記憶の中の君の欠片   作:荊棘

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更新遅くて申し訳ないです…
アニメ やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続
も無事に始まりましたし

なるべく早めのペースで更新できればと思います。


きっかけ。

 

 

スーパーがアパートの近くにあることもあり、アパートにはすぐに到着した。到着してしまった…。

ちなみに、アパートへと向かう間に会話という会話はほとんど皆無だった。

一色は俺の後ろにピッタリとくっつきスマートフォンをいじりながら付いてきていた。メールでも打ってんのか?

俺はメールとかいう機能は基本使わないから、よく知らんのだけど。

 

まぁなんにせよ、歩きながらスマホは危ないからやめようね?

それで人に当たったら言い逃れできないほど100%スマホやってた側の責任だからね。

 

俺の場合はもしぶつかられても逆に謝っちゃうな。うん。

いや実体験なんですよこれが。なんでこっちがぶつけられた側の謂わば被害者なのに、そんなに睨まれなきゃいけないんだよ…。

ただでさえ低い防御力が余計に下がっちゃうだろ!

 

 

「ほら着いたぞ」

 

「おぉー、ここが先輩のお家なんですね!本当に私の家からすぐなんですね…」

 

「なんでちょっと嫌そうなの?言っとくけど俺のほうが先にここに住んでんだぞ。だから俺は悪くない。この近辺に最近住み始めたお前が悪い」

 

「いえ別に嫌ってわけじゃないですよー?むしろ先輩は使え…便利なので近くてラッキーですね!」

 

「言い直した意味ないからね、それ」

 

まだ新しく綺麗な扉のノブに手をかけ、それを開ける。

 

「特になんもないとこだけど、まぁテキトーにくつろげよ」

 

一色は「はーい♪」と可愛らしく返事をして、部屋の中をキョロキョロと眺めまわす。

しばらくすると何かを諦めたように大きく深いため息をついた。

 

「…ほんとに何にもないじゃないですか。殺風景すぎますよ」

 

「お前シンプル イズ ベストって名言知らねーのかよ。俺の部屋はそういうの目指してんだよ」

 

「これはシンプルとかいうレベルの話じゃないですよ!」

 

一色に言われて改めて部屋の中を眺める。

…うん。確かにこれはちょっと寂しいかもな。

でもこの寂しさが俺らしいといえば俺らしいな。

 

「それより、この部屋一人暮らしには広すぎません?」

 

「ん、まぁそうな。元々二人で住む予定だったからな」

 

「二人って…?誰かとルームシェアするつもりだったんですか!?ボッチの先輩が!?」

 

「失礼すぎるからね君」

 

「で、誰とルームシェアするつもりだったんですか?」

 

「……別にどうでもいいだろ。それよか飯作るけど何がいい?」

 

この話は終わりとばかりに話を逸らす。

自分でも笑ってしまうほど話題の変え方が絶望的に下手すぎるな。

 

それでもいい。むしろそれがいいまであるな。

相手に自分は話す意志がないと思わせられればいいんだ。

 

これにおいて言えば露骨なほうが相手にとっても分かり易いだろ。

 

「先輩におまかせしますよー」

 

一色も察したのかそれ以上追及してくることはなかった。

 

 

× × ×

 

 

「ほらできたぞ」

 

出来上がった料理をテーブルの上に置く。

するとソファーに横になりながらテレビを見つつ、ケータイをいじっていた一色が起き上がって姿勢を整えた。

 

どうでもいいけど、くつろぎすぎじゃないですかねぇ…

女子が自分の前でだらしなくくつろいでいる場合は、自分に心を許してるんじゃなく異性として認識されてない可能性が高いから気をつけろ!

 

俺に至っては存在自体を認識されてないまである。

 

そろそろ「僕は影だ」と言ってパスに特化した選手になるかもしれない。

 

 

出来上がった料理を見て目を輝かせていた一色は、こちらを向いて訝しんでいるような視線を向けてくる。

 

「先輩料理うまかったんですね。ちょっと意外です」

 

一色は驚きを隠せないのか料理と俺の顔を交互に見つめている。

 

「俺は専業主婦志望だからな。家事ぐらいこなせて当然だろ?」

 

「いや、ちゃんと働いてくださいよ」

 

「とりあえず食おうぜ。腹減って仕方ないわ」

 

「いただきます」というタイミングがかぶって、なんだか背中がむずがゆくなったのは秘密な。

 

 

一色はパスタをフォークで器用に巻いて口へと運ぶ。

一回二回と咀嚼して、数回の後飲み込む。

 

