ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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 前回の更新から半年を越えてしまった……





第32話:黒の剣士……NO! 漆黒の刀舞士!

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 赤毛で右目が隠れた女──ロザリア。

 

 彼女はオレンジギルド、タイタンズ・ハンドのリーダーを務めている。

 

 オレンジギルドというのは謂わば、犯罪を犯した事で認識カーソルがオレンジになった犯罪者プレイヤーが設立したギルド。

 

 つまり、彼女はオレンジプレイヤーという事。

 

 とはいえ、ロザリア自身はグリーンカーソル。

 

 オレンジギルドの中には最低限、一人はグリーンカーソルのプレイヤーが入っており、そのプレイヤーはオレンジカーソルでは入れない街や村に入って情報を集め、武具やアイテムなどの調達などを行う。

 

 二十代半ばで男好きのする肢体であるロザリアは、そんな容姿を利用しパーティに入り込み、金やアイテムなどを持つプレイヤーの下調べをしていた。

 

 今回のターゲットとなったのが【シルバーフラグス】で、色々と美味しいモノが有るか観察していたが、はっきり云えば失望。

 

 貧乏パーティでしかない連中に旨味なんか無くて、これ以上は付き合っていても意味を見出だせない。

 

 ロザリアは早々に自分のギルド──タイタンズ・ハンドを動かした。

 

 その結果リーダー格には逃げられたものの、その他の四人に関してはキルする事に成功。

 

 貧乏パーティのなけなしな財産を強奪した。

 

 大して実入りも無かったからか、舌打ちをしていたロザリアだったが、気を取り直して宴会を開く。

 

 そして一週間くらいが過ぎて、タイタンズ・ハンドの新たなる獲物を見付け、ロザリアはいつもの様に潜り込んだ。

 

 男ばかりのパーティに、一人だけビーストテイマーらしき少女が居る。

 

 まあ、男共は自分の魅力にあっさり負けてパーティ入りを許したし、少女の方は気にしなくても良いだろうと考えた。

 

 それに変わった能力持ちなら或いは、変わったアイテムも持っているかも? 

 そんな風に考えれば夢は薔薇色であった。

 

 第三五層の迷いの森……何度かイベントも組み込まれた森らしいが、名前の通りプレイヤーはマップ無しだと簡単に迷う。

 

 危険な目に遇いたくないロザリアは、槍装備を理由に大概は後ろでのんびりと観ていた。

 

「(へぇ?)」

 

 フェザーリドラを連れたビーストテイマーの少女、シリカはそれなりに使える短剣使いらしく、Mobを相手に怯まず迷わず斬り裂いていくのを観て、思わず感嘆の溜息を吐く。

 

 明らかに戦い慣れている様子だし、まるで踊るかの如くステップを踏みMobをポリゴン片に還した。

 

 仮令ダメージを受けてもフェザーリドラが癒すし、万難を排している。

 

 巧い戦い方だ。

 

 フェザーリドラのブレス──バブルブレスやヒールブレスも相俟って、戦力は可成りのものである。

 

 探索も終盤となり、余裕も出てきたので休憩がてら報酬の話を始めた。

 

「あんたはさ、そのトカゲが回復してくれるんだし、回復結晶は要らないわね」

 カチンとキたシリカは、そんなロザリアに対し果敢に言い返す。

 

「そういう貴女だって……碌に前面に出ないで安全な後ろをちょろちょろしてるだけだから、クリスタルなんか必要無いんじゃないですか!?」

 

 最早こうなってしまえば水掛け論的な売り言葉に買い言葉となり、リーダーの仲裁も聞き入れずにシリカは言い放つ。

 

「だったらアイテムなんか要らない。貴女と組むのは金輪際ごめんだわ。私を欲しいっていうパーティは山ほどあるんですからね!」

 

「シ、シリカちゃ〜ん」

 

 情けない声を上げる男、そんなのは聞こえないのだと言わんばかりに森の向こうへ消えた。

 

 ロザリアにとっては計画通りである。

 

 彼女は少し強過ぎた。

 

 三五層のレベルなら余裕を持てる程度に強いなら、このパーティを襲う時には邪魔でしかない。

 

 だからわざと怒らせて、パーティを自発的に出て行って貰ったのだ。

 

 それに、仮に出て行かなくとも不和はそれだけでも士気に影響を及ぼし、結局は自分の思い通りになる。

 

 最上の結果にロザリアは赤い唇を吊り上げた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 あのパーティをどう襲うかを考えつつ、ロザリアが街を散策しているとシリカと再会をする。

 

