清洲織田家の野望   作:ムッソリーニ

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今日はバレンタインデーですね、独り者には寂しい日です……。


第4話 うつけの姫

「殿、相変わらず城下は賑やかですね。これも殿が行っておられる楽市楽座の成果ですね」

 

「そうだな、秀隆、領民たちが喜んでくれて、俺も嬉しい限りだ」

 

父上が死に、俺が清洲織田家当主となって、約2年が経った。最初は大変だった当主としての生活だが、今ではすっかり慣れてしまった。

 

俺は当主になった後、さまざまな政策に取り組んだ。まず、主に商工業者や芸能者による同業者組合の座を解散させ、関所も廃止することで領内の経済を活性化させる楽市楽座を行った。

 

その結果、父上の時より領内に人が集まるようになり、城下も繁栄するようになった。

 

さらに軍には兵農分離を進め、戦い専門の兵たちを清洲織田家で雇うことで、従来通り、農民が戦のときに兵として参加するということをなくそうとした。

 

これもまあ成功はしたのだが、たまに農民の中で「信友様はわしらが守るんじゃ!」と言って、義民兵として戦に参加するものもいるので大成功とは言えないだろう。

俺としては領民から慕われているのは嬉しいことであるが。

 

こうして、俺は当主としての務めを何とか果たしていた。

 

そして、今は秀隆と数名の護衛の兵を連れて、領内視察をしているのだ。

 

「ところで殿、この間、殿が家臣に迎え入れた者たちですが、どの者もなかなかの才能を持っています。さすが、殿、人を見る目がございます、感服致しました」

 

俺は当主になってから、家臣団の強化にも重点を置いており、俺が忍たちに命じて、尾張国内に優秀な人材がいないか調べさせていた。

 

そして、少し前に忍たちの情報を元にして、俺が気になった者たちに書状を出し、清洲織田家に仕えるように頼み、見事、書状を出した全ての人から了承の返事をいただき、家臣に迎え入れることに成功した。

 

その新しく迎え入れた家臣たちの中には史実で活躍している武将たちもいた。俺はすぐにその者たちを上の身分に抜擢しようとしたが、いきなり実績もない新参者たちを上の身分にすると、古くからの家臣たちの反発を受けるかもしれないと思い、下の身分で実績を積ませることにした。

 

そして、秀隆にその者たちの実力がどれほどのものか調べさせた。評価の厳しい秀隆が、なかなかの評価をしているということは実力は問題ないだろう。

 

「殿、そろそろ清洲城に戻りましょう」

 

「そうだな、そろそろ戻るか」

 

俺は領内視察を終え、城に戻り、自室で刀の手入れをしていた。この刀は俺が父上からいただいた最後の品であるので、一番大切にしているのだ。

 

「殿、申し上げたいことがございます。よろしゅうございますか?」

 

「その声は三位か、入るがよい」

 

俺が刀の手入れをしていると、部屋の外から三位が話しかけてきたので、俺は三位を部屋に入れた。

 

「申し上げたいこととは前に病にかかったとお伝えした織田信秀のことでございます」

 

実は少し前に織田信秀が病にかかったと三位から聞いていたのだ。俺自身も俺が当主になってからも、信秀とは何度も戦をしてきたが、最近、信秀が攻めてこないからおかしいとは思っていたのだ。

 

信秀との戦は俺が勝ってばかりだったのだが、最近、信秀の家臣で柴田勝家という猛将の姫武将や丹羽長秀という知将の姫武将などが元服したために、我が軍もかなり苦しめられていたのだ。

 

なので、信秀の病はこちらにとって大助かりだったのだ。

 

「殿、織田信秀が亡くなりました。葬儀は明日行われるそうでございます」

 

俺はやはりなと思った。時期的に考えてそろそろ信秀が死ぬことではないかと思っていたからだ。

 

「そして、跡継ぎはあのうつけ姫のようでございます」

 

「そうか、信奈が家督を継ぐのか。これは一波乱ありそうだな」

 

(やはり、歴史通りに進んでいるな)

