コジマ汚染レベルで脳が駄目な男のインフィニット・ストラトス 作:刃狐(旧アーマードこれ)
サブタイが不穏だけど気にしない、気にしないったら気にしない。
あとACVDの公式設定資料集the AFTERを購入しました。
それと車の免許を取るため教習所に通う事になったり、あ、どうでもいいですか、ごめんなさい。
本当に今回は血生臭くなんてないんですって、サブタイが不穏なのはそれっぽい方が面白いかなぁなんて思ってやっただけですから。
私の所為で人間不信になるのは申し訳ないんですが今回ばかりは信じてください!
戻ってきて早々俺に抱きついて泣きじゃくる簪の背を撫でながら思い出す。
俺が今の俺ではなかったときの記憶、何ともまあ確りと覚えてるもんで、にも係わらずそれは俺ではなく、しかし俺でという無茶苦茶な記憶だ。
それにしても、こうまで俺の為に泣いてくれるとは、いい女と巡り会ったもんだ。
『前世』の妻は俺の愛「した」女で簪は俺が愛「している」女、別物だな。
「…すまねぇなぁ、簪……守るって言ったのに、またお前を泣かせちまった、ハッ…ダセェな、俺も」
「バカッ、馬鹿ばかバカッ!! 絶対に許して上げなんかしないから…! もう、どこにも行かせないから……!! 絶対に離さないから…!!」
おっと、どうやら流石の簪もおこらしい。
どうすれば許してくれるのだろうか、絶対に許さないとか言われたし、無理だろうなぁ…。
「許してくれ簪、心労で老けそうだ」
「知らないっ…! 老けちゃえばいい…!」
「じゃあ死にそうだ」
そういった瞬間簪に両手で顔を挟まれる、顔を逸らすことは許されない、目を逸らす事も雰囲気的に許されないだろうな。
真っ赤になった目で涙をボロボロ零しながら怒ったような哀しいような目で見つめられる。
「絶対…!! それだけは駄目…! もう、そんな…ことっ…言わないで…!!」
「…ごめん…」
真剣に怒られた、凄く反省。
ACの投影型ディスプレイが起動し通信要請が発生、右手で受諾し画面が表示される。
『……信一郎様……なのですか?』
「そうだ、すまないね、姉さん…苦労を掛けた」
『シンが、シンが戻ってきた時、言おうと思っていた言葉があるの……おかえりなさい』
「あぁ、あぁ…ただいま」
珍しい優しい笑みを浮かべながら言う姉さんの言葉を噛み締めながら返答を返す、思えば回りに随分と迷惑を掛けたようだ。
すると画面が切り替わり母さんがコンニチワ。
「おはようございます」
『おはようシン君、ジャスト三日だ、いい夢見れたかよ』
「なんだったっけそれ」
『もう数十年前だし覚えてないわ、ところでシン君には今からお説教をします』
「えっ」
『シン君、どうして一人で溜め込んだりしたの? どうして相談しなかったの? ママはそんなに信用できない? IBISにも相談できなかったの? 簪ちゃんには?』
「相談、できるわけない…」
『シン君、よく聞いて、カラード…いいえ、ママは私兵部隊を持ってるのよ、そんな相談なんてされた事一度や二度じゃないの、それにIBISも同様よ』
「ねぇ、信一郎…私はね、例え信一郎が何であっても構わない」
「人殺しだぞ、それも民間人を……10にも満たない小さな女の子を殺したんだ!! 馬鹿じゃねぇか、そんな殺人鬼と一緒に居れる訳ねぇだろ」
「舐めないで、信一郎…私は更識簪、対暗部組織「更識」の更識簪なの、たかが人を殺した程度で自惚れないで、私のお父さんも、お母さんも、組織の人たちも殆ど人を殺しているの……中にはやむを得ず民間人を害してしまった者だって当然いる」
「人殺しをステータスみたいに言うんじゃねぇよ…」
「そりゃ無い方がいいステータスだからバッドステータスだけど……この世の誰もが一つは必ず後ろめたい物がある、その中でも突出した物かもしれない、でもね?」
「私にとっては例え何であろうと、信一郎は私を救い出してくれたヒーローなの、暗い世界に光を与えてくれたヒーローなの」
「とんだ最悪のヒーローだな」
「ダークヒーローって言うのも悪くない、格好いいよ?」
「でも、だが」
「でも だって しかし だけど、そういった類は禁止、もう一度言うから……もうどこにも行かせない、絶対に離さない、私はね、意外と重い女の子なんだよ」
「そうであっても俺ムグッ」
急に唇を塞がれた、何でとは言わんが。
