Fate/EXTRA BLACK   作:ゼクス

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初めての一人称。
こんな形で良いのか悩みましたが、書いてみました。


プロローグ 少女と漆黒の出会い

2032年/????

 

落ちる。

 

落ちる。

 

果てのない闇の中に落ちて行く。

落ちていくのはその身だけではない。持ち物だけではなく、自分の記憶も抜け落ちて行く。

 

青い髪の自意識過剰な少年。

大樹を思わせるような厳格な老人。

幼く白いゴスロリ衣装を着た白い可愛らしい少女。

騒がしく叫ぶ屈強な修行僧の男。

黒いコートを着た鋭利な刃を思わせる青年。

赤い制服を着たまるで太陽を思わせるような少年。

長い黒い髪をツインテールにしている世話焼きな少女。

エキゾチックな雰囲気を放つ褐色肌の紫色の髪の少女。

 

彼らとの出会いの記憶も。

 

二丁拳銃を使い世界一周を成し遂げた星の開拓者の女丈夫。

緑のマントを羽織った猛毒を含む矢を扱う圧政者に抵抗した反逆者。

黒いゴスロリ衣装を纏い、主と同じ容姿をした奇跡の少女の物語を担う役者。

英霊と言う枠に当て嵌まらない星の創り上げた最強の真祖。

中国史上最強と呼ばれた拳法家。

 

超越した存在達との戦いの記憶も。

直前に過ごしていた筈の日常らしき日々の記憶も闇の中に抜け落ちて行く。

 

自己のイメージも削げ落とされて行く。このままではいずれ骨すらも残らずに闇の中に落ちて行く。

きっと何処かで選択を早まった。誤った。間違ってしまった。

――ゲームオーバー。そんな言葉が脳裏を過ぎる。

だが、もはや後悔しても自分を罵倒しても遅い。例え後悔に駆られて顔を手で塞いで涙しても、もう選択の時は過ぎ去ってしまったのだから。

何もかもが無意味でしかない。

 

落ちる。

 

落ちる。

 

更に闇の奥底へと落ちて行く。

変化の無い外界に長い間過ごした事で、身体機能は失われて行く。

最初に失ったのは両手足の感覚。無重力化に在った手足は麻痺、或いは退化してしまったのか思うように動かなくなった。

 

次に失ったのは視力。眼球は光を忘れて機能を失った。

 

そして外界の情報を得る術が無くなった事によって心は緩やかに閉鎖して行く。

『永遠にこのままではないのか』、と不安が心を壊していく。

いっそ壊れてしまいたいとさえ、思ってしまう。

 

……けれど。

 

何かが心の底でまだ消えず、冷めない火種が在った。

自分でも不思議と笑ってしまう。この絶望的な状況で過ごしていながら、一縷の希望を抱いているのか、火種は消えずに残っている。

 

更に時は過ぎ、暗黒の奥底に落下していく。

手足は石になってしまったのか動く事はなく、冷え切ってしまっている。

それだけではなく心も思考も、氷のように冷え切り停止した。

 

通り過ぎる。

 

通り過ぎる。

 

希望など無いと言うように、通り過ぎて行く。

 

……終わりにしたい。

 

氷のように冷え切った思考が脳裏を過ぎる

〝何もない”責め苦は充分に受けた。永遠にこの責め苦を味わう気にはなれない。

未練がましく続けている独白を止めよう。そうすれば苦しみから解放される。

 

さあ。ただ一言、動かない唇を無理にでも動かして呟けばいい。

 

『完』と。

 

そうすれば解放される。〝何もない”地獄の責め苦から。

口を動かせ、苦しみから解放される為に。

 

……でも。

 

終わりたがる自分を止めるように、何かが引っかかった。

意識を向けてみれば、それは小さな火種だった。何もかもが冷え切った自身の中で唯一、火種だけは冷え切らずに残っていた。

捨てて楽になりたい。なのに捨てる事は出来ない。

 

面倒だ。

 

面倒だ。

 

ならば、捨てられないのならばいっそ使ってしまおう。

希望と言う名の火種。だからこそ、自分の中に残ってしまっている。

だが、火種だからこそ一度燃やせばすぐに消え去ってくれる。

今度こそ本当に空っぽになって、〝何もない”責め苦から解放される。

 

さあ。

終わらせる為に動かそうと口を火種を使う為に使おう。

 

「……れない」

 

えっ?

 

「忘れない」

 

何を火種は言っている?

自分さえ忘れてしまったのに、一体何を言っている。

第一、何を忘れないと言っている。そんな無意味な事をしたところで何も変わらないと言うのに。

そう、何も変わる訳が………

 

『……面白い。貴様は面白いなッ!!』

 

……ッ!?

