緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

3 / 28
第3話です。

今更ですが作者の更新速度はかなり遅いです。
詐欺ですね。
申し訳ないです…。


第3話 どうせいではありません

さて、色々と事件的だった朝を乗り越えて。

結局始業式には間に合わなかった私は、新しいクラスを確認して。

きっと始業式も終わって、既に生徒が揃っている筈の教室へ向かいます。

 

…新しいクラスは、2年A組。

この武偵高校に入って、初めてのクラス替えです。

今回はどんなクラスになるのでしょうか。

出来れば、沢山の友達が欲しいです。

 

一年の頃、出来た友人は…残念ながら、1人でした。

『彼女』はとても良い人で、波長の合う素晴らしい友人だったので、去年の友人戦績に対して後悔や寂しさはありませんが…。

それでも、今年は。

それこそ『彼女』のように…友人に囲まれて、過ごしてみたいものです。

コミュ障の私にしては大それた目標ですが。

 

 

 

 

 

 

 

ワイワイガヤガヤ、と騒がしい教室群を通り過ぎ。

自分の教室(2年A組)を目指しながら。

軽く急ぎ足で、廊下を歩いていきます。

 

そういえば、神崎さん…アリアさん、との会話ですっかり忘れていましたが…。

先ほどの遠山君を思い出します。

 

…まるで別人でした。

いつもより言動が…なんというか、チャラい?と言いますか。

ホスト的というか、キザな感じ。

今まで彼と過ごした日数は少ないですが、あんな言葉遣いをする遠山君は初めて見ました。

 

何らかの性格が豹変する状態…。

頭に幾つかの精神疾患名やパーソナリティ性質が浮かびますが。

…何となく、しっくりきません。

 

もう一つ仮説を立てるなら。

いつも部屋で見せてるダウナーな彼は裏の顔。

普段の学校ではあんな感じの遠山君なのでしょうか?

春休みに彼と出会ったので、私は学校での遠山君を知りません。

 

知っているのは、彼の噂のみ。

『女嫌い』、『昼行燈』。

そして。

()強襲科最強のSランク』。

その噂だけです。

 

 

 

 

 

 

考え事をしている内、教室の前まで辿り着きました。

しっかり教室のプレートを確認すると…『2-A』。

間違いはありません。

そして、いざ教室に入ろうとドアに指をかけて。

 

…………。

…き、急に緊張してきました…。

 

…落ち着きましょう。

ゆっくり入れば大丈夫です。

クラス表で『彼女』が同じ教室にいる事も確認済み。

安心できる要素です。

深呼吸して…。

 

「すー…はー…すー…はー…。よし!」

 

ガラララ…。

私は教室のドアを開けるのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、勇気を以て教室に入りましたが。

ドアの周りの子たちは、こちらをチラリ、と一瞥して。

何事もなかったかのように周りの子と談笑を再開しました。

…なんとなく、悲しい気持ちになりながらも。

黒板に張り出された席順表から『茅間』の文字を見つけ、自分の席に座ります。

とりあえず無事に着席し、軽く一息ついていると…。

 

「詩穂ーっ!!!会いたかったよぉーっ!!」

「わぐぅっ!?」

 

突如横から強い衝撃。

誰かが抱き着いてきたようです。

…私に抱き着いてくるような子は一人しか知りません。

驚きながらも、未だ抱き着いたままの彼女の方を向くと。

 

「うーん…久々の詩穂成分補給…♪すべすべで気持ちいいなぁ…」

「り、理子ちゃん!」

 

やはり。

私の唯一の友人であり親友である、『彼女』でした。

 

(みね)理子(りこ)ちゃん。

明るい金髪をツーサイド・アップにまとめた、とっても可愛らしい女の子。

少し小さめの体躯、童顔と言って差し支えない整った顔立ち。

そしてその体躯に見合わない…大きめの、胸。

所謂『ロリ巨乳』な美少女です。

 

彼女は少し変な人が多い武偵高の中でも、トップクラスの変人です。

突飛で不可解な言動が多く、多くの人は彼女をおバカキャラと認識しています。

 

しかし、そんな性格と裏腹に。

武偵としての実力はハイレベルです。

彼女の専門は探偵科(インケスタ)

対人・対事件の調査等を専門に学ぶ武偵です。

彼女の情報収集能力はその探偵科でもトップクラス。

多くの人が彼女に事件調査を依頼します。

 

…理子ちゃんは、こういった色んな理由で学園でも有名人。

変人ですが人当たりも良く、沢山の友人や知り合いがいます。

 

そんな彼女は今…詩穂成分?とやらを補給すべく私に頬ずりしています。

…まぁ、これはきっと友達としてのスキンシップでしょう。

多分。

 

「こっちもすべすべだねぇ…♪」

「うひゃあぁぁぁ!?」

 

理子ちゃんは少しだけ体を離したかと思うと。

不意に私の太ももに手を添えます。

そして、すりすり…。

内股に向かって手をすりすり、スライドしてきました…!!

