コジマ汚染レベルで脳が駄目な男のインフィニット・ストラトス   作:刃狐(旧アーマードこれ)

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随分と…遅かったじゃないか……。
事故ったので(免罪符)

あと10話ぐらいで纏めようと思ったのに予想以上に進行が遅い悲劇。
まだだっ! まだ(予定の1割も)終わって無い!!
死ねん! この程度では死ねんのだぁっ!!


時には悪役になるのもドアが開かないのも仕方ないね、なお話

小さな部屋の椅子に座る少女はほとんど動かず周りを観察していた。

 

「なんだ……ここは……」

 

その少女が目覚めたのはほんの数分前、ただ拘束されるわけでもなく異常なまでに分厚い強化ガラスの窓、内側から開く事のないドア、シンプルなベッド、ソファーのような2つの長椅子、椅子の間に机のある見た目だけは普通の部屋に寝かされていた。

一応内側から開くドアがあったが、その向こうはただのトイレを備えた浴室でしかない、ただ暮らす分には不自由のない部屋だ。

 

少女にとって腹の立つ事に冷蔵庫まで常備されておりその中身もちょっとした食料やミネラルウォーター、ついでにココアや牛乳、オレンジジュースなど妙に充実している。

 

「ISは奪われたか……私は……捕まったのだな……」

『その通りだ、亡国機業のエージェント』

 

小さく呟いた瞬間機械で増幅された声が部屋に響いた。

 

「…誰だ……!」

『私は誰か、その前にまず最初の疑問に答えよう、そこは所謂独房のような所だ、急ごしらえなので不備があったら申し訳ない』

「ふん……これが、独房か……私にはホテルの一室にしか見えんがな」

『まぁ、それはいい。次はさっきの質問に答えよう、私は……カラードの尋問官、とでも言えばいいかね?』

 

つまり、ここはカラードか、そう理解した少女は即座に脱出するプランを練り始める。

 

『そう、そうだ、まずは君と直接話をしようと思ってたんだ、入ってもよろしいかね? なに、プライバシーは大事だからね、中が見えないんだ、ちゃんと服は着てるかい?』

「ふん、聞き耳を立てている癖にプライバシーか、面白い事を言う」

『それはすまないね、だけどまぁ、いきなり話しかけて脅かすわけにもいかないだろう? それはそうと随分可愛らしい寝言だったね、ふふふ』

「ぐっ!! っく…!!」

 

少女は精一杯の恨みを込めたような顔をするが如何せん顔が真っ赤なので可愛らしくしか見えない。

 

『では失礼、入らせて―――』

 

ガチャリ、と音が鳴る。少女は扉が開いた瞬間入ってきた人物を無力化し、脱出しようと身構えた。

 

「―――いただくよ?」

 

きっと、入ってきた人間が生身であったなら首の骨をへし折って逃げ出しただろう、きっと、ただのパワードスーツを着た人間だったなら蹴り倒して逃げただろう。

きっと、その入ってきた人間が赤と黒の装甲を纏った、気を失う前に対峙した圧倒的な力を持ったモノでなければ。

 

「ッ!!!」

「ロックしてくれ」

 

少女が固まっている間にドアを閉め、ロックをかける。

 

「まぁ、掛けたまえ」

「ふっ…ふぅっ……!!」

 

少女の呼吸が見る見る荒くなり、目もしきりにそこら中へと視線を向けている、流石に彼女にとっては苦しい物があるだろう。

仕方がない、と信一郎はACを解除し自分から先に椅子へと座った。

 

 

- Third Person End -

 

 

「まぁ落ち着け、何も取って食おうと言うわけでもない」

「ッ、触るな!」

 

背中を撫でてやろうと触れた瞬間力いっぱい手を弾かれる、ショック。

 

「そうだ、何か飲むか? それとも何か食べるか?」

「不要だ…!」

 

随分嫌われてて割と真剣にショック。

 

「まぁ、掛けろ、話も出来ん、大事な話だ」

「…………」

 

ようやく、しぶしぶと正面のソファーに座る少女。

 

「まずは挨拶だ、初めてではないが、まぁ一応こう言っておこう。初めまして、俺はカラードの籐ヶ崎信一郎だ、君の名前は?」

「…………」

「まぁ、知っているんだがね、『M』ちゃんでいいかな?」

「それでいい…」

 

ぶっすーと愛想のない子だ、まぁ敵に捕らわれて愛想のいいってのはおかしいんだが。

 

