コジマ汚染レベルで脳が駄目な男のインフィニット・ストラトス   作:刃狐(旧アーマードこれ)

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非常に長らくお待たせいたしました。
ブラッドボーンが面白いのが悪い(トロコン感)。
2キャラ目も神秘99レベル110の神秘特化ウーマンにしたので、ちょっと満足、なわけねぇだろ! (聖杯で血晶掘りに)いくぞぉぉぉぁぁぁああ!!

というわけで戦闘回です。
あと余談ですが金剛型戦艦の主砲が35.6cmです。
ACVのスナイパーキャノンは355mmです。
弱装弾とか関係なく当たったらやべぇじゃん。
カーパルス砲台に至っては600mmだそうで、やばい。


MARCHE AU SUPPLICE 『断頭台への行進』

『こちら前哨監視部隊、第一防衛線突破されました、撃破数……0』

「了解した、危険な場所でよくやってくれた、退避してくれ」

『わかりました……まさか、ただの防衛兵器とは言え一機も落とせないとは…』

「非殺傷の為に威力を制限して弱装弾を使用しているのだ、仕方が無い」

 

警備隊長ことポール・オブライエンが通信を終了し、各パイロットへと通信を繋ぐ。

 

「第一防衛線が突破された、撃破数は0、恐らく損耗率はかなり低いと思われる、あと10分も待たず射程圏内に入るだろう」

 

折り畳んでいたスナイパーキャノンを展開し、第一防衛ラインのあった方向へと向ける。

 

「各自、戦闘用意をしろ」

 

その言葉と共に全ACがカメラアイに光を灯し、各部から排熱の為の煙を吐き出す、数十の5~10m級大型兵器が一斉に動き出す様は間近に見れば圧巻だっただろう、恐怖さえ感じるだろう。

 

『こちらネクストランカー1ベルリオーズ、数こそ向こうの方が遥かに上だが、錬度ならば我々の方が遥かに上だ、しかし油断するな、潰すぞ!』

 

漆黒のACが紅くアイセンサーを輝かせ、激励を飛ばす。

 

『ハイエンドノーマル、トップランカー、シーモックだ、本当の殺し合いも経験した事のない小娘どもに後れを取る訳には行かないだろう、すでに老骨の身だが、あんな物に道を譲る訳にはいかん、今この瞬間は力こそが全てだ!! これを乗り越えるぞ!!』

 

黒銀のAC、デュアルフェイスが腰を深く落とし両背のグレネードランチャーを展開する。

 

『……レイ…勝つぞ……』

 

復讐の意味を持つACが脚部のシールドを展開し、スナイパーキャノンを構え、正面を睨むようにアイセンサーの光を絞る。

 

各ランキングトップが通信を行い、全員へと言葉を飛ばした。

その瞬間全ての人員が腕を振り上げ、雄叫びを上げる、まるで爆音のような声が周囲に響き振動が肌で感じ取れるほどとなった。

 

事が動いたのはそれから僅か数十秒、無人偵察機が何百と言う小さな光を捕らえる。

ポールは音声通信を起動し、麗羅へと繋いだ。

 

「射程圏内に敵勢部隊が入りました、社長、抹殺の指示を」

 

コクピットの操縦桿を握り、トリガーに指を掛け、雲霞のような軍勢の最前機を狙う。

 

『ただの一人も殺す事は認めません、ですが大怪我は受け入れて貰いましょう。防衛戦開始して下さい!』

 

戦闘開始、その言葉と共に全ACが行動を開始する。

スナイパーキャノンを構えた狙撃型のACが一斉に砲口から眩い光を散らし、巨大な薬莢を地面へと叩きつけ、巨大な弾丸を水平線に見える300を超えた数のIS達へと奔らせた。

 

「ポール、ちゃんと当てれるか?」

「舐めるな、パーシヴァル、貴様に心配される謂れは無い」

 

言葉通り、ポールの駆る「警備部隊一番機」の放つスナイパーキャノンの弾丸が次々とISへ突き刺さり、炸裂した。

 

『今こそ我々警備部隊の真価を発揮する時だ!! 我々の、社長の、カラードの意志に逆らう愚か者どもを抹殺せよ!!!』

「殺すな、と指示を受けているはずだが…まぁ、いいか」

 

