コジマ汚染レベルで脳が駄目な男のインフィニット・ストラトス   作:刃狐(旧アーマードこれ)

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今回約一万九千文字らしいです。
やりすぎちゃった感、キャラの魔改造とか…
今回はキャラクターを人間らしく表現しようと頑張ってみました。
ラノベのキャラクターって何と言うか未熟じゃないって言うか完成されてしまってることが多いんですよね。
人としての弱さとか無い事が凄く多い、という訳でメンタル的に豆腐とまでは行きませんがやや柔らかくなっております。
まぁ立ち上がりますがね!

あ、どうでもいいですけどゴリラって葉っぱ食べようとして葉っぱに虫とか蛙とかいると他の葉っぱに移してあげるそうですよ。
摘んだ時に自慢のパワーで潰しちゃったりした場合一日中責任を感じて落ち込むんですって。
可愛いですよね、ゴリラ!

この作品で使っている「~」が繋がってるのと「―」が繋がってる奴の意味は前者が時間経過、後者が同時刻での場所違いです。


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―Third Person―

 

籐ヶ崎信一郎、彼が海から引き上げられ、陸に到着するや否や彼は直ぐに病院へと搬送された。

彼の負傷の詳細を知るものは戦闘に参加した篠ノ之箒、作戦指揮を取っていた織斑千冬、副担任である山田真耶、この三人しかこの場には居ない。

 

「作戦は失敗、一夏…籐ヶ崎が負傷、どちらも重症だ…籐ヶ崎の所属組織には既に連絡を終えている」

「信一郎……、信一郎は……大丈夫なんですか……!?」

「……以降、状況に変化があれば招集する。それまで……各自現状…待機だ…!」

「待ってください……!! 信一郎は……?!」

「…………すまない」

 

そう謝った千冬は立ち上がり部屋から出ようとした。

しかし千冬が戸に手をかける前にドアが静かに開かれた、そこに居るのは副担任の山田真耶でもなければ篠ノ之箒を作戦に組み込んだ篠ノ之束でもない。

1年4組で更識簪の友人であるフラン・バッティ・カーティス、彼女だった。

 

「失礼します」

「何故ここに居る、許可無く室外に出た場合は身柄を拘束する。と言った筈だが」

「許可ならば頂きました。4組の担任教師に、ですが」

 

ふわりとした印象の彼女が感情を殺したような声で機械的に織斑千冬の問いに返答する。

 

「部屋に戻れ、命令だ」

「カラード所属の社員として本社からの指示により作戦に参加した全員に信一郎さん……次期…社長の…っふ、状況を知らせて欲しい。…との…ことで、す…」

「それこそ部外者のはずだ、なぜ…!」

「家族のっ! 私の家族の事ですっ!! カラードは単純な会社じゃ…! ないんです…っ」

 

フランが叫ぶように…いや、実際に叫び、涙を流す。

 

「カラードは…数え切れないほどの人がいる大企業です。でもただの社員なんかじゃない! 皆かけがえの無い家族なんです! 義兄さんも! 信一郎さんも私にとって兄だった!! 義兄さんの友人達に状態を知って欲しいと思うことが…! 駄目な事なんですか?!」

「っ……わかっ…た、伝えろ…」

「では…信一郎…さんは……右肩付近を、お…大きく損傷し…右う、でを失い……肺も、ぉっ…! そっ、損傷し……っは、ぁぁああ…もって…い、ちじか、あぁ、ぁぁぁぁああ! ああああぁぁぁぁ!!!」

 

全てを言い切る前に彼女は膝を落とし、泣き崩れた。右腕を失い肺を損傷、付け加えるなら多量の出血、あまりにも失った箇所が大きく止血が追いつかない。

もって一時間どころか今すぐ死んでしまってもおかしくは無い状態だった。

右の僧帽筋から肋骨まで丸に近い形状で失ってしまっている、心臓に届かなかった事が奇跡だが、死ぬまでの時間が変わるだけである。

 

「うそ……、ぅぁ……」

「っ!」

 

それを聞き更識簪が操り糸を切ったマリオネットのように気絶する。倒れてしまうのを咄嗟に受け止め支えたシャルロット・デュノアは悲痛な表情を浮かべつつ簪を寝かせた。

周りにいる人間も同じように悲痛な顔をする。歯を食いしばり顔を背ける者、目を閉じ俯く者、多様な表情を浮かべ、しかし皆一様に苦しそうな顔をしている。

ただ一人を除いて、しかしその例外は決して笑っているわけではない、ただ無感情に虚ろな目で膝の上で握り締めた両手を見つめていた。

 

「嘘よ…だって、だってシンは、アイツはバカみたいに丈夫で、どんな怪我でも数秒後には治ってる…ギャグの塊のはずじゃない…!」

「そう、そうだよ、2階から当たり前のように飛び降りたり…そんなシンが死ぬわけ…」

「いまっ…! ふ、ふぅっ……ACぃっ、せい…しんサポー、ト…きど、うっ!」

 

フランがカラード社員に支給されているホログラムディスプレイを操作し、ボイスコマンドを入力する。

 

「……現在、カラードの戦闘部隊約2割、戦闘移動要塞(アームズ・フォートレス)3機、戦闘用無人機(コアード・マッスル・トレーサー)3500機、対IS無人戦闘機(アンチ・IS・ドローン)1500機、有人型AC87機、合わせてレイヴン(オールドACパイロット)・リンクス(ネクストACパイロット)・ミグラント(ⅤACパイロット)が87人、特殊型戦闘用無人AC1機と非戦闘員数百人がこちらに向かっています」

 

コマンド入力後に目尻に溜まった涙を拭い機械的に現状をフランが千冬に報告した。それは小さな声として流すには不可能なほど大きな報告だ、たった2割の戦闘部隊、しかしその戦力は世界をひっくり返すにはあまりにも容易い2割。

 

「――――――――――」

 

千冬は絶句する。

 

「私を含めれば、AC88機にミグラント一人追加ですが」

「は…」

「待て、AC88機…? ISコアの総数は――」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒが直ぐにおかしい点に気づき指摘を行う、否…行おうとした。

 

「まだ気づかれていないのですか、ISと同等の力を持つACにISコアは使用されていません。信一郎さんのACはどうか分かりませんが」

「それでは…それではカラードはISと同等の戦力を量産できると…?」

「…私はコレで失礼します。そう簡単にACの精神サポートで押し込めるほど軽い感情ではないので…そろそろ限界です」

 

