私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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お久しぶりです。

まずは今回私のとった態度、また物言いについての謝罪と感謝を。
厳しいお言葉を下さった皆様。
私は自惚れ、図に乗っておりました。
皆様のお陰で気付くことが出来ました、ありがとうございます。

そして、優しい言葉を下さった皆様。
私は皆様の信頼を裏切ってしまいました。
申し訳ございませんでした。

頂いたお言葉は全て心に留め、糧とさせて頂きます。引き続き、至らないところがあれば、そしてそれを忠告して頂けるのであれば、どうかよろしくお願い致します。

……そして、今更合わせる顔が無いのですが、更新の再会をしたいと思います。

長々と失礼しました。
それでは再開一発目、どうぞご覧あれ!


もしもアニメ艦これ三話前後に菊月(偽)が一瞬だけ乱入したら、その五

――駆ける。

 

仄暗い船渠から飛び出し、全身に感じたのは懐かしい海風。吹き付ける潮の香りからは殆ど離れていなかったというのに、まるで違う印象を受ける。一歩一歩踏み出す波の感触、頬に飛び散る水の感触がそのまま俺の魂へ染み渡る。

 

「…………っ、問題は無い……!」

 

――賭ける。

 

元々この世界の艦娘でない『菊月()』が、この世界の海を往けるのか。ともすれば沈んでしまうのではないかという賭けには勝った。ならば、後は俺の目的を果たすだけだ。その為にならば、この魂をすら燃やし尽くそう。

 

「敵艦……六!駆逐級と軽巡、それぞれ三ずつか……だが、な!」

 

――翔る。

 

全身に充ち満ちる気力は燃え上がり、既に菊月()の身体からは真紅の気焔(オーラ)が立ち昇っている。何となく分かる、『菊月』が居らず身体も軽く、そして身体が溶けるように気焔を生み出しているこの状況。

不確かながらも感じていた違和感が、海に出ることではっきりと理解できる。足元から、全身から、一歩進むごとに薄れゆく俺の存在。

 

――つまり、今此処に立っているのは正真正銘『俺』の魂だけなのだ。

 

菊月の姿を模るほどに『菊月』に染まり、馴染み、しかし決定的に『菊月』ではない紛い物。それが今の菊月()であり、剥き出しの『俺』の魂だった。

 

「…………で?」

 

思わず口から漏れた一言すら『俺』でなく『菊月』のものだったことに苦笑する。苦笑するが、しかし納得した。そう、だから何だと言うのだ。そんなことは百も承知だっただろう。だからこそ『俺』は、本物である『菊月』の身体を、存在を守る為に戦おうと誓ったはずだ。

そして今、この俺の身体すら『菊月』のものでないと言うのなら、どう扱うも自由だ。

傷を負おうが、四肢が捥げようが、ただ『菊月』と、菊月の姉妹を守る。そのために――

 

「……沈め、深海棲艦……!」

 

呟く俺の言葉に呼応するかのように、青白い光を明滅させて異形共が迫り来る。前衛は駆逐級三隻、後衛が軽巡級三隻。そのうち前衛を務める三隻が、がぱりという擬音の聞こえそうなほどに大口を開けた。無論、そこから覗き迫り出すものなど百も承知だ。駆逐級の巨体に見合った、黒光りする長大な砲身。それが、殺意とともに菊月()の身体を捉えた。

 

「……来るか……」

 

一瞬の後、俺がそれらへ視線を向けると同時に放たれたのは三発の砲弾。轟音を上げ放たれるそれは、駆逐級の船体(からだ)を僅かに押し返すほどの威力。戦艦や重巡ならば笑って防ぎ受けられるのだろうが、駆逐艦()にとっては致命傷たり得るものだ。

 

「……だが、甘いな……!」

 

しかし。たったそれだけで沈んでいるのならば、俺はこうして此処に立ってはいない。斜め前方の左右、そして真正面から迫り来るそれらのうち左右の砲弾へ目を配り――

 

「……ふ――っ!!」

 

一閃二閃。天龍が使っていたと思われるこの古びた刀は、しかし月日を経ても切れ味を鈍らせることなく砲弾を両断する。左右から生まれる爆風が俺の肌を撫で、真っ白なシーツで出来たマントの端を黒く焦がした。

