ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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 今回、本当に可能か判らないけどIMから可能かもと妄想した結果、設定をした事が出てきます。

 尚、ストーリーはシンフォギア勢の登場に伴って、新たに構築をしています。





第29話:撃槍!

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 第五一層フロアボス戦、赤毛のポニーテールな少女がボスの攻撃に晒されて、息を呑んで顔を庇うかの如く両腕でガードしながら、思わず目を閉じている。

 

 HPバーも半分を既に切っており、まともに受けたなら待っているのは確実な死であった。

 

 これが普通のMMOや、単なる遊びでゲームのVRMMOならば良かったが、これはデスゲーム。

 

 ゲームデザイナーである茅場晶彦により、自分ではログアウトが出来なくなっており、HPがゼロになれば現実で被ったナーヴギアからはマイクロ波が放射されて、脳を沸騰させて死に追い込んでしまう。

 

『これはゲームであっても遊びではない!』

 

 茅場晶彦はそう宣った。

 

 それを見たガングニール──立花 響が素早く装備欄の武装をタップすると、それらを身に纏いながら前へと躍り出て、ボスの攻撃を両腕に装備されたガントレットで受け止める。

 

「すぐに下がって回復を! 此処は私が何とかする、だからね……生きるのを諦めないで!」

 

 ギルド【レリック】……唱いながら闘うギルドだとして、可成り名が真しやかに囁かれている密かな有名ギルドのメンバー。

 

 それがプレイヤーネーム:ガングニール。

 

 ガングニール=立花 響が装備する武装を見遣り、事情を知らない全員が目を剥いていた。

 

 橙と黒を基調としている身体にピッチリとフィットをするスーツスパッツに、グリーブ、少しゴツいめの白いガントレットに同じく白いヘッドギア。

 

 まるで見た事の無い装備だったのだ。

 

 否、ギルド【レリック】のメンバーは知っている。

 

「ガングニールだと!?」

 

 アメノハバキリ──風鳴 翼は、思わず叔父である風鳴弦十郎の如く叫ぶ。

 

 マフラーの付いていない以前の……初めてガングニールを纏ってからカ・ディンギルでの戦いまでに使っていたシンフォギアと同じデザインだったが、間違いなくガングニール。

 

 

名前:ガングニール

レベル:66

スキルスロット:9

HP:11910

筋力値:117

俊敏値:88

 

【装備】

ガングニール・ガントレット

ガングニール・ウェア

ガングニール・レンギス

ガングニール・ヘッドギア

ガングニール・グリーブ

 

ガングニール・ベルト

 

【装備スキル】

両手槍装備

格闘

戦闘時回復

限界重量拡張

金属鎧装備

疾走

電光石火

武器防御

舞踏

 

 

「呆けるな! 今はボスを撃破する事だけを考えて集中をしろ!」

 

 ユートに発破を掛けられて我に返ったボス戦レイドメンバーは、今は兎にも角にもボス撃破に集中する。

 

 それから暫くの時間が経って、無事に第五一層ボスが蒼白いポリゴン片へと還るのだった

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 認定特異災害ノイズが顕れたら、人は逃げ惑う事しか出来ない。

 

 何しろ直接的に触れたら炭素転換されてしまうのだから、少なくとも素手で触る訳にもいかない存在だ。

 

 空間から滲み出る様に、突如として発生するノイズに有効な撃退方法は無く、同じ体積に匹敵する人間を炭素転換し、自身も炭素の塊と崩れ落ちる以外には、自壊を待つしかない。

 

 また、ノイズを斃しべくミサイルなど撃ち込んだとしてもすり抜けてしまう。

 

 これは位相差障壁の所為であり、存在を異なる世界に跨がらせる事で、通常物理法則下にあるエネルギーを減衰させたり無効化する能力だ。

 

 簡単に云えばスレイヤーズの魔族に近い。

 

 魔族は本体をアストラルサイドに置き、一部のみをマテリアルサイドに顕現をさせており、攻撃をしても単なる物理攻撃は無効化されてしまう。

 

