>「やや旧式ながらも各戦線で奮闘した、『特型駆逐艦の前級』となる駆逐艦型でも改二改装の実装準備を」
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「……ぐ、っ……」
熱い。全身に走るじくじくとした痛みに目を覚ます。布団に寝かされているようで、首だけを動かして周りを見ればそこがミッドウェー島の拠点であると理解できる。近くに座りつつ、うつらうつらと船を漕いでいる皐月を見るに、看病してくれていたのは彼女であるようだ。
「……う、む。弥生は無事か……」
こういった類の痛みにも慣れたもので、手をつきながら身体を起こし皐月へ問いかける。『俺』としてはもっと菊月の身体を労わりたいのだが、やはり『菊月』は落ち着いていられないようだ。
「ぅえ、菊月?――って、菊月!目を覚ましたんだね、良かったっ!」
「……心配を掛けたようだな。それよりも、弥生だ。私のことは良い、弥生はどうなっている……?」
「弥生は怪我してないよ、菊月が突き飛ばして助けてくれたからね。それにしてもホントにさ、どうしてそんなことするかなぁ。自分も万全じゃないのに身を挺して助けるって。最初に此処に来た経緯を聞いた時からボク思ってたけど、菊月は結構馬鹿だよ」
最初は不満そうに、そこから徐々にふくれっ面に変わりつつある皐月。確認を取るまでもなく怒りつつあるようだ。『菊月』が、慌てて話題を逸らそうとする。
「……と、ところで皐月。私のコートを知らないか?一応はこうして復帰したのだ、皆に心配を掛けた詫びをしに行きたいのだが下着で歩き回る訳にも行かなくてな……」
焦りながらそう告げれば、皐月はなぜか両手で大きく
「――ダメーっ」
「……は?」
「だから、ダメ。菊月にコートは渡せませーん」
べ、と舌を出しながら言い放つ皐月。その小憎らしい表情はなかなか様になっていて感心するほどだが、あいにくおとなしく見送れるような話の内容でもない。
「冗談はいい……。……いや、冗談だろう?」
「冗談なもんか。菊月、コート置いておいたら絶対安静にしてないだろ。島の近くに深海棲艦が出たとか聞いたら、怪我してても飛び出していくのが想像できるし。だから、コートは返さないよ。で、回復するまで毎日誰か仕事がない人に付きっきりで居てもらうことにしたからな」
「な……お、おい皐月!私は何も聞いていないぞ……!」
「当ったり前じゃんかさぁ、今まで寝てたんだから。あ、そうそう菊月の持ってた刀も砲も、いろんな道具の入ったウェストポーチも預かっておいたから。勝手に使ったりはしないけど、隠してある場所はボクしか知らないから!」
唖然とする。
言われて見回してみれば、確かに『護月』も何もない。初めて実感したが、慣れ親しんだものが手元から失われるというのは存外大きな衝撃となるようだ。特に『護月』は特に思い入れの強いものだ。何とも言えない喪失感のような寂しさに、目を瞬かせることしかできなかった。
あまりにもぽかんとしていたためか、皐月が少しばつが悪そうに話しかけてくる。
「うぇ、さすがに悪いとは思ってるよ。そんな、捨てられた子犬みたいな菊月の顔を見なくてもさ。でも、放っておいたら無茶するのもホントだろ。現に菊月は、一人で帰ろうとして制止も聞かずに飛び出してくような性格なんだから。代わりって言ってもしょうがないけどさ。ほら、コレ」
そう言うと、皐月は自分の身体の後ろから大きな袋――いや、布や皮の束を差し出してくる。ついでに、元は俺の私物であっただろう釣り針を曲げた針と糸も。何を言われるかおおよその見当はついたが、口は閉じて話の続きを促す。
「これ、ボク達が集めた布とか皮とか。何かあった時のために大事に取っておくものなんだけど、菊月は弥生を助けてくれて被弾したわけだし。みんなに聞いてこれだけ貰ったんだ。出歩きたかったら、これで服を作ること!作り終わったんならコートも刀も返してあげるから。――自分で言ってて酷いと思うけど、お願い。頼むよ、せめて傷が治るまでは大人しくしててくれないかな」
皐月の言葉に黙り込む。皐月の言うことは至極もっともなのだが、なぜか釈然としないものを感じる。今まで感じたことのない感覚だけにどう対処していいのか分からないが、現状は従うしかないだろう。
だが、その前に一つ返してもらいたいものがある。
「……一つだけ。私が被弾して運ばれてきたであろう時に、鉢金を付けていただろう?あれを、返してほしい……。返してくれるなら、私も皐月の言うとおりにしよう。私とて、轟沈は嫌だからな……」
「そっ、そんなことならお安い御用だよ!よかったぁ~。あ、鉢金だね!すぐ持ってくるよ、待ってて!」
言うや否やばたばたと慌ただしく駆けてゆく皐月。
その背を見送りながら、俺は腕を組み大きくため息をついた。
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……まあ睦月ちゃんでしょうけど。