ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第118話 ピンク仮面、華麗に参上

 

-ハピネス製薬 地下迷宮 地下二階 通路-

 

「うーむ、さっきの男、一体何者なんだ……」

「まだ言っているのれす。どこをどう見ても……あひゃっ!?」

「ん、どうした……げっ、ワイヤーじゃないか!」

 

 先程現れた謎の男の事を考えながら通路を歩くランス。自然と歩くペースも遅くなり、あてなが先を歩く形となっていた。すると、突如あてなの首にワイヤーが引っかかる。人工生命体であるあてなだから助かったものの、もしランスであったら首が胴体から離れていたであろう。ランスが目を見開いて周りを見渡すと、通路中に細いワイヤーが張り巡らされていた。

 

「なんてえぐい罠だ」

「痛いれす、ご主人様。取って、取って」

「いいから二歩ほど後ろに下がれ」

「あ、取れたのれす。わーい」

「まったく、ふざけやがって」

 

 無邪気に笑うあてなを横目に、ランスが張り巡らされていたワイヤーを剣で斬り捨てる。

 

「奴の言う通り、少し用心して進んだ方がいいかもしれんな。あてな、俺様の前を歩け」

「はーい、なのれす」

 

 罠があると危険なのであてなを先に歩かせるランス。冷静に考えれば酷い発言なのだが、あてなは喜んでいる。素直な人工生命体である。しばらく歩いていると、通路の陰に緑色の髪の女性が見える。

 

「ん? アーニィじゃないか」

「あら? ラ、ランスさん? ……生きているの?」

「この罠の事か? 酷い罠だ。こんなものを仕掛ける奴は普通の神経ではないな。見つけたらギタギタにぶっ殺す」

「ギタギタなのれす」

「そ、そうね! 許せないわよね……あはは……そ、それじゃあ私はこれで!」

 

 そこに立っていたのはアーニィ。モンスターが恐いはずの彼女が、何故こんな迷宮の奥にいるのかは疑問が残るところだが、特にランスは気にしていない。先のワイヤーの罠を思い出して歯ぎしりをしているランスを見て、乾いた笑みを浮かべるアーニィ。そのままそそくさとどこかへ逃げるように走り去ってしまう。

 

「おーい、まだ罠があるかもしれんから、走ったら危ないぞ」

「何の躊躇も無く走っているのれす。凄いのれす」

「うーむ、凄い勇気だ……」

 

 ワイヤーが張り巡らされているかもしれない通路を全力疾走するアーニィに感心するランス。そのまま彼女を見送り、迷宮探索を続ける事にする。しばらく歩いていると、少しだけ開けた部屋に出る。

 

「誰かいるのれす」

 

 部屋の奥には一人の女の子が立っていた。オレンジ色の髪にマントを羽織った、まるでヒーロー風の女の子。あちらもランスたちに気が付いたようで、こちらに視線を向けてくる。

 

「誰……?」

「聞かれたからには答えねばなるまい。俺様は、史上最強空前絶後の冒険者、ランス様だ!」

「お供のあてな2号なのれす!」

 

 ばばん、とポーズを決めるランスとあてな。先程出会ったブラック仮面に若干影響を受けているのかもしれない。冒険者という単語を聞いた瞬間、部屋の奥にいる女の子の顔が険しくなる。

 

「ふん、また冒険者ね。ハピネス製薬に金で雇われた、資本主義の悪魔が!」

「……ん? 君はモンスターか」

「そうよ。私は、召喚ちゃん。エンジェル組のお願いを聞いて、ここの人間を懲らしめているの!」

 

 中々の容姿であったため、ランスがジロジロと女の子を眺めているとある事に気が付いた。一見人間のようだが、良く見ると彼女は女の子モンスターであったのだ。彼女の名前は召喚ちゃん。この世に一体しか存在しないレア女の子モンスターだ。

 

「人間を懲らしめている?」

「そう。私はモンスターのお友達を呼び出す能力を持っているの! 新しい迷宮も、私にかかればあっという間にモンスターハウスよ! 聖域の巻物なんて効かないんだからね!」

「そうか。では、お前がこの事件の元凶だな。つまり、お前を倒せばこの任務も終わりという訳だ」

「弱そうな女の子モンスター一体くらい、あてなだけでもけちょんけちょんに出来るのれす!」

「ふふふ、一体ねぇ……いでよ、モンスターたち!!」

 

 ランスとあてなは事件の解決を確信していた。何せ目の前にはか弱い女の子モンスターが一体だけなのだから。だが、召喚ちゃんはその瞳を妖しく光らせると、一歩後ろに下がりながら右手を高々と突き上げ叫ぶ。すると、召喚ちゃんの目の前の空間に突如巨大な穴が現れ、モンスターが五体現れる。カーペンター、ゲイツ95、いもむしDX、パワーゴリラZ、さなぎ男と、中堅モンスター勢揃いといった状態だ。

 

「げげげ……」

「一体じゃないのれす。反則なのれす、詐欺なのれす!」

「いっけぇ! 私のモンスターたち!!」

 

 大量のモンスターたちが一斉にランスとあてなに向かってくる。その様子を陰から見ている男が一人。飛び出そうかと剣を握りしめるが、向かってくるモンスターに向かってランスが叫ぶ。

 

「ふん。この程度のモンスター共、束になっても俺様の敵ではない事を教えてやる! いくぞ、あてな!!」

「はいなのれす!」

 

 その叫び声を聞いた男は握っていた剣を腰に差し直し、少しだけ微笑んだ。

 

「マイクロ……」

「遅いわ!」

 

 指先からマイクロ波を放とうとしていたゲイツ95の胴体を真一文字に斬り裂くランス。次いで、こちらに向かって跳び掛かり、剣を振り下ろしてきたカーペンターの一撃を一歩後ろに下がって躱す。

 

「ぬっ……!?」

「ふん!!」

 

 剣が空を切った事に驚いているカーペンターに対し、ランスは剣を両手で握って振り下ろした。強烈な一撃は兜ごとカーペンターを粉砕し、その体が崩れ落ちる。

 

「ずばばーん!」

「うごぉぉぉ……」

 

 ランスから少し離れた位置であてながギガボウを構え、パワーゴリラZに向かって発射する。正確に放たれた矢は、パワーゴリラZの眉間に突き刺さり絶命させていた。

 

「ふしゅるるるー!」

「ふん。一気に決めるぞ!」

 

 いもむしDXが口から糸を発射するが、ランスはそれを華麗に躱して空中へ跳び上がる。剣を両手で握りしめ、闘気を集中させる。そこから放たれるのは、ランス自慢の必殺技だ。

 

「ランスアタァァァック!!」

 

 強烈な一撃がいもむしDXの巨体を真っ二つに斬り裂き、剣の切っ先が地面まで振り下ろされた瞬間、強烈な衝撃波がいもむしDXの周囲にも放たれる。その衝撃波で二分割されたいもむしDXの体は消滅し、同時に羽化しかけていたさなぎ男も消滅した。五体いた中堅モンスターは、あっという間に全滅してしまった。

 

「う、うそ……私のモンスターたちが……こいつ、今までの冒険者と格が違う!?」

「がはははは! 次はお前だ! こんなお痛をしたのだから、徹底的に楽しませて貰うぞ、ぐふふ……」

「えぇっ!? ちょ、ちょっと待って、私には片思いしているパワーゴリラの須藤くんが……い、いでよ、モンスターたち!」

 

