コジマ汚染レベルで脳が駄目な男のインフィニット・ストラトス   作:刃狐(旧アーマードこれ)

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遅れた理由:PS4版のサービス開始に託けてPSO2とかしてました。
キャラ3つ作ってSHのTA行けるぐらいにレべリングとかもしてましたメインキャラは3職カンストしました
それだけです、許しは請わん、恨めよ。


RUSTING STEEL 『錆び付いた鋼』

「あぁ、くそっ! 寒いったらねぇぜ、交代まであと何時間だ?」

 

凄まじい風の音と冷たい白く輝く粒が吹き荒ぶ中、目元さえもゴーグルで覆った完全防寒の男が、手袋に包まれた手をこすり合わせ、アサルトライフルを脇に挟みこみながら隣に立つ男へと尋ねた。

 

「あー…あと一時間ってところだな」

「冗談じゃねぇぜ! こんなクソみたいな所で突っ立ってるのをあと一時間!」

「本当にな、もう十秒だって待ってられねぇな! すぐにでもくたばっちまう!」

 

ハハ、と二人で笑ったのを最後にその言葉が現実となった。

ほぼ同時に二人の頭が熟れた石榴(ザクロ)のように弾け飛び、一面に広がる銀世界に赤色の模様を描く。

 

『仕留めた』

『いいわ、流石ね』

 

白の世界に突然、マークスマンライフルを手に持った白の人型が姿を現した、頭部の前面上部を起伏の無い球を切り取った様なバイザーで覆い、生身の一切露出しない装甲板と特殊な繊維で構成されたカモフラージュ機能の搭載された細身のバトルドレスだ。

 

『どこ、から入れる?』

『正門は論外、非常路も整備用の行路もダメ、となると排気孔かしら』

『排気孔なら場所はこっちだ、来な、シンイチロー』

 

続いて3人の人型が姿を現し、先頭を歩く人型に追随する、一つを除き大小の差はあれど皆同じ姿をしていた。

 

『……警戒が薄い、な』

 

その中の両足と左腕の形状が違う人型、信一郎がふと、何かに気づいたように呟く。

 

『そうか? 大体いつもこんなもんだぞ』

『周囲に生体反応も無い、何かがあるとは思えんが』

 

眼前のバイザーに投影されたレーダーを見てそう言ったマドカが「いいから行くぞ」と前進を促した。

 

『奴ら、簪を攫ったんだぞ、俺が、いや俺達カラードが気付かないとは思ってな、い筈だが』

 

そこまで馬鹿じゃない筈だ、と言外に込め背部にマウントしたラージウェポンを横へと移動させ、グリップを握りこむ、それを認識したマウントシステムがラージウェポンを離し右手に収まる。

 

『内部の情報に精通した私たちから言うと亡国機業は上から下までピンキリなのよ、そこまでの馬鹿が行動を起こしてたら奪還は簡単ね、でもそうじゃないなら、多少骨が折れるわ』

 

バイザーの機能をサーマルシステムに切り替え周囲の熱源に警戒しながらまるで滑るかのようになめらかに移動を開始する。

移動時間が5分にも満たない間に視界内に巨大な熱源を探知する、通常の視界に戻すと濛々と白い湯気を吐き出すガレージのような建造物を発見した。

 

『なんだこれは……隠す、気が無いのか…?』

『私達は場所を直接知ってたから呆れ返るけど上空から見たら衛星でも航空機でもISですら探知できないのよ?』

『警備も、監視カメラさえないのか』

『だから選んだのよ…さ、ここから降りるわよ、楽しい楽しいラペリングの時間ね』

 

堂々と鎮座している巨大な排気孔を覗き込んでなるほどと理解した、単純に下が見えないほど高いのだ。

人4人なら簡単に降りれるが大型の兵器ならば降りる事が出来ず、またISであるならば事前に高性能なレーダーに引っ掛かる、極めつけには人どころか鉄塊でさえ簡単に引き裂くであろう重厚な羽が送風の為に回っていた。

 

『あのギロチンを止め、る手段はあるのか?』

『無ぇな』

『でも途中で送電線を纏めてる縦穴に少し逃げればまたそのギロチンの下から降下できるわ』

『そいつは……いい』

 

