで、部屋の中にはランスと少女たちしかいない。

 

「がはははは! ほら、一人ずつ名前を言え。言わんと二回犯すぞ」

「ひっ……ポンキーです」

「エ、エリザベス……お願い、殺さないで……」

「……アンデラよ。それがどうかしたの!」

「花子です。覚悟は出来ています……」

「エーパレです……」

「リソラール……です……」

 

 少女たちに名前を名乗らせ、ジロジロと観察するランス。美人度で言えばエーパレという名の少女がぶっちぎりだが、先に彼女を抱いたのでは後が消化試合になる。普段であれば一番美人な子を真っ先に犯すランスだが、制服三姉妹と散々ヤッた後であるため、いつもと少し違う攻め方をしている。

 

「そうだな、では一番は君だ!」

「きゃっ……」

 

 リソラールと名乗った黒髪の少女の腕を掴み、あっという間に服を脱がしていくランス。なすがままにされながら、リソラールは目に涙を浮かべて思い人の名を口にするのだった。

 

「ファルコン……」

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 通路-

 

「ブラック仮面さん、今度、そのリスって人を紹介して貰えますか。色々と話がしてみたい。迫害の事とか、村の住人と仲良くしていく秘訣とか、その……け、結婚の事とか……」

「ああ、いいぞ。結婚か……付き合っている女性がいるのか?」

「まさかアーニィか?」

「い、いえ、アーニィ様ではありません。エンジェル組に入ってから、私の生まれを気にしないと言って優しくしてくれる女性と、その、最近付き合い始めまして……ゆくゆくは結婚も考えているというか……」

「それはおめでとうございます」

「へー、私のいない間にそんな事になってたんだー」

 

 通路を歩きながら世間話をするブラック仮面たち。現れるエンジェル組の敵はファルコンが軽く説明をすれば即座にどいたため、ここまで戦闘もない平和な状態であった。世間話の一つも始まろうというもの。

 

「いつ頃を考えているんだ?」

「そうですね……私、この戦いが終わったら結こ……」

「いけません!」

 

 突如、エムサがファルコンの言葉を遮る。何事かと驚く一同を前に、エムサは真剣な表情のまま首を横に振る。

 

「ファルコンさん、それ以上はいけません。それは、口にした者に不幸をもたらすという魔の言葉……古い文献にも、その効果が記されている恐ろしいものです……」

「そんなアホな……」

 

 フェリスが呆れているが、実はエムサのこの言葉は既に的中していたりする。

 

「リソラール……もうすぐ戦いが終わるからね……」

 

 魔の言葉、恐るべし。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 MZ地点-

 

「ふぅ……流石にヤりすぎたな。疲れたし、もう帰るか」

「それも一理あるでござるなぁ……」

「だ、駄目ですよ!」

 

 美女たちを犯してすっかり疲れてしまったランスと言裏がとんでもない事を宣い、キサラがそれを注意しながら通路を進んでいく。すると、新たな曲がり角が目の前に現れる。

 

「マップ描き描き……ご主人様、大分奥まで来ているっぽいのれすよ」

「ふむ、そうだな……ん、誰だ?」

「えっ?」

「ふむ?」

 

 あてなのマップを覗き込んでいたランスだったが、曲がり角の先から微かな気配を感じてそちらを睨み付ける。キサラと言裏は気が付いていなかったようであり、驚いたように視線をそちらに向ける。すると、曲がり角の向こうから一人の男が姿を現す。黒い長髪に黒のローブ、その下には微かに鎖帷子のようなものが見える。手に持っているのは、日本刀のような剣。

 

「おい、貴様、何者だ?」

「…………」

「喋る気がないとは生意気な。どうやら殺されたいようだな」

 

 無言で佇む男にランスが苛立ちを覚えるが、キサラが何かに気が付いたように口を開く。

 

「ランスさん、この男が暗殺組、最後の一人では……?」

「となると、リーダーの摩利支天その人でござろうか?」

「ふむ、そうか。おい貴様、暗殺者の摩利支天だな!?」

「……いかにも」

 

 ようやく摩利支天が口を開く。それと同時に、持っていた刀を水平に構え、その切っ先をランスに向ける。

 

「貴様のせいで……我が摩利支天暗殺組の名は地に落ちた……」

「いや、どう考えても自業自得だろ」

「思わずご主人様が冷静に突っ込んでしまうほどの逆恨みなのれす」

 

