Fate/EXTRA BLACK   作:ゼクス

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長らくお待たせいたしました。
気がつけば半年以上と更新を待っていた皆さん、申し訳ありませんでした。


2-1 太陽

気が付けば私は何処かの崖の間に立っていた。

何となく周りを見渡せば、自らのサーヴァントである漆黒の竜人が何処かを目指して歩いている。

 

一体何を目指しているのかと漆黒の竜人を見つめ、フッと違和感を覚えた。

確かに姿形は私が知っている漆黒の竜人。だが、決定的に違う点に気が付いた。それは瞳の輝き。

不敵なまでに力強い意思が篭っているはずの黄金の瞳が、虚ろな赤い輝きに溢れている。

 

一体何がどうなっているのかと疑問に思うが、漆黒の竜人は先へと進み、その先に巨大な菱形の形をした空中に浮かぶ石を在る事に気が付く。

どうやらアレが目的だと私は悟る。それから先はまるで先送りのように光景が進み、所々ボヤけたように光景が薄れる。だが、漆黒の竜人を止めようとする者達は見えた。

 

まだ、小学生ぐらいの子供が数名と漆黒の竜人とは違う蟲と竜が合わさったような竜人、アンキロザウルスと言う恐竜に似た生物が立ち塞がる。

しかし、漆黒の竜人は止まらず、更に包帯に包まれたミイラ男のような生物と蜘蛛のような生物も現れる。どうやら漆黒の竜人を援護しようとしているらしい。

 

一体何が起こっているのかさっぱり私には分からないが、もしかしたらこれは夢と言う形で漆黒の竜人の過去を垣間見ているのかもしれない。あの謎多き漆黒の竜人の過去は一体どのようなものだったのか気になる。

もっと集中してみようと思った瞬間。

 

『■■■■■■■■■■■■■■ッ!?』

 

ッ!?

それは余りにも絶望と悲しみに満ちた嘆きの咆哮だった。一瞬本当にあの漆黒の竜人が上げたのかと疑問が溢れるが、本当にあの漆黒の竜人が上げたのだと分かった。

私は見た。先ほどまでの虚ろな赤い瞳でも、私が知る黄金の瞳でもない、虚ろで、絶望と悲しみ、そして全てを憎んでいると言わんばかりの黄金の瞳を宿した漆黒の竜人を最後に私は確かに見た。

 

 

 

 

 

旧校舎/マイルーム

 

気が付けば私は、まだ見慣れない木目の天井を見ていた。

どうやら先ほどまで見ていた光景は、やはりブラックの過去の光景。マスターは契約したサーヴァントの過去を夢として見ることが在る。どうやらサクラ迷宮から戻ってきてベットで眠っていたらしい。

 

体を起こして部屋を見回し、壁に寄りかかっているであろうブラックに目を向け、一瞬困惑した。

壁に寄りかかっているブラックの周りには、数十冊もの本が積み重なり、その一冊を読んでいた。

 

「起きたか?」

 

……起きたけど、その本の数々は一体何なのだろうか?

確か寝る前にはそんな本は無かった筈なのだが?

 

「貴様が寝ている間に図書室から持ってきた。敵のサーヴァントの情報を得る為だと言ったら、他の連中は納得してくれたぞ」

 

なるほど。確かに敵のサーヴァントの情報を得る為に行動するのは間違っていない。

覚えてはいないが、恐らく私も表の『聖杯戦争』に参加していた時は敵のサーヴァントの情報を集めていただろう。

それで、何か分かったのだろうか?

 

「あの赤いランサーの正体は恐らく、『エリザベート・バートリー』だ。貴族の出身で血を大量に集め、拷問に秀でた反英雄。いや、奴の場合は反英雄ですらないな。何せ戦いではなく、生前の行いは権力を利用した大量殺戮。自らの若さと美しさの為に大量の血を集める為に数え切れんほどの人間を殺したらしいからな」

 

そう言いながら、ブラックは私に手に持っていた一冊の本を差し出した。

どうやらその本にあの赤いランサー、『エリザベート・バートリー』に関する詳細が書かれているらしい。

 

「だが、幾ら調べても奴の宝具に関しては全く分からん」

 

ん? それは一体どういう事だろうか?