「ぷぁっ……今度から言い訳しようとしたら、こうやって塞ぐからね」
「……俺は、んぷ」
「ん、ちゅ……ぷは…」
「本当に、んむっ」
「待ってく、んぐ」
「喋れな、っ」
「今歯が当たっ」
いい加減普通に話がしたいのでこう、年齢的には余りよろしくないアンバランスなキスを交わして簪を蕩けさせる、前世で鍛えた俺を余り舐めんで頂きたい、経験豊富(人数一人)だぞ。
「分かった、だが……後になって後悔しても、遅いぞ、俺もお前を離したりしないからな」
「は、ぁ……しないよ……後悔なんて……」
『お話、また始めていい?』
と、母さんの声が聞こえると簪が急に艶っぽい表情から焦ったように真っ赤になった、始めたのはお前だぞっと。
『そうね、ママやIBISに相談し辛いなら簪ちゃんが居るじゃない、簪ちゃんはシン君が思っているより何倍も何十倍も強い女の子よ、簪ちゃん、息子をお願い致します』
「はい、任せてください、その………お、お義母様」
『うふふ、いいものね、お義母様かぁ……早く孫の顔が見たいわ』
気が早い。
「あ、あと十ヶ月ほどお待ちしていただければ……!!」
気もそうだが年齢も早い、あと2・3年待ちなさい。
「18になるか卒業してからな」
「えぅぅ……」
『ふふ、シン君。本当に、何かあったらすぐ相談してね?』
「あぁ、わかったよ」
『じゃあね?』
「じゃあ」
通信回線切断、一息つく前に手を伸ばしちっふーに渡されていた通信機を手に取る。
「ちょっとだけ離れててくれ」
「やぁ……」
「ちっふーに通信するから、な?」
と、言うと渋々とギリギリ通信画面に入らない距離へと簪が離れた、本当にギリギリ、1センチこっちにずれたら多分ギリギリ見えるようになる。
「まぁいいか、通信起動、ポチッとな」
3秒以内に通信が繋がった、待機してたのか知らん?
昔の感覚を思い出しおじいちゃんの笑顔になってみる。
『如何致しましたか』
「すんまへんなぁ、ちょっと頼みたい事があるんやけども……」
『分かりました、今向かいます、そのまま内容を』
「ちょっと明日からなぁ……」
『はい』
簪が冷たい目をしている、あ・・・あの簪の目・・・・・・・・・養豚場のブタでもみるかのように冷たい目だ
残酷な目だ・・・「かわいそうだけどあしたの朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命なのね」ってかんじの!
「復学してぇ、どうだろうかちっふー」
『なっ?! 籐ヶ崎なのか…?!』
「遅かったじゃないか……目的なら既に果たしたよ、彼女がな…」
『待っていろ、直ぐそちらに行く!』
簪と戯れながら待つこと数分、そこらに転がっている義肢とは別にセラフのパーツを展開しておく、すると自動ドアが開いて焦った様子のちっふーが飛び込んできた。
「やっぱり、ここに来た。怖くてたまんなくなるんで、すぐに分かる。アンタが近くにいるとね」
「…お前が呼んだような物だろうが、阿呆」
「くっは、籐ヶ崎信一郎。ただいま戻りました」
すちゃ、とおもむろに出席簿を手に持ったちっふー。じょ、冗談じゃ……
「3日分の補習、連休明け直後でよかったな、それにもうすぐキャノンボールファストがあるのも幸いした、それほど補習は必要無さそうだ」
「トラウマで精神崩壊した生徒が復帰した直後に補習とは、随分と酷な……見逃してはいただけませんかねぇ?」
「もう後遺症はないだろう、お前の事だ」
「いやぁ、恥ずかしながらそうでもないんで、今も眠るのが怖いぐらいなんです。簪と一緒なら安心できるんですが」
小さく震える右手を左手で押さえる、どうも一朝一夕でどうにかなるもんではないらしい、難儀なもんだ。
「……だが授業に付いてこれるか? お前の成績は技術関連意外は可と言った具合の筈だが」
「まぁそこは愛しの簪に教えてもらいます、もう簪に依存しねぇと生きてくのもままならねぇや」
俺は簪の為に生きて行くし簪は俺のために生きて欲しい、簪が自分は思い女だと言ったが俺も相当重いんだから救いようがない、それに体重も重いし、じゃっかん痩せたけど。
「私も……それで、ううん……それがいいんです。助けられるばかりじゃなくて、支えられるばかりじゃなくて……私は信一郎を助けたい……支えたい……」
「…いいだろう、それほど言うならばそれでいい、だが特別だぞ」
