私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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この話で終わらせようと思ったけどまさかの分轄。


放浪艦菊月(偽)、その九

「……はい、これでほとんど本調子に戻ったと思いますよ。どうですか?どこか違和感を感じる、とか……」

 

明石の言葉に、軽く身体を動かしてみる。違和感など無く、むしろきちんと補給を受けた分今までで最高のパフォーマンスと言っても良いぐらいだ。

 

「うむ……、問題は無い。それどころか、身体が軽く感じられる……。……その、だな。…………ありがとう」

 

「いいえ、構いませんよ!それが私の仕事ですからね!」

 

姉妹艦と決死の抗争をした日……もとい、提督と顔を合わせた日から二日。明石のお陰ですっかり身体も回復した俺は、入院着ではなく睦月型の……『菊月』の服に袖を通しながら、俺は頷く。

 

「……ならば、これでようやく私も皆へお披露目が出来る、ということか……」

 

「あ、そうですね。……でも、今日の夕方以降になると思いますよ?結構な艦隊が遠征や任務に出てますから」

 

まあ、それはそうだろう。傷ついているわけでもなければ、仕事も無い艦娘を遊ばせている訳にはいかない。年中無休で潜水艦(オリョール)クルーズ、とまでは言わないが、サボらせておく余裕があるということでも無いだろう。

 

「……で?どれだけの艦が鎮守府には残っているのだ……?あの時タ級を討ってくれた者が居るならば、先に挨拶をしておきたい」

 

「うーん、ほとんど居ませんねー……。確か、私と間宮さん、伊良湖さん、あとは……ちょうど昨日入渠して、今日は休暇になった霧島さんと比叡さん。それと、練度が高くない駆逐艦さん達ですね」

 

何だろうか、別段おかしくは無い筈なのだが何故か胸騒ぎを感じる。……いや、おかしくは無いのは『ゲーム的に見れば』、か。

 

「……そうか。……で、この鎮守府の防衛戦力は……?」

 

「あはは、そんなの艦隊入りしてない艦娘達が……って、あれ?……大和さんも武蔵さんも今日は別鎮守府に出向してるし、提督も提督で『トラック泊地作戦で減った資源を回復させる』って第八艦隊ぐらいまで編成して遠征させてますし……あれ?」

 

一気に青褪める明石。……建造で余計なものが出るのは明石のせいではないか、などと思い始めたところだが、そんな事を気にしている場合ではない。

 

「……一応聞くが、私の艤装はどうなっている……?」

 

「え、あ……一応、12cm単装砲なら在庫があったので整備しておきました。ま、まぁ……!鎮守府が深海棲艦に襲われるなんてそんなこと―――」

 

しかし、無情にも明石の言葉は響き渡る警報音とスピーカーから発される声に遮られる。

 

『マイクチェック……なんて、してる場合じゃないわ!鎮守府に、深海棲艦が接近中!数は多くないようだけれど、私達戦艦は入渠中……、比較的傷の治った比叡姉さんが指揮を執ります、駆逐艦達は艤装を身につけて出撃して!』

 

「ぁぅう、私、戦いは………」

 

更に青褪めて目を回す明石。以外と、突発的なアクシデントには弱いようだな。そんな明石の肩を叩いて、此方を向かせる。

 

「……明石さん、艤装を……」

 

「な、ダメですよ菊月さん!まだ治ったばかりなんですからね!」

 

「……構わない、前線に出ずして何が艦娘か……!」

 

……私は前線に居なくていいのか、とは『菊月』の言葉だ。今回も、味方だけに……それも、傷付いた者と練度の足りない者だけに任せてのうのうと休んでいられるか、と声を上げている。

 

……ならば、『俺』もその声に従うのみ。

 

「……艤装を頼む……駆逐艦菊月、出撃する……!」

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

一人、鎮守府の港、その端に立つ。海の上では比叡を筆頭に駆逐艦が奮戦しているが、戦況は芳しく無いようだ。悪いとは言い切れないが、このまま押し勝てるというわけでも無い。……しかし。幾ら数が少ないとはいえ、戦艦ル級と重巡ネ級を練度の低い駆逐艦隊に任せるというのは酷いだろう。

 

溜息を一つ吐くと、砲を構える。砲を握ったのは初めてだが、予想以上に、よく馴染む。この単装砲が、睦月型御用達だからであろう。……ともかく、砲を手に入れたとしても砲撃戦など経験が無い。下手な鉄砲、数を撃って味方に当ててはどうしようもない。

 

―――ならば、菊月()の取り得る手段は一つ。近付いて(critical!)突き殴り(critical!)接射する(critical!)……!

 

「菊月、全力出撃する……!」

 




とうとう脳筋と化した菊月(偽)。

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