ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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第34話:独りの討伐戦

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 第五五層の主街地である【グランザム】へと転移してきたのは、【ZoG】のギルドマスターのユート、サブマスターのキリト。

 

 更にギルド【レリック】のギルドマスターの翼に、サブマスターである響。

 

 大勢居ても意味が無いからいつも通りに、ギルドの代表たるマスターとサブマスターの二人に限定され、他のメンバーは基本的にはホームで待つ。

 

「よう、ユートにキリトじゃねーか!」

 

「クライン!」

 

 ユートが名前を口ずさみ手を挙げて応える。

 

 赤毛に趣味の余り良くないバンダナを巻く野武士面な青年、彼は僅か六人程度の少数ギルド【風林火山】のギルドマスター。

 

 嘗て、第一層ではユートにギルドのメンバー全員が世話になった経験もあり、本人の明朗快活な性格もあって【レリック】みたいな同盟を結んではいないが、それに近い付き合いだ。

 

 隣の人物はサブマスターだろう、特に口を開くでもなかったがペコリと挨拶代わりに頭を下げてきた。

 

「にしても、ユートよぉ。オメーの苦労もようやっと報われるなぁ?」

 

「フ、そうだな」

 

 第一層から可能性自体は考えていたし、第二層から明確に敵が居ると認識し、第三層からは攻略そっちのけとまではいかないけど、出来る限り捜し始めた。

 

 第十層から十層のボスをソロで攻略する見返りに、本格的なアインクラッドの攻略に戻りはしたものの、〝敵〟を捜す事そのものは行い続けてきたのだ。

 

 然し見付からない侭に、遂に犠牲者が出始める。

 

 睡眠PKを始めとして、システムの穴を突いたPKを教唆、それで本来ならば一般プレイヤーの筈の連中が道を踏み外す。

 

 何人も死んだ。

 

 そしてユートの懸念通り現れたレッドギルド。

 

 自分達自身がPKを愉しむ殺人ギルド【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】、ギルドマスターのPoHは間抜けな名前とは裏腹に、【友切包丁(メイトチョッパー)】を手にし凄まじい技量を魅せ、ギルドのメンバーを増やしていた。

 

 【友切包丁】は現段階でユートが造る武器以外で、最高の威力を誇る魔剣級のモンスタードロップによるダガーである。

 

 ユート以外だと何とか、リズベットが少し前に作成した【ランベントライト】や【ダークリパルサー】が匹敵するレベルか?

 

 PoHは【友切包丁】と謎のカリスマを以てして、厄介な敵と成りつつある。

 

 【血盟騎士団】の本部に招かれた各ギルドのマスターとサブマスター、それにソロでも攻略組に入れる程の実力者も含めての会議。

 

 別の世界線では、キリトもソロ攻略組の一人として動くが、この世界線に於いてはギルド【ZoG】でのサブマスターだ。

 

「皆さん、不参加無く集まって頂いて感謝してます」

 

 今回ばかりはアスナの声に堅さが含まれているが、その理由を知る面々は特に何を言うでもない。

 

「本日、こうやって皆さんに集まって頂いたのは他でもありません。殺人ギルドの【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】のアジトが、彼らのギルドを抜けた者から情報が齎らされ、これにより彼らを捕縛するに足る作戦を話し合える事になったからです!」

 

『『『『おお!』』』』

 

 既に聞かされていたとはいえ、【KoB】の副団長たる【閃光】のアスナから直に言われると、真実味が五割増しと云えた。

 

 実の処、【聖竜連合】や【アインクラッド解放軍】や【アインクラッド解放隊】など、大きなギルドだと中堅レベルのギルドメンバーが被害に遭っている。

 

 極小規模なギルドである【ZoG】や、【レジェンドブレイブス】や【レリック】などは特筆する被害は無かったが……

 

 とはいえ【レジェンドブレイブス】の場合、ユートの見立てでは加害者にされる被害を第二層で受けて、強化詐欺事件を起こしてしまっており、決して他人事と宣っていられない。

 

 中規模ギルド【ソーシャルゲーマーズ】も、人死にこそ出さなかったものの、トラップに掛けられたとか女性プレイヤーがレ○プをされ掛けただとか、色々と被害を受けている。

 

