コジマ汚染レベルで脳が駄目な男のインフィニット・ストラトス   作:刃狐(旧アーマードこれ)

36 / 42
お待たせいたしました、このお話もじきに終わりを迎えます。
ですので強いて言うなれば前書き、後書きはこの一言「多くは語るまい」です。
どうぞ、私の手によって捩じり、曲げられた物語の行く末をお楽しみください。

あ、艦これのイベント制覇しました。(丙)
金剛ちゃんと時津風に「丙提督ゥwww」とか「丙wwwヘェェイwww」とか煽られましたが制覇は制覇です。
甲は名誉、乙丙は英断って言うじゃないですか。


SILENT LINE 『未到達領域』

数百数千という数にまで及ぶ格納庫の内有人機が収められている格納庫は実の所100に満たない、しかし数こそ少なくとも一つ一つの規模はどこにここまでの面積や体積が余っているのかと思えるほどに巨大だ。

うち一つ、横幅数キロに及ぶ地下第56階層B5番格納庫、ここに置かれたネクストAC10機のうち一つ、オリーブドラフの逆間接型AC『リザ』のコクピットでタバコを咥えた男がコンソールを弄り、細かな調整を行う。

 

「……ISと潰し合いか」

 

ふと、開け放たれたコクピット内部に一つ影が差し、分厚い鉄板をノックする重苦しい音が男の耳に入った。

男は一切目を向けることなく右手でコンソールを弄りながら左手で葉巻を摘み、呟く。

 

「お前はネクスト格納庫(ここ)じゃねえだろうが、ファイルス」

「……まだ、ナターシャって呼んでくれないのね」

 

誰が誰をどう呼ぼうが勝手だろう、と独り言ちてタバコを再度口に咥えた、もう喋る事は無いという意識の表れでもある。

ナターシャはコクピットの開け放たれた段差に腰掛け無骨な装甲に背を預け、ぼうと外を見た。

 

「ISと……戦闘になるのよね」

 

返事は無い、それでもいい、と思いながらナターシャは苦笑いをした、会話をすることもなく、目を合わせる事もないがそれでいい、それがナターシャにとって心地良い。

 

「対IS用パルス、リーダーの協力ありきの物だけど今は使えないみたい。ねえ、今回の戦争、多分イーリも出る…あ、イーリって言うのは私がアメリカにいた時の……親友なの、だから私ね――」

「なら、出なきゃいいだけだろう」

 

言葉を遮られ驚いたナターシャが振り向く、男はタバコを摘み、作業も中断してナターシャの目を見ていた。

 

「別に出たくない奴は出なくていい、社長がそう言ってただろう」

 

ふ、と笑みを浮かべナターシャがゆっくりと首を横に振った、それは、彼女の決心だった。

 

「…決心付いたわ、私はこの作戦に何が何でも出る、私天邪鬼だから、あなたに否定して貰いたかったのかもね?」

「ケッ、くだらねえ…」

「ふふ、ごめんね? じゃあ行くわ……そうだ、決心ついでにもう一つ」

 

コクピットに移る為のメンテナンスブリッジで振り向いてニイ、と笑みを浮かべたナターシャが男に指を突きつける。

 

「この戦いが終わったら私の事「ナターシャ」って呼んで貰うからね、オールドキング!」

 

カタンカタン、と音を立て去っていく、姿は今の位置からは見えないし、何よりもコクピットから出てでも見る気など無い。

作戦開始まで残り一時間を切った、コクピットを閉じ最終確認を始める。

 

「縁起でもねえ事言いやがって、間抜けが…話にもならんな」

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

「所長、今回の作戦に我々は向いてはいません、如何せん火力がありすぎる」

「信管を抜くか、爆風のみを当てるか、になるだろうな」

 

あぁでもない、こうでもない、複数人の男たちが巨大なタンク型AC「雷電」を前に話をしていた。

 

「競技用、つまるところお遊び用ならばISを一撃で木端微塵にすることもないでしょうが、それだとリロード速度や命中率の問題でグレネードである必要性がありません」

「精々出来て盾か、歯痒い物だな、最悪、出ないことも考えねばならん」

 

所長と呼ばれた男が一つ息を吐き雷電に背を預けると胸ポケットが震える、しまった、置き忘れたかと呟いてポケットに入っていた携帯電話を手に取り、電話の相手の名を見た。

 

「谷本君………」

 

IS学園所属のたまに遊びに来ていた少女の名だ。

今現在犯罪組織として指定されている企業の人間への電話、出ることに躊躇いを持つ。

 

「所長…あなたらしくもない、悩む前に出てみては如何です?」

「むぅ………有澤重工所長、有澤隆文だ」

 

『あ、の……その……私です…!』

 

電話越しに少女の声が聞こえる、何かを言おうと必死になっているような、しかしそれを躊躇しているような、そんな声だ。

 

『戦争に……なるんですよね…』

「あぁ、そうだな、我々カラードが絶対悪として行われる戦争に、なるのだろう」

『例え、例えカラードが世界中で犯罪組織に仕立て上げられたとしても、私は……いえ、私達IS学園は、カラードの味方です!!』

「だが、しかしと言って今回ばかりは我々が勝てるという保証は無い、今我々の味方と言って我々が敗北してしまえば、谷本君、君も、君たちも犯罪者として処断されてしまうかもしれないのだぞ」

 

『そうであったとしても、私は絶対に後悔はしません、私は決めたんです。まっすぐに、愚直でもいい、突き抜け通すんです、正面から行くしかないんです。私はIS学園の代表候補生たちみたいに強くもないし、カラードの人たちみたいに頭が良いわけでもないです、だからそれしかできません』

「それは……」

『はい、有澤さんに聞かせて頂いた話です』

 

それを聞くと有澤がくつくつと笑みを浮かべ小さく笑う、悩み考えていた事が唐突に途轍もない馬鹿なことだと思えてしまえた。

 

『…どうしました?』

「くっくっ、そうだ、そうだった! まさにその通りだ、私はあれこれ考えるのは向かない、愚直なまでに突き進み、正面から行かせて貰う、それしか能がない!」

 

 

「谷本君、おかげで思い出す事が出来た、最初の気持ちと言う物だ、ありがとう、最高の気分だ!」

『悩まれていたんですね…』

「あぁ、だがこれまでだ。 時間がない、それでは私は行くとするよ」

『あの…! 死なないでください…! 絶対に!』

 

 