 ランスとあてなのあまりの強さに呆気に取られる召喚ちゃん。これまで屠ってきた冒険者とは、あまりにも強さのレベルが違いすぎるのだ。ランスが手をイヤらしく動かしながら召喚ちゃんに迫ろうとするが、召喚ちゃんはすぐさま新しいモンスターを召喚する。先程と同じモンスターが五体召喚された。

 

「ふん、何度やってもこの程度のモンスター……」

「いでよ、モンスターたち! いでよ、モンスターたち! いでよ、モンスターたち!!」

「って、おい! ちょっと待て!?」

 

 召喚ちゃんの言葉に従ってそこかしこに召喚穴が発生し、次々に部屋にモンスターが現れる。気が付けばその数は三十体を優に越えていた。流石のランスも冷や汗を流すが、召喚ちゃんはまだモンスターを召喚し続ける。

 

「いでよ、モンスターたち! いでよ、モンス……」

「えぇい、こんな数と戦っていられるか! 戦略的撤退だ!」

「すたこらさっさー、なのれす!」

 

 ランスに襲われると思った召喚ちゃんは一心不乱にモンスターを召喚し続ける。あまりのモンスターの数にランスは戦う事を諦め、あてなを連れて部屋から逃げ出すのだった。

 

「ぜぇ……ぜぇ……くそ、限度というものを知らんのか」

「どうするれすか?」

「あいつの後ろに通路があった。どこか別の道からあの通路に回り込み、油断しているところを後ろから襲えばいいのだ」

「おお!? 為す術無く逃げたように見えて、実はちゃんと対策を考えていたのれすね。流石はご主人様なのれす!」

「がはは! では、別の道を探すぞ!」

 

 あてなの言葉を聞いたランスは上機嫌に別の道を探し始める。猪突猛進な性格故に勘違いされがちだが、ランスの真価は搦め手にある。そのままあてなと共に小一時間ほど迷宮を探索するが、召喚ちゃんがいる通路以外はどこも行き止まりであった。

 

「うーむ……あの後ろの通路にはあの道からしか行けんのか?」

「ご主人様、これ、これ」

「そこか……確かに道は続いているが、このねばねばした物体が邪魔で先に進めん」

 

 あてなが指差すのは、壁一面をねばねばした灰色の物体が覆っている場所。確かにねばねばの物体の奥には道が続いているが、このねばねばが非常に厄介な代物である。剣で斬っても矢で射っても、ぷるぷるとした感触が攻撃を受け流してしまい取り去ることは出来ず、先に進むことが出来ないのだ。

 

「うーむ……だが、他に道は無さそうだし、何とかしてこの物体を破壊する手段を考えねば……」

「破壊する必要はない!」

「むっ、誰だ!?」

 

 ランスがねばねばした物体の対処法を考えていると、突如迷宮に声が響き渡る。ランスが若干大げさに振り返ると、少し高い岩の上に漆黒のマントを靡かせた男が立っていた。

 

「貴様は、ブラック仮面!?」

「ランス、その壁に張り付いている物体はインフルエンザというものだ。それは二時間おきに収縮するため、待っていれば自ずと道は開かれる」

「なんだと!?」

「だが、今は時間が悪い。今から待っていたら、次の収縮までに一時間半は掛かる。帰りのことも考えると、今からその先に進むのは得策とは言えんな。明日の午前八時、あるいは十時にもう一度出直すのが良いだろう。では、さらばだ!」

 

 それだけ言い残し、シュバッという効果音と共にこの場を立ち去るブラック仮面。

 

「あいつ……まさかこれを言うためだけに出てきたのか?」

「おじいちゃんの知恵袋みたいなのれす」

 

 ドテッ、と岩の後ろで転ぶ音が聞こえる。今のあてなの言葉が聞こえていたのだろう。

 

「だが、確かにこの先がどれだけ長いかも判らん以上、一度寮に戻って休んだ方が良さそうだな。いや、その前にもう一度受付嬢に会いに行くか。どうせバードや言裏如きでは、今日中の解決は不可能だろう。おい、あてな。お帰り盆栽だ」

「え? 持ってきていないのれすよ」

「なにぃ!? 馬鹿者! シィルは言われなくとも、冒険のときはちゃんと準備しているぞ!」

「うぇぇぇん、ごめんなさいなのれす」

 

 ひょんな事からシィルの献身度を再確認してしまうランス。仕方なく、元来た道をとぼとぼ歩いて迷宮を脱出するのだった。

 

「あ、バードがピンチなのれす」

「ゲイツ95一体に苦戦しているのか……放っておけ、死んだら儲けだ」

 

 途中、ゲイツに苦戦しているバードを横目に見たが、無視して通り過ぎるランス。どうやらバードもランスとの口論で火が付いたのか、キサラを置いて一人で迷宮を再探索しにきていたようだ。だが、所詮はバード。迷宮の序盤でモンスターに阻まれ、碌に再調査が出来ていないようだった。

 

 

 

-ハピネス製薬 1階 受付前-

 

「あーん、言裏さーん!」

「うーむ、やはり拙僧の淫の念力の効果が無くなった訳ではないようでござるな。では、何故あてな殿には……」

 

 言裏が受付台の裏に隠れて受付嬢を抱いている。先程まであれだけ身持ちが堅かった受付嬢が、今では言裏にメロメロである。それには言裏の技が関係していた。言裏は指先から淫の念力というものを飛ばし、相手の女性をメロメロにしてしまうという恐るべき能力を持っているのだ。だが、先程のあてなには全くもって効かず、自身の能力が無くなってしまったのではとショックを受けていたのだ。

 

「あーん、もっとぉ……」

「あてな殿には何か不可思議な能力でもあるのであろうか……」

 

 腰を動かしながら真剣な顔で思案する言裏。あてなに淫の念力が効かなかった理由はただ一つ。彼女が人工生命体だからである。そのとき、受付前に声が響き渡る。

 

「げ、言裏! 貴様、受付嬢にモテないからって強姦するなど……」

「おっと、ランス殿。勘違いは困りまする。これは合意ですぞ」

「はい。言裏さん、大好きー」

「な、なにぃ!? 馬鹿な……」

 

 迷宮から戻ってきたランスが、再び受付嬢をナンパしようと受付までやってきたのだ。だが、そこにいたのは言裏と絡んでいる受付嬢の姿。そのうえ合意と聞き、あんぐりと口を開けてショックな様子で寮に戻っていく。受付嬢ナンパ勝負は、ランス、バードを差し置いて言裏に軍配が上がった。若干反則気味ではあるが。

 

「それじゃあ、またいつでも連絡してね……」

「うむ。良い子にしているでござるよ。では……」

 

 小一時間後、甘えてくる受付嬢に別れを告げ、言裏も寮へ戻ろうとする。すると、寮の方から青い髪をした魔法使い風の女性が近づいてきて、言裏に話し掛けてきた。

 

「言裏さんですね?」

「いかにも。お嬢さんは?」

「エムサ・ラインドといいます。貴方と同じく、ハピネス製薬から依頼を受けた冒険者になります」

「おおっ!? まだこれだけ美人の冒険者がいたとは、いやはや……どうですか? 拙僧と夜明けの茶でも?」

「うふふ、申し訳ありませんが、遠慮しておきます」

「それは残念。それで、拙僧に話し掛けてきたのは何用で?」

 

