私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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はい、こんにちは。
昨日更新出来なくてゴメンなさい。

実は夏風邪を引いておりまして、熱を出しておりました。
どうにか下がって来ましたので突貫執筆です。
それではどうぞ。


超番外・戦慄の亡霊編!純白の呪船、中編その一

――思考が巡る。

 

暗く深い海の中。

海面には夏の風が吹き荒れ、太陽が燦々と照りつけているが、ここにはそんなことは関係ない。爆音が海水を通って強く響き渡り、海上を行く敵の駆動音が手に取るように分かる。

 

『――行ったわっ、警戒して、プリンツ(・・・・)!』

 

『はい、ビスマルク(・・・・・)姉様!』

 

二つの声と、それ以上の砲音。それに紛れるように、口を噤んでいた二人の駆逐艦が海を滑る音が聞こえる。

 

『牽制したよ。――さあ、あなたの出番だグラーフ(・・・・)

 

『ここまでお膳立てされれば、経験不足などとは言えないな。――攻撃隊、出撃! Vorwärts!』

 

勇ましい声のあとに数瞬の間、そしてその後に訪れる爆撃の嵐。グラーフ・ツェッペリン――先日第一艦隊に加わったばかりの最新鋭空母が放つ艦載機の攻撃が海上戦力を駆逐する。その様子を、私はつぶさに観察する。彼女は優秀だけれど、やっぱりまだ就役してすぐですから。

 

『よし、終わったな。敵、残存無し』

 

『――ッ、いや、グラーフさん警戒っ!』

 

――やっぱり、観察しておいて良かった。

深海棲艦は、その名の通り深い海に棲むもの。殆ど確認されないケースだとは言っても、海面下に緊急避難することもあります。今回は丁度そのケース、仲間の轟沈に紛れて海面下に隠れた雷巡級が一隻。

緊急浮上し、無防備に隙を晒したグラーフさんへその魚雷を向け――

 

「敵艦、発見です。Feuer!」

 

それが放たれる寸前に、私の魚雷がその異形を打ち砕きました。

敵の下部に命中し、炸裂し、今まさに放たれようとしていた数発の雷撃を巻き込み炎上する雷巡級。それが完全に沈黙し、海没するのと入れ替わりに顔を出し、

 

「ふう。敵艦、全滅を確認です」

 

「――U-511ね。ありがとう、助かったわ」

 

「いえ、ビスマルク姉さん。多分、ビスマルク姉さんも気付いていたでしょうし」

 

「ええまあ、それはそうだけれど。私の砲撃なら、きっと雷撃が放たれる前には沈められなかったでしょうから」

 

どこか得意げに、それでも謙虚に、器用な態度で姉さんが頷く。やっぱり面白い人だなあ、なんてぼけっとしていると、不意に声を掛けられた。振り向けば、綺麗な白色の髪を汗に垂らしたグラーフさんが頬を少し染めている。

 

「グラーフさん。どう、しました?」

 

「いや、感謝をしておこうと思ってな。私は私の艦載機で敵を全て沈めたと思ったが、それは勘違いだった。そして助けられた。未熟を痛感した、救援に感謝する、U-511」

 

「ああ、大丈夫ですよ。構いません。仲間を助けるのは当たり前です、特に、私達はこうして実戦に耐え得る艦娘があまり多くないんですから。でも――そうです、油断は、禁物ですよ」

 

――そう、油断は禁物。

この海において、それは鉄則だった。私――U-511も、油断をしたつもりは無かった。ビスマルク姉さんと、プリンツさんと、マックスさん、レーベさん、そして私とグラーフさん。その誰もが油断も慢心もしていなかった。

 

なのに、

 

「――きゃあっ、やられ、ました。ちょっと良くないです」

 

敵の攻撃に回想が、後悔が止まる――止められる。

奥歯を噛み締め、私に雷撃を向けた敵へと視線を向けるも――そいつは既に、私以上の速度でこの海を自在に泳ぎまわりその姿を捕捉させない。

 

「――ぐあっ!? 何てこと、こんな、こんな!」

 

「ううっ、僕たちも、マズいね」

 

――ここまで徹底的にやられるなんて。

ここまで、歯が立たないなんて。

 

これは、まずい。私達はこいつらに――

 

「――全艦に通達! 我々はこいつらに対し、現戦力を鑑みて十分な損害を与えた! 故に、この戦闘を放棄し、撤退する! 各艦周囲の仲間を援護しつつ、撤退方法を模索して!」

 

 

ビスマルク姉さんから命令が飛び、海上の仲間がそれに返答を返す。それを無線で聞きながら、私は目の前の敵へ集中する――海上にも、無線へも、気を向けている暇がない。

 

「そこ、ですっ!」

 

「ウフフ、ウフフフフ……!」

 

方向転換の隙を突いて魚雷を放つ。海を突っ切り真っ直ぐに伸びるそれは、しかしその場でくるりとローリングした敵に回避される。

カウンターとして放たれる無数の雷撃。初めは上――下へ回避する。次の二発は左舷方面から――左後方へローリングし、魚雷の間をすり抜ける。続く数発は魚雷で相殺し、次を回避し、その次も回避し――一瞬だけ、敵を見失った瞬間。

 

「ウフフ、ココヨォ……!」

 

「な、下――あぐうっ!?」

 

がつん、と強い衝撃。何かが直撃した胸と腹がかあっと熱を帯びる。ごぼ、と吐き出した空気には血が混じっている。これは――艤装を用いた衝角攻撃(ラムアタック)。潜水艦がやることではないが、潜水艦娘ならば問題はない。そして、それは深海棲艦も同様の一撃。

 

「ウフフ、アハハ、アッハハハハ……!」

 

私の胴へ異形を食い込ませ、敵――潜水棲姫は嗤いながら加速する。水圧と加速圧に全身が軋み、指一本動かせない。向かう先は水面、そのギリギリに到達した瞬間潜水棲姫はくるりと反転し――その鯨のような異形の艤装で、私を強く蹴り上げた。

 

途端に感じる浮遊感。全方位に対して障害物が無いことは海面下と変わらないが、そこに居た時の全能感とは程遠い恐怖が全身を駆け巡る。

身動きが取れない。視線しか動かせない。耳に届く仲間の悲鳴。それらを辿って視線を向けた先には――潜水棲姫と同じ、()()()()()

空母棲姫は嘲笑を浮かべ、私に艦載機を殺到させ、戦艦水姫は狂笑を上げその砲門を全て私に照準し――

 

U-511(ユー)ぅぅぅぅうッ!!!!」

 

爆音。衝撃。灼熱。悪寒。

全身がばらばらに引き千切れそうな激痛と、魂の欠片まで焼き尽くされそうな熱と、あらゆる傷口から血液が流れ出してゆく恐怖と、漠然とした死の予感と――それらを感じながら、私の意識は海面まで保つことなく消失する。

 

意識の消える前、最後に聴こえたのは悲壮感に潰れてしまいそうな仲間たちの声で――

 

 

 

 

「……目が覚めたか」

 

 

 

意識が覚醒して、最初に聞こえたのは、そんな無表情で無感情な、しかしどこか畏怖と恐怖と、そして温かみを感じさせる――そんな言葉でした。




皆様も夏風邪にはご注意を。

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