短編です。
途中まで書いてあったものを書き上げたものになります。
だいぶ時間が空いてしまってるので、おかしなところも多々あると思いますが、次回作へのリハビリだと思って温かい目で見ていただけたら幸いです。
10月も終わりに近づくと、いよいよ冬の訪れを感じるようになる。特に日が沈んでからは、凍えるような冷気が身体を震わす。この時期は日によって気温差が激しいから困る。肩を抱くようにして凍えた身体をいたわりながら家への道を歩く。
この寒さから鑑みるにそろそろ人間をダメにする至高の兵器であるこたつの導入も視野にいれねばなるまい。寒さに耐えて帰った後に入るこたつほど気持ちいものを俺は知らない。ホントこたつは神。こたつを全世界に支給すれば戦争とか紛争とかなくなるんじゃないの?寒い時期だけ。
愛しのこたつについて考えながらの帰宅は心なしか俺の体温を若干上げてくれた気がした。
アパートに到着するやいなや違和感に襲われた。ポストにたまっていたはずの郵便物が綺麗さっぱり片付けられていた。
……まぁあまりの汚さに大家さんが処分したってこともありえるよな、うん。
部屋の前に来ると違和感はさらに大きくなる。明らかに部屋の中から物音が聞こえてくる。
……まぁあまりの汚さに大家さんが俺の部屋を掃除している可能性もありえるよな、うん。
……いや、ねぇな。最近の空き巣は掃除もしてくれる便利屋なのかな?
意を決して今朝家を出るときに鍵をかけたはずの扉をそのまま開く。すると、大きな布が蠢いているのが目に入った。おいおい斬新すぎるだろその格好は。最近の空き巣事情には詳しくないけど、空き巣も色々大変なんだろうか…。
実際のところ俺の部屋に無断で入れるようなやつは一人しかいないわけで。俺は蠢いている布に向かって声をかけた。
「何やってんだ一色」
「あ、せんぱい!お帰りなさい」
事もなげに抱えていた大きな布を床において、あっけらかんとした顔でそういった。
勘違いしないでいただきたいのは、俺は別に一色と一緒に暮らしているわけではないし、なんなら家にあげたことも数えるほどしかない。それなのにこいつはなぜこんないつも通りなのだろうか。
「おい、おまえどうやって部屋の中に入った?」
「せんぱいが私に合鍵くれたんじゃないですか。忘れちゃったんですか?」
「いや、あげてねーし。俺の合鍵は小町が持っているはずなんだが」
「……まあまあ細かいことはいいじゃないですかー」
はははと笑いながら一色は俺の肩を数度叩く。細かいことは気にするなと。
ただこれよく考えなくてもアウトな行為なんだよなぁ……
「よくないでしょ…。普通に怖いから。あと怖い」
「私とせんぱいの仲じゃないですかー。それにこんなに可愛い後輩がお出迎えしてくれることなんて人生でそうそうないんですからね?特にせんぱいは」
「わざわざ俺の事貶す必要あった?いやまぁ事実だから何も言えねぇけど……」
こんな感じで一色とは未だに仲良く?やっている。未だにというかおそらくこれからも末永くになるのだろうけれど。
なにせこの女、俺のこと好きすぎる疑惑が俺の中で浮上しているのだ。というのも、基本的に休みの日は遊びに誘われるし、大学でも姿を見つけられた日には向こうの友達をほっぽって俺に付きっ切りになる。おかげで見つからないように生活するのが大変まである。
ことあるごとに一緒にいるもんだから周りには付き合っているという誤解を生む結果となっている。男避けになるので助かるというのは本人の弁である。
なるべく目立ちたくない俺からすればいい迷惑ではあるのだが、以前世話をかけた手前もあり強く言えないのが本当のところだ。……まぁ俺自身一緒にいるのがそんなに嫌でもないっていうのもあるが……。
「で、人の家で勝手に何やってんの?」
無造作に床に置かれた大きな布と一色の顔を交互に見比べながら問う。
「最近寒くなってきましたし、そろそろこたつが恋しいなぁと思いまして」
「わかる。超わかる。それな。ほんとそれな。それしかないまである」
「そこまで同意されると気持ち悪いですが、こたつの前では些末なことですね」
この後輩あまりにも失礼すぎると思うのは俺だけですか。しかし今回は偉大な人類壊滅兵器であるこたつ様の準備を行ったということで、不法侵入の件は不問に処すとしよう。
× × ×
「せんぱーい、ミカンとってくださーい」
「…ほらよ」
「せんぱーい、ミカン剥いてくださーい」
「それぐらい自分で…」
「せんぱーい、足邪魔です」
「俺のこたつなんだよなぁ……」
無事にこたつのセッティングを完成し、二人で向かいあって座り暖をとる。
こたつという存在は実家のような安心感を与えてくれる。こたつは俺の実家だった可能性が微レ存。
それにしても無防備にくつろぎ過ぎだと思いますけどね、この子。
ごろんと猫のように横になっていた一色だったが、急にこたつの中に潜ったかと思うと、俺の隣からひょっこり顔を出してきた。
近い近い近い。顔とか身体とかもろもろ近い。
「せんぱい、ハロウィンは予定ありますか?」
「いや近いし狭いから。なんでこっちきたの?あと予定はないけど」
「では、クリスマスは予定ありますか?」
なぜかさらに近づき密着しようとしてくる一色。これでは変に動くといけないところにあたってしまいそうで身動きが取れない。
「な、ないけど……」
顔だけは何とか逸らしながら、一色との距離を少しでも離そうと懸命に努力する。
「ではでは、年末年始は如何です?」
健闘むなしく一色がさらに身体を寄せて近づいてくる。
「実家に帰るぐらいだけど」
そうですか、とつぶやくと一色は一瞬逡巡した後、俺の服の胸元をちょこんと摘み上目遣いで見つめてきた。
「その予定全部わたしがせんぱいを独り占めしてもいいですか?」
「わかったから、離れろ、近い近い」
猫なで声+うるんだ瞳+上気して赤くなった頬+お願い=断れない
毎度おなじみになってきた方程式が完成した。
女性のお願いは断れずに押し切られてしまう、どうも俺です。
別にこんな重装備なお願いをしなくてもどのみち暇してるから一緒にいてもいいんだけど、とは思っている。思っているだけで特に口にはしないけれど。
一色はもう一度こたつの中に潜り、元の場所に戻りいたずらな笑顔を浮かべた。
「残念でしたねせんぱい。一人で静かに過ごすことができなくて」
「……別にそうでもねぇよ」
「なんですかそれ口説いてるんですか?わたしは全然ウェルカムなのでもっと口説いてもらってもいいですか?お願いします」
「……フらないのかよ。むしろお願いしちゃってるし」
「ええ。だってわたしせんぱいのこと好きですし」
「さいですか」
全身に熱を帯びるような熱さ感じながら、こたつの中に顔を隠した。
拙い文章を読んでいただきありがとうございました。
色々と書いていって感覚を取り戻せたらと思っておりますので、よろしくお願いします。