ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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 半年以上が経ちましたが何とか更新です。





第30話:過去のユニークアイテムと未来のレッドプレイヤー

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「さてと、それじゃあ話を再開しようか」

 

 無情にもユートは再び話をし始め、各々で該当する武器が有る者達が絶望感の溢れる表情となる。

 

 細剣は無かったからか、アスナは普通の表情をしていたし、【聖騎士の剣】という武器を持つヒースクリフにも焦燥感は無い。

 

「まず、一つ目だけど……実は前々から判っていた事だが、とある理由から話さなかった事がある」

 

「それは?」

 

 会議に集中していなかったディアベル達は置いてきぼりに、アスナがユートの言葉に反応を示す。

 

「数度に亘り僕はレイドは疎か、通常パーティでさえ組まずにフロアボスとクエスト型のフラグボスを一人で斃した事がある」

 

「フロアボスというのは確か第十層よね? クエスト型のフラグボスとは?」

 

「Scarlet pain the Scorpion……真紅なる痛みの蠍」

 

「ああ! あの時のか」

 

 ディアベルには覚えがあったのか、右手を左掌へとポンと打って言う。

 

 第十層のとある小村にて受注したクエストであり、パーティは組まずにシリカとディアベルを伴って闘ったボス戦だ。

 

 四ヶ月振りにリアルな痛みを受けたとか言っていた事もあってか、ディアベルも確りと覚えている。

 

「あの時、僕はLAボーナス以外にも特殊ボーナスが入っているのに気付いた」

 

「キリト君と手に入れたみたいな?」

 

「まあ、性質的には似た様なもんだな。単独撃破ボーナスってやつだ」

 

 ヒースクリフを除く全員が目を見張る。

 

「た、単独撃破ボーナス? それはいったい……」

 

 声を震わせて訊ねてくるディアベル。

 

「ワンマン・クラッシュ・ボーナス……OCボーナスだね。第十層で手に入れたのは指輪。【武錬の指輪(リング・オブ・アーツマスター)】という。効果は、筋力値に+一五、俊敏値に+一五、HPを+一〇〇〇した上で防御力を+三〇%上昇だ。それと僕には全く意味がないけど、どうやらソードスキルの性能も上がるみたいだね」

 

 その巫山戯た効果を聞いた──ヒースクリフを除く──皆が……

 

『『『『なんじゃそりゃぁぁぁぁああっ!?』』』』

 

 会議室を響かせる絶叫を上げたものだった。

 

「そ、んなもんチートやないけ。チーターや!」

 

「ほう? 確かに不正に造ったというならそうだが、これは第十層のボスを単独撃破したドロップ品だぞ? 何を以てチートと断じるんだ、バカ王」

 

「カバ夫から……ある意味ではランクアップをしたや……と?」

 

 キバオウが戦慄する。

 

 ゲーム用語に於いては、チートとは【不正行為による製作者側が意図していない動作を行う乃至、プログラム改変による強化やアイテムの増加などを促す】というもので、単純に強力なアイテムを持っていたとしてもチートではない。

 

 少なくとも、このアイテムはユートがボスを撃破した事によって手にした物。

 

 つまり、製作者(かやばあきひこ)の仕込みであり決して不正(チート)行為などは働いてはいない。

 

 まあ、その場にそぐわない強力なアイテムやスキル──例えば第一層で武錬の指輪を単独撃破ボーナスで獲れば、チートアイテムといった感じに──を手にしたならオーパーツみたいな感覚で、チートアイテムとかチートスキルと呼ぶ事は有るかも知れないが……

 

「茅場晶彦も冗談の心算で設定したんだろ。MMO−RPGでのボスは基本的にパーティやレイドを率いて行うもの。単独撃破は普通に考ると現実的じゃない。だけど無いかも知れないと思いつつ一応は設定した」

 

「確かに……な」

 

 キリトが頷く。

 

「だけど情勢、僕のレベル

とプレイヤー技能。それにまだ第十層という低階層だった事、全てが綯い交ぜとなって成功させたんだよ。単独撃破(ワンマン・クラッシュ)ってやつをね」

 

「何故、今まで黙っていたのですか?」

 

 非難がましく睨み付け、アスナが訊ねる。

 

「教える義務は無いさね。僕は君の部下でも下僕でも眷属でも無いのだから」

 

「そ、それは……」

 