 ダメージを与えたくば、アストラルサイドに存在している本体を直接叩くしか無く、その手の魔法や武器を使わなければならない。

 

 ノイズも自らの存在比率を彼方側へと置き、攻撃の瞬間のみ此方側に顕れているらしく、つまりその時なら通常攻撃も通る事が確認されている。

 

 対ノイズ戦に於いて現状で最も有効な手段となっているのが、櫻井了子により提唱される櫻井理論を基に

造られた【FG式回天特機装束】──シンフォギア・システムである。

 

 奏者の戦意に反応して、共振共鳴をしたギアにより旋律を奏でる機構を内蔵、この旋律に合わせて奏者が歌を唱えば、シンフォギアはより力強く機能を発揮してくれるのだと云う。

 

 シンフォギアが攻撃を当てた瞬間、複数の世界へと跨がるノイズを調律して、此方側へと引き摺り出す事により、位相差障壁を無効化する事で、コンスタントなダメージを与える。

 

 だが然し、シンフォギアの奏者が現状では一人も居ないが故、仮に今ノイズがこの場に顕れた場合は対抗手段が全く無かった。

 

 そう、無いのだ……

 

 シンフォギア奏者は全員がSAO──ソードアート・オンラインに囚われて、一切身動きが取れない状態であり、シンフォギア・システムは適合者以外には使えなかった。

 

 スーツ姿の男が忙しそうに駆けずり回る。

 

 緒川慎次、ノイズが出ない普段は風鳴 翼のスケジュールを切り盛りをする、敏腕マネージャー。

 

 その正体は忍者の家系、故に身体能力が極めて高い水準にあり、実は普通に水の上を走れるくらいだ。

 

 そんな緒川もノイズには勝てず、ノイズが出現した場合は専ら避難誘導などを行っている。

 

 米国の闇を担う部隊によるマリア、切歌、調の暗殺決行だったが、その最中にノイズが出現した。

 

 暗殺部隊はノイズにより全滅して、その対処をしていた緒川は逃げ遅れていた子供を救う為、何とか共に逃げていたものの……

 

「くそ、これまでかっ! せめてこの子だけでも!」

 

 これが【戦姫絶唱シンフォギア】の第一期ならば、響が聖詠を唱ってガングニールを纏ったのだろうが、生憎と緒川にそんなモノは存在していない。

 

 そしてノイズに触れられたが最後、炭素転換されて死ぬしかないのだ。

 

 だけど、本人にはそれが無かったとしても……

 

「馬鹿野郎! 生きるのを諦めるな! さあ、来いよ……ガングニィィィィィィィィールッ!」

 

 派手な槍を手にしているのは、朱色の翼の如く髪の毛の十代後半の少女。

 

 叫んだ少女は槍から分離されたパーツは漆黒に近い鎧となり、それを身に纏うと手にした抜き身の槍を、力一杯に投擲した。

 

「おらぁぁっ!」

 

 槍は投擲した少女の思念を受けると、自在に飛翔をしながらノイズ共を次々と穿っていく。

 

「そ、そんな……この声、この槍……まさか?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 特異災害対策機動部二課の仮本部、其処ではピンチとなった緒川を見て全員が戦慄していた。

 

「緒川っっ!」

 

 本部で幾ら叫んでも緒川が助かる訳ではない。

 

 そうと理解していても、風鳴弦十郎はこの場で叫ぶ事しか出来ないのだ。

 

 せめてマリアが居れば、響の胸元で鈍い反射光を放つ赤いペンダント──第三号聖遺物ガングニールと同じ機体、日本で管理をしていた訳では無かったが故にナンバリング無しとなっているガングニールを使い、ノイズを迎撃する事も可能だったのだろうが、残念ながら現在はこの場にマリアは居ない。

 

 急ぎ此方に向かっているとは聞いているが……

 

 そんな時だった。

 

〔馬鹿野郎! 生きるのを諦めるな! さあ、来いよ……ガングニィィィィィィィィールッ!〕

 

 

「ガングニールだと!?」

 

 その形状は間違いなく、弦十郎の知るガングニールと同じである。

 