 ランスに負けた事よりも、他の要素の方がアーニィの評価を下げている事に摩利支天は本気で気が付いていない。

 

「貴様の命、いただくぞ……」

「ふん、やってみろ。貴様のヘボ仲間と同じように返り討ちにしてくれるわ!」

「我が暗殺組には精鋭しかいない……」

 

 ランスの言葉に少しだけ反応し、殺気を振りまきながら摩利支天が迫る。ブラボーほどではないが、かなりの速さである。

 

「はぁっ!!」

「うおっ!?」

 

 高速で振り下ろされた刀をランスが真・氷山の剣で受け止める。激しい金属音と火花が散る中、摩利支天が感心したように声を漏らす。

 

「我が白虎刀を受けきるとはな……」

「何を上から目線で言っとるか! ふんっ!!」

 

 ランスが強引に刀をかち上げ、そのまま横薙ぎに剣を振るう。だが、摩利支天は即座に地を蹴ってそれを躱す。

 

「南無妙法蓮……ふにゃふにゃ!」

「むっ……」

 

 ランスの剣を躱した摩利支天だったが、自身の体の変化に眉をひそめる。それは、言裏の祈りがもたらした効果。相手の防御力を下げるふにゃふにゃという技により、摩利支天の付けている鎖帷子の耐久力と、摩利支天自身の防御力が落ちたのだ。

 

「ランス殿。そいつは今ダメージを食らいやすい状態ですぞ」

「ほう、そいつは良いことを聞いた。くらえ!!」

 

 ランスが一気に間合いを詰めて剣を振り下ろすが、摩利支天は華麗にそれを躱す。ランスの一撃は床にめり込み、破片が周囲に飛び散る。毎度の事ながら恐るべき威力である。

 

「貴様、避けるな!」

「面白い男だな、貴様は……」

「ならば、爆炎カード!!」

「ギガボウ、発射なのれす!!」

 

 一撃の威力を確かめた摩利支天だったが、ランスの無茶な言い分にニヤリと笑う。続いてキサラとあてなが遠距離攻撃を放つが、それを見た摩利支天が刀を左右に動かし、空中でバツマークに剣を振る。瞬間、そのバツマークが剣撃となって放たれ、爆炎カードとギガボウに迫っていき、それを相殺したのだ。

 

「二翼の弓……」

「え、遠距離の剣撃!?」

「なんと器用な……まるでブラック仮面殿の真空斬……」

「貴様、ルークの真空斬のパクリだぞ! 今すぐその技を止めろ!」

「くっ……くくっ……無茶を言う……」

 

 二翼の弓と呼ばれたそれは、確かにルークとブラック仮面が使う真空斬と性質は同じであった。闘気を放つ飛ぶ斬撃。やはり一流の剣士が辿り着く遠距離対策は、似たような到達点なのだろう。

 

「……むっ、そういえば、ルークとブラック仮面ってどっちも技の名前が真空斬なのか……」

「真滅斬も使っていたのれすよ」

「なるほど。つまり、どっちかがパクったのだな」

「もう何も言えないのれす」

 

 ランスの導き出した答えに呆れた様子のあてな。もしかしたら、彼女は薄々ブラック仮面の正体に気が付いているのかもしれない。

 

「しかし、大変な事態なのれすよ」

「ど、どうしたんですか、あてなさん。真剣な顔をして……」

 

 矢を打ち落とされたあてなが突如真剣な顔をして口を開く。いつもの陽気な様子とどこか違うその顔に、キサラが息を呑みながら尋ねる。

 

「ここまであてなとキサラちゃんは、矢とカードを放って相手に対処される、いわば相手の引き立て役なのれす。砂漠のロンリーウルフとか、怪奇ワニ男と同じポジションなのれすよ!」

「い、言わないでください! ちょっと気にしていたんですから!」

 

 スパルタン戦ではそれを受け止められ、ブラボー戦では亀で回避され、今は打ち落とされた。三者三様ではあるが、共通しているのは相手の引き立て役でしかないという事。どうやらキサラも気が付いていたらしく、恥ずかしそうにしながらあてなに抗議する。

 

「はっはっは、拙僧はこれまでそこそこは活躍しているでござるよ。では、もう一度頑張りますかな。南無妙法連……もたも……ふぎゃっ!?」

「二翼の弓……隙だらけだ」

「馬鹿が。二度とこいつには女はやらんぞ」

 