真名も把握したとなれば、当然あのランサーの宝具も分かる筈。なのに調べても分からないと言うのは変な話である。

 

「奴の逸話の中に槍に関する逸話が殆どない。血を抜く時に串刺しにして血を抜いたと言う話は在るが、それが理由でランサーのクラスとして呼ばれるのはどうにも違和感が在る。奴の伝承を考えれば、陣地形成でキャスター、或いはバーサーカー辺りなら違和感を覚えないが、ランサーとして呼ばれているせいで宝具が分からん」

 

言われて私も渡された本をペラペラとめくって読んでみる。

確かにエリザベート・バートリーの伝承に槍を使って戦ったという伝承は無い。なるほど。これが宝具が分からないという事も納得出来る。

 

「考えられるとすれば後世の伝承によって発生した何かしらが宝具化している可能性だが、これではもはや奴が宝具を使わん限り分からん。まぁ、何れ本格的に戦った時にでも分かるだろう」

 

そう言うと共にブラックは霊体化して消えた。

……とにかく、生徒会室に向かってレオ達に会いに行こう。

私はそう考えながら手に持っていた本を他の本と一緒に置こうとして気が付く。ブラックが読んでいた本はあの赤いランサーに関する物だけではない。

 

『アーサー王に関する伝承』。『マハーバーラタ』など、エリザベート・バートリーとは関係ない別の本が在った。

 

 

 

 

 

 

旧校舎/生徒会室

 

「おはようございます、白野さん。よく眠れましたか?」

 

椅子に座っているレオ、桜、ガウェイン、ユリウスに返事を返しながら、私は椅子に向かい合うように座る。

 

「さて、今後の話を始めるとしましょう。昨日の戦闘によって迷宮を閉ざしていたシールドは破壊されましたが、奥には更なる迷宮が広がっていると見て間違いないでしょう。そしてミス遠坂の四分の一(クォーター)と言う発言と桜の分析の結果、最低でも迷宮は後三層あると考えて良いでしょう。それと兄さん、報告をお願いします」

 

「岸波が休んでいる間に解放された一階層を調べたが、エネミーが出現しなくなった以外変わった事は無い。また、例の拷問塔に囚われている者達はそのままだ」

 

どうやら私が休んでいる間にもレオ達は動いていたようだ。

しかし、サーヴァントを連れていないユリウスが迷宮内部を調べるのは危険では無いのだろうか?

 

「兄さんに関しては心配しなくても大丈夫です。事前に桜が調べてエネミーの出現が無くなった事は確認しましたし、兄さんの隠形はそう簡単に見抜けません。それに、そうまでして捜索しなければならない相手が迷宮には居ます」

 

……一体誰だろうか?

危険を犯してまで探さないといけない相手とは一体?

 

「白野さん? 覚えていませんか。貴女がミス遠坂のサーヴァントのランサーと戦闘になる前、あのランサーはどういう訳か膝から下を失った状態で床に倒れていました。僕らは当然関係は在りません。となれば、迷宮内部にはサーヴァントを連れた無事な生存者が居るという事になります」

 

ッ!? そうだ! 確かにサーヴァントに対抗出来るのはサーヴァントだけ!

あのランサーの膝下を失わせたサーヴァントが迷宮の何処かに居る。戦力が今は少しでも欲しい。

レオ達が危険を覚悟して迷宮に潜った事に納得出来る。

 

「だが、それらしい相手を発見する事は出来なかった」

 

「この旧校舎に避難したと思って確認もしましたけれど、ユリウスさん以外に迷宮から出入りした人物は居ません」

 

「つまり、あのランサーを追い込んだ相手の正体は以前不明のまま。或いは既に倒されてしまった可能性も在ります。謎の相手に対して期待は出来ないと考えて僕らは行動すべきです」

 

レオの言う事に私は頷く。

確かに謎の相手が見つかって協力してくれれば心強いが、正体が分からない相手に期待するのは危険でもある。謎の相手はとりあえずおいて、私達は私達で行動すべきだ。

 

「それで次はミス遠坂に関してですが、現在の調べで判明していることから見てどうやら僕らが予想していた以上に厄介なようです。サクラの調べによってあの四分の一(クォーター)はAクラスのマスター性能を持っていると判明しました」

