私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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昨日の分です。ごめんなさいです!


海を越えて、その五

風強く、波高し。空気は湿っていて、空には――太陽が輝いている。

 

皐月と存分に話し合いをした菊月()……そして、あの場に居た全員は決闘の終了と同時に基地地下へ戻り、倒れるように眠りについた。俺と皐月は真夜中から、その他の面子も暁の時分から起きていたのだ。その後にああも動けば眠くなるというものだろう。

 

その後は目覚めた順番に、熱い湯に浸した布で身体を拭き汗を拭い、めいめいが勝手に食事を摂って……そうして、基地地下の一室に全員で集まっている。全員で自然と円形に座り、菊月()の隣は皐月で、どうやら蟠りも解けてくれたようだ。

 

「で、菊月。あんだけ盛大にやり合って、ボクに期待を持たせたんだ。これから何をどうするかなんて決めてあるんだよな?」

 

会話の口火を切ったのは皐月。冷たい水に漬けた厚い布を、頰や鼻のあたりに貼っている。無論、先程の決闘が原因だ。しかし皐月を笑うことは出来ず、菊月()の顔も似たような状況になっている。

 

「……うむ、草案だがな」

 

「えっとぉ〜、それじゃ、あたし聞かせてほしいな〜?」

 

「……無論だ……」

 

文月に促され、頭の中に描いているだけだった案を纏め、前置きから話し出す。

 

「……まず、これは確認だが。この周辺の海域に出現する深海棲艦、それは最盛期よりも大幅に減っているな、弥生?」

 

「うん。目算にもならないけど、少なくとも半分になってると思う」

 

「ああ。そして、思い返すのも腹立たしいが……中間棲姫が私達を嘲笑った昨日の出来事。熊野、あいつが何と言っていたか覚えているか……?」

 

「そうですわね。簡単に言うと、『私達の相手をしている暇は無い』、でしょうか」

 

「……ああ、その通りだ……」

 

幾人かに話を振り、筋道を整理しながら話を進めて行く。肝になるのは『俺』の持つ知識だ、それと現状を擦り合わせて見出した方策を伝えねばならない。

 

「『相手をしている場合じゃない』ということを重要視する。ということは、菊月ちゃんは『中間棲姫は今、他の艦娘に攻められている』って考えてるんだね?」

 

「……その通りだ、睦月」

 

「へへぇ、睦月ちゃんに任せればこの程度朝飯前にゃしぃ!で、それなら深海棲艦が減ってるって言うのは――」

 

「――多分、別のところに送られてるからなんだろうね」

 

「望月の言う通りだ。……陽動と本命、二面作戦を展開しているのだろう……。……此処までは良いか?」

 

菊月()の言葉に一斉に頷く。

 

「……私達に取れる選択は二つ。此処を攻略に来た艦隊と合流し、中間棲姫を撃滅する。……もしくは、攻略艦隊を囮とし、その戦闘中にミッドウェーを脱出するか、だ……。言い方は悪いが、私個人としては後者を選びたい」

 

「囮、ですか。菊月にしては歯切れが悪い案ですね。理由を聞いても?」

 

祥鳳が俺に問いかけてくる。見回せば、大なり小なりみんなも似たような感情で菊月()のことを見つめている。疑惑や不信ではなく、単純に疑問として思っているようだ。

 

さあ、ここからが正念場だ。

 

『俺』が知る知識に照らし合わせれば、この状況は多少変則的ながら『AL・MI作戦』……『艦これ』で、かつてイベント海域として実施されたそれと似通っている。ならば、その最後に待つのは――

 

「勿論だ。……まず、此処を攻略に来た艦娘達が中間棲姫に太刀打ち出来るのか、という疑問だ。……私の知る艦娘達ならば問題は無いだろうが、もし彼女達が撤退しているところにでも割り込んでしまえば彼女達に向けていた戦力が全て此方を向く」

 

無論上手くいく場合もあるだろうが……と締めれば、意外なことに睦月が手を挙げた。

 

「およ、菊月ちゃん?それだけ――じゃない、よね?私、気になってることがあるんだけど」

 

「……そうだな、確かにこれだけじゃない。少し驚いたが……睦月、続けてくれ」

 

「うん。ずっと考えてて、弥生ちゃんとか望月ちゃんと話し合って、それでもやっぱり疑問なんだけど、なんか、『深海棲艦が少な過ぎるんじゃないかな』って思うんだけど。あ、でも何で少なくなってるのかは分からないんだけど……」

 

睦月が発した一言に、菊月()を除いた全員がはたと動きを止め、思案する。対して、『俺』は内心でガッツポーズを取らんばかりだった。

 

「……私の言おうとしていたことも、実は睦月と同じだ……。その事実に対し、私は一つ仮説を立てている。突拍子もないものだがな」

 

「その仮説って言うのは?」

 

「……ミッドウェー(ここ)と、二面作戦のもう一方。そのどちらもが囮であるという仮説だ」

 

しん、と場が静まり返る。

 

「それは、本土の戦力をここと何処かへ集中させて、その間に深海棲艦は本土へ奇襲を掛ける、という意味で宜しいんですの?」

 

「うむ……。本土を急襲すれば、出撃に出ている艦娘は参加出来ぬだろう?そして、それが確かだと仮定すると、始まるのは攻略中である今だ」

 

「成る程、だから菊月は此処を出たがってる訳だね」

 

「ああ。しかし、根拠は薄いと言わざるを得ない……。それでも、私は頼みた……」

 

「――いいよ、乗った!」

 

どう言葉を尽くそうと、『俺が知っているから』という理由以外は薄くなってしまう。菊月()の口が回らないことに、『菊月』が消沈する。推すだけ推してやろうとした瞬間、皐月が声を上げた。

 

「姉妹が心配だってのは、ここにいるみんなが思ってるよ。あ、熊野と祥鳳さんは――うん、ありがと。で、ボクには『他の艦隊頼りの作戦』っていうのも性に合わないしな!」

 

「いいのか、皐月?」

 

「いちいちうっさい、菊月!ボクは決めたんだよ、キミのことを信じるって。だから、キミが不安だって言うならそれを信じる。――あと、睦月お姉ちゃんと弥生お姉ちゃん、あと望月が話し合ってたなんて知らなかったから。ボクはそれも、信じたい」

 

「うえぇ、皐月ちゃ〜ん。あたしは〜?」

 

「文月を信じられるのは、ボクは元々知ってる。二二駆の時からね」

 

「皐月ちゃ〜ん!!」

 

がばっ。皐月に飛び付く文月を尻目に、身動きの取れない皐月の代わりに睦月が話し出す。

 

「私も――ううん、私達もみんな、同じ気持ち。熊野さんと祥鳳さんにはまた迷惑をかけちゃうけど、それでもやっぱり、みんなのために戦いたい!」

 

「迷惑を、なんて。今更ですよ。ねぇ、熊野?」

 

「ええ、全くですわ。でも、それを承知で付いてきているのですから。遠慮なさらず頼りなさい、と言ったでしょう?」

 

睦月、祥鳳、熊野。口には出さないが、弥生と望月もこちらを見て頷いている。その光景に、『菊月』の心はじんと熱くなってくる。

 

「ぷはっ!びっくりしたぁ。で、それはともかくみんなこう言ってるんだ。ボク達に守ってもらうんだろ?時間だって惜しい、準備して休んで、行こう!」

 

「……ああ。みんな、力を貸してくれ……!」

 

遥か遠く、海を越えて。目指すは懐かしき鎮守府――




続いて行くよ!

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