流石にビックリ仰天。

 

ガタッ!

 

と席を立ち上がりながら、理子ちゃんの魔の手から逃れます。

 

「な、なんばしよっとですか!」

「うーん、残念…」

「普通にセクハラですよこれ!?」

 

未だ手をワキワキさせている理子ちゃんに軽く引きながら、一歩後ずさると。

理子ちゃんも諦めたのか、ヤレヤレ、両手を上げて『何もしないよー』のポーズをしました。

 

「ま、冗談は置いといて」

「場合によっては裁判沙汰ですよ…」

 

まぁまぁヤバげなセクハラ事案が起きましたが。

周りの人は気にしてないのか、はたまた関わりたくないのか。

特にこちらを見ている人はいませんでした。

証拠不足で不起訴です。

悲しいです。

 

少し落ち着きを取り戻し、椅子に座りなおすと。

理子ちゃんは私の机に手を付きながら話の続きを始めます。

 

「いやー、しっかし。今年は詩穂と一緒のクラスになれて嬉しいよ」

「私も嬉しいです。今年は1年間、よろしくお願いします」

「こちらこそ!よろしくね」

 

うんうん。

これで今年は楽しく過ごせそうだなぁ。

なんて頷いていると。

理子ちゃんが少し真剣な表情で、少しだけ顔を近づけてきて。

 

「…ところで、詩穂。今朝、大変だったみたいだね」

 

…相変わらず情報の早い理子ちゃん。

既に今朝の、自転車爆発事件を知っているみたいです。

 

「あはは…巻き込まれた感じですけれど」

「キーくんの自転車が爆発したんだって?物騒なもんだね」

「キーくん…?」

「あ、キンジのことー」

「はぁ…」

 

変人・理子ちゃんは、どうも人に不思議なあだ名を付ける癖があります。

…何故か私にだけ、あだ名はありませんが。

本人曰く『詩穂は例外』だそうです。

 

…そういえば。

理子ちゃんとの会話で気になりましたが。

あの爆弾…『わざわざ遠山君の自転車』に付けられていたのは、少々不可解です。

しかも、自転車に対してあの過剰な量。

無差別テロ的な感じなのかもしれませんが、それならセグウェイで追い回す意味も分かりません。

…よくよく考えたら、今回の事件。

何か…よくわかりませんが、何らかの意図を感じてなりません…。

 

「…でさー、あの時ね…ありゃ。詩穂ー?聞いてる?」

「………はっ。ご、ごめんなさい…考え事しちゃってました…」

「もー。相変わらず考えこんだら聞いちゃいないんだから」

 

しまった。

理子ちゃんのトークを完全に聞き流してしまっていました。

考え込んでしまうのは悪い癖です…。

 

スルーされた理子ちゃんは、少しだけ頬を膨らませながら。

 

「で、続き。少し前…三学期の頭くらいにね、転校生が来たらしいんだ」

「転校生…ですか?」

「うん。教務科(マスターズ)で盗み聞きしちゃった♪」

「それは…命知らずですね…」

 

教務科(マスターズ)

武偵高校の教師陣を総称して、こう呼びます。

職員室を指すこともあるこの言葉ですが…。

この学校にしてこの教師アリ、というか。

とにかく危険な教師が多く、その教師陣の話を盗み聞きするなどリスキーが過ぎます。

 

「その転校生ね、名前は知らないけど女の子らしいよ」

「へぇー…女の子、ですか…」

 

ふと、先程出会った少女。

アリアさん、が頭に浮かびますが。

確か彼女の目測身長は140cm程でした。

…身長的に高校生ってことはなさそうです。

おそらく彼女は中等部の子でしょう。

理子ちゃんが言っている転校生とは関係なさそうです。

 