 豪快に二人を笑い飛ばす言裏。ちょっとだけキサラとあてながムッとする中、言裏は更なるお祈りで摩利支天を弱体化しようとするが、その隙だらけの体に二翼の弓が直撃して豪快に倒れる。ランスがため息をつき、キサラとあてなはちょっとだけ晴れやかな顔をしていた。

 

「遊びはこれまでだ……行くぞ!」

「ふん、格の違いを教えてやる」

 

 二人がそう言葉を交わすと、再び通路に金属音が響き渡る。激しく火花を散らす両者の剣。巧みに剣の軌道を変えてくる摩利支天に対し、ランスは豪快の一言。だが、徐々に押し始めたのはランス。その強烈な一撃は、技術や戦術などを吹き飛ばす程の何かがある。

 

「天賦の才か……ふっ、懐かしくもあるな……」

「何をぶつぶつと!」

 

 ランスの才能に摩利支天が何かを思い出してその口元に笑みを浮かべる。それが馬鹿にしているように見えたのか、ランスは更にその剣撃の威力を上げる。

 

「くっ……むぅっ……」

「がはははは! くらえ、ランスアタァァァック!!」

「ぬっ……っ!?」

 

 ランスが宙に跳び上がり、必殺のランスアタックを振り下ろす。ランスアタックの威力はモニターで見て知っていたため、摩利支天は後方に跳んでそれを避ける。だが、床に叩きつけられた剣から放たれる闘気の爆発は想像以上のものであり、摩利支天の体は爆風に当てられて壁へと吹き飛ばされる。思わぬ威力に声を漏らす摩利支天。

 

「がはは、トドメだ!」

「やらせんよ……」

 

 ランスがトドメをさすべく摩利支天へと迫るが、摩利支天はゆっくりと壁から体を離し、剣を横に二回、縦に二回素早く振った。瞬間、ランスの目に四本の斬撃が映る。

 

「四翼の刃!」

「うおっ!?」

 

 右上段、右下段、左上段、左下段の四方向からランスに強烈な斬撃が迫る。予想外の攻撃に慌てたランスは、すんでのところで身を翻してその一撃を躱す。だが、マントだけは回避が間に合わず、四本の斬撃がランスのマントを斬り裂く。

 

「あっ、貴様! 俺様のマントを……弁償して貰うぞ!」

「流石はご主人様なのれす!」

「ランスさん、気を抜かないでください! マントなら、私が後で縫ってあげます。ほら、言裏さんも起きてください」

「う、うーむ……」

 

 こんなときまでマイペースのランスに流石だと頷くあてな。キサラは気絶している言裏を起こしながら、かなり豪快に斬り裂かれたマントを縫うという、冒険者にしては貧しい言葉を口にしていた。

 

「ちっ……ん? 斬り傷が一つしかない。ははーん、なるほど。頭の良い俺様はすぐに判ったぞ。いや、実は最初から判っていたぞ。貴様、今の一撃で本物なのは一つだけで、後の三本は偽物だな」

「ほう……我が四翼の刃を初見で見切るとは、大した男だ……」

「いや、マント見りゃ丸わかりなのれすよ」

「ラ、ランスさん、流石です……実は最初から判っていたなんて……」

「駄目れす、駄目駄目なのれす。結局あてなが一番まともなのれす」

 

 恋は盲目。すっかりランスの言葉を信じてしまっているキサラと、目を回して気絶している言裏を見てあてながやれやれとため息をつく。ポンコツ人工生命体にそう言われる時点で、色々と悲しい状況である。

 

「だが、それを見破ったところで我が技は打ち破れまい……」

「ふん。そんな三流でも思いつきそうな技、俺様のウルトラスーパービューティーな必殺技で一層してくれるわ」

「きゃぁぁぁぁ!!」

 

 摩利支天とランスが剣を構え直し、互いに間合いをはかっていたその時、突如通路の向こうから女性の悲鳴が聞こえてきた。その声に、ランスの目が見開かれる。

 

「むっ、女子の声……」

「ご主人様、この声は……」

「シィルの声だ!!」

 

 言裏がヌッと起き上がる中、ランスは声の主をシィルと確信して通路の先を睨み付け、そのまま走って行こうとする。だが、その道を摩利支天が阻む。

 