 言裏に話し掛けたのは、エムサ。その容姿を見るや否やナンパに走る言裏だったが、さらりとその誘いを躱す。

 

「冒険者の皆さんに会社の方からお話があるようです。明朝8時に警備員控え室に集まるように、との事です」

「ふむ……なんでござろう? 誰かが迷宮を制覇してしまったのでござろうか?」

「少し厄介事があったようです。詳しい事は、その場で……」

「厄介事……まさか、拙僧がそこかしこでナンパをしているのが問題に!?」

「ふふ、違いますよ。でも、少し自重した方が良いかもしれませんね」

「はっはっは。いやはや、失敬」

 

 笑い合うエムサと言裏。そのままエムサは会社の方へ、言裏は寮の方へ向かうので別れる事になる。エムサが軽く会釈をして立ち去ろうとした瞬間、言裏にある考えが浮かぶ。

 

「(……ふむ。淫の念力が本当に正常に作用するか、もう一度くらい確かめた方が良いかもしれぬでござるな。うむ、これは確認作業であり、何も邪な事は考えておらぬ!)」

 

 エムサの後ろ姿を見ながら、イヤらしい顔になる言裏。つい先程まで受付嬢を抱いていたというのに、恐るべき性欲である。スッとエムサの背中に向かって指先を向け、念を込める。

 

「淫の念力、発射……」

 

 小さくそう呟き、指先から淫の念力を飛ばした瞬間、目の前からエムサの姿が消える。

 

「ぬっ……はっ!?」

 

 突如消えたエムサに言裏が目を丸くするが、次の瞬間には目を見開く。自分の首筋に向かって杖の切っ先が向かってきているのだ。それを放っているのは、消えたはずのエムサ。そう、エムサは消えたのではない。即座に身を屈めて淫の念力を躱し、身を翻して杖を言裏の首筋に向かって放ったのだ。ガキン、という音が敷地内に木霊する。エムサの杖は言裏の錫杖に阻まれ、首の目前で止まっている。

 

「……どういうつもりですか?」

「し、失敬。ちょっとしたお茶目というか、遊び心というか……と、とにかく、何か害を加えようとした訳では……」

「……確かに、何を放ったかは判りませんが、殺気は感じませんでした」

 

 エムサが言裏の首筋に向けていた杖を引き、軽く手の平で回転させながら腰に差し直す。

 

「言裏さん、軽率な行動は慎んで下さい。理由は、明日の朝には判ります」

「う、うむ……では、拙僧はこれで……」

 

 そそくさと退散していく言裏。気配が離れていくのを感じ取りながら、エムサが一息つく。その頬には、一筋の汗。

 

「あのタイミングで錫杖の防御が間に合うとは……ただものではありませんね……」

「エムサ。今何か揉めていたようだが、どうかしたのか?」

 

 エムサが驚いていたのは、言裏が自身の杖を阻んだ事だ。元々殺気を感じていなかったため、首の直前で寸止めをするつもりではあったが、エムサが止めるよりも早く錫杖に阻まれたのは予想外であった。言裏が自身に放ったのは一体何だったのかと疑念を強める中、迷宮に潜っていたルークが声を掛けてくる。どうやら迷宮探索は終わったようだ。

 

「ああ、ルークさん。いえ、大した事はありません」

「……それならいいんだが。とりあえず、迷宮の方は多少調べてきた。早ければ明日にはランスが解決しそうだな」

「あら、ランスさんがいたのはもうご存じだったのですか? ……あっ、そうなると、もう他の冒険者の方と出会ってしまったかしら?」

「いや、色々事情があって、変装して迷宮を探索していたからな。ランスとは変装した状態で会ったが、俺とは気が付いていなかったし、他の冒険者とはまだ会っていない」

 

 暗殺事件が起こった事もあり、ルークには裏で動いて貰おうとしていたエムサが焦るが、どうやらまだ他の冒険者にルークの存在はばれていないようでホッとする。

 

「それは良かった。少しこちらでも厄介事がありましたので、ルークさんの存在を他の人、特に冒険者の方に知られたくないんです」

「厄介事?」

「それは今からお話しします。とりあえず、警備室へ行きましょう」

 

 こうしてルークとエムサは警備室へ向かい、互いの掴んだ情報を話し合う事になる。よもや暗殺事件が起こっているとは夢にも思っていないルークであった。

 

「……そうだ、エムサ」

「はい?」

「黒の鎧で防御力がそれなりに高いのって、何かないかな?」

「へ?」

「ちょっと、黒で統一したくてな……」

 

 

 

-ハピネス製薬 独身寮 ジョセフの部屋-

 

『鳴り物入りで室長になったあのガキ、結局何も成果を上げられてないじゃないか』

『やっぱり、天才といってもガキの間だけだな。大人の世界では通用しないよ』

『いつ辞めるんだ、あのガキ?』

「はっ!?」

 

 悪夢からジョセフが目覚める。夢に見ていたのは、幼迷腫を発明するまでの間、日常的に研究室で繰り広げられていた光景。滝のような汗がジョセフのパジャマを濡らしている。一度だけ息を深く吐き、ベッドから立ち上がって洗面所に向かい、水をコップに入れて一気に飲み干す。

 

「何で今更こんな夢を……あいつらのせいだ!」

 

 思い出されるのは、今日研究室を訪れた冒険者の顔。幼迷腫の事を探っていた、ルークとエムサ。

 

「幼迷腫の発売まで後少しなんだ……今あの事がバレれば、また僕は……」

 

 ガン、と強めにコップを置き、歯ぎしりをするジョセフ。その瞳には、若干恐怖の色合いが含まれていた。

 

 

 

-ハピネス製薬 独身寮 ランスの部屋-

 

 ガン、と強めにコップを置き、ランスが何かを思い立ったように口を開く。

 

「夜這いだ……」

「はひ?」

「ローズに夜這いだ! キサラちゃんやアーニィちゃんはどの部屋にいるか判らんが、ローズはマリアと同じ研究馬鹿っぽいから、どうせまだ研究室にいるに違いない! 今がチャンスだ!!」

「えー!? 今日はあてなとするんじゃないのれすか!?」

「がはは。お前とはいつでも出来るが、ローズとヤるチャンスは今しかないのだ。とうっ!」

 

 ダッシュで部屋を出て行くランス。それを悲しそうな瞳で見送るあてな。

 

「いつでもって、ご主人様はシィルちゃんとするのが多くて、あてなとあまりしてくれないのれす……悲しいのれす……あ、でも、ご主人様がいないって事は、今日は魔法ビジョン見放題なのれす。わーい」

 

 一瞬で明るい表情になるあてな。お馬鹿故に、あまり悲しみは引きずらないようである。

 

 

 

-ハピネス製薬 2階 警備室-

 

「暗殺事件とはな……殺したのは他の冒険者で?」

「ほぼ間違いないと思います」

「そして、これが冒険者の写真か……」

「はい」

 

 エムサに暗殺事件の事を聞いたルークが、目の前のテーブルに広げられている依頼書を手に取る。その依頼書には現在生き残っている冒険者の写真が貼られている。ランス、バード、キサラ、言裏、アーニィの五人だ。バードはキサラをしっかりとパートナー申請して依頼を受けたが、ランスはあてなを所有物扱いしているため、パートナーとして登録されていなかったために写真がない。写真を見ながらコナンが真っ先に口を開く

 

