Fate/EXTRA BLACK   作:ゼクス

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今回で現状のブラックの実力が明らかになります。


1-4 初戦闘

サクラ迷宮/一層

 

ゲートに入ると共に感じたのは、眠りに落ちて行くような酩酊感だった。

それを超えた後、私達は不思議な空間に立っていた。

 

まず最初に視界に入って来たのは地平線に沈む夕日と、聳え立つ城の尖塔たち。

地上は無く、道は張り巡らされた糸のように伸びたガラス張りの板のような構成されていた。

 

迷宮内部には風が吹いていた。

その風からは美しい風景を汚すような、隠し切れない血の香りが漂って来る。

 

「ほう、随分と殺伐とした匂いだ。一体どれだけの血がこの迷宮に流れているのか気になるな」

 

聞こえて来た声に振り向き、目を見開いた。

ブラックの姿は旧校舎内での人間の姿では無く、あの虚無の闇の中で出会った『漆黒の竜人』の姿に戻っていた。

 

「ん? あぁ、この姿の事か。どうやら旧校舎では人間の姿でいる事が強要されていたが、迷宮では元の姿で居られるようだ」

 

元の姿?

と言う事は、旧校舎に居た時の人間の姿が借りの姿で、ブラック本来の姿はやはり、此方の『竜人』のようだ。

一体この『竜人』は何者なのだろう。そう疑問に思っていると、レオとの通信が繋がる。

 

『信号を確認しました。聞こえますか、岸波さん?」

 

聞こえていると答えた。

 

『結構。此方も映像、計測はともに良好です……しかし、岸波さんのサーヴァント……随分と姿が変わりましたね?』

 

『校舎で見た時、異質な気配を感じましたが…よもや正体は〝竜”だったとは……しかし、それにしても』

 

『疑問は当然だが、今は気にしていられる状況では無いな』

 

レオ、ガウェイン、ユリウスが映像で確認したブラックの姿に困惑している。

私も同じ気持ちだが、今はそれよりも迷宮の先だ。

 

『岸波さん、聞こえますか? 生徒会室からサクラ迷宮のスキャニングは出来ませんが、岸波さんを観測装置として代用する事で周囲の様子が測れました。迷宮自体は表のアリーナと同じようですね。でも、何でしょうか? 迷宮全体に生命反応が計測されています』

 

『生命反応だと? ……我々よりも先に迷宮に入った人間が居ると言う事か?』

 

『いえ、それは在り得ません。ゲートに入ったのは岸波さんです。もしも他の生命反応が在るとすれば……』

 

『初めからサクラ迷宮に居る者。或いは旧校舎まで逃げられなかった犠牲者では無いでしょうか』

 

『おそらくは、そうだと思いますけど……でも、可笑しいな。こんなに大きな生命反応なのに、IDが読み取れないなんて……とにかく、危なくなったらすぐに帰って来るようにして下さい』

 

『サクラの言う通りです。今白野さんが居る場所に校舎に通じる階段を維持しています。危険を感じたら此処に戻るように。では、周囲の探索をお願いします』

 

それと共にレオとの通信は切れた。

ごくり、と緊張して喉が鳴る。これから私は未知の領域に踏み込まなければ、緊張と不安で体が固まってしまう。そんな自分の前にブラックが足を踏み出す。

 

「さて、行くぞ」

 

素っ気なく告げると共に、ブラックは前へと進んで行く。

其処には何の恐れも見えなかった。このサーヴァントには未知の状況に包まれているのに、異常なまでに落ち着いている。

 

それに比べて私は……

本当にこのサーヴァントと共にこの迷宮を超える事が出来るのだろう?

そんな不安に包まれながら、私はブラックの後を追いかける。

 

 

 

サクラ迷宮/一層通路

 

 ブラックと白野は一緒に通路を進んでいた。

 この時、白野は気が付いていなかったが、ブラックは現状の自分で何時でも白野を護れる立ち位置で動いていた。黙々と周囲を二人は警戒しながら進んで居ると、突然球体状のエネミーが襲い掛かって来た。

 周囲を警戒していたブラックは瞬時に気が付き、右腕の小手-『ドラモンキラー』-の爪先に力を集めようとする。

 

「何っ!?」

 

「えっ?」

 

 突然ブラックは驚愕に満ちた声をあげ、思わず白野は驚いてしまう。

 そんな白野に球状のエネミーが素早い動きで襲い掛かって来る。

 

「チィッ!!」

 

 舌打ちしながらブラックは白野とエネミーの間に割り込み、エネミーの一撃を腹部に食らってしまう。

 