「勿論だ、雷電の装甲は伊達では無い、削りきる事など誰にも出来やしない、死ぬことの方が難しいだろう、それではな」

 

通話を切り、大きく一度深呼吸をし、雷電を見上げた。

 

「さて! お遊び用でも何でもいい! とにかく弾を詰めろ! 行くぞ、我々の力を見せつける時だ!!」

 

声を聞いた周囲の男たちは全員笑みを浮かべ了承の声を出しコンソールや機材を動かし始める。

 

「そうだ、正面から行くのが私だ、私達だ!!」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

「武装と内装を変える」

「と、いうと?」

 

愛機の図面と実際の愛機を見比べ女性が指示を出す、その言葉にメカニックは信じられないと言った表情を浮かべた。

レイヴン・リンクスの大多数にとって固定アセンブルと言う物は一種の自己成形と言っても差し支えないの無いほど不変なものだ、ただ一部それに当てはまらない物がいるのも確かだが彼女は決してその一部では無かったはずなのだから。

一部の例外と言うのはそう多くない、まず状況によって何でも使えるものは使うスタイルの「籐ヶ崎信一郎」、相手や場所を考慮しあらゆるパーツを使いこなす「シーモック・ドリ」、作戦内容により武装のみの変更をする「ベルリオーズ」等ごく限られた人物でしかない。

武装だけならばまだ信じられたが内装も含めるとそれは最早ガワだけが同じの別の機体だと言い張るパイロットもいるほどだ。

 

「確かに信じられんだろうが、それだけ私も形振り構ってられないと言う事だ、私はこの場を守る為なら恥も外見もかなぐり捨てるよ」

「わかりました、して、どのように…?」

 

図面の武装をパーツ群の中から選択し、次々と入れ替えて行く。

 

「ミサイルをデュアルミサイルに、ロケットはパルスキャノンに変えてくれ、左腕はマシンガン、これはレールガンだ」

「それですと長時間の戦闘行動が出来ません、あっという間にマシンガンが弾切れしてしまいます」

「わかっている、だから格納にハンドガンを入れて弾薬の補充まで持たせる」

 

武装を一新した図面を見てひとつ、大きな問題が出てきた。

 

「何が言いたいかは十分理解している、その為に内装を変えるんだ。………?」

「どうしました?」

「リストに無い、確かあった筈なんだが、半年前にノーマルACを準ネクストレベルに機動力を引き上げる為のパーツが」

「あれは、体に掛かる負荷の問題でお蔵入りです、ネクストACに近づける意図でしたが、そもパイロットもリンクス用の強化人間AMS適合手術を施さなければ使えない代物ですよ」

「ならば問題無いだろう」

 

女性はおもむろに来ていたスーツを脱ぎ、シャツの襟を曲げ項を見せる、そこにはネクスト接続の為のパーツが埋め込まれていた。

 

「元より手術済みだ」

 

適性は低いがな、と笑みを浮かべる女性に深く溜息を吐いたメカニックは仕方がないと格納庫のパーツを選択し移送させる。

 

「やってみますが、元々の性能と大きくかけ離れてしまいます、差異を修正する場も時間もありませんよ」

「あるじゃないか、実戦と言う場と時間が」

 

呆れて物も言えないと肩でジェスチャーを行ったメカニックに苦笑いしながら女性は自分の愛機を見上げた。

 

「私達の存在…それが何を意味するのかこれで分かる気がする。そうだろう? ファシネイター」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

「予備のバレルを最低10本は用意しておけ! そこの貴様ら、サボる暇があるなら自分の機体の調整でもしていろ!!」

 

筋肉質で見るからに几帳面そうな男がテキパキと指示を飛ばし叱咤する。

 

「イライラしているなポール、まぁある意味お前らしいと言えばらしいが」

「パーシヴァル、貴様も暇など無いはずだ、それに私はイライラなどしていない」

「いつも通りと言う事でいいな、そう当たるな、同じスナイパーだろう」

 

ポール、警備隊長が嫌そうな顔を隠そうともせず強く舌打ちをして横に立った男から眼をそらす。

 

「ありがたい事に敵は一方からのみ進撃してくるらしい、肩を並べて戦う事になるな」

「気にいらん」

「警備部隊だけで十分だ、ということか?」

「私はそこまで自分を過信していない、我々だけで勝てると思うほど愚かでは無い、ただ貴様と並んで戦う事が気にいらんだけだ」

 

パーシヴァルがニイと笑みを浮かべながら「ほう」と呟いた、その声を聞くポールがより一層不機嫌そうに眉を寄せる。

 

「私はカラードに拾われるまで根なし草、などと言うお上品な物ですらなかった、刃毀れしたナイフを握り食い物を脅し取り、路地の陰でネズミのように貪り食う。そんな生活をしていた、それを救い上げてくれたのは他ならぬ社長だ、故に社長の御意志は私にとって絶対であり、社長の敵を排除するのは義務であり誇りだ。私の取るに足らぬ自尊心などいくらでも捨てる」

 

「そして私にとって貴様が気に入らん理由は同族嫌悪であり、ただの八つ当たりだ」

「そうか、同族嫌悪か…なるほど、ポール、お前らしくないな」

「あぁ、私らしくない。だが、だからこそ貴様の腕を信用している。精々利用させて貰うとしよう」

 

「く、くくくっ、いや、なるほど、間違いない、お前はお前だ、それが、それでこそポール・オブライエンだ」

「ふん……」

 

皮肉であり讃辞である言葉を聞き流すように無視して歩き無線機を持つ。

 

『戦闘開始予定時刻残り5時間を切った!! 防衛システムも既に稼働可能な物はすべて起動している!! だがそうであっても対IS兵器では無い、30分と持たないだろう、1割落とす事も出来んだろう!! だがそれでも我々がいる!! 警備部隊が!! 我々だけではない! 数多くのカラードの戦闘員が戦いの時を今か今かと待っている!!』

 

『我々に出来る事は戦う事だけだ!! だが、だからこそ何があろうと成し遂げねばならん!! 我々が守るべき場所は最前線であり!! 第一防衛線であり!! 最終防衛線だ!!!! 奴らにはただの一歩とて侵させてはならない、ただ静かな場所でなければならない、心に深く留めておけ!!!』

 

 

『我々こそが未到達不可侵領域(SILENT LINE)だとッ!!!!!!』

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

ありとあらゆる武器兵器があるとも思えるほど、ともすればそういう類の博物館だと納得できそうな程の武器が置いてある武器庫で4人の人が武器兵器を物色していた。

 