 

信秀は死ぬ前から信奈を跡継ぎと決めていたが、家臣の中には信奈の普段の行動から彼女をうつけだと思っているものも多く、信奈の弟の信勝を跡継ぎにしようと企んでいた。信奈の母である土田御前までもが信勝を支持していたが、信秀は跡継ぎを信奈と決めたまま死んだので、跡継ぎは今のところ信奈のようだ。

 

しかし、信勝派がこのまま大人しくするはずがないと俺は思っていた。史実でも信勝は信長に謀反を起こして、殺されている。おそらくいつかは謀反を起こすだろうと思っていた。

 

そして、我ら清洲織田家も関わることになるであろう。史実では信友は信勝を支持していた。おかげで信友は信長に味方した織田信光に騙し討ちにされ、殺されるはめになるが。

 

「ところで、殿、信秀の葬儀には出席なさりますか?招待するという書状も届いておりますが」

 

「出席しよう。信奈の顔も見たいしな」

 

翌日、俺は三位、秀隆、左馬丞と護衛の兵たちを連れて、信秀の葬儀が行われる萬松寺に向かった。

 

「信友様、わざわざお越しいただき、感謝致します。どうぞ、こちらにいらっしゃってください」

 

俺たちが寺に着くと、信秀の家臣の平手政秀が出迎えてくれた。俺は護衛の兵たちを門前で待機させると、三位、秀隆、左馬丞と共に寺に入った。

 

すでにほとんど葬儀の席は埋まっており、空席は数ヵ所だけだった。俺たちは政秀に案内され、4人横一列で座れる場所に座った。

 

「ところで政秀殿、信奈殿は何処なのだ?」

 

「姫様はまもなく来られる予定です。お待ちくだされ」

 

おそらく、信奈がまだ来ないことに焦っているのだろう。政秀の顔がかなり困惑した表情になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平手殿、信奈様はまだ参られないのか?」

 

「林殿、もうしばらくお待ちくだされ、まもなく来るはずでございます」

 

焼香の時間になっても、信奈の姿はなかった。葬儀に出席している信秀の家臣たちは呆れ果てた顔をしていた。

 

「もう待てん、信勝様から焼香を上げていただこう。信勝様、ご焼香を」

 

林通勝が痺れを切らして、信勝から先に焼香をさせようとすると、葬儀場に信奈がやって来た。

 

政秀は安堵したが、信奈の格好を見て唖然とした。きちんとした正装をせず、いつものうつけの格好で来ていたからだ。

 

皆が唖然として何も言わないでいると、信奈は焼香台の前まで行き、信秀の位牌をじっと睨み付けた。そして、抹香を一掴みすると、信秀の位牌に投げつけ、すぐに出ていってしまった。

 

(やはり、投げつけたか、歴史的に有名な場面が間近で見れるとは嬉しいことだな)

 

葬儀場にいる全ての人が唖然としている中で俺は思っていた。

 

「何という罰当たりなことを、やはり、あの者はうつけだな」

 

「さよう、うつけ姫には当主の器がない」

 

「あの方が当主では我らは滅びる運命だ」

 

信秀の家臣たちが、口々と信奈の悪口を言っている中で、政秀は思い詰めた顔で信奈が出ていった方向をじっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「信友殿、あのようなうつけ姫が当主なら我らの敵ではないな」

 

葬儀後、俺は葬儀に出席していた同盟相手の織田信清と話をしていた。

 

「平手政秀、柴田勝家、丹羽長秀など優秀な家臣たちは健在ですし、信奈もこの前の吉良大浜での今川軍との戦では見事な活躍をしていました。油断は禁物ですぞ、信清殿」

 

実は信秀が死ぬ少し前に信奈は初陣で今川軍と吉良大浜で戦った。その戦で信奈は初陣とは思えない際立った采配をし、兵が信奈軍の倍以上いた今川軍を見事に撃破したのだ。その戦で、家臣たちも少し信奈の実力を認めるようになったのだ。

 

