ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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第20話:亀裂

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 夜のMob狩りを済ませたユートは、ベッドに腰掛けると自身のステータス値を少し見てみた。

 

 もう少しで上がる処まで来ていたから、序でに上げておいたユートのレベルは21となって、今は恐らく首位を独走中だろう。

 

「ふう、やっとレベルアップしました!」

 

 数日間とはいえ、随分と出遅れた感じのシリカは、レベル17だった。

 

 装備品は胸当てをハードレザーチェストに替えて、強化ポイントは筋力値2、俊敏値4に振っている。

 

 翌朝、クラインやエギルを加えたパーティを組み、いよいよ第二層ボス部屋へ挑む事となった。

 

「いやあ、助かるぜ。人数的に俺のパーティは全員が参加出来ねーし、今回は別の奴を連れて来たぜ」

 

 赤毛にバンダナの男は、サッパリとした口調で言い放つ。

 

「ハァー。俺よー、刀が使いてーんだわ。何か情報はねーか?」

 

 元βテスターとはいえ、第十層のボスすら見てないキリト、そもそもβテスターでさえなかったユートに判る筈もないが……

 

「コボルド王がβ版とは違って、曲刀カテゴリーである湾刀(タルワール)から、刀カテゴリーの野太刀に変わっていたし、それが若しヒントなら曲刀の熟練度を上げていったら、その内に選択が可能になるんじゃないかな? どうやら片手剣を使い続ければ両手剣を使える様になるらしいし」

 

 推測だけどね……ユートはそう締め括った。

 

 アルゴから聞いた情報の中で、両手剣カテゴリーの選択肢が出るのは片手剣を使い続ける事にあるとか。

 

 ならば、似た形状の曲刀を使っていれば刀を選択する事が可能だというのも、ある意味で理に叶う。

 

「そっか、先はなげーか」

 

 と言って行軍に戻る。

 

「前にも思ったけど、こんな感じなのかしら?」

 

「何が?」

 

「うん、他のゲームも移動の時ってこんな感じなの? 何だか遠足っぽい……」

 

「ああ、成程。はは、遠足は良かったな」

 

 少し先を往くキリトは、アスナの呟きに応じた。

 

「これがVRMMOだからだろうな。普通のMMOの場合だと静かなもんだよ。キーボードやマウスを使って動くから。ボイスチャット実装ならその限りでもないけどな」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 アスナは平面の画面上で無言のダッシュを続けて、進軍を行うキャラクターを想像しながら呟く。

 

「本物はどうかな?」

 

「は?」

 

「こんなファンタジー世界が本当に在るとして、こんな風に怪物退治に行くならどんな具合なんだろう?」

 

「さあな」

 

 キリトにも窺い知れないものだろう。

 

「まあ、基本的には無言。後は勇ましく自分を鼓舞する科白で恐怖を誤魔化すって感じたね」

 

「「へ?」」

 

 アスナの質問に答えたのはユートだった。

 

「それってどういう……」

 

「着いたみたいだ。ボスの部屋に」

 

 訊ねるアスナを遮って、ユートが指差す先に重々しい金属製の扉。

 

 ディアベルがコボルド王の時と同じく、皆を鼓舞する役回りを演じた。

 

「さあ……今日も勝とうぜみんな!」

 

 重厚な音を響かせながら扉が開き、レイドパーティは一斉に雪崩れ込む。

 

 ユートのパーティはナト大佐と戦い、若し予測の通りに真のボスが湧出(ポップ)したなら、抑え役をする事になっている。

 

 その為、単にアッペンデックスに過ぎないナト大佐に梃摺る訳にはいかない。

 

 あのナト大佐は昔の貴鬼と同じ扱いなのだから。

 

「ナミング注意!」

 

 キリトが叫んだ。

 

 トーラス族の御得意……【ナミング・インパクト】をナト大佐が放つ。

 

 喰らえば阻害効果(デバフ)を追加で受けるが故、ユートでさえ受ける訳にはいかない攻撃だ。

 

 全員がナト大佐の攻撃を避け、ユートが一番槍──刀だけど──を入れる。

 

 元よりユートの使う剣技(ソードアート)は連続技、一度入れて終わる攻撃などとんでも技な秘奥くらい。

 

 正面から入れたかと思ったら、直ぐに〝攻撃を入れながら〟背後へと回って、完全無防備な上にダメージが弥増す背中を斬る。

 

