記憶の中の君の欠片   作:荊棘

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なかなか更新できず申し訳ないです。



背中。

 

 

 

 

 

 

 

大学にはサークルというものがある。

もちろんここでいうサークルというのは、ミステリーなものでも、24時間営業しているコンビニでもない。

端的に分かり易くいうと、同じ趣味趣向を持ったもの同士の集まり。同好会みたいなやつだ。

 

よく、サークルとクラブは何が違うのかという疑問を耳にする。

 

サークルは、学生が自主的に運営する団体で、費用は基本的には学生が自分たちでもつことになっている。

 

一方で、クラブは大学側が運営する団体であり、費用などは大学側から支給される。

高校時代の部活と同じようなものという認識でほぼ間違いはない。

 

 

このことから推測するに、サークルに所属する人間は自ら行動を起こせる活動的な人間といえるだろう。

 

よって、嫌々ながらも参加している俺も活動的で有能な人間であるといえる。

 

 

 

………さすがに無理があるな。

 

 

 

 

今日は嫌な日だ。

のっけから申し訳ないのだが、そう言いたくなるくらいに嫌なんだ。

今日はサークルの飲み会があるらしい。

 

 

俺も一応サークルに所属している。

大学に入ってからは、それなりにコミュニケーションをとっている。

同じサークルのメンバーに会ったら挨拶や世間話を多少する程度には仲がいい。

 

しかし、ここで肝心なのは、決して友達ではないということだ。

 

例えば、サークルのメンバーと二人きりになったとする。すると何を話せばいいのか分からず、目線を逸らしながら、小声で暑いなぁーと呟いたりするだけで会話にならない。

 

かといって、三人以上になると俺以外で会話が成立してしまい、俺は相槌をうったり、醜い愛想笑いを浮かべるだけになり会話には入れない。

 

うわっ…私のコミュ力、低すぎ…?

 

だがこれは業務的な関係と割り切って付き合っているから、さほど苦ではない。

しかしそれ故に、誘いはなかなか断りづらい。

ある程度の関係を保っておかねば、今後に影響がでるかもしれないので、そこは致し方なく、了承している。

 

 

それでも俺は、飲み会などに参加したくない。

そんな暇があるなら家に帰って休みたい。

 

だから、飲み会がある日の俺の行動は決まっている。

周囲に気を配り、顔見知りと遭遇しないようにする。話をしてしまうと八割の確率でその話題が出てしまうため、参加する流れになってしまう。それを避けるためにもいつも以上に周囲を警戒する。

 

こうすることにより、直接的に断る必要がなくなり、俺が参加しなくても何ら問題ないことになる。

後は、次の日にでも飲み会の存在を知らなかった体でいけばオーケーだ。

 

我ながらナイスな作戦だな。俺には才能があるやも知れん。これでギアスさえあれば俺にも世界を変えることができる…!!

 

この作戦絶対に成功させてみせる…!!

 

 

× × ×

 

 

結果から言おう

俺は今飲み会に参加している。

いやね、俺も確かにフラグたてた感はあったよ?あったけどさ?

しっかり回収しすぎでしょ…

 

 

あの後、何事もなく講義が終わり、早急に帰宅しようと教室を出たところで見事に同じサークルの女子とエンカウントした。

完全に目を合わせてしまったので無視するわけにもいかず、テキトーに挨拶をする。そしていかにも急いでいますよというオーラを出しながら立ち去ろうとした。

その時だった。

 

「ねぇ、比企谷君も今日の飲み会もちろん行くよね?」

 

 

俺にはあの言葉が悪魔の囁きに聞こえたよ…

聞き方に悪意があるようにしか思えない。もちろん行くよね?なんて聞き方されたら断れないでしょ普通。いや俺の場合は他の言い方でも断れないんだけどさ…

 

心の中で愚痴をこぼしながらビールの入ったジョッキを傾ける。憂さ晴らしも兼ね一気に飲み干す。独特な苦みが口の中に残る。

この苦み嫌いじゃないんだよな。ほら、苦いとことか俺の人生に似てて共感もてるし。

まぁでも俺の人生はビールのように愛されてないし、旨みもなくただ苦いだけなんだが。なにそれ悲しい。

 

空いたジョッキをテーブルの端におき、新たなビールを追加注文する。

すると、俺の隣の空いたスペースに女が座ってきた。

 

「最初から飛ばしすぎじゃない?」

 

「あ?いいんだよ別に。普段飲まないからこういう時に飲んどくんだよ」

 

「普段飲まないなら余計抑えたほうがいいでしょーが」

 