「ISじゃなくてACでもない、普通の歩兵武器、これって必要なのかしら?」

「言って帰ってハイ終わり、なんて事になる可能性は低い、エネルギーが持つかどうかもわからん、予備エネルギーは積んでいるがそれで十二分でもない、最悪ある程度ジェネレータが追いつくまで生身で逃げるか戦う必要がある」

 

最新型の超振動ナイフを手の上で弄び、ナイフシースへと押しこんだ、かつてスコールと呼ばれていた女性、レーゲングスの質問に答えた男がセミオートショットガンを手に取る。

 

「問題はあそこに配備されている無人防衛機だな、歩兵武器じゃ心許無ぇ、数こそ少ねえがある程度ISと張り合えるスペックだからな」

「生身の場合遭遇したくはないな、気にいらないがテスト相手にさせられたからな、生身では勝てん」

「ならこいつはいらんな」

 

ごとり、と重い音を立て掴んでいたショットガンを戻し近場のコンソールを操作する。

 

「なにを…?」

「決まっているだろう、ぶっ壊すなら武器より工具だ」

 

コンソールの操作を完了すると同時に武器貯蔵庫の一角の地面がせり上がり、武器用のロッカーを思わせるように数多くの機械が並べられていた。

武器とは違う隠密性を度外視した存在感のある様々な機械、黄色と黒のツートン、やや塗装の剥がれた赤のカラーリング、それらすべてに共通して言える事は「グリップとトリガー」が存在すること、ともすれば何らかの武器にも見えるそれらを丁寧に選んで行く。

 

「これが……工具」

「そうだ、1世代ほど古いが、まだ現役で使える信頼できる工具だ」

 

おもむろに手に取った一つを起動し動作確認を行う、武器と言われれば武器に見え、武器ではないと言われれば納得するような形状のそれに興味を惹かれたオーシェが尋ねる。

 

「それは?」

「小型の切断用工具、プラズマカッターだ、その大型機である大型の資材切断用カッターはこのラインガンだ」

「……人に対しては…?」

「使える、当り前だろう、鉄骨だってぶった切るんだ、人間の体なんぞ無いのと同意だ」

 

プラズマカッターと言われたその工具を収納し、続いてもうひとつ大型の工具を手に取る。

 

「フォースガン、瓦礫や粉塵除去に使う空気圧衝撃砲だ、至近距離なら人体を木端微塵に吹き飛ばす威力を持つ」

 

量子変換し、記憶領域へと収めそれ用の弾薬をいくつも手にとって収納していく、まるで色を映していない目で生身で相手にするかどうかも分からない敵の為に人を破壊できる機械を手際よく、迷いなく選ぶ。

 

「フレイムスローワー、金属の溶接、及び不要資材の焼却に使う、ただ、今は粘度の高い可燃性燃料が入っている、追われている時後ろに撒けば炎の壁が足止めになってくれるだろう」

 

もし、仮にその粘度の高い炎の塊が人に付着すればどうなるか、容易に考える事は出来るが決して言葉には出さない、出してはいけない。

そう、水に飛び込もうが地面を転がり廻ろうが決して消える事の無い炎に人が巻かれて酸素を奪い、焼き殺すなど、まだ心の幼いマドカに考えさせてはいけないのだから。

 

小型のボンベのような物を幾つも量子変換し、次々と収納していく、まるで人を相手にすることも考慮しているかのように。

 

「あなたは、何をしようと言うの…なにを成し遂げようとしているの」

 

ぴたりと動きを止めた男は色の無い目を細め、浅く考えた後にレーグを見る。

ただ、ゆっくりと口を開いた。

 

「俺に御大層な思想は無い、母さんのように世界の戦争を終結させ、皆が思うように選択し、十全に戦えるようにしようとしているわけでもない、篠ノ之束のように宇宙進出を目指して果てなき探求を求めるわけでもない、いっちーのように周りの人間すべてを守ろうと思っているわけでもない、お前たちのようにマドカを守り、自由にさせる為に戦っているわけでもない」

 

笑みを浮かべる事もなく、怒りを浮かべるわけでもなく、悲しそうにすることもない、ただ何もかもが抜け落ちた様な、空っぽの穴を覗きこむような、深い深い深淵を覗きこむような顔でレーグを正面から見つめる。

 

言葉に出来ない、嫌悪感でも恐怖でもないよく分からない物がレーグの背をジワジワと昇る感覚がした。

 

「ただ、俺は受け身なだけだ。俺の大事な物に手を出した奴らを叩き潰すだけの、ただどうしようもない力だけ持ったガキの癇癪だ」

「殺す事に、嫌悪感や恐怖は無いの…?」

 

深く深く、濁ったような瞳が開く、今初めてその目に恐怖が映った気がした。

 

「あるさ、怖いし死ぬほど後悔してる、今でも思い出すと震えが止まらない、目を閉じれば暗闇の中であの目が俺を見ている、何もかもを投げ出して死んでしまった方が楽なんじゃないかと考える事もある」

 

右腕で義手の二の腕を掴み、力を込める。

歯を食いしばり感じる恐怖や痛みから目をそらす。

 

「でもな、俺は決めたんだ、その恐怖さえも全部薙ぎ倒して俺は生きる、耐えきれなくなったら簪に縋り付いて泣き叫ぶ、でも今はその簪が奪われた、だから取り返しに行く、俺の大事な物を取り戻すために、奴らは俺の家族を、家を奪おうとしている、だから叩き潰す、俺の大事な物を守る為に」

 

漸くその目に感情を乗せて自嘲的な笑みを浮かべた。

 

「だから俺には大きな思想は無い、ただ私利私欲の為だけにこの力を振るうガキなんだ、キヒヒ、笑ってくれてもいいぞ?」

 

レーグはそれを笑う事はない、笑える筈もなかった、なぜならそれは苦しさをひた隠し、痛みを隠れて苦しそうに受け入れ、だれにも弱さを見せまいと必死になっていたマドカに似ていたのだから。

だが男は、信一郎はマドカでは無いマドカにそうしたように抱きしめたとて決して自分の弱さや苦しさを吐き出したりはしない、そして何よりも信一郎はそれを決して受け入れない、信一郎が受け入れ、信一郎を受け入れる女性は、今は居ない。

 

だからこそ、マドカを、自分たちを助けた、どこかマドカに似ている信一郎を何としても助けたいと、そう思っていた。

 