そういいながら腰元にあるワイヤーで繋がれたアクセサリを引き出し地面へと当てると小さな空気の抜けるような音と何かが突き刺さるような音を立てて固定される。

全員が固定を完了したのを確認し一つ頷いた。

 

『先行を頼むぞ、レーグ』

『ええ、遅れないでね』

 

左手でワイヤーを掴みながらトン、と飛び降り、壁に直立するかのように足を着いた、それを追いかけるように信一郎、オーシェと続く、二人が壁に直立し、周囲を見回した後、最後の一人以外全員が上を見る。

 

『マドカ、どうした?』

『い、いや…その、な』

『ははぁ、もしかして怖いんだな? 高所恐怖症か?』

『ばっ、馬鹿を言え! 私はISの操縦者だぞ、高所恐怖症で乗れるものか! ただ、生身で降りるのかって思ったら、ちょっと……』

 

信一郎がレーグを見ると丁度レーグも信一郎に目線をよこしている最中だった。

 

『……他のルートは』

『どうあっても正面突破になるわ、あまりオススメは……』

『まっ、待て! 今行く! 私一人がウジウジして迷惑を掛ける訳にはいかん、行くぞ、行くぞ!』

 

まるで恐る恐ると言ったように両手でワイヤーを握りながらズルズルと降りてゆく、壁にようやく足を着け、両手でしっかりとワイヤーを握りながら腰を引かせながら周囲を見た。

 

『ふ、ふん、なんだ、簡単じゃないか』

『マドカ、あなたその体勢ってファストロープでもするつもり? 大丈夫よ、足裏がちゃんと壁に吸着するようになってるから、その体勢の方がかえって怖いわよ?』

『む、うむ、おぉ……』

『行くぞ、遅れるなよ』

 

その声とともに左手でワイヤーを確認しながら壁を駆け降りるように走り、瞬く間に横への移動ポイントへと到達、ワイヤーを一旦回収し、詰まることなく送電線を纏めた縦穴に入り込んだ。

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

「―――あぁ、そういや今頃カラードとIS委員会で戦争勃発だっけか?」

「そうだな、ちょうど今頃だ、なぁどっちが勝つと思う?」

「そりゃあ……ちょっと待ってくれ、定時連絡だ」

 

轟々と決して小さくない音を立てる巨大な排気孔のすぐ真下で待機する兵士二人が肩からSMGをぶら下げ、今日起きている話題で談笑していると無線のコール音が聞こえ、面倒くさそうに手に収まりきらない大きさの通信機をオンにした。

 

「こちらポイント、エコー8異常無しだ」

『了解、エコー8引き続き警備を続けろ、オーバー』

「なんでまたこんなローテクノロジーなのかねぇ、知ってるか? これ、数十年前の通信機なんだと」

「ローテクだからだろ、電波形式が非効率で古すぎるから傍受されないんだとさ」

 

通信機を軽く振り、でかくて邪魔だと愚痴を吐きながら胸のポケットに収める。

 

「で、さっきの続きだけどよ」

「あぁ、そんなの分かりきってるだろ? 勿論―――」

 

『カラードだ』

 

電子音の混ざった様な声が聞こえた瞬間脇、肋骨周辺に小さな衝撃を感じ、何が起こったのかを考える間もなく、否、認識する間さえ無く、その生涯を閉じた。

 

 

 

ずるりと肋骨の直ぐ下から左腕義手のブレードを引きずり出し、発熱機構により刃にどろりと付着した夥しい量の血液を一瞬で蒸発させ、左腕の内部に収める。

横を見ると、口を手で塞ぎ、胸にナイフを突き刺していたレーグがまさに今ずるりとナイフを引きずり出し、兵士を床に横たえさせていた。

 

『上手い物ね、彼、叫び声一つ、抵抗一つせずに死んだわよ、その刃物は毒でも塗った特別製なの?』

『肋骨下から横隔膜を突き刺し、引き裂いた、こうする事によって大抵ショック死する、ついでに声一つ上げる事が出来なくなるらしい、どうやらその通りだったらしいな』

『なんなんだお前は……本当に一企業の御曹司か?』

『さてな、もしかしたら俺は化物かもしれんぞ、ヒヒッ』

 

ハンドガンサイズのスモールウェポンを右手に握りこんだ信一郎が移動先に照準を向け、動くように促した。

 

