地震大国の日本ですから、地震からは逃げられませんが、この東日本大震災の教訓を生かし、今後の地震に対して取り組めたらいいですね。
信勝の謀反の予定日がいよいよ明日になった夜、俺はこの前の密談の約束通り、信勝に会うため、末森城にいた。
「信友さん、母上から聞いたけど、僕に話したいことって何かな?」
信勝はきちんとした服装で、広間の上座に座って、俺に話しかけてきた。信勝の側には信盛、通勝、俺の側には秀隆、三位が控えていた。
「我ら清洲織田家は信勝殿の謀反を支援します。尾張を守るために、うつけ姫を共に征伐しましょう」
「はっはっはっ、父上すら勝てなかった信友さんが僕に味方してくれるのなら、姉上なんか一捻りだよ!」
信勝は上機嫌の様子で、大笑いした。どうやら、約束通り、俺が味方することを信勝には家臣たちも土田御前も言っていなかったようだ。
(やはり、信勝に大名の器はない。この会見ではっきりしたな)
清州城に戻った俺は、自室で考え事をしていた。この会見の目的は信勝に大名の器があるかないかを確かめるためだった。味方するとの発言後、俺は信勝にいくつか質問をした。謀反の理由や当主になって何をしたいかなどを聞いたが、どの答えもはっきり言ってダメダメだった。
謀反の理由は母上や家臣たちに勧められたから、当主になったら、ういろうを全国区の食べ物にしたり、かわいい女の子を尾張に集めるなど、大名にあるまじき発言だった。
(明日の戦で全てが決まる。何事もなければよいが……)
翌日の夜、俺は家臣たちを広間に集めて、評定を開いた。俺も家臣たちも、全員具足を着ており、いつでも出陣できる格好だった。
「申し上げます、織田信勝様、末森城にて挙兵致しました!」
(始まったか……、さて、史実通りになるかな……それとも……)
報告に来た伝令兵によると、信勝は約1000の兵と共に末森城で籠城したらしい。サルという足軽の首を信奈が差し出さなかったのだろう。
「よし、我らも出陣するぞ!清洲織田家の力を見せつけてやろうぞ!」
「「「「おおっー!」」」」
清州城に政友を残し、俺は約1500の兵を率いて出陣した。松葉城を守っている大膳、深田城を守っている左馬丞には出陣の要請はしていなかった。
「申し上げます、信奈軍の数は約1200、末森城を包囲しようとしています」
物見の報告によると、信勝軍は尾張一の猛将として名高い柴田勝家に兵のほとんどを任せて対抗しているようだ。
「勝家殿なら信奈軍にも対抗できるだろう。作戦は順調だな」
作戦というのは、まず、信勝が挙兵する。信勝軍と戦っている信奈軍の背後を信友軍と信安軍が襲うという、簡単なことだった。岩倉織田家は優れた武将はあまりいなく、当主の信安も酒色に溺れているため、領内の評判は良くないが、兵数が多いため、俺や信奈も手を焼いていたのだ。
信安は出陣の要請は了承していたので、おそらく3000程の兵を率いて、やって来るだろうと俺は予想していた。俺の軍と信勝軍の兵数も足すと、約5500にも膨れ上がる。敵の4倍以上の兵数となるので、勝率は一気に高まる。
仮に道三が信奈に援軍を出したとしても、信清が犬山城で食い止めることになっている。道三は1万以上の兵を持っているが、1万も出せば他国から攻められる危険も高まるので、数千ぐらいしか出せないだろう。数千ぐらいなら、十分、犬山城で食い止めることができる。
信奈に勝てるかもしれない、俺はそう思いながら、できるだけ急ぎながら末森城に向かって軍を進めた。
「……今、何と言った?」
「はっ、織田信安様とご子息の織田信賢様が戦を始めました。そのため、末森城には行けないと信安様が仰っております」