スナイパーキャノンの弾丸が、グレネードキャノンの砲弾が、高圧エネルギー体が次々とISへと迫る。

 

徹甲弾の命中により装甲を散らして弾き飛ばされるISや、榴弾の着弾で発生した爆発に巻き込まれ甚大なダメージを負うIS、焼夷弾の粘着燃料が付着し、燃え盛る機体と共に地へと墜ちてゆくIS、高圧エネルギーの直撃でオーバーヒートを起こし行動の大きく制限されたISなど、見る者が見れば地獄だ、と言うような光景が広がっていた。

 

『弾切れまで撃ち続けろ!! これだけ居るんだ、多少雑でも誰かに当たる!!』

『対空砲撃から逃れて降りてきたISが来たぞ!! 地上部隊迎え討て!!』

『散開を始めた!! 一機たりとも逃すなよ!! 回りこんで抑えつけろ!!』

 

 

ただ寄せ集めただけの400と確固たる意志を持つ100にも満たない軍勢の『蹂躙劇』の火蓋が切って落とされた。

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

「有り得ない!! 有り得ない!!! アリエナイッ!!!!」

『落ち着きなさい! ここで取り乱して何になるの?!』

 

ISのパイロットが凶悪な炸裂砲弾を紙一重で回避し、直径数十センチもの物体が亜音速で飛んで行った際の衝撃波に打たれ錐揉みに弾き飛ばされ、体制を立て直すとともに叫び散らした。

 

「ロケットランチャーを叩きこんだ!! マシンガンも全弾撃ち込んだ!! レールガンだって当てた!!! なのに! どうして?!」

 

地上を這いずり回るだけのIS以外の兵器は何一つ動きを鈍らせることなく、ただまっすぐに砲口をこちらへと向けている。

 

『27番!! 動きを止め―――』

 

プライベートチャネルの音が凄まじい爆音と共に掻き消え、こちらに指示を出した分隊リーダー機が爆炎に消え、同時、まるで人形のように一直線に弾き飛ばされた。

ビルのようにも見える少なく巨大な遮蔽物に叩きつけられ一部を大きく破壊しながら地面へと投げ出される。

 

『ぁ……が…………』

 

一つ、呻き声を上げるとともにその体を纏っていたISが光と消えた。

 

「ひ…嫌、いや…!!」

『余所見とは、随分と余裕ではないか…』

 

砲身の冷却が完了するとともにメートル単位の『薬莢』が排出され重い音を立てる、恐怖に引き攣った顔を地上の取るに足らない筈の戦車のような人型兵器へ向けると、その頭部はまっすぐとISへと向いている、まるで確たる標的を定めた様に。

 

『私を見ろ、これが戦車の前に出た兵士の恐怖だ、これが戦争の恐怖だ、目を逸らすな、直視しろ!! これが死の恐怖だ!!』

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!!!」

 

顔を歪ませ、涙をぼろぼろと零しながら銃器を棄て、パイルバンカーを振り上げ人型兵器へと飛ぶ、殺さなければ殺される、そう自分に何度も言い聞かせながら。

相手はあんなに大型であんな履帯(あし)をしている、内側に入り込めば、取り付けば後は死ぬまでパイルバンカーを叩きこみ続ければいい、そう刹那の間に判断をして。

 

だからこそ、その表情を絶望に染め上げた。

 

まさか、まるで瞬時加速のように後ろに下がる等とは思っていなかったから。

 

刹那、動きが止まる。

勝敗を分けるその一瞬、動きを止めてしまった。

 

「っひ――!!」

 

その背の主砲を向けるよりも、その腕の副砲を向けるよりも、ISの方が速く離脱できる。

だからこそ、その人型兵器はその巨大な機体自身を砲弾とした。

 

ISならば、電子制御ならば、逃げる事も叶っただろう。しかしそれを駆るのは恐怖に支配されたただの人だった。

10メートル近くあった距離が弾丸のような速度で0になる、回避どころか防御さえも間に合わない。

 

「カ、ヒュ―――」

 

ゴキン、と体の中で何かが折れる音を聞きながら、そのパイロットは気を失った。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