「まずはMちゃんに見てほしい物がある、このマイクロチップに見覚えはあるか?」

「…知らんな」

「だろうな」

「…なぜ聞いた?」

 

殺伐とした雰囲気の中短い受け答えだ、これではなんの面白みもない。

 

「このマイクロチップは微弱な電気を流す事が出来、かつ超小型の爆弾でもある」

「ッ?!」

「威力は大したものではない、破片も散らず、爆竹程度の爆発しか起こさない……その起爆スイッチがこれだ」

 

ポケットからこれ見よがしの起爆スイッチを取り出すとMちゃんが見るからに狼狽している。

 

「…や、めろ……」

「今からこいつを爆発させる、恐ろしい事に別段特殊なコードを使っている訳でもない為類似コードを持つ爆弾などは巻き添えで爆発するだろうな」

「やめろ…!!」

 

蓋を外し、無造作にボタンを押しこんだ。

 

「止めろォッ!!!」

 

するとパンとクラッカーのような音を鳴らしてチップが爆発、黒煙を上げる。

正面をみると項を押さえ目をギュッと閉じたMちゃんがいた。

 

「……趣味が悪かったな、心配するな、君はもう望まぬ戦いをする必要は無い」

「………?」

「このゴミだが、これは君の脊椎に仕込まれていた物だ、君には悪いが眠っている間に摘出させて貰った」

 

「…本当か…? 私は…私は本当に……?」

 

信じられない、本当なのか、信じたい、信じきれないといった様子のMちゃん。

 

『信一郎様、緊急の用件です』

「なんだ?」

『襲撃者です、以前襲撃してきた人物と同一人物かと』

「映像を回せ」

 

壁をスクリーンにして小さな投影機を机に置き、映像を見る。

 

「オー…タム…?」

「ふむ、俺が迎撃、処理するとしよう」

 

スクリーンを驚愕の目で見つめるMちゃんを余所にドアへと近づきロックを解除、ドアを潜る。

 

「!! 待て! 待ってくれ!!」

「そこでゆっくりしているといい」

「お願いだ! お願いします!! オータムを…殺さないで…!!!」

 

閉じたドアをドンドンと殴りつける音とドアの内側から叫び声が聞こえる、しかしてそうハイハイと聞いてやる訳にはいかない、これが契約なのだから。

 

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

『…やっぱ、テメェが出てきやがったか…!』

 

アラクネを纏ったオータムがバイザーの奥に見える表情を歪めた、視線の先にはフォーミュラにも似た雰囲気を持つ紅い鋭角的なACを纏う男。

くつくつと哂うように肩を揺らし派手に両腕を広げた。

 

『ようこそ…歓迎するよ、亡国機業のエージェント。一度引いた身で、素晴らしい執念だ。狙いは、あの女の子かい? かつて君を助けた。

それとも、ひょっとして俺かな? 何でも構わないよ、このシナリオを滅茶苦茶にしてくれれば。

選ばれるのは、二次移行した第四世代機かと思ってた。だけど興味深いね、君のその、仲間への執念は』

『ほざきやがれ、クソ野郎、テメェをぶっ殺してアイツを取り戻す、やらなきゃならねぇ事がある』

 

形状の違うライフルを両手に展開し、背に異なる武器を出現させ赤いアイラインセンサーを光らせる。

 

『君たちのエージェントは大体処理した、もうめぼしいやつは残っていないと思うよ、君以外は。

そして、ここでこれから君も死ぬ!!』

『舐めるなァッ!!』

 

異形ともいえるISの毒々しい色と緑の残光を引く紅い色が一瞬交差する。

それが戦いの火蓋を切る合図だったかのようにレーザーやマズルフラッシュが空を彩った。

 

紅いACが両手のライフルを人が捉えきれない速度で移動しながらアラクネへと連射する。

対するアラクネがその異形とも言える機体にクリーンヒットを発生させず巧みに回避させながら装甲脚からのレーザーや手に持ったライフルを操り紅いACへと攻撃を仕掛ける。

 

紅いACの戦い方は巧いとは言い難かった、機体性能に丸投げしたかのように単純かつ荒い動き、しかしそれでも優勢なのは紅いACだった。

荒い狙いの銃撃は高性能なFCSで修正され的確に危険域へと刺し、単純な動きは人への負荷を一切考えないような異常な速度により凄まじい回避行動へと変化する。

ようやく紅いACへと刺さった弾丸は緑の粒子に掻き消され殆ど全くと言っていいほどに無力と化す。

 