 

四分の一(クォーター)で在りながら、それほどの性能を有しているという事は本体の凛さんがどれだけ強力なのかは簡単に逆算出来ます」

 

「現在のミス遠坂は『月の女王』と名乗ったのは伊達ではないほどに強大になっています。しかし、僕らはサクラ迷宮の奥へと進まなければなりません。何故なら」

 

「月の裏側から俺達を出さないと言っていた遠坂凛が迷宮を護っている。であるなら、迷宮が外に通じているという事になる」

 

「えぇ、兄さんの言う通り、それが論理的帰結と言うものです……問題は何故ミス遠坂がこのような凶行に及んだか。色々と不透明な点が在りますが、確かな事は現在の彼女は我々の知っている遠坂凛と違う、と言う事です」

 

その通りだ。私はレオの意見に同意して頷く。

 

……あの一層目に在った城の拷問室に広がっていた惨状。

 

凛があのような事をするとは私にはどうにも思えない。

 

「しかし、レオ。レディ・リンは合理主義者でもありました。今回の凶行はレオを打倒する為の行動かもしれません。マスター達から魔力を奪い、自らを強化する策だとも考えられます」

 

……ガウェインの意見には残念だけど、否定し切れない。

 

よく覚えてはいないが、遠坂凛は気持ちのいい人物で在ると同時に冷徹な魔術師でもあったはず。

本当に、全てを、プライドさえもかなぐり捨ててレオを倒そうと考えているならば確かに可能性は在る。

 

だけど、ガウェインの意見はただの〝もしも”に過ぎない。

 

その事を告げようと私は口を開こうとするが、私が口を開く前にブラックが隣に実体化する。

突然実体化したブラックに生徒会室に居る全員の視線が集まると、ブラックはガウェインを見ながら口を開く。

 

「貴様の意見は中々面白いが恐らく間違っているぞ」

 

「……その根拠は?」

 

「あの小娘。遠坂凛と言ったか? 俺は奴の事を良く知らないが、奴が現状で最優先に警戒しているとすれば、其処に座っている小僧よりもこっちの小娘の方だろう。奴が言っていただろう? 『放っておくと何時の間にか逆転するタイプ』だとな。それが分かっていながら見逃した。つまり、奴はプライドは捨てていない。それに既にあの拷問塔の本当の主は判明している」

 

「…そう言えば、貴公はレオから図書室の使用許可を貰っていましたね……まさか!? もうあのランサーの真名が判明したと!?」

 

「『エリザベート・バートリー』。それがあのランサーの真名に間違いはない。自分を特別視する高貴な者とほざき、その上、あの拷問塔で血が抜かれていた連中を良く観察してみたが、女どもを重点的に抜かれていた。生前の奴は男には拷問の類を行なったという情報は無く、女の生き血を好んでいたからな。男の方は痛めつけるだけと魔術回路は抜かれていたが、血なんぞ一切集めている様子は無かった」

 

こ、このサーヴァント!?

あの拷問室の惨状さえからもランサーの真名に繋がる手掛かりを掴んでいた!?

私を含めて誰もがただの拷問を好む行為としか思えなかったあの惨状からさえも、手掛かりをブラックは得ていた。

レオ達も唖然としてブラックを見つめている。

 

「無論命じた可能性は確かに残っているが、どうにもあの小娘とランサーとの間には通常とは違う関係に在るようだ」

 

「……恐ろしいほどの分析能力ですね。それにどうやら貴方はミス遠坂が今回の一連の事件の主犯と違うと確信しているようですが?」

 

「ほう……気が付いたか。なるほど、其処に居る太陽の騎士が王と認めるだけは在るマスターだな」

 

生徒会室の空気が重くなるのを感じる。

何か違う。昨日までのブラックは此処まで好戦的な気配は無かった。

やはり、あの時。エリザベート・バートリーに追い込まれた時に何かがブラックに起きている。

しかし、そんな空気を払拭するようにレオが口を開く。

 

「止めましょう。此処で争ったところで意味は無い。それに僕も貴方の意見は同意です。ミス遠坂に限ってあんな事をするとは無いと断言出来ます」

 

「それは何故でしょうか? 私には状況的にイーブンに思えますけど……」

 

「簡単ですよ。僕はある意味ではミス遠坂を誰よりも信じています。間違いなく、ミス遠坂は正気を失っている。ならば、正気に戻したい。それが今後の生徒会の方針です」

 

レオッ!

