コジマ汚染レベルで脳が駄目な男のインフィニット・ストラトス   作:刃狐(旧アーマードこれ)

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非常に駆け足、早いとこ最終話に持って行かなくちゃ、あと少し、あと少し。
あと3・4話ぐらい、挿絵も気が向けば追加します。
がんばれ♡ がんばれ♡


救いと絶望と世界の異常が足音鳴らしてやってくるお話

二重構造のドアの前、友人に促され一枚潜った所で少年は一度大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。

握りこんだ手が汗ばみ、不快感を少年に感じさせる。

 

十数秒、決心をした表情の少年がドアをノックした。

 

『誰だ?』

 

中から聞こえる少女の声に少年は一歩後ずさる、その声は少しだけ知っている人物に似ていた。

 

「お…俺は…その…」

『……織斑…一夏か、籐ヶ崎部長から話は通っている…ロックを解除した、入れ』

 

ドアへと再度近づくと空気の抜ける音と共にドアが開く、顔は後ろを向いているので見えないが黒い艶のある髪に小さな体躯、窓枠に置かれた手、細く白い指。

窓の外を見る少女の後ろ姿は弱弱しく、今にも消えてしまいそうだった。

 

「……久しぶりだ…いや、そっちは私の顔を知らないんだったな……」

 

ゆっくりと一夏へ振り向き、ようやく少女の顔が明らかになる、一夏は心臓が止まるかのように内心驚いたが、表に出さぬようそれを押し殺す、その顔は――

 

「初めまして……織斑一夏(オリジナル)

「その…顔……」

 

―― 一夏の姉である織斑千冬と瓜二つだった。

 

「私はお前なんだ、似ているに決まっているだろう」

「どういう、ことだ…?」

 

少女は口元を歪め、笑みを浮かべる。

 

「分からないか? 私は織斑一夏、お前の……クローンだ」

「クローン……」

「自己紹介といこう、私は…クローンナンバー14号…織斑マドカだ」

 

傍から見れば嗜虐的とも思えるその歪んだ笑みは、一夏にとって笑っているようには見えなかった。

まるで…苦しんでいるような……それとも悲しんでいるような、そんな表情にしか思えなかった。

 

「ククク、自分のクローンと初めて顔を合わせた気分はどうだ? 不快だろう? 怒りが湧いてくるだろう? 悔しいだろう?!」

 

わざと相手を煽るような物言いでさえ、一夏を怒らせる為でも無い、そうとは感じられない。

 

「……ひとつ、一つ聞かせてくれ…お前は、お前は俺の何なんだ」

「あ、ハハ、ハハハハッ!!! これほど物分かりが悪いとは!! 私の元だとは恐れ入る!! 言っただろう、織斑一夏ァ!! お前のクローンだ!」

 

 

クローン(贋作)なんだ!!!」

 

 

「そうじゃない!!! クローンとかじゃなくて!! お前は、織斑マドカは!! 一体俺の何だ!!!」

 

一夏が叫ぶ、しかしその顔に宿るのは怒りなどではなく悲しみ、その顔を見たマドカが驚いた顔をしてすぐに顔を伏せた。

 

「…私は……お前の、妹だ……そういえば、満足なのか…?」

 

震える声で、絞り出すように、聞こえるか否かと言うほど幽かに呟き、濁したが間違いなく本心だと確信する。

 

「だったら…それでいいじゃねえか、お前は、織斑マドカは俺のクローンなんかじゃない、俺の妹だ、それでいいだ――」

 

ゆっくりとマドカに手を伸ばしその肩に触れようとする。

 

「触るなぁッ!!」

 

びくりと震えたマドカが反射的に一夏の手を力いっぱい弾く、爪が掠ったのか少量の血が一夏の手の甲から飛ぶ。

一夏の血を見たマドカは恐怖と後悔の入り混じったように顔を引きつらせてすぐに嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「私に触れるな…今この瞬間だってお前を殺す事など何よりも簡単なんだ」

「だったら殺せばいい」

 