『どうしたんだい、競技用で出た方が良かったかな?』

『この、イカレ野郎が…!!』

『俺からしてみれば、イカレてるのは全部だ、この世界の』

 

いずれアラクネが敗北を喫し、死に至るのは誰の目から見ても明白だった。

監禁された状態で戦闘映像を見せつけられている彼女、「M」から見ても。

 

「いやだ、嫌だ……オータム、オータム…!! 逃げて…!!」

 

その頭の中では彼女にとって大事な仲間が惨たらしく殺されている姿がまざまざと見えていた。

 

『クソ、クソ…!! スコールさえいりゃ、二人掛かりなら…!!』

『スコール? あぁ、黄金のISを使ってた彼女か!』

 

紅いISがまるでスコールを知っているかのような声を出す、楽しそうに、愉しそうに。

 

『まさか、まさかテメェ…ッッ!!!』

 

「そんな、嘘だ、嘘だ、うそだ、うそだ、うそだァッ!!!!」

 

『言っただろう? エージェントは大体処理した』

 

紅いACが左手のライフルを無造作に投げ捨てその掌を前へ突き出し空へと向ける。

 

『君以外にめぼしい奴は残っていない、と』

 

その掌に現れた物は「M」にとって、オータムにとって見覚えのある物、スコールのIS「ゴールデン・ドーン」の待機状態だった。

 

『中々面白い相手だった、でもまぁ、ACに打ち勝つ事なんて出来なかったけど――』

 

左手をおもむろに握ると『バキン』と甲高い音と共に粉々に砕け散る。

 

『――ね?』

 

ゆっくりと掌を開くと手に残っていた破片がバラバラと、サラサラと落ちて行った。

 

 

「嫌だァァァァァァァァッ!!!!!!!」

 

『テメェェェェェェッッ!!!!!』

 

アラクネが武器を片方投げ捨て掌を紅いACへと向け、即座にある物を射出した。

 

『巣』が紅いACを捕らえ身動きを止める、ギチギチと怒りにより震える手で片手のライフルを捕らえた紅いACへと向け、叫んだ。

 

『殺す! バラバラにしてブチ殺すッ!!!』

 

巣に捕らわれた紅いACが腕を動かすがギシリ、と巣が音を立て歪む、それだけだった、諦めたように、ともすれば呆れたように右腕のライフルも捨てる。

『ガコン』と異質な音を立てながら。

 

『死―――』

 

トリガーを引き絞る、その寸前に甲高い音と共に両腕にブレードを展開した紅いACがすぐ眼前へと迫っていた。

瞬間時速4000kmを超える物体を200メートルと離れていない距離で知覚出来る存在などこの世に存在はしない。

 

ドン、と衝撃が走ると紅いACの両拳がアラクネの腹部に突き立てられていた。

 

『――ね……? な、んだ…これ……?』

 

アラクネから小さな声が聞こえた直後紅いACがアラクネを持ち上げ、自分ごと地上へと落下していき、衝撃を走らせ、砂埃を巻き上げ、森の中へと消えていった。

 

数秒の後、二人が落ちた場所で巨大な緑光が球形に炸裂する。

その後にクレーターの中でゆっくりと佇んだ物体は、緑のラインセンサーを輝かせる紅いACだった。

 

『まぁ、こんなもんかね…終わってみると―――』

 

掌を、否…掌に乗るISコアと思しき物を眺めた後、バキンと握りつぶした。

 

『――あっけない』

 

画面の向こうの緑の光がゆっくりと、気だるげに「M」を見た。

 

 

 

「ぁ、ぁぁ…ぁあ、ぁああああああああぁぁぁぁああああああ!!!!!!!」

 

 

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

「御子息殿、誠にお疲れ様ですな」

「やぁ、有澤の社長、いや…本当にこの後の事を考えると、憂鬱になるよ」

 

くつくつと小さく笑いながら有澤の社長が小さく零した。

 

「いやはや、心中お察し致します」

 

適当に手を振りながら離れて行くと目的地のドアの前にたどりついた、精神的にげんなりする。

 

「ちゃんと止めてくれよな、そりゃ数発ぐらいぶん殴られるのは覚悟の上だけど」

 

嫌そうに後ろを振り向くと分かってるわかってると言わんばかりに適当に首を縦に振っている、許し難し。

網膜認証によりドアのロックを解除、風除室のようにドア二層となっている部屋に入り入ってきたドアをロックする、脱走防止のためだ。

いつものオリジナル笑顔を作ってからカードキーを通してドアを大きく広げる。

 