 口籠るアスナは何かしら言おうと口を再び開くが、何も言える言葉が出なかったのか、また閉じる。

 

「それに情報とは教えても良いモノと悪いモノが有るんだ。何でもかんでも開示すれば良い訳じゃない」

 

「それは情報を操作するって事?」

 

「操作? 意図的に改変をした情報を流すなら操作かも知れないけど、不要だと思われる情報を開示しない──悪く言えば隠蔽をしただけだ。それも操作には違いないけど、政府程に悪辣な心算も無いな」

 

「政府?」

 

「ノイズって知ってる?」

 

 この世界は【混淆世界】の一種で、数多の世界観が複雑に混じり合っていた。

 

 別に珍しくもない。

 

 ユートが生まれ変わった世界も、幾つかの作品群が入り交じっていたのだ。

 

 単純にこの世界もそうであっただけの事。

 

「知ってるわ。特異認定災害ノイズ……現実に人間を襲う私達の〝敵〟よ」

 

「敵……ね」

 

「何? 間違った事を言ったかしら?」

 

「いや、単なる道具を敵って認定するのも……な?」

 

「道具?」

 

「ノイズの正体は既に割れている。そして少なくとも日本政府や米国政府はそれを識っている」

 

『『『『っ!?』』』』

 

 ユートの科白にアスナは疎か、ギルド【レリック】のマスターである翼やサブマスターの響も息を呑む。

 

「ノイズは古代の人間が、同じ人間を効率良く殺す為に造り上げた、対人類用の殺戮兵器。その性質は飽く迄も機械的であり、一切の感情は廃されている。人類を自ら対消滅で炭素化させているに過ぎない。言ってみればアスナは、爆弾や銃を〝敵〟だと言ったに等しいだろうね。まあ、単なる簡易AI制御のSAOボスも同じ事が言えるからな、気持ちは解らないでもないんだけど……さ」

 

 SAOのMobもノイズとある意味で変わらない。

 

 アクティブ型Mobは、プレイヤーを認識したならAIに規定され、襲撃をしてくるのだから。

 

 それはノイズと何処が違うというのか?

 

「まあ、問題は其処じゃないからね。政府はノイズの正体を識っているし、出所も掴んでない訳じゃない。数は少ないながら対抗策も用意されている」

 

 ノイズの謂わば存在意義というのも、バラルの巫女だったフィーネから聞いていた。

 

「対抗策……あの裸の少女達の事かな?」

 

 ディアベルが訊いてきた瞬間、響の顔が真っ赤に染まってしまう。

 

「裸の少女達ぃ?」

 

「ああ、我々がSAOに閉じ込められる少し前だが、全国中継されていたじゃないか? マリア・カデンツァヴナ・イヴと謎の少女が相対して、何故か光と共に裸になっていた。少女に関してはよく判らなかったんだが、マリア・カデンツァヴナ・イヴは有名人だったからね。ああ、裸とは云っても光の膜が包み込んで、明らかに服を着ていないって状態になっただけだよ」

 

 穿いてない?

 

 要は肢体の線がハッキリとしていて、服を着ているとは思えない姿だったと云う事なのだろう。

 

 魔法少女モノや一昔前のセーラー服風のレオタードを着て、美少女と自ら名乗る戦士の変身シーンの如くというやつだ。

 

 寧ろ、某・鉄仮面剣みたく素っ裸を晒して変身する方が珍しい。

 

 あれは男も女も基本的に素っ裸で変身していた。

 

 ディアベル曰く……

 

 何だかそんな中継に出た少女らしき子が、武装して唱いながらノイズと戦っている姿を見た人間も居るらしいとか何とか。

 

 二課も万能ではないし、見逃している人間も居たのだろう、翼も響もダラダラと冷や汗を掻いている。

 

「ま、まあ……あれだね。兎に角、指輪の話は秘匿する必要があったんだ」

 

 取り敢えず強引に話を戻しておいた。

 

「必要があった?」

 

「考えてもみると良いさ。まだボスの危険性を強くは認識してない頃だ。犠牲は出ていたが、何処か遊びの延長と考えていた。その考えが、認識が変わったのは第二五層のクォーターポイントでの戦闘でだ」

 

「そうだったね……」

 

 これまでにも何度か犠牲は出ていたが、ボスの恐ろしさを決定的なものとしたのは第二五層──クォーターポイントでの戦闘。

 

 そしてハーフポイント、第五〇層だろう。

 