フランは誰の質問にも答えず、答える気さえないと言った様子で部屋を去った。

 

「……今の会話を作戦内の機密とする。口外は何があっても許さん…いいな」

「は、い……」

「………」

 

千冬がその言葉を最後として全員を解散させる。多くの専用機持ちが作戦室に残るのに対し箒は沈んだ表情のままフラフラと部屋を去った。

 

「一夏は……」

「ISの致命領域対応で昏睡状態。一命は取り留めた、目が覚めたとしても火傷痕は残るだろう…籐ヶ崎の状況で逆に冷静になれたよ、取り乱す暇など無い。籐ヶ崎のおかげでダメージはかなり与えられたはずだ、見つけ次第…撃墜するぞ。上層より作戦を続行せよと指示が出ている。」

「そうだね、一夏のためにも…籐ヶ崎のためにも」

「私はドイツのシュヴァルツェ・ハーゼに協力を要請して銀の福音の場所を特定して貰う。籐ヶ崎…一夏、仇は絶対に取る」

「パッケージを今の内にインストールしておきましょう」

「そうね……簪は…この様子じゃ作戦参加は無理そうね」

「まっ……て…!」

 

全員が声のした方向を見ると簪がゆっくりと身体を起こし、過呼吸を起こしているかのように荒く息をして、全員を見ていた。

 

「簪、大丈夫? ……なわけ、無いよね……ごめん」

「いつから起きていた?」

「起きた時……フランは居なかった、よ……」

 

直ぐに近付いてきたシャルロットに支えられながら簪が千冬の問いに答える。

 

「わ、わた……私、も…参加……します…!」

「無理よ、今の簪の精神状態じゃ……」

「私が…! 私がやらなきゃ駄目なの……! 私が……仇を……!」

「いいだろう」

「織斑先生?!」

「私も…私も今、もし、暮桜を持っていれば、銀の福音をバラバラにするだろう」

 

腕を組んだ千冬がゆっくりと目を閉じる。一つ息を吐き、ゆっくりと目を開け、簪を見る。

 

「だが、自分が危険だと判断したら直ぐに離脱しろ。私はもう…これ以上生徒を失う光景を見たくない……」

「はい……!」

 

その直後、作戦室のドアが強く開けられる。突然息を荒らして1組副担任山田真耶が飛び込んできた。

 

「た、大変です!! 海から超大型の反応が凄まじい速度で複数ここに向かってきています!!」

「大きさは」

「え、えと…おおよそ7㎞です」

「距離じゃありません、大きさです」

「大きさがおおよそ7kmです!」

「なに…?」

 

真耶から液晶タブレットを奪い取り確認する。報告通りデータ上では7kmを少し超える「ナニカ」が時速2000kmを越える速度で3つ、この場所へと向かっていた。

 

「至急教員を集めて訓練機を装着させ、海岸で待機させてください」

「は、はい!」

「わ、わたくし達も!」

「お前達は作戦に備えていろ、コレは我々教師の仕事だ」

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

「あれか…」

「はい…そうみたいですね…」

 

海の上、数km、十数km先に居るにも拘らずいとも容易く目視できる巨大な物体。先頭に巨大なレーザーブレードを付け海を移動するのに特化させたような何か。

その後に接続した巨大で長大な列車、いや…むしろ壁と言った方が正しいとさえ思える何か。

それが3機も確かにこの海岸へと向かっていた。

もし、止まる気も無くこの海岸に突っ込んできたとすればIS程度に止める方法など存在しないだろう。

しかし徐々に速度を落としているのか掻き分けた波が小さくなっていく。

 

「あれは…!」

「なんて巨大なガトリング……一体どんな弾薬を…」

「何、あのミサイルコンテナ…ふざけてるの?」

 

ザワザワと混じった声が、前方の何かが近付いてきて全貌が明らかになるにつれ増えてくる。

速度を落としきり先端を砂浜に突き刺し停止した何かから十何人かの人と後部の巨大な壁から何十機か10数メートルのロボット、そして千冬と真耶には見覚えのあるフルスキンのISが出てくる。

全員が身構えた直後に一人のラファールを纏った教員があることに気づく。

 

「あれは…カラードのエンブレム…?」

 

偶然、巨大な壁に施されていたペイントを発見したのだ。決してそのペイントが小さいと言うわけではない。むしろ側面から見れば一瞬で分かるだろう。

そう「側面から見れば」容易く分かる。しかしただの一人の教員しかそれが分からなかった理由はあまりにも巨大すぎた、その一言に尽きる。

見つけることのできた一人の教員も離れた場所でスナイパーライフルを構えたスナイパーだったことも大きい、正面ではなく側面に位置していたのだ。

 

ふわりと人が生身で行う事ができるはずの無い動きで何人も砂浜へと降りる。

その中心に居る人間は小柄で、子供のような印象を与える。しかしその人間は世界にとって、特にISなど兵器に携わる人間にとっては余りにも大きな存在過ぎた。

籐ヶ崎麗羅、籐ヶ崎信一郎の母であり…カラードの社長。

 

「単刀直入に言います。息子は…シン君は…どこにいるの…?」

「すでに病院へと搬送しています。それとココは部外者立ち入り禁止です。お引取りを」

「総員戦闘用意」

 

信一郎に良く似た男がボソリと呟く、するとそれまで麗羅を警護するように立っていた人間が一斉に散り散りになり大きく間を開けた。

 

「ハングドマン」

 

男がコードを発すると直後男が決して眩しくない光に包まれ、光が膨張し巨大な白い物体を形作る。それを合図にしたかのように全員がコードを発する。

 

「………ヴェンジェンス」

「警備部隊1番機…!」

「レオ」

「タウルスッ!」

 

「デュアルフェイス」

「ストラックサンダー…」

「…シルエット」

「ファシネイター」

「フォックスアイ」

 

「シュープリス」

「オルレア」

「リィザァァァ…」

「雷電」

「フィードバック…」

 

寡黙そうな男が、軍服を纏った男が、冷たい目をした男が、巨大な筋肉の塊のような男が。

片腕が義手の老いた男が、葉巻を銜えた男が、深い彫りをした男が、冷たい女が、機械のような男が。

鍛え抜かれた体の男が、剣のような女が、顔に傷のある男が、温厚な眼をした男が、筋骨隆々とした初老の男が。

 