目を見開き、呆気にとられた表情をするマドカに対して、ただ一夏は悲しそうな表情を浮かべている。

 

「どうした、簡単なんだろ」

「お、お前…狂ってるのか…? あ、アハハッ!! そう、そうだ!! だったらひとつ教えてやる!! キャノンボールファストでボロボロになった女!! セシリアとか言ったか?! あいつはどうだ?! まさかもうくたばったか?!」

 

おねがい きいて おねがい おこって

 

「あの女をズタボロにしたのはこの私だ!! 織斑マドカだ!!!」

 

おねがい わたしに ばつを あたえて

 

「どうだ! どうしたっ!! 目の前に憎い相手がいるぞ?! 精一杯殴ったらどうだ?! 首を絞めればどうだ?! 縊り殺せばどうだァッ!!!」

 

一夏にはその叫びが慟哭にしか聞こえなかった、故に一夏が無言のままに取った行動は。

 

「なにを、している……? まさか、私を抱きしめて…殺す……つもりか……?」

「もう、もういいだろ……俺には分かるんだ、無理なんてすんなよ、そんなに苦しそうな顔で悲しそうな顔で、どうやってお前を、マドカを責める事が出来るんだ……」

 

ただ優しく、強く抱きしめる事だった。

 

「あ、ぐぅ…!! ぅあぁぁ……!」

「いいんだ、無理なんてしなくていいんだよ、全部吐き出しちまえ、何もかも吐き出せ、全部余さず受け止めてやる、だからお願いだ……兄ちゃんに、俺に頼ってくれ」

 

 

「あぁ、あぁぁ…!! うわぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「いいよ、泣けばいい、どうせ俺しか聞いてないんだ、気のすむまで、俺が支えてやる」

 

服を掴んでも、まだ足りないと言わんばかりに掻き抱くようにマドカが縋りつき、泣き叫ぶ。

それに応えるように、全てを受け入れるかのごとくなお強くマドカを抱きしめた。

 

「おにいちゃん!! おに゛いぢゃん!!!」

「あぁ、あぁ……お兄ちゃんだ、マドカ……」

 

「ごべんなざいっ!! お゛にいぢゃん、ごめんなざい!!!」

「いいよ、大丈夫だ……全然痛くなんて無い、マドカの苦しみに比べたらこんな物、無いのと同じだ」

 

「おにい゛ちゃんの゛っ! おどもだちに、ひどいごどぉっ!!」

「あぁ、そうだな、でも大丈夫だ……俺と一緒に謝ろう…セシリアは優しいから、きっと許してくれるさ……な?」

 

 

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

 

「……ままならねぇもんだ、そうだろ? “オーシェ”」

「そうだな……あぁ落ちつかねぇ!! クッソ! あいつ、もしマドカを悲しませたらぶっ殺していいか?」

「あぁ、俺がもうそう言ったからな、好きにしろ」

 

俺の隣で葉巻から煙を燻らせイライラした様子で壁に背を預けるキツ目の美人ことオーシェ、隣でイライラされて俺の胃にダイレクトアタック。

 

「なぁオイ、シンイチロー、お前は煙草吸わねえのか」

「俺は未成年だ、こんな面でもな」

「あぁ、そういやそうだ……おい、シンイチロー」

「あー分かった分かった! 落ち着かんのは分かったからもう少し落ち着け、心に余裕を持て、“レーグ”見たいにな」

「ッチ…」

 

この直属の上司に対する態度よ。

げんなりしているとロック解除の電子音とドアが開くときの空気の抜ける音、目を向けると何かを決意した目をしたいっちーが出てきた。

 

「……よぉ、いっちー、マドカは?」

「泣き疲れたんだろうな、眠ったよ……。 …?」

 

俺の方を見るいっちーがワンテンポ遅れて凄まじい顔つきになる、敵意を剥き出しにした顔だ。

 

「お前…!!」

「あぁ待て!! 違う! 確かに本人だがお前の敵でもないしましてやマドカの敵でもない!!」

 