『しばらくはこのまま進むぞ、ISなり特殊な機動兵器が出て、きたら各自ISとACを使用しろ』

『ふん、腕が鳴るな』

『ACでの実戦は初ね、上手く使いこなせるかしら』

『ISとそう変わらねえし大丈夫だろ、みっちり訓練はしたしな』

 

3人がサブマシンガンを構え、移動を開始しようとした瞬間、オーシェがマドカを手で制した。

 

『待て、マドカ』

『? どうした』

 

おもむろに腰へと装着していたショットガンを手に取り、マドカへと差し出す。

 

『お前はこいつだ』

『ショットガンか・・・いいだろう、弾は何だ? スラッグ? フレシェット? ドラゴンブレスか?』

暴徒鎮圧弾(ライオット)

暴徒鎮圧弾(ライオット)だと?! 非殺傷じゃないか、馬鹿にしているのか?!』

 

オーシェに詰め寄るマドカにヘルメットの中で小さな笑みを浮かべ、ヘルメット越しで乱暴に頭を撫でた。

 

『まぁ、それは冗談としてだ、いいか、今からマドカにスゲェ難しい事を頼む、でもお前なら絶対に出来る事だ』

『な、なんだ、改まって』

『お前は、お前だけは絶対に人を殺すなよ、それがどれだけ技術的にも難しい事なのかなんてお前も、私達も分かってる、けどな』

 

マドカが持つサブマシンガンにゆっくりと手を置いて、指を少しずつほどきながら優しくサブマシンガンを取り上げる。

 

『私達は、お前にはそれが出来る筈だと確信している』

 

手の空いた右手を行き場も無く揺らし、一度握りこんだマドカがゆっくりとオーシェに顔を向けた。

 

『証明して見せてくれ、マドカ』

『……わかった、やってみせる』

 

すまねぇな、時間取らせた、と振り向きながら信一郎に言ったオーシェに、ただ一つ頷き、先へ進むように指示を出す、小さな小さな笑いが、笑みが、口からこぼれるのを誰にも悟らせないように。

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

「いたぞ! こっち――」

「増援だ! 増援をよこせ、早くしろ!!」

 

一人、何らかの銃撃に近しい物で首を刎ね飛ばされ、遮蔽物へと隠れた兵士が無線機に絶叫に似た救援要請をする。

 

 

兵士達にとってそれは突然だった、数十分置きに行われる筈の定期連絡、ある地点の定期連絡が入らないと何人かの兵士に確認へと向かわせ、CPから通信で連絡を試みる、もしかしたら忘れてただけなのかもしれないと小さく考えながら。

通信は無事繋がる「すまない、話に夢中だった」ポイントで待機していた兵士の声だ、その言葉でやっぱりか、と言う思いと小さな安堵、そして多少の怒り、定期連絡を忘れるなど許されんぞ、CPの人間にとってはいつもの小さなお小言、本人も悪い癖だとは思っているが部下が許してはくれない、今回もそうだ等と心のうちでブツクサ考えながら説教を続ける。

そこで緊急通信が入る、先ほど送った部隊からだ、なにか良くない事が起こったのか、そう思い、現在の通信相手に一言切るぞ、と伝え緊急通信を受ける。

 

『指定ポイントの兵士が殺害されている! 侵入者だ!!』

 

性質の悪い悪戯だと思った、その通信兵と経った今まで喋っていたのだ、何かの間違いではないか、私はたった今までその兵士と喋っていたぞ、と。

 

『間違いなわけあるか!! 二人とも殺されてるし通信機も奪われている!!』

 

ならば、私が今まで喋っていたのは、誰だ?

直ぐに指示を出す、その場で待機しろ、警戒は怠るな、震える声でそう伝え、たった今まで話していた回線へと再度連絡する。

 

『こちらエコー8、どうした』

 

やはり間違いない、通信兵の声だ、震えた声のままで尋ねる、お前たちは今どこに居る?

