憤怒と雁夜   作:グリゴリ00号

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一話ですがキング・ブラッドレイの年齢を若い頃に変えました。


個人的には原作の年齢のほうが好きですけどね


ホムンクルス

蔵の中に響く絶叫

雁夜の肉体は再生と破壊を繰り返し死者の怨念と戦い続ける。

 

 

桜はその姿を見て絶望する。この人は助けてくれるのでは無かったのか。これが命を救うためとは到底思えない、これではまるで

 

 

死に続けているものではないか

 

 

「なにをしたの!?おじさんをたすけてくれるんじゃあなかったの!!!?」

 

 

「そうだ。いま雁夜くんは生きるために戦っている、私たちには何もできない」

 

 

バーサーカーが雁夜から目を離さぬまま答えると、桜は雁夜の姿をバーサーカーと共に見守り続ける

 

 

数分の間絶叫が響き続けたが、糸が切れたかのように叫びが途絶えた。

 

 

桜はすぐに雁夜に駆け寄ると安心したような声をこぼした

 

 

「……よかった…………おじさんいきてる」

 

 

「どうやら成功したようだな」

 

 

バーサーカーは満足そうに笑うと、気絶した雁夜を抱える

 

 

「さあ、おじさんを暖かいベットに運ぶぞ。今日はもう遅い、桜ちゃんももう寝なさい」

 

 

そう言い桜の手を引きながら蔵からでていった

 

 

 

 

目が覚めるといつもと同じ天井が見えた。

どうやらあのまま気絶したところバーサーカーがベットまで運んでくれたらしい

 

 

「よっと、あ…」

 

 

ベットから起き上がろうすると横に桜が寝ていた事に気がついた。その寝顔をみていると以前と違い安心しきった顔をしている。桜の頭を軽くなでベットから桜を起こさないように出ると、部屋にある鏡に自分の姿が映った

 

 

そこにいたのは一年前の魔術を習う前の自分。髪の色は黒く顔の半分もしっかりともとに戻っている

 

 

「……本当に人間じゃなくなったんだな…」

 

 

そう呟き胸に手を置くと心音の変わりに死者の叫びが頭の中で響く。己の体がこれまでにないほど魔力のようなエネルギーで溢れているのを感じる

 

 

「バーサーカー」

 

 

「なにかね?」

 

 

バーサーカーを呼ぶとすぐ斜め後ろに姿を現した

 

 

「バーサーカー、昨日のあれはいったいなんだ。俺はいったい何になったんだ」

 

 

雁夜は鏡に映るバーサーカーを睨み付ける

 

 

「いっただろう、あれは賢者の石だ。まあ、不完全なものだがね」

 

 

「そんなことを訊いているんじゃない!」

 

 

雁夜は目の前にある鏡を殴り付ける。鏡には皹が入り、雁夜の手からは鏡で切ったせいか血が流れる

 

 

「なんなんだよ……これ」

 

 

しかし切ったはずの手から赤い稲妻のようなものが走り、すぐに傷はなくなった

 

 

「君は今自分が何になったか聞いたな?簡単に言えば君は不死身のホムンクルスになった」

 

 

さすがに限界はあるがね、と付け加えバーサーカーは微笑む

 

 

「………臓硯と同じか………」

 

 

雁夜の胸中は複雑だった、生き残るために必要だったとはいえ自分が何よりも憎んだ臓硯と同じ存在になってしまったのだ

 

 

「……おじさん?」

 

 

「さ、桜ちゃん」

 

 

さっき鏡を殴った音で目が覚めたのか桜が雁夜を信じられないような目で見ている

 

 

「ち、違うんだ!これはちょっとした手品見たいなもの「おじさん!」うご!?」

 

 

言い訳しようとしたが、ベットから飛び込んできた桜にタックルを食らう形になり、そのまま床に倒れた

 

 

「さ、桜ちゃんこれは「いいの、ぜんぶバーサーカーのおにいちゃんから聞いたよ」……でも」

 

 

「おじさんはなにもかわってないよ。だから」

 

 

一緒にいて。最後はもう聞き取れないほどの声の大きさだったが、その一言で雁夜は覚悟を決めることができた

 

 

「バーサーカー、この戦い必ず勝つぞ」

 