彼女とは別に特段親しいというわけではない。そもそも親しい人はいないのだけれど。

ただ俺は基本誰とでこんな感じだ。

 

その後も何人かと作業的に話をしながら酒を飲んだり、つまみを食ったりして時間をつぶした。

 

「…ん?比企谷君ケータイ鳴ってるよー?」

 

「おうサンキュ」

 

周りの騒がしさで気づかなかなかったが、確かに俺の携帯が音を鳴らしていた。

ちょっとすまんと断りを入れ席を立ち、店の外に出た。

 

「もしもし?」

 

「あぁ…先輩れすかー?ご無沙汰れすねぇー」

 

「…で、何の用だ一色」

 

「冷たいれすねえー。…ヒック。先輩今暇れすかぁ?暇れすよねぇ?一緒に飲みましょーよー」

 

「断る。大体お前すでに酔っぱらってるじゃんかよ…」

 

「失礼れすねぇ…酔っぱらってないれす……よぅ……」

 

酔っぱらってないという人は確実に酔っぱらっている。

ちなみに、酔っぱらっちゃったと言ってボディータッチしてくる女は酔っぱらてない。

これは常識だから覚えといたほうがいい。

 

ていうか、最後のほう寝息聞こえてきたけど大丈夫なの?酔っぱらって店で爆睡するとか迷惑過ぎる…。俺もお酒は控よう。

 

「…も、もしもし」

 

電話はまだつながっているようで、そこから聞いたことのない声が聞こえた。

 

「あの、私いろはちゃんの友達なんですけど、いろはちゃん完全に酔っぱらっちゃって…。すみませんが迎えに来てもらってもいいですか?」

 

「え、いや、なんで俺が…」

 

「それが、先輩が迎えに来るまで帰らないって駄々こねてまして…」

 

「…わかったよ。どこにいけばいい?」

 

「大学の近くの居酒屋です。お願いしますね」

 

電話が切れると大きなため息をつき、頭をガシガシ掻いた。

めんどくさいが、行くと言ってしまった以上行かねばなるまい。店に戻り荷物を抱え、用事ができたと告げ、再び店を出た。

 

 

 

幸いここから指定された場所は近い。これで遠かったら絶対行かなかったわ。

まぁでも帰る口実になったし、悪いことばかりでもないか…

 

少し冷たい夜風に吹かれながら歩くこと数分。目的地に到着した。

店に入ると一色の姿をすぐに見つけることができた。

一目散に近づき声をかける。

 

「おい、酔っぱらい。荷物まとめろ。帰るぞ」

 

するとだらんと体の力が抜け、顔を赤く染めた一色が振り向く。

 

「あれー?先輩じゃないれすかー?なんれここにー?」

 

「お前が呼んだんだろーが。ほら帰るぞ」

 

一色に立つように促す。

何度か立とうと試みる一色だったが酔っぱらって力が入らないようで、ペタンと座り込んで上目づかいでこちらを見る。

 

「せんぱーい、抱っこしてくらさーい」

 

「いや、無理だから」

 

「ぶー。じゃあおんぶでいいれすよぅ」

 

自分で立てないのか立つ気が無いのか、どちらにしても動く気配がないので仕方なく一色を背中に担いだ。

 

すると、一色の友達らしき人に声をかけられた。

 

「…あの、いろはちゃんをお願いしますね」

 

「ん。了解。それじゃ」

 

それだけ言ってでっかい荷物を担ぎ直し店を後にした。

 

 

 

 

×  ×  ×

 

 

 

「先輩って意外と背中大きいんですね」

 

「そうか?意外とは余計だけどな」

 

現在、一色を送っている最中である。

 

背中の荷物は偉そうな態度で、そこ右ですなどと指示を出してくる。

こいつ本当は酔っぱらってないんじゃないの?

 

 

しばらく歩くと見慣れた風景が広がっていることに気が付いた。

 

「ここうちの近くじゃねーかよ…」

 

「そうなんですか?奇遇ですね。ちなみにうちはもう少し先です。でもここでいいですよ」

 

そういうと跳ねるようにして俺の背中から降りる。

 

「ここまできたから家まで送る」

 

「いえ、結構です。もう十分先輩の背中堪能しましたから」

 

なに言ってるのこの子。頭おかしいんじゃないの?怖いよ。

 

「あっそ。じゃあ気を付けて帰れよ」

 

「はい。今日はありがとうございました。今度は二人で飲みに行きましょうねー」

 

 

手を振りながらはにかむその姿は夜の暗闇の中でも眩しく輝いて見えた。

 

 

 




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