お誕生日おめでとう、如月ちゃん。
もっと彼女も活躍させたいところです。
あ、最近ところどころ昔の話に加筆したりしてます。
アニメ編ラスト辺りとか、菊月(偽)vs深海菊月の辺りとか。
たっぷりと露天風呂を堪能し、汗を流して疲れを取る。風呂場を出れば火照った身体を備え付けの扇風機で冷ましながら、籠に入れてあった浴衣に袖を通した。右、左の順に合わせ、形を整えて帯を締める。帯の正しい結び方は知らないから、適当に腰の辺りで結わえておく。夏祭りの時に着付けたものよりも薄手の浴衣は、少し頼りないものの風情を感じさせた。
「……うむ、うむ。おかしな所は無いな」
鏡の前に立ち、身体を翻しながら全身をチェック。帯の結び方こそ我流ではあるが着崩れたところは無く、襟や首周りから覗くほんのり桃色に染まった白い肌がなんとも言えない艶やかさを出している。そのさまに、思わずどくんと心臓が高鳴った。思わず一歩下がれば、浴衣を合わせたところから白い脚がするりと覗く。
「……っ!」
体温が上がりそうになるところを、鏡から離れて難を逃れる。重々理解してはいたが、やはり『菊月』は可愛かった。
心を落ち着けるように二、三度呼吸。息を整えれば、未だ髪や身体を乾かしている仲間たちに断りを入れて女湯の入り口の暖簾をくぐった。
「……さて、姉妹達はもう部屋に戻っているだろうな。私も戻っても良いのだが……ふむ、どうするか」
言いつつ、視界を巡らせて自販機を探す。どうやら露天風呂の近くには無いようで、廊下を少し歩いたリラックスゾーンの片隅に設置してあるのを一つ発見した。近寄ってラインナップを確認すれば、目当てのものはきちんと陳列されているようだ。
「……やはり、温泉といえばこれだろうな」
小物を入れたウェストポーチから財布を取り出し、小銭を自販機に投入。上から二番目の段の右端のボタンを押すと、外装が一部透明な自販機の内部が動く。がこん、という落下音。わくわくしながら取り出し口を開けば、そこにあったものは、
「……コーヒー牛乳……!!」
包装を破り、プラスチックの蓋を引き剥がし、飲み口に唇をつける。腰に手を当ててそのまま瓶を傾ければ、全身が痺れるほどに甘い液体が口内に流れ込んできた。息を止めたまま一気に飲み干す。少し瓶を傾け過ぎて、口の端から溢れたコーヒー牛乳が一筋垂れて胸元に雫を落とした。
「ぷはあっ。……ふぅ、ふぅ、やはり美味だ。これが無くてはな……、ん?」
飲み干してからゴミ箱を探す。幸い自販機に併設されていたプラスチックケースに瓶を収めることは出来たが、視線を巡らせている最中に見慣れた物が視界の端に写った。
それはマッサージチェア。正確に言えば現在進行形で稼働しているマッサージチェアで、もっと言えば背もたれの上から淡い桃色の羽根飾りがぴこぴこと揺れているマッサージチェアだった。
「……で? お前は何をしているんだ、如月……」
「ん〜? あらぁ、菊月ちゃ〜ん。遅かったわねぇ〜?」
チェアに深く腰掛けながら背もたれに身体を預け、気持ち良さげに目を閉じていたのは、
「えっとねぇ、お風呂から出たあとはあちらの手揉みマッサージコーナーでリラクゼーションにお邪魔させて貰ってたのよぉ。うふふ、気持ち良かったわ。菊月ちゃんも、一度行ってみたらどうかしらぁ?」
「……いや、遠慮しておく。それにしても、どうしてこんなところで座っていたのだ」