「待て、通しはせんぞ……」

「どけ……」

「むっ……!?」

「どかんか、貴様!!」

「ぬおっ!?」

 

 瞬間、強烈な殺気と共に放たれた一撃に摩利支天が吹き飛ばされる。激しく壁に打ち付けられ、苦しそうに膝をつく摩利支天。

 

「行くぞ!」

「はいなのれす」

「す、凄い……これがランスさんの本気……」

「うーむ、状況はよく判らぬが、やはりJAPANに来て貰いたい逸材でござるなぁ……」

「シィルの馬鹿野郎め……俺様は家で待っていろと言ったはずだぞ……って、うおっ!?」

 

 全力で通路を駆けていこうとしたランスだったが、目の前に刀が振り下ろされて急ブレーキをかける。立っていたのは、先程壁に吹き飛ばしたはずの摩利支天。鎖帷子はボロボロに砕けているが、まだその殺気は健在。

 

「貴様、まだやるつもりか!?」

「当然だ……」

「あの一撃でまだ立ってくるだなんて……」

「えぇい、面倒な!」

 

 ランスが苛立ちを覚える。先程までの戦闘で薄々勘付いてはいたが、この男は雑魚ではない。ルークやリック程ではないが、間違いなく一流と呼ばれる使い手である。勿論、倒せない相手では無い。だが、普通に戦っては時間が掛かってしまう。今は少しでも時間が惜しいというのにだ。

 

「四翼の……っ!?」

 

 摩利支天が剣を振るいながらそう口にした瞬間、突如斬撃が飛んでくる。慌てて技の発動を中断し、それを打ち落とした摩利支天が飛んできた方向を睨み付ける。ランスたちも、見覚えのあるその技に後ろを振り返る。そこにいたのは、頼れる仮面戦士。

 

「真空斬! 待たせたな、ランス。こいつは俺が引き受けた。行け!」

「遅い! まあいい、下っ端の相手は貴様で十分だろう! 行くぞ!」

 

 ランスがブラック仮面の登場を確認し、今度こそ通路を駆けていく。キサラ、あてな、言裏もそれに続く中、摩利支天は刀を下ろしてそれを見送った。不思議そうにしながら摩利支天に問いを投げるブラック仮面。

 

「今度は止めないんだな」

「やれば、貴様の剣が私を斬り裂いているだろう?」

「流石だな。そこで一つ話があるんだが、俺たちが戦う理由も特にないんだ」

「……理由がない?」

「あ、ブラック仮面さん、どうしたんですか急に走り出して……って、貴方はアーニィ様が依頼した暗殺組の……」

 

 摩利支天が眉をひそめてブラック仮面を睨み付けていると、通路の向こうからフェリス、エムサ、ざしきわらし、そしてエンジェル組の一員であるファルコンが駆けてきた。

 

「……どういう事だ?」

 

 こうして、ファルコンが摩利支天に状況の説明をする事になる。だが、その様子を見ているモニターの先は更に困惑していた。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 司令室-

 

「ひっく、ひっく……」

「おーい、いい加減機嫌を直してくれよ」

「精霊は強いのよ……式紙なんかよりも優秀なのよ……ひっく、ひっく……それなのに、マサコおばさまはちっとも判ってくれなくて……だから家を飛び出して……」

「駄目だ、全然関係の無い身の上話が始まっちまった。こりゃ二時間コースだな」

「もうこの話も聞き飽きたんだがなぁ……」

 

 泣きじゃくる如芙花の頭を撫でながらブラボーが困ったように口を開き、スパルタンが頭を掻く。随分と手慣れているところを見ると、このような状況も初めてではないらしい。そんな中、アーニィがモニターを見てプルプルと震えている。

 

『……ェンリー……ネス製……』

「ど、どういう事……なんでファルコンがブラック仮面と一緒に……くそ、戦闘の影響でスパイ虫が傷ついたのかしら? 音声が微かにしか入ってこない……」

「そりゃ、裏切ったんじゃないの?」

「そんなはずは! ファルコンは……私が信頼している部下の一人で……そんなはずは……」

「物事に絶対なんかねーって」

「そんな……そんな……」

 

 ブラボーの言葉にアーニィが大きなショックを受ける。先のランスと摩利支天の戦いの影響で、通路に置いてあるスパイ虫から音声が微かにしか流れてこないのだ。何の話をしているのか判らないアーニィは歯噛みする。ファルコンが裏切ったなどと信じたくはない。だが、目の前にはブラック仮面たちと一緒に行動を共にするファルコンとざしきわらしの姿がある。どちらにも脅されている感じはない。