 どうやらSAOというのは可成り現実に則しているらしく、無防備な所や弱点などに攻撃したらクリティカルが出易い上に、大きなダメージも与えられる仕様みたいだ。

 

 憎悪値(ヘイト)が加速的に増え、クルリとユートの方を向いた瞬間に、キリトが片手剣垂直二連続斬りの【バーチカル・アーク】を放ち、シリカも短剣二連続攻撃【クロス・エッジ】で斬り裂き、アスナが細剣系単一攻撃【リニアー】を放ってやり、クラインが曲刀の基本技【リーパー】を喰らわせた。

 

 再びクルリと向きを変えたナト大佐の攻撃に対し、エギルがパリングして切り払う。

 

 そして自分に攻撃が集中していた時すら、絶え間無く打ち込み続けるユート、そんなユートがその決定的な隙を見逃しはしない。

 

 ナト大佐の左肩から右肩に向けて斬り、右肩から左腰に斬り、其処から首筋に掛けて斬り上げ、首筋から右腰に斬って、最後に右腰から再び首筋まで斬る。

 

 緒方逸真流では珍しく、一人を対象に斬殺する様な攻撃……【斬華】だ。

 

 その勢いの侭でユートは納刀すると、緒方逸真流の抜刀術……【斬月】で斬り付けてやった。

 

 怒濤の連続攻撃、更にはエギルの防御も相俟って、ナト大佐のHPバーは全損しポリゴン片となり、四散してしまう。

 

 所詮はオマケの取り巻きに過ぎず、バラン将軍とは比べ物にならない。

 

 ナト大佐撃破後、ユートがバラン将軍と戦う部隊を見遣ると……

 

「征けぇぇぇ! もう少しだぞっ!」

 

 ディアベルの激が飛ぶ。

 

 最初は見るからにジリ貧だったバラン将軍攻撃隊、然しながらそれでもリーダーのディアベルの的確なる指揮の下に、バラン将軍のHPも随分と減った。

 

 残り一本のHPバーすら黄色になると……

 

 ゴゴゴゴゴッ!

 

「これは!」

 

 三段ステージが作られ、上空が揺らぐ。

 

 嘗てロキがフェンリルを喚んだ時も似た現象が起きたのだが、このエフェクトは巨大なオブジェクト湧出の前兆だった。

 

 王冠を被る髭の牛男で、漆黒の体躯にバラン将軍をも凌駕する巨体、牛頭には角が六本も生えている。

 

 六段ものHPバーの下には【アステリオス・ザ・トーラスキング】とあった。

 

 思った通りの展開。

 

「ディアベル達はバラン将軍を斃せ! アステリオス王は此方で抑える!」

 

「りょ、了解だ!」

 

 ユート達は既にポーションでHP回復を終えたし、直ぐにもアステリオス王へ突っ込んだ。

 

 雷ブレスを駆使する王、あれを喰らえば麻痺というデバフを受ける。

 

 というか何人かが出会い頭に受けてしまった。

 

「くっ、【鼠】はまだか? 壊滅するぞ!」

 

「鼠って、アルゴか?」

 

 ユートの呟きを偶々だが聞いたキリト。

 

 バラン将軍も何とかかんとかディアベルが討って、此方に合流したまでは良かったが、アステリオス王の雷ブレスをディアベルのパーティが受けた。

 

 現状、阻害効果を打ち消すアイテムが無く、麻痺ったらその侭で自然回復するのを待つしかない。

 

 ユートはタゲを取る。

 

 昨夜、ユートはフレンド登録をしてある情報屋……【鼠】のアルゴに連絡を取って呼び出した。

 

 理由はアステリオス王──その時は名前を知らなかった──が実際に顕れるという前提条件を考えた上、彼女に情報を捜して貰えないか頼む為だ。

 

 答えはまだ貰ってない、間に合わなかったという事なのだろうが、致命的なものにならないのを祈るしかあるまい。

 

 ユートが大太刀を揮い、アステリオス王の巨大なる右腕に斬り付ける。

 

『ブモォォォォオオッ!』

 

 痛かったのか、絶叫を上げるアステリオス王だが、その程度では終わらない。

 

 ユートは大太刀を鞘へと納刀し、居合い抜きの要領で抜刀と納刀を繰り返す。

 

 緒方逸真流・抜刀術──【弐真刀】と呼ばれる技、それは高速の抜刀で一回と納刀で二回斬る二連撃。

 