伝令兵の報告は俺を落胆させるものだった。元々、信安と信賢の仲はそれほど良くはなかった。信賢が謀反するかもしれないという情報もあったが、まさか、今日、謀反するとは思いもしなかった。詳しく聞いてみると、信安が3000の兵を率いて、岩倉城を出た途端に、城門が勢いよく閉じられたそうだ。その後、城内から「この城の城主は今から織田信賢様である」という発言と同時に、城内から一斉に鉄砲や弓が信安軍に放たれたそうだ。信安軍も負けじと城門を打ち破ろうとして、信賢軍と一進一退の激戦を繰り広げているそうだ。
「信賢殿はおそらく信奈の手の者に謀反を勧められたのでしょう。うつけにしてはなかなか手の込んだことをしますね」
俺の隣にいた秀隆が冷静に判断していた。俺も秀隆と同じことを考えており、後悔していた。だが、信安軍がいなくても、信勝軍と挟み撃ちにすれば、勝算は十分にあった。俺は少し動揺した軍の士気を鼓舞すると、進軍を再開した。
(嫌な予感がするな……負の連鎖が続かなければよいが……)
末森城までもう少しという所で、俺の元に伝令兵が慌てて駆けつけてきた。
「申し上げます、末森城が落城しました」
「そ、そんな、バカな……、末森城がこんなに早く落城するはずが……」
いくら信勝がダメでも、猛将の勝家が軍の主力を率いているのなら、少なくとも半日は持ちこたえれるはずだと思っていたので、早すぎる落城にさすがに俺も動揺していた。
詳しく聞いてみると、信奈軍は末森城を包囲した後、全軍で信奈コールを始めて、城内の信勝軍の兵たちに主君は信奈であることをわからせようとしたそうだ。その結果、軍の主力を率いていた勝家が信奈コールを始めて寝返ったことで、城内の兵たちも次々に信奈コールを始めて寝返っていき、信勝は降伏、どちらの軍も被害なしで末森城は落城したそうだ。
(コールだけで戦が終わるとはどうなっているんだ、史実とは違うではないか……)
「大変でございます、信奈軍が前方に現れました、しかも信勝軍の兵だった者も信奈軍に加わっており、敵の数は約2200まで膨れ上がっています」
「何だと!もう、こちらに向かってきたのか!早い、早すぎる……くそっ!」
俺は動揺しながらも、必死に頭の中で考えていた。
「全軍で信奈軍を迎え撃つ。清洲織田家の意地を知らしめてやろうぞ!」
「「「「おおっ!」」」」
こうして、信奈軍約2200と信友軍約1500の戦いが始まった。
「この戦で、汚名挽回するんだ!うおぉぉぉー!」
間違った四字熟語を言いながら、張り切って槍を振り回し、信友軍の兵たちをなぎ倒しているのは勝家だった。自分の意思ではなくても、謀反に加担してしまったことを恥じて、この戦で汚名返上しようとしているのだ。
「勝家殿、私と手合わせ願いたい。それと、汚名挽回ではなく、汚名返上が正しいですよ」
勝家の間違った発言を指摘しながら、勝家の前に単騎で現れ、戦いを挑んだのが、秀隆だった。
「う、うるさい。あたしは難しい言葉は苦手なんだ……。それより、秀隆が相手なら、あたしも全力を出さなければいけないな」
指摘されたことを恥じらいながら、勝家は先程、信友軍の兵たちと戦っていたときよりも早いスピードで秀隆に攻撃してきたが、秀隆も刀を出して、勝家の攻撃を簡単に受け止めた。刀と槍がぶつかった時に、凄まじい音がしたので、かなりの力で攻撃してきたのがよくわかった。
「さすがだな、秀隆、どうやら信友殿のところには簡単には行けそうにないな」
「当たり前です、勝家殿、殿のところには誰一人として行かせませんよ」
そう言って、2人はまたすぐに交戦状態に入った。
戦況は少し信友軍が優勢だった。序盤は勝家の活躍で、信友軍は押されていたが、秀隆が勝家を食い止めることに成功したので、信友軍は勢いを取り戻し、徐々に信奈軍を追い詰めていった。
信友軍の勝利がうっすらと見えてきたとき、多数の鉄砲と弓が信友軍の側面に向かって放たれた。
「間に合ったようじゃな。これより、我が斎藤軍は信奈軍に加勢する、かかれ!」
信友軍に攻撃を仕掛けてきた軍の正体は、信奈と同盟を組んでいた斎藤道三の軍だった。道三の掛け声と共に、多数の斎藤軍の兵が信友軍の側面に襲いかかった。
