それで、サービスシーンが欲しいんだったか。そら、くれてやるぜ!!
昼下がり。私は、飯時だと言うのに一向に姿を見せない姉妹達を探して鎮守府を歩いていた。食堂を出て私室、船渠、その他姉妹達が行きそうな場所を巡り――最後に辿り着いたのが
「は、はわ、うぅ〜〜っ」
「ちょ、わ、私こんなの、っ」
「あ、あらあら、知らな、知らなかったわ」
医務室。正確に言えば医務室前の廊下。そこに、顔を真っ赤に染めて何事かを呟いている見知った三人を見つけた。中に入る訳でもなく、しかし立ち去る訳でもない。扉に張り付き、耳を立てているような素振りの三人に声をかける。
「おい。どうしたんだ三人とも」
「ひゃわぁあっ!?って、なんだ長月か。――ぴょん。ど、どうしたんだぴょん?」
「相当動揺しているらしいな。――三日月はともかく、如月までこうか。何がどうして、こうなっているんだ?」
卯月は何も語らず、頭を二、三度左右に振り扉を指差す。同じように聞け、ということだろうか?怪訝な心持ちで、他の姉妹と同じように扉に耳をつける。
『……っ、ぅあっ!?つめ、たいぃっ……!』
「―――!?!!?」
自分でも驚く程の速度で、扉から跳ね飛び離れる。顔面に、一気に血が昇ってゆくのが実感できた。動悸が収まらない。ゆっくりと卯月に目配せすれば、彼女は赤い顔のまま一つ頷いた。
「な――、いや、嘘だろう?」
聞き間違えではないかと一縷の望みをかけ、再度扉に耳をつける。しかし無情にも、聞こえてきた声は先程聞こえたものと同じ、ここにいない最後の姉妹のものだった。
『……く、うっ!?なん、これっ!?あか、しぃっ!』
『ほら、力を抜いてください。しっかりやっておかないと、後で痛くなりますよ?』
『そうは、言ってもだな……っ。くぅぅ、うぁっ……』
駄目だった。限界だった。ゆっくりと扉から耳を離す。昇りきった熱い血が、頭の中で暴れている。何故?いつの間に?あの、
「うあ、ちょ、凄いっ――ぴょん」
「おね、おね、お姉ちゃんが――」
「あら、あ、あら、ら?」
真っ赤になりながらも興味津々と言った表情で扉に寄る卯月、耳をそばだてながらも何かを考え込んでいる三日月、そして一番真っ赤になって目を回している如月。この様子では昼食どころではないだろう――かく言う私も気になってはいるのだが。
『ひあっ、つ、冷たいぞ……』
『あら、いきなりは駄目でしたかね?でも我慢して下さい、後が支えてるんです。この後すぐに注して、飲んで貰わなければならないんですから』
一体何を挿して何を飲むのか。そもそも、菊月がそんなことになっていたとは。今までのイメージが一気に崩れてゆく。そんな時、ふと一つの疑問が頭をよぎった。
「――うん?私が来た時には全員揃っていたようだが、一体誰が最初に
何となく目聡そうな卯月に再度目を向けると、彼女はまたしても首を横に振る。ならば如月か、と思った時、三日月から声を掛けられた。
「あの、長月お姉ちゃん。多分、私が最初です」
「なに、三日月がか?」
「はい。――その、私はお昼の時間まで菊月お姉ちゃんの看病をしていたんです。目が覚めたお姉ちゃんとお話をして、ちょっとお説教をして、丁度良い時間になったのでお姉ちゃんを明石さんに任せてご飯のために医務室を出ました。けれど、食堂へ向かう途中で鞄を医務室に忘れたことに気がついて――」
「――取りに帰ってきたらこの有様、という訳か。なんと言うか、ご愁傷様だな」
『っあ、頼む、そこはっ!』
『そういえばここ、菊月さんの弱点でしたね?』
こくんと頷く三日月と響く
「なんだ、そういうことか。全く馬鹿らしい」
「ぴょん?長月は何か分かったぴょん?」
「ああ。別にどうという事はない。そら、退け三日月に如月。鞄を忘れたのだろう、扉を開けるぞ」
二人を押し退け、扉の取っ手に手を掛ける。一瞬でその表情を驚愕へと変化させた二人が私の腕を掴み、止めようとする。その手が私に届く前に、全力で扉を開け放つ。そこには――
「……っ!?なんだ、大勢で……」
「あら、皆さん。お昼はもう食べ終わったんですか?」
――そこには案の定、ベッドにうつ伏せになって塗り薬を塗られている
「ああっ、長月ちゃん!――って、あら?」
「あ、あわっ!!――あれ?」
「そら、これがタネだ。――三人とも、もう良いか?」
「あ、え?っ、そういうことかぴょんっ!!」
「そういうこと、だ。済まない、邪魔をしたな。三日月の鞄だけ回収すれば、すぐに出て行くよ」
ぽかんとする姉妹三人を放置し、医務室の中へ踏み入り鞄を回収する。菊月に『お大事に』とだけ告げ、三人を押し出し扉を閉めようとする。その時、件の菊月が口を開いた。
「……?大丈夫か長月、顔が赤いぞ?」
「っ!!――し、失礼するっ!」
後手にぴしゃりと扉を閉め、大きく息を吐く。なんだかんだと言っておいて、私も動揺が抜けていなかったと言うことだろう。深呼吸をして、呼吸を整え口を開く。
「――さて。その、なんだ。飯でも、食うか」
私の言葉に、三人は無言で頷いたのだった。
菊月は可愛いから声だけで充分だよね!