 オレンジギルド【タイタンズハンド】も、思想的にはPoHから薫陶を受けた可能性もあった。

 

 まあ、仮にそうだとして連中を出す理由も無い。

 

 いつもと同じくで最大のギルド【KoB】の副団長アスナが司会進行役をし、ユートやディアベルやシンカーといった面子に意見を求めていき、大体の案件は纏まったと見て良いくらい意見も出揃う。

 

「では、アジト襲撃は今日より三日後に。その準備の期間中で武器防具のメンテナンス、アイテムの補充といった事をして貰います。また、今回に限り【ZoG】専属契約鍛冶師でもあるリズベットがメンテナンスを二割引きで引き受けてくれると、ユート君から言質を戴いています」

 

 リズベットは本来の世界線だと専属契約をしてない鍛冶師だったが、この世界では【ZoG】のメンバーの一人でもある。

 

 フリーではないのだし、ある意味で【ZoG】との専属契約をしている形だ。

 

 アスナから頼み込まれ、リズベットも自身が襲撃班に加われないから、そちら方面で役に立ちたいと願っていた事も手伝って頼んでいたが、ユートはあっさりとオッケーを出した。

 

 本来の世界線では知る人ぞ知る鍛冶師であったが、この世界線では【ZoG】所属という一種のブランドとなり、客足も可成り多い事から謂わば有名店みたいな感じで、アスナの言葉には皆が沸いたものだ。

 

 何しろ、唯でさえユートという剣士兼鍛冶師なんて冗談みたいな事を仕出かす者が居り、リズベットの様な武器造り故のメイサーとは明らかに異なるタイプ、戦闘で勝てないならせめて鍛冶師として負けたくないなんて、負けず嫌いを発揮したリズベットはグングンと熟練度を上げていく。

 

 今やSAO切っての鍛冶師として有名となる。

 

 まあ、ユートはリアルな鍛冶が可能と判ってから、更なる技術による鍛冶というのを魅せ、リズベットはちょっと焦っているが……

 

 特に、ユートが響──もうプレイヤーネームで呼ぶ仲間は居ないに等しい──に実験的に与えた武具は、正に秀逸と言っても良い。

 

 ガングニール・シリーズと呼ばれ、ボス戦に参加をしたプレイヤー達が欲する武具の筆頭だった。

 

 尤も、ユートはシンフォギア・シリーズをギルド【レリック】のメンバー以外に与える気は無い。

 

 現状、アメノハバキリとイチイバルは完成している訳だが、【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】の処理が最優先として未だに渡さず仕舞いである。

 

 尚、イガリマとシュル・シャガナはユートが見た事が無い為、今は造れないと切歌と調に断った。

 

 殺るべき事は決定して、合同ギルド会議は終了。

 

 三日後に各ギルドからのトップクラスが選出され、【笑う棺桶】のアジトへと襲撃を仕掛ける予定だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 合同ギルド会議が終わった夜更けて、もう朝方だとも云える時間帯にユートはたった独りで、とある場所に立っていた。

 

「所詮、予定は未定なんだよアスナ。悪いな……」

 

 独り言ちると歩を進め、その手にはこの日の為に打った【景光】を執る。

 

 今まで使っていた刀──【兼光】より数段上の武器レベルで、耐久性や切れ味が格段に上がっていた。

 

 

兼光:カタナ/両手剣 レンジ:ショート 攻撃力:800-1500 重さ:130 タイプ:斬撃 耐久値:2000 要求値:68 敏捷性:+55 腕力:+10

 

 

景光:カタナ/両手剣 レンジ:ショート 攻撃力:2000-3200 重さ:110 タイプ:斬撃 耐久値:3500 要求値:75 敏捷性:+90 腕力:+50

 

 

 実際に打ち合った事など無いが、噂の【友切包丁(メイトチョッパー)】とやらが強力な魔剣らしいし、万全を期する為にと打っておいた刀系。

 

 現時点で、プレイヤーメイドや魔剣など全てに於いてトップクラスの刀であると自負している。

 