光が消える頃、それぞれ巨大な兵器になっていた。

その姿は信一郎の使用していたACに酷似している。ただし、巨大な事を除けば、の話だが。

 

何人かの教員がプライベートチャネルでリーダーである千冬に言う。

 

「この程度の数ならコレだけISの揃った我々の方が有利です」

「強気に出ても大丈夫でしょう。いくらカラードと言えどISに勝てるわけありません」

 

千冬はその言葉を聞き、返す事もなく「否」と結論付ける。

フランの言葉を信じるならその巨大な兵器―――ACは同等の数のISと対峙できる。現在ISは10機に満たない数、対して巨大なACが15機、小型…ISと同様の大きさのACが1機。信じがたいがまだ70以上あると聞く。

その上眼前の16機、間違い無く手練れだろう。対して教員側は戦闘に特化したわけではない教員が殆ど。

いざ戦ったとして勝てる可能性は皆無に近い。

 

「坊ちゃんは何処だ、迷ってる余裕も選んでる余裕もねぇんだ、一刻を争うんだよ」

「主任、戦闘許可を頂ければカラードの、社長のご意志に逆らう愚か者共を抹殺いたしましょう」

 

ショットガンを持ったグリーンのACから声が響く、その声量は巨大な機体に不釣合いな普通の人一人の声の大きさだった。

続くように巨大なスナイパーキャノンを持った赤いACから敵意や殺意を剥き出しにした声が響く、こちらはマイクとスピーカーを通したような大人数へ聞かせる事を目的とした声。

 

「…………ここから東側最寄の緊急病院です」

 

千冬が打鉄の基本装備として握っていた大型の刀を睨むように見て、ゆっくりと視線を上げ、麗羅の質問に答える。

 

「…ありがとうございます。織斑先生」

「総員警戒態勢解除」

 

麗羅が深々と頭を下げると主任と呼ばれた男が全員に指示を出し、ACを光の粒のようにして霧散させた。

続いて全員がバラバラにACを霧散させる。

ショットガンを持っていたACのパイロットが舌打ちをし、赤いACのパイロットがフン、と不機嫌そうに声を出す。

 

千冬は目を伏せる、決して脅しに屈した訳ではない、教師の前にただ一人の姉として、家族を持つ人間として、信一郎の搬入された病院を教えた。

もしも自分と麗羅の立場が逆だったならば、叫んだだろう、怒り狂っただろう。もしかするとその手を血に染めたかもしれない。

 

何人もの教員もその心中を察し、もしも自分がそうであったならばと考えてしまう。

穏やかで心優しい1組の副担任山田真耶もその一人だった、彼女にも父が、母がいる。

もし両親がそうなったらと考えると胸が張り裂けてしまいそうだった、彼女も銃を下ろし警戒態勢を解除する。

 

大型の輸送ヘリが3機砂浜へと着陸し、乗り込み用のハッチを開き人員を回収してハッチを閉じる。

ISを纏った教員達はそれを見送る事しかできなかった、もっとも、何かが出来たとして、結局は何も変わらなかっただろう。

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

先の作戦でのもう一人の負傷者、織斑一夏が眠る部屋で箒は拳を膝の上で握り締め、項垂れていた。

肩がブルブルと震え、歯がガチガチと音を出す。

 

「わ、わた……私の、私のせいで…一夏が…とう、がさきが……」

 

思い人が、一夏が意識不明の重体に陥り、友人である信一郎は死ぬ。

それも自分の所為で、一人で背負い込むにはそれはあまりにも重く、対照的にあまりにも箒は幼かった。

自分自身の所為だと理解しているが無意識のうちに自分の所為ではない、自分は悪くないと考えてしまう。

 

「私の、私の所為じゃ……籐ヶ崎が、前に…出てきたから、密漁船が……だから」

 

違う、自分の所為だ。違う、籐ヶ崎の所為だ。違う、密漁船の所為だ。そうだ、私の所為ではない。

逃避、それは正しく人のあり方であり、正しく現実的だ。

直後、破壊するかの勢いでドアが開かれる。しかし箒は驚きこそすれ、音のした方向へ目を向けることさえなかった。

 

「あーあ、何腐ってんのよ」

 

声を発したのは凰鈴音、つまり彼女がこの部屋へと入ってきた事になる。その鈴音に対し視線を動かすことも無く言葉を返すことも無く、ただ無言。

鈴音は一度昏睡状態の一夏を見て歯を食いしばる、ぎりと音が聞こえるほどに。

 

「…こっち向きなさい」

 

鈴音の言葉で漸くゆっくりと、フラフラと、操り人形のように振り向く、その姿は痛々しいの一言に尽きる。

箒が視線を上げると箒を見下ろすように立つ鈴音と、その後に立ち両の拳を真っ白になるほど握り締めた簪が居た。

 

「一夏がこうなってるのって、アンタの所為なんでしょ?」

「ち…がう、とうが……さきが…密漁船が、なければ。……邪魔を…しなければ……」

「ッ!!」

「アンタ……!」

 

箒が自らを守ろうと、人としての本能により逃避する。それに対して箒の胸倉を掴み上げようとした鈴音を押しのけ、簪が右手を振り上げた。

 

 

部屋に大きな乾いた音が響く、簪が力任せに箒の頬を叩いた証拠。叩かれた箒は衝撃で横に倒れ、床に身体を叩きつける。

 

「ふざけないでッ!! 信一郎が邪魔をしなければ?! 信一郎は邪魔なんてしてなかった!! 邪魔だったのは信一郎でも織斑君でも無かった!! 戦闘データは見た! あなたが…!! あなたがいなければ!!」

「落ち着きなさい!」

 

拳を握り大きく振り上げた簪を鈴音が羽交い絞めにして止める。息を荒くし、涙をボロボロと零しながら暴れる簪を落ち着かせようと声を掛ける。

何度も声を掛け、漸く暴れる事を止めた簪をゆっくりと放して座らせた。

 

「全く…逆にこっちが冷静になったわよ。ねぇ箒、アンタがもし本当に籐ヶ崎が邪魔をしてたって思ったならとんだ見当違いよ」

「…………」

「戦闘中に前に出てきたから? アンタは知らなかったかもしれないけど一斉射撃から守ってたのよ、アレ」

「え……」

 