今にもISを起動して殺しに掛からんとする方向性のヤバイ間違え方をした決意を持たれても困る、多分俺と似たような護る為とかそんなんだろうけど、まだまだ道を違えてない小僧がしていい目じゃない。

 

「……シン、説明してくれ、なんでそこに『亡国機業のオータム』がいるのか」

 

だからこうなるのは目に見えてるってのに部屋での待機を指示してたのに全く聞きやしねぇんだもんな、この女。

 

「分かった、だからまずその敵意か殺気かよくわからんもんを収めろ」

「構わねぇさ、私達はそんだけの事をしたんだ、殺されても文句は言えねえ」

 

「いいか、いっちー、こいつは亡国機業のオータムじゃない、わが社の新入社員、オーシェーニだ」

「本気で言ってるのか」

「じゃあこう言えばいいか、亡国機業を命を捨てる覚悟で裏切ってマドカを助けようとカラードに来た『元オータム』だ」

 

「……分かった、俺の親友が言うなら、信じよう」

「そりゃ俺の株も随分上がったもんだ、で……どうする」

「決まってんだろ、マドカは俺の妹だ、何が何でも守り抜く、どんな事をしてでも、何を敵に回してもだ」

「…そうか、そうかそうか…よかったなオーシェ」

 

「あぁ、やっぱりお前は甘ちゃんだ。だが、最高にいい奴だ」

「よし、なら俺もいっちーを全面的に支援する、だがいっちーの白式に俺は手を出せない、出しちゃいけない」

 

だから開発者にやって貰うとする、俺は武器をくれてやるしか出来んからな。

 

「だが、こいつはやろう、いっちーを守るためのPA発生装置だ」

 

服の内ポケットから取り出すような仕草で、そうだな指輪でいいか、とりあえず創るぞ。

 

「そら、これ――?!」

 

「――ぐっ、がああああぁぁぁぁぁぁッ?!」

 

 

「シン?! おい!! シン!!!」

 

 

「何だァッ?! 何だこれはァァァッッ!!!!! 頭がァ!!! 頭がァァァァッ!!!!!!」

 

「おい!! 畜生!! 医者を!! 早く医者を!!!」

「今通信中だ!! P棟2階214号室の前だ!!! 緊急医療班を出せ!!! 早くしろォ!! シンイチローだ!! 次期社長だよ!!! 分かったならとっととしろォッ!!!」

 

「チクショォォッ!!!! 畜生がァァァッッ!!!! 頭がァ!!! 砕けッッ!!!!!!」

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛アアァァァァッッッ!!!!!!!」

 

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

 

 

「う…ぅ……なん……い……」

「シンくん!」

 

じんわりと思考力が戻ると焦ったような声が聞こえる。

ゆっくりと目を開くとやけに白い部屋で真っ白な顔の母さんが俺の顔を覗き込んでいた。

 

「随分…顔色悪いね……母さん」

「…それはそうよ、だってシン君が急に倒れたって聞いたもの……」

 

くすりと笑う母さん、しかしまぁ……なんでカラコンなんて入れてるんだろう、灰色じゃん。

 

「う、ぐぅ……!」

「無理はしないで? 何があったの…?」

 

清潔そうな白い患者衣まで着せられている、まぁそれはいいとして周囲を確認すると母さん以外に人はいない。

 

「監視を……」

「そっちね、分かったわ……切ったよ」

「能力を、使おうとしたら気が狂いそうなほどの痛みが頭を……」

 

ハッとした表情をする母さん、どうやら心当たりがあるらしい、それにしても……随分俺も調子が悪いらしい、右腕が真っ白だ、左手は相変わらず黒と白のツートンだが。

 

「多分……それは能力の反動よ、ねぇシンくん。これから一年は絶対に能力を使わないで、たった一度でこんなに酷いなら、本当に死んでしまうわ」

「………痛覚の遮断も能力が必要か…わかった、そうする…死にたくは無いからね」

 

母さんに支えられて(母さんは力が絶望的に無いので特に意味は無い)ゆっくりと立ち、体に問題が無いのを確認して自室へと行こうとする。

 