 当然ながら【友切包丁】などに負ける気は無い。

 

 因みに、使わなくなった兼光は某・赤毛バンダナが涎を垂らさんばかりに見つめていた為に、格安で──百万コル──譲ってやったらメガっさ喜んだ。

 

「待て! 何だお前は!」

 

 漸く現れた〝獲物〟に、ユートはニヤリと嗤ってから景光を掲げて叫んだ。

 

「貴様らの敵だ!」

 

 意を威に変えて叫ばれ、ビクリと震えた相手だったがすぐに合図を送る。

 

 稍あって、バラバラと現れてユートを取り囲んでくるプレイヤー、そして別格だと謂わんばかりの三人が揺ったりと現れる。

 

 黒いポンチョを中心に、髑髏仮面に赤い眼光を灯した男と、ニヤつくハイテンションな男の三人は、嘗てギルド【黄金林檎】が瓦解する切っ掛けとなった者、【笑う棺桶】のヘッドであるPoHと、赤眼のザザ、ジョニーブラックだ。

 

 流石はヘッドと幹部……部下を嗾けて高みの見物と洒落込む気らしい。

 

「Ho、まさか翌日の早朝から仕掛けてくるとはな。確か三日後と決まった筈ではなかったか?」

 

「やっぱりか。お前らの所を抜ける者が居れば、此方にも裏切者が居る。そんな可能性は考えていたさ」

 

「成程な、だから裏を掻いて初日からと? だが独りで来たみたいだが、それでどうする心算だ?」

 

「勿論、一人でもお前らを殲滅出来るさ。だけど勧告はしておこう、投降するなら命までは奪わん。黒鉄宮の奥でSAOがクリアされるまで、大人しくしていて貰うだろうがな」

 

 一応、親切心で言ってやっているユート。

 

 当たり前だが非難轟々、『巫山戯るな!』だとか『ぶっ殺してやる!』などと声が上がる。

 

「そうかい、殺す心算で往くから生き残ったらラッキーだと思え」

 

 ガチャリ、景光を構えながら不敵な笑みで言う。

 

 纏うはミスリル銀糸製の陣羽織、下手な鎧兜を身に付けるより防御力が高く、更に軽いから動き易い。

 

 ミスリル銀糸は、ユートがミスリルインゴットから構築した代物であったが、それを陣羽織に縫い上げたのはSAO随一の縫製職人アシュレイだ。

 

 本当に良い仕事をする。

 

 その下には陣羽織に合わせた鎧、籠手、具足などを装備していた。

 

 正に今回は大将といった趣で闘うのだろう。

 

「さあ、始めよう。金色の御許へ還るが良い!」

 

 ユートの宣言と同時……

 

「イッツ、ショータイム」

 

 PoHの命令が下る。

 

『『『『おおお!』』』』

 

 鬨の声を上げて【笑う棺桶】のメンバーが、ユートへと向かって駆け出した。

 

 斬! 斬!

 

 運悪く、最初にユートの所へ辿り着いた男の腕を、ソードスキルとは異なる技で斬り落とすと……

 

「ウギャァァァァァッ! いてー! いてーよぉぉぉぉぉぉぉっっっ!?」

 

 のた打ち回りながら痛みを訴えた。

 

『『『『っ!?』』』』

 

 全員の脚が止まる。

 

 ゲームでいちいち痛みを覚えてはいられないから、通常はこの痛みをシステム的なカットをしている筈。

 

 ペインアブソーバによるモノで、これにはレベルが設定されており、レベルが最大値の一〇だと不快感を受ける程度で、SAOでは基本的にこれで固定が為されている。

 

 最低値の〇ともなれば、現実の痛みをその侭に受ける事となる為、剣で斬られたその激痛は如何程のものか想像もしたくはない。

 

「ギャアギャアと喚くな、煩いし何よりみっともないんだよ!」

 

 ザクッ!