 黒い装備品に身を固め、腰に漆黒の鞘へと納まった刀を佩いた青年と一緒で、何やら楽し気に会話をしている様だ。

 

 とはいえ、何故かフェザーリドラの姿が見えない。

 

「あら、シリカちゃんじゃないの」

 

「ロ、ロザリアさん……」

 

 話し掛けると身を固くして厭そうに応えた。

 

「へぇ? 森から脱出出来たんだぁ、良かったわね。でも今更帰って来ても遅いわよ? アイテム分配は終わっちゃったもの」

 

 分配でも問題は無い。

 

 あのアイテムやコルは、後からギルド総出で連中をキルし、全てを手に入れてやるのだから。

 

「要らないって言った筈ですよ。失礼します!」

 

「あら? あの蜥蜴はどうしたのかしら?」

 

「それは……必ず取り戻します!」

 

「ああ、死んじゃったの。取り戻すって事は四七層の【思い出の丘】に行く気なんだ? けどさ、アンタのレベルで攻略なんて出来るのかしら?」

 

 嘲るロザリアに対して答えたのは黒い剣士。

 

「出来るさ。彼処は大した難度のダンジョンって訳じゃないからね」

 

「ふーん、アンタもその子に誑し込まれた口? 全然強そうじゃないけど」

 

「行こうか」

 

「は、はい!」

 

 ロザリアを無視して剣士がシリカの手を引く。

 

「ま、精々頑張ってね」

 

 面白い事になった。

 

 使い魔が死んだ場合は、【こころ】というアイテムが遺されるが、三日間が経つと【形見】へと変化をしてしまう。

 

 然し、【こころ】が遺っている間に【思い出の丘】の最奥まで行くと、使い魔を蘇生するアイテムが手に入るらしいという情報が、最近になって出回った。

 

 使い魔が死んだ状態で、尚且つ一つしか手に入らないアイテム故に、難易度は兎も角としてレアアイテムに相当する。

 

「ふふ、予定変更ね」

 

 あんなキモいパーティを襲うより、レアアイテムを手に入れる方が余程良い。

 

「そうだわ、シリカちゃんには死ぬ前に男共の慰めになって貰おうかしら?」

 

 嫌がるシリカがギルドの連中に無理矢理散らされるのを肴代わりにし、自分もちょっと楽しむのもアリかも知れない。

 

 考えただけでゾクゾクと興奮してきた。

 

「それより、宿屋に入って行ったけど……案外とこれからお楽しみかしら?」

 

 シリカも多少は強いが、こんな階層に居るのだから四七層はキツい筈。

 

 ならばどうやって?

 

 先程の男が護衛、装備品も一新されていたのだから装備も貰ったと考えれば、身体で支払うのもゲームではアリだろう。

 

 どれだけリアルに則していようが、所詮はゲームに過ぎないSAO内で貞操は気にし過ぎても仕方ない。

 

 現実の肉体がロストバージンする訳でなし、ならば互いに愉しめば良いのだ。

 

 シリカは背が低くて胸もなだらか、だけど可愛らしい顔立ちで無垢で元気な処が人気の少女だ。

 

 自らの肢体を餌にして、男を誑し込めばある程度の無茶は利く。

 

 窓から【風見鶏亭】を覗くと、シリカと男が二階の宿泊施設へ赴こうとしているのが見え、更には顔を朱く染めたシリカが腕を絡めて体重を乗せ、男に着いて行っている辺りビンゴ! と指パッチン。

 

 きっとこれから『お楽しみ』なのだろう。

 

「こりゃ、聞き耳スキルを取っといて正解だね」

 

 本来ならば手下に任せる仕事だが、ロザリアは今回ばかりは自分で情報収集(でばがめ)しようと考え、【風見鶏亭】に入った。

 

 【聞き耳】というスキルをアクティベーションし、二人が泊まる部屋を捜したらアッサリと見付かる。

 

 もう始まっていたのだ。

 

『あ、ダメです……』

 

『今更何を言ってるんだ? シリカだって了承したから此処に居るんだろ?』

 

『そ、そうですけどぉ……ア! そんな、ソコは本当にダメですよぉぉ!』

 

『初めて?』

 

『だって、私まだ…………ですし……』

 

『そりゃ良いな。この小さな肢体の温もりを楽しめるんだから』

 

『や、そんな……そんな所まで……ダメぇぇっ!』

 

『すぐに気持ち良くなる、だから今は僕に任せて身体を楽にしていれば良いよ。委ねてしまえば……ね』

 

『あ、あああああっ!? 指が……指がそんな所を? あうっ! 真っ白にぃ、何も考えられなくなっちゃうよぉぉぉぉおおっ!』

 