…身長140にギリギリ満たない私が言うのもアレなんですが。

私は同年代でも限りなく小さい方なので、私のようなチビ高校生が何人もいるはずありませんしね。

 

「でね、その子なんだけど、実はすっごく強いらしくて…」

「強い…っていうと?」

「うーんと、強襲科らしいんだけど…」

 

「おーい、理子ちゃーーん!ちょっとこっち来てぇー!」

 

と、ここら辺で。

窓際に居る知らない女子が理子ちゃんを呼び立てました。

私と違って知り合いの多い理子ちゃんは、クラス内でも挨拶が多いのでしょう。

 

「…ッチ。詩穂との会話を邪魔しやがって…」

 

…?

理子ちゃんがボソッ、と何かを呟きます。

 

「……?理子ちゃん、呼んでますよ?」

「え?あ、うん。ごめんね…詩穂。また後でねー」

「はい、また後ほど」

 

人懐っこい笑顔を浮かべながら、理子ちゃんは行ってしまいました。

まるで何かを隠そうと我慢しているような、ちょっと不自然な笑みで。

 

 

 

 

 

 

 

理子ちゃんが行って、しばらくして。

友人もいなければやることもなく、着席しながらボーっとしていると。

 

「…茅間」

 

ぶっきらぼうな声が横から聞こえました。

見上げると、やはり遠山君。

彼もまた、2年A組だったようです。

クラス表から完全に見落としていました…。

 

ダウナーそうな視線を私に向けながら、どこかいつもより暗い表情をしている彼は。

…どうやら。

先程の遠山君ではない。

いつも部屋で見る、遠山君のようです。

これで、『学校ではホスト説』も消えました。

というかそもそも、学校でもあの調子なら『女嫌い』なんて噂は立ちませんよね。

 

「あ、えっと…遠山君。先程ぶりです…?」

「…ああ」

 

しかし、まさか遠山君から話しかけてくるなんて。

例の同居の条件を思い出すなら、てっきり教室ではお互い無視する…くらいと思っていましたが。

 

「あー、その…だな。さっきの事なんだが…」

「…さっきの事…?」

 

…となれば。

朝の…不可解な遠山君、の事でしょうか。

 

「え、えっと…さっき、遠山君…様子が、少し…」

「…あー、その…アレ、なんだが…」

 

少し言いづらそうに、目線を逸らしながら。

 

「乱暴な真似をして済まなかった。そして…忘れてくれ」

 

…乱暴な真似、というのは。

私の頸動脈を圧迫して気絶させたことでしょう。

忘れてくれ…というのは。

 

「…と、遠山君。さっきの遠山君は…その、いつもとは違う感じに見えたのですが…」

「……忘れて、くれ」

 

繰り返すように。

懇願するような彼の様子を見て…。

 

「…わかりました。私は、何も見ていませんでした。忘れちゃったので。他の人にも伝えようがないです」

「……助かる」

 

安心したように。

でもどこか不安そうに。

遠山君は自身の席に戻っていきました。

 

あの遠山君について、気になることは確かですが。

彼の切羽詰まったような表情を見て、問い詰める気は起きませんでした。

色んな噂の多い彼には、きっと色んな事情がある。

先程の事はきっと。

知られてしまったら致命的なこと…だったのでしょう。

 

そこまで隠そうとする事情を詮索することは…きっと、やってはいけないことです。

だから…忘れましょう。

 

 

 

…忘れる事なんて、出来るはずないのに。

私はいつだって…好奇心を殺す事なんてできない。

いつか爆発してしまいそうな、この好奇心に無理矢理蓋をして。

 

 

 

 

 

…もうそろそろチャイムが鳴りそうですね…。

 

さぁ、新しいクラスです。

楽しい1年になりますように…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生。あたし、アイツの隣がいい」

 

黒板の前に立つ少女が、ある席に指を向けて。

わーっ!と教室中から歓声が上がり。

私は…その状況を、どこか遠い風景のように俯瞰しながら。

とにかく、言葉を失っていました。

 

さっき出会った、ツインテールの少女。

神崎・H・アリアさんもまた、2年A組(このクラス)でした。

…先程、高校生には見えない…だなんて思っていたのは、どうやらフラグだったらしいです。

 

そのアリアさんは、教務科に朝の事件を報告していたらしく。

既に教師も生徒も揃っていたこの教室に、遅れて堂々と入ってきました。

そして、黒板の前に立って直後。

 