まあ、先程の葬儀での行動で信用は失ってしまったかもしれないが。

 

「それもそうだな、しかし、信友殿も優秀な家臣たちがいて、羨ましいな。それに比べて、我が家臣たちといえば……、はぁ……、では失礼致す」

 

信清がぶつぶつ言いながら萬松寺から出ていく姿を、俺は苦笑いしながら見送った。

 

「信友様、姫様がお会いになりたいと申しております」

 

俺たちが清州城に戻ろうとすると、信奈の小姓らしき人に呼び止められ、信奈との面会を求められた。俺は特に今後の予定もなかったので、了承の返事をすると、小姓に案内され、信奈がいる所に向かった。

 

「姫様はこの中でお待ちでございます」

 

小姓が指を指したのは萬松寺から少し離れた場所にある小さな小屋だった。俺は家臣たちを待機させ、一人で小屋の中に入った。

 

「久しぶりね、彦五……じゃなくて信友。父上の葬儀にわざわざ来てくれてありがとう」

 

「久しぶり、信奈ちゃん。お父上のことはお気の毒だったね」

 

中に入ると、信奈が先程の葬儀の時と同じ格好をして座っていた。そして、俺の姿を見て、少し微笑みながら話しかけてきた。

 

「私の好きになった人は死んでしまうのよ。私を認めてくれた父上も南蛮に興味を持たせてくれた宣教師も……」

 

信奈は悲しそうな顔で呟いた。あの葬儀での行動は悲しみを隠すためにしたのだろうと俺は悟った。

 

「あんたを呼んだのは私は父上のようにはいかないと宣言するためよ。父上はいつもあんたに苦戦していたけど、私は父上より手強いわよ。覚悟しておきなさい」

 

信奈は俺に堂々と宣戦布告した。

 

「信秀殿と同盟していた織田信安も敵になり、尾張国内は敵だらけだぞ。まして、家中でも裏切りが発生しているのに、我らに勝てると思っているのか?」

 

信安は信秀が死ぬと知ると、同盟を解消するという書状を信奈に送ったのだ。さらに、うつけ姫には従えないと言って、鳴海城の山口教継が今川に寝返るなど、家中でも裏切りが発生した。これにより、勝幡織田家の勢力は信秀の頃より弱まった。

 

「信安なんて味方だと思ってもいなかったわ。味方をころころ変える奴なんて信用するわけないでしょ。それに尾張国ぐらい自力で統一しなきゃ、天下なんて取れないもの」

 

家中もしっかりと纏められないうつけ姫が何を言い出すんだ、と普通の人が聞くとそう思うだろう。しかし、俺は信奈の姿を見て、こいつなら天下を取れるかもしれない、他の武将とは違う何かを持っている、そう感じていた。

 

(他の武将は性別が違っても、名前は史実通りだった。しかし、こいつは名前も違う。きっと、この世界の鍵となる人物なんだろうな)

 

「フッ、天下か、それの第一歩として俺を倒すか、わかった、今度は戦場で会おう。信奈殿」

 

俺はもう目の前にいる人物をかつての友だと思わず、宿敵と思うようにした。史実通りなら俺は確実に負けるだろう、しかし、俺は負けるつもりはさらさらない。負けると分かっていても、信奈を苦しめるぐらいはしなければならないと思った。

 

「待たせたな、さあ、清州城に帰るとするか」

 

俺は小屋から出て、待機していた家臣たちと清州城に戻った。

 

「殿、うつけ姫とお会いになられてどう思われましたか?」

 

清州城に戻る途中で、左馬丞が問いかけてきた。三位も秀隆も気になるようで、俺の顔をじっと見ていた。

 

「そうだな、確かにただの大うつけ者かもしれないが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺なんかでは足元にも及ばない優れた武将かもしれないな」

 




次回予告

「政秀殿!刀をお離しくだされ!」

「信友殿!止めないでくだされ、こうするしかないのです!」

第5話 政秀の思い

(信友が新しく雇った史実でも活躍した家臣たちの名前は登場人物設定2で、明らかにします)

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