 

「この世界では、確かこんなことも出来た筈だな……?」

 

次いで一閃。峰打ちで斬りあげた砲弾はくるくると回転しながら宙を舞い、俺の身体を穿つための勢いを消失する。そのまま落ちてくるそれに照準を合わせ、跳躍し、砲弾の尻の部分へと向けて思い切り振り抜き――

 

「そら、返すぞ……!」

 

がいん、と鈍い音を立てて弾ける砲弾は、蹴撃の勢いのままに空を切り駆逐級の一隻の口内に激突した。狙い通り、三隻並んだうちの中心の駆逐級への命中弾。同時に膨れ上がる熱量と爆風が駆逐級の弾薬を誘爆させ、肉片を撒き散らせ爆散させる。

 

「まだ終わっていないぞ、深海棲艦……!」

 

青い海に咲く炎の花、それを増やすべく放った雷撃が残る駆逐級へと殺到する。回避しようとした彼奴らの横腹を抉った雷撃は容赦なく破裂し、腹を食い破り彼奴らの動きを永遠に止める。そうして、大きく溜息を吐いた俺の目に映ったものは残る三隻の深海棲艦だった。

 

「ホ級が二隻に……ツ級が一隻、か。沈めておきたいところではあるが……どうやら、私にもあまり時間が無いらしい」

 

全身から燃え上がる気焔と、海を行くことで消費される燃料(エネルギー)。今の俺にとって、それらは全て文字通り身を削って生み出しているものだ。故に、時間が無い。正確には、『無駄に使える時間が無い』だろうか。如月を救い、更にその先の目的まで達成する為にはあまりに足りない。

 

「……だから、何方かを見捨てる?……ふん、それこそ笑い話だ。他でも無いこの『私』が、そんなことを認める筈は無い……!」

 

考えている時間すら勿体無い。俺のたった一つの望みは、みなを守ること。それを為すまでは、精魂尽き果てようとこの世界にしがみ付いてやる。

 

「――真ん中、ツ級!貴様を突破し、私は進む……!」

 

奥歯を噛み締め、両手で構えた刀を強く握り直す。全身から吹き出す気焔、その色が更に深い赤に染まったのが何故か分かった。全身の力を両足に込め、態勢を低くし身体を引き絞り――

 

「グ、ゴガァァァァァ!!!」

 

殺意と敵意を此方へぶつける三隻が、ツ級の咆哮を号令に斉射を始めた。それを合図に俺も飛び出す。踏み出す一歩に推力を込め、飛沫を置き去りにぐんと前へ跳躍し進む。数発の砲弾が頬を掠め、更に数発の砲弾が至近距離で爆発し、熱と衝撃が俺の全身を打ち付ける。機銃の弾の数発も、身体へめり込んだのが分かった。

 

しかし、それでも――

 

「……軽巡、ツ級……」

 

――菊月()は、止まらない。極限まで引き絞った刀を勢い良く振り被り、身体に乗せた加速力で思い切り振りぬく。異形染みたバイザーの奥に有るであろうその双眸が俺を捉え、刀を防ごうと両腕を盾にしようとする。

 

「……悪いが、此処が貴様の墓場だ……!」

 

本能だろうか、それとも理性からだろうか。身を守ろうと動かされるツ級の無骨な双腕、それよりも速く俺は駆け抜ける。燃え盛る真紅の気焔を纏った鈍く輝く紅い刀身が、独特の肉を断つ感触と共にツ級の首を跳ね飛ばした。

 

「……残りは捨て置く、か……。運が良かったな……」

 

主を失った身体が水面に倒れこむ、ばしゃりという音を聞きながら更に跳躍。背中に突き刺さる敵意を躱しながら、残る軽巡二隻を引き離した。

 

「っ、けほっ」

 

一歩ごとに、実感できるほどに溜まってゆく疲労に小さく咳き込む。大きく深呼吸をすれば、纏った気焔が大きく揺らめいた。一度背後を振り返り、そして正面へと視線を戻す。

 

「……待っていろ、すぐに行く……」

 

遥かな水平線の向こうから感じる懐かしき、しかし俺の知るものとは少しだけ違う気配に小さく頷く。頷いて、俺は足を一歩踏み出した。




菊月可愛い……!!

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