 

「了解したマスター。この剣にかけ必ず聖杯をもたらそう」

 

 

 

 

 

「なあバーサーカー、お前のなんで狂ってないんだ?」

 

 

先ほどのまでの殺伐とした空気はどこへやら。今は三人でこたつに入り温まっている。雁夜の正面にバーサーカーが座り、桜は雁夜の膝の上に座っている。バーサーカーと言えばこたつの上においてあるミカンを食べている。別に霊体化を命じてはいないが、馴染みすぎだろうと思わないでもない

 

 

「それは私が憤怒を象徴するホムンクルスだからだ。私の感情は怒りしかないからね」

 

 

「やっぱりバーサーカーも、ホムンクルスだったのか。ってそれよりも怒りの感情しかない?それが何か関係あるのか?」

 

 

「……雁夜くん、少し考えればわかるではないか。私は生前憤怒を象徴していたのだ。生前から怒り狂っていたら英霊になれる訳がないだろう」

 

 

雁夜は納得したようだが、桜の方はわからないようで首をかしげていた

 

 

「なるほどね……ん?なあ、さっき俺のマスターって呼んでたのにまた雁夜君に戻ってるんだけど」

 

 

「ああいったことはしっかりしなくてはならないだろう。心配するな、他の参加者の前ではマスターと呼ぶ」

 

 

「……ようするに呼びにくいから呼んでないだけか。ダメサーヴァントだな」

 

 

「失礼な。公私を分けているだけだろう」

 

 

しれっとそんなことを言う自分のサーヴァントに雁夜は苦笑いすることしかできない。すると先程まで黙ってテレビを見ていた桜が口を開いた

 

 

「ねぇ、おにいちゃんはなまえなんていうの?」

 

 

子供だからこその純粋な疑問だったが、雁夜は思い出したかのように質問を重ねる

 

 

「そうだよ。俺まだバーサーカーの真名聞いてないぞ」

 

 

その質問にバーサーカーは呆れたようにため息をつく。バーサーカーには関係ないが聖杯戦争において真名はかなり重要なものだ。英霊のうちほとんどが神話などによって現代まで伝わっており、真名がばれるとその英霊が持つ宝具が知られ、対策を建てられる可能性があるからだ。それゆえ自分のサーヴァントの真名というのは聖杯戦争において基本中の基本である。それだけにそんなことを忘れるとは……と今までのなかで一番呆れたバーサーカーだった

 

 

「私に真名はない。生前はキング・ブラッドレイと呼ばれていたが、それも与えられたものでしかなかったが」

 

 

「真名がないのか……そんなサーヴァントもいるんだな。でも偽名にキングってついてるし王様でもやってたのか?」

 

 

普通なら真名が無いことを疑問に思う所だが、そこは三流クオリティ。真名よりも偽名の方に疑問を持ったようだ

 

 

「私は生前、アメストリスという国を納めていた。まあなかなかの暴君だったがね」

 

 

バーサーカーは自嘲気味に笑っているが、雁夜は暴君と聞いて少し不安になった。その事に気がついたバーサーカーが訂正する

 

 

「勘違しているようだが、そのときは目的があってしていたまでだ。今はそんな気少しも持ち合わせておらんよ」

 

 

「そうか……アメストリス?そんな国聞いたこと無いぞ?」

 

 

雁夜はルポライターとして世界各地を回っていた、そうしていると自然に国や情勢について詳しくなる。聖杯戦争の関係で調べている者ほどは知らないが、一般人よりは詳しいというのは自負している

 

 

「恐らくこの世界とは別の世界なのだろう、私がいた世界では錬金術が発達していた。ここの世界にもあるらしいが随分と毛色が違うようだな」

 

 

「別の世界………平行世界ってことか。それでも別の世界の英霊も呼ばれるもんなんだな」

 

 

「可能性は低いかもしれないがありえん話ではない。座には古今東西、過去未来の英霊が存在している、中には私のような平行世界の英霊もいるだろう」

 

 

