清洲織田家の野望   作:ムッソリーニ

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少し遅くなってしまいました。すいません。今日、2月20日は第二次世界大戦のバリ島沖海戦で日本海軍が連合軍艦隊に勝利した日のようですね。ミッドウェーまでは強かったのになぁ、残念です(笑)


第5話 政秀の思い

「殿、堺に向かわせていた坂井大膳殿がお戻りになられました」

 

信奈の宣戦布告を受けた俺は領内の防衛に力を入れようと考えた。そして、清洲織田家の鉄砲の保有量が少ないことを知った俺は、大膳を堺に向かわせ、鉄砲を買い集めてくるように命じていたのだ。

 

「殿、ご命令通り、鉄砲を買い集めて参りました。鉄砲の数は200挺でございます」

 

俺は戻ってきた大膳を広間に通し、結果報告を受けていた。この年代の鉄砲は、まだ国内で大量生産されていないため、希少品であり、かなりの高額でもあった。

 

では、どうやって200挺もの鉄砲を買うことができる資金を信友は用意したのか?

 

それは信友のとっておきの金儲けの方法によるものだった。

 

まず、信友が忍びたちを使い、尾張と隣国の町の相場を調べさせた。そして、相場が安い町で大量に物産品を買い込み、相場が高い町でそれを売り払うということを手の空いている足軽たちに繰り返しするように命じた。

 

さらに、信友が行った楽市楽座の経済効果もあり、瞬く間に清州城の金蔵は大量の千両箱に支配された。

 

この方法は信友が現代でプレイした、とある戦国ゲームで学んだものである。

 

「大膳、見事であった。ところで、堺の商人の誰から買い集めてきたのだ?」

 

「天王寺屋の津田宗及殿でございます。納屋の今井宗及殿は信奈贔屓とお聞きしましたので、津田殿にお頼みしたのです」

 

堺の町は36人の会合衆によって自治されている自由都市である。その会合衆の中で、一番力を持っているのが今井宗及と津田宗及なのだ。この二人は会合衆代表の座を巡って争っているのだ。

 

今井宗及は、織田信秀と誼を通じていたこともあって、信奈贔屓であった。そんな今井宗及が信奈に敵対する清洲織田家に鉄砲を売ってくれるわけがないと思い、大膳は津田宗及に頼んだのだろう。

 

津田宗及は大膳が今井宗及の贔屓している信奈の敵である俺の家臣だと知ると、喜んで鉄砲を売ってくれたらしい。余程、今井宗及が嫌いなのだろう。

 

何はともあれ、鉄砲が無事に補給できたことに安堵した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殿、平手殿に妙な動きがございます。何やら遺書らしきものを悩みながら書いております」

 

大膳が報告を終えて退室した直後、忍が広間に入って、政秀の状況報告をした。俺は史実のように政秀が信長の奇行を諫めるために切腹することを避けようと、忍たちに政秀を監視するように命じていたのだ。

 

「それはまずいな。すぐに政秀殿の屋敷に向かおう」

 

俺はすぐに外に出て、馬番から馬をもらうと、単騎で政秀の屋敷に駆けつけた。門は開いていたので、屋敷に入ると、屋敷内は静かで誰もいないような感じだった。

 

すると、少し奥の方の部屋で物音が聞こえたので、俺はその部屋に向かった。

 

そして、部屋の戸をそっと開けると、白装束の政秀が刀を腹に突きつけようとしていたところであった。俺は慌てて政秀の手を押さえ、刀を取り上げようとした。

 

「信友殿、何故我が屋敷に!?」

 

政秀は俺が屋敷にいることに驚いているようだった。

 

「そんなことより、政秀殿、刀をお離しくだされ!」

 

「信友殿、止めないでくだされ、こうするしかないのです!」

 

刀を取り上げようとする俺に対し、政秀もなかなか刀を離さずに抵抗していた。

 

「少しは信奈の気持ちも考えてくだされ!」

 

俺は大声で政秀に怒鳴った。すると、政秀が驚いて刀を離してしまったので、俺は刀を取り上げて話を続けた。

 

