私が菊月(偽)だ。   作:ディム

137 / 276
次回は戦闘と書いたな?あれは嘘だ。

早く投稿したいとも書いたな?ごめんなさい。
というわけで昨日のです。


遠く遠く、その八

ドイツに到着してから二日目。俺達の鎮守府のものよりも少し狭く、大幅に煌びやかなホールで提督から紹介を受け、様々な色の瞳にひとまず受け入れられてから数時間。見知らぬ艦娘相手のとしては初めての、その日の演習の為の準備をしていた時。スピーカーから流れる少々大きな音と、それに続くドイツ語の放送が俺達の手を俄かに止めさせた。

 

「ふむ、私はドイツ語が分からないが――伊8(ハチ)

 

「多分、武蔵の予想通りです。ま、空気でわかるかな。出撃要請、此処の第一艦隊が出張るみたいね。私達には招集は掛かってないみたいだけど――」

 

「だからと言って、行かない訳にも行きませんわ」

 

演習の準備を手早く片付け、立ち入りが認められているうちの最高区画……つまり、提督の執務室へと向かう。武蔵のノックののち、入室許可が下りる。一礼して部屋へ入ると、窓から見える海を睨みつけている提督と、直立不動で提督の横に控えている見知った艦娘(プリンツ・オイゲン)がそこに居た。

 

「君達か。済まないな、折角演習の用意をして貰っていたのに無駄になってしまった。少々立て込んでいてな」

 

「ああ、失礼した。――?」

 

敬礼をする武蔵が、ちらりとプリンツへ視線を遣る。彼女は第一艦隊に所属していた艦娘の筈、それが海へ出ていないことに疑問を覚えたのだろう。かく言う俺も、そして仲間たちも同じ様子だ。

 

「ああ、プリンツのことが不思議かね?無理もないか。先程我が艦隊の艦娘には通達したのだが、敵――深海棲艦が一度に二方面に出現してな。片方はビスマルク率いる第一艦隊と、第二艦隊の数人を向かわせ撃滅。もう片方はプリンツ率いる第二艦隊の面々で足止めを行う作戦だ。今は第二艦隊から出撃させる艦娘を選んでいたのだが――」

 

そこまで言いかけて口を噤み、そして横に控えるプリンツ・オイゲンと顔を見合わせた後、溜息を一度吐いてから改めて続きを口にする。

 

「君達に、ビスマルクとは逆の艦隊を相手して貰いたく思う」

 

俺達に向かってそう告げる提督は、この二日で見慣れた笑顔を浮かべている。しかしその笑顔の中には少しだけ、何かを我慢しているような表情が混ざっていた。その理由、心中は察して余りある。何故なら、逆の立場であれば同じことを思うに違いないからだ。

 

「先遣隊や偵察部隊からの報告を鑑みても、今回現れたのは――そう、装甲が強化された種類のものだ。ビスマルク達でも楽に倒し切れる相手だとは思わない。その状況で第二艦隊など出撃させれば結果は明らかだ。その点君達なら――少なくとも我が第一艦隊と同等以上の実力を持つ君達ならば、この状況下で最善の結果を齎してくれるだろう」

 

理性と感情を別々に扱った様子で、提督がそう告げる。おそらく、今から提督が下す決定を耳にしたこの鎮守府の艦娘達も似た感情を抱くことだろう。話す度に、徐々に苦虫を噛み潰したような表情へと変わってゆく提督に対し武蔵が一歩前に出て口を開く。

 

「ふっ、そう渋面を作るな。ふむ――そうだな。二度とそんな面を作れないぐらいの戦果を挙げてみせようではないか。武蔵艦隊、深海棲艦撃滅の任務を拝領する」

 

「ふふ、日本ではジョークはあまり好まれないと聞いたのだがな。私と同じように。――もしくは、その言葉がジョークでも何でもないか、か」

 

提督の表情が変化する。今までの、無理やり浮かべたような笑みの中に武蔵の言葉に対する困惑が浮かんだのが見えた。その一連の流れに、奇妙なおかしさを感じ口元だけを薄っすらと歪める。

 

「さて、どうだろうな?結果を楽しみにしているといい。――時間が惜しい。私達は直ぐにでも出撃できるが、他には何かあるか?」

 

「ああ、ならばプリンツを君達の艦隊に加えてくれたまえ。彼女は深海棲艦が何処に出現したかも、このあたりの海についてもよく知っている。プリンツ、大丈夫だな?」

 

提督の問いかけに、直立不動のプリンツが大きく頷く。その目には燃える闘志がありありと見えた。全身に満ちている力のままに、彼女は口を開き、

 

「ええ、もちろんよ提督!自分の国の人たちを守るのに、任せっぱなしなんて嫌だしね!」

 

「ああ、任せた。君達に勝利が齎されることを、祈っているよ」

 

「一度砲を交えた相手ならば、信頼するに足る存在だ。ましてや、この鎮守府の栄えある第一艦隊を務めている艦娘ならばな。宜しく頼むぞプリンツ・オイゲン、お前の力を頼りにしている」

 

その言葉を最後に踵を返し、俺達は執務室を後にする。異国での深海棲艦との第一戦、ここをどう乗り切るかで今後の任務がどうなるかも変わってくるだろう。

思考を止めないままに出撃港へと先導するプリンツに続き、無言のまま足を進める。ドイツの海が一望できるそこで、日本から運んできた馴染み深い艤装を身に纏い意思を固める。海を背に、武蔵が口を開いた。

 

「何処へ行こうと海が変わらぬように、ここが何処であるかなど我らには関係ない。私達は艦娘、仲間と民の為に戦う為の存在だ。仲間の為に、各員奮起せよ!よし――それでは武蔵艦隊、出撃するっ!」

 

海へと跳躍し、いつものように着水する。足元から伝わる感触は、単装砲を握ることで湧き上がる感情は、確かにいつもと変わらなかった。




とりあえず次こそ戦闘。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。