「えぇ、感謝します、それと特別ついでなのですが」
若干簪が近付いてきていたのでそのまま右手で肩を抱き寄せ抱きしめる。
「一人で眠るのは怖いので、簪と一緒に寝たいのです。詰まる所同部屋となりたいのですが」
「……何を言っているのか分かっているのかお前は」
「勿論、その上で言ってますが」
むん、と腕を組んで考え込み始めたちっふー、よくよく考えてみると別にセラフにする必要ないんじゃないだろうか、義肢としては転がってる物の方が性能はいいし。
まず片足ずつ解除し、ベッドの上にある脚を手にとって接続する。
動作確認をしたら続いて地面に転がり落ちていた腕を取り、腕を解除し接続、動作確認の後ちっふーに向き直った。
「……私はただの教師の一人でしかない、それ程の権限は私にはないぞ」
「あら、ではその権限があればいいんですね?」
いっちーと同部屋になろうと学祭ではっちゃけた人が何言ってんだと思ったらそうか、それ程の権限がないからルールに則ってイベントに参加してたのか。
なんて考えているとちっふーの背後から声がする。驚いた、もうどうしようもない位嫌われているもんだと思ったが。
「更識楯無か、なるほど、生徒会長であるお前ならその権限はあるな」
「そういう事です」
振り向いて入り口の方を見るちっふーと扉をゆっくりと閉めるたてにゃん、簪がその姿を見て随分と驚いた様子だ。
「お姉ちゃん……?! 手は、右手は大丈夫なの……?!」
「心配しないで簪ちゃん、カラードの技術って凄いわ、もう完治に近い状態まで治されたんだから、少し身体が熱いような気もするけど」
はて一体何の話をしているのか、俺にはサッパリわからん。
「さて、1年4組、日本代表候補生、更識簪。1年1組、籐ヶ崎信一郎、あなた達は生徒会長権限によりお互いの部屋での自由な移動、及び宿泊を許可いたします」
「随分と毛嫌いされていると思っていたんだがな」
「そりゃあただ人を殺してのうのうと生きてたら正直軽蔑するわよ、でもまぁ……虚に映像を見せられてね、籐ヶ崎君も何も感じなかった訳じゃないし、何よりも精神が崩壊するぐらい悔やんでたって言うなら人殺しも是とする私達のほうがアレだしね、結局同じ穴の狢みたいな物よ」
「お姉ちゃん……! ありがとう……!」
ゆっくりと近寄り抱きついた簪にたてにゃんは柔らかい笑みを浮かべ簪の髪を梳くように撫でる。
「それに、心の内を曝け出して喧嘩するってのも中々いいものね、凄くすっきりしたしそのお陰かも」
「…ありがとう、たてにゃ……いえ、ありがとうございます。楯無さん」
「お義姉さんでもいいわよ」
どうやら義姉と呼ぶことも許されるようになったらしい、一体俺が呆けながら空を眺めている間に何があったのやら。
「ならば、言う事は多くない、まずは…籐ヶ崎、お前は明日から授業に復帰しろ。だが無理はするな、多少の優遇はしてやる」
「了解」
「先程少し言ったと思うがもうすぐキャノンボールファストが開催される、今年は一年も参加となる、理由は今年の一年生に専用機持ちが多いためだ」
「と言うのは建前で実際は立て続けのイベント時の襲撃によりデータやら実戦成績が出ない事が多かったから少しでも量増しするためよ、各国から文句が多かったのよね」
「楯無…」
「いっけなぁい☆」
テヘペロと舌を出すたてにゃん、本当にこういうのが似合う人だ。
「怒られる前に逃げなきゃ、そうだ、籐ヶ崎君…簪ちゃんを幸せにしてあげてね」
「任せてくれ、オレは迷わない。敵が目の前に現れれば、叩き斬るまでだ!」
「そういうちょっとベクトルが外れた決意はいいかな、簪ちゃん、籐ヶ崎君に幸せにして貰いなさい、もう何もしなくていいなんて言わないわ、しっかりと籐ヶ崎君を支えてあげなさい、その為の努力は怠らない事」
「うん……もちろん、ありがとう……」
よろしい、とにっこり微笑んだたてにゃんがどこか大怪盗の3代目を思わせる声で「あーばよーとっつぁ~ん」といいながら走り去った。
それを見届けたちっふーが無言でタッチパッドから通信機能を起動させる。
『はい、どう致しましたか? 織斑先生』
「…布仏虚、更識楯無を見つけたらそれとなく捕まえて私に連絡を入れてくれ」
『はぁ……また何かしたんですね…わかりましたしっかりと捕まえておきます』
「すまんな」
やめたげてよぉ!