「一人で大丈夫……?」

「ん、まぁね。今んところ体に異常は無いし、あと母さん、別にカラコン入れる必要はないと思うよ、今の時代気にする人なんていないからさ」

 

じゃあね、と残して部屋を出る。

 

 

そして一瞬で嫌と言うほど後悔した。

 

体が震えて嫌な汗が出る。

 

「あ、あ………嘘…だろ……?」

 

目を擦っても、何度瞬きしてもそれは変わらない。

白と灰色の廊下、濃い灰色の自動販売機、誰も彼も真っ白か、もしくは灰色の肌。

 

 

 

 

俺の世界から色が抜け落ちていた。

 

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 

 

 

 

IS学園へと戻ってきたが、新鮮な気持ちなどとうに失った、一週間と経っていないし周囲には何でも無いように、何も無いように振舞っているが内心はそろそろ限界を迎えそうだ、少しでもきっかけがあれば狂ってしまいそうだ。

いっちーは最初心配していたが適当な理由を付けて納得して貰った。

 

 

「そうだ、ついぞ聞きそびれてたんだけどシャルロットの第三世代兵器、あれ何よ」

「えー、機密だよー、そう簡単にばらしちゃだめだって―」

「この嬉しそうな顔!!」

「いいではないですかシャルロットさん、どうせ遅かれ早かれ公表されるのですから」

 

「うふふ、知りたい? 知りたい?」

「この得意そうな顔!!」

 

「じゃあ教えてあげるね! 僕の第三世代兵器は「ヴィッセモート」英語だとデッドエイムって言うんだ。これはセシリアのブルーティアーズや鈴の龍砲みたいなアンロックユニットによる直接攻撃兵器じゃなくてラウラのAICみたいな無形の兵器なんだ。性能は物凄く簡単に言うとジャミング兵器なんだけど相手のFCSに干渉してロックをズラす事が出来るんだよ、例え自動誘導ミサイルでもスナイパーライフルでも、少しでもFCSに頼るとまず僕に攻撃は当たらないね。そして仲間のISのサポート、ざっくばらんに言えば仲間のロック精度やロック速度を上げるサブコンピュータの役目も果たせるんだ。凄いでしょ?」

 

「それってラファールRCⅡの拡張領域でのメリット潰すんじゃない?」

 

「なんとね! そんな事無いんだよ! 領域の圧迫なんて精々がIS用ナイフ一本分なんだ!」

 

「じゃあデメリット無いじゃない」

 

「で、デメリットなんだけど、これ起動中は凄く処理能力が必要でISのメモリだけじゃなくて僕の脳も処理に追われるんだ、逐一考える必要は無いんだけど、やっぱり結構負担が掛かってるらしくてすっっっっごく!! 頭が痛い!! まぁ操縦者にある一定以上のダメージが入らないようにちゃんとリミッターは掛けられてるんだけどね」

 

「なーる」

「でもまぁ、ボクもボクでいろいろ違和感を抱えてるんだよ?」

「どんな?」

「うーん、ボクももう第三世代機だけどさ、ずっと第二世代機を使ってきた人間としては何だか第三世代機は使いどころが限られているって感じるんだよね」

「それはまだ慣れていないからでしょう、慣れればそんな事は無かったと言えますわよ」

「そうね、それにイメージインターフェイスとかってさ、適性が無いと使えないじゃん? だからそれで相手より有利取れるのよ」

「まぁ第4世代機の俺たちにはあんまり関係の無い話かな」

「そうは言ってもだな……」

 

「わたしは一軍人としてその話にもろ手を挙げて賛同はできないな、そうだろう? 籐ヶ崎」

「あー……そうだな、まぁ軍事機業の人間としても、一兵士としても第3世代機が兵器として優れているかと言えばNOと言えるな」

 

するとせっしーと鈴音がぶーぶーと声を上げる。

 

「よし、じゃあちょっと話をしよう、あれは今から……」

「信一郎……そう言うのは……いらないと思う……」

 