 

「ゲボッ!」

 

 煩く叫ぶ男の喉を景光の白刃で貫いた。

 

 更にはグリグリと刃を動かしてやると、涙をボロボロと流しながら叫ぶ事すら出来ずに、HPバーをどんどん減らしていく。

 

 満タンで緑色だったが、両腕を斬られた時点で既に五分の一まで減り、HPバーは今や半分にまでなって黄色く変わっている。

 

 腕が無いから刃に触れる事も叶わず、脚をジタバタと動かしてもがき苦しむ。

 

 激痛を感じているのか、気絶も出来ない侭で危険域たるレッドゾーンまでHPが減り、そして遂にパリンという軽い音を響かせて、HPを全損した男は蒼白いポリゴン片と散った。

 

 シンと静まり返る。

 

 【笑う棺桶】のメンバーはPoHのカリスマ的なる薫陶を受け、生命なぞ惜しくも無い連中が揃っていた筈なのに、今や恐怖で顔を引き攣らせていた。

 

「不思議か? システム的に痛みを感じない筈なのに今消えた奴が、激しく痛みを訴えていたのが」

 

 男が消滅した為に地面へ突き刺さるだけだった景光を引き抜き、凄惨な笑みを浮かべながら訊ねる。

 

 答えは無い。

 

 というより、連中は声も出せない状態らしかった。

 

「偶にゲームで有るだろ? システム介入のアイテムやクエストがさ」

 

 初期には使えないシステムを使える様にする道具、若しくはクエストなどによってフラグを立て、開示をさせるなどの話。

 

 よく有るのがムービーや画像や音楽鑑賞で、ゲームクリアが条件の場合が多いのだが、アイテムなんかでそれらの鑑賞が可能となるものも少ないが在った。

 

「それと似たアイテムを手に入れていてね。アイテム名は【血闘(ブラッドデュエル・)勲章(オブ・メダリオン)】と云う。効果は装備者と戦闘を行った双方のペインアブソーバを〇にし、リアルな痛みを演出するという事」

 

 驚愕をする【笑う棺桶】のメンバー。

 

「双方という事は、お前も痛みを受けるのか? 【黒き刀舞士(ブラック・ソードダンサー)】」

 

 ユートの二つ名、それを知る程にPoHはユートを調べていた。

 

「その通りだ」

 

「HA、イカれてやがる。Crazyな奴だぜ」

 

「そりゃどうも……」

 

 

 ユートに言わせるなら、レッドギルドのヘッドだって充分にイカれ野郎だ。

 

 周囲を見回すと恐怖にて竦むラフコフのメンバー、誰も動かない……否、動く事が出来ない。

 

 先程、消滅をしてSAOからも現実(リアル)からもログアウトした男の末路、それを視てしまっては仕方がない話だろう。

 

 本来なら死をも恐れずに向かっていく筈が、やはりリアルな痛みを受けるのは嫌なのか、互いに顔を見合せつつ震えるだけだ。

 

「HEY、いつまでお見合いをしている? ショータイムは既に宣言しているんだぞ、殺れ!」

 

 

 其処には確かな威圧感を感じ、鳥肌が立つカリスマが際立っていた。

 

 前門のユートに、後門のPoHという彼らからすれば泣きたくなるシチュエーション、然しそれを自覚するユートは自業自得だとしか考えていない。

 

「待つのは時間の無駄か。武器を捨てれば投降と見なして命は助けよう。捨てなければ仮令、攻撃をしてこなくても敵意有りと見なして殺す!」

 

 その優しい恫喝に何人かが武器を落とし、ホールドアップをした。

 

「コリドー・オープン」

 

 廻廊結晶を起動。

 

「こいつは黒鉄宮の牢獄に通じている。投降するなら入るんだな」

 

 十人くらいだろうか? 慌てて歪む空間へと走る。

 

 突然の事で逃走は誰にも防げず、人数が可成り減った形になったラフコフ。

 

 コリドーが消滅をして、ユートは瞑目しながら景光を揮い、ラフコフのメンバーへと逆に駆け出す。

 

 粛清、殲滅、潰滅、如何なる言葉を飾るにしても、ユートが投降をしなかった連中を生かす理由は最早、有りはしないのだから。

 

 響き渡る悲鳴。

 

 命の軽さを物語るかの如くパリンパリンと割れて、ポリゴン片へと還っていく仮想体(アバター)

 