「では、また明日会おう……くれぐれも変なことはしないように、当主が許可し、いくら婚約しているからと言ってここは学校である事を忘れるな」
「了解」
「はい……」
そしてこの簪の不服そうな顔である。
簪が本音ちゃんに連絡をいれ、簪には俺の部屋で寝てもらう事にした、同じ部屋なら大丈夫だからと言う俺に対し同じベッドじゃなきゃと頑なに譲らない簪。
とうとう俺が折れて同じベッドで眠る事に、しかしゴツゴツしてるわ出力ヤバイわで危ないので手足は外す事にした、この状態だと体勢の問題もあって間違いは起こらないだろうし。
「おやすみ」
「うん……おやすみなさい」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
―更識 簪―
「……?」
真夜中、小さな振動を感じて目が覚める。
更識での訓練の賜物で睡眠中の襲撃にも対応できるようになったから小さな事でもすぐ分かるし寝起きもとてもいい。
振動正体は信一郎だった、小刻みに震え脂汗を流している。
「信一郎……!」
「ちが……みるな……や、めろ……!」
酷くうなされて酷い悪夢を見ているみたい、咄嗟に信一郎の頭を抱き寄せた。
「大丈夫……大丈夫だよ……私がいるから、私が……守るから……大丈夫、ね?」
「あ、う………ぁ………」
「安心して、信一郎……今度は私が……守る……」
右手で私の身体を掻き抱くように抱きしめると徐々に荒い呼吸が収まっていく、信一郎が安心して眠りにつけるまで髪を梳くように頭を撫でる。
「…………」
「ずっと一緒だから、大丈夫だよ………おやすみ……」
落ち着いた信一郎の頭を胸に抱いて目を閉じる、安心して眠れるように優しく撫でながら。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「神話に置いて(´神`)とは力だった、詰まる所ガチタンは最強だ」
最早懐かしいとさえ感じている一年一組の自動ドアが作動、開くと同時にガチタン最強説を唱える。
「シン?! お前、随分と……やつれたな。それに白髪も生えて髭も無精じゃねぇか、40台後半にしかみえねぇぞ」
「そりゃ一週間ちょい飯を食わなきゃやつれもするさ、それと放課後俺のリハビリに付き合え、コジマパーティの開催が決定だ」
唐突に遠い目をするいっちー、周りを見れば他の面々も驚いた様子だ。
「OH…てか飯食ってないのに来て大丈夫なのかよ、倒れるぞ」
「朝は食ってきた、簪の作ってくれたおかゆ美味しかったです、三杯食った」
「元気じゃねぇか」
落ちた筋肉は能力で作った、脂肪は元々殆どなかった、などといっちーと雑談していると教室の扉が開く、目を向けると小さく震えながら目に涙を溜めた本音ちゃんが俺を見ていた。
ぼんやりゆったりしているとは思えない武人も真っ青な踏み込みと共に俺へと飛び込んできたので出来るだけ優しく受け止める。
「シンにー! シンにぃぃぃ、うわぁぁぁぁ~ん! 良かったぁ~、良かったよぉ~!!」
「あぁ……ごめんなぁ、随分と心配させたみたいで」
実際泣いているのかは顔が見えないので分からないが俺の鳩尾周辺に顔をこすり付ける本音ちゃん、孫をあやす様に背中を優しく叩きながら頭を撫でる。
「おはよ、籐ヶ崎君。本音ったら最近ずっと上の空でさ、すっごく心配してたんだよ」
「おはよう、まぁ…この様子を見ればよく分かるさ」
「それにしても、一体どうして休んでたの?」
「コジマ粒子の汚染が遂に無視できないレベルまで進行した」
「アカン奴や」
「冗談だ、食中毒だよ、ただの」
谷本さんの言葉に対して適当な嘘を吐く、ばれんだろ。
「ダウトですわ」
「うん、ボクもダウト」
「ダウトだな」
唐突に横からせっしーとシャルりんとモッピーの声、馬鹿な…こんな事は…!