「信奈は自分を跡継ぎと認めてくれた父を亡くしたばかりで、悲しみがまだ癒えてない。さらに今、幼い頃から世話をしてくれたあなたまでも死ねば、信奈はどんなに悲しむか、お分かりでしょう?」

 

政秀も自分が死ねば、信奈が悲しむことはわかっていた。そして、信奈がわざとうつけのふりをしていることも知っていたが、誰かが諫めなければ家中に忠義の臣なしと他国から笑い者にされるのは明らかだった。だから、自分が死ぬことで勝幡織田家の名誉を守ろうとしたのだ。

 

俺は政秀が切腹しようとした理由を聞くと、ある提案をした。

 

「政秀殿、でしたらここで一度、死ぬことにしたらどうですか?」

 

政秀は俺の言ったことがよく理解できず、困惑した表情になった。

 

「つまり、政秀殿は入水して死んだということにするのです。海で入水なら遺体がなかなか見つからないことは当たり前です。それなら、勝幡織田家の名誉も守れるでしょう」

 

現代なら警察などが懸命に遺体を探すが、この時代は船も立派なものではなく、まして他国の海に行けば攻撃される。さらに、遺体を探している間にも、他国が攻めてくる可能性があるので、あまり力を入れることができない。だから、遺体発見は困難なのである。

 

俺が説明すると、政秀はなるほどと頷き、理解してくれた。

 

「そして、政秀殿自身は顔を隠して俺に仕えてみませんか? 敵側から信奈の様子を見るのも悪くはないですし、いつの日か信奈とまた話し合えるかもしれませんよ」

 

「わかりました、これより私は頭巾を被り、名も織田信友様の田と友をいただき、平田政友と改め、お仕えさせていただきます」

 

そう言うと、政秀は俺に深々と頭を下げた。どうやら、切腹は避けられたらしい。俺はそのことに非常に安堵した。

 

「では政友、夜中にこっそり清州城に来るのだ。自分の家臣たちにも見つからないようにな。遺書は自室に置いておくように」

 

俺は政友の屋敷を出て、清州城に戻った。三位には「単騎でお出掛けとは危険です!」とかなり怒られてしまった。

 

そして、夜中に俺は自室から出て、城門付近に行き、政友が来るのを待った。門番たちは俺がこんな時間に来ることに驚いていたが、新たな家臣を迎えるためだと教えると納得した。

 

「いつもこんな遅くまでご苦労だな。ありがとう」

 

「いえいえ、これが我らの役割ですので、当然でございます」

 

俺は政友が来るまで門番たちと話をしていた。門番たちは俺と話すことに緊張していたが、話が進むにつれて、緊張もだんだん和らいできたようであった。

 

「殿は何故我らのような下々の者にも優しいのですか?」

 

門番の一人が不思議そうに聞いてくる。

 

「俺にとって家来とは家老でも足軽でも大切な存在だからな、優しくするのは当たり前だ」

 

俺がきっぱりと答えると、門番たちは少し涙を浮かべた。

 

「「「「殿、我ら地獄の果てまでお供致します!」」」」

 

門番たちは一斉に頭を下げて、俺に忠誠を誓ってくれた。

 

そうこうしている間に、門外から馬の足音が聞こえてきたので、俺がそちらを振り向くと、馬に乗っていた平田政友が、馬から降りて、俺に頭を下げた。俺が政友の側まで行くと、政友は小声で話しかけてきた。

 

「わざわざお出迎えいただき、ありがとうございます。家臣たちに見つからずに来ることができました」

 

「待っていたぞ。お前の屋敷はまだ完成していないから、しばらくはこの清州城の部屋で暮らすがよい。早速部屋に案内しよう」

 

俺は門番たちに別れを告げると、政友と共に城内に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日より信友様の家臣となりました、平田政友でございます。私は病を患っておりますので、皆様に移さぬようにこうして頭巾を被っております。よろしくお願いいたします」

 

翌日、俺は家臣たちを広間に集めて、政友を紹介をした。頭巾を被っていることに疑問を感じた者もいたが、政友の説明で納得したようであった。

 