なるほどねと雁夜が呟くと雁夜が見回らせていた使い魔のうちの一匹に反応があった。雁夜はもともと使い魔を操るのは数百匹が限界だったが、ホムンクルスになった影響で十全に使えるようになった魔術回路と賢者の石によるごり押しで数万に及ぶ使い魔を使役できるようになっていた。その中の視蟲と呼ばれる使い魔が遠坂邸における戦闘を発見したのだか、内容はアサシンと思われるサーヴァントが金色のサーヴァントに蹂躙されるという実に呆気ないものだったが、雁夜は時臣のと思われる金色のサーヴァントをみた瞬間怒りが沸き上がり始めた

 

 

 

 

「どうしたのかね?」

 

 

そう聞いてくるバーサーカーに今の戦闘の内容を伝えようとするが、桜にはあまり知られたくないため別の部屋に移動する

 

 

そしてバーサーカーを召喚した蔵の中で見た内容を話し始めた

 

 

「どう思う?俺はなんか違和感感じたけど」

 

 

「……そういう所は気づくのだな。その違和感は間違っていない、これは十中八九やらせだろう」

 

 

「そうだよなって、なんだ?ばかにしてるのか?」

 

 

雁夜が睨むがバーサーカーはどこふく風。そのまま説明を始めた

 

 

「まず一番おかしかったのが金色のサーヴァントの反応が早すぎることだ。結界を破壊した直後ならわからんでもないが、話を聞いた限り結界を破壊するまえだ。アサシンには気配遮断のスキルがついている、サーヴァントでも気づくのは容易ではないだろう」

 

 

「時臣のサーヴァントが見張っていたとか」

 

 

「それは無いなだろう。金色のサーヴァントの特徴を聞いた限りかなり傲慢な輩のようだ。そんな者が見張りをすると思うかね?」

 

 

「なるほど………じゃあこれは時臣のサーヴァントの強さを見せつけるためのデモンストレーションということか………あいつがやりそうなことだ」

 

 

「さらに言えば恐らくその時臣とアサシンのマスターは同盟を組んでおり、アサシンもいまだ健在だろう」

 

 

「はあ?アサシンは殺されたといったじゃないか」

 

 

「確かにそのアサシンは死んだんだろう、だが今後の事を考えるとアサシンは敗退しないほうがいい。デモンストレーションだけならアサシンに重症をおわせ逃がしても問題はなかった。この世界の魔術とやらを使えば死んでいない限り治すことはできるだろうからな」

 

 

「つまり………アサシンは複数いる可能性があるということか」

 

 

雁夜の考察に満足気に頷く

 

 

「そうなるな。まったく人間らしい浅知恵を働かせおって……それでこれからどうするのかね?雁夜くん」

 

 

「……時臣を脱落させる。できるかバーサーカー」

 

 

「何、どれ程の武器を持っていたとしても打ち出すだけなら大砲と変わらんさ」

 

 

あの速度で打ち出される宝具を大砲と同じと言うバーサーカーに頼もしさを覚えるが、雁夜の頭は別の思考に支配されている

 

 

「マスターを殺すのかね?」

 

 

そうそれは時臣を殺すか殺さないか………確かに俺の本心はあいつを今すぐにでも殺したい。だが時臣を殺すと葵さん達が悲しむだろう。なにより養子に出されたからといっても、桜ちゃんの父親だ。できれば殺したくない

 

 

「…………今でも迷ってる。俺はすぐにでも殺したいけど、桜ちゃん達の事を考えると殺したくない」

 

 

「君はつくづく面白い人間だ、雁夜くん。己の身を焦がす程の怒りを抱えながら、それでも悩んでいる。私のようなホムンクルスには理解できないことだ」

 

 

今では君もホムンクルスだが、と付け加えバーサーカーは蔵から出ていく

 

 

誰もいなくなった蔵の中で雁夜は一人考える

 

 

なぜ桜を養子に出したのか。 別に魔術師としての成功なんて望んでいなかったかも知れないのに。

あいつは根っからの魔術師だ。どうせ聖杯に望む願いも根源に到達するとかだろう。別にその願いに文句はない、俺も自分のために聖杯を求めているようなものだから。だが、なぜその重荷を子供に背負わせる?やりたければ一人だけでやればいいのに

 

 

いくら一人で自問自答を繰り返しても答えは出ない。それならあいつと話そう、それで答えが出たならもう迷わない

 

 

それがどんな結末に繋がるかとしても

 

 


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