「やぁ! ショーはどうだったかな? 気に入って貰え―――」

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「――ご、ガァッ…?!」

 

顔面に強い衝撃が走り壁に叩きつけられる、覚悟もしていたし予想もしていたが、しかし思ったよりも力が強い。

姿勢を直して立ち上がるよりも早く胸倉を掴まれ何度も殴られる。

 

「キサマッ! キサマァァッ!!! よくもオータムを!! よくもスコールをぉッ!!! よくも私の大切な人達を!! よくも私の大事な人達をッ!!!」

 

何度も殴られているが一番最初ほどの痛みは無い、殴る力も徐々に落ちてきている。

 

「返せッ!! かえせ…ッ! ふたりを、かえせぇ……!! うぅ、うぁぁぁぁぁぁ………!!」

 

ニヤニヤ眺めるのは構わんが速いところ助けてくれんか、顔も心も痛くて堪らん。

 

 

 

 

「そいつがボコボコにされんのはいい気味だが、手ェ痛めるからそこまでにしとけ『マドカ』」

「そうね、拳を痛めちゃ大変よ、もう大丈夫だから、ね?」

 

 

 

「…ぇ、え…?」

 

ようやっと助け船を出してくれたがこいつら二人揃って俺の事全く考慮してねぇ。

 

「な、んで……? どうして……?」

 

不思議そうに目を白黒させて助け船を出した二人、「オータム」と「スコール」を見るMちゃん、いや、マドカちゃんかな?

 

「そうだなぁ、分かりやすく言えば、助けて貰ったんだ、私も、スコールも……そしてお前もな、マドカ」

「ごめんなさいね、隠してて、でもこうするしかなかったのよ」

 

「感動の、再開は…素晴らしい事なのは、よく…分かるが…そろそろ、放してくれないか…?」

 

なぜ殴られる側の俺がゼイゼイ言っているのだろうか、これってトリビアになりませんか?

なりません。

じゃあ妖怪のせいだよ。

違います。

 

「あだっ」

 

ふいに手を離されて地面に落ちる、なんでや、なんで俺の扱いこんな悪いんや。

 

「で、も…だって……二人は……」

「それは後で説明するとして、私達も随分と幸せ者だな、お前に大事な人と言われるなんてな…なぁ?」

 

そろそろ立てそうだ、とりあえず自分で触った感じ歯が逝ってたり骨が逝ってる訳では無さそうで俺チャン自分の強度にドン引き。

 

「ゲホッ、ガホッ……まずは、全員椅子に座ってくれたまえ、後からと言わず、今説明する」

 

俺を立たせようと手を伸ばそうとしたスコールを手で制し、自力で立つ、怪我など大した物ではない。

 

「ぐ、ふ…あぁ、さて、まずは何から話した物か……」

「……全部だ、さっきの事も含め全部話せ」

 

両手でオータムのスコールの服をしっかりと握りしめたマドカちゃんが睨むように俺を見る。

 

「そうか、ならば元から話をして貰おう、スコール」

 

「そうね、私は、いいえ、私たち二人は我慢できなかったの、マドカ…あなたが道具のように扱われている事が…」

「スコール…オータム……」

「あぁ、だから私達はあの肥溜めみたいな組織を裏切ってここに頼みに来たんだ」

 

「聞いた話だが、「M」ちゃん、君はまだ人を殺した事が無いらしいな、故に彼女たちはこう頼みに来たのさ「私達の命もISも何もかもを捧げてもいいからマドカを助けて下さい、あの子はまだやり直す事が出来るから」とな」

「そんな、そんな…!!」

 

「だがその話を聞いて君だけじゃなく二人も助けようとした人がいた、カラードの社長だ、これが元だ」

 

戸惑った様子で二人の顔を見るがその二人は優しい笑みを浮かべてマドカちゃんを見ている。

 

「それで次だ、先ほどの映像はセキュリティの甘い、それこそ多少ハックやクラックを学んだ子供でさえ簡単に盗み見る事のできる回線で記録していた、我々カラードは各国から多数の監視やハッキングを常に受けている、もう既に全世界のトップが今の映像を見ただろう」

 

鼻がムズムズするのでティッシュで鼻をかみクシャクシャにしたティッシュを左手で焼く。

 

