駆逐イ級相手に情け無い姿を晒してから三日。俺はあれからずっと鉄板の上に寝そべって体力の回復に努めていた。根強く残っていた気だるさや身体の不調はやはり積み重なった疲労によるもので、質は良くないもののこうして休養を重ねることで見違えるように回復した。
「……雲が、白いな……」
少しばかり寝過ぎて頭が馬鹿になった気がするが、錯覚だろう。最近の
「……海は、青いな……」
陽は暖かいが流石に海上、風も鉄板も冷たい。防水シートに包まって居なければ、その冷たさを直に感じていたことだろう。ただでさえ服が破れているのだ、防水シート様々と言ったところか。
「……飯を、食うか……」
防水シートを身体に巻きつけたまま、のそりと起き上がる。枕代わりに使っていたウェストポーチから、ブロック状の保存食を取り出し齧り付く。同時に、ごく小さな缶に密閉された水を開封し一口飲む。文句を言える状況ではないが、それでも不満は尽きない。
「……ぱさぱさ、している……。間宮さんのアイスが恋しい……っ」
一度覚えた美味を忘れることは出来ない。遠い、豪華な食事に思いを馳せながら食事を終える。海を見れば、潮の流れは変わっていない。
「……島は見えず。深海棲艦も、艦娘も影は無いか……」
ツラギ島沖から北東へ。言わずもがな、今
「……くっ、私が何をしたと言うのだ……!」
ゆえに、取れる選択肢はただ一つ。こうして、何かしらの島が見えるまで流され続けるだけ。それまでに死ぬことが無いように祈りながら、俺は再び防水シートに包まり寝転がるのだった。
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そうしてまた三日が過ぎた後の夜中。徐々に鉄板が沈み行き、ついに沈んだのが今朝だ。そうして丸一日歩き続け、寝ることも出来ずに真っ暗闇の中に月を眺めていると、その月光を遮る動くものを見つけた。遠く、小さな点のような存在だが確かに動いている。見れば、その影は南東へ――此方から見れば北東へ向かっているようだ。
「……この状況で、か。くうっ、行くしかないようだな……」
このまま歩き続けてゆくだけでは解決しまい。歩く足を止めて中腰になれば、出来る限り音を抑えながら静かに海上を滑る。燃料にも限りがある今、出来れば使いたくは無いが使いどきを逃す訳にもいかない。
「……あのシルエット。どうやらかなり傷ついているようだが……戦艦、レ級。向かっているのは……何、あれは島か」
島と言うには小さ過ぎるが、それでも歴とした陸地。是非とも確保したいところだが、戦艦レ級がネックだ。戦闘に耐え得る程度には回復したとはいえ、まともにかち合うにはリスクが大き過ぎる。
「……く、無理か。せめて大回りし、島の裏へ回ろう……」
夜だと言うことが幸いした。奴が目視出来ない距離を保ったまま、島を中心に大きく迂回する。小さな島とは言っても、流石に戦艦が島の真裏にいる相手を捕捉できる筈もあるまい。
「………っ、上陸成功」
そうして、こっそりとその島の浜辺へ辿り着く。物音を立てないように身を屈め、時には這い進み、草むらの中から様子を伺えばレ級は今だそこに居るようだ。
「……ふむ、どうやら一時の休息をとっているようだな」
身じろぎをせず、そのまま朝まで観察する。レ級は浅い眠りに落ちているようだが、近付けば目を覚ますだろう。朝日が昇り、目を覚ましたレ級は足取り確かに海中へ潜って行く。
一先ずの安心は得られたが、これで終わりではない。あのレ級は、真っ直ぐこの島を目指していた風に見えたからだ。つまり、この島は深海棲艦――少なくともあのレ級――が、体力を整える場所として運用している。現状、ここは
「……この菊月、だからと言って諦める気は無い……!」
だが、確実に来ると分かっているならば手の打ちようもある。限られた手持ちの道具、そして地形を吟味する。取られる手段は限られるが
、それでも勝って生き延びなければならないのだ。
昇る朝日に照らされながら、
鉄板ロスト。代わりに島を見つけました。