何故だろうか。胸に熱いものが込み上げて来る。

『聖杯戦争』でライバルだった凛を、こんなにも信頼していたなんて!

 

「……ですが、やはり現状の戦力では今後に不安が在るのも事実です……となれば用務員室に引き篭もっているジナコさんを引き摺り出しましょう」

 

『ブゥッ!! あわわ! 思わぬ展開にコーラーが布団に!?』

 

レオの発言と同時に、生徒会室内部に吹き出すような声が響いた。

どうやらジナコは用務員室から生徒会室の様子を見ていたらしい。

だけど、現状の旧校舎で戦力になりそうのは、サーヴァントを連れているジナコ以外に居ない。

 

「どうやら、話を聞いてようですね。白野さん。迎えに行って上げて下さい」

 

『嫌ッス! ジナコさんには関係ないッスから! 断固拒否するッス!!』

 

恐らく用務員室の扉をロックしているのだろう。

だが、今回ばかりは私もジナコを無理やりにでも連れ出す気持ちだった。現状の戦力では心許ないし、何よりも私は不安を抱いている。

この前の戦闘の後と先ほどのブラックの様子。あの時に感じた不安が私の胸に今も宿っている。その不安を少しでも晴らすために、私はジナコが居る用務員室へと向かう。

 

 

 

 

 

 

旧校舎/用務員室前

 

予想通り用務員室の扉は固く閉ざされている。

手を扉にかけてみるが、ビクともしない事から何重もロックしていると見て間違いない。

 

「ジナコ=カリギリ! 話がある! 此処を開けろ!!」

 

『断りッス!! ボクの事はほっといて欲しいッス!』

 

扉の向こう側から私の大声に負けないほどの声量でジナコの声が聞こえて来た。

 

『だいたい、外に出るとかバカげているし。表に戻ったりしたら殺し合いッスよ? 戻りたいと思うわけないじゃないッスか。その点此処は最高ッス。ネット環境とかバリバリ最速。地球の全ての娯楽を楽しめ、食事の必要も無し。此処は正にボクの楽園。此処で一生のんびり勝ち組を満喫するんで、そっちは勝手に殺し合いでもしていれば良いです!」

 

……ダメだ。全く話にならない。

生徒会室の様子を覗き見しているなら現状は把握出来ているはずなのだ。この旧校舎とて何時まで安全なのか分からないと言うのに。

 

一体どうすれば良いのかと頭を悩ませていると、ブラックが扉の前に立つ。

 

「そうか。貴様は戦う気は無いんだな?」

 

『当然ッスよ!!』

 

「なら、死ね(・・)

 

『へっ?』

 

……えっ!?

余りにも自然に発せられたブラックの声に、思わず私も唖然としてしまう。

そしてブラックは右腕を用務員室の扉に向けて全力で叩き付ける。

 

「フン!!」

 

激突音が響いた瞬間、用務員室の扉に張られていた何重ものロックは一撃の元に破壊された。

……唖然としている間に、ブラックは更に扉に向かって右足を振り抜き、扉を一撃の元に破壊して残骸を用務員室内部に吹き飛ばした。

その瞬間、私は悟った。ブラックは本気でジナコを殺す(・・)気なのだと。

 

「あわわわっ!!!」

 

布団にかぶってカタツムリのように丸くなっていたジナコも悟ったのか、ブラックを怯えながら見つめていた。

対するブラックには殺意も何もない。ジナコを見つめる瞳には何の感情も抱いていない。まるで目の前の足元に小石が在ったから退ける為に、足を動かすという行為をするだけだと言わんばかりの雰囲気だ。

そしてブラックの右手が動いた瞬間、私が止めようとする前に部屋に光が溢れた。

 

「其処までだ。流石にそれ以上の行ないは看過出来んぞ」

 

「チッ! 分からんな。貴様ほどの者がこんなモノに従っているのは?」

 

……なっ!?

