コジマ汚染レベルで脳が駄目な男のインフィニット・ストラトス   作:刃狐(旧アーマードこれ)

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遅かったじゃないか…目的は既に果たしたよ、彼女がな…
残るは肉膜による幕引きだ……

今回より原作から大きく脱線を始めます。
また活動報告に書いたものの殆どまる写しになりますが以下の事にご注意ください。
全体のプロットが納得いく形で決まりました。
現在行っているキャノンボールファスト編から流れが大きく変わり終結へと向かっていきます。
また、プロットなどの関係上ギャグが息を引き取り、シリアスな方へと動きます。
私の性格上ゴア表現(人体の欠損)やグロテスクな表現が多くなりがちです、どうかご留意ください。


キャノーラ・ブレイク・ファストだったか何だったかの準備のお話と裏のお話

珍しく簪とは別行動で機体構成を弄りながら頭を捻っていると不意に肩を叩かれる、叩かれた方向に首を向けるといっちーが指を突き出していたらしく頬を突付かれた。

 

「引っ掛かったな」

 

若干イラッとしたので左手でいっちーの手を固定し指で頬を突かれたまま首をまだ横に向けいっちーの指に負担を掛けていく。

 

「い、痛っ、ちょっ…待っ……指痛い指痛い!! てか頬硬ぇな!!」

「折れろ」

「冗談じゃなく折れるから!!」

 

解放すると指を押さえながら息をふーふー吹きかけている、それで治ったら苦労はせんよ。

 

「俺の指が折れるかと思った……オレ、の指が、折れ、るかと思った」

「腕相撲しよう、左手で」

「腕が折れるだろ」

 

人間には15本も骨があるのよ、15本ぐらい何よ。

 

「ところで、シンは何してるんだ? ホログラム画面には何も映ってないけど」

「ほら、あれだ…その……なんちゃらファスト……ブレイクファスト? に使う機体のアセンブル、画面が見えないのは俺意外に見えないように設定してるだけ」

「朝飯じゃねぇかよ、キャノンボール・ファストな。て言うかシンなら最速ってかアレあったろ、ほら…ナインボール? ってやつ」

「こっちは、通常のネクストACを使うよ。セラフだと、たぶん戦いにならないからさ」

「何のつもりだ? そうやって挑発して、そちらに、どういうメリットが?」

 

そっちの方が楽しいだろ! マハハハハ!

 

「まぁこっちはこっちでそれなりに忙しい、チョッカイ掛けるなら他のヤツにしろ」

「うん、まぁその他のヤツにも忙しいって言われたんだけどな」

「そりゃそうだろ、ここまで来てお前ほど呑気なヤツはいねぇよ、簪だって俺とは別行動で整備室に篭ってる」

「む、そう言われれば俺もそう呑気にしてられないな、よし、山田先生に指導願ってくる」

「そうしろ、あの人何だかんだ言ってちっふーと代表の奪い合いしたツワモノだからな」

「マジかよ」

 

マジだよ、ちょっとぐらい自分の副担任の事調べろよ、実はチートスペックのドミナントだよあの人。

手を振ってきたいっちーに手を振り返し再度アセンブル考察にずぶぶと埋まりこむ。

 

単純に早いだけならソブレロでいいんだが攻撃を受けることも考えなければならんのでソブレロでは少しキツイ。

まずスタートにVOBを使うのは大前提として大きなカーブ前までにトップまで加速、その状態でVOBをパージし、自壊させ後続への障害物にしたい。

すると以後はOBとQBを駆使しトップを維持しなければならない、故に必然的にOBの継続能力も高く無ければならないがそうすると一瞬でENが尽きる速度特化機は軒並み選択肢に入れ辛くなる。

逆にOB継続能力の高いアルギュロスになるんだがコイツは遅い、重量機ゆえ仕方ないんだが。

速度に尖らせてアドバンテージを一瞬で得てアドバンテージを利用しENとKPを回復、回復後すぐにOBで再スタートと言う戦い方をするか、もしくはアルギュロスで敵の後ろに付く事前提で前の敵を撃破して勝つタイプか。