「グゥッ!!」

 

 全身に響く衝撃と痛みに声をブラックは漏らす。

 しかし、瞬時に立ち直り、左腕を振るいながら白野に向かって叫ぶ。

 

「魔力を回せ!!」

 

「う、うん!!」

 

 白野が返事を返すと共に、ブラックの力は一瞬だけ高まり、エネミーに力強い一撃が決まった。

 だが、それでもエネミーは破壊される事無く宙に浮かび、再びブラックに向かって突進して来る。

 

「避けて! そのまま通り過ぎたら強烈な一撃を!!」

 

「言われるまでも無い!!」

 

 白野の指示に従い、ブラックはエネミーの一撃を右に僅かに動く事で躱した。

 そのまま突撃が不発に終わったエネミーに渾身の一撃を左腕で叩き込み、今度こそエネミーを沈黙させた。

 

「………まさか、此処までとはな。技、いやスキルは愚か、力までも此処まで落ちているとは」

 

「ど、どういう事なの?」

 

「はっきり言うぞ。今の俺は力が最低値に落ちているばかりか、スキルが完全に失われて体が思ったように動かせん」

 

「なっ!?」

 

 ブラックの説明に白野は言葉を失った。

 だが、実際にブラックの状態は説明したとおりだった。最初エネミーを察知した時、ブラックは白野に近づく前に仕留めようと遠距離攻撃を放とうとした。しかし、放とうとした遠距離攻撃はエネルギーが集められず霧散。

 その上、困った事に因子レベルで刻まれている戦闘経験のせいで、経験が導き出す最良の動きと現状での自分が可能な動きが噛み合わず、結果無駄な動きになってしまっているのだ。

 

「そ、それってかなり不味い事なんじゃ」

 

「確かに不味い。だが、その解決策は在る」

 

「ど、どんな!?」

 

「これからエネミーと戦い続ければ良い。それで何とかなる」

 

「いや、その戦いに関してが不味いんじゃ?」

 

「それ以外に現状で手段が無い。せめてお前のマスターとして技量がそれなりだったら、何とかなったかもしれんが、指揮に関してはともかく貴様のマスターとしての技量は……」

 

「うっ!」

 

 ブラックの指摘に白野は顔を俯かせてしまう。

 岸波白野のマスターとしての技量は、残念ながら一般人レベル。先ほど一瞬で最善の動きをブラックに指摘したことから見て、指揮能力は高いようだが、マスターとしての技量は最低値。

 ある意味、今のブラックと白野には図らずも同じ共通点が出来ていた。

 

『今の話は本当でしょうか?』

 

 どうやらモニターで状況を確認していたらしく、白野が持つ端末からレオの質問が届いた。

 

「残念ながら本当だ」

 

『レオ……『宝具』について質問をしてみたらどうだ? スキルはともかく、『宝具』は健在か?』

 

 端末から聞こえて来たユリウスの声に、白野の顔に僅かに希望が戻る。

 『宝具』。サーヴァントの切り札にして象徴。全てのサーヴァントは、その出自となる伝説を〝武器”として扱える。

 有名な剣豪なら、その秘剣が『宝具』として。

 神話の英雄なら、伝説として語られる奇跡が『宝具』として。

 イレギュラーなブラックにも、『宝具』と言えるモノは確かに在るのだが。

 

「悪いが……『宝具』も使えん。今の俺が〝アレ”を使えば、制御し切れずにアリーナごと吹き飛ぶだろう」

 

「……へっ? 使ったらア、アリーナごと吹き飛ぶ? 自分の『宝具』なのに制御出来ない? 冗談だよね?」

 

「残念ながら事実だ。俺の『宝具』は、月の裏側で使えば絶大な威力に加え、連発さえ可能な『宝具』なのだが……同時に緻密な制御が必要になる。今の最低値に力が落ちている俺にはその緻密な制御が出来んのだ」

 

『困りましたね……うん。色々と頑張って下さい、白野さん。ほら、サーヴァントとの関係はマスター個人の課題ですから』

 

『あの……『宝具』はともかく、岸波さんのサーヴァントの数値が最低値なのは事実です。ただ今の戦闘で微量に変化が起きたのを確認しました』

 

『おや、そうなのですか? では、問題は在りませんね。逆に幸運と考えましょう。何せその分野は白野さんの得意分野なのですから、窮地を乗り越えて成長してくれる事をボクは確信していますよ』

 

 そう告げると共に通信が途切れ、ブラックと白野は顔を見合わせるのだった。

 

 

 

サクラ迷宮/一層通路。

 