直後、通信が切れ、ノイズだけが響く、そこに至ってようやく理解した、敵なのだと。

 

 

 

糞のような警備体制でも流石に長きに渡り表舞台に姿を現す事の無かった『悪の組織』と言う訳か、異常の発覚からの対処行動に移るまでは早く、また容赦も無い。

まだ発覚し、基地内部にうるさい程のアラームと放送が鳴り響いてから10分と経っていないだろうに重装甲兵や小型の無人兵器まで出てくる始末だ。

山の内部をくり抜いて作ったトンネルのような狭いポイントでは兵士による追撃が、広間のようなものがいくつか連なって出来ているような広くも無く、また狭くも無いポイントではドローンと兵士による追撃がある。

ここから情報が抜きとれるであろう中枢に行くまでには記憶が正しければドーム状の広い部屋を必ずいくつか通らざるを得ない上に確実に大型の兵器が待機しているだろうというのは元エージェントであるレーグには嫌と言うほど分かった。

正直勘弁してほしいとは思うが一刻を争う現状躊躇する訳にもいかず、彼女は珍しく嫌そうな顔を顔に浮かべた。

尤も、その珍しい彼女の表情は頭部全体を覆うヘルメットで見える事はないのだが。

 

それに心配事は他にもある、例えば二手に分かれた故にオーシェとマドカが大丈夫か、と言う心配事、そしてそれ以上に工具による攻撃を行う隣の青年、彼が思いのほか好戦的になってきている。

いや、好戦的と言うよりも残虐性が増している、確認する暇が無いと言えば聞こえはいいし確実性が欠けてきていると言えばそれまでだが過剰に攻撃を行い始めているのだ。

 

それに、気の所為でなければ………

 

「ひひ、ヒヒヒッ」

 

哂っている。

 

「天井ォ、破壊ィするゥゥゥ!!」

 

信一郎が音程のグチャグチャになった声と共に大型工具で天井を破壊し崩れ落ち、積もる瓦礫で道を塞ぎ、新たに武器を構えながら早足で移動を開始する。

 

「待ってちょうだい」

 

このまま進んでもいいが、レーグはそれに待ったをかける、一度、信一郎を落ち着かせる必要があった、到達速度を早める事は出来るだろう、だが彼女はそれ以上のデメリットが見えていた。

精神の死、良くて廃人、悪くて精神崩壊からの自己死、それも外的衝撃ではなく内部的衝撃による精神的な負担で、自殺ではない自己死、脳が今現在受けている苦痛を体を殺す事で終わらせようとするかもしれない。

空想、科学的根拠の無い妄言、だが、そんなものさえ有り得てしまうと勘が告げている。

だからこそ、少しでも和らげなければいけない。

 

「いったん隠れましょう」

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

「ねえ、貴方変よ? 一体何があったの」

 

雑多なゴミともそうでもないとも言える物体が所狭しと放置されている部屋でレーグはヘルメットを脱ぎ、同じようにヘルメットを外した信一郎の顔を覗き込む。

 

「あ、あァ……? あぁ、そうだな……」

 

ゆらりゆらりと浮かんだような返答にレーグは信一郎の目を見て、小さく動揺した。

 

「そ、そろそろ、しょ…正気を保てる自信が、ねェ……?」

 

瞳孔が、瞳の形がまるで溶けるように、蕩けるように崩れていた、最早その瞳には何も映せないであろう有様に、絶句した。

 

「目が、目がおか、おかしいんだ、い、色、色が分からねェ、かた…ちもコン、コントラストも変だ、色差が、メチャクチャ、で……でも見えるんだ、おかしいぐらい、はっきり」

「それ……目が……」

「まるで、まる…で、ブラウン管、の、テレビみたいだ、ノイズが、ひ、ヒヒ、ヒヒヒヒッ」

 

顔に深い笑みを張り付けながら小さく笑い、震えているのか歯がカチカチと音を立てる。

しかし、唐突にぴたりとそれが止まる、まるで時が止まったように表情が固まり、流れるようにヘルメットを装着し、首をぐるりと壁へ向けた。

 

「来る……何かァ、準備しろ」

 

その言葉にハッとしてヘルメットを装着し、武器を構える。

確かに、小さな振動が地面を走っている事がヘルメットから送られてくる情報で分かった、そしてヘルメットに搭載されたCPUで処理された情報が大きさと重さ、速度を伝え、予測行動が表示される、その行き先は。

 

「突っ込んでくるッ!」

 