 

「……私が出ます」

「おいおい、リーダーはまだ負けちゃいないぞ」

「ランスたちを先に進めたじゃない」

「そりゃ何か考えがあって……」

「私が出ます! もう貴方たちなんかに頼りません!」

 

 アーニィが我慢の限界とばかりに激昂し、そのまま部屋から出て行ってしまう。

 

「ひゅー、恐いねぇ……」

「……ん? この全裸の女、確か……」

「ひっく、ひっく……西条が最強なのよ……北条も南条も東条も西条の前にひれ伏すべきなのよ……」

「はいはい、そうだな。とりあえず、リーダーが何してるか判らないから、この虫の鳴くような音を広げてくれないか?」

「ひっく、ひっく……音の精霊……」

 

 スパルタンがモニターにちらりと映った全裸の女を見て何かを思い出す。だが、直後に泣きじゃくる如芙花を宥めたため、その疑念は四散してしまう。スパルタンは思い出しきれなかったが、その全裸の女性は依頼書にでかでかと写真が載っている聖女モンスターであった。如芙花が平常であれば、あるいはアーニィがもう少しだけ長く部屋にいれば気が付けたであろう。だが、アーニィは彼女の姿を見ることなく部屋を飛び出して行ってしまった。如芙花が音の精霊を放ち、モニターから流れる小さな音を拡大して部屋に流す。本当に便利な精霊である。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 MZ地点-

 

「なるほど……ハピネス製薬が折れ、聖女モンスターを取り返したという事か……」

「はい。ですので、これ以上戦闘を続ける必要は無いんです。ほら、ウェンリーナー様も姿を見せてください」

「はーい」

「なるほど。どうやら嘘ではないらしいな……」

 

 ファルコンに促されて姿を現すウェンリーナー。依頼書通りのその顔を見て、摩利支天が深く頷く。

 

「だが、ここを通す訳にはいかんな」

「なっ!?」

「……理由を聞こうか?」

 

 ファルコンが驚愕している中、ブラック仮面が静かにそう口を開いた。

 

「その娘が本物であるかは、私には判らん。何せ依頼書で写真を見ただけだからな」

「それは私が保証し……」

「貴様が裏切り、または脅しにあっている可能性が無いとも言い切れん」

「ぶー、私は本物だよ!」

「たとえ本物だとしても、これが罠で無い可能性は否定出来ん。ならば、貴様らを殺してその聖女モンスターだけ連れて行くのが一番安全という訳だ……」

「随分と慎重だな」

「暗殺者ともなれば、用心深いのは当然なのかもしれませんけどね……」

 

 フェリスが舌打ちをし、エムサもその用心深さにため息をつく。これでは通して貰えそうにない。

 

「エンジェル組の一人として命ずる! そこをどけ!」

「断る。私の依頼者はアーニィだ。貴様の命令に従う義務も義理も無い」

「くっ……」

 

 強烈な殺気を受けてファルコンが思わず後ずさりをしてしまう。大陸最強の暗殺者集団、そのリーダーである摩利支天に、彼は恐怖を覚えていた。

 

「どうせモニターでアーニィが見ているはずだ。貴様らの言う事が本当なら、もうすぐ停戦命令が下る」

「出来れば、今すぐにでも先に進みたいんだがな。さっきの悲鳴は、知り合いの声に良く似ていた」

「ならば、押し通るか?」

 

 摩利支天が刀を構え、ニヤリと笑う。どうやら初めからこの展開に持っていくつもりだったようだ。

 

「そうさせて貰うか」

「そうこなくてはな……」

 

 ブラック仮面も剣を抜き、静かに口元に笑みを浮かべる。強者との戦いに、思わず笑みが零れる二人。瞬間、二人の剣と刀が交差し、火花が飛び散る。示し合わせていなかったにも関わらず、二人は同時に剣と刀を抜いたのだ。

 

「摩利支天暗殺組リーダー、摩利支天! 推して参る!!」

「冒険者、ブラック仮面! 俺に勝ったら正体を教えてやってもいいぞ!」

「ほう、楽しみだ!」

「(知ってるよ! 丸わかりだよ!!)」

 