「私個人的には、一番怪しいのはラン……」

「ランスはないな」

「ですね」

「えぇっ!?」

 

 コナンはランスが怪しいと断言しようとするが、それよりも先にランスを除外するルークとエムサ。他の依頼書からランスの依頼書だけ遠ざけるのを見て、コナンは大げさに驚く。

 

「し、知り合いだからといって贔屓するのは……」

「知り合いだからというか、何というか……」

「ランスさんなら多分、暗殺はしませんね」

「むかつく奴がいたら、目の前で叩き斬るな。それもどうかと思うが……」

「は、はぁ……」

 

 ルークとエムサの断言に冷や汗を掻くコナン。知り合いにここまで言わせるランスとは、普段どのような振る舞いなのかと考えを巡らせる。

 

「他の面々は?」

「私の勘では、キサラさんは違うと思います」

「ほう? どういう娘だ?」

「格闘家兼魔法使いですね。魔法はカード魔術という珍しいものを使います。少し話しただけですが、素直な良い娘かと」

「格闘家? そんな事資料には……」

 

 コナンがキサラの資料をパラパラとめくるが、格闘家等という単語はどこにもない。

 

「扉を蹴破った際の蹴りが尋常では無いスピードでした。アレキサンダーさんと比べるのは可哀想ですが、それなりに覚えはあると思います」

「なるほど。では、俺個人の意見も。このバードは多分違うな」

 

 ルークがスッとバードの資料を脇に避ける。

 

「あら? どうしてそう思われるのですか?」

「知り合いだ。女垂らしではあるが、根は悪い奴ではない。なんというか……ヒーローである自分に酔っているという感じか? それだけに、汚い手段を取るとは思えん」

「女垂らし……ルークさんの知り合いはそういう方が多いですね。というか、ルークさん自身も……」

「勘弁してくれ……」

「うふふ、冗談ですよ」

 

 ランスやサイアスの事を思い浮かべながらそう口にするエムサ。そちら側には入れられたくないが、正直入れられても仕方ない状況にあるのを自覚しているルークはげんなりとする。エムサはその反応を受けてクスクスと笑いながらも、すぐに本題に戻す。

 

「このバードさんの腕前は?」

「磨けば光る。が、さっき軽く見た感じでは磨いて無かったな。まあ、一年ほど前に片腕を失っているから、義手に慣れるのに時間が掛かったと好意的に解釈出来なくもないが……」

「残念そうですね」

「少し期待していたからな……」

 

 ルークがため息をつく。四魔女事件の際にバードに助言をしたルーク。内心ではかなりバードが伸びる事に期待していたのだ。だが、今日目にしたバードはあの時と殆ど変わっていない状態であった。義手にする期間があったためだと自分を納得させようともしたが、直後の受付嬢へのナンパを見ては期待も下がるというもの。更に、あれ程強くなるまで女連れは止めろと忠告したのに、キサラをパートナーにしているのだ。

 

「とりあえず、バードには一言会って話をしないと……」

「駄目ですよ。ルークさんは裏で動いて貰うのですから、他の冒険者の前に現れるのは禁止です」

「……バードにだけ、少しだけで良いんだ」

「駄目です」

「ちょっと、脳天にチョップするだけなんだ」

「何故そんな事を!? 一層駄目です」

「じゃあ、変装して……」

「それでは辻斬りです! 通報されますよ!?」

「あの、そろそろ次の冒険者へ……」

 

 まるで夫婦漫才のような掛け合いをするルークとエムサに呆れるコナン。何だかんだで短期間に何度も冒険をしたため、息が合ってきた二人である。

 

「残るは言裏とアーニィか……言裏って、さっきエムサと揉めていた坊さんじゃないか?」

「はい。先程、突如後ろから何やら魔法のようなものを放ってきたんです」

「えぇっ!? それじゃあ、決まりじゃないですか! 犯人は言裏、間違いない!」

「ですが、言裏さんからは殺気のようなものは感じませんでした。一体あの魔法は何だったのか……それと、彼は相当な実力者だと思います」

「……まあ、用心するに越した事はないな。要注意人物、その一ってところか? それで、アーニィは?」

 

 ルークは言裏の依頼書を横に避けずその場に残したまま、話題をアーニィに移す。

 

「先程、明朝お話があると伝えに行ったのですが、微かに毒の臭いがしました。恐らく、暗殺に使われた物と同じです」

「えぇっ!? それじゃあ、決まりじゃないですか! 犯人はアーニィ、間違いない!」

「だが、アーニィはナイフ使いか……」

「はい。レンジャー職であれば、毒を持っていても不思議ではありませんからね。これだけで決めつけるのは、早計かと」

「だが、彼女に関しては俺も怪しいと思う」

 

 コナンが先程と全く同じ反応を示しているのを無視し、二人は話を続ける。エムサはアーニィを犯人だと断言は出来ないと言うが、ルークがアーニィの写真を指差しながら怪しんでいる事を口にする。

 

「それは何故?」

「迷宮で遠目に見たんだが、罠が仕掛けられている可能性のある地帯を全力疾走で駆けていった。直前にランスがそう声を掛けているにも関わらずだ」

「……なるほど。では、マークするのはこの二人で」

 

 テーブルの中心に残されたのは、言裏とアーニィの依頼書。暗殺者は、この二人のどちらかが有力だと考える二人。そのとき、上の階で物音が聞こえた。

 

「ん? まだ誰か残っているのか?」

 

 時計を見ると、既に日が変わる直前。こんな時間まで研究に残っている職員がいるのかと、ルークは首を傾ける。

 

「多分、ローズさんですね。研究熱心な方ですから」

「ローズさんですか。それなら、何か差し入れでも持って行ってあげた方がいいかしら」

「ああ、それは駄目です。以前差し入れを持って行った事があるのですが、集中したいから放っておいて欲しいと言われました」

「それじゃあ、邪魔するのも悪いな。俺たちも寮に戻るとしよう」

「そうですね」

 

 ローズに差し入れでも持って行こうと提案するエムサだったが、コナンが以前あった出来事を説明してそれを止める。本当にマリアに似ているなとルークは軽く笑い、エムサと共に独身寮へと向かうのだった。

 

 

 

-ハピネス製薬 4階 第二研究室-

 

「だ、駄目です、ランスさん……」

「がはははは、問答無用だ、それー!!」

「な、なんで、なんで私なんですか!?」

「それはローズが綺麗だからだ! 俺様はいい女しか抱かないぞ、がはは!」

「……えっ?」

 

 こうして、夜は更けていった。

 

 

 

-翌日 ハピネス製薬 4階 第二研究室-

 

「ランスさん……起きてください、ランスさん……」

「んっ……ふぁぁぁぁ……」

 

 ランスが優しい声に起こされ、大きな欠伸をしながら背伸びをする。見れば、そこはベッドでは無く床の上。申し訳程度に毛布が掛けられているが、床の上で寝たため少し体に痛みを感じる。

 

「ランスさん、今日は8時に警備控え室に呼ばれているのでしょう?」

「ん……そういえば、シルバレルのブスがそんな事を言っていたな……うっ、朝から嫌な顔を思い出したぞ……」

「もう、そんな事言っちゃ駄目よ」

 

 ランスに慈しむような視線を送りながら、ローズが優しく起こす。一晩、たった一晩でランスはローズを籠絡していた。シルバレルの顔を思い出して気持ち悪くなるランスだったが、ローズはそれを優しく窘める。