飛び退くように回避した直後、壁をぶち抜き、そこらに放置された物を轢き潰し反対側の壁をもぶち抜いて急停止した。

そこが目的地だったのかと言えばそうではない事が分かる、巨大な砲塔を備えた機動戦闘車が信じられない程の砲塔旋回速度を持ってこちらにその砲口を向けたのだから。

 

一息つく間もなく即座に装甲車と同じ場所へと飛び込み入れ替わる様に砲弾が元いた部屋を吹き飛ばす。

爆風に煽られ、地を転がり、流れるように立ち上がり顔を上げ、レーグは即座に理解した、ただドーム状にだだっ広く、遮蔽物も何もない兵器試験場、叶う事なら入るのを避けたかった場所だ。

 

「流石に無理よ、ACを使ッ……!!」

 

再度、驚愕した。

 

「ヒィ、ヒィヒヒヒ、ヒィアハハハハハハハッ!!!!」

 

狂ったように笑いながら、機銃の掃射を身に受け、装甲で弾き、機動戦闘車へと肉薄している青年を見てしまったがゆえに。

何一つ障害など無かったと言わんばかりに跳び上がり、車両正面に脚を叩き付け、砲塔を左腕で抱え、なおも機銃の掃射を受けている彼を見てしまったがゆえに。

そして、そのまま機動戦闘車に火炎放射機による攻撃を行い、瞬く間に炎を纏わせたゆえに。

 

「ひ、引いて! その程度じゃ無駄よ! 断熱装甲が多少焼かれた程度で……!」

 

断熱装甲が多少焼かれた程度で、確かにそうだ、装甲が焼かれた程度でどうこうなる筈が無い、だがそれは装甲はという大きな面積を示す言葉でありそうでない部品、例えばそう、機動装甲車の特徴である「タイヤ」であるならばどうか。

 

くぐもった破裂音と共にそれは証明された、金属の溶接に使われる程の高温に耐えられる訳が無い。

一つのタイヤが破裂し、一つ、また一つと次々に破裂する。

だがそれは信一郎本人も同様、確実にその命を蝕んでいる筈だ。

 

遂に全てのタイヤが融解し、動く事が不可能となった時、信一郎は何を思ったのか車両のハッチを潰し、中の人間を閉じ込めた。

結果など分かりきっている、長時間燃え続ける粘性の高い燃料による炎はいずれ中を蒸し焼きにしてしまうだろうという事は。

機銃の爆発に吹き飛ばされ地面へと叩き付けられ、ただただ呵い続ける青年はきっとそんな事さえ思考できていないのだろう。

 

 

だからこそ、レーグは雷光を纏う長大な槍で一撃のもと車両を木端微塵に破壊した。

 

彼女をよく知る二人は彼女をこう証する「優しい人間だ」と。

優しいからこそ、手を出した、それは決して車両に乗る哀れな兵士の為ではない、ただ狂ったような笑いの裏に悲痛な叫び声を隠した青年の為に、少しでも苦痛を和らげるために。

 

「行きましょう、助けないと、簪ちゃんを」

「あ、あァ? あ、うん、うん、そう、そうだ、助け、簪、ひひ、いひひひ」

 

黄金の獅子を模した装甲を持つ特殊なACを纏うレーグはただ優しく信一郎を支え起こし、歯を食いしばった。

もう、限界なのかもしれない、いや、もう既に限界なんて超えてしまってるのかもしれない、表面が薄く融解した左腕と両脚を持つ前を歩く青年が、まるで鋼で出来た人形のように見えた。

それも錆び付き、軋んだ音を立て、歩くたびに歯車が零れ落ちる人形のように。

 

錆び付いた鋼の人形(DOLL OF RUSTING STEEL)

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

『私だ、こっちは問題ないが、そっちはどうなってる?』

「マドカ、こっちも進行上は問題ないわ、進行上はね」

 

通信より聞こえるマドカの声にACでの移動をしながら応える、彼女自身にも珍しいと思えるほど動揺した声が出る。

 

『何か、他の問題が発生したのか』

「………ちょっと待って」

 

視界内のHUDを思考操作し通信から信一郎を外し、再度通信を掛けた。

 

「一分一秒を争うわ、何ならすぐにでも任務を中断して彼を緊急治療室に押し込んだ方がいいと思えるぐらいにね」

『負傷したのか?』

「いいえ、精神的よ、もう彼まともに思考できてないわ」

『もともと不安定だったが、ここにきてか』

「一体何があったのか肉体的な物にも影響が出てる、目が融けてるの、もうまともに見えてるかどうかも怪しい」

 