「ふふ、フハハハ、これが、ネクストの感覚か…!! 柄にもなく、興奮する…!!」

 

視線を忙しなくコクピット内のあらゆる数値に向けながら、ミリ単位の細かい操作を何よりも素早く、かつ正確に叩きこみ、機体を操る。

 

こちらにロケットランチャーを向けた機体の正に今発射されんとした砲口にレールガンの弾丸を叩きこむ。

砲身自体が炸裂し、担いでいたISの肩部と胸部の装甲が砕け、弾かれた。

 

「もう一発、おまけだ」

 

地面へと墜ち行くISの背にレールガンの弾丸を直撃させ地面への旅路を短縮してやる。

 

「ふむ、やりすぎたか……生命反応あり、大丈夫だな」

 

視線をすぐさま周囲へと向け、口元に笑みを浮かべ、グリップを握りこんだ。

 

「有象無象の雑兵だらけかと思ったが、中々に楽しませてくれる、これならば私の、いや…我々の存在の意味が分かるかもしれない!」

 

戦意を保ってこちらへと向かって来るISへ向けマシンガンを突き付け、トリガーを引く、刹那、まるでショットガンの散弾のような銃弾で構成された壁がISへと迫った。

 

その壁から瞬時加速を用いて大きく回避した一機に狙いを定め、コクピットのペダルを強く踏み込む。

まるでOBを使用したかのような瞬間加速にコクピットのシートに体が押し付けられ潰されるのではないかと錯覚さえする、だがそれさえも興奮を与える刺激として獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「そぉら! 墜ちろ!!」

 

瞬時加速の行き先へと先回りし、右足を大きく引く。

ISのパイロットの表情が恐怖に歪んだ。

 

『――――ッ!!!』

 

言葉にならない絶叫を頭部パーツが捉え、コクピットに響かせる、ぞわり、と背骨に何かが走るような震えを覚える。

直後に複雑な形状の金属をプレス機で叩き潰したような、重なりあった金属が纏めて圧し折れるような、重いとも軽いとも言えない音が響いた。

右脚部と右脚部ブースターを操作する右ペダルからまるでミシミシと何か堅いものを無理矢理へし折ろうとするような感覚が走る。

地面へと叩きつけられたISは何度か地面を跳ね、動きを止めた後光を放って生身へと変わった。

 

「まずい…これは、マズイぞ…!!」

 

自分が戦闘狂(バトルジャンキー)なのかサディストなのか区別がつかぬほどの興奮を覚え、呆けてしまう。

その直後、自分の背後で何かが爆発し、小さくない振動に現実に引き戻された。

 

『呆けるな、ジナイーダ。シーモックがお前の背後のISを撃って無ければ墜ちてたのはお前だったかも知れないのだからな』

「あぁ、すまないジャック」

 

眼前のスクリーンを睨み、左側にいるISへとマシンガンを乱射した。

まるで察していたかのように大型のシールドで防御したISへ更にトリガーを引き絞る。

 

ガキン、と音が鳴った。

 

「弾切れかっ!」

 

弾膜が途切れたと同時、前方と左方からISが迫る。

パルスキャノンを即座に前方へと吐き散らし、ISを攻撃、左のISがこちらに接触するまで1秒と無い。

だが、それでも十二分すぎる。

その場でマシンガンを落とすようにパージ、その開ききった手が――

 

「だが、残念だったな」

 

――閉じられると共に量子変換の光が形を作り――

 

「格納ぐらいあるさ」

 

――ISをリボルバーハンドガンで吹き飛ばした。

二発、三発、四発、1マガジンを全て叩きこみ、パルスキャノンを撃ち、撃破する。

 

「こちらファシネイター、予備のマシンガンと各種マガジンを用意してくれ、連絡が入り次第取りに行く」

『こちらパワードスーツ部隊、了解しました、遅くとも1分で用意します』

「それは助かるな」

 

スクリーンに映る敵影を横から順に舐めるように見、ひとつ舌なめずりをした。

 

「さあ来い!! 敵はここだ!! ここ(・・)に居る!! お前たちはそこ(・・)に居て、私はここ(・・)だ、ここにいる!!」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

『狙撃部隊! Bポイントで囲まれている!! 援護射撃を頼む!』

「パーシヴァル!!」

「あぁ!」

 