 そして漆黒の鎧兜を身に付けている少女──

 

「ば、莫迦な! あれは、奏だとでも云うのか!?」

 

 奇しくも緒川の科白を引き継ぐかの如く、弦十郎は叫んでいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 緒川は知っている。

 

 緒川は識っている。

 

 その勇壮なる歌声を……

 

 その勇敢なる戦いを……

 

 第三号聖遺物【ガングニール】の元奏者、三年前にノイズとの戦闘に際して、立花 響の目の前で絶唱──適合係数が低いとバックファイアが酷い──を唱って肉体が塵に還った少女。

 

「奏……さん……?」

 

 天羽 奏、その人だったと云う。

 

 見た事もない鎧で肉体を護り、色は全く異なってはいるものの記憶の中にあるガングニールの【アームドギア】と同じ形の槍を揮う天羽 奏の勇姿。

 

「ど、どうして奏さんが……?」

 

 風鳴 翼の腕の中で殉職をした筈の天羽 奏が生きており、あまつさえノイズを相手に戦っている。

 

 見た事のない鎧で身を護っているとはいえ、シンフォギア・システムを使わずにノイズと戦う術は皆無でこそないが、それでも恐ろしいまでに少ない。

 

 何しろ、触れれば炭化して終わるだろうし、かといって触られる前に斃そうにも異次元に跨がって存在をするノイズに、単純な力ではすり抜けてしまうのだ。

 

「斃せている……」

 

 今の奏は間違いなく斃しており、それは即ちノイズ打倒の為に何らかの手段を得ているという事。

 

 それ以前に、彼女は本当にあの【ツヴァイウイング】の一翼──『天羽 奏』本人なのかも解らない。

 

「いったい、何が起こっているんだ……」

 

 戦う奏を見遣りながら、緒川は呟くのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 同じ頃、マリア・カデンツァヴナ・イヴはノイズの突如とした出現に、舌打ちをしなくなるくらい忌々し気に睨み付けながら、二課へと向かって駆ける。

 

 彼処には立花 響が収用されており、彼女の胸元には嘗ては自らが使っていた【ガングニール】が……

 

 ナスターシャ──マムがウェル博士により月に飛ばされて、怒り狂った自分が彼を殺そうとアームドギアを突き出した時、目の前に躍り出た立花 響。

 

『其処を退け、融合症例第一号!』

 

『違う! 私は立花 響、一六歳! 融合症例なんかじゃない! 只の立花 響がマリアさんとお話したくて此所に来てる!』

 

『お前と話す必要はない! マムがこの男に殺されたのだ。ならば、私もこいつを殺すっ! 世界を守れないのなら私も生きる意味なんてないっっ!」

 

 突き出された槍を素手で受け止め俄に血を流す響。

 

『お前!?』

 

『意味なんて、後から探せば良いじゃないですか……だから、生きるのを諦めないでっ!」

 

 そして紡がれるは聖詠、謂わばシンフォギア起動の為のキーワード。

 

『聖詠……何の心算で?』

 

 神獣鏡(シェンショウジン)の光を浴びた響には、もうガングニールを纏う為の欠片は無い。

 

 聖詠を詠った処でどうにもならない……筈だった。

 

 だが然し、掴まれたアームドギアが光の粒子となって消え、更にはガングニールのギアその物が消える。

 

 全国中継でマッパに!?

 

 それは兎も角、驚愕に目を見開いて叫ぶマリア。

 

「何が起きているっ!? こんな事ってあり得ない! 融合者は適合者ではない筈っ! これは貴女の歌? 胸の歌がして見せた事? 貴女の歌って何っ!? 何なのっっ!?」

 

 マリアの叫びを他所に、響へと移った光の粒子群がシンフォギアに結実する。

 

『撃槍……ガングニールだぁぁぁぁああっっっ!』

 

 響の歌は撃槍ガングニールだったらしい。

 

 あれ以来、マリアが持っていたガングニールは響に譲られていた。

 

 あれを一時的に返して貰えばノイズとも戦える。

 

 とはいえ、事はそう簡単にいかなかったらしい。

 