 

「はい、コーヒー」

「……それは飲めるのか?」

 

 ローズが温かいコーヒーを差し出すが、その容器はビーカー。マリアと同じ研究馬鹿であるローズは、常識人に見えてどこか感覚が普通ではなかった。

 

「ちゃんと洗っているから大丈夫よ」

「……苦い」

「もっと、砂糖入れますか?」

「うむ。こんな苦いものは飲み物ではない」

 

 ブラックコーヒーをバッサリと切って捨てるランス。その答えに少しだけ微笑みながら、ローズは砂糖をたっぷり入れてランスに渡す。最早コーヒーと呼んで良いのかも怪しい激甘の飲み物を満足そうに飲むランス。

 

「あの、ランスさん……昨晩の事は、出来たら忘れてください……」

「ん?」

「その、ちょっと私おかしかったんです。初めて綺麗だなんて言われて、舞い上がっていただけで……」

「嫌だ」

 

 モジモジとしているローズをグイッと抱き寄せるランス。目の前にランスの顔が迫り、ローズが頬を赤く染める。

 

「ローズはもう俺様の女だ。良いな? これからは俺様の言う事は、なんでも聞くんだぞ」

「……はい。嬉しいです」

「ちゃんと良い子にしていれば、また抱いてやる」

「んっ……!?」

 

 ランスの唇がローズの唇と重ね合わさる。昨晩の行為を思い出してしまうような、濃厚なキス。そのまま軽くローズの尻をなで回し、数秒の後、ランスがゆっくりと唇を離すと、ローズの瞳はうっとりとしてしまっていた。

 

「判ったな?」

「はい、嬉しいです……」

「あ、いたのれす!」

 

 そのまま昨晩の続きに入ってしまいそうな雰囲気であったが、それを破るドアが開かれる音と明るい声。二人が入り口に視線を向けると、そこに立っていたのはあてな2号。

 

「ご主人様。もうみんな控え室に集まっているのれす」

「ん? 約束の時間は8時だろう?」

「あ、そういえばあの時計、30分遅れているんでした! ごめんなさい!」

 

 ランスがちらりと壁に掛けられた時計を見る。まだ7時40分で、集合時間では無い。だが、ローズが時計の時間が間違っていた事を思い出し、ランスに深く謝罪する。

 

「なぁに。三流冒険者共など、いくらでも待たせておけばいいさ」

 

 ぐい、とコーヒーを飲み干し、特に急ぐ様子も無く研究室を後にするランス。ローズはその背中を愛おしそうな瞳で見送るのだった。

 

 

 

-ハピネス製薬 2階 警備員控え室-

 

「ルークさん。もう、まもなくです」

「了解。ここで見ているから、手筈通り頼む」

 

 コナンが控え室の隣にある物置にそう話し掛けにくる。冒険者たちの顔や話が判るよう、この部屋には覗き穴を開けてあり、ルークはその穴から隣の控え室の様子を覗いているのだった。コナンが隣の部屋に戻っていくのを確認した後、ブラックコーヒーを軽く口に含みながら緊迫した面持ちで事態を見守る。コナンが部屋に戻るとほぼ同時に、最後の冒険者であるランスが控え室にやってきた。

 

「ランスさん、遅いですよ」

「がはは、男は遅い方が良いのだ」

「?」

「き、気にしないで、キサラさん」

 

 朝っぱらから軽く下ネタを飛ばすランス。判っていない様子のキサラに、バードは冷や汗を掻きながら取り繕う。

 

「なんだか緊迫した雰囲気だな。それに、全員集合か……ん!?」

「あ、エムサなのれす」

 

 コナンの苦言を受け流したランスが部屋の中を見回す。バード、キサラ、言裏、アーニィと残っている冒険者勢揃いといった様子だ。だが、一人だけ昨日会っていない冒険者がこの場にいる。それは、闘神都市で一緒に冒険をしたエムサだ。

 

「おお! エムサさんではないか!」

「お久しぶりです、ランスさん」

「うむうむ。エムサさんもこの依頼を受けていたのか。だが、無駄足に終わるぞ。この俺様が今日中に依頼を解決してしまうからな!」

「それは頼もしい。胸を借りるつもりで頑張りますね」

「がはははは。で、この後一発どうだ?」

「ふふ、相変わらずですね。駄目ですよ、誰彼構わずそういう事を言っていては」

 

 グッと親指を人差し指と中指の間に入れ、卑猥なジェスチャーをエムサに送るランスだったが、軽く受け流すエムサ。すると、コナンが本題に入りたいのかコホン、と咳払いをする。

 

「とにかく、皆さんが揃われたので昨晩の事件について説明させていただきます」

「事件?」

「っ……」

 

 事件と聞いて言裏とランスが首を捻り、バードとキサラは沈痛な面持ちになる。恐らく、バードはパートナーであるキサラに話を聞いていたのだろう。そして、残ったアーニィには特に変化が見られない。

 

「昨晩、戦士フロックさんが部屋で毒殺されているのが発見されました」

「フロックさん……」

「くっ……」

「…………」

「なんと!? むぅ……罪よのぉ……」

「誰だそれは?」

 

 フロックの死を知った面々の反応は様々。バードとキサラは更に表情を落とし、アーニィは変化無し。言裏は驚いた後にお経を読み始め、ランスは聞き覚えの無い名前に耳をほじっている。

 

「冒険者であるフロックさんが殺されたとなると、ライバルである貴方たちの中に犯人がいる可能性が非常に高いのです」

「なにぃ? 俺様を疑っているだと? くだらん、帰る」

 

 コナンの言葉を聞くや否や、くるりと身を翻して部屋を出て行こうとするランス。それを慌てて引き留めようとするコナン。

 

「ランスさん、逃げる気ですか? さては、貴方が犯人ですね!」

「馬鹿者。俺様だったら毒殺なんて面倒な事はせず、不愉快な奴はその場で斬り殺す」

 

 ルークとエムサが内心でため息をつく。正に予想通りの答えだ。

 

「それに、戦士一人が毒殺されただけなんだろ? そんなもの、別に誰が犯人でもいいじゃねぇか」

「なっ!?」

「殺される奴がドジなだけだ。そんなアホは、放っておいてもモンスターの餌食になっている。死ぬのがちょっと早くなっただけだ」

「ですが、フロックさんは依頼から手を引いて帰るところだったんですよ」

「っ!?」

 

 その言葉に、一瞬だけアーニィが目を見開くが、すぐに気持ちを落ち着けて元の状態に戻る。だが、その動揺をルークは見逃さず、エムサも気配の変化を明確に感知していた。

 

「ふん、なら尚更関係無いな。帰るところだった奴を殺したところで、何のメリットもないではないか」

「で、ですが、それを知らずに間違って殺し……」

「……俺様はさっき、不愉快な奴はその場で斬り殺すと言ったはずだぞ。これ以上下らん事で足止めするなら、貴様は俺様にとって不愉快な奴になる訳だが?」

「うっ……」

 

 ランスが強烈な殺気をコナンにぶつける。コナンはその殺気を感じ取れるほどの強者ではないが、ランスの真剣な目と今の物言いから自分を殺そうとしている事は判る。これ以上引き留めれば、命はない。そのとき、パンパンと言裏が手を鳴らす。

 

「さぁ、話は終わりでござるな。解散、解散」

「そうですね。もう十分でしょう」

「っ……!? わ、判りました。これで話は終わりですが、皆さん、十分注意してください。次に狙われるのは、皆さんの可能性が高いのですから」

 