 システムアシストが無い攻撃故に、威力が上がるという訳でもないが、現実で出来る技術ならSAOでも可能だし、茅場晶彦の拘り故か加速度が攻撃力に変換されるのも現実と同じ。

 

 日本刀というのは西洋剣と異なり、重さで叩き斬るのではなく刃を引いた時の速度で斬る武器だ。

 

 正しく運用すれば現実と同じ効果を得られる。

 

 それを何度も何度も何度も何度も繰り返していき、そして遂にはアステリオス王が武器を手放した。

 

 ボスにもファンブル判定があるか判らなかったが、見事に落としてくれる。

 

 恐らく暫く時間が経てば復帰するだろうが、それでも貴重な武器無し状態。

 

 アステリオス王の雷ブレスに気を付けつつ、攻撃を仕掛けてHPバーをどんどん減らしていく。

 

 今の内だとレイドが次々と攻撃を始めた。

 

 ふと、アステリオス王の動きに僅かながら変化が起きたのに気付いたユート、すぐに叫ぶ。

 

「武器を装備するぞ、全員離れろ!」

 

 だが、その忠告を無視する者が……

 

「おりゃぁぁぁっ!」

 

 それはキバオウだった。

 

 チャンスだと思ったのだろう、レイドが離れている内にダメージを与える事によって、より多くのモノを手に入れられる。

 

 だがそれが間違いの元、アステリオス王の右手には再び戦槌が握られており、キバオウへと広範囲行動不能攻撃──【ナミング・デトネーション】を放つ。

 

 此処で身動きが取れなくなれば、キバオウは間違いなく追撃を受けてHPバーを全損して、今まで葬った数多くのMobと同様に、蒼白いポリゴン片となって爆散する事だろう。

 

 壁役もナミングを避けるべく下がった為、庇える者も救いに行ける者もこの場には居ない。

 

 無慈悲に振り降ろされる鉄塊にも等しい戦槌……

 

「ひ、ひぁぁぁああっ!」

 

 キバオウは腕で頭を庇う仕種で目を閉じる。

 

「莫迦が! …………!」

 

 ユートが小さく呟いて、左腰を左手で叩くと一瞬で姿が掻き消え、キバオウとアステリオス王の間に現れると……

 

「緒方逸真流【流転】──【山彦返し】っ!」

 

 戦槌の威力に逆らわず、然れど僅かにインパクトのポイントをずらしてやり、【ナミング・デトネーション】を在らぬ方向へと受け流す。

 

 それと同時に身体を勢いを付けた侭に回転させて、アステリオス王の巨躯へと攻撃をヒットさせた。

 

 少しだけ揺れた隙を突いたユートは、キバオウと共に退避をする。

 

 そんな場合でもないが、皆が唖然としていた。

 

 有り得ない速度。

 

「何をボーッとしているんだ? アステリオス王が立て直す前にダメージを与えていくぞ!」

 

「え、あ……ああ!」

 

 訝し気なユートに言われたディアベルは、レイドの仲間に叱咤激励する。

 

「みんな! このチャンスに王を叩くぞ!」

 

 それに伴い、戦闘の気運が高まったのか……

 

『『『『応!』』』』

 

 今は兎に角、アステリオス王を討つ事に集中をするべく剣を執った。

 

「お、間に合ったかナ?」

 

「っ! 【鼠】か、それで情報の方は?」

 

「おねーさんを誰だと思ってるんダ? どうやら王は王冠に隠された額が弱点の様だヨ。其処に投擲武器をぶつければ百パーの確率でディレイさせられるんダ。それと、雷ブレスを吐く時は目が光るから、それを見ればタイミングも取れるだろうサ」

 

「よし、上手く情報を得られたか!」

 

「まあ、あんたには色々と借りもあるしナ、情報代はまけといてやるヨ」

 

 飽く迄もタダにしないのは情報屋根性か、アルゴは悪戯っ子みたいな笑顔を向けてピースサインを出す。

 

「フッ、後で情報料は確り払うよ。【鼠】に借りを作るのは怖いしね」

 

 ユートはアルゴにサムズアップで応え、ディアベルにアルゴからの情報を伝えに向かう。

 

「良かったのカ? あんたの武器ならアステリオス王をディレイさせられるヨ」

 

「僕なんかが行かなくても彼なら勝てますよ。それに僕にはその資格はありませんから……」

 

「そうカ」

 

 情報屋と協力者はソッとその場を離れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「緒方逸真流・抜刀術──【月輪】!」

 