「くっ、囲まれた!?」

 

 どうしてノイズが現れたのかは判らないが、元よりノイズは統一言語を喪った人間が同じ人間を効率よく殺すべく、人間によって造り出された殺戮兵器。

 

 近くに獲物(にんげん)が在らば、確実に狙いを定めて追って来るは必定。

 

「この侭では……」

 

 既に追い付かれつつあるマリアは、悔しそうな表情できつく目を閉じた。

 

「ごめんなさい、セレナ! 私は……」

 

 結局は何も成せないし、何も残せない。

 

 アガートラームの奇跡、今回は起きなかった……

 

「アガートラームよ!」

 

 そう思ってマリアが目を閉じた瞬間聞こえたのは、数年を経て尚も忘れぬ愛しい妹の声。

 

「今の声?」

 

 振り向けば黒い鎧と剣を持つ、橙色の髪の毛に青い瞳の……最後に見た時と変わらぬ姿の妹本人……

 

「セ、レナ……?」

 

 セレナ・カデンツァヴナ・イヴであった。

 

 黒い剣──アガートラームと呼んだ大剣を手にし、ノイズへと揮って斬り裂き消滅させていく。

 

 それはあっという間の出来事であったと云う。

 

「我が楚真(ソーマ)、アガートラーム! 征って!」

 

 大剣を掲げると、アガートラームらしき剣は銀色の光を放って、残ったノイズを纏めて炭化させた。

 

 アガートラームはセレナのシンフォギアの銘。

 

 だがあれはシンフォギアではないし、楚真なんて鎧は寡聞にして知らない。

 

 理解が出来たのは、死んだ筈である妹のセレナが、何故か生きてこの場に現れた事実と、シンフォギアを使わないでノイズを滅ぼしたという現実。

 

 そもそもノイズが出現をしたのも想定外。

 

 てっきり、バビロンの宝物庫は閉じたとばかり思っていたし、然もなくばあのネフィリム・ノヴァの爆発で破壊されたか、悪くてもノイズは爆発に巻き込まれて消滅したと考えた。

 

 米国から刺客が送られてくるのは想定内だったが、それ以外は二課ですら考えが及ばなかったのである。

 

「セレナ、本当にセレナ……なの?」

 

「久し振り、お姉ちゃん」

 

 マリアの呟く様な呼び掛けに、当のセレナは笑顔を浮かべて応えるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 特異災害対策機動部二課の仮設本部……

 

 其処に緒川からの案内を受けて、天羽 奏とセレナ・カデンツァヴナ・イヴ

と共にユートは来ていた。

 

「信じられん、本当に奏だと云うのか?」

 

「旦那、アタシが天羽 奏以外の何に見えるのさ?」

 

 かんらかんらと笑いながら言う姿は、往年の天羽 奏とまるで変わらない。

 

 そう、年齢までもが……

 

 天羽 奏は【ツヴァイウイング】の実質、最後となるライブに於いてノイズの襲撃に遭い、ガングニールで戦って時間切れとなり、それでも響を救うべく絶唱を口にし、バックファイアをモロに受けて塵となり死んだ筈である。

 

 それは死を看取った翼の証言からも、風鳴弦十郎は知っている事だ。

 

 にも拘らず、目の前にはあの頃と見た目にも全く変わらない奏の姿。

 

 そればかりか……

 

「セレナ……貴女、どうして?」

 

 セレナ・カデンツァヴナ・イヴも数年前、暴走したネフィリムを元の状態に戻す為に、やはり絶唱を唱って死亡していたというのに生きている。

 

 そして何より、この二人が連れて来た黒髪の青年──ユートの存在だ。

 

「それじゃあ、再会も酣って事でそろそろ自己紹介をさせて貰おうか」

 

 太々しい態度でユートがそう宣言をした。

 

 ユートは話す。

 

 名前を名乗ったのを皮切りとし、自分が異世界人である事を明かすと、二人の生存の意味と理由を。

 

 誰もが──風鳴弦十郎でさえ信じられない面持ちで聞いていた。

 

