もっと飛行場姫さんを強くしたい。
追記。これ昨日の分です。
燃えるような夕日が水平線に落ちつつある。風は凪ぎ、波は穏やかだ。揺らめく水面以外に動くものは、
「……また、貴様と見えることになるとはな……」
対峙する飛行場姫の得物は、嘗て滑走路だった大きな剣一振りのみ。禍々しい異形の艤装も、砲塔も備えていない。にも関わらず此方へ向けられるプレッシャーが微塵も衰えていないように思えるのは、ひとえに奴の眼光の鋭さが原因だろう。今までに川内達から受けた傷と相まって、凄味が増している。
「……フフ、フハハハハ……!ミツケタゾ、白イ駆逐艦……!貴様ニ斬リ落トサレタコノ腕ノ疼キ、知ラヌトハ言ワセヌゾ!」
「……恨み言ならば、此方とてある……!貴様が好き勝手に弄んだ
「ヌカセェェェエッ!!」
飛行場姫の絶叫に合わせ、全力で踏み込む。身体の周囲に棚引く
「……この、馬鹿力め……!」
「ドウシタ、白イ駆逐艦ッ!!」
二撃目、先に動いたのは飛行場姫。体勢を崩した
「……くうっ!!」
しかし、俺とてタダで殺られる訳にはいかない。二刀を存分に使い、
「く、おおおぉぉぉぉお!!」
「フフ、フハハハハ!」
縦横無尽に海上を舞う、馬鹿げた威力の攻撃。それに合わせるように、両手に握った二刀を絶え間なく動かす。奴の一撃を受ける度に、骨格が軋み筋肉が悲鳴をあげる。
「こんな、ものか……!」
剣戟の嵐の中を掻い潜り、斬り返すことでどうにか命を繋ぐ。狙うは憎き大剣、その一部分だけ。今の
『できる』という自信が、一秒ごとに結果に支えられてゆき、振り抜く二刀は確実に彼奴の得物に傷を刻んでゆく。そうして何度めかの攻撃を斬り弾いた時、僅かな隙が彼奴に生まれた。
「今だ……っ!」
駆逐艦の取り柄は速さと手数だ。片手の『護月』で身を守りつつ、もう片手の『月光』で斬撃を放つ。利点を存分に活かした一撃は、傷は浅いものの奴の腕を裂くことが出来た。だが肝心の飛行場姫にとって、それは単なる擦り傷のようなものなのだろう。それを裏付けるかのように、彼奴の顔に浮かぶ喜色は衰える気配を見せない。
「オ返シダ、白イ駆逐艦……!」
どかん、という余りに大きな衝撃。
大剣を持つ手とは逆、白い細腕が俺の身体を捉える。あまりの速度に、身を守ることが叶わなかった。
「ぐあ……っ!」
「ハハハ!コノ程度デハナイダロウ……グッ!?」
飛行場姫の笑みと余裕に対して、
「変わりようには驚いたけど、あなたが菊月ということには違いないわよね!?なら、私達だって黙っている訳にはいかないわっ!」
「よく戻りました、菊月。ならば、私も共に戦います。華の二水戦の力、再びその身に刻みなさい!砲雷撃、行きますっ!!」
目に力を漲らせ、川内と神通が揃って砲雷撃を飛行場姫へと撃ち込む。闘志を乗せて放たれた砲弾が空を裂き、魚雷が海を貫く。しかし、それらの悉くは海中より生まれ突き出た錆鉄の柱に阻まれ爆散する。朽ちた鉄の主は飛行場姫、剣を使うようになろうともその特性は失われていないようだ。
「……チッ、忌々シイ……!軽巡ドモ、貴様等カラ先ニシズメテ……グ、ナニッ……!?」
獰猛に牙を剥き出しにした飛行場姫の顔が苦痛に歪む。原因は、奴の背後の海を自在に駆け回る二人の艦娘――我が友『那珂』と我が妹『三日月』。夕日を受けてなお黒く光る彼女達の艤装、その砲口からは煙が伸びている。
「お姉ちゃん達には、負けていられません!さあ、行きますよ那珂ちゃんさんっ!!」
「あー、だからーっ!那珂ちゃんを呼ぶ時に『さん』は要らないってば!もう――って、言ってる場合じゃないよね!せぇぇえい!」
飛行場姫の殺意に呼び起こされる海中から突き出す鉄の槍柱、それを巧みに回避しながら攻撃を続ける彼女達。飛び交う砲撃が音を立てて飛行場姫へと命中する。対する飛行場姫は、無数の砲弾へ向けて大剣を一振りする。三百六十度、全方位を薙いだその大剣は砲弾を斬り裂き圧し割り、空中に炎の花を咲かせる。
「あれ、まさか菊月は逃げ腰ぴょん?」
「……心配するな。もう、迷いはしない……!」
「ははっ、それでこそだ菊月!」
「……チィッ!!コノ、艦娘ガァァアッ!!」
「行くぞ、卯月、長月っ!!」
怒声と共に
「……甘いっ!」
迫る脅威、俺の命を軽く吹き飛ばす一撃、それらに対する恐怖を押さえ込み、大剣をギリギリまで引きつけ――晒された大剣の腹、その上へ飛び乗る。驚愕に目を見開く飛行場姫に構うことはなく、両足を踏みしめ一気に前方へ。
「ナッ……!ダガ、ソノ手ハ食ワン!!」
「……馬鹿め、貴様と戦っているのは――」
「――私だけではない!行け……っ!!」
「よっし、良くやったね菊月!さあ――撃てぇーっ!!」
錆鉄の槍と盾を掻い潜り、極至近距離まで肉薄していた仲間達が川内の号令のもとに一斉に攻撃を放つ。無防備な胴に、顔に、足に、砲撃と雷撃が突き刺さり炸薬が爆ぜ、鮮やかな炎を顕現させる。暫く後に、その中から現れたのは満身創痍の飛行場姫だった。
「グ……ヌ、艦娘ガ……!」
「っ、逃げるわ!全員、追撃用意っ!!」
足先から海中に沈みゆく飛行場姫に対し、攻撃の指示を出す川内。何か出来ることはないかと飛行場姫を一瞥し――その目を見た瞬間ぞくり、と背筋が凍える。
「っ!させるか……!」
瞬間、飛行場姫の両眼に金色の炎が再び灯る。ひび割れた手甲に大剣を握り締め、脇目も振らぬ加速。海面を滑るのではなく駆け、裂帛の気合いと共に剣を薙ぐ。敵である俺から見ても感嘆する程の一撃、その軌跡上に敢えて身を晒す。
「グウゥオオォォォオオオアアァァァアッ!!」
「くうぅぅぅうあぁぁぁぁあぁぁあああっ!!」
狙うのは、執拗に攻撃を続けた大剣のとある一点。今、一撃でこれを砕かなければ
友の為、仲間の為、姉妹の為。その為に戦うとき、
「……ぐう、っ!?」
刹那、感じたのは胴に走る一筋の熱。次いで、
「菊月、菊月っ!おい、大丈夫なのかっ!?」
「馬鹿、この馬鹿菊月っ!病み上がりなのに無茶し過ぎぴょん!」
駆け寄ってくる卯月と長月に身体を支えられながら、どうにかみんなを守れたことに安堵する。盛大な飛沫をあげて海底に没する大剣だったものを眺めながら、俺は
はい、いつかキャラクターに斬艦刀を持たせると言いましたね?
持ったのは飛行場姫でした。