「笑えないわ、ねえ」

「あぁ、そうだな……こっちは用意できた、マドカはどうだ?」

 

「こちらも用意完了だ、いつでも行けるぞ」

 

PDWとハンドガン、スタングレネード、ナイフを装備したマドカがニィ、と笑みを浮かべて頷いた。

 

「よし、輸送機に移動するぞ、ついてこい」

 

全員が頷いたのを確認してゆっくりと移動を始める、それぞれが別々の表情を浮かべてただ無言で歩いていた。

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

 

校舎の屋上から遥か向こうの空を睨みつける青年が拳をギチリと握りしめる。

遥か向こうでは既に戦いの火蓋は切られている筈だ。

 

「……織斑、私は生徒全員に寮で待機しろと命じた筈だが?」

 

青年、織斑一夏は声にハッとして後ろを振り向く、そこには腕を組みながら難しい顔をした一夏の姉であり担任である織斑千冬が立っていた。

一体いつの間に、と声が漏れ出そうになった一夏を前に手を額に当て深く溜息をついた千冬はあきれた様子でぽつりと言葉を漏らした。

 

「いつの間に、ではない。普通に私はここにきてお前の後ろに立っていた。それにしても、随分と熱心に空を眺めていたな」

 

理由は分かっているだろう、だがそれは言わない、それが千冬の姉としての厳しさで優しさだから。

そして、なによりも、自分の為に。

 

「……なぁ……なぁ、千冬姉! 俺、俺さ…」

「言うな、一夏」

 

どうして、と抗議しようと顔を上げた一夏は目を見開き驚いた、一夏にとって世界一凛として世界一強い姉が今にも泣きそうな顔をして一夏を見ていた。

 

「お願いだ、言わないでくれ……」

 

きっと、友達を助けたいと、そう言うだろう。

たとえ、その場所は命が紙のように軽い死地だとしても、行きたいと言うだろう。

おそらく、千冬はそれを止める事が出来ないのを知っているし、それを止めてはいけない事も分かっているだろう。

 

だから「行くな」と言えない。

だから「言うな」としか言えない。

 

それが千冬にとって無駄な抵抗でしかないと分かっていても。

 

もし、一夏がこの学園に入ったばかりのままだったなら千冬を悲しませまいと思い留まっただろう。

もし、一夏が臨海学校以前であったなら千冬に言いくるめられただろう。

 

だが、一夏は千冬にとって誇らしい弟だった、自慢できる弟だった、十分以上に愛せる弟だった。

 

「ごめんな、千冬姉。俺、行きたい……シンを、俺の親友を助けたいんだ」

 

もう千冬にはそれを止めれない、ならばせめて送り出そう、死なぬように、生き残れるように、送り出すしかない。

 

「やめろ」

 

しかし喉から絞り出されるのはどうにかして引き留めようとする言葉だった。

 

「それは勇気じゃない、ただの蛮勇だ」

 

そんな事は言いたくないんだ、ただ優しく送り出したいんだ。

 

「お前のような半端物が行った所で邪魔になるだけだ」

 

やめろ、やめてくれ、まるで子供の癇癪じゃないか。

 

「それとも、ただの自殺願望なのか? お前は死にたいのか?」

 

言うな、そんなこと、嫌だ。

 

「聞いているのか! 一夏ァッ!!」

 

いやだ!!!

 

 

 

「泣かないでくれよ、千冬姉」

 

ゆっくりと千冬に近づいた一夏がただ優しく千冬を抱きしめる。

千冬は初めて自分が泣いている事に気付いた、呼吸は震え、視界が歪み何もかも整理がつかないでいた。

 

「あ、ぐぅ…うぁぁ…!!」

「千冬姉、俺さ、千冬姉にも言わないでいたけど妹が出来たんだ、亡国機業が俺の遺伝子で作ったクローンらしい、でも、そうだって俺の妹なんだ、それを助けてくれたのはシンで、妹…マドカは今カラードで保護されている」

 

一夏の体を掻き抱く千冬が嗚咽を漏らしながらも一夏の話を聞いていた、それはまるでマドカが一夏の体を掻き抱いて泣き縋っている時のようだった。

 

「だから、俺はマドカを助けたいし、マドカを助けてくれたシンを助けたいんだ」

「このぉ…!! 馬鹿が…!! 大馬鹿物がァ…ッ!!」

「うん、うん、ごめんな、でも、俺行くよ。これも…俺のわがままだ…」

 

強く、強く一夏を抱きしめた千冬が一夏の額にキスを落とし息を整えて微笑んだ。

 

「もう、心に決めたのだろう…? 止められるわけがない……!」

 

一夏が返すように微笑んで千冬から離れて空を睨み、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「今からが正念場だ、行くぞ白式!!」

 

白式を展開し勢いよく地を蹴り、飛ぶ。

 

「じゃあな、千冬姉! なーんて気障な事は言わねえ!! 行って来る、千冬姉!!」

 

ブースターの青白い光と機体の輝くような白の残光を残し飛んで行った。

そして、まるでそれに続くように五条の光が学園から飛び立ち白い光を追う。

 

「…揃いも揃って大馬鹿者どもが……絶対に、絶対に帰ってこい」

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

「チェルシー……わたくし、どうすれば良いのでしょう…?」

 

元々寮に備え付けられていた物ではない特別製の机で突っ伏しながら通信ディスプレイの向こうにいる親友であるメイドに問う。

 

『お嬢様は、どうしたいのですか?』

 

小さく震えるように反応した少女、セシリアは返答に詰まり、手を握りしめた。

 

「…わからないのです、わたくしは、どうしたいのか、どうすればいいのか、分からないのです」

『お嬢様……』

 

いままでセシリアには確固たる信念があった、意志があった、目的があった。

厳密にいえば、今もその信念も意思も目的がある。

だが、それ以上に混乱していた、国、家、家族、友人、そして愛する人。

目指す物が、目指す事が、あまりにもセシリアにとって増えていた。

 

言うなれば、取りたい物が多すぎてどうすればいいのか分からなくなっていたのだ。

 

このIS学園に入るまでの確固たる決意はただ一つ「家を守ること」これだけであった。

国家の代表候補生となれば家を守れる。

より良い成績を残せば家を守れる。

その一つだけがセシリアの決意だった。

 

「わからない、わたくし…わかりませんわ…!!」

 

IS学園に入るまでは家の為に奔走した。

IS学園に入ってからは愛する人と恋仲になろうと奔走した。

 

盲目的なまでに、ただ一つの事に集中できた。

 