「たかが食中毒程度で休むはずはない、と言うかそもそも籐ヶ崎は食中毒なぞならんだろう、と言うのがこの3人の見解だ」
「らうりーか、随分とまあ酷い扱いだな俺は、ところでらうりーの見解は?」
「どれほど奇妙奇天烈摩訶不思議奇想天外四捨五入と言っても人間である事には違いない、風邪だと思ったのだが、食中毒とは実にお前らしい」
古い、らうりーの知識が凄く古い。
どうせ俺が会った事の無いクラリッサとやらの人物の所為だろう、らうりーから恥じらいを奪っただけでは足りぬらしい。
すると若干呆れた表情のらうりーが俺だけに見えるよう髪を掻き上げるついでに首元をトントンと指で叩く、ISが普及した今ではよくある秘匿回線のハンドシグナルのような物だ。
音声通信を起動してサイレントモードにする。
『ふっふっふ、何用かね』
『……PTSDか?』
ではな、といっちー達に挨拶をして自分の席に戻って行くらうりー、こちらには一切注意を向けないあたり凄まじく自然でよく訓練されている。
『よく分かったな』
『まぁな、この教室でそれを理解しているのは布仏と私、それと織斑先生、山田先生の4人ぐらいだろう、話し辛いかも知れんが私は軍人だ、相談には乗ってやれる。少しでも発散できる相手は多い方がいいだろう、それに…私はこれでもお前の友人のつもりだ、友人の悩みは聞いてやるのがいいとクラリッサが言ってたのでな』
『く、キヒャハ、すまんな、世話を掛けることになる』
『気にするな』
通信を切断した後らうりーが俺のほうを見て小さな笑みを浮かべる、俺はいい友人を持った、それとクラリッサと言う人物の評価を少し修正しよう。
「おはよう諸君」
「遅かったじゃないか……」
椅子に座った所でちっふーが入ってきたのでいつもの台詞、すると時計をチラッと見たあと俺のほうを向く。
「別に遅くはないが、むしろ五分ほど早いぐらいだ」
「ネタにマジレス」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「これで本日の授業は終了だ、以後各自自由にしろ、遊ぶにしろ何にしろ好きにすればいい、だが直にキャノンボールファストが始まる事を忘れるな、時間は待ってはくれないぞ」
「では皆さん、本日も一日お疲れ様でした、籐ヶ崎君は少しお話がありますので後で来てくださいね」
「呼ばれたから行ってくる、いっちートラックアリーナで集合な」
「ん、あぁ、第12アリーナな」
いっちーやら他の専用機持ち勢と分かれてミス回文先生の元へと行く。
「ふっふっふ、何用かね」
「あの、身体は大丈夫ですか?」
「ふむ、成功じゃないかな」
「もう大丈夫なんですね?」
「ええ、ご心配をお掛けしました」
「今度から無茶はしないのと何かあったらちゃんと相談してくださいね? そのための先生でもあるんですから」
「肝に銘じておきます、では俺はいっちーがリハビリに付き合ってくれるので」
「あ、そうだ!」
真耶先生が再度俺を引き止める、まぁ特に急いでいるというわけでもないので問題ないが。
「お髭、ちゃんと明日は剃って来て下さいね」
「アッハイ」
お髭を剃れとのお達しが出た、かつて、俺を老け面にさせた原因。そのひとつが、このお髭。
ダンディー、おっさんの中の可能性。そんなものは、ただの妄言に過ぎない。髭はシェーバーによって滅びる、それが必然だ。
移動をしながらACのデータデバイスを更新、数ヶ月ぶりの更新だった為か新規パーツが凄まじい数追加されていた。
コジマエネルギーを流用した大容量光速通信で新規パーツデータをACに追加、その過程で新規パーツに名称をつけて行く、それと平行して新規パーツのスペックと動作を確認。
うむ、なんだか楽しくなってきた。
「む、籐ヶ崎か、一体どうしたんだ、ニヤニヤして」
「ん? らうりーか、いやな、今からいっちーにリハビリを手伝って貰おうとしてたんだがな、移動のついでにACの新規パーツを追加してたら面白い物が大量にな」
「ほう、気になるな、丁度いい、私もついて行って良いか」
「構わんよ、ついでだ、らうりーには誰よりも先にこのデータを見せてやろう」