「事、此処に至っては莫迦をやらかす輩も少ないと思うしね」

 

「と、云うと?」

 

「単独撃破ボーナスを狙ってボスに単独特攻、間違いなく死ねるよ」

 

「ああ、それは……ね」

 

 実際に有り得そうで怖い……というか、ディアベルは第一層のコボルド王の時にやらかし、死に掛けているのだから笑えない。

 

 事実、ディアベルは苦笑いすら出せず困った表情となっていた。

 

「正直、僕としても奴らみたいな真似はしたくない」

 

「奴らって誰だ?」

 

 ユートの発言にキリトが反応を返す。

 

「僕が追っている奴さね。正確には〝奴ら〟……複数な訳だけど。何処ぞのね、超攻略派ギルドの副団長様に睨まれながら、ずっと捜していた連中なんだ」

 

 【KoB】副団長である閃光のアスナへと、会議に出席をしていたメンバーが一斉に視線を向ける。

 

「な、何ですか?」

 

 胡乱な表情とジト目になったアスナが皆を睨むと、全員がやはり一斉に視線を背けてしまった。

 

 まあ、プックリと頬を膨らませる姿は可愛らしく、ディアベルやキバオウなどの男性陣は萌えている。

 

 勿論、ヒースクリフは特に反応をしてはいない。

 

「で、で? 追っているって連中の事は俺も知っているけど、詳しくはないな。この際だから教えてくれないか? ユート」

 

「キリト……聞けば最早、SAOの攻略だけに集中が出来なくなるぞ? だから今まで僕は詳しく教えず、独りで追っていたんだし。某・副団長殿に物凄く睨まれながら」

 

「それはもう良いわよ!」

 

 

 諄いユートにガーッ! と怒鳴るアスナ。

 

「確かにSAO攻略組には知る権利が有る……かな? 判った、知りたいと思うなら挙手を。多数決で話すかどうかを決めよう」

 

 民主制に則ったというよりも、合議制を採っている現在の攻略組としては当然の採決法であろう。

 

 果たして、形だけとはいえ議長的なヒースクリフは扨置き、アスナとキリトも含めて全員が挙手した。

 

「フゥ、判ったよ。君らの決意に敬意を表して奴らに関して話そう」

 

 どうせ、今の侭では手詰まり感もあったのだから、状況の打破の為にも今までとは違う方策も必要だ。

 

「先ず、僕が追っているのは恐らくは第一層から既に存在が見え隠れしていた。尤も、僕が下手に介入をしたからか直接的には口を出して来なかったけどね」

 

「第一層から? つまりは最初期からって事?」

 

「そうだよアスナ。奴ら、いつの間にか人の傍らに這い寄って悪意を囁くんだ。こそこそと、決して自分達は表には出ずにね」

 

「そんな……」

 

「実際に事を起こしたのは第二層でだね」

 

「第二層?」

 

 小首を傾げるアスナは、『あっ!』と口元を押さえながら小さく声を出す。

 

「気が付いたか? そう、アスナも知っている話だ。あの事件で奴らの首領格か幹部が動いた。最初期だし首領本人かもな」

 

 余り大きな声では言えないが、一応は示談で終えたとはいえこの会議に出席をしている【レジェンドブレイブス】が行った強化詐欺事件、あれこそはユートが奴らを追う切っ掛けとなった事件である。

 

「これまでの攻略でも誰かに事件を巧みに起こさせ、何らかの問題点をわざわざ肥大化させる。そうやって連中は暗躍を続けていた」

 

「確かに……」

 

 頷くアスナも心当たりがあったらしい。

 

「奴らは今の処だと方針的に搦め手ばかり、直接的な手段には出てきてないが、第三層では多少の実行者の介入があった」

 

「第三層……?」

 

 第三層といえばギルドを創る為のクエストが在り、ユートも【ZoG】を創設するのにクエストをクリアしている。

 

「キリト、覚えているか? ディアベルがβテスターだった事をいつの間にか知られ、ギルド派閥が別れ別れになってしまった事件、それに際して僕らが進めていたクエストで、目立たない様に立ち回りながら僕らを邪魔してきた奴の事を」

 

「ああ、其処に繋がるのは解っていたさ」

 

 キリトは苦々しい表情となり、もう随分と前に起きた第三層での連続クエストを思い出す。

 

 勿論、それは当事者でもあったディアベルとキバオウとリンドも、その表情は複雑なものであった。

 

