私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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番外編だオラァ!(ドアを蹴破り)


番外編、菊月(偽)と那珂ちゃんと雑誌のモデル

「―――お願いしますっ!」

 

鎮守府内のとある一室。目の前の艦娘に直々に呼び出され向かったこの部屋で、俺は隣に座る彼女と共に一つの『お願い』をされていた。

 

「うーん、那珂ちゃん的にはぁ、やっと時代が那珂ちゃんに追いついたかっ!て感じだから全然オッケー!」

 

そう、何を隠そう先日共にライブを繰り広げた那珂ちゃんである。俺より先にこの部屋に到着していた彼女はもう話を通されていたらしく、俺が部屋に入った時には既に顔の喜色を隠しきれていなかった。

 

「……むう、私は……」

 

「お願いです!那珂ちゃんと菊月さんのWショットなら、アタリ間違いないんです!」

 

「しかし、な……」

 

『俺』はともかく、身体から伝わってくる『菊月』の感情は『恥かしい』というもの。少なくとも『菊月』が前向きでない以上、俺が『俺』の意思を優先することは無い。

 

「ぐぬ、強情ですね。ならば、了承して頂けないのなら『菊月ちゃん☆アイドルブロマイド』を公開するしか―――」

 

「……それはもう売っているだろう、しかも私に許可も無くな……うむ、思い出したら腹が立ってきたな」

 

「うっ、逆効果。な、ならライブCDを―――」

 

「……売るなら売れば良いだろう……。そもそも、あれだけ盛大にライブをしたのだ、今更気にする事でも無い……」

 

ぐぬぬ、と唸って轟沈する目の前の艦娘。『俺』だけなら構わない……いや、むしろ喜んで賛成するのだが、『菊月』が嫌がっているからな。全ては菊月の為に、だ。仕方無いだろう。

 

「あーあ、じゃあ仕方ないですねー。二人セットのつもりだったから、このままじゃ那珂ちゃんのも無しになるなー」

 

「えっ。ちょ、ちょーっと那珂ちゃんそんなの聞いてないよ!」

 

憎らしいことに、那珂ちゃんから揺さぶりを掛けてくる。流石の『菊月』もこれには参ったようで、『俺』の意図しない形だが顔が悲しげに歪むのが分かる。

 

「あ、あと。これでもダメなら『菊月ちゃんが剣の稽古してる時にノリノリで歌ってた秘蔵映像』を―――」

 

「……!?し、仕方無いな引き受けよう……っ!」

 

『菊月』、陥落。菊月には申し訳ないが、内心『俺』はウハウハである。これも『菊月』が決めたことだからな。うむ。

 

「やった、恐縮ですっ!よーっし、青葉、腕が鳴ります!」

 

ぐっ、と腕を上げる目の前の艦娘―――『青葉』。そしてその腕からこぼれ落ちる一束の企画書。タイトルは『艦艦(cancan)・特別増刊号〜新生タッグアイドルに迫る〜』。

 

―――こうして、菊月()と那珂ちゃんは青葉の発行する雑誌、その特集モデルの任に就いたのであった。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

「はーい!お二人、こっち向いてくださーい!」

 

青葉の声に、ギクシャクと動きながら振り向く。隣の那珂ちゃんは対照的に、カメラへ向けて眩い笑顔を向けている。

 

「菊月さんはもっと笑顔をっ!ほら、あのライブの時みたいなキュートな笑顔をお願いします!」

 

「……くうっ、無茶を言う……っ!!」

 

現在の衣装は、春用の淡色のワンピース。活発な印象を与えるであろう意匠の施された那珂ちゃんのそれとは異なり、菊月()が纏うのはより清楚なもの。その上からシャツを一枚羽織り、帯のように大きなベルトをシャツの上から巻く。薄いピンクの帽子もセットだ。

青葉にうっすらとメイクされたその姿を鏡で見た瞬間、俺はこの地上に天使を見た気がした。

 

「はーい、良いですよその表情!もう一枚行きますからねーっ!」

 

緊張する菊月の表情筋をどうにか動かし、ライブを思い出し笑顔を向ける。青葉は満足したようで、ふんふんと鼻息荒く写真を撮っている。先程までのスラックスやパンツルックまでなら『菊月』も耐えていたようだが、ここに来て限界を迎えたらしく顔が熱い。

 

「うーん、きょーしゅくです!さ、後少し!次は水着ですよーっ!」

 

……そして、ここに来て更なる爆弾が菊月()に投下されるのであった。

 

 

 

「うーん、個人的にはその真っ赤に恥じらう顔も良いんですけど」

 

無理だ、と心の中で叫ぶ。『菊月』に引っ張られ、『俺』まで恥ずかしさを極めているのだ。後で落ち着いた時に見れば色々と昂ぶるであろう今の『菊月()』の姿を気にする余裕は全く無い。

 

水着。どうせ提督指定水着(スクール水着)だろう、と侮るなかれ。

 

―――否、ビキニである。それも、黒の。

菊月の、黒ビキニとパレオである。

 

しかしまあ、今の俺にはそれを堪能する気力も余裕も皆無。僅かに残っていた『俺』の菊月を堪能する為の部分は、顔を真っ赤にしてうつむく菊月を鏡で見た瞬間にワンパン大破轟沈した。

 

「青葉、撮っちゃいました!オッケーです!」

 

青葉の声に我に帰る。微笑んだまま引きつっていた顔を指でほぐしながら着替えを済ませる。残るは一枚だが―――此方は、恐らく気にしなくて良いだろう。

 

「あ、菊月ちゃんも元に戻ったみたいだね。那珂ちゃん、表紙を一人で撮ることになったらどうしよーって思ってたよ!」

 

「……はっ、恥ずかしいものはどうしようもないだろう!……まあ、もう平気だ」

 

身に纏うのはステージ衣装。那珂ちゃんと二人、撮影セットの真ん中で背中を合わせてカメラを向く。

 

「恐縮です、準備は万端みたいですね!それじゃ行きますよー、せーのっ!」

 

「「―――ダイスキっ!!」」

 

数日後に発売されたその雑誌は、青葉の出した雑誌の中でも一二を争う程の売り上げだったと言う。




そりゃもうね。
動画まで作っていただいたのなら書かざるを得ないでしょう。

ついでに、菊月(偽)は青葉に『ボツになった赤面水着写真』という弱みを握られました。

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