 

VOBの改良を申請して速度を若干落とす代わりにカーブできるようにしたほうが早い気もしてきた。

 

「あ゛~、ままならんもんだ」

「む、籐ヶ崎か…一夏を見なかったか?」

 

椅子で身体を伸ばしていると後ろから声を掛けられたので伸ばしたまま首を後ろにもたげると逆さまのモッピー、まぁ当たり前だが。

 

「モッピーか、いっちーならブレイクファストの訓練で山田女史に教えを乞いてる」

「ふむ、そうか…」

「いつものアレ? いっちーと一緒に居たい系ヒロイン?」

「なっ、ばっ、そ、そんなわけ無いだろう! 私はただ、その……機体の…その」

 

あーあ、もうセラフっちまおうかなー、面倒臭ぇなぁ、痛覚全部潰してアレサしようかなぁ、もう俺の変わりに姉さんに出てもらおうかな、それともフランのレヴァンテイン借りようかなぁ。

 

「そ、そうだ! 私は一夏に機体の出力調整の事で相談をだな! 出力調整のみで出場するのは私と一夏だけだから!」

「え? なに? 聞いてなかった」

「き、聞いてなかっただと…」

「いや、俺だって忙しいのよ、逆にそっちは出力調整だけで済んでいいなぁ、楽な物だな、ふらやましいよ」

「決して楽ではないぞ?!」

「俺なんか数千に及ぶパーツから場合によっては何百億と言う組み合わせで考えなきゃならんのだぞ、億だぞ億、お前仮にパーツが2セットで外装だけだとして32通りだぞ」

「す、すまない…」

「な? 楽なもんだろ?」

「う、うむ……」

 

まぁノーマルACとVACは速度が追いつかんので選択肢に入らんのだがね。

 

「で、では私はまた作業に戻る。忙しいところすまなかった」

「いいさ、だがまぁ、どうしようかねぇ……VOBでも改造するかなぁ…」

 

面倒だ、面倒くせぇ、いいか俺は面倒が嫌いなんだ。

なんて思っているとアラームが鳴り響き眼前のホログラムディスプレイにアラーム表示が現れる。

 

「あー、もうそんな時間か……しゃーねぇ、仕事にかかるとするか」

 

仕事を始める時間として設定していたアラームだ、部屋から持ってきていた書類を手にとって既に冷たくなったコーヒーをズズズと啜りながらチェックと修正、許可印を押していく。

 

「…無人機との差別化、か」

 

その内のひとつにふと気になる事柄があった、有人機と同様の無人機があると仲間内で小さな混乱が発生するため無人機は無人機で完全に企画化して纏めてしまおうという案だ。

いくつかの試作デザインとカタログスペックが写真や設計図、もしくはイラストで載っている。

 

「……なるほど、確かにこいつは…ッ!!」

 

その中でひとつ、カタログスペックとデザインに大きく惹かれるものがあった、これは使える。

 

「姉さん、本社の……原案アクアビットかよ……アクアビットのリーダー、フレドリカに繋いでくれ」

『………繋がったよ』

 

出だしに馬鹿みたいな声量の声が響くの予想できたのであらかじめ音量を半分に落としておく、そうでもしないと俺の耳が持たん。

 

『しぃんいちろぉくぅぅん!! どおしましたかぁっ?!』

「うっるさっ……あー、俺に送ってきた書類なんだけど」

『んぁあ、送りましたよぉ、でも私の記憶が正しければ割りとたっくさん送ってたと思いますがぁ?』

「あー…無人機と有人機の差別化、企画書類W号なんだけど」

『あぁ、あれですねぇ? それについてですかぁ?』

「そう、んでそれなんだが一機だけでいい、有人機化できない? 俺のAC規格に合う形で」

『出来ない事も無いですがぁ…AC以上にエネルギー喰いますよぉ? それに人が乗れる構造じゃありませんしぃ』

「コアは俺が新しく都合する、構造なら多少サイズが変わってもいい」

『それならぁ……どう小型化しても4~5メートルですかねぇ?』

「通常のVACか……飛行形態時のユニットもあわせるとどれぐらいになる?」

『アレもですかぁ?! 15か16メートル近くになってしまいますよぉ?!』

「それでもいい、キャノンボールファストまでに仕上げれるか…いや、仕上げてくれ」

 