狙撃部隊に入った通信にポールがいち早く反応し、通達、それに応えた中量二脚のACが両手のスナイパーキャノンから巨大な音速の壁を突破した砲弾を吐き出し、赤熱さえ起こした鉄塊とも思える物体が赤い線を引きながらISの一軍へと奔る。

 

『援護感謝する! オラ押し返すぞぉぉぉぉぁぁあ!!!』

 

スコープの拡大した視点に収まるISを砲弾で弾き飛ばし、排莢が終わるまでの刹那の間に次のターゲットへと狙いを付け、装填完了と同時に雷管を叩く。

 

ダイナマイトを爆破したような強烈な爆発音、プレス機で巨大な鉄を叩いたような重苦しい音、そしてそれと共に戦艦の砲弾ほどもある弾が吐き出され今まさに他のACへ斬りかかろうとしたISを弾き飛ばす。

その一打を放ったポールが視界内に映るアラート表示に大きく舌打ちをした。

 

「チィッ!! 工兵!! バレル交換だ! 早くしろ!!」

『ハッ! 弾薬と共に只今お持ちします!!』

 

陽炎によってぐにゃりと曲がったようにも見える赤熱した砲身を畳み、左手のレーザーライフルを前方へと向ける。

FCSによって敵機の移動予測地点へとエネルギー弾を叩きこみ、視界内の全ての情報を処理し、細く息を吐いた。

 

「ビスケス! リブラの援護をしろ!! カリウスは左舷警戒! エイリーク、引いて弾薬を補充しろ!!」

 

近距離のISへと肩部のKEロケットをショットガンのように直撃させ、レーザーライフルを放つ。

 

『隊長! 弾薬及び予備バレルお持ち致しました!!』

 

サブモニターに目を向けるとガトリングを肩に搭載した大型のパワードスーツに身を包んだ工兵が機材運搬用のキャリアーにバレルと弾薬箱を二つ積んで運んで来た、想定よりも対応が速かった事に安堵し一歩、また一歩と工兵に近づく。

 

「スナイパーキャノンのバレル交換を頼む、その後肩部ロケット弾の補充、そしてレーザーライフルのエネルギーパック交換だ」

『了解しました、スナイパーキャノ…ッ!! 隊長! ミサイルが!!』

 

工兵が両肩のガトリングをCIWSのように飛来するミサイルへと放ち、迎撃する。

飛来したミサイルの数は10にも満たず、威力こそ大きい物の相応にサイズが大きい、故に全て迎撃する事はそれほど難しい物ではなかった。

 

が、その爆炎からISが向かって来るのならば話は別だった。

パワードスーツに搭載されたガトリングの弾薬は身を守る為の護身用に過ぎない、無力とは言わないがISへの効果は薄い物だ。

 

極近距離であれば狙撃機の利点は無いと言ってもいい、それを理解してのミサイルの爆風やガトリングによる被弾さえも是とした接近だ、これを行う事が出来るパイロットはそう多くない。

事実、彼女は所謂国家代表であった、故にその技術、度胸、共に有象無象とは違う。

だが、それはポールとて同じ、否。

 

お遊びなどではなく命のやり取りの場に立ち続けたポールに及ぶべくもない。

スナイパーキャノンを折りたたんだまま、ISを殴りつけた。

しかし、ブーストチャージや瞬時加速に対するカウンターのようにダメージは期待できない、なればこそ。

 

弾き飛ばさずに腕部の微細な調整で地面へと叩きつけた。

 

狙撃の出来る精度には遥か遠く及ばないが、砲身を畳んでいたとて弾は出る。

撃針で雷管を叩けるのであれば、弾は出る。

狙撃など出来なくても、接射であれば、直撃する。

 

ISのパイロットがギリ、と歯を噛んだ、悪態など決して吐かない、ベルリオーズならば称賛の言葉の一つでも言っただろうがポールにそんなものはない。

何一つ躊躇なくトリガーを引いた。

 

巨大な砲弾が初速のままISへと突き刺さる。

後ろに衝撃を逃がす場もない、弱装弾と言えど狙撃弾だ、その一発でISのパイロットの意識を刈り取るには十分すぎた。

 

