「申し上げます、我が軍の先鋒が壊滅、敗走しております」
「坂井大膳様が柴田勝家軍、河尻左馬丞様が丹羽長秀軍に押されております。さらに那古野弥五郎様が敵方に寝返りました」
時は戦国乱世の真っ只中、各地で大名たちがしのぎを削っていた時代、この尾張でも織田信奈が率いる勝幡織田氏、織田信友が率いる清洲織田氏、織田信安が率いる岩倉織田氏が尾張統一を目指し戦っていました。
その中で著しく勢力を伸ばしていたのは、織田信奈で、美濃の蝮と恐れられた斎藤道三と同盟を結んだことで、その勢いはさらにまし、まず、自身の弟である織田信勝との争いを収め、さらには岩倉織田氏の織田信安とその息子の織田信賢の内乱に介入し、ついに岩倉織田氏が降伏し、残る敵は織田信友のみとなりました。
そして今、織田信奈軍は圧倒的な兵力をもって、織田信友軍に合戦を仕掛けてきました。
戦況は織田信友軍が瞬く間に劣勢となり、敗北は時間の問題となっていました。
「おのれ、うつけの姫が調子に乗りおって、元々は我ら清洲織田家の家臣の分際で……」
軍配を真っ二つに折りそうなくらいに握りしめて、怒りを露にしている老人は織田三位、古くから清洲織田氏に仕えている家老です。
「三位殿、落ち着きなされ、今はどうすればよいか考えるのです」
織田三位をたしなめている少女は山内一豊、元々織田信安に仕えていましたが、主家滅亡後に織田信友の元に落ち延びてきた姫武将でした。
「しかしこちらは700、敵は2500、この兵力差では策など役にはたたないだろう」
冷静に戦況を見つめている中年の男は織田信清、織田信奈の父である織田信秀の弟の織田信康の長男で、犬山城の城主でしたが、信奈方の勢力に攻められ、犬山城は落城し、織田信清は織田信友の元に落ち延びてきたのでした。
「ならば降伏しろと申されるのか、信清殿!」
「そうは申していないが、この戦況では……」
「三位殿、だから落ち着きなされ!ここは殿のご意見をお聞き致しましょう!殿、何か仰ってください!」
三位が信清に殴りかかりそうになったので、一豊は慌てて三位を抑えて、先ほどから何も発言せずに俯いていて座っている若そうな男、織田信友に声をかけた。
「俺は降伏するしかないと思っている。三位、お前もわかっているはずだ。どう転んでも、この戦は勝ち目がない。皆、すまないな、俺のような不甲斐ないやつに仕えたばかりにこんな目に合わせてしまって……」
信友が顔を上げて、思いつめた顔で言うと、三位が泣き出した。
「殿、無念でございます、本家である我らがまさか敗れるとは……」
「仕方ない、これも戦国乱世の運命だ。」
「申し上げます、織田信奈殿の使者が参られました」
信友が三位を慰めていると、伝令がやって来た。
「降伏の使者だろう、通せ」
信友たちがきちんと床机椅子に座ると、敵の使者がやって来た。
「織田信奈家臣、丹羽長秀と申します。信友殿、姫様は降伏を求めております。降伏してください」
敵の使者は丹羽長秀、後の織田四天王の一人になるほどの重臣でした。
「わかりました。この兵力差では仕方ありません。降伏致します」
「さすが信友殿、ご決断が早い。85点です」
信友軍はこうして信奈軍に降伏し、尾張は織田信奈が統一することになりました。
信友は降伏後、信奈がいる清州城、つまりは元々は信友の居城であった場所に連れていかれました。
「信奈殿、完敗です。まさか、うつけと評判だったあなたがここまで強いとは恐れ入りました」
「当然よ。あんたは私をうつけと侮っていた、それが敗北の原因の1つよ。敵を見かけで判断しないことね」
信友は柴田勝家、丹羽長秀、前田犬千代などの信奈の家臣たちが大勢いる前で信奈と面会していた。
「とりあえず、あんたの所領は没収するわ。あんたは家臣たちと尾張を出なさい。いいわね」
「驚きました。切腹をしろと言われると思いましたが……」
「あんたを殺すわけないでしょ。あんたは私の昔の遊び相手じゃない……、殺せるわけないでしょ……」
実は信奈の父である織田信秀と信友の父である織田達勝が和睦していた時によく遊んでいたのだ。
「その甘さがいつかは命取りにならないことを祈っておりますよ」
信友が退室しようとすると、とある人物の姿が見えたので、声をかけた。
「あなたの名前は?」
「俺か? 俺の名前は相良良晴だ」
「あなたがサルと呼ばれている方ですか、なにやらすごい才能をお持ちだとか、こんな優秀な家臣がいる信奈殿が羨ましいです。では失礼」
清州城を出ると、織田三位、山内一豊、織田信清などの家臣たちが待っていた。
「殿!ご無事で何よりです、この三位を始め家臣一同、心配で心配で……」
「皆、心配をかけたな。我らは尾張追放という処分になった。これより我らは美濃に行くことにする。よいな」
「「「「はっ」」」」
そして信友が馬に乗ると、信友たちは美濃に向かった。
(やはり歴史通りになったな、姫武将とかがいるし、俺が知っている歴史とは違うと思ったのだが、流れは同じか)
信友が馬上でいろんなことを考えていた。
(しかもあの相良良晴とかいうやつ、制服着ていたし、絶対に未来人だよな、面倒だな)
どうして信友が制服を知っているのか。
(しかもあいつは豊臣秀吉の代わり、俺は織田信友の代わり、何だろうな、この格差は……)
ここまでくれば分かる人には分かるだろうが。
(まあいいだろう。同じ未来人として負けるわけにはいかない。だいたい、史実の信友と違い、俺は生きているんだ。しかも史実の信友より若いしな。このまま大人しくするわけがないだろう)
そう、この信友は未来人だったのだ。
(見ていろ。俺の恐ろしさを思い知らしてやる。そして、いつか清洲織田家を再興してみせる。俺の野望はここから始まるんだ)
「フフッ……」
「殿、いきなりお笑いになられてどうされましたか」
「一豊、いや、俺の逆襲がここから始まるのかと思うとつい笑いが出てしまった」
笑った理由が分かると一豊は顔が引き締まった。
「殿、この一豊はどこまでもお供致します」
「ありがとう」
この信友がどうやってこの時代に来て、これからどのような逆襲するのかはこの後の物語で明らかにしよう。
次回予告
「お前の名は信友だ。当家の光になってくれ」
「はい、父上。頑張ります」
(何故こんなはめに、どうしたものか……)
第1話 清洲織田家の光