 アスナもキリトもユートも苦々しいものばかりではなく、楽しい想い出っぽいものもあったから、余計に複雑な気分にもなる。

 

 例えば、アスナは【ウインド・フルーレ】を心材──【アルゲンティウム・インゴット】を用い、エルフの鍛冶師により鍛えて貰った【シバルリック・レイピア】を手に入れたアスナの喜びとキリトの驚愕。

 

 何しろ、第三層で単純に概算して第六層クラスにもなる剣が手に入った訳で、元βテスターのキリトとしては驚きを禁じ得まい。

 

 自分の武器ではないが、仲間の武器が大幅な強化が成された訳で、アスナも嬉しそうだったから良かったと思ったものだった。

 

 黒エルフのお姉さん……キズメルとの邂逅。

 

 本来なら勝てない筈だった森エルフ──【フォレストエルブン・ハロウドナイト】を、ユートとアスナが苛烈に攻撃をしてキリトとシリカが呆然となり、十分もしたら敵を斃していて、それによりオロオロ? としてたキズメルが居たり。

 

 そしてあの『翡翠の秘鍵』クエストで、モルテという蝙蝠野郎がとある行動の邪魔をしてくれた。

 

 因みに、パーティを組んだ中でもユートが一番で、シリカが二番目にレベルが高かったのだが……

 

 キズメルのレベルが僅かに15だったのは、味方になると弱体化をするというやつだろうか?

 

 それは兎も角、ユートはずっと追い続けていた連中の話を皆にする。

 

「今までは避けてきたが、そろそろ奴らも痺れを切らしている頃合いだろうし、話しておく事にしたんだ」

 

「痺れを切らすとは?」

 

「ディアベル、これまでは連中も搦め手ばかりでやってきた。例えばディアベル自身もそうじゃないか?」

 

「──え?」

 

「妙な使命感、LAを狙ってまでリーダーシップを執ろうとしたり、それは本当に君が自ら思っての事か? 或いは二ヶ月の間に言葉巧みにその気にさせられ、あんな無謀な行動を取った可能性は無いか?」

 

「……」

 

 驚愕に目を見開いたかと思えば、心当たりがあったのか難しい顔になった。

 

「例えば【月夜の黒猫団】の無謀な行動」

 

「なっ!?」

 

 今度はキリトが驚く。

 

 何故ならキリトも彼らには多少なり関わった。

 

 第二七層へと稼ぎに出掛けて、トレジャー・トラップに掛かりモンスターハウス状態になり、あわや死にそうになったのを救出するのに手を貸している。

 

 それ以前に、サチが訓練をしている最中のケイタ達を鍛える手伝いもした。

 

 だからキリトも彼らへの思い入れがある。

 

「まあ、黒猫団は大概が僕と一緒だったから、接触をしているかは微妙だけど。とはいえ、今にして思えば余りにもサチ達は無防備に上層へ行った。だからね」

 

「な、成程……」

 

 誰かに唆された可能性、確かに無いとは言い切れないキリトは納得した。

 

「他にも催眠PKとかね。兎に角、奴らは搦め手で以て間接的にだけど、唆した相手ばかりか周囲までをも殺すから。だけどさっきも言った様に奴らはそこそこに人数も増えただろうし、統制を執る意味でも直接的な手に出始めてもおかしくは無いだろう。つまりは、完全に善悪の区別が付かなくなった連中が、自ら手を下す様にもなるんだ」

 

 無論の事ながら最大限の効果を狙い、搦め手の方から移るのだろうが……

 

「ちょっと待って! その人達は解っているの!? そんな事をしていたら攻略が遅れるのよ? 自分達も不利益を蒙るわ!」

 

「其処は何を以て利益とするかに依るだろう」

 

「? どういう……」

 

「僕の見立てでは少なくとも首領、或いはその幹部は出られなくても殺しが楽しめるなら問題無いと考えているし、幹部以外であれ、擬似的な万能感に愉悦を感じていれば、それを無くす現実世界(リアルワールド)には戻りたく無いだろう。束の間の栄華だとは知りつつも……な」

 

「そんな、有り得ないわ。こんなHPが全損すれば、本当に死ぬデスゲームから出たくないなんて!」

 

「果たしてそうかな?」

 

「え?」

 

 ユートの否定する言葉を信じられないと、アスナは驚きに目を見開く。

 