 元来は囲まれた時に使う全周囲攻撃技だが、それでも基本的には別の技に繋ぐ事が出来る連続技だから、すぐに納刀すると再び抜刀して斬り付けた。

 

「緒方逸真流・抜刀術──【三日月】、【穿月】!」

 

 納刀した状態から抜刀をする際、下から斬り上げる【三日月】を放った瞬間、跳躍したユートは逆に下に斬り降ろしながら納刀し、更に王冠に目掛けて抜刀をすると、鋭い突きを放つ。

 

『グギャァァァァァァァァァァァァァァァアアッ!』

 

 その間にも相手が巨躯故に三パーティが、アステリオスの周囲に展開して攻撃を繰り返し、ダメージが溜まったら下がって後衛とのチェンジを行う。

 

 ユートが派手にタゲり、憎悪値(ヘイト)を上げているからか、他の前線組には目もくれない。

 

 とはいえ、巨大な戦槌を操るアステリオス王の攻撃の余波は、前線組に確実なダメージを与えていた。

 

 一方でシリカも独自に戦いを繰り広げている。

 

 第一層の頃にユートから習った戦い方、他の前線組より【小舞姫(リトル・ダンサー)】と呼ばれるに足る舞う様なソードスキル。

 

 コボルド王が使い現実的となったシステム外スキルである【スキルキャンセル】を操り、ユート程の自由さは無いが次々と短剣系のソードスキルを放つ。

 

 技後硬直を極端に減少させるだけで、ソードスキルの冷却期間(クーリング・タイム)は存在するから、同じ技を続けて使う事など出来ないし、ソードスキル自体がまだ少ない事も手伝って、どうしてもソードスキルが途切れるが、それは通常攻撃を冷却期間(クーリング・タイム)中に混ぜる事で対応している。

 

 アステリオス王のHPバーは、最後の一本が危険域(レッドゾーン)に突入し、最後の攻撃を仕掛けた。

 

 短剣系突進技【ピアース】を放つシリカ。

 

 細剣系突進技【シューティングスター】で攻撃するアスナ。

 

 曲刀系突進技【ブラストリーパー】で、クラインも攻撃する。

 

 トドメと謂わんばかりにユートから譲られたOSS【テンソウレッパ】を放つキリトと、緒方逸真流──【牙突輪倶】による連続突きを放ったユート。

 

 キリトの持つOSS──【テンソウレッパ】とは、高速で袈裟懸け、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、刺突という基本の攻撃を行う五連撃技で、最後の刺突はユートとほぼ同時に攻撃が極り、遂にアステリオス王の巨躯が蒼白いポリゴン片となって爆発四散した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ふぃーっ!」

 

 汗を拭う仕種でユートは額を擦り、手にした大太刀を鞘へと納める。

 

 目の前にはリザルトメニューが顕れており、其処にはLAが表示されていた。

 

「うん?」

 

 【Simultaneous・Knockdown・Bonus】

 

 其処に見慣れない文字が書かれているのに気付き、首を傾げながらキリトの方を見遣ると、同じ思いらしくキリトもユートの方を、呆けた表情で見ている。

 

 

「(同時撃破ボーナス?)」

 

 言葉通りなら、恐らくはアステリオス王をユートとキリトが同時に撃破して、それで表示されているという事だろうが、この先ではきっと見られない貴重過ぎるモノだと理解した。

 

 ボスの同時撃破なんて、可成りシビアなタイミングとなるし、意識してやれる事は無いからだ。

 

 茅場晶彦も設定だけはしたものの、出せるとは思っていなかったろう。

 

 MMO−RPGがリソースの奪い合いである以上、ボスとの戦いも基本的には同様で、特にこのSAOはLAボーナスが在るから、協力して同時に撃破なんて普通は出来ない。

 

 偶然というか運を頼るしかないだろう。

 

「(後でキリトに訊くか。同じ物か別物なのかが気になるしね……)」

 

 そんな事ユートがを考えていると……

 

「コングラッチュレーション!」

 

 褐色肌の巨漢な斧使い、エギルがナチュラルな言語で言ってきた。

 

「お二人さん、大活躍だったじゃないか!」

 

 嫌味の無い笑顔を向けて来るエギルは心底、祝福をしてくれているのが解る。

 

「おめでとうは良いけど、周りの雰囲気は喜んでいる感じじゃないな」

 

 レイド四十八人の中で、一部を除くと殆んどの者が睨む様に視ていた。

 