 時間にしてみれば大した事もないが、どうやら濃密なプレイにシリカが翻弄をされているらしく、思わず自分を慰めたくなる。

 

 結局は二時間くらい嬌声ばかりで情報は集まらなかったものの、取り敢えずはその声だけでタップリと楽しめたので良しとした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 第四七層

 

 【思い出の丘】と呼ばれる場所は、見た目にはダンジョンとは名ばかりの謂わばデートスポットだ。

 

 ちゃんと植物型のMobは湧出もするが、実際にはそれ程に強い訳ではない。

 

 だけどどういう訳か? シリカは毎度の様に捕まっては逆さ吊りにされた。

 

「もう、此処って綺麗だけどエッチなモンスターばっかりだよ!」

 

 純白のショーツを逆さ吊りにされる度、見られていると思うと涙目である。

 

「さて、そろそろ出てきたらどうだ?」

 

 黒い剣士が誰も居ない木の方へ話し掛けた。

 

「へぇ、私の隠蔽(ハイディング)を見破るなんてやるじゃないの?」

 

 出てきたのはロザリア。

 

 ケバい年増女……という程でもあるまいが、どちらにせよ過剰化粧は好みから外れるからどうでも良い。

 

「シリカちゃん、例の物は手に入れたのよね? 渡して貰いましょうか、コルや他のアイテム共々ね!」

 

 ぞろぞろと現れた男共、それこそがロザリアの強気理由であり、たったの二人なんて人数で迫れば恐くも何とも無い。

 

「フッ、正に『お前達、僕に釣られてみる?』って処だな。レアアイテムに釣られてノコノコ来たか」

 

「な、なにぃ!?」

 

「罠だったのさ。全てが、初めっからね」

 

「わ、罠だって?」

 

「シリカがあのパーティに居たのはお前が、お前ら──タイタンズ・ハンドが次の獲物に狙っていると知ったからさ。まあ、候補は幾つか有ったから他の所にも潜入させてるけどな」

 

 リズベットやサチや響や未来、いたいけな少女達を囮にロザリア達を嵌めようと送り込んだ。

 

 当然ながらシリカとは別の方法を取るが、罠は初めから二重三重にしていた。

 

「言っておくがピナ、あのフェザーリドラは生きているから、プラウネの花なら手に入れてないぞ」

 

「なっ! じゃあ、アイツは何処に!?」

 

「宿屋。システム外スキル──置き去り……何てな」

 

 宿屋の一室に入り込み、一応の説得? はしておいたが仲間に捕まえさせて、シリカだけが部屋を出る。

 

 幾らシステム上の繋がりが在ろうとも、密室に閉じ込められては出れないし、だからといって主人の行動が阻害されもしない。

 

 それを利用してシリカは単体で黒い剣士──ユートと合流を果たしたのだ。

 

「さて、ピナにはナッツを死ぬ程食わせてやるとして……だ。お前らタイタンズ・ハンドは黒鉄宮の牢獄へ入って貰うぞ」

 

「どういう意味さ?」

 

 騙されたと知って悔しげにしながら訊ねてくる。

 

「シルバー・フレグス……知っているな?」

 

「ああ、あの貧乏パーティのね? それで?」

 

「あそこのリーダーだけが生き残り、なけなしの金で買った回廊結晶を持って、泣きながら道々にプレイヤーに懇願していた。こいつで奴らを捕まえてくれと。『殺してくれ』でないのが気に入って依頼を受けた」

 

 プラプラと手に持つのは濃紺色の結晶アイテムで、名前は回廊結晶と云う。

 

 任意の場所を記録して、其処へ複数のプレイヤーを転移出来るアイテム。

 

 最近ではボスの間の直前を記録して、レイドパーティ全員を移動させていた。

 

 歩いて行くのは面倒だからこそだろう。

 

「コイツには黒鉄宮の牢獄エリアの記録をしてある。大人しく入ってくれるなら面倒が無くて良いんだが」

 

「はん、お巫山戯じゃないんだよ! 誰が捕まるもんか! だいたい、PKしたからって現実で本当に死ぬとは限らないんだ! 何で必死になるのさ!」

 

「死ぬさ」

 

「あ?」

 

「僕はログアウトが出来るからね。死ぬかどうか確認もしている」

 

「なっ!?」

 

 絶句するロザリア。

 

 否、ロザリアだけではなくタイタンズ・ハンド全員が絶句をしていた。

 

「ログアウトが出来るってアンタ、まさか運営(アーガス)側の回し者かい!?」

 

「それこそまさかだろ? 単にナーヴ・ギアを外しただけだ。まあ、マイクロ・ウェーブくる! 的な感じで死ぬ程痛かったがな」

 

 何処のXとゼロか?