そう言うとホログラムの向こうのフレドリカが若干イッてるいつもの表情からキョトンとした顔になり珍しくクスクスと控えめに笑う。

 

『く、ふふ、信一郎君、それ、中々無茶苦茶ですよぉ? 一ヶ月も無いじゃないですかぁ!』

「分かってる、だがフレドリカ、お前なら出来る。俺はそうとしか思えんのだが」

『……………アハ、アハハハハ、ヒャハハハハハハハッ!!! 最ッ高!!! 最高ですよぉぉぉぉ!! 最高の殺し文句じゃ無いですかぁぁぁ!! えぇそうですよぉ! そうですとも!! 私なら出来ますぅぅぅ!!』

「いいね、信じてたよ」

 

『で・す・が!』

 

「ですが?」

『とてもじゃありませんが一人じゃ無理ですよぉ? チームV、もとい企業を基本として動いてもらって我々がエネルギー関連、ブースター関連をクーガーとアスピナ、武器をオーメルやMSAC、レイレナードやインテリオルにも協力して貰わなければなりません、場合によっては社長にも手伝ってもらわないと駄目かもですよぉ?』

「キャノンボールファストまでに出来るか?」

『馬鹿にしないでください、一週間で完成させますよぉ』

「く、ッキヒャハ! 最高だ! 最高だぞフレドリカ!! 簪の次の次の次の次ぐらいに愛してる!! 社に帰ったらチューしてやる!!」

『んあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♡ 待ってますよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

 

各部署に連絡、次期社長の命令です。最優先で取り掛かってください。と周りに指示を出す凛々しいフレドリカを最後に通信が切断される。

いつもアレぐらい真面目なら結婚相手なんざ腐るほど見つかるだろうに。

 

さて、あとは本社を信じて待つだけだ、むぅん…時間がかなり出来てしまったぞ。

 

 

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ところでフランは専用機枠で出るんだろうか、それとも一般枠で出るんだろうか。

 

というわけでやって来ました1年4組、正直学祭のときの例の女生徒が怖くて仕方ないが、暇なのはいかんともしがたい。

 

「ノックしてもしもーし、フランいるー?」

 

顔をひょっこりと出したら一番近くにいた生徒が俺のほうへ振り向いた、どこかで見覚えのある―――。

 

「あ、籐ヶ崎く―――」

 

例の生徒だった、無言無表情で全力でバック、壁に背を叩き付けるレベルで背中を壁につけ若干震える右手でシガーケースを取り出し、中の葉巻とシガーパンチを手に取る。

吸い口にシガーパンチで穴を開け、マッチで火を点け口に銜えてゆっくりと煙を口に含み肺へと流し込んだ。

 

実はこれ煙草ではなく薬用の精神安定剤(カラード製)だ、元々は錠剤だったのだが取り乱しながらザラザラと口に入れるよりは多少マシな見た目だろうとこの形にされている、電子煙草型ではないのが密かなウリらしいが手順が多い、やりなおし。

ちなみに俺専用に調整されている、幻肢痛対策のものなのでかなり強力だ、一般ピーポゥにはお勧めしない。

過ぎたるは及ばざるが如し。

 

「ふぅ~スッとしたぜぇ~~」

「籐ヶ崎、校内で煙草とは随分いい度胸じゃないか、えぇ?」

 

横を見るとにっこりと笑みを浮かべたちっふー、いや、違うのよ、煙草じゃないのよ。

 