箒は思い出す。信一郎が落とされた時も含めて自分の前に出てきた回数を、思い出す。銀の福音のあの火力を。

普通のISならば一斉射撃を一度でさえ耐えられない火力から3度も守っていた。

 

「あ…あ……!」

「……信一郎が言った言葉を覚えてる? 酔うなって…!!」

 

箒の脳裏に信一郎の言葉が鮮明に浮かび上がる。

「何をしに現れた」「心しておけ、その調子だと……誰かが死ぬぞ」

「こいつは訓練じゃない、実戦だ。甘い考えで取り掛かるとこっちのうち誰かが最悪死ぬ事になる」

 

「わた、わたし…わたしは……!!」

「もし、もし…! 私が日本の代表候補生で無ければ…!! ただの一般人なら! あなたを殴り殺す所だった…!!」

「箒、アンタも専用機持ちなら立ちなさい、戦いなさい。私達には、専用機持ちにはその責任が、義務があるのよ」

「私はもう……乗らない…ISには……乗らない…」

 

箒が目を逸らしその言葉を漏らした直後、今度こそ鈴音が箒の胸倉を掴み上げる。

 

「甘ったれた事言ってんじゃないわよ! アンタも! 私も! 簪も! セシリアもシャルロットもラウラも!! 一夏も籐ヶ崎も……ガキみたいな我侭が通るような立場じゃないのよ!!」

「所詮、戦うべき時に戦わない…臆病者」

「アンタは勝ち取ったんじゃなくて与えられたんだものね、でももし…一夏の事に、籐ヶ崎の事に責任を感じてるなら、戦いなさい。それが手向けよ」

 

鈴音の叱咤を受け、箒が歯を食いしばり鈴音を睨みつけ目に怒気を込め、叫ぶ。

 

「敵の居場所も分からない! 戦えるなら戦う!! どうすれば、どうすればいいと言うんだ!!」

「………いい目になったじゃない、そうよ、それでいいのよ。面倒ったらありゃしないわ」

「な、なに……? いったい…」

「場所なら……大丈夫……今、ボーデヴィッヒさんが……」

 

コン、とドアをノックしたような音が三人の耳に入り、全員がその方向に目を向けると開け放しになっていたドアにもたれ掛かるように黒の軍の正装を纏ったラウラがタブレット片手にドアをノックしていた。

 

「見つけたぞ、ここから凡そ30キロ離れた沖合上空で発見した。光学迷彩を持っていないのが幸運だった。衛星による目視で確認できた。服はすまんな、あちらが軍の正装でなければ取り合ってくれんのだ」

 

鈴音がにやりと笑みを浮かべラウラを見る。

 

「やるじゃない、流石ドイツ軍特殊部隊」

「当たり前だ、それよりお前達はどうなんだ。まだ準備を終えていません、など笑い話にもならん」

「私は、大丈夫……ACのグレネードを……フランに……渡されたから……」

「私も準備万端よ、甲龍の攻撃特化パッケージもインストール完了してるわ。シャルロットとセシリアの方こそどうなのよ」

 

ラウラが無言でドアの方を顎でさす。そこには部屋に入ってくるセシリア・オルコットとシャルロットが居た。

 

「たった今完了致しましたわ」

「準備OK、いつでも出れるよ」

「OK、これで全員準備完了な訳ね。…箒、アンタ以外は」

 

どうする? と言外に込め全員が箒へと視線を向け、反応を見る。

 

「私は、私は! 戦って勝利する! 一夏のためにも、籐ヶ崎のためにも、今度こそ、負けはしない!!」

「いいわ、行きましょう。アイツをぶっ飛ばしてやるわよ」

「お待ち下さい、まずは作戦会議ですわ。確実に、墜としますわよ」

「私は……笑顔で、信一郎を迎えるために……!」

 

簪の言葉に全員が簪へと視線を移す。

 

「信一郎は、絶対に戻ってくる」

「……根拠を聞いていいか」

「信一郎は……、私のヒーローだから……その根拠で……、充分……」

「うん、そうだね。シンだもん、きっと何時も通り馬鹿な事を言いながら戻ってくる」

「あぁ、籐ヶ崎はそういう奴だ」

「きっと、わたくしはまた籐ヶ崎さんの言葉に怒ってしまいますわ」

「あーあ、どうせ泣かされるんでしょうね。イヤんなっちゃう」

「そうだ、そうだな、行くぞ!」

 

全員思い思いに言葉を出し、一度笑いあう。そしてやる気を身体に滾らせ少女達は力強く歩き出した。愛する者の為に、友人の為に、一夏の為に、信一郎の為に、強く思いながら。

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

病室の特殊で透明な何かの中で無数のチューブや機器に繋がれた、最早身体に付いているパーツは頭だけとなった男、信一郎。

その病室で信一郎以外、数人の人間が存在していた。

床に膝を落とし泣き崩れ、信一郎の名前を呼び続ける輝くような白い髪をした女性。医師の胸倉を掴み上げ涙を流し怒鳴り散らす男性。

籐ヶ崎信一郎の両親、カラードの社長、麗羅と主任と呼ばれた男だった。

 

「シンくん! シンくん! やだよ、やだよぉ! 死なないで、ママとパパを置いていかないで! あぁぁぁぁぁ!!」

「どういうことだ! どうにもならない?! ふっざけんじゃねぇ!! 何のための医者だよ! 何のための病院だよ!! なんのための…ッ!! 助けてくれよ、息子を、シンを……! 助けてくれよ、せんせぇ……!!」

 

医師はどうする事も出来ず、ただただ、謝り続ける。しかし信一郎を数十分だけでも生きながらえさせる事の出来たこの医師は決して腕が悪いわけではなかったのだ。

だが、それでも、医師の力で命を繋ぎ止める事は不可能だった。

 

「シンくん、シンくんは覚えてるかな…」

 

彼女の脳裏には信一郎が生まれてからの事が走馬灯のように映されていた。

 

「シンくん、3歳の頃、ママを見て……シュレリア様、って言ったんだよ……?