 

 いや、ロックマンの方では無いよ?

 

 生身はカンピオーネの身だとはいえ、流石に内部を物理的に直接焼かれるのは痛かった。

 

 お陰様で直葉を抱き締めてしまったのだが、痛みで気が回らなかったから余り意味は無い。

 

「リアルじゃあ、SAO対策委員会が起ち上がっていて僕は情報源として重宝されてるし、アルバイト感覚で色々と情報を渡してる。PKの犯人のプレイヤーネームとモンタージュ写真……とかな?」

 

 真っ青になるタイタンズ・ハンドの面々。

 

「お前らもリアル割れして捕まるさ。向こうでヴァーチャル犯罪法も施行される事になったからな」

 

「っ! ハッタリだよ! 仮にそうでも、アイツらを殺せば死人に口無しさ!」

 

「ま、確かにそうだけど」

 

 ロザリアが言った科白は確かに間違いないのだが、然しそれはユートとシリカを殺せればの話。

 

「クスクス」

 

「くっくっくっ」

 

「な、何が可笑しい?」

 

 シリカがクスクス笑い、ユートも釣られて笑うのが気に障ったか、ロザリアは体裁も気にせず叫ぶ。

 

「中層組が攻略組に勝てると本気で思ってるのか?」

 

「恥ずかしいですけど……漆黒の刀舞士と緋色の小竜姫の二つ名は伊達じゃありませんよ!」

 

「ブラックソードダンサーとスカーレット・リトルプリンセスだって!?」

 

 攻略組でもトップクラスの二人だ。

 

 そのプレイヤーネームは兎も角、二つ名は中層にも威名が轟いていた。

 

 微妙に変化しているが、(アルゴ)を使って改めて流した二つ名、その雷名はオレンジにも伝わっているくらいである。

 

「だけど結局は二人だよ、攻略組だか何だか知らないけど、戦いは数さ!」

 

「知ってるか?」

 

「──あ?」

 

「何処ぞの将軍様はたった三人で、何処ぞの先の副将軍様でも数人で二十人以上の悪党を倒しているんだ。量より質がモノを言う事も侭あるってね?」

 

「ざけんな! お前ら、殺っちまいな!」

 

 破れかぶれか、武器を構えるタイタンズ・ハンドに嘆息をすると……

 

姉上(らごうきょうしゅ)に則って、三手は譲ってやるから掛かって来い」

 

 挑発しながらひょいひょいと手招きをする。

 

「舐・め・る・なっ!」

 

 ロザリアのそれが合図となり、タイタンズ・ハンドの全員が主にユートへ向かって駆け出した。

 

 斬! 斬! 斬! 斬! 斬! 斬! 斬! 斬! 斬! 斬! 斬! 斬!

 

 何の躊躇いもなく斬撃を受けるユートとシリカ。

 

「ど、どうして?」

 

 HPバーが減らない事に気付き、ロザリアは戦慄と共に呟いた。

 

 否、断じて否だ。

 

 減ってはいるが微々たる量であり、減る先から戻っていたのである。

 

 それはつまり、相対的には減っていないのと同義。

 

「十秒間で三〇〇以下か」

 

「此方は四〇〇以下です」

 

「な、に?」

 

「お前らタイタンズ・ハンドの全員が、僕とシリカに与えている十秒間に於けるダメージの平均値さ」

 

「そして私達は基本的に、戦闘時回復(バトル・ヒーリング)というスキルによって十秒毎に九〇〇くらい回復しています」

 

「僕のレベルが九二」

 

「私が八八ですね」

 

 それが攻略組トップクラス・プレイヤーのレベル、そもそも四〇〜五〇もあれば英雄な中層クラスで手が出せる相手ではない。

 

 装備品とてユート謹製、最高品質な武具を装備しているのだから。

 

「HPも一万七千越えだ。果たしてタイタンズ・ハンドは僕らを殺せるかな?」

 

「うっ!? そんな無茶苦茶だ!」

 

 誰かが言う。

 

「そんな無茶苦茶が罷り通っている──高が数字が増えるだけでこれだけの差が付く。それこそがレベル制MMOの理不尽さだよ」

 

 ユートも昔、大元の世界でMMO−RPGをプレイした事があるし、その程度は熟知している。

 

「それじゃあ、始めよう。数多のボスを屠ってきた……漆黒の刀舞士の蹂躙を」

 

 シャリン! 抜刀された刀の刃は黒い光沢を放ち、太陽の反射を受けて妖しく煌めいていた。

 