今、確かに声が聞こえた。

〝何もない”筈の空間に響くほどに、愉快さに満ち溢れた声が。

だが、同時にその声から感じたのは自身を覆い尽くしていた冷たさとは別種の冷たさ。

『恐怖』。ただの声を聞いただけなのに、『恐怖』が全身を覆っていく。

 

『この空間に呑み込まれれば、普通ならば何もかも呑み込まれる筈なのに、己を失いながらも『忘れない』とほざけるとは……面白い』

 

声の主は、何が理由なのか分からないが、此方の事など構わずに愉快そうに呟いている。

正体は分からない。聴力は取り戻したが、今だ光は取り戻せていない。

もしや声の主を認識すれば暗黒から抜け出せるのではないかと、解き放った火が、熱が、目を開けさせようとする。

 

『良く聞け。この空間から脱出する方法が在る』

 

っ……!?

この暗黒から脱出する方法。それは何よりも自身が欲していたもの。

ソレを声の主は在ると告げた。一体その方法は!?

 

『だが、俺と貴様が一緒に脱出する為には力が足りん。だから、力を貸せ。貴様にはそれが宿っている筈だ。『聖杯戦争』に参加しているマスター(・・・・)で在る貴様にはな』

 

力を貸す!?

声の主は私に力を貸せと言う。だが、一体何を? 自分には力など無い。

しかし、声の主は確かに言った。

 

『貴様にはそれが宿っている筈だ。『聖杯戦争』に参加しているマスター(・・・・)で在る貴様にはな』と。

 

……思い出す。『聖杯戦争』と言う単語で思い出した。

確かに自分には力が在った。心の奥底に在った火種が示していた一縷の希望。

『サーヴァント』と言う超越した存在を従える力を持った、『令呪』と言う三つの力の結晶を。

 

どうせ声の主が告げる方法に頼る以外に自分には方法無い。

ならば、いっそ全て使ってしまおう。

 

「――マスターとして、命じるッ! この空間から脱出させて!!」

 

叫ぶと共に左手の甲から熱が消えて行くのを感じる。

残されていた一縷の希望が、何処かへと流れて行くの感じた。

何かと繋がった。切る事が叶わない何かが、声の主と自身との間に繋がるのを確かに感じた。

 

『ほう、まさか令呪全てを使うとはな。忘れているのか。それとも形振り構っていないのかは分からんが、まぁ、良い。充分過ぎる力だ!』

 

一瞬だった。

衝撃を感じたと同時に先が見通せなかった暗黒は崩壊し、輝く星空の光が視界に入った。

懐かしささえ感じる星の輝きを見上げる。

満天に輝く星の輝きに見惚れてしまう。だが、すぐに暗黒から脱出させた主を探す為に周囲を見回す。

正体は分からないが、一先ずは助けてくれた礼を言わねばならない。

そう思って見回し、〝闇”を見つけた。

 

星の輝きを呑み込むほどに暗い漆黒の体。

金色の髪と瞳。星の輝きによって鈍く光る銀色の頭部の兜と鎧を纏っている。

両腕は肘まで覆う手甲の先に、三本の鍵爪の様な刃が備わっている。

体躯はとても大きく、三メートル近かった。だが、そんな事は何よりも重要なのは相手は人間などではない。

『竜人』。そう表現するのが相応しい相手だった。

 

これは不味い。

自分は解き放ってはいけない何かを解き放ってしまった。

この存在を自由好き勝手に暴れさせる事だけはさせてはならない!

 

「さて、道は出来た。どうやら俺が知らん間に、裏側も様変わりしているようだ。さっさと脱出するぞ」

 

へっ?

 

強い決意と使命感のようなものを抱こうとしていた私に構わず、『漆黒の竜人』が襟首を掴んで来た。

いきなりの事で反応が遅れてしまい、物みたいに扱われている事実に文句を言おうとする

だが、構わずに『漆黒の竜人』は星の輝きが満ちる空へと舞い上がる。

 

衝撃を感じる。比喩でも何でもなく、体が千切れそうになるほどの衝撃。

高速で移動しているのか、息をするのも苦しい。その上、相手はこっちの状況など気にしていない。

意識が薄れて行く。いや、寧ろこの衝撃を感じ続けるよりは、気絶した方がマシだとさえ思える。

 

「貴様には借りが出来た。だから、貴様が望めば力を貸してやる。良く覚えておけ。俺の名は………『ブラック』と呼べ」

 

だったら、お願いします。

 

どうか、少しでも私を気遣ってスピードを落として下さい。

 

そう、心の中で願うが相手に届く事はなく、意識は遠退き、私、岸波(きしなみ) 白野(はくの)は気絶した。




因みにはくのんは気が付いていませんが、これでもかなりブラックは優しくしています。

本当のブラックだったら、はくのんが感じている十倍のスピードで移動していますので。

この作品のブラックのステータスとスキルは、一章ごとに更新して行きます。

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