 それを観ていたPoHと幹部達は話し合う。

 

「うへー、中々にヤるぜ」

 

「ジョニー、奴は確かに可成りの腕前だ」

 

「ヘッドもそう思う?」

 

「ああ、技のキレもそうだが……何よりソードスキルに頼らないでアレで、しかも慣れを感じる」

 

「慣れっすか?」

 

「ああ、奴は……殺しに慣れている」

 

 PoHから見たユートは殺しに慣れた殺人鬼。

 

「……ヤツは……此方側……なのか?」

 

 口を出すは赤眼のザザ。

 

「判らんがな、少なくともまともな神経で二十人もの人間は殺せん」

 

 観察する内にラフコフはPoH達を残して全滅し、ユートは次は貴様らだと言わんばかりに睨み付ける。

 

「へぇ、尻尾を巻かなかったのか?」

 

「見逃しはしないだろう? なら、無駄は省く」

 

 PoHが【友切包丁】を構えると、ジョニー・ブラックとザザも武器を構え、三人が高みから一斉に襲い掛かって来た。

 

「莫迦が!」

 

 勢いを付けた三人同時の攻撃、普通なら恐怖を覚えそうなものだがユートには意味を為さない。

 

 そも、ユートの使う技とは大元の世界で習熟していた【緒方逸真流】であり、その始祖である緒方優玄が戦国時代の戦にて多対一を想定し編み上げたものを、その子供が完成させたという技術、敵は万の大軍だというのも珍しくはない時代に作られ、練られた技に対して三人では足りない。

 

 何処ぞの敗北は無い的な千年の殺人技程の歴史などは無いが、それでも数百年を経て尚も継承され続けてきた技故に、慢心は無くとも自信は有った。

 

 だからこそ……

 

「終わりだ、ゴキブリ野郎にバカ眼!」

 

 斬っ! 斬っ!

 

「緒方逸真流・抜刀術──【弐真刀】……」

 

 チン!

 

 抜刀の最中に一度と納刀の最中に一度、都合にして二度の斬撃を放つ技。

 

「俺はジョニーさんじゃ、ねー!?」

 

「バカ眼……じゃない……赤眼……だ……」

 

 パリン、パリン!

 

 首を落とされながら辞世の言葉を遺し、首が地面に落ちる頃にはポリゴン片に還っていく。

 

 嘗て、ユートが【ハイスクールD×D】主体世界に行った際に起きた事件──【聖剣強奪事件】に於いて紫堂イリナと闘ったけど、その時に彼女の両手首を斬り落とした技がこれだが、【弐真刀】の本来の使い方は此方の方。

 

 駆け抜ける最中に抜刀と納刀をする刹那、敵の首を斬り落とすというモノだ。

 

 敵を確実に仕留めるなら首を落とすのが手っ取り早い訳で、しかも抜刀の速度が並ではなかったからか、相手は首を落とされ事にも実際に落ちるまで気付かない侭に死ぬ。

 

 勢いよく掛かってきたのは良いが、ジョニー・ブラックもザザもユートの狙いに気付かないで首を斬られてしまい、こうして散ってしまったのである。

 

「Woo、あの二人をこうもアッサリとKill殺るか。だがその代償はあったな」

 

「このゴキブリ野郎の短刀の事か?」

 

「なにぃ?」

 

 意にも介さないユートを見て、流石に驚愕したのか珍しく目を見開いた。

 

「ふん……大方、麻痺毒でも在ったんだろうが、僕のこの【大戦の陣羽織】には対状態異常のバフ付きだ。それにこのアクセサリー、コイツもだな」

 

「Oh、ジョニーの奴……無駄死にかよ」

 

「ご苦労さんだな」

 

 なんの同情すら感じない声色、ユートにとってみればジョニー・ブラックなぞ単なる敵キャラ、殺られ役に過ぎない。

 

「最後はお前の番だブウ」

 

「誰が太った魔人か!? おっと、何だか電波が」

 

「ジョークだ、PoH」

 

 ギャリンッッ!