「まさか、あれほどの大軍で援軍にくるとはな……」
俺は伝令兵の報告で、道三軍の数を知り、驚いた。兵数は約1万で、俺の予想をはるかに上回っていたからだ。他国に攻められると家臣たちに止められたそうだが、道三は「娘を助けるためなら、美濃を奪われても構わん!」と言って、自ら軍を率いて、やって来たそうだ。
信清も犬山城で食い止めようとしたそうだが、予想をはるかに上回る数だったので、瞬く間に落城し、信清は僅かな兵たちと、清州城に逃げて、今は政友に保護されているそうだ。
戦況も道三軍が信奈軍に加勢したために、信友軍は一瞬で劣勢になってしまった。
「殿、清州城に退却しましょう。今、退却すれば、被害も最小限で済みます。私が殿を務めますので」
勝家との戦闘を終えた秀隆が、俺のところにやって来て、退却を進言した。勝家との戦闘は引き分けに終わったらしい。
「わかった、秀隆……死ぬなよ。全軍、清州城に退却しろ!」
俺は秀隆に300の兵を預けると、他の兵たちと清州城に退却した。秀隆のいう通り、即座に退却したおかげで兵の損害も最小限で済むことができた。
城に着くと、信清が斎藤軍を食い止められなかったことに関して、謝ってきた。俺は仕方ないことだとわかっていたので、特に責めることもしなかった。
その後、秀隆も無事に殿の務めを果たして、帰ってきたので、重臣たちも誰一人として失うことなく、戦を終えることができた。
謀反を起こした信勝だが、信奈に許され、名を津田信澄と改め、2度と謀反しないことを誓ったそうだ。史実では信長に殺されるはずなので、この報告を受けた時、俺はかなり驚いた。信勝の家臣たちの処分も非常に寛大なものだったので、領内の信奈の評判は一気に良くなった。家中をまとめることができたので、勝幡織田家の勢力はよりいっそう強くなった。
一方、この戦の敗戦で、一気に反信奈勢力は弱くなった。
斎藤軍により、信清の犬山城が落城したため、美濃からの信奈への援軍がスムーズに来ることができるようになってしまった。ちなみに犬山城は道三が信奈に譲ったそうだ。
松葉城も深田城も信奈軍によって落城した。大膳と左馬丞は何とか清州城に逃げることができた。
岩倉織田家の内乱は信安が敗北し、伊勢に逃げたことで、当主は信賢となったが、自慢の兵数がかなり少なくなってしまった。その結果、信奈に内乱が終了した直後に攻められ、呆気なく落城、信賢は逃亡したそうだ。岩倉織田家の残党の多くは、俺のところに逃げてきたが……。
これで尾張で信奈に敵対している勢力は清洲織田家のみとなってしまった。俺は今川家に援軍を要請するために鳴海城に使者を出そうとしたが、信奈が鳴海城の回りに多数の砦を築き、鳴海城を包囲しているので、城内に入るのはかなり困難であり、援軍を要請することができずにいた。
直接、今川館に行くという方法もあったが、最近、今川家に滅ぼされた者たちが今川領内で一揆を起こしているらしく、たとえ、今川館に行ったとしても援軍が送られることはないだろうと忍の報告でわかっていた。
(やはり、歴史の流れには逆らえないのか……)
俺は歴史の流れの恐ろしさを身をもって実感していた。作戦通りにいけば、勝てるはずだった。しかし、次々とこちらに不利な状況が多発して、瞬く間に勝算は薄くなってしまった。
(こうなったら、最後の手段だな……)
俺はできれば使いたくなかった最後の手段を使おうとしていた。問題がいくつかあったが、おそらく成功するだろうと俺は確信していた。
「秀隆と政友を俺の部屋に呼んでこい。3人だけで話したいことがある」
「わかりました」
俺の近くにいた小姓は、俺の命令を受けて、2人を呼びにいった。
今後の人生を大きく左右する決断を俺はしようとしていた。
次回予告
「殿、我らに御用とは何でしょう?」
「2人とも、これから俺の言うことを驚かずに聞いてほしい……」
第9話 信友、最後の手段