目が融けている、およそ聞く筈の無い不穏な言葉にマドカとオーシェが息をのむ。

 

『ちょっと考えたんだけどよ、最悪の場合私とマドカで簪って娘を奪還してスコール、お前はシンイチロー連れて戻れるか』

「多分、できるならそれが最良ね、でも彼は絶対止まらない、それこそ化物になり果ててでも、ここで何もかもが砕けるまで戦い続けるわ、それと私はレーグよ」

『じゃあ、私達が必死こいて少しでも早く終わらせるしかねえか、そうだろマドカ』

『うむ、急ごう、黒騎士とてエネルギーが無限にある訳じゃないからな』

「そうね、急ぎましょう、オーバー」

 

かちっ、かちっ、何かを硬質な物を打ち付けるような音が響く、音に合わせてACを纏った信一郎の首が小さく小さく動く。

それは見える事こそないが、信一郎がただずっと歯を打ち付ける音だった。

 

「通信、終わったわ」

「そウか、どウだッた? もンだイがなイなら、このまま進もウとオもウが、どウだ?」

「ええ、行きましょう、次のドームが最後の筈だから、私に任せて頂戴」

「アア、頼りにさせて貰オウ」

 

先ほどよりもよっぽど冷静に受け答えこそしているが、音に現れる狂気は嫌でも理解させられる。

 

「……へンだな、何かがオかしイ、さッきのどーむヲ抜けてからなンのつイ撃も無イ」

「多分、次で一気に仕掛けてくるつもりね、もしくは、マドカとオーシェの方に行ってるか」

 

コォン、と特徴的な音を残し無駄とも言えるほどだだっ広い廊下を進む、シャッターをレーザーブレードで切り裂き、申し訳程度のバリケードを弾き飛ばす。

ふと、ブーストを緩めることなく進んでいたレーグがチラと一つのドアを見た。

頭部パーツ内部で目を細め、懐かしみを抱いた表情を一瞬だけ表し、それを振り切る様に視線を前へと向ける。

 

そこは、スコールと呼ばれていた女性にあてがわれた部屋だった。

 

「……見えたわ、行くわよ!」

「か、ふッ……」

 

ドームのシャッターを槍からの雷撃で吹き飛ばし、内部へと侵入する、そこにはまるで来るのを待っていたと言わんばかりに大量の兵器が並んでいた。

最短距離の強行突破を思案していたレーグが一風変わったドームの形状を見て舌打ちをする。

 

「IS及び対IS兵器実験用アリーナ……!!」

 

その言葉と共に先ほどぶち抜いたシャッターさえもISの競技場のようにバリアが覆う、完全に閉じ込められたと、理解した。

 

「こうしている間にも……面倒な事を…!」

「れーぐ、オイ、てイアンがアる」

「……聞かせて貰えるかしら?」

「イまのオれ達にこのばりあヲぶち抜く武器は無イ、そウオもッてイるだろ?」

「こいつらを倒さないとダメだっていうのは、私が一番分かってるわ」

「ハングドマン、ヒュージキャノン」

 

信一郎が小さく呟くと共にACのパーツを変更する。

 

「さんじゅうびョウ稼げ、オれがばりあヲぶち抜く」

「…頼りにしてるわ」

 

レーグが地を踏み、砂で覆われた地面を蜘蛛の巣のような亀裂を作りつつ槍を構え前方に飛ぶ。

信一郎が両手の武器を投げ捨て、ヒュージキャノンを腕部に接続、腕を大きく振り上げて展開完了直後に腕ごと振り下ろしバイポッドを地面に叩きつけた。

 

 

 

槍の穂先による斬撃で無人兵器を両断し、背後に回り込んだ無人兵器も巧みな槍捌きにより先端を突き刺し、凄まじい威力の放電で内部より炸裂させる。

 

「はっ、私は接近戦、あまり得意じゃないんだけど、この槍いいわね、流石カラード!」

『れーぐ、頼みがアる』

「何、かしらっ! 改まって…っと!」

『オまエは一人で進ンでくれ、オれはここに残ッて戦ウ』

「…馬鹿な事、言わないで、今の貴方を置いて行くなんて」

『だからこそだ、もウしョウきヲ保てなイ、だからこそ、オまエにかンざしヲ頼みたイ』

「最悪の地獄を見る事になるわよ」

『もウ、見た』

 

