ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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第17話:明日奈とアスナ

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 ユートとキリトとシリカの三人は、クエストでもやってみようかとアルゴへと連絡を入れようとした矢先の事、当のアルゴが二人の男に囲まれていた。

 

 何事かと思って訊けば、第二層にはエクストラスキルの【体術】を覚える事が出来るクエストが存在し、情報を言い値で買うと言うのにアルゴは頑なに教えようとしないという。

 

 値段の吊り上げを狙っていると邪推されながらも、アルゴは『恨まれたくないから売らない』と言って憚らない。

 

 結局、ギルド【風魔忍軍】のコタローとイスケという元βテスターの二人は、トレンブリング・オックスに追い掛けられ、行ってしまったのだが……

 

 その後、エクストラスキルの【体術】に興味が沸いたユートとキリトは、是非とも教えて欲しいと頼み、アルゴを説得した。

 

 ユートには色々と情報を交換し合い、ガイドブックを作る手伝いをして貰っているアルゴは、どんな結果になっても決して恨まないという約束を三人として、教える事にしたらしい。

 

 案内された先で、何とも言えない微妙な空気が流れている。

 

 それもその筈、ユート達の顔には消えない髭が書かれており、余り人には会いたくない姿だからだ。

 

 どうやらアルゴの【鼠】髭はこのイベントに失敗してしまい、定着してしまったイメージで今も髭を続けていた様だ。

 

「体術を身に付けるには、師範NPCが言った通りにこの大岩を砕かなきゃならないんダガ、オイラは出来なかったってぇ訳サ」

 

 キリトもシリカも大岩を見て、既にクエストを受けた事を後悔し始めていた。

 

「破壊不能オブジェクトって訳ではなく、かといってHPバーがある訳でもないのなら、こいつは一撃破壊オブジェクトだね」

 

「一撃破壊?」

 

 キリトが試しに一発とばかりに殴る……

 

「おりゃ!」

 

 ガイン!

 

 大岩は壊れなかった。

 

「話は最後まで聞けって! 但しこれ、多分なんだけどVRゲームならではで、ある一点のみしか破壊を受け付けない様だ。意味もなく殴った処で壊れないよ」

 

「じゃあ、どうすんだ?」

 

「その一点を捜し出して、そこを殴ればクリアだよ……っと!」

 

 おもむろに自分が宛がわれた大岩を殴り付けると、バガン! というSEを響かせて大岩が砕け散る。

 

「嘘だろ?」

 

「凄いです!」

 

 キリトもシリカも驚愕を露わにし、ユートと砕けた大岩を交互に見た。

 

 すぐに師範NPCがやって来て、ユートの髭は胴着の懐から薄茶色の手拭いを出して消される。

 

『よくぞ達成したな、我が弟子よ。お前に教える事は最早無い。その【体術】で世界に羽ばたくのだ!』

 

 クエストは達成されたのだろう、師範がそう言うとまた奥に引っ込んだ。

 

 スキル欄を見てみれば、確かに【体術】とある。

 

 今のユートはレベル19であり、スキルスロットは三つしか無い。

 

 レベルを20に上げて、スキルスロットが増えた時にでも入れようと考えていると、早く髭を消したいと願うシリカが闇雲に大岩を殴っていた。

 

「シリカ、焦って闇雲に叩いても駄目だって。一点を捜して殴らないと」

 

「うう……だって、私にはその一点というのが判りませんもん!」

 

 ユートと目を合わせないのは、髭を書かれた顔を見られたくないからだろう。

 

 ユートが教えれば済む話だろうが、流石に其処まで甘やかす心算も無い。

 

「まあ、取り敢えず僕は少し違う所に行ってみるし、頑張ってくれ」

 

「はうぅ……見捨てないで下さ〜い、ユートさ〜ん」

 

 情けないへちゃ顔で涙ぐむシリカに、ユートは手で頭頂部を軽く叩いて撫でてやると……

 

「二日間で達成出来たら、何か御褒美を上げよう」

 

「御褒美ですか?」

 

「ああ、無理じゃない程度の内容でね」

 