…なんと、遠山君が座っている席を指さし。

『彼の隣に座りたい』と言い出したのでした。

 

もちろん遠山君は茫然自失。

皆、一瞬唖然として。

その後『女嫌いの遠山に春が来た』だのなんだの、かなり盛り上がっている状況です。

 

「良かったなキンジ!なんか知らんがあんな可愛い子に好かれるなんて良いじゃないか!先生!オレ、席代わりますよ!」

 

ぶんぶん、手を振りながら。

遠山君の隣の席の人が立ち上がった彼は…。

…お、大きい…。

190cmはあるでしょうか、日本人にしてはかなりの巨体です。

この人は…武藤(むとう)剛気(ごうき)君。

車輌科の有名人で、どんな乗り物も乗りこなしてしまうAランクの優秀な生徒さんだったはずです。

 

優しさか悪ノリか、武藤君はガタガタと席を空け始めます。

 

「あらあら、最近の女子高生は積極的ねぇー。神崎さん、武藤君の席を使ってね」

 

担任の教師もまた、天然なのか悪ノリなのか、OKを出してしまいます。

高天原(たかまがはら)ゆとり先生。

穏やかそうな名前の通りゆったりと話す人で、探偵科の専門教師でもあります。

天然風の優しい人で…危険人物揃いの武偵高教師における唯一の良心です。

 

わーわー。ひゅーひゅー。ぱちぱち。

 

クラスの皆さんは悪ノリを極め、拍手喝采を始めてしまいます。

 

「キンジ。これ。朝のベルト」

 

しかしアリアさんは場の空気など一切気にせず。

遠山君にベルトをポイします。

彼は半ば全てを諦めた表情で、それをキャッチ。

…ベルト?

何故アリアさんが、遠山君のベルトを…?

 

「理子分かった!ぜーんぶ分かっちゃった!」

 

こういう空気になったら、理子ちゃんという子は。

一番に悪ノリする子です。

立ち上がって何か言い始めました。

…あの目は、火に油を注ごうとしている目ですね…。

そして、このいかにも陽キャっぽい雰囲気を感じた私は。

 

「………まぁ、放っておきましょう…」

 

騒ぐ理子ちゃんと、渦中の遠山君とアリアさん。

何の因果か、私は全員と知り合いですが…。

ザ・陰キャな私は、この状況を傍観することに決めました。

 

こういう時一緒に悪ノリできないから、陰キャでぼっちなんでしょうね…。

なんて軽く自己嫌悪が進む中、理子ちゃんの大暴れは続きます。

 

「キーくん、今ベルトしてない!でもそのベルトをツインテールさんは持ってきた!これ、謎でしょ謎でしょ!?でも理子には推理できた!全部わかっちゃったよーん!!」

 

アホっぽい感じの理子ちゃんの独擅場トーク。

理子ちゃんは…割と場を盛り上げるために、敢えてああいうアホっぽい言動を取る事があります。

これが陽キャか…。

なんて思いながらも。

 

朝、自転車に乗る前遠山君はベルトを着けていた…ような気がします。

という事は…体育倉庫で何かベルトを渡すような何かがあったんだろうな。

と、ぼんやり思いました。

 

理子ちゃんは金髪を揺らしながら、手を頭の上に持って行って。

両手で敬礼するような謎のポーズ。

私が勝手に『理子ちゃんポーズ』と呼んでいる、その謎のポーズのまま演説を続けます。

 

「キーくんは彼女の前でベルトを取るような何らかの行為をしたってこと!そして彼女の部屋にベルトを忘れてきた!それを持ってきてあげたんだよ!!つまり2人は…キャー!そんな熱ぅい恋愛関係だったんだよ!」

 

…そんなわけありません。

遠山君とアリアさんが知り合ったのはついさっきのはずです。

そもそも二人がそんな関係なら、遠山君がこんなに絶望した表情をしているはずはありません。

 

しかし、クラスの皆は朝の事件なんて知っているはずもなく。

理子ちゃんの推理に納得したらしく、口々に騒ぎ立てます。

 

「キ、キンジがこんなカワイイ子といつの間に!?」

「影の薄いヤツだと思っていたのに!」

「女子どころか他人に興味なさそうなくせに、裏でそんなことを!?」

「フケツ!」

 