だが先のキャノンボールファストでセシリアは一つ成長した。

成長してしまった。

 

今までのように目先一つだけを見る事はかなわない、もっと多くを見て、多くを知り、決意をしなければならないと理解してしまったから。

 

今までならば友を助けるのは貴族の務め(ノブレス・オブリージュ)の言葉の元に助けに行けただろう。

しかし今は多くの物が見えすぎていた。

 

IS学園にいる事によって辛うじて国家の要請をはね避けられている事。

友を助ける事による国家への裏切り、そして家の立場。

家の立場を守る事による友への裏切り。

 

そして消えてしまったと思っていた大事な従妹、それが今カラードにいる。

世界中でテロ組織だとされてしまったカラードに、今現在世界中のISの攻撃に曝されているであろうカラードに。

心では助けたいと想っているのに理性では国家を裏切るべきではないと考えている。

だからこそセシリアは迷う、どうしてよいのか分からないでいた。

 

『お嬢様、よく聞いてください』

「…………」

 

『何がしたいか、何をするべきか、というのは得てして判り辛い物です、ですからこうしましょう』

 

通信ディスプレイの向こうには優しい笑みを浮かべて人差し指を立てる少女、チェルシーがいた。

 

『何がしたくないか、何をいちばん失いたくないか、それを考えて下さい』

「わたくしが、したくない事……」

 

ふ、と脳裏に過るのは小柄な少女。

 

「わたくしの……」

 

思い出すのは幼いころ、まだ両親が生きていたころ、本家や分家など難しい事は分からなかった頃。

 

「失いたくない…」

 

自分の手を掴み、いっぱいの笑みを浮かべてセシリアを「おねえさま」とよぶ少女。

 

「だいじな……」

 

カラードに拾われ、保護されていた大事な大事な「家族」である少女。

 

「……リリウム」

『決まったようですね?』

 

いま、セシリアに明確な新しい決意が生まれた。

 

「…はい、ですが…間違いなく国家を敵に回す事になってしまいますわ」

『聞かせて下さい、お嬢様の決意を』

 

セシリアはディスプレイの向こうにいる少女の目を見る。

 

「わたくしは、もう家族を二度と失いたくない」

『それでいいのです、やっぱりしっかりと決意したお嬢様はとても美しいですね』

「そうですか? なら一夏さんもわたくしに惚れてくれるかしら」

『ええ、きっと』

 

ゆっくりと微笑んだセシリアが一息、真剣な鋭い目をした。

 

「ですが、それは後でですわね」

『はい、お嬢様、この言葉を忘れないでください』

 

『国家や他人に期待されるような自分じゃなく、お嬢様自身が信じるお嬢様を、信じて下さい』

「……えぇ、しっかりと心に留めておきますわ」

 

広い目で見る事だけではない、それも含め、愚直に突き進む事も一つの大きな成長。

 

「行きましょう、ブルー・ティアーズ……大切な物を守る為に!!」

 

大きく窓を開け、まるで羽ばたくように空へと躍り出る。

蒼く輝く光を引いて空へと蒼い雫が飛び立った。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

篠ノ之箒、彼女が自ら選択した事は非常に少ない。

今まで受け身だらけの結果だった。

 

 

 

祖父、父親にやってみるかと問われ始めた剣道、確かに才はあったのだろう、真剣に取り組んだのだろう、だからこそ全国大会で優勝できたのだろうしそれを誇りに思っていたのだろう。

だが自ら選択した物ではない。

 

だからこそ自ら与えられた選択肢を棄却できる意志があった姉を凄いと思えた。

だからこそ自らの意思で強くあろうとした千冬を真に強いと思えた。

だからこそ流されることなく自分を持ち、違う事を違うと否定できる一夏を想った。

 

故に自分と違う選択を出来た姉を眩しく思い、疎ましく思った。

故に強い意志と強い力を持ち確固たるものを持った千冬が苦手だった。

故に決してぶれる事の無い筋の通った愛おしい男がどこか怖かった。

 

IS学園に入った事もそうだ、ただそうしろと言われたからそうしただけの受け身の結果だった。

だが、その結果愛おしい男に再度巡り会えた、嗚呼、何と素晴らしい選択を私はしたのだろう。

 

「違う……」

 

今こそ別の部屋で過ごしているが愛する男と同じ部屋にいれた巡り会わせは運命とも思えた。

それもこれも、素晴らしい選択を続けてきたからだ。

 

「違う」

 

今、紅のISを纏い愛する男と共に空を翔ける事が出来るのは、あの時姉へと伝える選択をしたからだ。

私は間違ってなかった、あの選択こそもっとも正しい物だった。

 

「違う…!」

 

違わない、今までの選択の結果だ、選んだ事はすべて正しかった。

例えば臨海学校で一夏と友人の仇を取る為に仲間と共に立ちあがった事。

例えば一夏と離れ離れになった時、その憤りを一方的に姉に向かって叩きつけ、一方的に拒絶し、敵意を向けた事。

 

「違う!! 違うっ!! それが、それこそが一番大きな間違いだ!!!」

 

 

 

頭を押さえ、髪を振り乱し、否定する。

自分の心は知っている、自分がどうしたいのか知っている。

だが選択を与えられ、疑問を持つ事もなく受け入れ続けた箒にはその決断が出来ないでいた。

 

「分かってる、分かってるんだ!! 私が、姉さんを全く恨んでいないことぐらい!!」

 

声に出し、慟哭のように垂れ流したとてそれは決断では無い、ただの自己満足だ。

 

「今でも! 姉さんを心の底から愛していることぐらい!!」

 

もし、自分にもう少し勇気があれば、もう少しだけ自分に自信を持てたら決断できただろう。

一夏には凛とした女に見られたかった、お前に横に並べる相応しい女なんだと見られたかった。

だから一夏の前では自分に厳しく、他人に厳しい、凛とした女を演じてきた。

 

だが実際はどうだ、自分で道を決める事も出来ない惨めな女でしかない。

 

「もし、私が姉さんのように強い意志があるなら」

 

そうじゃない。

 

「千冬さんのように強くあったら」

 

そうじゃないだろう。

 

「一夏のように揺れる事の無い決意があれば」

 

いい加減認めたらどうだ。

 

 

「そうだ……そうだっ!! 『もし』とか『たら』とか『れば』だとかそんな物に惑わされてなるものかぁッ!!!」

 

少女は自ら選択する為の決して揺れる事の無い、強い意志を持ち始めた。

 