「成績優秀、スポーツ万能な人間なら理解も出来ないかもね。人間は誰しもが、現実に折り合いを付けられる訳じゃない。それにHPが全損したら本当に死ぬ……デスゲームだと言うが、そんなのは現実でも普通な話だろ? 病気になるかも知れないし怪我をするかも知れない、ひょっとしたら明日には行き成り何の前触れも無く心臓が止まるかも知れない。日常を暮らしていて殺人は対岸の火事みたいに視ていても、いつかは巻き込まれるかも知れないよね? いつだって生命はそんな危機に瀕している。デスゲームもリアルワールドも変わらない」

 

「そ、それは……」

 

「だけど違う処が一つ……力さえ付ければ他者を虐げるのはどちらでも可能だろうが、少なくともレベルを上層クラスにまで上げておけば、中層や下層で他者を虐げられるからね」

 

 帰りたくないというのはつまり、そんな特権意識を持った人間が力を捨てたくないという我侭。

 

「オレンジがそうだろ? レベルが自分より低い連中を狙い、殺すなりアイテムを奪うなりして実に愉しげに暮らしてるじゃないか。前にそんなオレンジを相手にしたけど、僕のレベルが自分達より遥かに上だと知るや否や、逃げ出そうとしたからね」

 

 その時は一人で中層にて素材を集めていたからか、数人のオレンジプレイヤーがニヤニヤと、気持ち悪い笑みを浮かべながら近付いてきたものだ。

 

 これから始まる蹂躙劇を想像したか、軽く頭の中身がイっていた連中だった。

 

 尤も、すぐにそんな夢想からは醒めざるを得なかった様だが……

 

 飛び交う鮮血にリアルな痛み、目に見えて減っていく命の灯火(HP)に連中の心はアッサリとへし折れ、命乞いすらしてきた。

 

 連中が何より恐ろしかったのは、そんな虐殺にも似たナニかをしていながら、ユートの目には全く感情が宿っていなかった事。

 

 路傍の石とすら認識をしていなかった事だろう。

 

「そんな話は聞いた事が無いけど、そいつらはどうなったんだよ? まさかとは思うが殺してないよな?」

 

「……別に殺しても良かったんだが、そんなに強かった訳でもなくてね。だから全員手足を斬り落として、黒鉄宮送りにしたよ」

 

「そ、そうか……」

 

 流石のキリトも引き攣った表情となる。

 

 手足の欠損はそれなりに技術が要るのに、アッサリそれをやる辺りはユートの技能が高い事を窺わせた。

 

「(それにしても〝アレ〟はビジュアル面でも凄まじかったな。性能面だけでも壊れっぷりが凄いのに)」

 

 〝あのアイテム〟を思い出したユートは、若し連中を上手く捕捉出来たなら、必ず使おうと考える。

 

 そうしていると、沈痛な面持ちでユートを見遣りながらアスナが口を開く

 

「貴方が追っている連中ってそんなに危険なの?」

 

「ああ、今は犯罪者(オレンジ)プレイヤーだけど、奴らはいずれシステムには存在しない別のナニがしかになるよ」

 

「別のナニがしかって?」

 

「犯罪を行うというより、殺人を行う……殺人者(レッド)プレイヤーに」

 

「──っ!」

 

「そいつらが集まったら、それはもう殺人集団(レッド・ギルド)だろうね」

 

「レ、レッドギルド……」

 

 ショックを受けたのか、フラりと蹌踉めくアスナだったが、それを咄嗟に支えるキリト。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「ええ、ありがとう」

 

 何だか何処ぞのゴキブリ頭の同人作家であるなら、『ラブ臭がする』と言い出しそうな雰囲気だ。

 

 アスナは気丈に振る舞い毅然とした態度を取って、ユートへと詰め寄る。

 

「今まで独りで追っていたって言うけど、そんな危険な相手ならどうして私達に相談しなかったの?」

 

「攻略とは関係が無いし、あの頃は今程に根拠なんか示せなかった。もっと前に君に話した処で、そんな暇は無いとか放っておくべきだとか言っただろうね」

 

「うっ!」

 

 個人の力など高が知れているし、企みの一つを──ユートが──潰した実績もあるから確かに突っぱねた可能性が高い。

 

「それで何か取り返しの付かない事態が起きたなら、君の【血盟騎士団】副団長……閃光のアスナの名前に傷が付くぞ? 知っていて対処をしなかった結果とか言われて……な。こういうのも奴らの口撃対象になるから下手な事は出来ない」