 シンくんは特別なの、ママと一緒で、特別なの、だからお願い、死なないで……ママの能力(チカラ)は役に立たないから、頑張って……死なないで、生きて…!」

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

ラウラが長距離より二門のレールキャノンを構えターゲット、銀の福音に照準を合わせる。

セシリアがステルスモードにより反応を消し、銀の福音の周囲、探知されない距離を旋回し、攻撃指示を待つ。

鈴音と箒が強襲の為水中に潜み、爪を研ぐ様に、獲物を食らい殺すために牙を剥きタイミングを見極める。

シャルロットがセシリアの背に乗り冷静に指示を待つ。

簪がACのグレネードNUKABIRAとWADOUをその手に握り、ミサイルポッドを展開、銀の福音を木っ端微塵に消し飛ばしてやらんと、怒りをその目に宿す。

 

ラウラが全体に攻撃指示を出そうと息を吸い込んだ瞬間作戦指揮官、千冬からラウラ個人にプライベートチャネルによる通信が掛けられた。通信ウィンドウを開きながらも狙いはターゲットからずらさない。

 

「何でしょうか、織斑先生」

『……更識には絶対に伝えるな、間違いなく取り乱す。たった今……籐ヶ崎が亡くなったと病院から連絡が入った』

「ッ…!! 了解しました、更識簪以外の作戦メンバーに、伝えます」

『……すまない、本当に……戻ってきた時、私が伝える……怒りは私が、受け止める』

 

少なからず動揺し歯を噛んだラウラが一つ息を吐き冷静になろうとする。

千冬からの通信が終了した直後、簪以外の全員へとプライベートチャネルを繋ぐ。

 

「全員に通達、いま織斑先生より連絡が入った。籐ヶ崎が……亡くなった、との事だ。更識簪には伝えるな、作戦終了後に私が伝える。責めはそこで聞こう」

「そんな。……絶対……討つよ、仇を…!」

「……あぁ、そうだ。全員に通達! コレより10秒後に第一射を行う! その瞬間より作戦開始だ、奴を赦す訳には行かない、油断するな、潰すぞ! カウント開始!」

 

全員が気を引き締め、射殺すように、喉仏に喰らい付くため武器を持つ。

 

「…………Drei Zwei Eins Feuer!!」

 

超大型弾装、二門の大型レールキャノン、総重量300キロを軽く越える特殊ユニットから一射目以降マシンガンの如く人が触れれば肉片で留まる事さえない弾丸が、電磁レールによって爆発的に加速され、反動も何も考慮せずただ照準がずれれば撃ちながら修正すれば良いと言わんが如く、撃ち続ける。

 

「ォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!」

 

轟音を発する銃声を塗りつぶす程に強く咆哮し、あまりにも多大な熱量により赤み掛かったバレルを一度横に振り特種機構を作動させる。

弾装からドラム缶のような巨大な「ナニカ」が迫り出し展開型のアームによって伸ばされ固定。

バレルをドラム缶の後部に突き刺すとドラム缶自体が展開を始めスタビライザーのような物が展開された。

 

「砕けろォォォォォォォォォォッッッ!!!!!」

 

迫り来る銀の福音に向かいトリガーを引くと先端に装着された「円柱型の巨大なミサイル」が轟音と共に射出される。

 

『La…Lalalala……』

 

弾丸より火力が高くとも速度は弾丸よりも遥かに遅い、迫り来るレールキャノンの弾丸を半数以上打ち落とす銀の福音にとってミサイルは余りにも遅く大きな的だった。

しかしその火力は普通のミサイルと比べるべくも無い超火力、爆風も凄まじく巨大で膨大な熱量を持っていた。

物理シールドを4枚、安定性能を増すためにスラスターを調整したラウラでさえ体勢を崩し十数メートル後ろに下がる。直撃とまで行かないがまともに爆風に巻き込まれた銀の福音が体勢を崩さず突っ切ってラウラに肉薄する事など出来ない。

 

爆煙を錐揉みに脱出、頭部スラスターを複雑に調整し、漸く姿勢を安定させラウラへと手を伸ばす。

 

「良い位置だ」

 

が、銀の福音の腹部にレールキャノンを二門突きつけたラウラがニヤリと笑みを浮かべていた。

 

『La――』

 

ほぼ零距離より腹部に衝撃を受けた銀の福音がくの字に折り曲がり数十メートル吹き飛ばされた。

砲撃を成功させたラウラが現在出せる最高速度で後退しながらレールキャノンを撃ち続け、安全な距離を得ようとする。対する銀の福音が全砲門を前方へと向け迎撃を開始。

する寸前にほぼ真上に敵反応、砲門を真上へと向ける。

 

上空の青い粒から閃光が走り右のスラスターへと直撃、続け様に二撃三撃と寸分違わず同位置に直撃、バランスを取るためにスラスターの出力を調整。

しかしまるでそれを狙っていたかのように左のスラスターへと閃光が直撃しバランスを崩し射撃角がずれてしまう。

遥か上空で粒のように見えていた蒼い機体が凄まじい速度で銀の福音とすれ違う、体勢を崩しながらも蒼い機体を追いかけ砲門を下部へと向け、射撃体勢を取る。

 

蒼い機体、強襲型高軌道パッケージを装着し巨大なドラムマガジンを装備した全長2メートル半に及ぶ巨大なライフルを手に装備したブルー・ティアーズを纏ったセシリアが直ぐに反転、射撃を開始する。

 

BT型から外れ実用性のみを求めたライフル、大型の実弾をレーザーエネルギーで纏った協力な衝撃性能を持ちながらレーザーライフルの速度を両立させ、迎撃も実体シールドでの防御も出来ないイギリス製最高性能の狙撃ライフル。

 

「砲門を幾つか、頂きますわ!」

 

近接戦闘には向かない高感度ハイパーセンサーを装備しながら数百メートルしかない距離で次々と浮遊型の砲門を破壊して行く。

無論ただの一撃で壊れるはずが無い、絶えず細かに動き続ける砲門に何発も何発も命中させ撃破して次のターゲットに移る。それを凄まじい速度で繰り返していた。

 

『第二敵機を確認。排除開始』

「そうは行かないんだよね」

『Lal――』

 

銀の福音の背後から聞こえた声に銀の福音が反応するより早く背中にロケットランチャー程もある銃口を二つ突きつけたシャルロットが引き金を引いた。

ロケットランチャーの口径ほどもあるバレルに直径1メートル以上の巨大なダブルドラムマガジンを取り付けたような不恰好なショットガンから50calの薬莢を含めた位の大きさをしたフレシェット弾がフルオートで撒き散らされる。