 

 互いの獲物がぶつかり合って火花を散らす。

 

 無駄に凝ったエフェクトだが、金属武器がぶつかる瞬間にエフェクトを散らすだけの処理は、SAOに於ける基幹コンピュータには朝飯前らしい。

 

 常に処理し続けるのは、どうにも重たいから処理を軽減する処置もするが……

 

 ユートの景光とPoHの【友切包丁】が一合二合、幾度となくぶつかってぶつかってぶつかって、その度にきらびやかな火花を散らしていた。

 

 ユートの現レベルは既に一〇〇に達し、それに対するPoHは攻略組の平均値よりやや高め、九〇には達していない程度。

 

 糅てて加えて、単純なる戦闘経験に関しても生きた年数が五十年にも満たないPoHと、既に数百年を在り続けて闘いに興じてきたユートではやはり開きがあるにも拘わらず、何故だか互角に戦り合っている。

 

 勿論、経験など密度やら限界値で割と覆るとはいってみても、ここまで互角なのは何故だろうか?

 

「はぁぁっ!」

 

 バキィィッ!

 

「な、にぃ!?」

 

 嫌な音を立ててPoHの【友切包丁】が、刃中程から砕けて折れた。

 

「システム外スキルの武器破壊(アームブラスト)……これでお前御自慢の武器、【友切包丁】は喪失した」

 

「……これが狙いか!」

 

 確かに【友切包丁】を手にしてからのPoHには、凶悪なまでの存在感が増していた訳で、実力も然る事ながらこの武器がPoHの代名詞となるくらいに強力無比だったのだ。

 

 それの喪失は彼の矜持を確かに傷付けている。

 

 そして、ユートは新たな動作に入っていた。

 

 【緒方逸真流】は動きの全てを繋げ、連続攻撃へと持っていく事で振り抜いた後の僅かな隙を潰す。

 

 これを【継ぎの舞い】と……刀舞と呼ばれる流派に確かな舞踊を意識した動きの名前を付けている。

 

 斬っ!

 

 武器破壊から繋げられた一撃は、躱さんと動いていたPoHの右腕を奪った。

 

「グッ!」

 

「お前は闘いの前に言っていたな……イッツ、ショータイムと。ショーに開演があるなら終演もまたある。ラフコフの終幕だ」

 

 

 ゾブリッ! 心臓部を捉えた会心の一撃が極って、景光の九〇層クラスの攻撃力も相俟ってか、PoHのHPバーはまだグリーンだったのが一気にレッドへ、そしてグレーとなって喪われてしまう。

 

「HA、お前は結局は俺達の御同類って訳だ……」

 

「その通りだ、それで? それがどうかしたのか? お前が個人で何百人を殺したか知らないが、僕は百万は殺した大量虐殺者さ」

 

 せめて嫌味を言ってでも精神にダメージを与えようとしたのか、普通に薄ら笑いを浮かべて肯定されて、今度こそ絶句した。

 

「ラフコフは全員地獄逝きが決定だ。サディストチックな元修道女に虐められて無間地獄にでも堕ちろ!」

 

 パリィン!

 

 言った瞬間、仮想体消滅の音と共にPoHの意識は闇へと堕ちる。

 

 この世界の冥界はユートの冥界に塗り替えられて、死ねばそちらへと魂が運ばれてしまう。

 

 そして冥界の入口となる冥界門の向こう、第一獄・裁きの館は天英星バルロンが任されている。

 

 ユートの冥闘士であり、天英星の冥衣を与えられているのは、カレン・オルテンシアという名前の再誕世界のある教会に居た少女。

 

 二十数年前に跳ばされたユートは、彼女が母親を喪った頃に引き取っている。

 

 本来の彼女程に苛烈ではないが、そこそこの毒舌で軽いS気質な持ち主。

 

「さてと、終わったな……最初の頃からの因縁も」

 

 特に感慨深い訳でもなかったし、軽く溜息を吐いて踵を返すと……

 

「居た!」

 

 血相を変えたキリト達が現れるのだった。

 

 

.

 




 ユートが持つ景光とは、備前国長船住景光の事ではなくて、銘的にはそれが元のウィザードリィの漫画に出てきた主人公の武器。

 兼光も同様で、景光の方が強いのは漫画からです。



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