「私は許せない、姉さんの想いを踏みにじる物を。私は許さない、友を傷つける物を。私は許さない、何よりも、今までの私を!!」

 

だから、立ちあがり拳を振り上げる。

 

「行くぞ、紅椿、姉さんの想いを踏みにじる不届き者を叩く、力を貸してくれ!!」

 

りぃん、と高い音が響き、紅の装甲が箒を包む。

 

「ふ、ついでだ、今度こそ一夏に告白するとするか」

 

空気を叩き斬るような衝撃と共に紅の光が空へと舞い上がった。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

自動販売機付近のベンチに座り込んでカフェオレの缶を傾けながら脚をブラブラと揺らす小柄な少女、凰鈴音。

 

「どーするべきかなぁ、どーしよっかなぁ」

 

携帯電話に届いた本国政府からのメールを見ながら思案する。

内容は単純、カラードとの戦闘行為に参加せよ、と言う物だった。

勿論参加するべきかしないべきか、などと考えている訳ではない、ただどのように当たり障りなく断ろうかと考えているだけだ。

 

「お生憎様、あたしは友達裏切れるほど薄情じゃないってーの」

 

空になった缶を正面のスチール用のゴミ箱へと投げ込む。

 

「よしっ!」

 

的へと見事命中、しかし気分が晴れる様子は全くない、つまるところ悩みはそう簡単な物ではないと言う事だ。

 

「悩むなんて、あたしらしくない、けどさぁ……どうすりゃいいってのよ」

 

戦闘に参加しない事が友人を裏切らない事なのか、それとも助けない事が裏切っている事なのか、どうとでも取れるだろう。

だが、鈴音には珍しく決められないでいた。

 

「そりゃ、助けたいわよ、でもそれでその後どうなるのよ」

 

もしカラードが敗北すれば自分はもれなく犯罪者でテロリストの一部、勝利したとて国から目を付けられるのは火を見るよりも明らかだ。

だからこそ、悩んでいた。

ただ、何か自分にどちらにでも発破をかけてくれる物は無いのかと頭をからっぽにして携帯電話を弄っていると、一つ、ある名前が目に留まる。

 

「…あいつに、聞いてみよっか」

 

中学生の頃の親友、五反田弾、それが鈴音の目に留まった名前だ。

 

『鈴か…? どうした? こんな平日の真昼間っから』

 

鈴音にとって聞きなれた、安心するとともになんてバカな声出してんのよ、と失礼な感想を抱く声。

 

「アンタこそ、まさか出るとは思わなかったわ」

『あぁ~それな、なんかカラードがどうこうつって危ないから帰れって学校追い出された』

「ブフッ!」

 

テレビを付ければ大ニュースになっている筈の出来事を全く理解していない親友に思わず吹き出してしまった、まるで悩んでいた自分が馬鹿らしいと感じてしまうほどに。

 

「じゃあ暇なのよね、ちょっと相談に付き合いなさい」

『まぁいいけどよ、何だ? やっぱ一夏か』

「あー、今日は別件、あたし今すっごい悩んでるのよ」

 

事情を知らないと言う事に、若干呆れながらも、またとても羨ましいと思えた。

 

「あたしの親友が今スッゴイ困ってる状況でさ、助けたいには助けたいんだけど後の事考えると尻込みしちゃってるのよね」

『はぁ? そんな事でか? 全くお前らしくないなぁ鈴』

「そりゃ自覚してるわよ、んで、もしアンタならどうするかなーって」

『馬鹿な事聞くんじゃねぇよ、決まってんだろ? 後の事なんざ二の次三の次だ、助けに行く!』

 

一切迷いの無い声でそう言い切った親友に鈴音はニィと口元に笑みを作った、そうだ、もしかするとこの答えを誰かに言ってほしかったんだ、と。

 

「そーよね、そうよ! うっし、決まった! んじゃアタシ親友を助けに行って来るわ、弾! ありがと!!」

『応よ! それでこそ鈴だ! んで、親友って誰よ、一夏じゃないんだろ? よければ紹介して欲しいなーなんて』

 

親友、弾の言葉に満面の笑みを浮かべたまま大きく頷いた。

 

「別にいいわよ、そいつは今世界中からテロリストとして指定されたカラードの次期社長、籐ヶ崎信一郎ってーの、んじゃ、今から戦場行ってちょーっと親友助けてくるわ!!」

『はぁ?! おまっ、えぇ?!』

「しっかりテレビの生放送見ときなさい!! もしかしたら、アタシ映るかもよ?」

『おっ、おい待…』

 

まだ何か言おうとした電話先の相手の話も聞かず通話を切り、画面を変えるとその小さな体躯をバネのように弾かせ、外へと駆け出す。

走りながら本国政府からのメールを打つ。

『アンタ等の望み通り戦闘に参加してやる、ただしアンタ等の敵としてね、クソ食らえ』

 

「さぁ行くわよ甲龍!! 親友助ける為に世界中に喧嘩売って全力でブッ飛ばしてやろうじゃない!!」

 

外に出るや否や甲龍を纏い、地面を踏み砕き、クレーターを生産しながら跳ぶ。

荒々しく紅紫色の線を引きながら空へと駆け出した。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

「お父さん、ボクね……シンを助けたいんだ」

『そう言うだろう、とは思っていた』

 

電話越しに父の声を聞く少女、シャルロット・デュノアは父の返答に苦笑いする。

 

「やっぱり?」

『当り前だ、お前は母によく似ている、どうせ私が止めても無駄なのだろう?』

「……うん」

 

娘が戦場へと行こうとするのを止めない薄情な父親、とも見れる会話にシャルロットは確かに親の愛を感じていた。

親子として真に心を通わせた時間こそ少ないが、父は娘を心の底から愛し、娘は父を心より信頼していた、時間など考慮すべきではない。

 

「こうしてお父さんと話が出来るのも、社を立て直す事が出来たのも、シンのおかげだから。だからボクはシンに恩を返したい」

『それでお前が戦場に行くと言うのは納得行かんがな』

「やっぱり、納得はしてくれないんだ」

 

くすり、と笑いながら父の苦言に返す、どこか不機嫌そうな声がシャルロットにとって嬉しく、面白かった。

 

『当り前だ、何を好き好んで大事な娘を戦場へ行かせようと思うのだ』

「そっか、そっか……ありがと、お父さん」

 