「うう、解りました。それじゃあこれを最大まで強化して下さいね」

 

 取り出したのは腰に佩いていた短剣──ルイン・ザ・ダガー──だった。

 

「最大って+10まで? また、ハードな事を」

 

 素材が可成り必要になりそうだが、何とかなる程度のお願いではある。

 

 ふと視線を感じて見るとキリトが、ジーッとユートを見つめていた。

 

「……因みにキリトは?」

 

 そう訊いてやると、まるで尻尾を振る犬の如くで、身を乗り出す。

 

「あのさ、コボルド王から手に入れたLAボーナス。あれ使っていないんなら、欲しいんだ!」

 

「【コート・オブ・ミッドナイト】の事か? まあ、確かに形状が僕の趣味から少し外れていたし、ストレージの肥やしなのもアレだからな……」

 

「マジか?」

 

「二日以内に壊せたらね」

 

 やり方は見せたのだし、出来ないならそちらの方が悪いと云う事になる。

 

 ユートは修業場? から離れると、【はじまりの町】へと向かった。

 

 主街区【ウルバス】へと戻り、転移門の前に立って起動させる。

 

「転移、はじまりの町!」

 

 【はじまりの町】に来た理由、それはデスゲームの初日に見た絶望に膝を付く少女が気になったから。

 

 まあ、見た目には茶髪を短く刈った少女で、ちょっと地味目だったのだが……

 

 もうこの町に居ないのならばそれも良し、前向きに動き始めたという事。

 

 とはいえ、少なくとも上の【ウルバス】には来ていなかったのも事実だ。

 

 一応、隅々まで捜したのだから間違いない。

 

 【はじまりの町】を散策していると、宿屋の隅っこでスモールソードやダガーを並べる少女を見付けた。

 

 それも【ベンダーズ・カーペット】ではなく、普通の藁葺きな茣蓙(ござ)だ。

 

 その茣蓙の上に椅子を置いて座り、鉄床(アンビル)とブロンズハンマーを置いている鍛冶屋の定番といった感じである。

 

 ハッキリと言ってしまうと外に出ず、元々のコルを使って素材は店売りの物を買った、間違いなく失敗をする流れだ。

 

 外に出て素材を集めなければ、素材を店売りに頼るとどうしても頭打ちになり易いし、売れなければ素材の分が丸損となる。

 

 良い素材が欲しければ、どうあっても外に採りに出掛けるしかない。

 

 あんな初期装備で持っている武器、外に出るプレイヤーに売れる筈もないのだから。

 

「売れてる?」

 

「そんな風に見えるの?」

 

 関西風に言うなら『儲かりまっか』みたいな挨拶であったが、やさぐれている少女は険を含む目で睨み付けてきた。

 

 まあ、ユートからしても『ぼちぼちでんな』とか、そんな返しを期待していた訳でもないから良い。

 

「それにしてもさ、見事に初期装備ばかりだね」

 

「放っておいてよ! 冷やかしならお断り!」

 

 少女はプイッとそっぽを向いてしまう。どうやら、拗ねてしまったらしい。

 

「素材は外に出ないとね、店売りじゃ大して手に入らないだろ?」

 

「私のレベルでソロだと、死にに行くようなものよ」

 

「レベルは?」

 

「……3」

 

「低っ! 鍛冶の経験値で上げてるのか?」

 

「うっさいわね!」

 

 どうやら初期装備であれ少しは売れたらしく、それでレベルを二つ上げる程度には経験値を得た様だ。

 

 確かに初期装備は丈夫で長持ちする。

 

 それで最初の頃は予備に買っていたのだろう。

 

「何なら僕と素材捜しにでも行く?」

 

「は? 何でよ? 何を企んでるの?」

 

 信用がまるで無い。

 

 初対面なのだし当然か。

 

「企むも何も、企む程の物なんて持ってないだろ?」

 

「うぐっ!」

 

 財産なんて僅かなコル、茣蓙と鉄床と武器にもなるブロンズハンマー。

 

 後は店に二束三文で売るしかない初期装備群。

 

 唯一の価値あるモノは、少女本人くらいだろう。

 