「ブラック・サン・インゴットを使って打ち鍛えた、僕の武器──羅刹王」

 

 攻略組が使う最新のレアアイテムで造った武器は、中層の連中が使うノーマル武器など曇らせてしまう。

 

「今一度に訊いてやろう、大人しく回廊結晶で牢獄に行け。無駄な戦いで死んでも嫌だろ? 因みにお前らと違って僕は犯罪者を相手に限り、殺しても御咎めは受けない。仮にグリーンであってもオレンジのリーダーなら問題は……無い!」

 

 それは即ち、ユートならPKも容認をすると政府がお墨付きを与えたという事に他ならない。

 

 【SAO対策委員会】もPKをするオレンジには、ほとほと頭を痛めていた。

 

 これでは万が一に攻略組の士気が下がってしまい、攻略が進まなくなってしまうだろう。

 

 かといって、捕まえるしか出来ないのでは実力者であっても逃がしてしまう。

 

 其処で彼らは唯一無二の情報提供者兼攻略組最強とされるユートに、オレンジやレッドと称される者達の所謂、PKKを許可した。

 

 生命を秤に掛け、オレンジやレッドの生命と攻略組の生命、委員会は後者を選んだという訳だ。

 

 とはいえ、ユートも敵に容赦無い性格ではあるが、殺人鬼ではないし血に餓えてもいない。

 

 説得に耳を貸すのなら、殺害まではしない心算だ。

 

 多かれ少なかれ、この手のゲームでは人格が反転する人間も居るのだから。

 

 アレだ、ハンドルを握るとスピード狂になるとか、そんな類いである。

 

「う、うわあああっ!」

 

 恐怖心に負けたタイタンズ・ハンドAが、両手斧でユートに襲い掛かる。

 

 ガキィィッ!

 

 パリィで武器を弾き飛ばした瞬間、取って返された漆黒の刃がタイタンズ・ハンドAの右腕を肩から切断してしまう。

 

「ヒッ、ヒィィィッ!」

 

 血も出ない切り口を左手で押さえ、尻餅を突きながら無様に後退する。

 

 ペイン・アブソーヴにより痛みは無いが、ダメージによる違和感は感じる為に右肩の欠如を確り受けた。

 

 その一連の動作に淀みは全く無く、ユートが人斬りを慣れていると思い知り、タイタンズ・ハンドの面子はロザリアを除き、一斉に武器を手放してホールド・アップしてしまう。

 

 死ぬ事が確定していると聞き、尚も死地に赴ける程に覚悟は無いらしい。

 

「コリドー・オープン」

 

 濃紺色の結晶を有効化、回廊を通じて牢獄に場所を繋げたのだ。

 

 タイタンズ・ハンドは何も言わずとも、トボトボとゲートへ入っていく。

 

 残されたのはたった一人──ロザリアのみだ。

 

「さあ、死ぬか牢獄か? 二者択一を選べ」

 

「あ、私はグリーンだよ! 手を出せばアンタがオレンジになる! そうなれば施設が使えなくなるよ!」

 

「それなら御心配無く……とあるレアアイテムを装備すれば、対人戦をデュエル扱いに近いものとしてくれるからね。殺してもカーソルは変わらないさ。しかも……ちょっと相手は手痛い目にも遭う」

 

 くつくつと笑うユート、ロザリアは空恐ろしいものを感じた。

 

 チャキッ!

 

「試してみるか?」

 

 羅刹王を突き付けて訊ねると、ギリギリと歯軋りをしながら諦めたのだろう、大人しく牢獄へ向かう。

 

 コリドーが閉じて任務を完了した二人。

 

「終わったな」

 

「はい」

 

「じゃ、皆には約束通りに食事を奢りますか」

 

「へへ、ユートさん。御馳走様です」

 

 今回の一件、【ZoG】だけではなく他の面子にも手回しを頼み、その代価は夕食を一回奢る事だ。

 

 ユートが個人的に受けたのだから、ギルドの面子にも奢るのは確定している。

 

 とはいえ……

 

「ま、夕飯にはまだ時間もあるしな。デートと洒落込もうか?」

 

「は、はい!」

 

 それはもう、尻尾が生えていればブンブンと振っているであろう、満面の笑みと返事であった。

 

「夜は昨夜のマッサージの続きも……な?」

 

「は、はい……」

 

 何の事はない、ロザリアが興奮しながら聴いていた桃色な会話は、マッサージによるものだったと云う。

 

 これぞ御約束(テンプレ)というやつだった。

 

 

 

.

 




 次回はあのギルド絡み。



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