感じるのは親の優しさ、果てもう得る事違わないと感じていた親の愛、父は母と同じように自分を愛してくれる。

それだけでシャルロットは何でもなせる、あらゆる事を出来るとさえ感じれる。

故に、深い愛情を与えられた少女は揺れることなく自らの意思で戦場へと出れるのだ。

 

『シャルロット、私からのお願いだ。絶対に無事で帰って来なさい』

「うん、任せて、お父さん」

 

愛する者に信じて送り出されるとは、なんて心地いいのだろう。

涙さえ零れてしまいそうになるシャルロットは満面の笑みを作って一つ、父にお願いをする事にした。

 

「ねぇ、お父さん…ボクからのお願いも、聞いてくれる?」

『あぁ、聞いてやるとも』

「あのね、次に会ったときね? ぎゅって、して欲しいんだ」

 

まるで林檎のように赤く頬を染め、恥ずかしそうに伝える。

シャルロットにとっての精一杯のお願いで、心からの我儘。

 

『あぁ……勿論だ、勿論だとも…!!』

「そう……よかった、じゃあお父さん…ボク、行って来るね」

 

ゆっくりと大きく開いた窓から空を見る、乾いた空気に青い空、憎い程に快晴だ。

名残惜しそうに電話の通話を切り、首から下げたネックレスに触れる。

 

「ね、ラファール……今日は風もゆっくり吹いてるし空を飛ぶには絶好の日だと思わない?」

 

太陽の光を反射して一瞬輝いた待機状態のラファールがまるで、そうだ、と返事をしたように思えて少し嬉しくなった。

 

「そよ風なんてボク達に似合わない。突風(Rafale)を起こすよ! ボク達を助けてくれた親友を助けるんだ!!」

 

ニィ、と歯を見せるような笑みを浮かべて空を睨む。

 

「行こう、ラファール・リヴァイブ・カスタムⅢ!!」

 

部屋の荷物を撒き散らしながら橙の光を引き空へと躍り出る。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

コツコツ、足音を鳴らしながら廊下を歩く銀髪、眼帯の少女、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

まるで何事もないかのような表情で堂々と歩く彼女は見るだけで何かあったのだと理解出来る姿をしていた。

そう、ISスーツを着用し、軍用の通信機を片手に外を目指して歩いていたのだから。

 

「……通信要請、コード0024、回線SH-2184」

『要請承認 シュアルツェ ハーゼ に 回線 繋ぎます』

 

複数の単語を繋げるだけの機械音声の声を認識し、まだ大丈夫だったかと一つ安堵するラウラ。

ドイツ軍がまだ政府から抵抗していると聞くがそれも長くは持つまいと考えているからこそ安堵した。

 

『こちらシュヴェルツェ・ハーゼ副隊長クラリッサ・ハルフォーフです』

「私はシュヴァルツェ・ハーゼ隊長ラウラ・ボーデヴィッヒだ、クラリッサ」

 

凛とした女性の声、どうやら問題はなさそうだ、と自分を明かし、相互認識を行う。

 

『隊長、いかがなさいましたか』

「そちらの様子はどうだ、やはり軍部も怪しくなってきたか?」

『…はい、政府から四六時中上層部に通告をされているとの事です、今は将官の方々が突っぱねていますが佐官以下の方々が……最悪クーデター紛いの事さえ発生してしまう可能性があります』

 

自体は思ったよりも深刻だった、目を付けられるのは間違いなくISを複数所持しているラウラの部隊だろう、というのは容易に想像できる。

 

「クラリッサ、こんな時だが、少し個人的な相談に乗ってくれないか」

『……わかりました、なんにしろ今我々に出来る事はありません、それぐらいならばお安いご用です』

「そうか……ありがとう」

 

ふわりと笑みを浮かべ通信機の向こうにいる部下へと礼を述べる、珍しく飾る事の無い自分の言葉が出た気がした。

 

「私は、教官こそ全てで実力こそ最も必要とされる物だと信じていた、いや、信仰さえしていた」

 

思い浮かべるはまだラウラが落ちこぼれだった頃、最高レベルのIS適性を持ちながらも最低レベルの動作しか出来なかった、出来そこないの烙印を押されていた頃。

それを救い上げてくれたのは間違いなく織斑千冬だ、そして織斑千冬の教えには何一つとして間違いはなかった、過去だけではない、今、未来でも声高く言い続ける事が出来る。

ただ、昔は捕らえ方を間違えていただけでしかない。

力が無ければ何もできない、自分の意志を主張する事はおろか、自分と言う存在さえ認めて貰えない、そう考えてすらいた。

 

「だが、私はこの学園で多くを学んだ、友を知り、愛を知り、優しさを知った」

 

事あるごとにラウラを着せ替え人形にし、その都度ラウラに頬ずりをする同室の親友。

自分をありのままに認め、受け入れ、許してくれた愛する男性。

時折変な事をするが愛する者に至上の愛を捧げ、その手に獰猛さと深い優しさを持つ傷だらけの男。

 

「私は変わった、力こそ全てだとは到底思えなくなった、しかし私は自信を持って言える。私は弱くなどなっていない、なお強くなったと」

 

友と切磋琢磨し、技術を磨く楽しさは今までの何事よりも充実し、強さを実感できた。

人を守る為に武器を振るう事は決して無駄ではない、有形無形に関らず必ず何かを得られた。

誰かを助ける事は美しい事なのだと知り、憧れの人に褒められる事もあった。

 

「だが私は、私は変わったからこそ、選択を誤ってしまう、しかしこれは間違っていないと、言えてしまう」

 

歩く先に出口と外の光が見える。

眩しいと感じてしまうそれはまるで身を焼く光のようにも思えた。

 

「クラリッサ、私は……友を、籐ヶ崎を助けようと思っている」

『……隊長…』

 

それは国家の代表候補生としても、軍人としても間違いだらけの選択、正しい物が一つもない選択。

だが、これはラウラと言う少女がラウラと言う少女である為のとても大きな、間違いの何一つとしてない選択。

 

「クラリッサ、私は有事の際に自信の権限を一時的に少将と同階級で扱う事が出来るのは、知っているな?」

『………はい』

「クラリッサ・ハルフォーフ大尉、現時点を持って大尉をシュヴァルツェ・ハーゼの隊長に任命する。また、同時刻を持ちラウラ・ボーデヴィッヒ少佐の軍籍を剥奪し、ドイツ連邦共和国の軍用IS『シュヴァルツェア・レーゲン』を強奪した反逆者とする」

 