「嫌なら別に構わないよ。とはいえ、これでも僕ならもっと良い物を造れるし、少しは参考になるんじゃないかな?」

 

「アンタも鍛冶職?」

 

「いや、バリバリの前線組だけど……」

 

「……」

 

 沈黙が痛い。

 

「何で前線組が鍛冶スキルなんて持ってんのよ!」

 

 少女が思わず怒鳴るのも無理はなく、普通は戦闘職がこんな序盤から直接的に戦闘と関係無いスキルなど取らないものなのだから。

 

 ユートの持つ【片手武器作成】のスキルは、その名の通り片手武器を造る為のスキルで、片手剣や片手槌や短剣といった片手で扱う武器全般を造り、また修理や強化も出来るスキルだ。

 

 これを使い続けて、一定以上まで熟練度を上げると【両手武器作成】Modが出ると【鼠】のアルゴから聞いている。

 

「アンタ、前線組だったらレベルは幾つよ?」

 

「先日、19になったな」

 

「レベル19? 六倍以上も上じゃない!」

 

「一般平均レベルは12か其処らだけどね、初めから迷宮区でレベリングしてたから、可成り上がった」

 

 鍛冶スキルを上げるなら只菅、鍛冶をしていかなければならないし、それには素材が沢山必要となる。

 

 少女はリスクを計って、メリットとデメリットを越えるか否かを考えた。

 

「何処で素材を捜すの?」

 

「第二層迷宮区」

 

「はい?」

 

「フィールドよりダンジョンだし、普通のダンジョンよりは迷宮区の方が稼げるからね」

 

 パーティを組めば、敵を斃さずともシェアリングされた経験値が入る。

 

 トドメを刺すよりは少ないが、ユートと組むだけでレベルは上がる筈。

 

 更には素材も手に入り、一石二鳥となるだろう。

 

 とはいえ、迷宮区は言ってみれば最前線となる。

 

 レベル3で、戦闘が素人の少女ではそれこそ死にに行くようなものだった。

 

「まあ、僕も連れが用事を済ますまでの二日間が暇だからさ、君の事が無くても迷宮区に行く気だったし、それに迷宮区の入口捜しが先だからね」

 

 アルゴに聞いているから知っているが……

 

「判った、行くわ」

 

 どうせこの侭ではジリ貧だし、一発大きく稼ぐならそれしかあるまい。

 

「それじゃあ、まずは名乗ろうか。僕はユート」

 

「リズベットよ」

 

 ユートはメニューを操作すると、パーティの申請をリズベットに送る。

 

 それに大してリズベットがYESを押し、パーティが結成さるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「せやぁぁぁぁっ!」

 

 掛け声と共に一閃して、Mobを斬り裂くユート。

 

 レベルが19になって間もない為に上がったりしないものの、裂帛の気合いと共に放たれる斬撃はMobを悉く屠っていく。

 

 その戦闘を見て呆れてしまうリズベット。

 

 迷宮区の位置情報自体は持っていた為、ユートには楽過ぎる場所だった。

 

 キリト達には数日間で、迷宮区探索する旨をメールで伝え、リズベットと共に二日間を掛けて迷宮区に入ると、牛(トーラス)Mobをザックザックと斬り捨てていくのだから。

 

 所謂、ギリシア神話に登場するミノタウロスみたいな半裸Mobで、トーラス族と呼ばれる連中だ。

 

 外の【トレンブリング・オックス】みたいなまんま牛ではなく、人型をしているからには人間と同じ部位が弱点となるのは理屈上、理解も出来る。

 

 だからといって、連続でクリティカルを当てるし、レベルがバカみたいに高いとはいえ、ニ〜三撃で斃してしまうのは有り得ない。

 

 場合によってはたったの一撃で屠る。

 

 しかも……

 

「ソードスキルも使わず、まるで舞い踊るみたい」

 

 噂くらいは聴いていた。

 

 迷宮区の攻略をしていたプレイヤーが見たという、舞う様に戦う黒髪の剣士。

 

 付いた二つ名が【黒き刀舞士(ブラック・ソードダンサー)】とか。

 