「ん゛んっ、つまりだ、各国での君たち亡国機業のエージェント二人は死亡したという扱いになる。スコール、オータム、この二人はもうこの世に存在しない、死んだ者だ。後ほどカラードの人間として新しい記録を作る、それが社長の考案した二人を助ける術だ」

 

まぁ、軍用兵器としてのACの広告も兼ねているんだがね。

 

「君たち二人のISも破棄した、思い入れがあった場合は申し訳ないが十中八九GPSが仕掛けられているだろうからな、その為君たちに二つの選択肢を与える、戦いと離れ、研究員か社員として過ごす道、そして…カラードのACを駆って臨時の戦闘要員となる道、この二つだ」

 

「まって、この子は、マドカはどうなるの?」

 

「勿論彼女にも同じような選択肢を与える、ただ…ACではなくISを使うだけだ」

「まだこの子を戦わせる気なの?!」

「戦いたくないならそれでもいい、約束、契約しただろう、彼女に自由を与えると、いずれこの日の下を気兼ねなく自由に歩き笑う事が出来るようにする、それがカラードの決意だ」

 

「……わたしは、わたしはまだお前を信用したわけではない、だが…本当に、二人を、私を、助けてくれたのならば、私は戦おう、恩返しを、させて貰う」

「マドカ! お前はもう、戦わなくていいんだ、もう自由なんだぞ…!」

 

「自由、か…ならば戦うのも自由だ、私は戦う事しかできない……それしか、知らない…!」

「こっ……の…ッ!!!」

「…分かったわ、マドカがそう言うなら、私も決まったわ……力を下さい、私に戦う力を、この子を守る力を…!!」

「っはぁ……分かったよ、勿論私にもだ、守るための力をくれ」

「二人とも?!」

 

「いいだろう、まぁ可能性も0では無かったからな、用意はしてあるがここには無い、後ほど渡す。さて肝心のMちゃんにだが―――」

 

と話をしているとロックしていた筈のドアがグシャアと嫌な音を立てて抉じ開けられる。

即座にマドカちゃんを後ろに隠すよう庇う二人、俺も左腕の無反動レーザーを起動準備にしてドアを見る。

 

「いぃヤッホー!! 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!! みんなのアイドル束ちゃんだよぉー!!」

 

素手でロックの掛ったドアを抉じ開け満面の笑みで自己紹介をするかの大天災。

 

「……だからその時になったら呼ぶと言ったのに…なにもドアをぶっ壊さなくてもいいだろ……」

 

予定ではあと数十秒だけ後の出番だったのだがどうやら我慢できなかったのかそれとも。

 

「うっさいなぁ」

「困るのは社長である母さんなんだけど」

「うわぁ?! ど、どうすれば……ハッ! 今ここで直しちゃえばいいんじゃん! さすが束さん!」

 

言うや否やどこから取り出したのか初めて見るツールやら工具やら、なんか変な空飛ぶ物体やらが篠ノ之束の周りに現れる。

量子変換独特の発光が無かったので本当にどこから取り出したのやら…。

 

目の前で「トンテンカントンテンカンギュイーン」と言いながら(余談ではあるがそのような実際の作業音は出ていない)見る見るヒン曲がったドアを直している。

変に曲がったドアを素手で無理やり形を整えているのを見ていると俺はまだまだ人間なんだと思えてくるから不思議だ。

 

 

 

 

「んふぃー、久々にいい仕事したぁー! んっんー!」

 

こちらに振り向いてキラキラとした笑顔で額の汗を拭うとにんまりと笑みを浮かべてマドカちゃんを見る篠ノ之束。

 

「はい二人ともどいてー、うんうん!」

 

両手の手首をスナップさせて手を振ってオータムとスコールに退くように促す、二人はちらりと俺の方を見て頷いたのを確認するとゆっくりと退けた。

 

「さぁこっちを見てー? んっふふ、本当にちーちゃんそっくりだぁ、そうそう、ちーちゃんも昔はこんなに可愛らしい顔だったなぁー、不機嫌そうな顔もそっくり」

「あ、あなたは……」

 

「んー、そうそう! れーらさんに言われたもんね、まずは自己紹介だね、私は篠ノ之束、しがない天才の一人だよ、貴女のお名前教えてね?」

「わたしは……わたしは……っ、お、り…おりむ……」

 

ぎゅっと両拳を握りしめ、唇を噛み、苦しそうに表情をゆがませる。

 