「ああ、俺にもよくは判らないんだがな……」

 

 だから殊更、明るい声で祝福をしたのだろう。

 

「まさかとは思うけどね、アステリオス王の情報が無かったのが僕の所為だとか言わないよな? 偵察戦をするなり、情報を改めて集める時間を取るなりすれば情報は獲られた筈だぞ?」

 

 ユートの息が少し荒い。

 

「いや、そうじゃない」

 

 渋々といった感じで前に出たのはディアベル。

 

「じゃあ、何だ?」

 

「キバオウさんを助けた時の君の速度、余りにも数値的に有り得ないから、若しかしたら茅場の言っていた特殊なスキルを獲たのか、或いは……」

 

 その後の言葉を口篭る。

 

「特殊なスキル? こんな百層中の第二層でそんなのが出る筈ないだろう?」

 

 まだ一割すらクリアしていないし、フラグロックが掛かっているとか、何らかのイベントをクリアするなどしなければ手に入るとは思えない。

 

「だったらやっぱりチートなんだ!」

 

 誰かが言った。

 

 それが伝播したかの如く『チート』だ、『チーター』だと叫ぶ。

 

「成程、僕が何らかの特別なスキルを持つか、或いは不正な改造をしているか、そう言いたい訳か。下らない話だね。そして莫迦ばっかだな」

 

 ユートの侮蔑の言葉に、騒ぐプレイヤーが鼻白む。

 

「姑息で卑劣な不正プレイヤーが、その能力を詳びらかにしてまで他プレイヤーを救う訳がないだろう?」

 

 全員が息を呑む、その通りだからだ。

 

 そんな姑息なプレイヤーが倫理観や正義感などで、果たして他のプレイヤーを救うだろうか?

 

「せやけどあの速さは説明出来んやないか!」

 

 キバオウが言う。

 

「生きてるんだからどうでも良い話だろうに。チートじゃないし、スキルなんて持ってないぞ〝バカ王〟」

 

『『『何か、ランクダウンした?』』』

 

 キリト達が思わず叫び、当のキバオウは……

 

「誰がバカ王やねんっ! ワイはキバオウや!」

 

 カバ夫から、何気にある意味で王へとランクアップしていたのが気に入らないらしく、エキサイトした。

 

「だったらステータスを見せてみろよ!」

 

 それを言ったのは何の事はない、第一層でユートにいちゃもんを付けた男だ。

 

「特別なスキルもチートも無いなら、ステータスを見せられるだろう!」

 

 呆れた表情となるユートと慌てるディアベル。

 

 この手のゲームに於いて禁忌(タブー)視される事柄があり、それを行うというのはマナー違反。

 

 それがリアルとステータスの詮索。

 

「驚いたね、莫迦だ莫迦だとは思っていたが、堂々とマナー違反をやらかしてくるプレイヤーが居たとは」

 

 スキル構成を見られるというだけで、大きなアドバンテージを取られるという事に他ならない。

 

 アルゴなら自分のステータスを売るかも知れない、だがユートはステータスを曝け出す気は無い。

 

 然し、ユートは口角を吊り上げながら言う。

 

「見せても構わないが……条件がある」

 

「なっ! 良いのか?」

 

 ディアベルが驚愕しながら訊くと、ユートは間違いなく頷いた。

 

「条件、それは見せる代わりに暫く僕はボス戦をしないという事だ。第一層でも面倒ばかり起こされ、この第二層もだ。やってられないからな。ああ、ボス戦までの攻略はしてやるよ」

 

 ボス戦をしない。

 

 大したペナルティではないと誰しも考えたが、それを聞いたディアベルが青褪めてしまう。

 

 ユートはSAOに於けるトッププレイヤー、今回も迂闊な行動の所為だとはいえキバオウが犠牲になりそうだったし、第一層の時は自分が助けられた。

 

 ユートがタゲる事によりタンク並の壁もし、ダメージを受け難くしていた故にポットの減りも少ない。

 

 そんなトッププレイヤーが抜ければ犠牲が出るかも知れないし、ポットだって消耗が激しくなる。

 

 第三層からはギルドも組めるし、安定もしてくるかも知れないが、トッププレイヤーが不在となるのは、正直に言って辛い。

 

 だが然し、ディアベルはこの気運を止められないと思った。

 

 そして結局、条件を呑んでステータスのスキル画面を見せて貰う。

 

 見たのはレイドで代表のディアベルと、今回の発端でもあるキバオウだ。

 