 

 アスナ的に名前などどうでも良いが、確かに口撃に晒されるのは可成り面白くない事態に発展しそうだ。

 

「まあ、事此処に至っては奴らが表に出てきてから、叩いた方が堅実だろう」

 

「……そうね」

 

「僕の話はそれだけだよ」

 

 そう言って着席する。

 

 その後も会議は続くが、ディアベルやキバオウ達は早く終われと思っていた。

 

 エギルの店に早く行き、強力な武器を買う為に。

 

 そんな中で第五二層以降の攻略に関して話し合い、一通りの話を終える。

 

 アスナが会議終了宣言を出した瞬間、ダッシュして会議場を走り去るプレイヤー達にアスナは呆れて言葉も出ない。

 

「さて、ガングニールでもアメノハバキリでも良い。こいつをイチイバルに届けてくれないか?」

 

 メニューからアイテム・ストレージを呼び出して、アイテムの名前をタップすると、ユートの手の内へと実体化をする。

 

「これは!」

 

「赤いボウガンだと!? まさかこいつは……」

 

「そう、アメノハバキリが思った通り。イチイバル・ボウガンという。流石に、ミサイルや機関銃なんてのは無理だったけど、これくらいなら何とか……ね」

 

 シュルシャガナとイガリマの武器は、能力や形などがまだ判らないから造り様もないが、イチイバルなら取り敢えず造れたのだ。

 

「矢の代えは専用になる訳だけど、投擲武器よりは安くしておくよ」

 

「アイツも喜ぶだろう」

 

 主に貧乏投擲師としての資金的な意味で。

 

「然し、こんな武器をよく造れたな?」

 

「そうですよね、翼さん。私、今までにボウガンなんて見た事ありませんよ!」

 

 感心するアメノハバキリ──翼と、リアルネームでアッサリと呼ぶガングニール──響。

 

「まあ、リアル鍛冶が可能と判って試してみた幾つかが有るんだけど、まずを以てミサイルとか銃は造れなかった……訳じゃ無い」

 

「だが、さっきは無理だと言わなかったか?」

 

「無理だと言ったのは造れないという意味じゃなく、算盤的な問題だったんだ」

 

「つまり、身も蓋も無い事を言うとコストか?」

 

「そう。そも、ミサイルや銃器は武器カテゴリーとして存在しない。形ばかりは整えられたが、素材が一気に減った上に威力も大したものじゃなかった。しかも装備スキルが存在してないからソードスキルも無い。要はちょっと威力の増した投擲武器と変わらないし、完全な使い捨てだ」

 

「……確かに使えないわ」

 

 一発のミサイルを放つ毎に素材価格で百万コル以上を使うし、ミサイルの場合は周りを巻き込んだりする使い難さと、第一層の雑魚すら殲滅が出来ない威力。

 

 拳銃など装弾数が二発、しかもフレンジーボア──スライム相当だけどな──を拳銃だけで殺すのに必要な弾数は十発以上。

 

 限り無く使えない。

 

 しかも装備フィギアへと入れているだけに過ぎず、単にソードスキルの存在しない投擲武器以下のナニかにしかならなかった。

 

「不思議なのはボウガンは武器カテゴリー『弓』というのに当て嵌まったんだ」

 

「な、に? では、アインクラッドには弓が存在していると云うのか?」

 

「店売り、ドロップ、トレジャーのいずれにしても見た事は無いけど、カテゴリーは確かに『弓』となっていたし、装備スキルが存在すればスキルも使える筈」

 

「む、装備スキル……か。雪音はそんなスキルは持ち合わせていないぞ?」

 

「ソードスキルを捨てて、いっそ後ろから連続で射ってコンボで威力を上げるのが現実的だろう。いずれにせよサブウエポンだね」

 

「そうだな」

 

 相変わらず短剣をメインウエポンとし、ボウガンはサブウエポンとして活用という事になりそうだ。

 

 ユートも翼も知らない、弓の装備スキルとなるのは『射撃』であり、それこそ十から存在するユニークスキルの一つである事を。

 

 その後、ギルド【ZoG】とギルド【レリック】のメンバーは、第五二層にて恒例のレベリング兼探索へと向かうのだった。

 

 尚、ディアベル達は何とかユート謹製の武器を確保したのだと云う。

 

 

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