記憶が曖昧な私よりレオの方が岸波白野を詳しいのは変な気分になる。

しかし、立ち止まっている訳にも行かない。確かに現状のブラックの状態は最低値なのかもしれないが、それは私にも言える事だ。

私もブラックと同じように、今の私と『聖杯戦争』を経験した〝私”が一致していない。先ほどエネミーに襲い掛かれた時、私は無意識にエネミーを攻撃しようと手を伸ばしていた。攻撃する手段など無いのに、私はブラックに指示を出すよりも〝何か”をしようとしたのだ。

 

今、私に出来る事はとにかくブラックに魔力を回し、有利になりそうな指示を出す事だけ。そしてブラックと同じように積極的にエネミーとの戦闘を行ない、経験を積み直して行く事だ。

 

決意を新たに私はブラックと共に迷宮の奥へと進んで行く。

 

先に進んで行くと同じタイプ球状のエネミーが襲い掛かって来た。

同タイプで在る上に、攻撃パターンも読み易いのでブラックと共に倒せては居るが、やはりそれでも一体を倒すのに時間が掛かってしまう。

 

このままでは不味いと感じながら先へと進んでいると、堅固な扉が道を塞いでいる場所に辿り着く。

扉の向こうにもアリーナは続いているようだが、扉が在る限り先へと進めそうには無い。そう考えていると、レオから通信が届く。

 

『見た事のない扉ですね。材質はブラックアイス型防壁のようですが、セキュリティレベルは……(スター)? サクラ、何ですか、この(スター)と言うセキュリティのレベルの記号は?』

 

『わ、私も初めて見ました。セキュリティレベルの段階はサーヴァントのパラメーターと同じものです。最も強いレベルはAで、弱いものはE。例外としてEXは在りますけど、(スター)なんてカテゴリーは在りません。とにかく映像からスキャニングして……うそ、計測、不能? 数値として表すことが出来ない!?』

 

桜の悲鳴染みた驚きの声が通信機から聞こえて来る。

どうやら、ムーンセルのAIである彼女から見ても、目の前の扉は常識外のもののようだ。

一体この扉の正体は何なのかと私が考えていると、周囲を警戒していたブラックが私の前に立って身構える。

 

「…何か来るぞ?」

 

「えっ?」

 

『岸波。サーヴァントの言う通りだ。お前の周囲の霊子(りょうし)が大きく揺らいで……』

 

砂嵐のような雑音が通信を掻き消し、生徒会室からの声が途切れた。

突然事態に私が慌てていると……

 

『其処までよ、三流マスターとその下僕。素寒貧のクセに、人の心をマジマジと見ないでくださる?』

 

突然の声に慌てて周囲を見回すが、誰の姿も見えない。

今の声からは何処から聞こえて来たのかと考えていると、扉を見ていたブラックが鋭い声を出す。

 

「前を見ろ!!」

 

私が扉に目を向けると共に、強固な筈の扉を素通りして黒い髪をツインテールにした赤い服の女性が姿を現した。

 

「ようこそ、私の城へ。これっぽっちも嬉しくないけど歓迎してあげるわ」

 

「血の匂いで溢れる場所が自分の城だと? 一体貴様は何者だ?」

 

「あら、それは貴方の背後に居る三流マスターがご存知の筈よ」

 

現れた女性の指摘にブラックが私に目を向けて来る。

そして私は頷く。彼女の姿を見て思い出した。

 

彼女の名前は『遠坂凛(とおさかりん)

『聖杯戦争』に参加したマスターの一人で、優勝候補の一角だった私とは比べる事など出来ないほどの実力ある凄腕魔術師だ。

 

しかし、今の口ぶりでは、まるで彼女が、この迷宮の主のような?

 

「まるでじゃないわ。正しくよ。相変わらず気の抜けた娘ね」

 

「その評価には同意するところは在るが、貴様はそれ以上だな。これほど血と死臭で溢れた場所の主を名乗っているはどう言う意味だ?」

 

「そのままの意味よ。私はこの迷宮の主にして、ムーンセルの新たな支配者。そう、しぶとく生き残っている貴方達を管理・支配する月の女王様とお呼びなさい!!!」

 

「……呆れて何も言えん。おい、本当に此奴はお前の知り合いなのか? 一体どう言う経緯で知り合った?」

 

何時になくブラックは呆れているようだ。

それでも戦闘態勢を解いてないのが流石なのかもしれないが、それよりも、凛が月の女王だって?

しかも、管理・支配すると言った?