『流石…ですね』

「いいから早くバレルを変えろ」

『ハッ!』

 

チリチリと空気を焼くいまだ高温を保ったままのバレルをコンソール操作で排出し、反響する重い鉄の音を響かせ左腕のレーザーライフル以外を固定。

工兵が巨大なバレルを持ち上げ装填、排出口を叩きつける様に閉じた。

 

『バレル交換完了しました、ロケットの補充を行います』

「あぁ」

 

コクピット内部のコントロールパネルのモニターを確認しながらあらゆる情報を読み取り、別に取り付けられた高高度偵察用UAVからの視界を表すモニターを見て仲間へと指示を出す。

 

『隊長、弾薬の補給完了です』

「ご苦労だった」

 

その言葉と共にスナイパーキャノンをリロードし、巨大な薬莢を地面へと落とす。

重い鉄の音を響かせながら逆間接の脚部を一歩前に出し、縁に乗せた後固定機構を展開、スナイパーキャノンを深く構えこんだ。

ふと、サブモニターに目を向けると先ほど撃破したISのパイロットがこちらを見ながら体を動かそうとしている、その目に敵意ではなく一種の尊敬のようなものを感じたポールはまた、確実に肋骨は折れ、内臓も損傷してておかしくない筈のそのパイロットに称賛のようなものを抱き、不可解だと心の中で吐き捨て、気だるげに一つ、パワードスーツの工兵に指示を出した。

 

「そのパイロットを救護室に運んでやれ、丁重にだ」

『…りょ、了解しました……ですがなぜ…?』

「敵としては殺してやりたいほど気に入らんが、個人としては口汚く喚いたりせず、冷静に判断を行えるのは好感が持てる」

『わかりました、では指示通り丁重にお運びいたします』

「……らしくない、とでも思っているのか?」

『いえ、まさかそのような…!』

 

戦艦の主砲を放つ音を減音した物と衝撃波を正面に叩きつけながら不愉快そうに一つ、鼻を鳴らす。

 

「私もそう思っている」

 

モニターのスコープ内で砲弾が直撃したISが弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

中空を縦横無尽に飛び回り、規則性もなく目につく物を片っ端から攻撃するオリーブカラーのネクストACが敵を撃破するでもなくただ敵を引きつける。

 

「さて、こんなもんか」

 

眩い光を吹きながら半回転し後ろを向いたネクストのコクピットに映る視界には10以上の敵がこちらへ銃口を向け、ひしめいていた。

それを満足気に流し見る狂ったような笑みを浮かべる男、オールドキング。

 

AMSによる思考制御で一点に狙いを定め体を前のめりに傾け背部のブースター出力を急激に捻り上げる。

10メートルにも及ぶ巨大な鉄塊が凄まじい速度で迫ってきた事に咄嗟に散開することで避けたIS達は丁度ど真ん中で動きを止めたオールドキングのAC『リザ』へ笑みを浮かべながら銃口を一斉に突き付けた。

それに対し包囲網の真ん中にいるリザに乗り込むオールドキングはなおも狂気的な笑みを浮かべる。

 

事前のブリーフィングにおいて各機種の指揮官及び社長から幾度も確認させられた禁止事項、数は決して多くない中の一つ。

それを使用すれば確かに広範囲にわたってISを大きく弱体化できるだろう、しかしそれを禁止とされた理由、ISのパイロットを最悪の場合殺害してしまう可能性があるから、ではない。

ネクストの防御の要であるプライマルアーマーが消失してしまうからだ。

最速のACたるネクストはその速度を得る為に非常に軽い、つまるところ防御力も相応でしかない、それを補うのがプライマルアーマーであり、それを攻勢エネルギーとして利用し、敵機の防御力を自らの防御力と共に消失させる装備はネクストパイロットの命を守る為使用禁止となっていた。

 

その装備をISに囲まれた中でオールドキングは何一つ迷うことなく使用する。

 

「…アサルトアーマー起動」

 

緑の膜が瞬間的にリザを包み込むように球形に発生、急激に圧縮され、ISのパイロット達が行動を一つ起こす前に、纏めて緑の爆風に包まれた。

 

それはまるでトルネードに叩き込まれたと錯覚するほどのエネルギーの暴風、その爆発を起こしたリザ以外の巻き込まれた全てのISが一時的に制御を失い、振り回される。

 

