私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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戦闘回。
やっぱ忍者スタイルが良いと思います。


菊月(偽)の艤装事情、その三

川内達のところへ駆け戻る。敵駆逐級は沈み戦況は五分、川内達にもル級にも目立った損傷は見受けられない。だが、此方がいくら攻撃を命中させてもそれに耐え得るだけの装甲を持つル級と違い、俺達は奴の攻撃一発一発が致命傷。決して、気を抜くことは出来ない。

 

「川内、無事だぴょん?」

 

「当たり前よ。菊月と卯月は――って菊月、あなたの方がよっぽど怪我してるじゃない」

 

「この程度、大した傷じゃない……。それよりも、だ」

 

川内と卯月、そして周囲の姉妹達にも聞こえるように声を少し大きくする。後手にウェストポーチの中からル級相手に使えそうなものを探せば、ふた振りの軍用ナイフが出てくる。軍刀以上に攻撃力は無いものの、深海棲艦相手にも通用する明石謹製のナイフだ。これなら行ける。

 

「……川内、一つ頼みがあるのだが。私に、名誉挽回の機会をくれないか?」

 

「名誉挽回?そんなこと言ったって、何をする気?」

 

「なに、私自身卯月に言われたように『甘えている』ところを自覚したのでな。それを改めたことを示すために、少し突出させて欲しい……」

 

「正気、は正気みたいね。何をする気か知らないけど、ル級相手に突出って――うわあっ!?」

 

ル級からの容赦の無い攻撃を避けつつ言葉を交わす。撹乱が目的であると告げれば、渋々ながら許可が下りた。それを聞き、口元に笑みを浮かべる。

 

「……ああ、分かった。さあ卯月、よく見ておけ。この菊月の戦い方を……!」

 

言うや否や、単装砲を腰に固定し両手にナイフを構える。体勢を低くし海面を蹴り、ジグザグに跳びながら金色に輝くル級へと猛進する。右、左、右、左。軽いステップが水面に飛沫を上げる。

 

「ふん、先ずは……!」

 

魚雷を数発投下し、それを追い越す。雷跡を置き去りにし、それよりも早くル級へと近づいてゆく。当然、ル級の凶悪な両手の艤装とその砲門が一斉に菊月()を捉える。一撃でも貰えば即死は免れ無い威力、しかし。

 

「そんな速さで、駆逐艦()を捉えられると思うな……!」

 

零距離に踏み込む寸前、ル級の発射体勢が整う。轟音、たった一発放たれた暴威を易々と掻い潜り菊月()とル級の距離がほぼ零になるまで接近する。視線を向けるのは大盾のように組み合わされた左右の艤装、そこから突き出した砲塔。

 

跳躍。更に跳躍。

 

飛び出した砲塔を足場に、くるりくるりと宙を舞うようにル級の頭上を飛び越える。彼奴の頭の真上を通り過ぎる際に、軽く振るうナイフで傷をつける。激昂するル級、怒りに目を光らせ着水した菊月()へ向き直る。黄金の気焔を巻き上げるル級の背中へ、はじめに放った魚雷が命中した。

 

「グウ、ウオォ……!」

 

「ざま無いな、戦艦……?」

 

続け様に一発の雷撃、自慢の大盾に損壊を刻む。飛び散る不細工なその欠片が降り注ぎ、波打つ海面に波紋を刻んだ。奴の体勢が整うと同時に、もう一度正面から雷撃を敢行。まっすぐに向かってゆく魚雷を尻目に菊月()は奴の側面へと回り込む。

 

「次は……こいつだ……!」

 

両手のナイフを腰へ仕舞い、代わりに単装砲を構える。牽制弾をばら撒き、その悉くがル級の分厚い装甲へ命中し、煙を吹き上げ、それを貫けずに終わる。あわよくばと思った雷撃も回避され、幾分か余裕の笑みを浮かべ出したル級が大盾と砲門を揃え構える。

 

「ウオォォォォオッ!!」

 

吐き出される砲弾は空を切り裂き、耳障りな音を立てて菊月()目掛けて飛び込んでくる。回避。海面をスケートのように滑り舞い、砲弾を躱しつつ接近する。痺れを切らしたル級が肩の砲台まで持ち出した瞬間、菊月()は回避行動を止めて一直線にル級へと肉薄する。慌てて閉じられる大盾、しかしそれは既に欠け、穴が開いている。

 

「槍は不得手なのだがな……!」

 

海面と平行に構えた単装砲を馬上槍(ランス)に見立てて突撃。連装砲でなく単装砲だからこそ可能な荒技、繰り出す砲口がル級の艤装の穴を突き、その向こうの肉体へと刺さる。苦悶と怒りに歪むル級の顔を一瞥し、菊月()はありったけの弾をぶち込む。タイミングは上々。だが、如何せん威力が足りない。与えられたダメージは少なく、距離を取る必要がある。

先端がオイルに濡れた単装砲をずるりと引き抜くのと、壊れかけた大盾が菊月()の身体を殴打するのがほぼ同時に行われた。がぁん、という鈍い音。

 

「……ぐ、が……!」

 

頭を揺らされ、大きく蹌踉めく。しかし、追撃の体勢を取ったル級が迎えたのは勝利ではなく砲雷撃の雨。日の沈みきった水平線を背にした川内達が放った攻撃、それがル級を打ち据える。いくら最上級(flagship)とは言っても、背後からの奇襲を無傷で耐えられる筈もない。血を流しくずおれるル級、その隙を容赦なく突く。

 

「ふん……、運が、悪かったな……!」

 

未だ動くル級の両肩にナイフを突き刺し、彼奴の腕がだらりと力無く垂れ下がる。しかし、その光景に『菊月』も『俺』思うところはない。音もなく抜きはなった軍刀を彼奴の胸の中心に突き入れ、引き抜く。傷口からごぽりと溢れる(オイル)。ナイフを引き抜いた肩からも同じものが漏れている。

 

「……終わりだ……」

 

すでにル級の目には光がなく、ゆっくりと沈んでいっている。その亡骸へ向けて、改めて数発の魚雷を進ませる。動かない的を外す訳もなく、かつてル級だったものは海へ沈んでいった。

 

「……どうだ卯月、みんな。汚名返上は出来ただろう?これでもう、甘えているとは言わせんぞ……」

 

「いやはや、うーちゃんびっくりぴょん。というか菊月、もしかしてまだ怒ってたりするぴょん?」

 

「……さあな……?」

 

ル級を挟んで反対側に居た仲間達と合流し、軽口を叩き合いながら遠征を切り上げ帰還を始める。此方へ微笑みかける卯月へ、同じように微笑みを返す。喧嘩する前よりも少しだけ、卯月と仲良くなったような気がした。

 




http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=50147368

素敵でカッコイイ挿絵を!頂いてしまいました!スゴイかっこいいです!!感激です!!

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