 フェリスのツッコミが、心の中で寂しく響き渡るのだった。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 司令室-

 

「ずるい! 摩利支天、パーフェクト&パーフェクトって言わなかったわ!!」

「うおっ、暴れるな如芙花! 逃げるな、ブラボー!!」

 

 先の戦闘で思うところがあったのだろう。摩利支天は自身に付けていた通り名を口にしなかったが、そのことが如芙花を激怒させていた。力の精霊にボコボコに殴られているスパルタンは、早々に逃げ出したブラボーに文句を言う事しか出来なかった。

 

 




[人物]
如芙花
LV 26/38
技能 陰陽LV1 魔法LV1
 摩利支天暗殺組のメンバー。JAPAN出身であり、割と良い育ちだったりする。彼女の使う精霊魔法は陰陽と魔法の複合であり、かなり珍しい技である。だが、彼女のその技術を家の者や親戚は認めず、大喧嘩の末に家を飛び出して大陸へと渡ったという経緯がある。豆腐メンタルで、泣くと地が出る。

摩利支天
LV 34/57
技能 剣戦闘LV2
 摩利支天暗殺組のメンバー。JAPAN出身。大陸最強の暗殺者という呼び声も高いが、その実力は本物である。クセのある組員を纏める手腕は見事だが、一番クセがあるのは摩利支天自身だと他の団員は口にする。随分と仲良しな集団である。

ファルコン
LV 14/14
技能 剣戦闘LV1
 エンジェル組戦闘員。ぷりょとのハーフという生い立ちを持ち、驚異的な自己再生能力から不死身という呼び名がつく。その生まれから迫害を受け続けてきたが、アーニィに手を差し伸べられてその考えに心酔する。最近、リソラールという彼女が出来た。

ブレザァ (4.X)
 ランスに復讐を誓うレア女の子モンスター。ランスたちにクイズ勝負を挑むが、突如現れた如芙花に拘束され、それを解かれないまま如芙花が逃げてしまったためにとばっちりで犯されてしまう。彼女は今、泣いていい。

エーパレ
 エンジェル組の女子職員。エンジェル組一の美女と評判だが、ランスに犯される。

ポンキー
 エンジェル組の女子職員。元々はウェンリーナーの世話係であったが、ランスに犯される。

リソラール
 エンジェル組の女子職員。ファルコンの彼女だが、ランスに犯される。

アンデラ
 エンジェル組の女子職員。一番生意気な少女だったが、ランスに犯される。

エリザベス
 エンジェル組の女子職員。緑色の髪の泣き虫で、ランスに犯される。

花子
 エンジェル組の女子職員。うし車の運転手だが、ランスに犯される。


[技]
力の精霊
使用者 如芙花
 筋肉質の精霊を呼び出す如芙花の技。その攻撃力は高く、式紙なんて目じゃないとは本人の談。

速の精霊 (オリ技)
使用者 如芙花
 小型の精霊を呼び出す如芙花の技。力はないがその速さはかなりのもので、細かい仕事を任せるのに重宝する。

癒しの精霊 (オリ技)
使用者 如芙花
 傷を癒す精霊を呼び出す如芙花の技。効果はヒーリングと大して変わらない。

音の精霊 (オリ技)
使用者 如芙花
 楽器を持った小型の精霊で、どんな微かな音でも拾い、聞き取りやすくする如芙花の技。密談などを簡単に聞けるため、隠密活動に便利。

二翼の弓 (オリ技)
使用者 摩利支天
 刀から放たれた二本の闘気を敵に飛ばす摩利支天の必殺技。必ず二本飛ばすのは摩利支天の拘り。名前はアリスソフト作品の「夜が来る!」より。

四翼の刃 (オリ技)
使用者 摩利支天
 四本の刃で敵に襲いかかる摩利支天の必殺技。実は本物は一つだけであり、他の三本は摩利支天が殺気で生み出したまやかしだが、それを完璧に見破るのは困難である。名前はアリスソフト作品の「夜が来る!」より。

ふにゃふにゃ
 相手の防御力を下げるお祈り。効果があるかは使用者とのレベル差に依存し、強者にはあまり通じないが、今回は運良く成功した。


[装備品]
白虎刀
 摩利支天の愛刀。かつてJAPANで暴れたという白虎の妖気が詰まった妖刀であり、その斬れ味は本物。名前はアリスソフト作品の「夜が来る!」より。

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