「OK、じゃあそうだな世界にISが無いとする、ほら無いな?」

「あるわよ、何言ってんの」

「茶化すな鈴音、おいいっちー、鈴音を後ろから抱きしめとけ、そしたら黙る」

「にゃ、にゃにおぅ?! ちょっ、やめ――にゃふぅ………」

 

「おーし、じゃあ話の続きだ一台で100や200の戦車と渡り合える戦車があるとする。

で、その戦車には極々限られた一握りの、いや、一つまみの人間しか適性が無く他の人間に動かす事は出来ない」

 

「ISだね、もしくはその適性がイメージインターフェイス適性かな?」

「そう、この場合は後者だな。でだ、戦争が起きてその適性を持ったパイロットが暗殺されたとする、じゃあその100や200と渡り合える戦車は一体何になる?」

 

「ゴミだな、高価で嵩張るゴミだ」

「そう、もうその兵器を使えるものは誰もいない、兵器っていうのはな機体だけじゃない、パイロットでさえ使い捨てなのを考慮するべきなんだ、その点から言って兵器として完成してるのは第3世代機より第2世代機なんだ」

 

「と言う事は第3世代機は無駄とでも仰るのですか?」

「いや、そうじゃない、あくまでこれは『量産できる』兵器としての視点だ、数が限られている場合は個々の能力を上げて対処するしかない、その点じゃあ今のISは間違っていない。ただ最初期の目的と照らし合わせたら真逆の方向だけどな」

 

ほうほうと納得する方々、そして話を一切聞いてない蕩けた顔でいっちーの腕の中に収まった鈴音。

何だかもう恋のライバルじゃなくて一種のペットとして扱われてて涙を誘う。

 

「まぁカラードとしては兵器としてあってくれるなら現状のISの状態が一番ありがたいんだけどな」

「ほう、それはなぜだ?」

「あー……IS学園で言うべきか迷うが、一応言っておこうか、こういうのもあると気を付けてくれた方がいいしな」

 

ACの拡張領域から量子変換していたブレードを二本取り出す。なお現在放課後でアリーナの整備室なので武器を出しても咎められない、やったぜ。

 

「何だこれ、IS用のブレードか? にしては持ち手が小さいな」

「もしかして……これ………アレ…?」

「そう、例のアレだ、こいつの名前はブラッドスライサー」

「あ、ボクのブレッドスライサーに似てる」

 

「まぁこいつの特殊効果とは似て無いはずだ、こいつはいつも俺が学園の戦闘時に使っているコジマエネルギーよりも遥かに濃いコジマ粒子を纏わせる事が出来てな」

「ほう、絶対防御を発動させれるのか」

 

「いやぁ? 絶対防御もぶち抜く」

 

『は?』

 

「だから絶対防御もぶち抜く」

「え、なにそれ……つまり……?」

「こいつにコジマ粒子を纏わせて油断しきってるIS乗りの首に振るとだな……まぁそう言う事だ」

 

「ウソでしょ?!」

「じょ、冗談にしても、笑えませんわ…」

 

いやそれが冗談じゃねぇんだよなァ、すでに実地試験終えてるんだよなぁ……

 

「カラードにはこういう兵器がいくつも配備されている、だからISを相手にする可能性もあるカラードはそう言う反則技で代わりの無いIS操縦者を消せるからな、第3世代機の方が相手をしててありがたい」

 

今のところ一番えぐいのはガトリングパイルかな、狭い通路を通ってセンサーに掛かると例え防御特化のISだろうと5秒と持たずモザイク必須な愉快なオブジェになるだろう。

 

まぁコジマエネルギーなくても10秒ぐらいでエネルギー0になるんだけども。

 

「あとこれな、別にIS用とかじゃなくて普通に個人携行用なんだ、尤も、この二本を扱えるのは俺だけだが」

「うわぁ」

「やだぁ」

「うむぅ」

「うえぇ」

 

「お前ら酷くない?」

 

散々じゃねぇか、こんな(俺に否定的な)環境で、まともに戦えるわけがない…!