「クローン体…クローンナンバー…14号…ッ」

「ノンノン! 違うぜぇ~、超違うぜ~! いいかなっ、私が知りたいのは貴女の名前! 識別番号とかそういうのは今はお呼びじゃないのさ! それにそんな大雑把な識別なら束さんは「大天災」になるしそこのれーらさんの息子なんて「よく分からないつぎはぎのヘンなの」だしね、だから私が知りたいのは貴女の『名前』」

 

依頼はごく単純、篠ノ之束の発言で傷ついたこのヘンなのを励ますだけ、言葉は実弾を使用、なんで最悪こっちが死ぬけど、まぁそのつもりで。

 

「名前…私の……名前は…おりむら、織斑…マドカ」

「おーいぇ、マドカちゃんだね、ならなら~……まーちゃん、かなっ!」

 

にっこりと子供のような笑みを浮かべる篠ノ之束と泣きそうな嬉しそうな複雑な表情をしたマドカちゃん。

 

「じゃあまーちゃんにプレゼント! 158番目の束さんの娘をまーちゃんの為にカスタムした子だよ! 元がイギリスのでそれが変に改造されてたね、コアの最外層にヘンな落書きがしてある感じの! しかもセンスが皆無!! れーらさんが見たら笑うねあれは!」

「158…? コアナンバー269だと私は……」

「269番目? あの子はいまIS学園で打鉄って言うのに入ってるよ?」

 

まぁまぁそんな事はおいといて、と言いながらくるりとドアに体を向ける。

 

「かもん! くーちゃん!!」

 

全員がドアに目を向ける、が。

 

動かぬ事約10秒、ドアが開く気配は無い。

 

「…うわぁぁぁぁぁぁん!! クーちゃんに嫌われちゃったよぉぉぉぉぉ!!!!」

 

くーちゃんなる人物が誰なのかは皆目見当つかないが冷静に考えたら単純にドアのロックが掛かってるだけなのではないだろうか、ロック簡易解除のコードである俺の指パッチンを一度行う。

 

自動ドアがうぃーむと音を出し開いた。

 

「開けーごましおっ……あっ…」

 

扉の向こうにはこちら側に両手を突き出しながら変な呪文を唱える少女、両目を閉じているがその姿、というか雰囲気はらうりーに酷似している。

ごめん嘘付いた、らうりーよりも遥かに常識的にしっかりしてそうだし雰囲気も柔らかい、ただ人工的のような髪色とかがらうりーに似ている。

ごめん嘘付いた、らうり―だけじゃなくて大体の主要人物の髪色が人工的。

 

 

クーちゃんなる人物がドアが開いたのを理解するとその姿勢のままゆっくりと顔を赤く染め始めた。

 

「うおぉぉぉぉぉぁあああ!!! ぐーぢゃぁぁぁぁん!!! ごべんねぇ!! ごべんねぇぇぇ!! だばねざんがわるがっだがらぁぁぁぁ!!! ゆるじでぇぇぇぇ!!!」

「たっ、たばっ…束様…?!」

 

淑女にあるまじき顔を晒しながらクーちゃんなる人物の腰にしがみ付き号泣する世界が羨む大天災。

 

「えと、その、違うのです…ただ、ドアが開かなかっただけで…」

 

「あ、なぁんだよかった! さぁクーちゃん、まーちゃんに新たなる力を授けるのです!!」

 

切り替え早すぎるんですがこれは。

 

「の! 前に!! クーちゃんも自己紹介しなきゃねっ!」

 

「はい、束様。はじめまして皆様、私は束様の……束様の……なんでしょうか? メイド? 部下?」

「家族だねっ! 大事な娘だよ!」

「束様の娘、クロエ・クロニクルと申します。本日は束様が麗羅様に自慢したいとのことで連れて来られました、また、マドカ様に新たなISをお渡しするという役目も承っております」

 

「なんと! この束さんが唯一! ただひとりだけ!! まーちゃんの為だけにカスタムした正真正銘最初で最後の『戦闘用』ISだよ!」

 

てことはですね、本当にこれと対峙するなら今の福音か軍用のACで対峙するしかないってことですね。

 

「最初で最後の……戦闘用…?」

「そっ! でもでも、この子はあげるんじゃなくて貸し出すって感じかな、コトが終われば国同士のいざこざはれーらさんが受け持ってくれるって言うから、ISは全部本当に宇宙開発用になるんだ! だからこの子はまーちゃんが成すべき事を成し遂げたら自由にしてあげてね」

「……はい、深く…心に留めておきます」

「んっ♪ さて、じゃあクーちゃん!」

 