ラウラが自身を犯罪者として自ら処断する、少女は拠り所を失った筈なのにも関らず、自分でも信じられないほどすっきりとしていた。

 

『……隊長、申し訳ありませんが丁度今欠伸をしてしまいまして、全く聞こえていませんでした』

「クラリッサ……」

 

勿論、嘘だというのはラウラ本人にも分かっている、しかし、デメリットを抱えている以上ラウラにとってこれ以上の良案は浮かばない。

 

『よく聞いてください、我々黒兎隊が眼帯を付けているのは隊長に憧れてです。そんな憧れの隊長を見捨てるなんて我々にとって魂を捨てるようなものです。心配しないでください、隊長が帰ってくるまで我々の居場所は我々が守ります。だから、安心して行って来てください』

「ふふ、フフフハハ…! ありがとう、クラリッサ、お前が……貴方が副官で私は幸せです」

『私も、貴女が隊長で誇り高いわ』

 

元々はラウラよりもクラリッサの方が上官であった、懐かしい会話で、ちぐはぐな筈の温かい会話で二人は信頼を確かめ合う。

 

「では、行って来る」

『御武運を』

 

丁度外へと歩み出ると、眩しい光は身を焼く事もなく、ただ温かくラウラを包んだ。

 

「行くぞ、シュヴァルツェア・レーゲン、私の得た大事な物の一つを守りに行く、共に行こう!!」

 

黒の装甲がラウラを包む、光とは全く反対の色が少女を優しく抱きこむ。

黒の輝きを瞬かせながら空へと吸い込まれるように光の翼を広げた。

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

一夏がカラードへと飛ぶ中、尤も最初に遭遇したのは紅紫のIS、凰鈴音の甲龍だった。

 

「一夏! 随分急いでんじゃない、どこかにお出かけ?」

「鈴?!」

 

至っていつも通りに一夏の横に並び話しかけると、当の一夏本人は非常に驚いた様子で目を見開いた、しかし今この状況で同じ方向へ向かっている事を理解すると嬉しそうに笑みを浮かべ、速度を鈴へと合わせる。

 

「そういうお前こそ! どっか人助けにでも行くのかよ!」

「あっは! だーいせいかーい! 流石一夏ね、アタシの事よくわかってんじゃん!」

 

続いて二人に追いつこうと近づくIS反応を確認すると意識を後ろに向けた、その先には橙のIS、シャルロットのラファールだ。

 

「やぁ二人とも! こんな所で会うなんて奇遇だね!」

「ほんとにな!」

「あーっと、二人とも、後ろ後ろ!」

 

続き、次々とIS反応が近づき、見覚えのある色が意識下に入る、それを見て3人はニィと同じような笑みを浮かべた。

 

「あらあら皆様お揃いのご様子ですわね?」

「ふふ、私含め馬鹿ばかりだ、どれだけ分が悪いかなんて分かりきっているだろうに」

「まぁ、目的地はみな同じだと言うわけだ、無駄口を叩かずに行くぞ!」

 

口元に手を当て、クスリと笑う蒼を纏うセシリア。

獰猛な笑みを浮かべる黒を纏うラウラ。

口元をほんの少しだけ吊り上げ、真剣な目で正面を見る箒。

 

「一年の専用機持ち殆ど揃ったな、あとはシンと簪だけだ」

「そ、だから今から全員揃う為に行くのよ、アタシは」

「そうだね、これからもみんなで笑っていけるように、今ここにいるんだもんね!」

 

まるで今から戦場に行くとは露とも思えない会話を続けながら、決してぶれることなく目的地へと飛ぶ。

その中で一人、篠ノ之箒、彼女だけは難しい顔をして、黙っていた。

 

「………ふむ、一夏! 聞いてくれ!!」

 

何かを決断した箒は顔を一夏へと向けて真剣な表情をして、全員に聞こえるような声を出した。

 

「何だ? 箒」

「私、篠ノ之箒は織斑一夏、貴方の事が好きだ! 心より愛している!! 友人云々では無い! 一人の女としてお前を愛している!!!」

「……………な、あぁ?!」

 

一瞬、全員の動作と会話、そして思考が完全に停止し、続いて一夏の素っ頓狂な声が響く。

 

「ふむ、なるほど、吐き出してみれば何と心地いい、ふふ、いいものだな」

「あ、あぁっ!! 箒ズルいよッ!!」

 

満ち足りた表情で優しい笑みを浮かべた箒に対して若干涙目のシャルが食って掛かる。

 

「ズルくない、ならばお前たちもすればいいだろう、私は一番最初に勇気を出した、それだけだ」

「う、うぅ~……!! い、イチカっ!!」

「しゃ、しゃっ、シャル?! どっ、どど、ど、どうひた?!」

 

頬を朱に染めたシャルが一夏へと声をかけると、信じられないほど顔を真っ赤に染めた一夏が信じられないほど言葉に詰まりながら声を出した。

 

「ボクも! シャルロット・デュノアも一夏の事が大好きっ! 愛してる!! ボクと結婚して下さいぃ!!」

 

目をグルグルと回しながら完全に男女を間違えた愛の告白をするシャル、肝心の一夏は高速で飛行を続けながらも完全に放心状態で顔を真っ赤にしている。

 

「んじゃぁアタシも遅れるわけにはいかないもんね! 一夏! 私はね、アンタの事がずっと好きだった!! 中学生のころから!! 今も、ずっとずっと大好き!! ここまで言って友達として、なんて寝ぼけた事は言わないわよね!!」

 

「では、次はわたくしですわね、一夏さん、わたくしは貴方をお慕いしております。心より貴方に尽くします。どうかわたくしと添い遂げては頂けませんか?」

 

「む、これは私も言う流れと言う奴だな、任せておけ、籐ヶ崎に正しい知識を与えて貰ったんだ。嫁よ、いや、一夏よ! 私は貴方のおかげで世界を知る事が出来た、貴方のおかげで私は満たされ始めた、だから私も一夏を満たしたい! どうか私の婿になってくれ!!」

 

これで全員の告白は終わった、一夏以外は返答を今か今かと待ち望んでいるのに対して一夏本人は目をグルグルに回しながら顔を真っ赤にして口元をひくつかせた。

 

「こっ、こ…!!」

 

『こ?』

 

「これが終わったらッッ!!!」

 

イザと言う時に男らしい織斑一夏は今この時、情報を処理しきれず、後回しにするという方法を持って逃れる事にした。




いっくんはマジでもげるべき。(憤怒のラース感)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。