「おれはらうりー比べるとチと特殊な体でな~~~~~ 幻肢痛で トチ狂いそうになると 精神安定剤で 頭を冷静にすることにしているのだ。幻肢痛じゃないけど」

「煙草ではないというのか」

「葉巻タイプの精神安定剤はムラクモ製薬、お近くの薬局にて販売中」

「そうだとしても火を使うのは関心しない、消せ」

 

葉巻ってのは紙巻と違って押しつぶして火を消すもんじゃないんだけどなー、と考えながら火を消した後携帯灰皿に入れる。

 

JAPANESE MOTTAINAI

ちっふーが周囲をくるりと見渡し俺に小さな声で尋ねた。

 

「…………まだ、克服できそうに無いか…?」

「あ、これは例のものと関係ないです、別件です」

「まぁ、いいだろう、以後気をつけろ」

「うぃっす」

 

ちっふーが去る様子をヤンキー座りで眺めてたら前のドアからフランと簪が顔を出す。

 

「信一郎さん、どうしました?」

「フランに用って……?」

 

二人揃って不思議そうな顔をしている、いつもは簪に直行だったからな、フランも簪も分かりかねているんだろう、もしくは会社関連のことだと思っているか。

 

顎でクイと指し示しついてくるように促す、屋上に到着し端のほうに陣取り音が聞こえないよう透明の遮断フィールドを形成する。

周囲を見渡していい具合。

 

「あぁ、それなんだがな…フランはキャノンボールファストのどっち側になるのかと思ってな」

「それでしたら量産機側ですよ、信一郎さんもご存知のとおり私はACの扱いが上手くありませんので」

「……え? フランって専用機……持ってたの…?」

 

公式に使用したことはないからな、会社での実験で本人が使用した他俺が試運転をした位だ、俺や他のトップランカーが使用した際の単体戦力は少なくとも量産型ナインボールを超えている。

セラフ? 無理。

 

「俺と同じ形式のACで手首に付けているリストバンドが待機状態、と言うかコールデバイスだ」

「私のレヴァンテインはデータスペック上は特殊なACを除き最強戦力と言って差し支えはありません…が」

 

フラン、AC使うの下手なんだよね、いくらIBISが操作しているとはいえ量産IS一機に負けたからな、普通はありえない能力比なんだが。

 

「なぜかフランは量産ISを使った方が戦績がいいもんな、操作システムはほとんど同じなのに」

「ひ、ひとには得手不得手があります…」

「まぁそれでいいさ、いざとなりゃ俺が守る、妹を守れるのは兄の役得だ」

 

フランの頭をガシガシと撫でつけると笑いながら止めて下さいと小さな抵抗をする、なんだか面白くなったのでまだガシガシと撫でていると何度も「もう、止めて下さい」と言う。

 

「ほれほれ、んふーふ」

「もう、兄さん、止めて下さいよ」

「うりうり」

 

「本当にやめて下さい」

 

マジトーンで怒られた。

 

「あ、いや、その…うん、はい。こ、これはすまなかった…ご、ごめん」

 

「ところで、兄さ…信一郎さんは機体がお決まりに?」

「あ……それは、気になってる……」

 

フランにならバラしてもいいんだが簪は一応勝負するからなぁ、言っていいもんか悪いもんか。

 

「そうさな、新型を使う事にする、細かいことは秘密だ」

「ふーん……ねえ信一郎、私の乗る機体……教えてあげよっか…?」

「いや、駄目だろう」

「私の乗る機体はね………う・ち・が・ね・に・し・き」

 

あ、お、おぉん(納得)

そんな艶っぽく囁いてくれなくてもいいのに、しかも一々耳元で、興奮するじゃない。

 

 

 

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―Third Person―

 

黒い髪の少女が蒼いISを纏い暗い灰色の空を飛ぶ、表情は感情を押し殺したかのような無表情で虚空を見つめ、ヘッドアップディスプレイに表示されたリングを通過し同じくデータ上で表示されたターゲットを撃ち貫いた。

その様子を白衣に身を包みやせ細った顔にぎょろりと目を浮かせた男がニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「クローンナンバー14号、ふふ、調子はどうですか?」

 

