私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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間に合いましたね。ちょっと短いですが。


彼女のいない鎮守府、その六

肩口より少し上で切り揃えられた髪をし、私と同じ色使いの服を着て、私と同じ艤装を身につけた、くりくりとした目の可愛らしい少女。およ、およと言いながら私の顔を覗き見る私と背丈の殆ど変わらない彼女は、やっぱり何度見ても『睦月』だった。

 

「……あ、あらあらぁ。ご、ごめんね睦月ちゃん。ちょっと驚いちゃって。こほん、二番艦の『如月』です。あの、睦月ちゃん」

 

「んー?どうしたのっ、如月ちゃん!」

 

「その、どうして此処に?司令官さんからも誰からも、睦月ちゃんが来るって連絡は受けてなかったし、突然で……」

 

「およ、そんなこと?まあ、まだ連絡が無いのなら提督がみんなに教えてくれると思うけど――一足先にこの睦月が教えてしんぜよう!あのね、ここの鎮守府から色んな人が出向に出てるのは知ってるでしょー?」

 

睦月ちゃんの言葉に、私はこくんと頭を縦に振る。直近でドイツに遠征に出た菊月ちゃん達以外にも『吹雪』や『陽炎』、『瑞鶴』と言った艦娘達はそれぞれが長期の出向に出ていて、向かった先の鎮守府や基地で大きな戦果を上げていると聞いている。

確か彼女達は出向先の鎮守府に請われて半分移籍した状態だったけれど――そこまで考えて、私の背中がぶるりと震えた。菊月ちゃんが帰ってこない、そのことが恐怖となって襲ってくる。耐えて前を向けば、睦月ちゃんが私の様子を伺っていた。

 

「ええ、知ってるわ。もしかして、それが原因なの?……そうね、出向の話だってぽっと出たものでは無いでしょうもの。元から企画してあったところに、今の深海棲艦の不審な行動が重なったのなら、司令官さんとしてはその何方もを両立させる為に支援を要請するしかない、のかしら」

 

「そう、私たち(・・)が呼ばれたのもそんな訳なのです!いつもなら一つや二つの艦隊の出向なんてへっちゃらだけど、今は海域の様子がおかしいから援軍を要請する、ということらしいよ。それで来たのが睦月達ってわけ!ふふーん、嬉しいかにゃ、如月ちゃん?」

 

「あら、そうだったの。……ちょっと驚きはしたけれど、ええ。また会えて嬉しいわ、睦月ちゃん。それで、支援として来てくれたということは一緒に戦える、のよね?多分、睦月ちゃんの物言いから他に何人か来ていると思うのだけれど……」

 

「そうそう!私と弥生ちゃん、皐月ちゃん、文月ちゃんに望月ちゃん!駆逐艦はこれだけで、あとは戦艦さんと空母さんがちょっとずつだよ!睦月は一足先にみんなに挨拶しよっと思ってたんだけど、今居るのは如月ちゃんだけみたいだって聞いたからね?それで、睦月が会いに来たのだ!会いたかったよ、如月ちゃんっ!」

 

言いつつ、がばっという擬音が見えそうな勢いで飛びついて来る睦月ちゃん。背負った艤装の重さもあって、予想以上の勢いで飛んできて……がしり、と抱き着かれた。私よりもちょっとだけ高い体温が、ぴったりとくっついた私の身体を温める。頬と頬とがくっつく感覚が、ちょっとくすぐったい。

 

「ちょ、ちょっと睦月ちゃんっ!くすぐったいわぁ、それにまだ海の上だし、訓練してたから汗臭いし……!」

 

「あ、ごめんね如月ちゃん。訓練の邪魔しちゃ駄目だよね?……それで、訓練って何やってたの?」

 

抱き着かれた時と同じく、ぱっと離れる睦月ちゃんに少しだけ安心する。なんというか、からかったり可愛がったりして抱き着くことには慣れているけれども、抱き着かれることには慣れていないというか。気持ちを切り替えて、睦月ちゃんの問いに答える。

 

「そうね、長距離からの目標の攻撃というか、狙撃に近い訓練かしら。遠くからでもみんなの援護をしたいな、って思ったから」

 

「狙撃?狙撃っぽい訓練?うーん、あんまりよく分からないね。如月ちゃん、遠くから助けたいの?」

 

「ええ、私はいつも艦隊の最後尾にいることが多いから。索敵と警戒をしながらみんなの援護をするんだったら、やっぱりこれぐらいは出来ないとって……」

 

「これぐらい、って言っても如月ちゃん、連装砲でやるのは無理があると思うよ?それよりは、接近しながらでも周りに気を配れるようになった方が簡単だし確かだと思うな」

 

うっ、と言葉に詰まる。いや、確かに睦月ちゃんの言う通り。連装砲で狙撃なんてそもそもが無理なことをするよりも、きちんと地に足の着いた戦い方をするべきだし、それは私だって分かっている。だけど、それじゃあ――悔しいじゃない。そう言いたくなる気持ちを切り替えて、

 

「そう、ね。その通りかしら。うーん、なら今からはその訓練に移行しようかしら……?」

 

「その方がいいと思うよっ!それに、そっちだったら私も手伝ってあげるしっ!そうと決まればレッツゴー、艤装と標的を交換して特訓にゃしいっ!!」

 

「ちょ、ちょっと引っ張らないで睦月ちゃんっ」

 

砲を持っていない左手を掴まれ、滑り出す睦月ちゃんの勢いに釣られるように私の身体も滑り出す。手を引かれるということも久し振りだなぁ、なんて思いながら、私は結局その感覚のまま引かれてゆくのだった。




どんどん書くぞよ。

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