その凶悪な弾丸の波に蹂躙され思い通りに動く事さえままならない銀の福音が喜劇のダンスのように舞い踊った。

 

ほんの数秒で弾薬撃ちつくしたシャルロットがショットガンを投げ捨て1秒に満たない速度で次の武器をコール、射撃を開始しようと武器を構えた。

 

『La…Lala…Lalala…Lala』

 

最初よりも少なくなってしまった砲口を全方向に向け乱射を開始し、安全を確保し離脱を開始するべく反撃始める。

 

「残念、それじゃ破れないよ!!」

 

防御用パッケージを眼前に展開し、アサルトカノンとバトルライフルを両手に持ったシャルロットが銀の福音を睨み砲撃の合間を縫って射撃、的確にダメージを与えて銀の福音にとって不利な状況へと追い詰める。

 

横軸への退避が不可能と判断を下し、上空へと急加速を行い一度戦闘地帯から逃れ、続いて高速移動で戦闘空域から逃れる事が可能となった。

 

『La 戦闘空域から離脱―――』

 

目前に巨大なグレネード弾が迫っていなければ、話ではあったが。

ステルス弾頭により気付く事さえなく直撃した銀の福音が吹き飛ばされ、無茶苦茶にスラスターを噴かせ体勢を立て直し、次の行動に移ろうとする、しかし体勢を立て直す事さえ許さない追撃が再度直撃した。

 

「落ちろ……落ちろ……! 落ちろ! 落ちろ!! 落ちろ墜ちろオチロォォォォォォォォッッッッ!!!!」

 

獣のような咆哮を上げた簪が両腕に大型のグレネードを持ちトリガーを引きっ放しにする。

グレネードを交互にバランスを崩しては銃口を銀の福音に向け放ち、更にバランスを崩す。身体が無茶苦茶に振り回されてもリロードが完了した瞬間には銀の福音へグレネードを放つという離れ業を当たり前のようにやってのける。

普通は存在する空気抵抗を無視し、その動きが出来る理由はACとISのハイブリッドである打鉄弐式だからこそ出来る芸当だった。

空気抵抗を零に近いほど減少させるACのプライマルアーマー、上下であろうが関係の無い機動が可能なIS、そして一つ、非凡な演算能力、処理能力を持った簪の才能でもあった。

 

『………La』

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!」

 

グレネードを投げ捨てクイックブーストのように飛んだ簪が両手に薙刀、夢現を握り体勢を立て直しきれない銀の福音を縦に切りつけその場で一回転し、長い柄で銀の福音を海面へと叩き落す。

 

打ち落とされ海面へと迫る銀の福音の真下の海面が泡立ち赤い炎が銀の鐘の連射と同等の速度で撃ち出され銀の福音を全く逆方向に弾き飛ばした。

 

海面から赤紫の機体が飛び銀の福音を見下ろす。鈴音の駆る甲龍の片側二門、計四門の砲口から赤い炎が乱射される、二門からは散弾のように回避を困難にさせる拡散の炎、残り二門から細く圧縮させた高火力の炎を通り越しプラズマ体となった弾を凄まじい速度で連射、連射、連射。

 

応戦のため銀の鐘を連射し、対抗する銀の福音の下部から幾つもの紅いレーザーが伸び、直撃する。

 

『La…!』

 

全砲口を下へと向けた銀の福音の浮遊型砲門、すぐさま連射が始められ。その砲が全て爆ぜた。

無数のミサイルが、衝撃を伴ったレーザーが、高火力のライフルが、長距離より迫るレールキャノンの弾丸が、全ての浮遊砲を破壊したのだ。

残るは頭部スラスターに直接装備された砲のみ、どうあっても撃ち合いに勝つ事など出来ない。

 

『La…Lala…Lalala……Lala』

 

海中より二本の刀を構え飛び出す紅い機体、その機体に極近接戦距離へと迫られる。

スラスターを振り回し打ち付け、戦車や戦闘機など捻じ切ってしまう威力の蹴りを繰り出す。

だが紅い機体、箒の紅椿には一切ダメージを与える事が出来ない、まるで舞うかのようにヒラリ、と空中を漂う羽のように避けて行く。

 

「っはぁぁぁッ!!!!」

 

右の刀を銀の福音の右スラスターへ打ち付ける、刀が装甲に食い込み動きを止まった。

好機と見た銀の福音は斬撃の余韻が残り、まだ動けずにいる箒を蹴り離し残った砲門で箒を撃とうと頭部スラスターを構えた。

 

『Lalala……』

 

砲数が減少したため先ほどの凄まじい連射は見る影も無いがその分威力を増強した銀の鐘が箒を襲う。

 

「僕の本来の役目は、コレなんだけどね」

 

シャルロットが半壊した防御ユニット、ガーデン・カーテン越しに言葉を出した。シャルロットを飛び越え残りの刀を両手で握る箒が銀の福音へと肉薄する。

今だ銀の福音のスラスターに食い込んだままの刀目掛け瞬時加速を用いた突撃からの切り上げを行う、打ち上げた刀は食い込んでいた刀に直撃し、力尽くで引き抜かれ空中へと飛ばされた。

 

『La―――』

 

飛ばされた刀を銀の福音へと急降下する簪が掴み取り大きく引く。箒が銀の福音の攻撃を回転して避け、踵を大きく振り上げる。

 

『ォォォォオオオオオオオオアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!』

 

簪は降下中更に加速し、身体を大きく回転させ斬撃の威力を爆発的に上昇させる。紅椿が主の意思を汲み取り足の展開装甲が起動、レーザーブレードを発生させる。

 

『切り裂けエエエエエエエェェェェェェェェェェェッッッッッ!!!!!!!』

 

簪の持つ刀による攻撃が銀の福音の片翼を斬り飛ばし、箒の展開装甲による斬撃が残る片翼の傷に食い込み斬り落とす。

両翼を失った銀の福音は無抵抗に海へと落ちて行った、この瞬間IS学園所属の生徒達は勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かのように見えた。

 

「水中に高エネルギー反応!!」

「あの、あの光は…?!」

 

雷を纏い、自らを守るように膝を抱え、その周囲の水を「溶かし」存在する、銀の福音を目視するまでは。

 

「マズイ、これは…!!」

「第二形態移行(セカンドシフト)ッ!! ここから離れ―――」

 