男に14号と呼ばれた少女がギリと表情を歪め、嫌悪感を隠そうともせず舌打ちした。

 

「最悪だ」

 

男がそれを聞くと「ふむ」と一言つぶやき腕に装着した機械を操作する。

 

「ぎぃっ?!」

 

少女は突然目を見開き苦痛の呻き声を上げた、中空で首の後ろを押さえ激痛にのた打ち回った。

痛みはまだ治まらず、少女が叫び声を上げる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!!」

 

男が再度腕の機械を操作すると少女の痛みは治まりジリジリとした鈍痛を残していく。

 

「が、ぁぐっ…! っはぁ! ふーっ…」

「14号、誰が自身の調子を伝えろなどと言いましたか? ISの調子を伝えろという意味を込めたのですが、14号には分からなかったようです、これだから頭の悪い生命体は困りますね。さて14号、頭の悪いクローン体であるあなたにも分かるように言ってあげましょう、私が改良を施したISコアナンバー269の調子は如何ですか?」

 

「く、はぁ…ッ、…良好だ……ッ…!」

「えぇ! えぇそうでしょうとも!! なにせかの大天才篠ノ之束嬢に次ぐ天才の私が改良を施したのですから! 世界は狭い、しかしその狭い世界で唯一ISコアの解析に成功したこの私が!!」

「もう、私に用は…無いか」

「あぁ、えぇ、もうあなたは戻って下さって結構ですよ」

 

もう言葉を交わす必要など無い、と言うかの如く男に背を向けて少女はISを解除し歩き始めた。

 

「あぁ、そうです。14号」

「………なんだ」

 

「あなた、今は織斑マドカ、と名乗っているそうですね?」

「ッ!!」

 

男の言葉を聞いた瞬間少女、マドカが憎悪の表情を浮かべ歯を食いしばる。

 

「確かにあなたは織斑一夏のDNAから製造されたクローンですが、製造者は私であり、人ではなくただの「物」だという自覚を持った方がいいですよ、使うも廃棄するも私次第だという事を忘れないように、物は使われてこそ幸せなのですから!」

 

マドカは何も言わず男のいる部屋から早足で出ていく、男はただ篠ノ之束とISに行き過ぎた賛辞を述べ、同時にいかに自分がどれほど素晴らしいかをオーディエンスの全くいない空間へ披露していた。

私はいずれ神になる、篠ノ之束(かみ)と並び立つ全知となる、と叫び、酔いしれながら。

 

 

 

 

「ッァアアアアア!!!!」

 

誰もいない廊下でマドカが拳を壁に叩きつけ、ヒステリックに叫んだ。

 

「私は、私は織斑マドカだ!! 14号じゃない!! 私はッ! 私は…!! 私は………もの、なんかじゃ、ないはずなんだ……」

 

視界は歪み、声は震え、全身から力が抜けていく、ズルズルと壁にもたれかかるように視界が落ちる、嗚咽を漏らし、涙をぼろぼろと零し、泣き崩れる姿はただのか弱い少女にしか見えなかった。

 

「くそっ……! クソォッ………!! ぅぅ、ぁああああ…!! だれかぁ……だれか、たすけてよぉ……いやだ、いやだよぉ…! おねえちゃん、たすけてぇ……たすけてぇ……! おにいちゃん……たすけてぇぇ…!!」

 

 

 

廊下の向こうから靴の音が反響しマドカの耳に入る、するとヨロヨロと立ち上がり目元を拭い息を整えるために深呼吸をした。

 

「あら、マドカ、どうしたの? こんなところで」

「なんだ? 不貞腐れてでもいた……お前、泣いてたのか」

 

マドカが顔を上げるとそこには同じIS部隊の二人、金糸のような髪を持つスコールとマドカを心配するように手を差し出すオータムがいた。

 

「ふん、なめるな……この私が泣きなど、するものか……!」

「目ぇ真っ赤にして目元を腫らした面で、説得力ねぇぞ、この馬鹿」

 

手を払ったマドカを引き寄せ抱きしめたオータムが悲しそうに呟く。

 