その中心で悠々と鼻歌を口ずさみながら両手、両背の武器から炎と銃弾を吐き出した。

 

『アグゥッ?! な、どうし……ッカハァ?!』

『シールドが!! なんで、どうしてぇ?!』

『誰か!! 誰か助けて!! いや、いや、いやぁぁぁぁぁッ!!!』

 

You can run(さぁ逃げろ)

 You can hide(さぁ隠れろ)

 You can pray(さぁ祈れ)

 But I'm gonna cut you down(だが、俺は貴様らを狩る)

 

カラードネクストランク3、オールドキングの恐ろしさはランクでは無い、総合的に見るならば確かにランク3の実力だ、だがオールドキングには他の追随を許さないある強さがある。

継続戦闘能力、オルレアには及ばない。

瞬間火力、月輪のアサルトキャノン、雷電のグレネード掃射に勝る事はない。

 

彼の恐ろしさは純粋に相手を倒す能力だ。

 

例え刃をその身に受けようが、銃弾が肉を削り、抉ろうが決して揺るがない狂気的なまでに相手を倒す意志。

ACに乗ろうが生身であろうが決して変わる事のない恐ろしい程の強さ、その強さに誰一人として彼に勝った者はいない。

 

ランクは強さでは無い、ただの総合評価でしかない、純粋な戦闘において彼は誰の追随も許さない。

例えそれは仲間であろうが彼の狂気に当てられ恐怖する。

 

故に装甲板を散らし、スパークを散らし、銃弾が食い込もうが何一つ恐れない彼の狂気を受け正気でいられるISパイロット(ただの一般人)など、居る筈が無い。

 

武器を捨て、無様に命乞いをし、神に祈る彼女らにも彼は何一つとして容赦はしない、それが彼の強さだから。

 

「殺す為に来たんだろう? 殺されても仕方ねぇさ、だろう?」

 

オートリローディングシステムによりポンプアクションに似た機構が作動し、巨大な薬莢を排出、戦場のど真ん中にいるにも拘らずまるで何も起こっていないのかと錯覚するほどに自然な動作で残弾数確認を行う。

戦場にいる事を意識していないのではない。

 

「ショットガンは、そろそろ補充時だなあと4発……いや」

 

半狂乱になった絶対防御を発動させたパイロットがそのサイズにしては巨大な実体斧で斬りかかるも、さして大きな動作を行うわけではなくただマニピュレータの手首を動かしショットガンの銃口のみをISへ向け、トリガーを引く。

 

「あと3発か」

 

戦場にいると言う事など、意識する必要さえこの男には無いのだ。

 

散弾の衝撃により大きく打ち上げられ、意識を失ったISパイロットが重力に逆らう事無く落ちて行く、このまま地面に叩きつけられればISを纏っているとは言えエネルギーが0では大怪我、最悪死に至るだろうが気にする事はない。

 

『っと! 危なっ!』

 

なぜならば、それを受け止めるISがいるからだ。

 

「あぁ、ファイルスか、何をしてる?」

 

ISパイロットを片手に呆れた顔でリザの頭部カメラを見る『銀の福音』搭乗者ナターシャ・ファイルスだった。

 

『はぁ……ここ数十秒の私が何してたか知りたい?』

「いや、要らねえ」

『ううん、教えたげる。あなたがアサルトアーマー発動したら急いでこっちに来てボロボロ落ちてくるパイロットを拾っては降ろして拾っては降ろしてを繰り返したの、で…何か言う事は?』

「暇だなァ、お前」

 

じろりと恨みがましい目でリザを見続けるナターシャにオールドキングが一つ溜息を吐いて降参した。

 

「分かった、悪かった、これでいいだろ」

『よろしい』

 

何がよろしいだ、と愚痴って通信画面を端に小さく開き弾薬補充の旨を伝える。

 

『いってらっしゃい』

「うるせえ、それより、お前にお客さんだ」

 

その言葉を残し、OBによる加速で補給所へと戻るオールドキングを後目にマーカーされた方向を見ると一瞬、苦しそうな表情をナターシャは浮かべた。

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

「……ナタル、久しぶりだな」

「そうね…イーリ」

 