 

「貴女達の考えなんてお見通しよ。月の裏側から出たいんでしょう? だから、唯一表に繋がっているこの迷宮にやって来た。だけど、ざんねーんね。絶対に出してあげないから。それとも死にたくて此処に来たのかしら? なら私が此処で頂いてもOKよね?」

 

……信じたくない気持ちで胸が溢れていた。

記憶が曖昧なのにも関わらず、私は凛の言動に酷くショックを受けている。

 

彼女は確かに実力主義だったが、同時に清廉潔白だった筈。

凛は誰よりも頼りになったライバルだと、私の心が告げている。そんな彼女が、何故あんな、冷たい空気を纏っているのか。

 

「……この女……何だ? 何か違和感を強く感じる……いや、僅かに感じる気配に俺は覚えが在る?」

 

? 何故かブラックも訝しげに凛を見つめていた。

ブラックは凛とは初対面の筈なのに、それでも何かを感じ取ったのか?

しかし、訝しげに見つめられているにも関わらず凛は、話を続ける。

 

「ほんと、アンタ達って馬鹿なんだから。大人しく校舎に隠れてれば良いのに、ノコノコと亀みたいにやって来たんだもの。まさにカモがネギに背負ってやって来たカモネギね。この領域に入って来たモノは私達の所有物よ。絶対にビタ一文見逃さないから覚悟しなさい!」

 

凛はぺろりと舌で唇を舐めながら、威嚇するように片腕を掲げた。

其処に在るのはマスターの証である『令呪』ッ!?

 

凛は本気だ!?

 

「ほう、貴様もサーヴァントを連れていたのか。となれば、来るか!」

 

「ご名答! さぁ、出番よランサー!!」

 

凛の呼び掛けに応じるように光が溢れる。

そして光が消えた後には、フリルのついたドレスを来た赤い髪の少女が凛の前には立っていた。

その少女には異形の尻尾が腰から伸び、頭部には角が頭に二本生えていた。

 

……アレがランサー?

記憶では確かに凛のサーヴァントのクラスはランサーだが、あの赤い髪の少女では無かったような気がする。

しかし、彼女がサーヴァントでは在る事は間違いない。サーヴァント特有の気配を発しているし、何よりもブラックが何時戦闘を始まっても動けるように身構えている。

 

「…この迷宮の血と死臭の主は奴か。しかもこの気配……どうやら真っ当な英霊では無く、反英霊の類のようだ。厄介だな」

 

「ふふん……良いじゃない。気に入ったわ。これが今回のエクセレントなメインディッシュと言う訳ね。丁度退屈な生贄にも飽きて来たところだし、良い声を聞かせてくれそうね。其処のブタ。名前を名乗りなさい?」

 

ぶ、ブタ……ッ!?

 

考えたくはないが、それは此方の事を言っているのか!?

しかし、ランサーは明らかに私を指さしていた。

 

「ブタをブタと呼んで何がいけないの? 寧ろ誇りに思いなさい。ほら、早く。ぶひぃぃぃぃって鳴いて。鳴きなさい。鳴けってば。鳴いてください。鳴かないの?」

 

……何故かランサーの言葉は最後の方では懇願するような声音になって居た。

 

「……嘘。どう言う事よ……この世界なら、何でも私の思い通りになるって言っていたのに!! 話が違うじゃないマネージャーー!!! あぁもう!! 頭痛が止まらないじゃないの!!」

 

赤い髪のランサーが自分の髪を掻き毟りだした。

 

言っている事は無茶苦茶だが、ランサーの瞳は狂気に満ちている。

未熟な私でも、あの赤い髪のランサーが何人ものサーヴァントを倒して来た事は感じ取れる。

 

恐らく私を護るように前に立っているブラックならば、より克明にランサーからただよう血の匂いと狂気を感知しているだろう。現に錯乱しているランサーを見ても、ブラックは一瞬たりとも警戒を緩めていない。寧ろ警戒心を強めているぐらいだ。

 

私も警戒しながら見ていると、錯乱して髪を掻き乱しているランサーに凛が声を掛ける。

 

「ちょっとランサー。落ち着いて。たまたまよ。あいつ等が貴女の言う事を聞かないのはたまたま。って言うか、貴女の槍でブッ刺せば全て解決よ。誰だって鳴くもの、物理的にね」

 

「………そ、そうだったわ。流石ね、リン。貴女のそういう切れるところ、味方ながら恐ろしいわ」

 

「それはこっちのセリフよランサー。本当はバーサーカー何じゃないかって疑うぐらい、頼もしい癇癪持ちだし」

 

「ふふふ、褒めてもお金は上げないわよ、リン」

 

「うふふふ。そっちこそ、今日もめいっぱいただ働きして貰うわ」

 

「フフ………あはははははははははっ!! その切り返し、サイコー!! 楽しいわね、リン!!」

 

「えぇ、株で大失敗した時ぐらい楽しいわ!! あはははははははははははははっ!!!」

 

「……一先ず帰るぞ。今のこいつらを見ていたら、警戒していた俺が馬鹿らしく思えて来た」

 

ハッ!?