「泣いてなどいるものか、私は、織斑だ、織斑マドカなんだ、人の前でなど、泣けるものか……!!」

「……マドカ、あなたは強い子よ、でもそうやって何もかもを耐えてしまえば貴女は壊れてしまう、泣きたい時には泣いていいの、貴女はまだ子供なんだから、大丈夫よ、私達以外、誰も聞いてやしないわ」

 

スコールがマドカと目線を合わせるように屈み、頭を撫でる、小さな子をあやすように。

 

「っふ、う、ぐぅぅ…あぁ、うわあああぁぁぁぁぁぁ!!! わだしは! わたじはぁ!!」

「何もかも、吐き出しちまえ、楽になるならそれがいい、お前が望むなら忘れてやる」

 

「わたしは! わだしはなんなんだ?! 14ごうなんかじゃ! 14ごうなんかじゃないんだ!!」

 

慟哭に雑じる叫びを聞くオータムが表情を歪め、スコールがギチリと拳を握る。

 

「わたじはひとだ!! ひどでありだいんだぁっ!! いきでいるんだっ!!!」

「ッ………!!!」

「それどもッ! それともほんどうに!! わたじはアイツのいっだどおり! モノでしがっ! ないのかぁっ?!」

 

「貴女は、貴女は人よ。間違いなく、貴女は一人の人、織斑マドカよ」

 

オータムに言われたように、何もかもを吐き出すようにマドカが二人に縋りつき、泣き叫ぶ。

 

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

数十分と泣き続けたマドカはオータムの背に体を預け小さな寝息を立てていた、その表情は穏やかで到底テロ組織のエージェントには見えない。

二人はIS部隊に充てられた部屋へと歩みを進めていた、唐突にオータムがISのごく一部を展開し小さく周りを見渡しすぐにISを解除した。

 

「……スコール、少し話があるんだが、外で景色でも見ながら話さねぇか」

「いいわ、多分、私もあなたと同じ事を考えている」

 

マドカに割り振られた寝室のドアを開け、ベッドにマドカを優しく寝かせ髪を撫でるように梳く、スコールがマドカの額に口付けし、ただ一言「おやすみ」とつぶやく。

 

「あら、どうしたの? オータム、拗ねちゃった?」

「まさか、その程度で拗ねるわけねぇだろ?」

 

くすり、と二人で笑い合いそっと部屋のドアを閉め部屋を後にした。

 

 

 

カップ入りのコーヒーが湯気を立てる中二人は横に並んでいた、まるでガードレールのようにも見える柵にオータムは腰を預け、スコールは肘を乗せ体重を預けている。

 

「………大丈夫よ、監視は無いわ、じゃあ、話を始めましょうか」

「あぁ…………なぁスコール、私はもう我慢ならねぇ、元々あんな子供を戦わせる事自体反対なんだ」

「そうね、もう私も我慢の限界よ、世界平和のため、争いの無い世界を作るため、本当に下らない口車に乗せられた物ね」

 

グイ、とコーヒーを飲み干したオータムの右手がブルブルと震え、カップをグシャリと握りつぶした。

 

「あのクソ野郎はあいつを、マドカを物だと言いやがった! あの本当は優しい、誰よりも人間らしい寂しがりなあいつを!! ……私達はもう何度もこの手を血に染めた、けどよ、あいつはまだ引き返せる、まだ光の下で歩ける」

「そうね、だから私は、いいえ、私達は、裏切り者にでもなりましょうか」

「あぁ、なってやるさ、だがまずはあいつに付けられた首輪を外さねぇとな」

 

スコールがコーヒーを一口飲み、一つ息を吐き難しそうな表情をする。

 

「でも、あの子の首輪は頑丈よ、脊椎内部に嵌め込まれているのだから」

「胸糞悪ぃ、わざわざ胎児の状態に取り付けて成長過程で脊椎内部に収まるようにしてるんだったな」

「これで平和のためだなんてのたまっているんだから、笑いものよ」

 