イーリス・コーリング、ナターシャ・ファイルスの親友であり、米軍の精鋭であり、アメリカの代表操縦者。

銀に輝く射撃主体型ISと対になる様に、まるでそう仕組まれたかのように、そのISは黄金の格闘型だった。

 

「綺麗だろ、この子……ナタルの銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の姉妹機、金の夜想(ゴルディオ・ノクターン)って言うんだ」

「そう、あなたの妹だって、福音」

『いもーと! ゴスペうの、いもーと!』

 

その舌っ足らずな声を聞いたイーリスが驚いた表情を浮かべた後に苦笑いした。

 

「そっか、福音と意思疎通が出来るんだな…ナタル」

「えぇ、そうよ、羨ましいでしょ? イーリも出来るわ、カラードに来れば…ね」

 

二人は共に、笑みを浮かべる、哀しそうな、そんな笑みを。

 

「意地悪だなぁ、ナタル…分かってる癖に」

「ええ、そうよ……今ここでこうして出会っている、分かってるのにね」

『マスター、ともだち?』

 

幼い少女の小さな疑問、その小さな疑問が二人の心を深く抉る。

 

「そうよ、友達……大事な大事な、私の親友」

『…わかんない。マスターどうして?』

 

 

『どうして、ふたりとも、てっぽうむけるの?』

 

銀の福音がアンロックユニットの砲口を突きつけ、金の夜想が長大なガンブレードの砲口を突き付け、戦闘準備へと入っていた。

 

「……ごめんね、福音。ゴメンね、イーリ」

「…ハッ! ゴメンだぁ? アタシに勝ってから……言うんだなァ!!!」

 

同時に奔る高出力のエネルギーがぶつかり合い、眩い閃光を走らせた。

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

 

何十という巨大な画面が壁一面に付けられ、めまぐるしく何らかの文字列が上へとスライドしては消えて行く。

眼前のキーボード、その数8機をまるでピアノの激しい演奏の如く叩き続ける。

 

カラードのサーバールーム、ある理由により決してオフライン出来ないその場所で膨大な数、それこそ万単位のクラック、ハックを受け、それに対処している女性、籐ヶ崎麗羅。

 

世界最高クラスの演算能力を備えた二人、麗羅とカラードの電子空間管理AIであるIBISが強固な防壁となってその波を防いでいた。

 

「……この…調子だと、何とか持ちそうね」

『はい、ですが、私の処理に特殊ACを使用するほど空きがありません』

「大丈夫よ、貴方なら……絶対」

『はい』

 

凄まじい悪意の波をたった二人で防ぐ、その上二人の処理で言うなればまだ60%も埋まっていない、このまま何も無ければ、否、多少何かがあった所で問題はない。

 

「戦線が広がってきているわ、押し留めて」

『了解しました』

「それと、こっちの被害は?」

『既に6機落ちていますが、敵も含め死者はいません、こちらだけですと重症者4、軽傷が16です。ほとんどが救護活動中か補給時による物です』

「そう……分かったわ、絶対に死なないように」

『了解しました、社長』

 

突然、電子防壁への侵攻率が1%アップした。

 

「嘘!! そんな?!」

 

タカが1%、しかし0から1へと変わった事は、少なからず異常であり『多少』の枠組みを超えた事態だった。

見る見る2%3%へと上昇していく侵攻率。

指示を出す余裕は一切と言っていい程なくなった。

 

『社長、駄目です、今の制限した処理率ですと持ちません……苦肉の策ですが……信一郎様のACサポート処理を…打ち切ります』

「ッ!! どうして、急に…!! こんな…ッ!!!」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

「出力が足りない…!! お願い、福音、今だけは…!」

『わかんない!! マスターのおともだち!! ゴスペうのいもーと!! なんで?!』

 

福音の戸惑いと疑問、そして葛藤により大きく機能が制限された状態でナターシャは戦闘を行っていた。

防御力こそ他のISとは比べ物にならないが攻撃能力自体は酷く制限され、ともすれば競技用のISと同等にまで落ち込んでしまっている。

 

「ナタル!! 今は、今この時は敵だろうが!! 力が…全てだろうがァァァッ!!!」

 