 世界が違えば理も異なるというのは理解出来たが、だからといってよもや神様が闊歩する世界が存在し、其処で得た力で奏とセレナの魂を確保、十二時間限定だとはいえ仮初めの肉体を与えて生き返らせるなど、常識の範疇外なのだから。

 

 シンフォギアの必殺技を素手で殴って止める非常識な弦十郎をして、非常識だと言わしめるくらいだ。

 

 奏もセレナもユートの擁する冥王軍に所属している冥闘士で、天猛星ワイバーンの冥衣を奏が、天貴星グリフォンをセレナが与えられている。

 

 二人の復活劇についての説明を受け、兎にも角にも不可思議な異世界パワーで蘇生させられたのは理解が出来たらしい。

 

 とはいえ、絶対に蘇生を世間に教える訳にはいかない禁即事項だ。

 

 何故かと問われれば理由は極簡単で、死者の蘇生が可能であれば世間は確実にそれを強要してくる。

 

 だけどユートはそんな事をする心算などない。

 

 蘇生の権能は他人の為より自分の為、そもそもにして十二時間しか保たないのだから意味は無かった。

 

 一応は時間制限を解除も出来るが、悪魔化をしない【悪魔の駒(イーヴィル・ピース)】か【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】を使う関係上、簡単にはいかない。

 

 第一、ユートは対価無しに他人へ施しなどする事はないだろう。

 

 況してや、SAOが原因で死んだプレイヤーの被害者遺族は煩いと思われる訳だが、ユートにとっては知った事でもなかった。

 

 特に最初期で勝手に自殺をした莫迦などは。

 

 また、眠る響達を助ける術は実の処無くもないが、それはハッキリきっぱりと悪手だと解る。

 

 それはこの世界がSAO単体ではなく、【戦姫絶唱シンフォギア】の習合世界だという事が手伝う。

 

 ユートは響から聞き出していた、あの惨劇の後にあったという反吐が出るくらいの人間の醜さを……

 

 SAOでもネットゲーマーの嫉妬深さがそれを象徴しており、安易な救いなど却って苦しめるものだ。

 

 ユートが安易にキリト──和人を救ったとしたら、世間がそれを知れば助かった和人を、助けたユートを弾劾するであろう。

 

 ノイズに襲われた【ツヴァイウイング】のライブから生存した響が、世間からバッシングをされ石持て逐われた様に。

 

 何しろ、この方法で救われるのは恐らく多くて十人未満だろうから。

 

 数千人の内の数人など、間違いなく弾劾される。

 

 なればこそユートは至極真っ当? にSAOを攻略しているのだ。

 

 全てを語り終え、ユートは特異災害対策機動部二課と協力を約束、奏とセレナは響やマリアの防衛戦力として置いていく。

 

 何よりも、数年振りでの姉妹の再会であるのだし、邪魔をする気は無い。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 連合を組んで一週間。

 

 第五一層も可成りクリア出来ており、やはりというかクォーターにしてハーフポイントに比べて楽だ。

 

 ユートが第五〇層のボスから手に入れたラストアタックボーナス、エリュシデータはキリトに売った。

 

 ギルド仲間割り引きという事で、そこそこの値段だった訳だが、現在のキリトのメインウェポンである。

 

 第五一層の攻略に乗り出した攻略組、いつもの通りにダンジョンやクエストを熟していく。

 

 その日はダンジョン探索を終えて、ユートも休みを取ろうかと思っていた。

 

 其処へガングニール──響とシェンショウジン──未来が話し掛けてくる。

 

「格闘?」

 

「うん……格闘スキルってユートさんが見付けたって本当?」

 

「ああ、そういやアルゴの攻略本にはクエストを見付けて情報を売ったら、その売り手の名前が載るんだったな。相手が拒否らない限りは……」

 

 情報提供者として名前が載る訳だが勿論、拒否をしたなら載せる事はない。

 

 ユートは特に拒否をしてはいないから、普通に掲載をされていたのである。

 

「それで、格闘スキルがどうしたんだ?」

 

「はい! 若しかしたら、ユートさんも格闘スキルを持っているのかなと思いまして!」

 