「あいつの首輪を外せる奴か、これほど身内が信用できないってのも、珍しい」

「………あるわ、一つだけ、当てが」

「本当か…?」

 

珍しくスコールが戸惑ったような表情を浮かべ言うべきか、言わぬべきか迷う。

 

「スコール、わかるだろ、今は藁にでもなんでも縋らねぇと駄目なんだ」

「そう…ね……、じゃあ、言うわよ……」

 

ぽつり、と小さく一つ呟く、それを聞いたオータムが驚愕の色に表情を染め、口を開き、声も出さず閉じた。

 

首輪(カラード)に首輪を外して貰う…か、シャレにもなんねぇ、第一、そことは一度敵対してるじゃねぇか」

「そう、そうなの、でも、でもそこか篠ノ之束しか、多分外せない。きっとあの男でも外す事はできないわ」

「ISを手土産にすりゃあ、いや…いや、駄目だ、あそこは、あいつらは、『既にISを量産している』…!!」

 

「……あそこの社長は随分変り者だという話よ、オータムの言う通りだわ、もう形振りなんて構ってられない」

「どう言うことだ…?」

「交渉してくる、オータム、貴女のアラクネ、私に預けて頂戴、上手く行くか行かないかは、神のみぞ知る…ね」

「馬鹿言え! 一度敵対してるんだぞ?! それにスコールは奴らに既に声を聞かれている!」

 

カップを傾け、温くなったコーヒーを飲み干したスコールがクスリと笑う。

 

「だから言ったでしょう、形振り構ってられない、あの子を助ける為なの、あの子の命と自由、私の命とIS、到底釣り合わないけど、いいのよ、出来ればもっと交渉材料が欲しいけど時間もないわ」

「クソッ……」

「次の作戦であの男は、あの子の命を使い潰す気だから」

 

オータムが手に持っていた潰れたカップを地面に叩きつける。

 

「クソが、クソがクソがッ!! 本ッ当に胸糞悪ぃ!!」

「ねぇ、オータム……」

 

スコールが顔を伏せたままオータムの首に手を回し抱きしめた、悲しそうな笑みを浮かべて。

 

「最後になるかもしれないし、思い出づくり、しよっか」

「こ、の……不吉なこと、言うんじゃねぇよ……スコール、絶対に帰ってこい、五体満足じゃなくてもいい、ボロボロでもいいから、帰ってきて……」

「あら、じゃあ思い出作りはいらない?」

「からかうなよ、こんな時に」

「ごめんなさい……うん、うん…約束する、絶対に帰ってくるわ……」

 

触れ合うような浅い口付け、影が繋がり一つとなり、すぐに離れた。

 

「ふふ、で……どうする? 思い出づくり」

「するに決まってるだろ、今日は私がリードする。足腰立たなくしてやるさ」

「それは困るわ、明日はさっき重要な用事が出来たのに」

 

 

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

 

スコールは困惑した、ここの社長は何も考えていないのかって。

と言うのも現在最も会いたかった目的の人物がまるで最初からアポイントメントを取っていたかの如くスムーズに会えたうえに目の前で自分の話を疑おうともせず純粋なまでに信じ込み、自分でも若干引くほど大号泣していたからだ。

 

「あなだぁぁぁ! ディッシュ、ティッジュもっでぎでぇぇぇぇ!!」

「あの……信じて下さるのはありがたいのですが、嘘だという可能性は考えないのですか……?」

「わがるもの゛っ! わだじあたまがいいがらっ!! チーンッ!! 嘘か本当かぐらい、んあぁぁぁぁ!!」

 

ティッシュは二箱目に突入した。

 

「ンァッ! ハッハッハッハー! そのマドカちゃンフンフンッハアアアアアアアアアアァン! アゥッアゥオゥウアアアアアアアアアアアアアアーゥアン! マドカチャンァゥァゥ……アー!マドカちゃんを……ウッ……ダズゲダイ!」

 