 

「まぁアレだ、友人方に注意と忠告、あと親切心だな、今若干環境が悪いが、それでもカラードは全世界と戦争できる。それにこの技術は何もカラードだけにしか使えないってわけじゃないだろう、可能性は低いがな。もし戦場に出る事になった場合は決して慢心するな、例え相手がただの歩兵部隊でも一瞬で殺されるかもしれないんだからな」

「う、うん…なんかシン、ここ数日変じゃない?」

「そうだな、妙にリアリストと言うか、とにかく変だ」

「あー、最近調子悪いからな、目が疲れて少し変なんだ、だからイライラしてるのかもな……」

 

 

「…………」

 

寝不足か? と周囲が笑いながら言っている、そうそうなんて言いながらヘラヘラしてるが少し気を抜けば力が抜けて崩れ落ちそうにさえなる、思考自体はおかしくないがそれでも変な考えに行ってしまうのは否めない。

ふと、簪が俺の顔をずっと見ているのに気がつく。

 

「どうした?」

「ううん、ただ信一郎を……見てただけだよ…?」

「…惚れなおしたか?」

「ずっと、惚れてる……」

 

「お前達、その、なんだ…もっと時と場所を弁えてだな」

 

ヘーイ提督ゥ、触ってもいいけどサー、身の程を弁えよ。ってか。

 

「見下ろしながら俺はこう答える“嫌だね”」

「あ、ロールシャッハ」

「ロールシャッハは……ちょっと、嫌…」

「えぇなんで?! ロールシャッハ、ボク好きだよ?! ストイックで格好いいじゃない!」

「というより……ウォッチメンの雰囲気が……私には合わない…」

「あ、アタシはアメコミだとデッドプールかなぁ」

「わたくしはハンコックですわね! あの何とも言えないコメディが好きなんです!」

「私も…好きだけど、ハンコックは……アメコミじゃない……」

 

唐突にアメコミ談義が始まった、俺の場合は親近感を抱くならデアデビルだろうか。

 

「うーん、完全に蚊帳の外だ……アメコミなんてスパイダーマンぐらいしか知らないぞ」

「私も蚊帳の外だな、そもアメコミを知らない。クラリッサならば知っているだろうが…」

 

まぁ無理に知る必要はないがね、そのままの君でいて。

 

「一つ不満があるとすればアメコミはカラーリングが自己主張激しすぎるのよ」

 

色、色か……

 

「色って……何だろうな……」

「シン、なんか言ったか?」

「いや、何でも無い。俺はまだ仕事があるからな、早めに部屋に戻らせて貰うぞ」

「あっそ、んじゃまた明日ね」

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

 

『信一郎様、最近世界情勢がおかしくなりつつあります』

「おかしく、と言うと?」

『ISの緊急配備が増えています。研究用のコアでさえ量産型の機体に収められ各国での軍備増強が増えています、何か心当たりは?』

「…いや、IS学園からは何もおかしなことは分からないな、と言うよりISの緊急配備でさえ初耳だ」

『そうですか、ではこちら側で深く探ってみる事にします、一週間もすれば御報告できるかと』

「了解、よろしく頼む」

『はい、それと……いえ、何でもありません、それでは、失礼いたします』

 

IBISからの連絡が切られた後、部屋を見渡す、白、灰、黒、決して他の色は無く、何もかもが色の無い世界、動く物が無ければまるで時が止まってしまったかのような、そんな虚しい世界。

IBISからは分からないような角度にあった俺のベッドは俺の手によりズタズタに引き裂かれ白い物がはみ出している。

あらゆる物が無茶苦茶に放り出され、砕かれ、散らばっていた。

 

胸ポケットから葉巻を取り出し正しい手順で吸える状態にし、躊躇うことなく火を付け、煙を肺へ通しこんだ。

緊急用の筈の精神安定用の葉巻はすでに平均で一日一箱の速度で、しかも加速度的に消費されている。

麻薬の常習者の気持ちも今なら十分に理解できるほどだ。

 