 そして二人は愕然となってしまった。

 

「刀装備、片手武器作成、金属装備修理、体術……」

 

 エクストラスキルである【体術】と、ソードスキルの代わりに得た【刀装備】以外は、何の変哲もない単なる鍛冶スキル。

 

 四つのスキルスロットはレベルが二十を越えていたからだし、念の為に筋力値と俊敏値を見たら……

 

 

 

名前:ユート

レベル:22

スキルスロット:4

HP:4050

筋力値:35

俊敏値:45

 

【装備】

大太刀+8

ハードレザーアーマー

クローク

レザーマント

クロースベルト

レザーグリーブ

 

【装備スキル】

刀装備

片手武器作成

金属装備修理

体術

 

強化P:3

 

 

 

 到って普通のステータスでしかない。

 

 強化ポイントが有るのは先程の戦闘で、レベルアップをしたからだろう。

 

「どうだ? ディアベル。金の卵を産む鶏を絞めて、喪った気分は?」

 

「っ! すまない!」

 

 正にその通りだ。

 

 とはいえ、余りにユートらしくない対応だと思う。

 

「まったくさ、頭が痛くてイラついてんのに、さっさと終わらせたいね」

 

 先程から息が荒いのは、どうやら本調子でないというのが理由らしいが、このゲームはペイン・アブソー

バで保護され、戦闘ダメージは不快感を受けるだけの筈なのだが……

 

「バカ王を助けた時に使った〝システム外スキル〟、あれは使うと頭痛が酷い。終わったならアクティベートはするから、僕は第三層に行かせて貰うぞ」

 

「なっ! システム外スキルだって!?」

 

「そうだ、シリカに教えたシステム外スキル【スキルキャンセル】と同じ、あれはシステムに存在しない、謂わば技術によるスキル。緒方逸真流奥義【颯眞刀】を此方風に呼んで【クロックアップ】。フルダイブ式のMMOだからこそ可能となる武術によるスキルだ」

 

 瞑目をしながら言うと、さっさとアクティベートをするべく、向こう側に続く金属扉を開けて階段を上がって行ってしまった。

 

 システム外スキルとは、システムに規定されていない本人の技術から成る。

 

 キリトが便利な宿を捜すのもまた、システム外スキルだと本人は言っていた。

 

 ゲームのシステムに組まれたスキルでも、況してやチートなどでは決して有り得ない。

 

 すぐにシリカが動き……

 

「ユートさんがボス戦に参加しないなら、私も参加しませんので!」

 

 そう宣言して走り去る。

 

 期せずしてトッププレイヤーを二人、死による強制退去とは全く違う形で喪ってしまった。

 

 そんな重苦しい現実に、全プレイヤーが茫然自失となってしまう。

 

「ディアベル、悪い」

 

「どうしてキリトさんが謝るんだ?」

 

「俺、知っていたんだよ。スキルの内容は聞いてなかったけど、まだ見せてないシステム外スキルが在るって事は教えて貰ってたし、ユートのスキル構成は自分のを見せる代わりに、見せて貰っていたからな」

 

「──っ! どうして黙っていたんだ?」

 

「視線で言っていたんだ。黙ってろって……」

 

「そうか……魔女裁判沙汰の時もそうだったが、彼はこういうのが事の他嫌いみたいだな。キリトさん達はボス戦には?」

 

「心配しなくても、俺は出るよ」

 

「そうか……」

 

「だけど厳しい事になる。前回はディアベル、今回はキバオウ。死にそうなプレイヤーをユートが救った。だけど次からはそういったフォローが無い」

 

 ユートとて常に助けられる訳でもないが、出来得る限りのフォローはしてくれていた。

 

「アイテムも大量消費は免れないな」

 

 溜息を吐きながら、重たい雰囲気で解散となる。

 

 キリトとディアベルの懸念は正鵠を射て、この先の層で第十層までの七層間での攻略に、十数人の死者を出す事となった。

 

 アイテムも大量に使用してしまい、アイテム分配に不満が出始める。

 

 因みに、ユートへと食って掛かったプレイヤーは、第三層で無茶なLA取りに出て、アッサリとポリゴン片となって四散してしまったという。

 

 

 

.




 キリトが手にいれたオリジナルアイテム。

【Ring・ob・Cooling】

 冷却する指環という意味の指環型アクセサリー。

 効果は『ソードスキルの冷却期間の半減』であり、仮にユートへドロップしても何の役にも立たない。



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