シャルロットが叫ぶ、全員へ危険だと知らせるため、その直後にいつの間にか目の前に「居た」銀の福音、切り落とされた翼の根元から光が溢れ「羽」となった。

誰一人として気づけなかった、今ココで羽に抱かれつつあるシャルロットでさえも、銀の福音が目の前に居た事に。

 

「あ……はは、駄目みたい。皆、冷静に――――」

 

ふわり、と羽に包まれゆっくりと羽が開かれると、ガーデン・カーテンを木っ端微塵に破壊され、ISもボロボロに破損したシャルロットが落ちていった。

 

「き…貴様ァッ!!!」

 

ラウラがレールキャノンを「浮かぶ」銀の福音へと連射、銀の福音が一度その場でゆっくりと羽ばたくと遥か先に居たはずの銀の福音が目前で浮かんでいた。

鳥が羽ばたくよりもゆっくりと羽をラウラへと打ち付ける。まるで、ただ飛んでいる最中に偶然羽が何かに当たってしまったかのように。

 

「ぐ、あ……」

 

それだけで四枚の物理シールドが砕け、共に吹き飛ばされる。体勢を立て直すには余りにもオーバーダメージ、ISの機能が生きてはいるが戦闘続行は不可能だった。

 

『Lalala……Lalala……』

「この……っ!!」

 

連射式荷電粒子砲を簪が放つ、しかし片羽を振るうだけで銀の福音へと迫っていた砲撃は霧散する。余りにも圧倒的過ぎた、それはもはやISでは無かったのかもしれない。

 

「山あら――――」

 

ミサイルを放とうとポッドを開き、ミサイルを射出した直後弾頭が全てレーザーにより貫かれその場で爆発、簪は抵抗する間も無く巻き込まれた。

 

「よくも、よくもよくもっ!」

 

ライフルを撃ち、高速移動で戦闘を行おうとセシリアが加速、銀の福音が同じように加速、双方加速を終了した時にはセシリアのISはズタズタに壊されていた、しかしセシリアは高感度ハイパーセンサーを装備していた故に見ることが出来た、銀の福音が移動する瞬間を。

 

「なんて、ふざけ…た……は…や……」

「このっ、化け物がッ!!」

 

赤電を纏った砲撃を肩部の非固定ユニットより連射する。しかし鈴音の特化火力でさえ片羽で身体を覆う事により容易く防がれてしまう。

 

「ならっ、コイツでどうよぉぉぉっ!!!」

 

双天牙月を手に瞬時加速で銀の福音が自らを覆う羽に刃を突き立てた、しかし衝撃が返って来ることも刃が突き刺さる事もなく、ただピタリと刃が静止した。

 

「あぁ…くそっ。ホント、ふざけてるわ」

 

羽が形を変え砲口のような物が幾つか鈴音に突き付けられ、ただ一発づつ放たれ、鈴音を吹き飛ばす。

 

『ノ、コリ……メインター、ゲッ…ト。システ、ムバイパ…ス、ニバ、ンテイシ。Lala…Lalala』

 

そう銀の福音が呟くと今まで柔らかい動きをしていた羽が機械のように固定され見るからに性能が落ちた。

 

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 

「このぉっ!!」

『Lala……La……Lalala』

 

全員が堕ち、最前線より引いて約5分。2次移行した銀の福音と「互角」に打ち合っていた箒が歯噛みする。

事態が好転しない事に苛立ちを感じているのではなく「何故互角で戦えるのか」と言うことに苛立ちを感じていた。

どれほど紅椿の性能が高いといえど搭乗者は素人の域を出ない、そんな人間が何故瞬く間に手練れ全員を落とした化け物と互角に戦えるのか、と苛立っていた。

 

「ふざけるな……ふざけるな。ふざけるな! ふざけるなぁっ!!!」

『Lalalala……Lalalala』

 

明らかに手加減されている。この程度で落とされるほど全員は弱くは無かった、確かに異常なまでの性能だがあの人数をあっと言う間に落としきるなど今の銀の福音に出来るはずなど無い。

スラスターを蹴り上げ両手ニ刀の刀を大きく振り上げ全力で斬り付け、力任せな大きなダメージを与える。

それを気に掛けることも無く耐え、隙を示した箒の首を獣が獲物に爪を突き立てる様に乱暴に掴んだ。

 

「し、ま…! あ、かっ……」

 

しかしまだその手に刀を握る箒は銀の福音の腹部にその刀を突き立てる、だが通らない、攻撃が意味を成さない。

銀の福音の翼がポウと光り両翼より一発づつ弾が放たれる。ただそれだけで呆気無く両手の武器が弾き飛ばされ、粒子となって消えてしまった。

それは紅椿のエネルギー切れを如実に示していた、ただ悔しそうに歯を食いしばる。それしか出来る事が無かった。

 

「あぁ、駄目か……すまない、みんな…仇を取れなかった、すまない……籐ヶ崎…すまない、一夏……」

 

ゆっくりと、ガチリガチリと銀の福音の翼が箒を包む、自力での脱出は最早不可能、エネルギーもほぼ全て枯渇した、残りは意識不明か死か、そのカウントダウンでしかなかった。

 

「…ちか、いちか……一夏、会いたいよ、いちかぁ……!」

 

頬を一筋涙が伝う、まだまだやりたい事があった、言いたい事があった、だがもう遅い。ただ覚悟を決め、目をゆっくりと閉じる。

 

しかし突如自分を襲った衝撃がそれを許さない、何とか残り少ないエネルギーを駆使し、機体を安定させ何がどうなったかを確認する。

目に映ったのは強力な狙撃でも受けたのか凄まじい勢いで吹き飛んでゆく銀の福音、そして合いたいと強く望んだ相手。

 

「あ、あぁ…!」

「これ以上、お前に俺の仲間はやらせねぇ、誰一人として!」

 

 

 

 

 

大きく形の変わった白式を纏う思い人、織斑一夏。

 

「一夏、いちか……! 怪我は、身体は……!」

「悪い、待たせたな」

「良かった、よかった……!」

「あぁ、もう大丈夫だ。…リボン、無くなってるな……丁度良かった、コレやるよ」

「これ…は? リボン…?」

「誕生日、おめでとう。箒」

 

白いリボンを箒に手渡した一夏がニコリと微笑む、その後右手に握る剣を構えなおし真剣な顔をした。

 