 言裏の言葉に続くように、エムサがもう十分だと口にする。それが、事前に決めていた合図だ。コナンはそれを聞き、話を切り上げて解散する事にする。ぞろぞろと部屋から出て行く冒険者たち。しばらくして全員が立ち去った後、ルークがこちらの部屋にやってくる。

 

「ど、どうでしたか、ルークさん?」

「……まあ、ある程度は絞れたな」

「本当ですか!?」

 

 ルークの返答を聞いてコナンが驚いていると、ガチャリとドアが開く。それは、エムサ。彼女も一度こちらに戻ってきたのだ。開口一番、容疑者の名前を口にする。

 

「まあ、アーニィさんが有力ですね」

「まさか見られているとは思わなかったんだろう。すぐに取り繕ったのは見事だったが、一瞬動揺が見て取れた」

「ア、アーニィさんが犯人なんですか!?」

「確定ではありませんけどね」

 

 ルークとエムサはアーニィに当たりを付ける。前日から目を付けてはいたが、フロックが殺されたと聞いたときよりも依頼から手を引いていたという話を聞いたときの方が驚いていたというのはおかしい。

 

「アーニィさんはこれから迷宮に潜るようです。バードさん、ランスさんも同様ですね。対して、言裏さんは少し時間を潰してから潜るとの事です」

「調査が早いな」

「今日は私が迷宮に潜ります。同じ冒険者ですし、怪しまれる事も無いでしょう。ルークさんは、言裏さんの動向を追うのと、幼迷腫の調査を」

 

 エムサが杖を握りしめ、ルークに向かってそう口にする。

 

「……そうか、そうだな。では、軽く調査をしておく。調査が進みそうになかったら、俺も迷宮に潜る」

「あら、そんなに頼りないですか?」

「そういう訳ではないが、昨日エムサが調査した事以上の結果を俺が見つけられるかは微妙だからな」

「ご謙遜を……」

 

 エムサは小さく笑うが、やはりローズというツテがあったのは大きく、予想以上の調査結果をエムサは残していた。昨日の調査で判った事は二つ。幼迷腫完成の少し前、ジョセフは人が入れそうな巨大なカプセルを発注していたが、そのカプセルの用途は不明とのこと。また、それと前後して小型のモンスターを発注していた事も判っているが、これも同様に用途不明とのこと。

 

「では、行って参ります」

「俺も後で向かうから、無茶はするな」

「ふふ。大丈夫ですよ」

 

 こうして今日の役回りは昨日とは逆に、エムサが迷宮探索をし、ルークは情報収集となる。だが、言いしれぬ不安がルークの胸には残るのだった。

 

 

 

-ハピネス製薬 4階 第一研究室-

 

「今は大事な追い込み時期なんです。関係者以外は立ち入り禁止です。出て行ってください!」

 

 ルークが話を聞こうと第一研究所に立ち寄ったが、ジョセフに門前払いを食らってしまう。警戒されきっている様子だ。

 

「やはりこれでは調査にならんな。言裏も逢い引きしているだけだったし……」

 

 エムサと別れた後、ルークはまず言裏の後をつけた。だが、言裏は受付嬢といちゃついているだけだった。あのような話の後ですぐさま逢い引きに走れる剛胆さには感心したが、流石に見るに堪えなかったので幼迷腫の調査に変更したのだ。流石に言裏が犯人だとは思えない段階まで来ていた。だが、幼迷腫の調査の方もこうして門前払いを食らっている。

 

「少し早いが、迷宮に行くか」

「あー、どいて、どいて、どいて!!」

「んっ?」

 

 突如廊下に響き渡る少女の声。ルークがそちらを振り返ると同時に、ルークに少女が強烈な体当たりをしてきた。そのまま後ろに仰け反る少女の体を抱き上げるルーク。

 

「おっと……大丈夫か? 廊下は走ったら駄目だぞ」

「あ、ごめんなさい」

 

 軽く舌を出して謝ってくる少女。その仕草に小憎らしいものはなく、どこか可愛げがあった。オレンジ色の髪に大きな緑色のリボン。スパッツを穿いていて活発そうな印象を受ける。歳の頃は、まだミルと同じくらいだろう。

 

「……あ、もしかして、新しい冒険者さん!?」

「そうだが、君はどうしてこんなところに?」

「あ、私、エリーヌっていいます。エリーヌ・ハピネスです!」

 

 ペコリ、と頭を下げてくるエリーヌ。廊下を走ってはいたが、礼儀は出来ているようだ。ハピネスという名前を聞いたルークは、この少女の正体に気が付く。

 

「ハピネス……ドハラス社長の娘さんか」

「はい。そうだ、お兄さん!」

「…………」

「えっ? ど、どうして急に頭を撫でるんですか?」

 

 お兄さんと呼ばれてつい頭を撫でてしまうルーク。ルークの中でエリーヌは良い子と認定された瞬間だった。

 

「お兄さん、私の部屋に来て遊んでくれませんか? お父さんも職員さんも忙しそうで、暇なんです」

「……すまないが、俺も少し用があってね」

「えー、つまらない。一緒に歌ったり、お話したりしようよー。とっておきの怪談話があるんだから。第一研究室から聞こえてくる、すすり泣く女の幽霊の声とか……」

「……!?」

 

 ぶう、と頬を膨らませて文句を言うエリーヌだったが、彼女の言葉の一つにルークは大きく反応する。

 

「エリーヌちゃん。その怪談、昔からあるのかい?」

「ううん。最近になって急に出来た噂だよ」

「……そうだな。少しだけだけど、一緒に遊ぼうか。その怪談、詳しく聞かせて貰えるかな?」

「やったぁ! じゃあ、私の部屋に行きましょう!」

「あ、少し先に行っていてくれるかな? お兄さん、ちょっとだけ用事を済ませてから行くから」

「はーい。私の部屋は5階にあるから、ちゃんと来てね!」

 

 ルークが遊んでくれると聞き、満面の笑みを作るエリーヌ。よほど遊び相手が欲しかったのだろう。ルークが若干お兄さんという単語を強調して言い聞かせ、エリーヌは先に階段を上がっていく。それを見送り、ルークは人気のない物置に移動して言葉を発する。

 

「来い、フェリス!」

 

 それは、契約の言葉。ルークの前に異空間の穴が現れ、そこからヌッとフェリスが出てくる。

 

「どうかしたか?」

「少し問題が発生してな。掻い摘んで話すから、良く聞いてくれ」

 

 現れたフェリスにルークは今の事情を掻い摘んで説明する。依頼の事、ランスの事、暗殺事件の事、自分が冒険者の前では表だって行動出来ない事、今迷宮にエムサや他の冒険者がいる事。

 

「つまり、あんたの代わりに私が陰から見守っていればいいんだな」

「ああ。俺がエリーヌちゃんから情報を聞き出している間、ランスとエムサを見守っていてくれ。必要であれば、手助けを頼む」

「了解。でも、ランスの前に出たらまずいんだろう?」

「ああ。フェリスがいるとなったら、流石に俺がいる事に気が付くだろうからな。どうしようもない緊急事態以外は、出ないようにしてくれ。それと、一応帰り木も渡しておく」

 

 フェリスが契約を結んでいる人間はルークとランスの二人。ランスが呼び出していないのであれば、必然的にルークが呼び出した事になる。そうなれば、ハピネス製薬にルークがいる事もばれてしまう。