もう言いたい放題です。

半分悪口すらも混ざっていますし。

メチャクチャやってるなぁ、なんてボーッと見ていると。

 

「さあさあ、これについてどう思う?」

 

理子ちゃんが皆の騒ぎを遮り、またも口を開きます。

…心なしか、私を見つめて。

酷く嫌な予感がする中…。

理子ちゃんが発した言葉は、もう一段階クラスを喧騒に引き込みます。

 

「キーくんと同棲中の、茅間詩穂ちゃん?」

 

………一瞬の静けさの後。

 

「…って、えぇ!?!?」

 

思わぬ矛先に、思わず大きめのリアクション。

ここにきて『同棲』という追加燃料の投下により、クラス中にざわめきが広がります。

私のリアクションが余りにガチっぽかったので、より悪ノリは加速します。

 

「マジかよ、キンジ女の子と同棲してたのかよ!」

「ロリコンかよ!?NOタッチはどうしたんだよ!?」

「くそっ、茅間少し狙ってたのに!」

「フケツ!」

 

わーわーわー!

遠山君を弄る者、掴みかかる者、踊りだす者。

悪ノリを通り越して大騒ぎになってきました…。

遠山君は全てを諦め、真っ白な灰になっています。

ど、どうしましょう…!?

パニクった私は、余計な一言。

 

「ち、違うんです!同棲じゃなくて、居候させてもらってるだけなんです!」

 

「認めたぞ!」

「これは転入生さんと修羅場か!?」

「両手に花だなぁキンジ!!」

 

わーわーわーわー!!!

より激しい喧騒が広がってしまいました…!

一気にヒートアップした教室ですが、高天原先生は。

 

「若いっていいわねぇ」

 

と、のほほんと笑っています。

 

り、理子ちゃん…!

これはやってくれましたね…!

 

恨みを込めて理子ちゃんの方を見ると。

ぴゅぅぴゅぅ、と口笛を吹きながらそっぽを向いています。

理子ちゃんも、ここまで大騒動になると思っていなかったのか。

額に汗が少しだけ滲んでいます。

 

さて、この状況。

私まで渦中にぶち込まれ、どうしたものかと絶望していると。

 

 

 

 

 

 

ずぎゅぎゅん!

 

 

 

 

 

 

不意に2発の銃声が鳴り響きました。

突然の発砲。

武偵校では帯銃は許可されているものの。

許可された場所以外での発砲は普通行いません。

盛り上がりに盛り上がったクラスも、流石にこれには凍りつきます。

 

「れ、恋愛だの…修羅場だの…くっだらない!」

 

銃声の主は…顔を真っ赤にし、両手を横に広げたアリアさん。

2丁の拳銃は、左右の壁に向いています。

銃の先を見ると…壁には当然、銃弾が埋まっていました。

理子ちゃんもビビったのか、『理子ちゃんポーズ』のまま、すすすー…と自分の席に戻ります。

 

「全員覚えておきなさい!そういうバカなことを言うヤツには…」

 

いったん言葉を区切り。

真っ赤なまま、彼女は堂々と言い放ちました。

 

「…風穴あけるわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな地獄のような一日の放課後。

授業終わりのチャイムと同時に、私はダッシュで教室を脱出。

質問責めを予測していた私は遠山君を生贄に捧げ、ゆっくりと下校していました。

…ごめんなさい、遠山君…。

朝、白雪さんから命を救っていただいた彼には非常に申し訳ないですが。

正直、ああいう空気感は苦手なんですよね…。

コミュ障は辛いです。

 

さて、男子寮にコソコソと帰ってきた私は。

遠山君から渡された合鍵を使い、自室へ。

 

男子寮の一角である、遠山君のお部屋は。

元々4人用の部屋なのか、かなり広い造りです。

そんな部屋に遠山君は一人暮らし。

私一人が増えた所で何も問題ありませんでした。

私は5つある個人用の小部屋の中から1部屋をお借りして生活しています。

 

…今更ながら、理子ちゃんのお部屋に転がり込めばよかったなぁ、なんて。

ぼんやり思いながらも制服を脱ぎ、部屋着へと着替えます。

そして流れでPCを起動して。

さてネットゲーム(デイリー消化)でもしましょうか…。

と意気込んでキーボードに指を構えます。

ブラウザを立ち上げた辺りで…。

 

ガチャ。

 