「いいのか!」
「応よ、まずコレなんだがな、らうりーはこのサイズの口径のスナイパーキャノンをISで扱えるか?」
スナイパーキャノンのスペックと実物3DCGをらうりーへと見せる。
「ふむ、私のレーゲンならばAICと併用して撃てるが固定が必要だな、少なくとも移動しながら撃つのは出来ん」
「で、それとほぼ同じ口径のスナイパーキャノンを構えず撃つ事が出来る銃身自体を内蔵したパーツだ」
「腕部か、背後にあるものがバレルとしてどうするつもりだ」
「ここに変形ボタンがあるじゃろう? こうじゃ」
左肩を基点として砲口が上を向く、既にらうりーの目はデータに釘付けだ。
「お、おぉ…!」
砲身が下部にスライドし、地面と水平になる。
「まさか、まさか……!!」
砲身が肩のパーツから迫り出し腕自体が銃身となり、おまけで砲口がカシュンと開いた。
「わぁぁぁ! 真ん中だぁぁぁぁぁぁ!!」
目をキラッキラ輝かせてデータホログラムを見つめる、まるで小さな女の子が毎週のプリキ○アを楽しみに見てるようだ、俺の腕を抱きしめてでも近くで見ようとしている。
見れば見るほど年相応といえないほど幼げな少女だ、見ている物が兵器でなければの話だが。
「も、もう一度、もう一度頼む!」
と言われたので今度は展開状態から収納状態への変形を見せる。
「凄い! 凄いぞ! 流石はカラードだ! 他のも! 他のも見せてくれ!」
「わかったわかった、じゃあ次はレーザーキャノ―――」
『信一郎……?』
ぞわり、と俺の背を良くない物が走り、駆け上がる、小さくて可愛らしい声なのにまるで深淵から響いてくるようだ、呼吸する事さえ恐怖、意を決すか否かなど関係なく無意識にゆっくりと背後に視線を向けた。
そコにハ、薄ク笑ミヲ、ウかベル、簪ガ、イタ。
別段怒りの表情を受けベている訳でもない、別段拳を握っているわけでもない、ただ簪にしては珍しく歯を見せる笑みを薄っすらと浮かべていたのだ。
ある人は言った「笑顔とは本来攻撃的なものである」と、歯を剥き出しにするのは威嚇の為だと言うからだ。
「ねぇ……どうしてボーデヴィッヒさんが信一郎の腕を抱きしめてるの……」
「おぉ、更識簪か! 凄いぞ! 私はたった今籐ヶ崎にすごい物を見せてもらったのだ! 凄く大きな砲塔が上に反り上がって穴を貫通したのだ! それも凄まじい勢いで撃つんだぞ!」
「へぇ……信一郎……へぇ…? 大きな砲塔が? 反り上がって? 穴を貫通して? うつんだぁ……へぇ…」
「こんなに興奮したのは久々だ!」
あぁ…どんどんボロボロに……
「ま、待て…ちが…! お、俺は…別にやましい事など……!!」
簪が下を見つめながら滑るように迫ってくる、凄まじい速度で近づいて来た為一歩たりとも後ずさる事など出来なかった。
ふわりと抱きしめるように俺の首に腕を回し俺の耳元に息がかかるほど顔を近づける。
「離さないって、イッタノニ……」
「い、ひ、ぁ…!」
俺の物とは思えないような上擦った情けない声が出る、俺は無実だ、本当に。
「ほら見ろ、更識簪!」
いつの間にか俺のホログラムを移動させ簪に見える位置に持ってきて変形機構を作動させる。
「この砲塔が上を向いてだな、肩の穴を…どーん! それで撃つらしい! 凄いな! カラードは!」
「…………」
「俺は…無実です……!」
最早若干視界がぶれ始めてる、それと一緒に情けない声も漏れ始めた。
そうしていると背中を突き刺すような冷たさが無くなって身体をほかほかと暖かさが包み込む。
「ごめんね……疑っちゃって……信一郎……」
「あ、うむ、すまん、こっちこそ」
トラウマの上書き更新を行われそうになっていると俺の服の袖をぐいぐいと引っ張ってくる者がいる。
「籐ヶ崎! レーザーキャノンを早く見せてくれ!」
俺の恐怖もどこへやら、ぽひゅうとマヌケな音を立て緊張感がどこか遠くへと消えて行く、苦笑いしながらレーザーキャノン武器腕をホログラムに映して変形機構を作動。