彼女は女の子を救ってあげたかった。

だからスコールの話を詳しく聞こうと思ったけど先ずは自分が落ち着かないと話もできないことを理解した。

しかし彼女が落ち着くのにはあまりにも膨大な時間が必要だった、気を利かせた秘書が持ってきた紅茶を3回空にする程度には。

 

「う゛ん゛ッ! ズズッ! ……ふぅ、落ち着いた」

 

キリッとスコールを正面に真剣な顔をしたがその目は昨日のマドカに負けず劣らず真っ赤だった。

 

「さて、では話を再開する前に確認です。貴女は亡国機業のIS部隊リーダー、スコール・ミューゼルさん、でいいんですね?」

「はい、本名は別ですが、その通りです」

「そして貴女とオータムさん、以前遊びに来た方ですね? 貴女方二人はマドカちゃんを助ける為に亡国機業を裏切る、でいいんですね?」

 

スコールが深く頷いた、目に迷いはなく真剣そのものだった。

 

「マドカちゃんは脊椎内部に特殊な機械が埋め込まれていてそれを取り除けるのは私達カラードか束ねちゃんだけだろうから、藁にも縋る気持ちでここに来た」

「はい、お願いします、私の命でも我々が所持するISでも、亡国機業の情報でもなんでも提供します、ですので……どうかあの子を、マドカを助けてあげて下さい、あの子を自由にしてあげて下さい…!!」

「それは構いません、貴女方の命もISも取りはしません、ですが問題が一つあります」

「問題……?」

 

麗羅が一つ指を弾くようにする、音を鳴らす時の動きだ……が、予想したパチンという音は鳴らずに「ぱすっ」という気の抜けた音が小さく聞こえた。

それに対して空気を読んだ麗羅と護衛以外の人間が皆部屋から出ていく、部屋にいるのはスコール、麗羅とその護衛のIBISのみだ。

 

「こほん、では先ず私の結果から言います。私は医者ではなく開発設計者であり科学者です、勿論医学も修めていますが技術がありません、私ではマドカちゃんの首輪を外してあげる事はできません」

「そ…んな……」

 

スコールに浮かんだ表情は絶望、困惑、怒り、恐怖、そして後悔。

 

「でも!」

 

麗羅がその思考を無理やり切るように声を出しスコールへと微笑んだ。

 

「確実な当てはあります、間違いなくマドカちゃんの首輪を外して、自由にしてあげる事の出来る人を」

「ほ、本当ですか?!」

「勿論です、でもその為に色々段取りをしないといけません、勿論貴女にも手伝って貰いますが、構いませんね?」

 

スコールが顔に希望を浮かべ両手で顔を覆いポロポロと涙を零し始める。

 

「ありがとうございます、ありがとうございます……!! 私にできる事なら何でも、何でもします…!」

「構いませんよ、問題は次の作戦とやらでマドカちゃんを使い潰す、という事ですね、ですがそれが狙い目です。IS学園を襲撃した時マドカちゃんを捕縛してすぐ首輪を摘出します」

「すいません、その前に一つ、お伺いしたい事が…」

 

きょとんと麗羅が首をかしげる、頭が良いとて相手の思考を読めるわけではない、スコールの次の言葉を待つ。

 

「その、マドカを、あの子を自由にしてあげれる人物とは一体、誰なのですか…?」

 

麗羅が嬉しそうに、誇らしげに両の手を合わせ笑みを深めた。

 

「あぁ、今現在IS学園にいる私の息子のシン君です!」

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

「ドゥブェヘックショォォォイ!!!!」

「?!」

「あ゛~ホーリーファック……」

 

「もしシンのそれが普通のくしゃみだというのなら俺はシンとの関係を考え直さなきゃいけない」

「そこまでか…?」




お母ちゃんもなんだかんだ言ってシン君の母親、いまいち締まらない。
子は親に似て親もまた子に似る。

いろいろとご質問を頂ければお答えいたします。
また、これはどうなの? 等がありましたら喜んで裏設定やらその場で追加した設定なども語らせていただきます。

あ、あと少なくともこのお話、あと10話以内には完結します。

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