「申し上げます、只今、信奈殿の守役の平手政秀殿がお亡くなりになったという知らせが入りました。信奈殿の奇行をお諫めするために入水したそうでございます。ご遺体は波に流され、見つからなかったようでございます」

 

政友の紹介が終わると、小姓がやって来て、政秀の死を伝えた。俺と政友以外の広間にいた者たちは騒然となった。

 

「うつけ姫の様子はどうであった?」

 

三位は小姓に信奈の様子を聞いた。

 

「信奈殿は政秀殿の死を悲しんでいる様子でした。政秀殿の遺書を読みながら、「何故、爺はわかってくれなかったの……」と言って、泣いておられたようです」

 

俺はそれを聞き、小姓を下がらせた。政友の様子を見ると、少し体が震えていたようだった。おそらく、信奈の様子を聞いて、泣くのを我慢しているのだろう。

 

「政秀殿は忠臣でございましたな。命と引き換えに、勝幡織田家の名誉を守るとは、武士の鏡でございます。切腹しなかったことに関しては疑問ですが」

 

三位が政秀のことを褒め称えた。

 

「しかし、これで家中の信勝派の勢いが増すことになりましょう。母親の土田御前殿も信奈を嫌っておりますし、織田信安も信勝を支援しているそうでございます」

 

秀隆は冷静に判断した。信奈の長年の味方だった政秀が死んだことで、政秀ほどの人物がとうとう信奈に愛想を尽かしたと言って、信勝派の勢いが増しつつあるのは事実だった。さらに、母親の土田御前や岩倉織田家の織田信安も信勝を支援しているそうである。

 

信勝自身は家臣などに支援されるので、仕方なく家督を奪おうとしているように見える。

 

「殿、我らもどちらかを支援するのですか?」

 

大膳が俺に聞いてくると、家臣たちも一斉に俺の方を向いた。

 

「今は中立だが、いつかはどちらかを支援することになるだろう。支援するとしたら、信勝の方が可能性が高いがな」

 

俺は史実通り、信勝を支援するつもりでいた。万が一、信奈が負ければ、自分たちが尾張を統一する可能性も高まるからだ。信勝には大名としての器がないことは、忍からの知らせで明らかだった。

 

容姿は整っている美少年で、礼儀正しく、常識もあるが、母親に甘えっきりで、いつもういろうを食べながら、女の子の親衛隊と遊んでいるようなので、とても大名になる器ではないだろう。

 

そんな奴が大名になれば、滅ぼすのも簡単だろうと俺は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

評定が終わると、俺は政友を自室に呼び出した。

 

「すまないな、信奈とはやはり全面的に戦うはめになりそうだ」

 

「気にしないでください。私はもはや信友様の家臣、ご命令に従うだけでございます」

 

政友はそう言っているが、顔は少し悲しそうな表情をしていた。

 

「しかし、家臣たちに気づかれなくてよかったな。信奈も、お前が死んだと思い込んでいるし、策がうまくいって何よりだ」

 

俺の家臣たちの中には、政秀と会ったことのある人物もいたので、声などで見破られないか心配していたが、先程の評定では誰も気づいた様子はなかったので、大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(姫様、申し訳ありません。どうやら、姫様にいずれ刃を向けることになりそうです)

 

政友は兵たちが信奈を倒すために激しい訓練をしている様子を見ながら思った。

 

(守役の私が敵になるとは、信秀様はどうお思いだろうか?)

 

自分が信奈の守役に任命された時を思い出していた。

 

(姫様、これから姫様がどのように成長なさるのか、敵ではありますが、見守らせていただきます。もちろん、敵として戦うことでお手並みも拝見させていただきます、本当は戦いたくはないですが……)

 

政友は誰も見ていないことを確認し、少し涙を流した。

 

 

 

 




次回予告

「殿、斎藤道三が信奈とお会いになるそうです」

「そうか、様子を見に行ってみるか」

(正徳寺の会見が生で見れるのか、嬉しすぎるな)

第6話 正徳寺の会見

(政秀の名前を変えてしまいました、すいません。ああしなければ、他国に見つかると思ったので、不快に思った方がいればすいませんでした)

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