「いや、条件を満たしてないから付けてない」

 

「へ?」

 

 響がポカンとした表情となり、未来はやれやれと頭を抱えてしまう。

 

 エクストラスキル【格闘】とは、イベントによって覚える事が可能なスキルであり、イガリマ──切歌のエクストラスキル【両手鎌】と同様に上位互換スキルとなっている。

 

 【両手鎌】が【両手斧】の上位スキルで、【格闘】は名前から解る通り【体術】の上位スキルだ。

 

 修得の条件は【体術】の熟練度をマスターする事、つまり一〇〇〇にまで上げる事が条件となる。

 

 ユートの【体術】スキルの現熟練度は八四五。

 

 まだ少しばかり足りず、現在のユートではどうにも修得のしようが無い。

 

「ほらぁ、響! 幾ら何でも【格闘】を取ってるとは限らないって」

 

「うう、折角の格闘仲間かと思ったのにぃ!」

 

「いったい、何の話だ?」

 

 ユートが訊ねると未来が頬に手を当て、苦笑いをしながら説明をしてくれる。

 

 響は元々が戦闘達者ではなかったものの、師匠からの教えを受けて格闘に自信を持っていた。

 

 故にこそこのSAOでもエクストラスキル【体術】を知り、すぐにも取りに行ったくらいだ。

 

 まあ、顔が暫く不遇な事になったのは御約束。

 

 それでもユートが流した攻略情報を元に、どうにか【体術】を会得した。

 

 それから第四〇層だったであろうか、今度は【体術】の上位スキル【格闘】の情報が出回る。

 

 【体術】では素手の戦闘が可能となり、他のソードスキルと併せて体術剣技の複合スキルを覚えられた。

 

 だが【格闘】は素手というか、ガントレットやグリーブも武器に見立てて闘えるスキルで、正にメインと出来るモノである。

 

 響は現在、スキル【格闘】をメインに【両手槍】をサブとして使っていた。

 

 エクストラスキル【格闘】の発見者がユートだし、てっきり取っているものだとばかり思っていた響は、少しばかりガッカリしてしまったらしい。

 

「まあ、まだ使えないってだけだからね。スキル上げに協力してくれるのなら、【体術】と差し替えるよ」

 

 上位互換だから同時に持つ意味は無い。

 

「はい、協力しちゃいますよ! ね、未来?」

 

「え、私も?」

 

 自分を指差して驚く。

 

「未来、ひょっとして来てくれないの?」

 

「ま、まぁ……行くけど」

 

 ウルウルな瞳の響に対して頬を染め、プイッとそっぽを向きながら言う。

 

「ああ、そうだ。響に渡す物が有ったんだ」

 

「ふえ? 何ですか?」

 

 ユートはシステムメニューを呼び出して、アイテムストレージ画面でアイテムをタップし、響とトレードをする。

 

 尤も、交換などではなく一方通行なトレードとは名ばかりのものだが……

 

「えっと……へ? これ、ガングニール・メタルウェアとガングニール・ガントレットとガングニール・グリーブ、ガングニール・レンギス? ガングニール・ヘッドギア、ガングニール・ベルトにスピア・オブ・ガングニール……?」

 

 正に、ガングニール一式とも云える装備。

 

「装備してみ?」

 

「は、はぁ……」

 

 響が懐疑的な面持ちなのも無理はあるまい、何しろガングニールとは現実世界で自分が纏うシンフォギアの名前である。

 

 そんな物がこの世界に、SAOに存在する筈などある訳がないのだから。

 

「ユートさん……? これってどうしたんですか?」

 

「造った」

 

「造ったって……」

 

 苦笑いの未来。

 

 響はトレードされたガングニール一式をタップし、装備欄へと移動させる。

 

 何と無く興が乗ったのだろうか、目を閉じて軽快に聖詠を唱いながら装備を変える響の姿が、第一期でのシンフォギア・スタイルと成っていく。

 

「けど、どうやって造ったんですか? SAOにアレが在るとは思えませんよ」

 

「方法はあるものさ」

 

