私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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『今現在世界を襲っている謎の凶悪生命体からみんなを守り戦っている超絶美幼女&美少女&美女のステージを生で見られる一般人』とか完全に一生モノの思い出です本当にありがとうございました。

本編いきます。


艦娘御一行様三泊四日温泉旅行、その十三

響くメロディに合わせてステップを踏む。

右足、左足、右足、右足、左足。ジャンプし同時に着地し靴音を立てる。重心の断続的な移動は戦闘行動に勝るとも劣らない。

 

腕を振る。

指を二と四、そして両手で人指し指を立て、肩から回した腕を前に突き出しポーズを取る。慣れ親しんだステージ衣装が靡き、スポットライトにきらめいて観客を魅せる。

 

笑顔を浮かべる。

那珂ちゃんの人懐っこいキュートな笑顔、青葉の年長ながらもどこか子供っぽさを感じさせる情熱的な笑顔、それらに対し菊月()に求められているのは如何なる時でも動じない、かつ観客一人一人の意思を受けてそれに余裕で返すクールな笑顔。

口角を上げれば年若い観客がざわめき、ウィンクすれば誰もが恋に落ちる。それが俺達三人の笑顔。そんな俺達三人に向けられている視線はほぼ均等に、あるいは平等に降り注いではいるが、そのどれもが俺達――『N.a.K.A.』の虜になったことを雄弁に語っていた。

 

「――ダイスキっ!!」

 

そして、曲が終了する。大宴会場から湧き上がるのは拍手と歓声。雰囲気と酒と俺達のステージで、場は充分に暖まっただろう。那珂ちゃんの織りなす、この後の流れを説明するマイクパフォーマンスを聞きながら観客席――壇下を見渡す。此方と目が合った三日月に小さく手を振りはにかめば、俺達と三日月の直線上にいた数人が心臓のあたりを抑えて蹲った。ふっ、()ったな。

 

「はーいっ、それじゃあっ、次のユニットに登場して貰いまーっす! えーっ、那珂ちゃん達が恋しいっ? うふふっ、ありがとーっ! でもーっ、ひとまず那珂ちゃん達の出番はおわりっ。また後で出てくるから、その時にコールお願いしまっす☆それじゃあお相手はわたしっ、センターの那珂ちゃんとーっ!」

 

「わたくし青葉とっ」

 

「……菊月で務めさせてもらった。……では、またな?」

 

引き継いだマイクで舞台を閉め、袖に戻る。そこではタオルと水分を持った提督と明石、そして出番が後の方の艦娘が幾人かが出迎えてくれた。

 

「お疲れ様、菊月」

 

「……加賀か。お前は大トリだろう、こんな所に居ていいのか?」

 

「構わないわ。そもそも見るのはあなたたちのステージだけと決めていたから。今から直前までリハーサルに向かうわ」

 

「そうか。……まあお前のことだ、心配はしていない。それよりも我々(・・)がヘマをしないかどうかの方が気掛かりだな」

 

「それこそ余計な心配ね。私はあなたたちを信頼しているわ。――じゃあね。また後で会いましょう」

 

そう言って踵を返す加賀。途中で那珂ちゃんと二、三言葉を交わしてから、彼女は扉を開けて去っていった。おそらく、何処かで声出しでもして来るのだろう。

 

「ふぃーっ、終わりましたねぇーっ」

 

「違うよう、まだ最後に大きいのが一つあるでしょ? それに、那珂ちゃんはまだもう一個ユニット持ってるんだから」

 

「まあ、那珂ちゃんが歌い詰めになることは最初から分かっていたことだ。だが、それでも那珂ちゃんは三十分、私達に至ってはおよそ一時間は休憩だ。あとは彼女らが繋いでくれるだろう。……だろう?」

 

二人にそう告げ、背後を振り返る。視界に映り込んだものは、現在ステージ上で着物をアレンジしたかのような衣装を着て歌い踊る二人の空母と、

 

「勿論よ。あたしたちだってたっくさん練習してるんだから。 あんたには負けないわよ、菊月!」

 

ファンシーさを感じさせる衣装に身を包んだ、駆逐艦陽炎――そして、その背後に控えるは少し恥ずかしそうに顔を赤らめた吹雪と、自信満々に胸を張っている島風。第一艦隊を代表するこの三人がユニットを結成したと聞いた時は、なんと恐ろしいものかと思ったものだ。最も、今観客席にいる一般市民にはそれは伝わらないだろうが。

 

「私とて負けるつもりはない――が、お前たちの歌は楽しみにしている。なんせ、私はそれを知らない(・・・・)からな」

 

「聞かせたこと無いんだから当たり前でしょ。ま、期待してなさい。――それじゃ、行ってくるわ」

 

ステージ側から聞こえる歓声。どうやら赤城と翔鶴のステージは終わったようだ。袖へと戻る赤城らと入れ替わるように舞台に躍り出る三人を、菊月()は無言で見送った。

 

「ふぅん、みんないい歌持ってるよね。それに、此処には間に合ってないけど何か画策してる子もたくさんいるみたいだし」

 

「その先駆者はお前だがな、那珂ちゃん。――そろそろ休憩に入るぞ。最後の大仕事、失敗する訳には行かぬ」

 

そう言って、俺は彼女らに背を向ける。同時に、二人が両脇に並んできた。彼女らとともに舞台袖を後にする。さあ、二度目のステージまであと一時間――

 

―――――――――――――――――――――――

 

用意された衣装に袖を通す。

此処に揃った十一人の衣装は、身長もスタイルも所属しているユニットも、そして艦種も全てがばらばらだ。しかし、その十一人と――センターの一人は、この一舞台のみの即席ユニットとなる。

 

「みんな、準備は良いかしら」

 

声が掛けられる。

センターに立つ彼女だけは、我々とは異なった衣装を着ている。濃い紺色に白色で、大小幾つもの鶴と波飛沫が描かれた海を思わせる衣装。それを身に纏う彼女のことは、百人いれば百人が美しいと思うだろう。

 

「いつも歌う時は一人だったけれど、こういうのも悪くないものね。――踊る側はちょっと、私には似合わないでしょうけど。でも、嫌いではないのよ。あなたたちと同じ舞台に立てて嬉しいわ」

 

ブーツを整え、手袋を嵌める。

対する俺達の衣装は、十一人が揃いのもの。淡い幾色かの青を重ねた、着物をアレンジしたような衣装に、フリルのついた広がるスカート。ブーツと手袋は白で、そこへ伸びる袖口にもフリルがついている。

 

「これが最後の舞台。みんな、力を貸して――成功させましょう」

 

髪をいつものサイドではなく、背中の一つ結びにした加賀がそう言う。頷く俺達の様子を見て、彼女は満足そうにマイクを持つ右手を挙げた。

流れ出す音楽。特徴的な二音からなるイントロは、最早誰が聴いてもその曲名を当てられるほど有名なもの。しかし、今日はそれがアレンジされている。何のためか? ――勿論、俺達が踊るためだ。

 

「みんな――行くわよっ!」

 

その声に合わせて、最初のポーズを決める。同時に、暗幕がゆっくりと上って行く。落とされる照明。スポットライトは加賀と俺達に降り注ぐ。幕が上がりきり、彼女が大きく息を吸い込み、

 

「――――――」

 

そして、最後のステージが始まった。




肝心のダンスとかの内容はカットだよ。
そういうのは動画とかで見たいよね。僕は見たい。

次回はいつも通り夜温泉かそれとももう帰りのバスかな。

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