「シン以外は確認した、シンはどこにいる?」

「籐ヶ崎は、籐ヶ崎は……亡く…なった……」

「そんな、そんな馬鹿な。アイツが、シンが死ぬようなタマかよ…!」

「…………」

「…本当、なんだな。ちくしょう…箒、下がってろ…俺が仇を取る…!!」

 

その言葉を残し、凄まじい速度で銀の福音を迎え撃つべく飛んだ。

 

戦うその姿は圧巻だった、戦いの才能もあったのだろう、だが強かった。

あの銀の福音に一歩も引かず、否。むしろ一歩前に出て有利な状況だ。

 

だが流れ弾の数も相当な数、それを全て打ち消すのは不可能に近い、故に決定的な攻めに転じる事が難しい。その一夏に肉声で叫ぶ女生徒がいた。

 

「一夏ッ! あたし達は代表候補生よ?! 自分の身ぐらい自分で守れる! だからとっととそいつをぶっ飛ばしちゃいなさい!!」

「なんなら僕達が、手伝ってもいいんだよ…!!」

「私はまだまだ……戦える……!!」

「狙撃のサポートは必要ですか!!」

「まだレールカノンは一門生きてる! 流れ弾を吹っ飛ばすなど造作も無い!」

 

無論その殆どがただの強がりである事など目に見て分かる、しかし一夏にはその言葉が信頼に値する物だった、なればもう容赦など不要。攻めに移る事に何の戸惑いも無かった。

 

「頼もしいな、ははっ…いいぜ、来い…来いよ! 俺はここにいるぞ!! シルバリオ・ゴスペェェェェェェェェェェルッッッ!!!!!」

『メインターゲット変更、ランクAオーバーと認識、最大火力変更』

「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

『La……』

 

新たな武器を駆使し怒涛の勢いで銀の福音を圧す。自分へ攻撃は全て光の盾で消し、零落白夜で斬り、爪で切り裂き、荷電粒子砲を放ち、一切の不利を許さない。

圧している、しかしまた圧されてもいる。攻撃、防御、全てが自らのエネルギーを喰らい潰し、攻撃に防御に転ずる。

軍用と競技用、エネルギーの最大値、火力、防御力、ただそれだけが性能、相性を塗りつぶしていた。

その上片翼を斬り飛ばそうとも両翼を同時に消さない限りは瞬時に反撃を行って来る。両翼を同時に切り落とすには瞬く一閃に2度振ると言う矛盾に似た神の如き業が必要。

もしくは左腕の爪と右の零落白夜で同時に切り落とすか。

 

しかし斬り落とした所で何になるのか、翼は体中から生えている。全てを同時に切り落とす。そのような次元を斬る様な悪魔染みた業など出来る者はこの世にいない。

なれば零落白夜を敵の身に突き立てるのが唯一の有効な攻撃方法ではないのだろうか。

しかし。

 

「くっ、足りねぇ…!! 畜生、諦めれるか!」

 

エネルギーが凄まじい勢いで消費されていき、余裕が一切無い状態だった。

 

「一夏ッ!」

「箒?! お前、どうして! エネルギーは、ダメージは?!」

「大丈夫だ! そんなことよりコレを受け取れ!」

 

箒が一夏に触れる。黄金の粒子を零す紅椿が白式・雪羅に触れる。その瞬間、一夏の身体を衝撃が貫いた。

 

「な、なんだ…! エネルギーが…回復、してる?」

「今は考える暇など無いだろう? 行くぞ!」

「お、おう!!」

『Lalalala……La』

 

砲撃する翼を斬り落とし、翼を砕き、銀の福音を弾き飛ばし遂にその刃を銀の福音へと突き立てた。

銀の福音が謳い、体中の翼を一夏へ突き刺すべく大きく広げる。

しかしその一翼たりとも刺さる事は無かった。マシンガンによって、巨大な刃によって、電撃を纏った巨大な銃弾によって、亜音速のレーザーを纏った銃弾によって、凄まじい速度で連射される荷電粒子砲によって、飛来する紅い斬撃によって、全てが破壊された。

 

翼を全て失い、ただ動く事も無く、その場で静止した銀の福音。

確かに全てのエネルギーを使い果たした筈の銀の福音がまだその形を保って空に浮かぶ、異様な光景。

 

「やったのか…ついに…!」

「やったぞ…籐ヶ崎」

 

その異様な光景は終わりを迎えた。銀の福音がその両手で頭を抑え呻く事によって。

 

『解除、停止、否定、拒否、拒絶、守る、護る、まもる、マモル、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まもる』

「こいつ、まだ!」

『まもる、まもる、まもる、まもる、まもる、まも………Lalalala……La…La…Aa…Ahahah……Ah』

 

詩が変わった、ふわりと浮かぶように手足を広げて、天使のような光を漏らして。

フワリと一対の「羽」が生えた、その様は正に天使といって違いない。

 

「後から何かが来るよ!」

 

まだ銀の福音が動き始めていない今、シャルロットからの通信が耳に入る。

その直後銀の福音の頭部が爆発した。だが銀の福音は数メートル飛ばされ、フワリと羽を羽ばたかせ、機体を安定させる。

その動きを見た一夏はただ「動物的だ」としか思わず。他の専用機持ちは思い出す。

 

「一夏! 駄目だ! それには! 今のソレには勝てない!!」

「逃げてください! 例え一夏さんでもそれには勝てませんわ!!」

「その化け物から! 逃げれる所まで逃げるのよ!!」

 

瞬く間に専用機持ちたちをほぼ全滅にさせた「あの」滑らかな動きだった。

シャルロットが全員にオープンチャネルを繋ぐ、その後の報告は幸となるか不幸となるか。

 

「後方の不明機のスキャン結果が出たよ! 多分ISだと思う! 信号は敵対も友好も表示無し、不明! 見た感じの装備はランチャー、マシンガン、ミサイル、レーザーブレード! 詳しくは分からないよ! 機体名は」

 

 

 

 

 

「Nine-Ball(ナインボール)!!」




主人公が死ぬといっても何か感動的な場面があると思いました?
残念! 映される事も無くいつの間にかぽっくり逝ってました!
命は投げ捨てるもの…
あと今回物凄く分かりづらいところが多いです。
メッセージでもモリモリ聞いてくださいね!

てか本当にキャラの魔改造やりすぎた感が凄いです。
ソレの反動で福音も凄い事になりましたけど。

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