コクリと頷きマドカちゃんの前に歩み出て、まるで結婚指輪が入っているような箱を手渡す。

全員が見守る中息をのみゆっくりと箱を開くマドカちゃん。

 

マドカちゃんだけが箱の中を見れる中数秒制止、ゆっくりと口を開いた。

 

「えっ」

 

オータムもスコールもどうしたどうしたとマドカちゃんの手にある箱を見ると狐につままれた様な顔をする。

その箱から取り出されたのは……

 

「箱」

「あぁ、箱だ…」

 

一回り小さな箱、今度はプレゼントボックスみたいな形状をしている、ご丁寧にリボン付きだそれも花弁のような形状。

 

「んぐふふっ」

「束様、その下品な笑い方をお止め下さい」

 

微妙な表情をしながらまたリボンをゆっくりと外し几帳面にラッピングを剥がす、置いておけば何かに使えるかな、あの紙。

中から現れたのは幾何学的な淡く発光する模様が描かれた立方体、上部にはまさに何かありますよと言わんばかりに円形に発光している。

 

マドカちゃんがその円に触れるとパズルのように開かれ中から指輪が現れた。

 

「…これが……」

「そう、それがまーちゃんの『戦闘用インフィニット・ストラトス(Battled Infinite Stratos)』黒騎士だよ」

 

「……黒騎士…」

「どの指でもまーちゃんにフィットしてくれるよ、好きな所に、ね!」

 

右手の人差し指へとゆっくり嵌めようとしたマドカちゃんが突然それを中断して左手の親指へと指輪を嵌めた。

 

「左手の親指、意味は確か…信念、強い意志を持ち、貫き通す。だな」

「……そうだ、私には目的がある、やらねばならない事がある……」

 

「んふっ、じゃあ束さんはれーらさんとこに行くねっ、ばっははぁい!」

 

クロエ・クロニクル、くろろんの手を引きドアへとずんずん歩いて行く篠ノ之束、目の前に立つも扉が開く様子は無い。

 

「開けゴマ!」

「開きません」

 

「開けごましお!!」

「駄目です」

 

「アプアプカムカムドアドアバンバン!!」

「なんですかそれは」

 

「ひらきっちょんちょめりんげんチャツボにハマってどっぴんドアドアおーーぷん!!」

「束様、せめて私にも分かる言語で…」

 

流石に不憫なのでドアを遠隔で操作して開くとくろろんの方へ振り向きながらすごい笑顔になった。

 

「合ってた! 合ってたよクーちゃん!! でももう束さん今のもう一度言える自信がないかな!!」

「そ、そうですか…」

 

陽気に鼻歌を歌いながら去っていく篠ノ之束、世界を揺るがせた人物とは到底思えない。

 

 

「……さてと、ではオータム、スコール、少し外してくれ。俺は…マドカちゃんと言っていいか?」

「…ちゃんは要らない、マドカでいい」

「わかった、俺はマドカと少し話がある。そんな目で見るな、変な事はしない」

 

「マドカに変な事したらぶっ殺すぞ」

 

チラチラとこちらを見ながら部屋を出て行く二人を見送り、ドアがロックされたのを確認して目を前に向ける。

 

「やっと落ち着いて話ができるな、どれ、飲み物でも飲むか?」

「……貰おう」

 

特に何というものでもない市販のココアを紙コップに注ぎマドカの前に置き、向かい側の椅子に深く座りこんだ。

 

「まどっち、君に会って貰いたい人物がいる」

「まどっち?! な、なんだそれは?!」

 

椅子から乗り出して俺の方へと迫り問い詰めてくるがちっふーよりも幼さの残った可愛らしい顔で怖くは無い。

 

「この会って貰いたい人物だが、君もよく知る人間だ、しかし相手は君を知らない」

「まて、おい! 話を進めるな!!」

 

子犬がきゃんきゃんと吠えるように可愛らしい抵抗を続けるまどっちを無視して話を続行。

 

「いっちー、織斑一夏だ」

「ッ!!」

 

「お前ッ!! ふざけているのか?!」

「いいや、大真面目だ。生憎二人と約束したからなお前を自由にする、その為の一過程だ」

「ふざけるのもいい加減にしろッ!! 私に殺されたいのか?!」

 

胸倉を掴んでいるが身長も筋力も体重も圧倒的にこっちが勝っているので服が上に押し上げられているだけだ。

 