すると、悔し気にこちらを睨んで憎々し気に言った。

 

「悔しいですけど美味しいですね」

 

「そりゃよかった」

 

思えば、誰かと一緒に食事をしたのはいつ以来だろうか。誰かに気を使いながら飯を食うのは嫌いだから長らく一人で食事をしていたが、誰かと一緒にする食事ってのも悪くはないのかもしれない。

 

それに自分の作った料理を褒められ、美味しそうに食べてくれるというのは案外嬉しいものだ。

 

だから、たまには、本当にたまにはこういうのも良いかもしれない。

まぁこんなこと口が裂けても言えないけどな。

 

 

 

「そういえば、もうすぐゴールデンウィークですねー。先輩は何か用事あるんですかー?」

 

食べ終わった食器を洗いながら一色が聞いてくる。

片付けぐらい俺がやるといったが、「さすがに何もしないのは申し訳ないです」というのでお言葉に甘えてやってもらっている。

決して俺が無理やりやらせている訳ではない。決して違うからね!

 

「寝る。休む。眠る」

 

「最初と最後同じ意味ですよ。なんなら全部同じ意味といっても過言じゃないですよ、それ」

 

「休むときは全力で休む。それが俺のジャスティス」

 

はぁぁと大げさに息を吐く一色。

何?魂でも抜けちゃうの?

 

「それじゃあ先輩!一緒に帰省しましょう!ちなみに拒否権はありません」

 

「…いや俺は遠慮しとくわ」

 

正直本当に遠慮したい。

わざわざ時間をかけて帰る必要はないだろう。

それに帰ったとしても、どうせやることは特にないんだ。だったら帰る必要などないじゃないか。

 

いろんな思い出が詰まっている場所だから。

良いことも悪いことも、きっとそこに帰れば自然と思い出してしまう。

 

俺は恐れているのだろう。

思い出の欠片に、記憶の一片に触れるてしまうことを。

 

 

それは失ってしまったものを再確認させられるようで…

 

非情な現実をありありと突きつけられるようで…

 

 

今の俺にそんな覚悟はない。

だからこうして逃げ続けているのだろう。

 

なんて情けないのだろう。

 

なんて惨めなのだろう。

 

なんて哀れなのだろう。

 

 

 

変わらないと豪語していた自分がこんなにも弱い人間に変わってしまって。

 

こんな俺を見たらアイツらは何て言うのだろうか。

 

叱責するだろうか

失望するだろうか

同情するだろうか

 

きっと。

 

きっとそれでも受け入れてくれるのだろう。

 

だからこそ会うわけにはいかない。

 

 

自分が受け入れていない自分を他人に受け入れてもらうだなんて甚だおかしい話である。

 

自分がいくら弱かろうが他人の優しさに甘える気は毛頭ない。

 

だから、いつか乗り越えられたならその時は…

 

 

「大丈夫ですよ先輩」

 

優し気な瞳で、宥めるような声音で、一色は俺に語りかける。

 

「先輩ならちゃんと乗り越えられますよ。なんせ私の尊敬している先輩なんですから。……だから、もう逃げるのはやめましょうよ。ちゃんと向き合いましょうよ。じゃないと可哀想じゃないですか…」

 

なんの根拠もない素直な言葉だった。

でも、だからこそ心に響いた。

 

それに、分かっている。

一色の言う通りなんだ。

 

 

失ってしまったものを嘆く。それは、至極当然のことだ。

 

それすらしないために、失ってしまったことから目をそらし、見なかったことにする。

 

俺がやってきたのはそういうことなのだろう。

 

 

失ってしまったものを嘆くことが正しいとは思わない。

 

けれど、俺のしてきたことはきっとまちがっているのだろう。

 

 

 

ならば、今一度きちんと向き合おう。

 

そして、とんでもなく大きく、この上ないほど大切なものを自分が持ちえていたということを誇ってやろうではないか。

 

 

 

結局のところ、俺は一色の優しさに甘えてしまったのかもしれない。

当の本人はそんなこと全く思ってないのかもしれないけれど、それでも、すこし救われた気がした。きちんと向き合おうと思えるきっかけをくれた。

 

この恩は必ず返そう。いつの日か必ず…。

 

 

「……行ってやらないこともない…けど…」

 

 

「ふふっ…素直じゃないですねぇ。でも先輩だから仕方ないか。ほんとに先輩はどうしようもないですねー」

 

けらけらと笑いながら楽しそうに彼女は言った。

 

 

「……うっせーよ」

 

 

 

 




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誤字脱字があった場合は教えていただけると、ありがたいです。

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