「おぉ、これが、おぉ! 回るのか! シリンダーがこんなに回るのか!」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「おっまたー」
「おぉ、来たか! ラウラと簪も来たのか」
「うむ、籐ヶ崎が面白い物を見せてくれたのだ、これならば嫁も間違いなく目が釘付けになるぞ!」
「信一郎が体調を崩さないか心配だから………」
更衣室を抜けた共通ピットでいっちーが白式のスラスター出力調整しながら声を掛けた俺のほうを向く、なんとまぁ少し見ない間にスラスターの出力を弄れるようになってたとは。
「あぁこれ? 適当、と言っても何回かテストしてるんだけどな、その度に速度が合わないわグリップ悪すぎてシールドバリアに機体擦りつけたりするわで大変だ、一応元々の出力比はメモってるから戻す事は簡単なんだけどな」
「いいことだ、試行錯誤して何度も失敗するのはどんな研究者でも通る道だ」
「そうだな、私もレーゲンの調整には手を焼かされた、出力が合わん事など弄っている時は日常茶飯事だな」
「えっ……?」
機体調整あるあるを三人で話していると簪が疑問を持った声を出す。
「ミサイルのランダム射出航行、同時着弾調整プログラムの新規作成は手間がかかったけど……出力調整ぐらいなら……簡単じゃない…?」
「あー、アレだ、簪はベクトルの違った天才だから」
「そういえば、ISをほぼ一個人で作り上げたんだったな」
「シンの嫁さんマジやべぇ」
「えっ……? えぇっ……?」
わたわたと混乱する簪が実に可愛らしい、だがそろそろリハビリに付き合って貰おうといっちーに目を向けたら同じ事を考えていたのか目が合った、これには苦笑い。
「シン、リハビリっつってたけどアリーナを見てくれれば分かるようにキャノンボールファストに備えて練習中の生徒で一杯だぞ、いくら専用機でもここに割って入るのはなぁ…」
「それは心配ない、確かに多いしこれ以上はISの数が問題だがそれ以上にピット備え付けのコンピュータ前にいる人間が多いとは思わんか?」
「まぁ、確かに」
周りを見渡せば部屋の其処彼処に特殊なHMDを装着した生徒がPCと顔を合わせている。
「これな、ISシミュレータなんだよ、だってそうでもないとISの数とアリーナの面積、及びタイプ別の数、それと生徒の数が違いすぎるからな、最悪1年間授業以外でISに触れない生徒も出てくる」
「なるほど!」
「まぁ専用機持ちの俺らが知らんで当たり前なんだが」
簪がうんうんと頷いている、そりゃ代表候補になってから何もせず候補であり続けることなんて出来ない、ISシミュレータを使用したテストや訓練を何度も何度もやってきたはずだ、簪の専用機が完成したのが極々最近なのだから。
「さて、まずは単純に戦闘訓練を2・3回するか、それからスピードテストにも付き合って貰うぞ」
「おうよ……ところでコレでどうやって白式を使うんだ?」
「……まずそのコンピュータを俺の使う物と接続してからそれ以外から遮断してスタンドアローン化させろ、次に専用機の待機状態とコンピュータを接続してHMDを装着するんだ」
「なるほど、ところで前々から思ってたんだが……」
「ジャック、どうした…」
「シンの専用機の待機状態って……何?」
「秘密、簪にも言ってねぇんだ、いいからとっととHMDを装着しろ」
「そりゃ残念」
笑いながら残念そうは見えないいっちーがHMDを頭に装着、俺がレギュレーションとアリーナを設定して接続させた。
ついでに二人の間にホログラムを展開、機体の詳しい情報以外のバトルデータを外部から見れるようにする。
なんかゲーセンで格ゲーしてるみたい、丁度コンピューターで相手の顔が見えないし対面状態だし。
「おぉ、すげぇ…まるでリアルにISに乗ってるみたいだ、アリーナのワイヤーポリゴンがちゃちいけど」
「出来るだけ静かにしてろよ、いるのは俺らだけではないからな」
俺の対面上にいる人の乗っていないガワだけの白式が周りをキョロキョロと見渡す。
「なぁ、シンはどこだ?」
「まだ機体を展開していないからな、ガワだけ読み取るシミュレータでは俺の姿は見えないんだな、よし、ちょっと無茶させるか。チェンジ、アーマードコア、コジマ色々てんこ盛り」