玄関の方から、ドアを開く音。

どうやら遠山君が帰ってきたようです。

帰ってきたんだなー、なんてボーッと思いながら。

ヘッドホンを装着して、ネットの世界に閉じこもる準備を始めます。

 

…ここ数日、居候として過ごして分かったこと。

それは、私の生活スタイルと遠山君の生活スタイルの相性が『噛み合っている』、という事です。

私の趣味は、ゲームと読書、アニメ鑑賞。

つまり究極的な『インドア』なのです。

そんな私は、遠山君の『女嫌い』と相性抜群。

食事の時くらいしか彼と顔を合わせる機会はありません。

お互いに干渉しないよう生活することは簡単でした。

 

そして、ゲームに集中すること数十分後…。

 

「おい、勝手に入ってくるな!」

「ふーん、結構まぁ、良い部屋なんじゃない?かなり狭いけど」

 

リビングから、騒がしい声。

遠山君の声と…もう一つ。

可愛らしい、どこか聞き覚えのあるアニメ声。

 

…そうです。

アリアさんが遠山君の隣の席をわざわざ指定した理由。

ベルトを持っていた理由。

まだ、これらの理由がわかっていませんでしたが。

 

…まだ、終わっていない。

アリアさん、という新しいクラスメイト。

何か、また何かに巻き込まれそうな。

そんな予感がします。

 

「そういえば…詩穂、だっけ。あの子もこの部屋に住んでるんでしょ?呼んできて」

 

…その言葉が聞こえて、意を決しました。

ヘッドホンを外し、ブラウザを閉じた辺りで。

 

コン、コン。

 

ドアがノックされました。

朝の自転車爆破事件。

巻き込まれただけとはいえ…私も、無関係ではありません。

 

「は、はい」

 

心を決め、立ち上がります。

ドア越しに、遠山君の疲れ切った声。

 

「…厄介な、ことになった。悪いが来てくれ」

「…わ、分かりました…」

 

厄介な事。

その言葉の通りっぽくて、少しだけ緊張しました。

 

 

 

 

 

 

部屋を出て、遠山君に着いて行くと。

 

リビングに立つ、ピンク・ブロンドのツインテール。

夕暮れの淡いオレンジの逆光を背に、彼女は窓の前に立っていました。

たったそれだけ。

それなのにどこか絵画めいた美しさがあります。

オレンジ色とピンク色。

優しい色合いの中にある強い色が、よりアリアさんを印象付けます。

窓が少し開いているのか、少し緩やかな風が吹いて。

その美しいツインテールを揺らす。

絵画のような光景に、少しだけ見惚れてしまいます。

 

「…詩穂。教室では話せなかったけど、今朝ぶりね」

「あ、えっと…はい。アリアさん」

「お前ら、知り合いだったのか?」

 

私達が何故かお互いを知っている風だったので。

遠山君が驚き顔で尋ねてきます。

 

「あ、えっと…はい、今朝に少しだけ」

「ま、説明する必要はないわ。関係ないし」

 

…今朝話した時も少しだけ思いましたが。

アリアさんはあまり人の話を聞かない感じの方みたいです。

 

「本題よ。アンタ達」

「おい。本題でも何でもいいが、用事が済んだらさっさと出ていけよ。ここは俺の部屋だ」

 

ドンドン話を進めようとするアリアさん。

彼女に抵抗しようと、遠山君が頑張りますが。

 

「人の話は遮らない。アンタ常識がなってないわ」

「無茶苦茶だ…」

 

無茶苦茶です。

しかし矛先を向けられたくないので、私は黙る事にしました。

遠山君も諦めたのか、口を閉ざします。

 

従順になった私たちに気を良くしたのか。

口元を綻ばせながら、仁王立ちのアリアさんは。

ビシィッ!

と人差し指を私たちに突き付けて…。

 

 

 

「アンタ達。あたしの、ドレイになりなさい!」

 

 

 

……。

…………奴隷?

 

「え、えええええ!?」

 

波乱万丈。

武偵校2年の初日から、とんでもない事が始まってしまいました…。




読了ありがとうございました!

今回は少し詩穂が空気すぎた気がします。
次回以降気をつけねば…。

感想・評価・誤字脱字の指摘等々お待ちしております。




※2018年 6/8
誠に勝手ながら、大幅に改稿・修正をさせていただきました。
ご容赦願います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。