 今、目の前でトーラス族を斬殺しているユートが、つまり最前線組の【黒き刀舞士】その人なのだろう。

 

 恐ろしい速度でトーラス族を狩ると、再湧出(リポップ)を待たずに迷宮区内を移動して、既に湧出(ポップ)しているトーラス族を斬っていく。

 

 そして戻ってくる頃に、再湧出(リポップ)しているMobをまた狩るのだ。

 

 階層のマッピングも凄い速度で埋めていき、湧出したトレジャーボックスも、次々に取っていく。

 

 第二層ではまだ罠(トラップ)も擬態(ミミック)も無くて、割と良い稼ぎを獲られていた。

 

 トレジャーボックスも、Mobと同じく湧出式である為、一度取っても幾日か時間を置けば再湧出する。

 

 閑話休題……

 

 トーラスと直接に戦っているユートは、可成り経験値を稼いでいると思うが、殆んど戦闘などしていないリズベットも、実際に斃しているユートの半分程度ではあるが、経験値が入手出来ていてレベル3とショボいものだったのが、レベル6にまで上がっていた。

 

 やっている事は、血腥い斬殺シーンだというのに、こうも美しいとさえ思えるものなのかと、リズベットは惚けながら観ている。

 

 時折、ダメージを受けてリズベットでも斃せる様に調節されたトーラス族が、何度か随時送られて来るからそれで経験値やコルなどを稼げていた。

 

 そんな事をする余裕があるという事だ。

 

 槌持ちの【レッサートーラス・ストライカー】ならまだしも、槍持ちである【レッサートーラス・スピナー】相手にそのリーチ差など無きが如く懐に入って、巨駆の首を叩き落とす。

 

 剣道三倍段というのは、リズベットでも知っている有名な言葉だが、リーチのある者に互角で戦う為には三倍の段位が必要らしい。

 

 ならばMobトーラスとユートの間には、隔絶した段位差があるという事。

 

「道理で、フィールドボスの【ブルバス・バウ】を、一人で狩れた訳よね」

 

 この世界に規定されているボスは二種類、フィールドボスと呼ばれる中ボス級とエリアボスというその層のボスだ。

 

 ネームド・モンスターとも云い、どちらにせよ強力なボスクラスである。

 

 中ボス故にフロアボス程ではないのが殆んどだが、中にはもっと上の層でボスを張れるのも居て、普通はフロアボスと同じくレイドを組んで挑みたい。

 

 これが通常のMMOなら稼ぐ為に一人で挑む無茶、これもアリだろう。

 

 然しだ、デスゲームでは死ねば終わりなのだから、こんな無茶はやれない。

 

 まだ低い層だとはいえ、平然とやれるのだから怖いというか何と言うか……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 迷宮区にキャンプ狩りを始めて二日目。

 

「今夜は先に休んでくれないかな?」

 

「良いけど、何で?」

 

「うん、ちょっとね。集中力を取り戻す為に纏めて休みたいから」

 

「そう、判った」

 

 安全地帯で休む。

 

 昨日はユートが先に仮眠を取り、リズベットが朝まで寝転けたのだし、文句を言う気など無い。

 

 眠りに就いたリズベットを見つめるのはマナー違反だろうし、ユートは今の内にストレージ内のアイテムを整理し始めた。

 

 数時間後、リズベットが起きて次はユートが眠る。

 

 より正確にはログアウトしているのだ。

 

「あ、お早う……というか今晩は?」

 

「お早うで良いよ」

 

 何故か起きたら殆んどの場合、直葉が居るというのも気になる話だ。

 

 居ないのが稀、この娘さんは兄の部屋に入り浸ってどうしているのやら……

 

「菊岡さんは?」

 

「待ってるよ」

 

「了解」

 

 今日は菊岡誠二郎氏が迎えに来る日。

 

 彼は【総務省SAO事件対策委員会本部】の人間であり、ユートに接触をして来た人間だ。

 

 その縁もあり、今回の様な話を彼は持ってきた。

 