 ユートはウインクしながら笑みを浮かべていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 第五一層のボスが撃破されて一日が過ぎ、攻略組でちょっとした会議が行われる事となる。

 

 ボスの撃破に功があったガングニールの力が、あの見た事の無い装備品にあるのは明確だったし、やはり攻略組の誰もが気になっていた事だ。

 

 別に弾劾の場ではないにせよ、説明くらいはして欲しいというのが会合の趣旨であるし、ヒースクリフはその場でユートが言いたい事を言うのも良かろうと、説明の対価に言っている。

 

 参加ギルドは……

 

 【血盟騎士団】【女神十二宮団】【アインクラッド解放隊】【聖竜連合】【アインクラッド解放軍】【レリック】【ソーシャルゲーマーズ】【風林火山】【レジェンド・ブレイブス】

 

 主だった攻略組ギルドが揃っていた。

 

 因みに、アインクラッド解放軍はアインクラッド解放隊からの離反者が主に、第一層にてとあるギルドを吸収合併して創設をされたギルドだ。

 

 紛らわしい名前だと皆が言うが、どちらも今の名前を変える気は無いらしい。

 

 まあ、元祖と本家の争いみたいなものである。

 

「では、揃った様だし始めるとしようか」

 

 紅い聖騎士風の鎧を纏うオールバックな男、ヒースクリフが開会を宣言した。

 

 元よりこの集会自体が、【KoB】副団長のアスナが開いたもので、取り纏めとしてヒースクリフがこの場に居る。

 

「今回の議題ですが、先ず第五一層のフロアボス撃破はお疲れ様でした。ですがその際に、ギルド【レリック】のサブマスターであるガングニールさん……が、見た事の無い武装を使ってギルド【ソーシャルゲーマーズ】のギルドマスター・エリスさんを救いました。普通の鎧や剣なら兎も角、あれはアインクラッドには明らかに異質で、SAOのデスゲーム前に全国ネットで放映された番組、その時に居た人が着ていた服装? に近い物でした。それについて、ガングニールさんはどうお考えでしょう?」

 

「ふえ?」

 

 水を向けられた響が素っ頓狂な声を上げる。

 

「それは僕が実験的に渡した装備だ。ガングニールはそれを使ったに過ぎない。訊いても貰い物だ……としか答えられないぞ?」

 

「〝また〟貴方なのね……そうじゃないかとは思っていたけれど」

 

 司会進行をするアスナが疲れた表情で呆れた。

 

「それで? あれは何?」

 

「勿論、造ったんだが? ああ! 若し不正(チート)だと思うなら間違いだぞ、僕は正規の手続きに基づいて造ったんだからな」

 

「正規の手続き? だとすると彼女の装備は鍛治スキルで造られた……と?」

 

「それはハズレだ。何故ならあれは秘匿されたモノ、茅場晶彦とはいえ流出したとか云う映像で何とかなるとも思えない」

 

 尤も、カーディナルならそれで形作るのは可能かも知れないが……

 

 基本的に装備品などは、元から存在しているデータと使われた素材、鍛治スキルの熟練度や運(アトランダム)で決定され、SAOへと出力される。

 

 若しもデータが存在していたなら、低い確率であれ出てくるかも知れないが、ファンタジーな世界観にはそぐわない外観なガングニール、データが在ったとも思えなかった。

 

 余りにも異質な装備品であったが故に、アスナ達は不正(チート)な品を疑ったのだから。

 

「アルバイト系クエストが有るだろう?」

 

「ハァ?」

 

「あれってさ、粉挽きとかパン作りとかをするけど、スキルは要らないだろう? それと同じ、鍛治バイトのクエストからだいたいが想定出来た。スキル無しで物作りが可能だってなら、鍛治だって現実(リアル)に則したやり方で出来る筈。それをバイトで確認して、可能だと判断したから試しに造ってみたんだ。それがガングニール」

 

「鍛治のバイト……」

 

「第五〇層の主街区アルゲートに新しく見付かった、鍛治のアルバイト。リズベットも熟しているから聞いていただろう?」

 