 

「そういう訳で、フェリスの存在もばれたらまずいから、エリーヌちゃんの話が終わって俺が動けるようになったらすぐに帰って貰う事になる」

「……なんだ、そうなのか」

 

 ルークの言葉を聞いて少しだけ残念そうにするフェリス。

 

「少しの間だけだが、頼んだ」

「……まあ、任しておきな。それじゃあ、行ってくるよ」

 

 迷宮に向かうまでの間、社員に悪魔だとばれないよう、ローブを身に纏い、フードを深く被るフェリス。それは、以前闘神都市でフロンに貰ったローブである。そのまま部屋を後にしようとするフェリスに、ルークは何かを思い出して引き留める。

 

「待った、フェリス! これを持って行け」

「ん?」

「これがあれば、正体がばれる事は無い!」

「…………」

 

 フェリスが振り返ってルークの方を見ると、その手には蝶型のメガネが握られていた。フェリスはそれを受け取り、自信満々そうなルークの顔目がけて全力で投げつけるのだった。それは見事にルークの顔面に命中し、バチーン、という乾いた音が物置に鳴り響いた。

 

 

 

-ハピネス製薬 地下迷宮 地下二階 通路-

 

「ランスさんって、意外と冒険者としての常識もあるんですね。インフルエンザの事をちゃんと知っているだなんて……」

「がはははは。この程度、常識だ。そこのバードなんかは知らなかったかもしれんがな」

「失礼な。ちゃんと知っていましたよ!」

 

 アーニィに褒められて上機嫌になるランス。別々に迷宮に潜った面々だったが、インフルエンザの収縮を待っている間に言裏以外の全員が合流してしまい、今はこうして一緒に迷宮を進んでいるのだ。とはいえ、本来ライバル関係である一同が一緒に行動しているのには、もう一つ理由がある。

 

「アーニィさんの話では、この奥に対召喚ちゃん用の最終兵器が隠されているとか」

「はい。ですが、それを守るモンスターが凄く強くて、みんなで力を合わせないととても勝てそうにないんです」

「…………」

 

 バードの言葉に頷くアーニィ。だが、エムサは含みを持った顔でアーニィの言葉を聞いている。明らかに怪しい。召喚ちゃん用の最終兵器など、聞いた事がない。だが、アーニィの監視とランスの動向を探る両方を兼ねて、今は一時的に行動を共にしていた。

 

「(ぐふふ……とりあえず仲間になったふりをして、武器を見つけたら俺様一人のものだな)」

 

 ランスが悪そうな顔をする。当然仲間になったつもりはなく、隙あらば武器を持ち逃げするつもりなのだが、それはアーニィにとっては都合の良い展開であった。

 

「(ふふふ……言裏以外の冒険者を一網打尽にするチャンスね。とはいえ、私も馬鹿じゃないわ。このエムサとかいう女が、明らかに私をマークしているのには気が付いているわ。さっき一瞬動揺したのを気取られたのかしら? 失敗したわね……)」

 

 ルークとエムサの誤算がここに一つあった。それは、想像以上にアーニィが出来る相手だったという事だ。既にエムサが自分を怪しんでいる事には勘付いている。その上で、エムサの隙を冷静に探っていた。

 

「うーん、気味が悪いな」

「れろれろって感じれすね」

「れろれろ?」

「こいつの言う事は真面目に聞かなくて良い」

「ヒドイのれす!」

「うふふ」

 

 アーニィの案内する方向に通路を歩きながら、ランスが周囲の陰惨とした様子に不満を漏らす。次いであてなが意味不明の事を言ってキサラが困惑するが、ランスがキサラに忠告してあてなが半泣きになる。その様子にエムサの口から自然と笑いが零れる。

 

「ところで、ルークは一緒じゃないのれすか?」

「えっ!?」

「えっ? エムサさん、ルークさんと一緒なんですか?」

「いえ、そんな事は……」

 

 突如あてながエムサにルークの事を聞いてくる。唐突な質問にドキリとするエムサ。バードもルークの名前を聞いて驚いたようにしている。

 

「おかしいのれす。エムサはてっきりルークと一緒だと思っていたのれす」

「どういう事だ?」

「闘神都市でルークにあちちな熱視線を送っていたのれす。あてなは見逃していないのれすよ!」

「なにぃ!? ルークの奴、まだ増やす気かぁ!?」

「ち、違います! あてなさんの言葉は、真面目に聞いちゃ駄目なんですよね!?」

 

 闘神都市でルークに送っていた熱視線というのは、半分当たりで半分外れである。あのときは、弟の治療に協力してくれそうな強者を見定めていただけである。だが、堂々と熱視線と言われて慌てるエムサ。偶然とはいえ、ルークとエムサが一緒に行動しているというあてなの予想は的中しているのだから無理もない。そのとき、キサラが辺りを見回しながら口を開く。

 

「……アーニィさんは?」

「むっ? そういえばアーニィちゃんがいないぞ」

「……!? しまった……」

 

 エムサが自身の失態に気が付く。それは、一瞬の隙。あてなの言葉に動揺して取り繕っている今のやりとりの間に、アーニィはパーティーから姿を消していたのだ。となれば、今の状態はあまりにも危険。慌てて来た道を引き返すよう言おうとしたエムサだったが、それよりも早く地面がグラグラと動き出した。

 

「うおっ!? なんだ!?」

「ご主人様! 天井が落ちてくるのれす!」

「キサラさん、危ない!」

「皆さん、逃げてください!!」

 

 通路が崩壊し、崩れた土砂がランスたちを襲う。こうしてランスたちは生き埋めになってしまった。

 

 

 

-ハピネス製薬 地下迷宮 地下二階 三叉路-

 

「やれやれ、長いダンジョンだね。インフルエンザの地点も越えたし、もうそろそろ追いつきそうかな?」

 

 フェリスが頭を掻きながらランスたちの後を追う。出発こそ時間差があったが、ランスたちは長い時間インフルエンザの前で待っていたため、距離自体はかなり縮まっていたりする。もうランスたちは目前という位置までやってきていたが、少し離れた通路に人の気配を感じてフェリスは即座に隠れる。

 

「あれは、確かアーニィとかいう冒険者……」

 

 直前にルークが持っていた資料を読んでいたフェリス。その中で容疑者筆頭であるとルークに言われていたため、アーニィの顔はしっかりと覚えていた。その彼女が何やら悪そうな顔をして、手に持ったスイッチを押す。瞬間、フェリスが歩いていた通路の先でグラグラと揺れが起こり、音が響き始めた。それを確認してアーニィは逃げ去っていく。

 

「まさか、あいつ……プチハニーで通路を爆破したのか!?」

 

 フェリスが逃げて行くアーニィに殺気を向けるが、即座にランスとエムサの危機だと考え直し、アーニィを追うのではなく音のしている通路に全力で飛んでいくことにする。フェリスが到着したのは、丁度天井が崩れる瞬間。ランスとあてな、バードとキサラ、そしてエムサは一人という立ち位置で土砂に飲み込まれていった。

 

「まずい、生き埋めだ! エムサ……いや、ここはランスが優先だ!」

 