ギリ、とレーグが歯を食いしばる、自分がまるで無力に思えた。

 

「絶対、死なないで」

『アたりまエだ……ウつぞッ…!!』

 

一拍遅れ、射線上の無人兵器が消滅、バリアに突き刺さり、凄まじい轟音を生み出しながら炸裂する、レーグは付近の無人兵器を切り裂きながらオーバードブーストで圧縮された核弾頭により大穴を開けられたバリアを通過し、一度振り向いた。

 

「必ず、必ず助け出すから…!!」

『アア、これでアンしン、だ……』

 

コォン、光と音を残し消えてゆく姿と再度同じように張られたバリアを見つめながら頭部パーツ内部で笑みを浮かべる、ヒュージキャノンの配線を切断、砲塔や冷却機もまとめて廃棄し、地面に落とす。

 

「さァて、刺激的にやろウぜ、どちくしョウども」

 

 

「プロビデェェェェェンスッ!!!」

 

咆哮のような声に呼応し、赤い装甲が身を包む、即座に右腕を持ち上げ、トリガーを引いた。

空気中の気体を副作用でプラズマ化させ、それが散らされるよりも早く高圧のエネルギー体が射出される、一拍置く間もなく着弾し、エネルギーが破裂、まるで空間を削り取ったかのように無人兵器が消滅した。

 

それがトリガーだったかのようにヒュージキャノンの射撃後から一切動きを見せる事のなかった無人機が一斉に動き始め、周囲を旋回し始めた。

 

背のミサイルハッチが勢いよく前方を向き肩に叩き付けられ火花を散らす、旋回する無人機を追いかけるように四連装ミサイルが吐き出され、それに続き連動ミサイルが放たれる、撃ち漏らした無人機には肩部レーザーで焼き溶かし、放たれる銃弾を身に受けながら確実に数を減らしていった。

 

ISの撃破を前提に作られた無人機の銃撃はACの装甲に刺さり、避けることの無いその身を少しずつ削り、傷を作って、限界装甲値に近づける。

内部では煩いほどのアラートが鳴り響く、視界の端に濃い灰色が重ねられる、もはやその装甲は鉄の塊と成り果てかけていた。

表面装甲を大きく破損させ、スパークを起こすACにトドメを刺すべくレーザーブレードを展開し突っ込んできた無人機をようやく回避し、左腕の高出力ブレードで二つに叩き斬る。

 

「ストラックサンダァァァァッ!!!」

 

今まさに砕け散ろうとした装甲が光の粒子に包まれ、その姿を変貌させる、脚部は人のそれとは大きくかけ離れた形へと折れ曲がり先ほどの機体とは明らかに違うことを示していた。

光は紫の装甲板へと色を変え、肩部にせり出した、ともすれば恐ろしい兵器の砲にも思える「それ」が青白い光を揺らす。

鈍く重い音が響いたかと思えば燻っていた青白い光が無人機に突き刺さり下半分を残し弾け飛んだ。

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

「が、はッ、はッ、どォしたァ……? こンでオわりな訳ねェよなア……?」

 

周囲には信じられないほどの金属で出来たガラクタが散らばっている、スクラップの廃棄所と言われれば信じてしまいそうなほどに。

その中心にひとつ不自然に何もない空間があいている、そこにポツンとボロボロになった機体がゆっくりと肩を上下させていた。

 

左腕の肘より先が千切れ落ち、脚部も内部が破損したのか膝を突いて、装甲版がいくつも剥がれ内部を曝し、火花を散らし間接は赤熱してさえいる。

視界内は邪魔になるほどの被害情報で埋め尽くされ、最早アラート音以外はほぼ何も聞こえもしない、もう十分以上前からそうだ。

コアの熱量は既に限界を超え、機体を変えようと被害情報を引き下げることさえしない、破損過多とその収容格納内での簡易修理による発熱、度重なる機体の連続変更、エネルギー兵器の使用率による負荷、ほぼ無限だとさえ思っていたコアの総エネルギー量が最早雀の涙にさえ思える。