「ええ、初回のみ鍛治系のスキルが一〇〇も上がる。バイト代が一時間拘束で、三万五千コル……だっけ」

 

 バイト代は大した稼ぎとも云えないが、鍛治を今になって始めようと考えてみたり、新しくスキルを付けたりした場合は便利極まりないアルバイト系クエストだった。

 

 しかも、可成り見付け難い場所に存在していた為、或いはSAOがクリアされるまで見付からなかったという可能性もある。

 

「現実(リアル)に則しての鍛治、メリットは名前から形まで自分で決定出来る。デメリットは上手く造れないと雑魚装備しか出来ないって点かな?」

 

 歪な形になったとしてもデータ的に装備自体は可能だが、パラメーターとして視れば弱い物でしかない。

 

 だけどユートは現実での鍛治能力を持つ為、普通に装備品を造り出してしまえたし、そのパラメーターも素材の在った最新階層より上の強力な物となった。

 

 実際、ガングニール一式も第五〇層クラスでなく、強化無しでも六〇層クラスの強力な装備品である。

 

「成程……君は本当に面白いな」

 

 これまでずっと黙っていたヒースクリフだったが、此処にきて薄い笑みを浮かべながら口を開く。

 

「私も鍛治のリアルスキルについては確認している。君はリアル・ソードスキルと呼ばれているが、よもや鍛治能力もリアルスキルを使えるとはな。実に面白いものだ」

 

「やはり博識だね、ヒースクリフ団長殿は」

 

 図らずもヒースクリフにより、リアル鍛治スキルの確認が為された。

 

「団長は御存知だったのですか?」

 

「ああ、第五〇層クエストの中には鍛治のアルバイトが存在しており、クエストを五十回熟せばセリフが変わって、百回を熟す事により免許皆伝としてリアルの鍛治について教えて貰える様になるらしいな」

 

「確かに、百回を熟すのは骨だったけど……ね」

 

 百時間……正味約四日間もの拘束時間だ。

 

 当然ながら全ての時間を鍛治アルバイトに費やせる筈もなく、実質的に十日間を掛けた確認作業は確かに骨であったろう。

 

「事情は理解したよ」

 

 ディアベルが言う。

 

 見遣れば、他のギルドのマスターやサブマスターも頷いていた。

 

「その上で君に訊ねたいのだが、その装備品を造っては貰えるだろうか?」

 

「無理だね。時間的な余裕がそんなに無い。リアルなスキルとはいえ、システムのアシストがあるからね、何とか時間は短くなるにしても、流石に鍛治スキルをやるより遥かに時間が掛かるんだからな。僕は飽く迄も戦闘職、鍛治は余技に過ぎないんだ。ギルド仲間には与えるにせよ、他に造る心算は無いな」

 

「むう、そうか……」

 

 唸るディアベル。

 

「という訳で、アメノハバキリ用の装備品だ」

 

 ユートがシステムメニューを立ち上げ、アイテム欄から武装をタップすると、オブジェクト化された。

 

 それはグリーブの一種だと思われるが、外部踝の辺りには翼を模した刃が取り付けられている。

 

「そ、それは!」

 

「銘は【ウイングエッジ・グリーブ】という。体術なり格闘なりが有れば効果的に使えるだろう」

 

 奇抜な形状のグリーブ、恐らくはユートを除いたらアメノハバキリ──翼以外には使い熟せまい。

 

「まあ、後は気紛れに造ったらウチのギルドメンバーがやっている店で、時々は売っているだろうからね。それを買ってくれるかな? 可成りの高価だけど」

 

 注文は受け付けないが、エギルの店に卸した物を買うくらいは可能だと、それを提示した。

 

「了解したよ」

 

「一応、言っておくと……既に片手直剣を五振りと、曲刀、刀、槍、槌、短剣を一振りずつ卸してあるし、早い内に買いに行った方が良いよ?」

 

 ピシリッ!

 

 まだ議題が残っているというのに、これでは買いに行くなど出来ない。

 

 ディアベルを始めとし、殆んどの者が固まってしまったと云う。

 

 

.




 時間があったらキバオウも絡ませよう……



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