「…オータムから聞いていないのか? 殺せない化け物だと」

「ッ…!」

「まぁ、放せ。いったい何が不満なんだ、何が心配なんだ」

「不満だと?! 心配だとッ!!」

 

右手で俺を掴む手をトントンとあやすように軽くたたくとゆっくりと手を離し顔を下に向けた。

 

「…たしは…クローンなんだ……認められるわけ…会えるわけ……ない、じゃないか…!!」

「こっちを見ろ……わかった、なら見なくてもいい、だからよく聞け」

 

床にぽたりと雫が落ちる、仕方が無いのでこっちを見せる事はあきらめる。

 

「いっちーはな、俺の親友はな、そこまで器の小さい男じゃない、そりゃ鈍感だし馬鹿だ、でもな、アイツほど底が抜けてると思えるほど器のでかい男は見たことが無い。会いたいんだろう、見てほしいんだろう、認められたいんだろう、だから逃げるな、どうせ何時かその時は訪れる、恐れるな、その時間が来ただけだ」

「…………」

「わかってくれたか?」

「…あぁ…」

 

小さく肯定の声が聞こえたのでまどっちの頭に右手を乗せ撫でる。

 

「よーし、いい子だ」

「触るな……」

 

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

「へぇ、ここがシンの実家…カラードの本社かぁ」

「そうだ、さていっちー、忙しいところすまんが大事な用件でな、なんとしても来て貰うしかなかった、見学はまた今度だ、早く来い」

 

きょろきょろとそこらを見渡すいっちーに早く着いて来るように促し先を急ぐ。

 

「うぁっと、す、すいませ」

「おっと、すまねぇな」

 

 

「…なぁシン」

「どうした?」

「なんかさっきぶつかった人、どこかで見た覚えがあるんだよ」

「知らんな、気のせいじゃないか?」

 

いっちーの方を見るついでに後ろを見ると最近入ったばかりの新入社員の後ろ姿だった。

気のせいじゃなかったな、旧名オータムだわ。

 

「なぁシン、その、何の用件なんだ?」

 

いっちーが心配そうに俺に尋ねる、このあたりは最近増築した居住区域なのもあって人が極端に少ない、それで心配になったのだろう。

 

「……なぁいっちー、前俺に妹がいるって言ったよな」

「あ、あぁ…」

「いっちーの周りに妹を持っている友人はいるか?」

「妹…弾か、いるぞ」

 

立ち止り、後ろに振り向き腕を組みながらいっちーを見据える。

 

「妹の事をどう思っているか、聞いた事は?」

「ある、俺はそう思わないんだけど乱暴でガサツだって言ってた、でも……たったひとりの大事な妹だ、何をしてでも守るべき妹だって言ってたな」

「…そうか、俺にとってはな、妹を守れるのは兄の義務であり権利なんだ、うちの社員全員そうだが、俺にとっては世界すべてを敵に回そうが、両の瞳を灼かれようが、唯一残った腕をもがれようが、幾千の命を奪って万の刃を受けようが、護るべき対象だ」

「あ、あぁ…」

 

「大事な用件ってのは人に会って貰う事だ」

「それが…どうして?」

 

「……本当に鈍いないっちーは、会って貰いたい人物の名は『織斑マドカ』お前の妹だ」

 

「俺の……妹?」

「そうだ、そして妹を持つ兄として一つだけ言っておく、いっちー、お前の妹を嬉し泣き以外で泣かせてみろ」

 

 

「お前をぶち殺すぞ」




シン君最近の若者のごとく「殺すぞ」なんてよく言いますが今回最後の「殺すぞ」だけは本気で言っています。

Q.オータムとスコールの名前変わったの?
A.変わりました。

Q.後々出てくる?
A.出て来ないかも…

Q.と言うかちゃんと考えてる?
A.(考えて)ないです。


訳の分からないセリフAC以外出典元。

「開けゴマ塩」
ギャグ漫画日和

「アプアプカムカムドアドアバンバン」
「ひらきっちょんちょめりんげんチャツボにハマってどっぴんドアドアおーーぷん!!」
アルトネリコ1

両の瞳を灼かれようが、唯一残った腕をもがれようが
パンプキンシザーズ
「たとえその瞳(め)を灼(や)かれても たとえその腕(かいな)をもがれても」

幾千の命を奪って万の刃を受けようが
謳う丘~Salavec Rhaplanca.
「幾千の魂(たま)裂いて 万の剣(つるぎ)受けようと 構わない 君だけが せかいのすべて」

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