持ち込んだ灰皿には山盛りになった吸殻、精神安定用と言っても劇薬には違いなく、体にいい筈もない。

一年、一年で俺の能力は再度使えるようになり、そうなれば目も治療してこの劇薬を服用する事もないだろう、だがその一年で俺が耐えきれず狂うのが先か、葉巻の副作用で死ぬのが先か、それとも耐えきれるか、賭けに似ている。

 

聞いた話では麻薬の中にはサイケデリックな色の幻覚が見えるものもあるらしい、最悪それを使うことも視野に入れなければ俺は狂って死んでしまうだろう。

 

かなりの速度で葉巻を一本吸いきった俺は吸殻を灰皿に入れ直ぐに二本目に火を灯し、再度煙を肺へと飲み込んだ。

 

すると俺の耳にブザーの音が入る、俺に何か用があるらしい。

 

「………誰だ…?」

 

ドアのロックを解除しドアを開き、丁度この時ちょっとした失態に気付いた。

 

「信一郎……?! なんで、煙草――」

「簪か、あー、その……これは、うちの商品で煙草じゃないんだ」

 

ドアを開いた先にはこっちをきょとんと見つめた簪がいた、もしこれがちっふーや山田先生なら大目玉を食らっていた所だ、ある意味助かったと言える。

 

「……話があるの、中に入っても…?」

「いやっ! 駄目だ!! 中は、ちょっと、その、散らかってて…そう、散らかってるからさ!」

「そう………ごめんっ…!」

「あっ、おい! 待て!!」

 

ごまかそうとした俺を押しのけて無理矢理入った簪は俺の言葉も聞かず奥へと行き、俺の部屋を見て絶句した。

 

「ッ……!!」

「あぁ、クソ、だから言ったんだ…散らかってるって……間違ってはねえだろ?」

 

そう、間違ってはいないはずだ、例えそこでなんらかの戦闘が起こったような痕でも散らかっていることには変わりない。

 

「信一郎……お願い、何があったの…? 教えて……!」

 

俺の顔を見た簪はまるで泣きそうな顔で、涙が零れるのを耐えているような顔で、俺へと振り返った。

 

「いや、何も、何も無いんだ、ただ部屋が散らかってるのは――」

「嘘を言わないで!!」

「ッ!!」

 

「一人で溜め込まないで! 信一郎が辛そうなことぐらい! 何かを耐えていることぐらい! 私にだって分かる!!」

 

「お願い……私に、ううん…私じゃなくてもいい、麗羅さんだって、IBISさんだっていい、だからお願い……一人で溜め込んだりしないで……私はもう、信一郎が壊れる姿なんて見たくない……!!」

 

あぁ、あぁ畜生、なんで、バレたんだ。

俺は、俺はお前に見せたくなかったんだ、母さんにも姉さんにも友達にも、ましてやお前に、見られたくなかったんだ。

 

「かん、ざ…し……簪、かんざし、あぁ、ああぁぁ…!! ああぁぁぁぁぁ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

俺の、弱い姿を。

 

「ぢぐしょう!! ちぐじょうっ!! こわい、こわいんだっ!! 助けてくれ!! たすけでぐれぇっ!!! かんざし! かんざしぃっ!! あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

いまはただ、何も言わず、俺を抱きしめてくれ、今俺の心を、助けてくれ、かんざし(愛する人)

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

いつの間にか落とした葉巻は他の物に火を分け与える事もなく消えていた。

俺は簪の胸で抱きしめられただ優しく頭を撫でられている、とても心地よくてまだ簪に甘えてしまいそうだった。

 

「簪、ありがとう、落ち着いた」

「…ん………」

「よければ、俺の話を聞いてくれ、悩みを吐き出させてくれ」

「うん、いいよ……はい」

 

ズタズタに引き裂かれていない方のベッドに腰掛けた俺と簪が隣り合う、俺の右手を優しく握る簪にようやく、覚悟を決めた。

 