咆哮を上げ、獣の爪にも見える光の刃が福音に迫るが、爪に翼を打ち付け、防御した。

火花と鉄を引っ掻くような不快な音を立て、爪がめり込む、今の福音の翼は「機械的な」翼だ、最高状態の福音とは比べるべくもない程に相手と同等でしかない。

 

「来いよぉ! ナタァァル!!! お前はこの程度じゃねぇだろぉ!! お前と福音は、こんなもんじゃ無かっただろうがよぉぉぉぉッ!!!!」

「ッッさいわねェ!!! 分かってるわよ!! 私もこの子も!! こんなもんじゃないに決まってるでしょうがァ!!」

 

『マスター……おこってる…?』

 

まるで叱られた幼子のようにビクビクと、ゆっくり声を選ぶ福音に、なぜかナターシャはストン、と心の整理がついた。

なんで私は怒ってるんだろう、なんでイーリはこんなに声を荒げているんだろう。

あぁ、なんだこれは、こう言う事なんじゃないか、イーリもきっと、こういうことなんだろう、と。

 

「そうね、私はきっと、怒ってるわ。これはね、福音、相手が憎いんじゃないの、あなたが憎いわけでもないの、どれだけ仲が良くても、いいえ、きっと仲が良い程に、こうなるのかもしれないわ、これはね」

 

ニィ、と笑みを浮かべてイーリスを睨みつける。

 

「喧嘩って、言うのよ」

『けんか?』

 

「そ、だから負けてらんない……お願い福音、私に、喧嘩に勝たせて?」

『うー、うー? けんか、ダメだって、みんないってる?』

「きっと、あなたもわかるわ」

『うー、わかった…』

 

視界に表示されるエネルギー数値が爆発的に上昇し、翼の表面についていた傷がみるみる修復され、翼がまるで生き物の羽のようにしなった。

 

「待たせたわね、イーリ……ブッ飛ばしてやるから、覚悟しなさい」

「ハッ、やっとか! ナタルが福音に乗ってからは負け越しだったけど、もう負けねぇよ、黒星付けてやる!!」

「あなたの黒星、増やしてあげるわ、感謝なさい!!」

 

大きく翼を広げ、アンロックユニットの砲口を周囲に漂わせる『銀』と中空で地を踏みしめるように姿勢を落とし、両手に巨大な爪を構える『金』、睨みあいからの喧嘩が今始まろうとしていた。

 

「行くぜ、ナタッ…?! な、なんだこれは?!」

 

唐突に『金』がビキリと動きを止め、装甲の隙間から光を漏らし、ギチリギチリと不快な音を立てて形状が見る見る変わっていく、まるで二次移行にも見えるそれは。

 

「あッ! ガァァァァッ!!! 止めろ!! ヤメロヤメロヤメロォォォォォォォッッ!!!!」

 

明らかに、そう言う物ではなかった。

 

「グ、ァ、ガァァ!!! に、げろ…ナタ…ルゥゥ!! こいつ、こいつはァァァァァ?!」

「イーリ?!」

『あう、だめ…こんなの…ちがう!! ちがう!!!』

 

歯を食いしばり、口元から一筋血を流し、凶悪な形状になった爪を福音に突き付ける様に、ともすれば助けを求めるかのごとく手を伸ばすように、震えながら動かす。

 

「こいつは、強制的に!! セカン、シフ……グァァァァ!!! 制御が…!! 効かねえ、暴走してッ!!!」

「イーリ!! 今助け―――」

 

「避けろォォォッ!!! ナタァァァァァルッッ!!!」

 

掌からエネルギーが収束しレーザーの様な物が撃ち出される、咄嗟に回避したナターシャの背後で遮蔽物として存在していた建造物にも見える壁の表面が融解していた。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

『社長!! 緊急事態です!!! ISが! 残存していたIS残り約80が…!!』

 

『一斉に二次移行しました!!!』

 

それを聞いた麗羅が困惑の表情を浮かべる。

 

「まさかッ! なんでこんな事を?!」

 

 

 

 

 

 

 

「束ちゃん!!!」




結局カラードでの防衛線前篇で一話丸々使ってしまいました。
無念です、次こそは必ず…!
…次はいつになるやら、なんがい目でお待ち下さい。

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