 件のポッドをSAOに居る娘の為、どうしても交渉がしたいという結城彰三氏と会う約束をしている。

 

 そんな我侭にも等しい、個人の願いを聞く気になったのは、何と無く第六感が働き掛けてきたのだ。

 

 聞いた方が良いと。

 

 車に乗って連れて行かれたのは、大きなホテル内の高級そうなレストラン。

 

 テーブルに着いていたのは恰幅の良い初老の男性、オールバックのシルバーグレーの髪の毛に、引き締まった顔付きはとても精力に満ちていた。

 

「初めまして、緒方優斗と云います」

 

「これは御丁寧に、私の名前は結城彰三。【レクト・プログレス】を経営しておりますCEOです」

 

 CEO──最高経営責任者の事だ。成程、こんな所に平然と予約を入れられる結構なVIPである。

 

「席にどうぞ」

 

 見た目には高校生くらいの若造──実際には彼より長生き──のユートを相手にして、まるで同格の如く扱う度量は大したものだ。

 

 大概、ユートを見た目や種族で侮って怒らせる莫迦ばっかだった為、少しばかり新鮮な気持ちとなる。

 

「菊岡さんも座ったら?」

 

「は? いや、然し……」

 

 突っ立っている菊岡に、ユートが座る様に促したが躊躇する。

 

「此処で話をするって事は食事をするんだよね?」

 

「勿論」

 

 ユートの質問に結城彰三氏は頷いた。

 

「菊岡さんは仲介者として此処に居る必要があるし、突っ立っていられても困るんだよね。なら御相伴に与っても良いんじゃない?」

 

「は、はぁ……」

 

 チラリと結城彰三氏を見遣ると、彼もまたその言葉に首肯した。

 

「解りました」

 

 取り敢えず、話し合いの前の食事会と相成る。

 

 そして、食後には珈琲を飲みながら本来の話し合いを行う。

 

「さて、娘さんがSAOに囚われているんでしたね」

 

「はい、本当なら息子が買ったナーヴギアとSAOのソフトでしたが、その息子がサービス開始当日に用事が出来ましてな。それで、娘……息子からすれば妹が貸して欲しいと言ったので貸したそうです」

 

 よもや結城彰三氏の息子も娘も、SAOがその日にデスゲームになるとは思わなかったのだろう。

 

 因みに、ユートがSAOをプレイしている最中だという事は、結城彰三氏も聞かされている。

 

「日に日に窶れていく娘を見るのは辛い。息子も貸すべきではなかったと、後悔をしております」

 

「成程。ですが、御存知でしょうけどポッドを欲するのは一万人のプレイヤーの全員……今は約八千人な訳ですが、この全てに供給は不可能です。だから百人に限定して貸し出したのですから」

 

 正確に言うと、百人に+キリトとシリカの二人だ。

 

 ユートも一万基なんて、とんでもない数は保有していないし、どうしても生命の選別が為されてしまう。

 

「まあ、持ち主の僕の匙加減な訳ですが、当然ながら対価は必要でしょう。それは一般では文句を付けられない様なものになります」

 

「はい、そうでしょう」

 

「後々、お願いに上がる事もありますが、貴方が個人的にレンタルする形にして可成りの額を支払って貰う事になりますが?」

 

「判りました。幾ら掛かってもお願いしたい!」

 

 ユートは結城彰三氏に対し満足そうに頷くと、契約書を取り出して渡す。

 

 彼は契約書の内容を読み進めて、確りと読み込んだ上で捺印をした。

 

「明日、娘さんが収容された病院に持っていきます。ああ、そういえば娘さんの名前も顔も知らないけど、若しかしたら会う事もあるだろうし、写真か何か有りますか?」

 

「おお、そうですな」

 

 結城彰三氏は懐から手帳を出すと、家族写真らしきモノを入れた部分を開く。

 

「名前は結城明日奈と云います。年齢は十五歳」

 

「は? アスナ?」

 

「どうかしましたか?」

 

 亜麻色の美しいロングヘアーの少女、それは数日前にコボルド王を斃すべく、一時的にパーティを組んだアスナその人だったのだ。

 

 

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