ブラックに指摘されて、呆気にとられて固まっていた私は正気に戻った。

 

正直何もかも見なかったフリをして立ち去りたいのは事実だ。

今は凛と一緒に漫才をやっているが、あのサーヴァントが発する気配と殺気は本物だ。

 

相手の能力も正体も不明。加えて私達の能力は最低値。

此処は三十六計なんとやらで、一時撤退しよう。

その上、嘘のように信じられない話だが、凛とランサーは高笑いに夢中で此方の行動に全く気を払っていない。

 

……そろり、そろりと後退し、十分に距離をとって、一気に来た道を戻って走り去る!

 

「あはははは……って、あれ? ランサー、カモネギは? もしかしてもう倒しちゃった?」

 

「は? 私、一歩も動いていないわよ? ……………って。いないわね。リン。貴女、バカじゃないの?」

 

「あ、アンタにだけは言われたくないわよ!!」

 

……後方から凛とランサーの声が聞こえて来るが、私とブラックは構わずに旧校舎に戻る為に階段に向かって走り続ける。

 

しかし、新たに二つの謎が出来てしまった。

行く手を阻む堅固な扉と、記憶と違う性格が豹変した遠坂凛。

一体彼女の身に何が起きたのだろう? 

 

新たな謎に疑問を抱きながら、私とブラックは階段を駆けあがり、旧校舎に戻るのだった。

 

 

 

サクラ迷宮/????

 

 旧校舎に戻る為の階段を駆け上る白野とブラックを、遠くに在る尖塔の頂から見つめる二つの影が在った。

 その片割れである女性は吹き荒れる風によって着ている白衣を棚引かせながら、ジッとブラックの背を困ったように見つめていた。

 

「……う~ん? どうも私が送った人間の姿に、余計なプログラムが紛れ込んでしまったようですね」

 

「それって、どんなプログラムなの?」

 

 もう片方、女性と共にいるサーヴァントが、尖塔の橋の方に座りながら女性に質問した。

 

「見た感じ、能力の初期化プログラムっぽいです。まぁ、問題は無いでしょう」

 

「いや、問題あると思うんだけど。だって、今の戦いを見てもかなり危なくなかった? ボク、見ていてハラハラしたよ」

 

「フッ、分かっていないですね、ランサー。今のブラックは〝寝惚けて”居るんですよ」

 

「へっ?」

 

「長い間、虚無空間の中に居て刺激された事で起きたようですけど…肝心要の部分が眠ったままのようですね」

 

 女性はブラックと言う存在を良く知っている。

 故に現在のブラックは完全には目覚めておらず、寝惚けたまま動いている状態にしか見えなかった。

 本来のブラックならば、どれだけ呆れ返っていても退くと言う選択はしない。

 

「……まぁ、遠からず目覚めるでしょう」

 

 『暴竜』は眠っている。

 だが、何よりも求めているモノがマジかに在るのだ。必ず目覚める。

 その〝餌”として遠坂凛と一緒に居るランサーは最高だった。何せ少なからず〝竜の血”を宿しているのだから。加えてあのランサーの実力はかなりのもの。これ以上に無いほどに『暴竜』が目覚める要素が揃って来ている。後は切欠だけなのだ。

 

(楽しみですね。また、あのブラックの戦いが見られるなんて……あぁ、楽しみですよ)

 

 遠からず目覚める『暴竜』の事を思いながら、女性とサーヴァントは誰にも気が付かれる事無く再びその姿を消したのだった。




今の所のブラックのステータスです。

【クラス】なし
【マスター】岸波白野
【真名】ブラックウォーグレイモン
【性別】男性
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷:E 魔力:E 幸運E
【スキル】心眼A→E
【宝具】使用不可

詳細は一章終わった後に書きますが、現在のところはこんな感じです。
今のブラックは技関係は全て使用不可で、ドラモンキラーも《竜殺し》の概念を失い、戦闘経験も体が思うように動かないので、ランクが最低値に下がってしまっています。因みに『宝具』はアレです。

次回はブラックが自身について白野に語ります。

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