光が消えると共に現れ、ブラックの右腕を押さえている相手に私は唖然とした。

 

黒と金の痩躯。穏やかさを宿しながらも槍のように鋭い眼光。

頭部は伸びるままにまかされた白髪に包まれ、硬く閉ざされた口元は、寡黙な性質を表している。

それだけではない。一体何時ブラックの腕を掴んだのか、私には全く分からなかった。

 

マスターとして未熟な私でも一目見ただけで分かる。

このジナコのサーヴァントは、レオのガウェインと同格か、或いはそれ以上の英霊であると!

 

「お前の目的は分かっている。ジナコを殺し、令呪を奪って俺を別のマスターと再契約させるつもりだな?」

 

「其処に居る奴にはいい加減我慢の限界だ。ソイツはどういう経緯で在れ、この月に来た。ならば、その時点でソイツは月での戦いの参加者だ」

 

「確かにその通りだ。しかし、悪いが俺はジナコ以外のマスターに着く気はない。それに貴様ほどの目が在る者ならば、もう分かっているだろう?」

 

「……やはり、そうか」

 

一体何を話しているのか、ブラックとジナコのサーヴァントは顔を見合わせながら話している。

だが、ブラックがジナコを殺そうとすればサーヴァントも動く事だけは私にも分かる。そして今のブラックでは目の前のサーヴァントには勝てないという事も何となく察した。

 

「……戻す気は無いようだな?」

 

「無論だ。見た目通りの生き物だがジナコはオレの主人だ。もしも手を出すならば、此方も手を出さねばならん。それはお前にとっても不本意な結末になるぞ」

 

「察しているのは俺だけでは無いか」

 

「前に来た時よりも目覚めて来ているようだが、完全では無いようだ。それでも戦うか?」

 

「……いや、止めておこう」

 

漸く互いに納得したのか、ブラックとジナコのサーヴァントは離れた。

会話の意味は全く分からないが、どうやらブラックはジナコを殺す気が無くなったようだ。

しかし、中心に居たであろうジナコは自らのサーヴァントの行為が気に入らないのか叫び出す。

 

「ちょっ! ちょっと『カルナ(・・・)』ッ!! そ、ソイツをさっさと追っ払ってよ!!」

 

「言われずとも貴様の前からは消えてやる。精々自分の立場を理解せずに、引き篭もり続けていろ」

 

ブラックは肩越しに告げると共に、用務員室から出て行った。

自らを脅かす脅威が去ったのかジナコは安堵の息を吐いている。私はそんなジナコから視線をそらし、改めてカルナと呼ばれたジナコのサーヴァントを見つめる。

 

「……此処は引いてくれると助かる。お前達の方が確かに正しい。ジナコの言い分は子供の我が儘に近いのは事実だ」

 

「ボクは子供じゃないッス! これでも立派なヤングアダルトッス!」

 

カルナの言葉にジナコは反論するが、当のカルナは私を見ている。

槍の鋭い瞳に宿っているのは誠実さに満ちた嘆願。

 

実際のところ、私はジナコの説得を諦めていた。

先ほどブラックに殺されかけて、尚ジナコは動かないのだ。これではサクラ迷宮に入って戦ってくれるなど期待出来る筈がない。

 

「礼を言う。協力は出来ないが、出来れば懲りずに来てほしい。その時はあのサーヴァントと離れて欲しいが、あちらも、もう此処には来ないだろう」

 

「ちょっ! 何勝手な事を言ってるんッス!? アンタはボクのお父さんッスか!」

 

「すまんが、年齢的に無理がある。弟と言う事にしておいてくれ」

 

「ッ!? 其処はお兄さんと言うべきでしょう!?」

 

全く話が噛み合っていない。

不思議な二人だ。明らかにジナコは自らのサーヴァントであるカルナを嫌っているが、険悪なムードは感じられない。

 

それはカルナがジナコの意見を尊重しているからだ。

 

取りあえずジナコの説得は不可能だと分かった。余り気は進まないが、ブラックと共にサクラ迷宮の更なる階層の探索に向かおう。

私は先に外に出たブラックを探そうと用務員室から出た。




近いうちにメインの小説も必ず上げます。
出来れば今しばらくお待ち下さい。

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