「簪、簪の髪飾りは、青色だったな、眼は綺麗な赤だった、髪の毛は水色だった、そうだな?」

「…うん、そうだよ……?」

「じゃあ、簪…いま、今お前の目の色は、髪の色は……何色なんだ…?」

 

俺の右手を握る簪の手に力が入り、強張る。

 

「俺には、俺にはもうこの世界に色が無い、簪……何よりも愛してるお前でさえ、白と灰と黒にしか見えないんだ…!!」

「そんな……!! どうして…?! なんで……?!」

「空は何色なんだ? 土の色は? 草は、木は? いや、そもそも赤色は何だ、青色は、緑は? いや、いや…色とは、色とはなんだ?! 何も分からない!! 何も理解できない!! ACの視界を通せば何色なのかが『文字として』理解できる!! だが、だが俺には、今の俺には色と言う物が分からない!!!」

「信一郎…!! 私が、私がいるからっ………! 例え、信一郎の目が色を映さなくっても……私が傍にいて…教えてあげる…感じさせてあげる……!」

 

簪がまっすぐに俺の目を覗き込む、色は分からないが、俺が覚えている。

俺の両目を覆い、額に口付けがされた、色どころか光さえ入ってこないが、そこには確実に俺の記憶通りの簪と言う色があった。

 

「あぁ…そうか、そうなんだな……分かる、覚えてる、簪の色だ……俺が何よりも愛している色だ、何よりも愛おしい色だ………」

「大丈夫、大丈夫だよ……信一郎、私は変わらない……信一郎の記憶通りでいるから、ずっとあなたの覚えている色でいるから………」

 

 

 

目を閉じ数十分、その間ずっと簪の胸に顔を埋め、簪と話をしていた。

 

「それと、簪…あと一つ、聞いてほしい、多分俺が色を失った原因だ」

「うん、教えて……」

 

目は決して開けずベッドで仰向けになっている俺に覆い被さった状態であろう簪にもう一つを打ち明ける。

 

「能力が、使えなくなった」

「だから、治せないんだ………」

「あぁ、5日ほど前、能力を使おうとした時に脳がグチャグチャになりそうな程の痛みで気を失ってな、目を覚ましたら世界から色が無くなってた、母さんは能力の反動だろう、一年ほどでまた使っても大丈夫になると言ってたが」

「じゃあ、一年の辛抱なんだ……」

「そうだ……もし、簪がいなけりゃ、俺は半年も経たずに死んだだろうな」

 

苦笑いをすると俺の頭が柔らかい物に包み込まれる、耳を澄ますと小さな鼓動が聞こえた。

 

「信一郎、一年間は私が守る側だね…?」

「そうか、そうだな、簪……一年、俺を、この弱い男を守ってくれ」

「今、この瞬間から、私は信一郎を守る騎士、かな?」

「俺は守られる姫ってか、冗談きついぜ」

 

 

「信一郎、今日は……一緒に寝よっか……」

「あぁ、頼む、最近どうも、一人は寂しいな……」

 

簪が俺の部屋の冷蔵庫にある適当な物で夕食を作り、共に食べ、本音ちゃんに連絡を入れる。

二人で腰掛けていた無事なベッドで共に抱きあって目を閉じる。

 

「おやすみ、信一郎」

「おやすみ、簪」

 

一晩、簪の胸に抱かれて俺は意識を暗闇に落とした。




アメコミはデップーと社長が好き、マーベル至上主義です。
実のところ主人公の色覚喪失は予定にありませんでした、んー☆枷追加しちゃえ~い。
そんな気軽な発想から追加されたバッドステータス。
そしてそのバッドステータスの影響で劇薬を酸素のごとく大量摂取する主人公。
簪ちゃんがいるからもう使わないで済むね! やったね!

とでも思っていたのか、そんなに簡単にやめられたら世に薬物中毒者はいないです。

あとオータムとスコールの新しい名前決まりました。
オータムがロシア語での秋「オーシェニ」から「オーシェーニ」愛称はオーシェ
スコールはドイツ語の豪雨(土砂降り)「レーゲングス」愛称はレーグ
マドカちゃんはマドカちゃん。

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