「ひっでぇ名ま…え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」
煩いなコイツ、たった今静かにしろと言ったのに。
「な、なんだよそれ…!! 無理やり全部乗っけました感満載の機体…!!」
「よく分かったな、コジマ兵装を全部乗っけた、さっきからシステムエラーが煩くてたまらん」
だからとっとと始めようぜ、と考えながらライフル、キャノン、武器腕のチャージを開始する。
「ヤバイ、シンが緑に輝いてて人の形がわからねぇ。深緑のシン、なんちゃって」
「そろそろ、死んでもらおうか」
ふざけた事をのたまったいっちーにコジマライフルを一発お見舞い、うひぃと妙な声を上げながら回避した。
即座にコジマミサイル二種を撃ち、武器腕コジマを片腕撃ち、最初に撃ったライフルをチャージ開始、PAが減少してきたらコジマ粒子を周囲に拡散しPAを回復。
「冗談じゃねぇ冗談じゃねぇ! 畜生、喰らえ!」
「たかが荷電粒子砲一発程度喰らうか、キノコ積みランスタン舐めんな」
「なんだよこのバ火力と装甲!」
まぁ弱点はしっかりとあるんだがな、いっちーは必死で気付いていないかもしれないが俺、実は一歩も動いてないんだよな、理由が重量過多と最早一秒噴かす事も出来ないEN負荷、しかもコジマエネルギーだって最初以外全部コジマ電池に頼りっぱなしで弾切れしないVR空間だからいいがリアルでこんな事しようだなんて思えねぇ。
「ぬわー!」
ミサイルに巻き込まれたようだ、何で斬りにいったかねぇ。
ここで体勢を立て直したいっちーが器用にコジマライフルやキャノンを回避しつつ近付いてきた、昔はこんなこと出来なかったのに成長したもんだ。
「ッシャオラァァァァ!!」
「AA起動」
「アバーッ!」
90年代の漫画のように吹き飛ばされていくいっちー。
「こなくそー!」
「AA起動」
「チャージ早過ぎィ!」
即座に体勢を立て直して再度突っ込んできたので電池で急速回復し、即座にAAを展開、今度は耐えるようにブースターを調整しているらしい。
AAが終わった瞬間に瞬時加速で右手の刀と左手の爪を振りかぶりながら接近。
「怯むかぁぁぁ!」
「コジマパーンチ」
「見切った!」
「あ、斬られた」
「っしゃあ!」
とまぁ一連の流れでみえみえのコジパンを容易く回避され零落白夜で一閃、返すように爪で背中を切り裂かれる。
俺のキルゾーン外に潜られ、且ついっちーのキルゾーンに入ってしまったのでもうこの機体でなす術は無い。
「投了、俺の負けだ、この機体ではもう勝てん」
「えー、随分とあっさりしてるなぁ……」
あまりにあっさりと負けを認めたので何やら納得がいかない様子だが潜り込まれた以上連撃でPAの回復は無理、故にAAを起動できない、移動が出来ないので逃げる事も出来ないし逃げたとしても簡単にくっつかれる。
この状態で使えるのはコジパンとミサイルぐらいだがミサイルのロックがまず近すぎて無理、パンチも当たるとは思えない、故に俺はもう詰んでるのだ。
「よし、じゃあ次だ、先に言っとくが俺が次に使う銃はスナライだけだぞ」
「いいのか? そんな事言って」
初期位置がリセットされ再度同じようにガワだけの白式が俺の視界に映る。
H12 Swallowtail
C03 Malicious
L03 FreQuency
SUZUMUSHI mdl.1
BA-309
USUGUMO mdl.3
R AM/SRA-133
L AM/SRA-217
「喜べらうりー、もう一つサービスで見せてやる」
A11 Vendetta
「さぁいっちー、見惚れたら落ちるぞ。チェンジ、アーマードコア、
ね?
大丈夫だったでしょう?
今の所どす黒いのは也を潜めていますのでしばらくは出ないはずです。
やれ主人公を不幸にしてやる、ぶっ殺してやる、ゲハハハ!
なんて言ってますけど私自身はハッピーエンドが大好きな人間ですので、ご心配なく。
まぁちょくちょくトラウマは顔を出しますけど。