 どちらもまずい状況には変わりないのだが、一応契約者であるランスを優先して助ける事に決めてフェリスは飛び出そうとする。だが、フェリスよりも早くランスが飲み込まれた土砂の辺りに駆けていく影があった。フェリスには後ろ姿しか見えなかったが、その人物は特徴的なピンクのもこもこヘアーであった。それを見て、その人物が誰なのか一瞬で見当がついたフェリス。同時に、彼女に任せておけばランスは大丈夫であろう事も。

 

「なら、ランスはあいつに任せて私はエムサだ!」

 

 ランスの事は彼女に任せ、土砂に流されてランスとは少し離れた位置に生き埋めになっているエムサに向かって飛んでいくフェリス。ルークにこの場を任されたからには、是が非でも死なせる訳にはいかないのだ。

 

 

 

-ハピネス製薬 地下迷宮 地下二階 土砂の中-

 

「うぅ……体が動かんぞ……」

 

 積もった土砂が邪魔して身動きが取れないランス。徐々に息苦しくなっていき、死が迫っているのをリアルに感じ取る。

 

「まさか、俺様がこんなところで死ぬのか……」

 

 頭を過ぎるのは、最悪の想像。英雄である自分が、まさかこんな土砂崩れなんかで命を落とすのかと背中に汗が流れる。だが、どんどん空気が薄くなっていき、意識がぼやけてくる。瞼の裏に映るのは、この場にはいない女性の姿。

 

『ランス様……』

「シィル……」

 

 そして、ランスは意識を手放す。そこには、真っ暗な闇が広がっていた。それはまるで、ジルによって飛ばされたあの異空間のような世界。

 

「……ンス様、起きてください、ランス様!」

 

 どれだけ時間が経っただろうか。自分を呼ぶ声に、ランスがゆっくりと目を開く。

 

「ランス様……あっ! こほん、大丈夫ですか?」

「ん……君は……?」

 

 ランスがぼんやりとした意識を覚醒させる。横たわるランスの目の前にいるのは、おかしなピンク色の蝶型メガネをつけた女性。メガネに阻まれて素顔は判らないが、相当な美女であるとランスは予想する。本来なら跳び掛かりたいところだが、流石に寝起きであるため跳び掛かれない。代わりに、精一杯の力を振り絞ってその女性に名前を尋ねる。

 

「私はピンク仮面。貴方の味方です」

「うっ……ピンク仮面、一体……」

「あっ、あまり動かないでください。ヒーリングは掛けましたが、身体中に傷を負っていますから」

「うぅん、誰だか判らんが、良さそうな乳をしているな……」

 

 ランスがピンク仮面の胸に向かって手を伸ばすが、サッと立ち上がってそれを躱すピンク仮面。そのままランスを心配そうに見つめながら口を開く。

 

「気を付けてください。貴方には、帰らなければならない場所と大事な人がいるはずです」

「……帰る場所? 大事な人?」

「それから、あのアーニィという娘は敵です。用心してください!」

「なんだって!?」

「それでは!」

 

 それだけ言い残し、華麗にこの場を立ち去っていくピンク仮面。それと同時に、土砂の中からあてな2号が顔を出す。

 

「ぷはっ! ぺっ、ぺっ、土が口に入ったのれす」

「あてな。他の三人は?」

「知らないのれす。埋まっちゃった?」

 

 首を傾けながら土砂を指差すあてな。北側に続いていた通路は完全に埋没してしまっている。どうやら人口生命体であるあてなは自力で脱出したようだが、他の三人はまだ生き埋めのようだ。

 

「くっ……みすみすキサラちゃんとエムサさんを生き埋めにしてしまうとは。これも全てバードの馬鹿のせいだ……」

「……さん」

「んっ?」

「ランスさん……」

 

 美女二人が生き埋めになってしまった事にランスが落ち込んでいると、高く積み上がった土砂の中から声が聞こえてくる。そちらにランスが耳を傾けると、それはバードの声。

 

「バード、生きていたのか!」

「はい、お陰様で……」

「お前なんぞどうでもいい! キサラちゃんとエムサさんは?」

「私も無事です」

「おお、キサラちゃん! 無事で良かった!」

 

 土砂の向こうからキサラの声も聞こえてきて安心するランス。バードの説明を聞く限り、二人は広い部屋に閉じ込められた形となってしまったようだ。自由に身動きも取れ、酸素も十分にある。だが、件の対召喚ちゃん用最終兵器などは無く、出口も完全に塞がれてしまっているとの事。

 

「それで、エムサさんは?」

「側で土砂を掘り返す音が聞こえました。話を聞く限りあてなさんでは無いようですし、恐らく自力で脱出しているかと。もしかしたら、帰り木で先に帰って救助を呼びに行っているのかもしれません」

「ふむ……」

 

 それは、フェリスが土砂を掘り返す音だったのだが、フェリスがこの場にいる事を知らない四人はエムサが自力で土砂から脱出したと勘違いをする。

 

「とりあえず俺様は土砂を何とかする手段は無いか探す。バードはどうでも良いが、キサラちゃんは助けないとまずいからな」

「すいません、お願いします……」

「バード、キサラちゃんに手を出したら叩っ斬るぞ!」

「だ、出しませんよ……」

 

 土砂の向こうのバードを恫喝し、ランスはキサラを助けるための手段を探すべく動く事にする。

 

「ところでご主人様。あてながご主人様と合流する前に、誰かと話していなかったれすか?」

「ああ……あれは、ピンク仮面だ」

「ピンク仮面?」

「良い乳をしていた。一体何者なんだ……」

 

 閉じ込められたバードとキサラ。突如現れた二人目の仮面の戦士、ピンク仮面。事件は、更に更に混迷を極めていくのだった。

 

 

 

-ハピネス製薬 地下迷宮 地下二階 通路-

 

「あいつ、何してんだ……」

 

 ランスにばれないよう、一足先に通路脇に隠れたフェリス。その胸には気絶しているエムサを抱きかかえているが、顔は引きつっている。まるでとんでもないものを見たかのような引きつり具合だ。

 

「おかしい……あいつはもっと真面目な奴だったはずだ……あんな蝶型メガネをつけるような奴じゃあ……やばい、頭痛くなってきた」

 

 込み上げる頭痛から逃避するように帰り木を使って迷宮から立ち去るフェリス。だが、この出来事はこれから積み重なるフェリスの心労の序章に過ぎなかった。

 

 




[人物]
ピンク仮面
LV 25/75
技能 魔法LV1 神魔法LV1
 突如ランスの前に現れた謎の仮面女。ピンクの蝶型メガネで素顔を隠しており、その正体は判らない。特徴的なもこもこヘアーであり、ランス曰く、俺様好みの良い乳をしている。

エムサ・ラインド (4.X)
LV 27/40
技能 魔法LV2
 盲目の魔法使い。今回の依頼におけるルークのパートナー。心眼での見切り、各種付与魔法など、ルークが一目置く冒険者である。病気の弟が完治したらゼス軍に入隊する約束をサイアスたちと結んでいる。

エリーヌ・ハピネス
 ハピネス製薬社長、ドハラスの娘。まだ10歳と幼いが、将来が有望な美少女。ルークの事をお兄さんと呼んだため、頭を撫でて貰えた。


[モンスター]
召喚ちゃん
 レア女の子モンスター。異空間からモンスターを無数に召喚する事が出来る、非常に厄介なモンスター。新しく出来た迷宮に現れ、モンスターを住まわせるのが主な仕事。だが、今回は思うところがあってハピネス製薬の地下にモンスターを放っている。

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