振動で揺られているからか、語尾がだらしなく伸びている如月。気持ち良さげにとろんとした目元や少しはだけた胸元から、我が姉ながらなんとも言えない色っぽさを醸し出している彼女は、正面に立った俺へ微笑みかけると両手を組んで大きく伸びをした。姉妹の中でも最も発育の良い胸が、浴衣越しに強調される。
「んーっ、気持ち良かったわぁ。それで、私がここで菊月ちゃんを待ってた理由でしたっけ。そんなの、一つに決まってるじゃない。菊月ちゃん、浴衣の帯って結べないでしょう?」
「……む、私のせいだったか。済まないな如月、手間を掛けさせる……」
「全然構わないわよ、菊月ちゃんの為だもの。けれど、菊月ちゃんにしてみれば確かにちょっと長湯だったわね?」
「……武蔵の奴が中々離してくれなかったのだ。無理やり湯に浸からせて色々と聞かれてな。……だがまあ、夕食前で良かったと言うべきか」
酒の入った大和型は手がつけられん、と言外に言うと、如月は片手の甲を口に当ててくすくすと笑う。その笑顔に釣られてしばらく笑えば、思い出したように彼女は口を開いた。
「ああ、忘れるところだったわね。ほら、やっぱり菊月ちゃんったら帯が崩れてるじゃない」
「……うむ、結び方が分からなくてな。済まないが、不恰好で無いように頼めるか?」
「勿論よ、その為に残っていたんですもの。ほら、ばんざーいして頂戴」
言われるままに諸手を挙げると、徐に如月が近づいてくる。肌と肌が触れ合おうかという距離まで近づけば、彼女はその場でしゃがんで
「うーん、菊月ちゃんったら固く結びすぎたんじゃないかしら。ほどくの、結構しんどそうね」
「それは済まないが……その、密着し過ぎてはいないか、如月」
「あらぁ? うふふ、そんなこと無いわよ。――って、何だか甘い匂いがするわね?」
もぞもぞと手を動かしたまま、頭を胸元まで持ち上げてくる如月。すんすんと鼻を鳴らすその動きのくすぐったさに、思わずぶるりと身体を震わせた。
薄手の浴衣越しに伝わる少し高めの如月の体温と全身の柔らかさ。羞恥と緊張で昇天しそうな『俺』の魂を『菊月』がどうにか引き止める。
「コーヒー牛乳の匂いねぇ、これ。菊月ちゃん、溢しちゃ駄目じゃない。ちゃんと拭いておかないと」
「なあっ、如月っ! やめっ、こそばゆい……!」
引き剥がそうと身体を捩るものの、思いの外がっちりと腰を抱えられている為に逃れられない。足腰に力が入らなくなる前に力ずくで押し退けようか……と考えた矢先に、如月の腕がするりと解けた。
「はい、おしまい。帯はちゃんと綺麗にしておいたわよ?」
「ふぅ、はあ……っ。如月っ、流石に勘弁してくれ……!」
「あらあら、真っ赤になっちゃって。可愛いわ、菊月ちゃん。――さて! 私も待たされた分だけ菊月ちゃんを堪能したし、ご飯に行きましょう?」
「夕食……、今からか?」
「ええ。というより、もうギリギリよ? ほら、急ぎましょう」
如月の言葉に慌てて壁掛け時計を見れば、確かに集合時刻は迫っている。が、迫っているとは言っても所詮は数階下の大広間へ行くだけだ。息を整えながら行っても間に合うだろう。
「そのようだな。それでは行こうか、如月。……夕食のメニュー、どんなものなのだろうな?」
先導する如月の後を追いながら階段を駆け下りる。浴衣の裾がはためいて幾度か太腿が覗き、脚や股下に風が通り抜ける。
けれども、しっかりと締められた帯が緩むことは無かったのだった。
お誕生日プレゼントとして菊月のお腹と胸をすりすりする展開を如月ちゃんにプレゼント!
こういうアダルティなことをやってもらえるのは如月ちゃんの流石の貫禄ですかね。もちろん純粋にキュートな如月ちゃんも好きですし大好きですけど。