そして何よりももう体の限界、否、体の限界を超えて既に久しくさえあった。

 

体中の筋肉が裂け、右腕に至っては酷使しすぎたのか機械によるサポートで無理やり動かしているに過ぎない、もし外装がなければ骨は滅茶苦茶に圧し折れ、皮膚が裂け、血の海を作っていたかもしれない、皮肉にも外装はそれを押さえつけるギプスであり、傷口を塞ぐかさぶたの役目を負っていた。

 

内臓もいくつか潰れている、口の中に広がる味から鉄分の摂取には事欠かないだろう、出来る事なら口に溜まった血やら何やらを吐き散らしたいほどだ。

 

『いやいや、お見事お見事! 素晴らしい結果ですよ、ストックしていた無人兵器がひとつ残らずガラクタではないですか!』

 

パチパチとスピーカー越しに聞こえる拍手と賞賛に反応し、油の注されていない自動人形のようにゆっくりと、軋むように顔を上げた。

ミシリと音を立て干渉したへし曲がった装甲版が折れて落ちる、そのボロボロの機体をさらに破損させてゆっくりと立ち上がる。

 

「なンだ、オわりかよ…たイした事無かったぞ、クソ野ろウ」

『うぅん、満足頂けなかったみたいですね、素晴らしい。クローンナンバー14号とは出来が違いますねえ、君のクローンを作ってみるのも正解でしょうか?』

 

その言葉を聴いた信一郎は頭部パーツの中で凄惨な笑みとも憎悪とも取れる表情を浮かべる。

 

「アァ、てめェだッたか……探したぜ、すッげェ探した」

『おや、私のことを探してくれてたのですか? 外部にファンがいたとは、嬉しいですねえ、もったいない事をしました、もっと頻繁に外に出るべきでしたよ』

 

 

「てめェだけは、ねンイりに、しつよウに、確実に、ぶち殺したイとオもッってたンだ」

 

 

右腕を上げ、中指を立て、憎悪に引きつったような声を出した。

 

『ふむ……君と私は面識がありましたか?』

「アる訳ねエだろ、だがマドカに殺しヲさせよウとしたオまエだけは、殺すと決めてイた」

 

 

『……くふ、くふふふ、クーッハッハッハッハッハッハ!!!!』

 

スピーカーから聞こえる笑い、哂い、嗤い、心底可笑しいと、心底笑えると、まるで自分の声に喜ぶ赤子のようにただ笑う。

 

『アハ、アッハハ!! これは、これはこれはこれは!!! まさか、まさかあの、14号に! クローンに!! ただの「物」に情が移ったというのですか?!』

 

 

『たかが「物」に!!!』

 

 

息も絶え絶えに絶叫するように笑う男の声に信一郎は小さく呻くように、誰にも聞こえないほど小さく呟いた。

 

「もウ少し、持ッてくれよ……ホワイトグリント」

『はぁ、面白いですね、とても面白い、あなたは素晴らしい、その機体といい、物に情が移ることといい、本当に面白い』

「しンぱイするなよ、オまエも直ぐに『もの』イわぬ『肉塊(モノ)』になる」

 

その言葉と共にアリーナ上部に設置してあったカメラを撃ち抜き、破壊する。

 

『さて、困りましたね。もう君の侵攻を阻む無人機はもうありません』

「そイつはイイ、イま直ぐにでも、のウみそ撒き散らしてやる」

 

『ですので!』

 

ガコンと大袈裟にロックが外される音が響くと同時に、壁の一部がせり上がる、有無をも言わさず吹き飛ばしてやろうと両腕をその方面に向け、息が、止まった。

 

 

『とっておきのISをご用意しました!』

 

「て、めェ……ッ!!」

 

そこにあったのは―――

 

『感動の御対面です、さぁ「彼女」を打ち倒して私の所に来て下さい!!!』

 

―――見知ったISを纏う見知った、否―――

 

 

 

 

「信一郎、おねがい……!」

 

 

 

 

―――世界で最も愛した―――

 

 

 

「私を、止めて(たおして)……!!」

 

 

―――掛け替えの無い人(さらしき かんざし)だった―――

 

 

 

「てめェェェェェェェェェェェェェッッ!!!!!!」

 

『あっは、アッハハハハハハハハハハハハハハァッ!!!!』


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